前作season:1の伏線回収です。
今回は短めです。
東京都青ヶ島村。
かつて第13泊地、そして青ヶ島泊地のあった軍施設は取り壊され、再び整備され、
民間港・三宝港として以前の賑わいを取り戻していた。
元駆逐艦娘夕雲は、白衣を身に着けて今日も都道を、肩掛けの医師カバンを担いで歩いている。
「夕雲先生、往診ですか?」
「ええ、こんにちは」
町中で通りかかる住民に声を掛けられると、笑顔で挨拶を返す。
半年と少し前に、彼女は山村医院跡地の権利書と共に、
山村先生の遺産は、遺言書により、平林虎子医師が管理していたが、
名大の准教授でもある彼女に教えを受けた数多い生徒の中から、
前期研修医期間を修了した後、青ヶ島診療所への赴任を頼まれた。
そう。彼女は、この島に縁の深い人物の一人だった。
第13泊地が高梨湊に制圧された後、
生き残った姉妹艦は、片桐の所業により、人間不信に陥っていた。
その為、反乱を起こして、湊を負傷させたのだった。
その後、謹慎となり、独立艦隊化することが決定したと同時に、彼女達は逃げるように軍を去った。
軍を去って、姉妹艦達とも別れ、散り散りになっていった彼女達を待っていたのは、
突然舞い込んだ大金に、姉妹艦は正気を失いかけていたが、唯独り夕雲だけは、このお金の使い途を決めていた。
その年彼女は、東京にある
強く毅然として、鋭い眼光で艦娘に対し一歩も退かず、監禁していた湊を、治療をすると連れて行った、あの老医師。
彼女のような医師に、憧れを抱いていたのだ。
山村医師の弟子である平林虎子医師が、再建された名古屋大学医学部に、准教授としてやってくるという話を聞きつけ、
卒業後の前期研修を、名古屋の地で受けることに決めたのだ。
その二年間は、中部警備府のかつての僚友や、湊が顔を出してくれていた。
湊からはこう言われた。
「
それに、夕雲はこう答えた。
「いえ、私は山村先生のように、
そう応えると、湊は心の底から笑みを浮かべ、頑張ってください、とひと言添えた。
その後、前期研修が終わろうとしたある日、准教授……今は外科教授になっている……平林虎子より、山村医院の土地建物の権利書と共に、青ヶ島での開業を依頼された。
その話を二つ返事で引き受けた彼女は、二度と踏むまいと思っていた青ヶ島の地に舞い戻って来た。
既に、看護師として名大付属病院に勤務していた巻雲との、二人三脚の生活が始まった。
青ヶ島診療所となった場所には、最先端の機器が導入されている。
その資金は、主に名大と高梨商事が出している。
名目としては、
そして、湊が暗躍していることも、紛れもない事実である。
それまで、病人は八丈島まで行かなくてはならないところが、島内にて診療を行えるようになった。
逆に、近隣の
赴任当初は、夕雲のことを懐疑的な目で見る者も、少なくなかった。
湊提督の監禁事件は、住民の間でも、知る者が少なくなかったのだ。
だが夕雲は、直向きに患者と向き合い、治療を施す。
看護師の巻雲は、姉でもある夕雲を支え、患者のそばに寄り添う。
夕雲には、卓越した技術はまだ無いが、医療情報を名大から提供してもらい、
その、多数の症例データベースを日夜学びながら、半年間頑張っているうちに、
村民の評価も、次第に良いものへと変わっていった。
彼女は、多忙を極めている。
午前中は診療所での診察、午後は往診、看護師の巻雲は診療所に残る。
先年から始まった『特定看護師制度』により、一部の医療行為を、独自の判断にて行えるようになっていた。
巻雲は、その特定看護師に認定されている。
急患が来れば、彼女が診察を担当するのだ。そして手に負えない場合は、応急処置をしながら夕雲を呼ぶ。
夕雲より三年早く医療の現場に立っている彼女は、看護師六年目の、中堅看護師である。
新米医師である、姉夕雲の補佐をテキパキと行っており、
今の、青ヶ島診療所の評判の一翼を担っている。
巻雲の仕事は、それだけではない。診療所に数床ある入院施設の入院患者の容態を確認して、お世話をするのも、仕事である。
夕雲は、一応日曜はお休みだが、自宅が診療所なので何かあれば駆けつけるし、
巻雲は、入院患者が居る限りは、休みはない。
多忙な日々を送っているが、二人は楽しくやっている。
これも
長期間、戦場での戦闘もある艦娘時代とは違い、今は休む時間もある。
入院患者の急変に備えて、どちらかが当直夜勤となる。
医療事務のスタッフはいるものの、
最近では、名大が毎週後期研修医や医師・看護師を「地域医療研修」という名目で派遣している為、
漸く二人の常駐スタッフである夕雲と巻雲も、休みを取れるようになった。
とはいえ、この
食料品や日用品も、スーパーあおがしまが配達してくれる為、結局は病院兼自宅で過ごすことが多いのだ。
そんな夕方だった。
往診を終えて帰宅した夕雲が、リビングでコーヒーを飲んでいると、ナースコールが鳴り出した。
病室は2号室、美里という名前の少女の病室だった。
夕雲は、直ぐに白衣を身に着け、聴診器を片手に取って病室に急ぐ。
病室に入り、ベッドの上で苦しそうに息をしている少女を確認すると、手早く吸入器に、発作鎮静用にポケットに入れている吸入用薬剤をセットすると、口に咥えさせる。
「大丈夫?吸入したら楽になるわ」
「はぁ……はぁ……」
少女は美里ちゃんという名前だった。
青ヶ島で生まれて、小さい時から発作を繰り返す。
美里の両親は、山村医師の死後、無医村になった青ヶ島から都内への引っ越しを検討したが、そんな費用は出せずにいた。
そんな中、現れたのが夕雲だった。
青ヶ島診療所の第一号患者。開院前日に街を歩いていると、苦しそうに道端で蹲っている美里を見つけて、背負って救急搬送したのだ。
直ぐに経口ステロイド剤を投与して、両親を呼び出し、
それ以来半年、彼女は入院加療をしている。
何度か、名大への転院を勧めているが、的確な判断と、名大の名医の指導を受けながら奮闘する夕雲を信頼していた両親と美里は、それを拒んで
必死に吸入器で呼吸していた美里ちゃんが落ち着いてくると、「よく頑張ったわね」と頭を撫でて、ポケットに入っているタブレットで、カルテを記入する。
このカルテは、名大の方でも管理されていて、チェックした呼吸器専門医のコメントが付け加えられる。
夕雲も、まだ指導を受ける立場なのである。
「先生は、どうしてこの島に来たの?」
「ん……美里ちゃんは『不敗の女神様』って知ってる?」
その問いに、少し笑みを浮かべて、頭を撫でながら問いかける。
「あの、名古屋の有名な軍人さん?」
「ええ、私はその人にここで酷いことをしたの。湊さんの前の司令官がとても酷いやつで、そいつがクビになってやってきたのが湊さん。艦娘の皆は、また同じようなやつと諦めていた。私は、湊さんに暴力を振るったの」
「……信じられない、こんなに優しい先生が…」
驚いた美里ちゃんの頭を、優しく撫で付ける。
「ありがとう。でもあの時は全然優しくなんか無かったの。でも、湊さんは私のことを一切責めなかった。逆に被害者だからと慰めてくれた。私は、そんな湊さんに恩返しは出来ないかと考えてた、そんな中、ここにいた唯一のお医者さんだった山村先生が亡くなった。怖くて強い人、監禁していた湊さんを「治療するから渡せ」と言い、連れて行ったくらい。私は、ここでそんな強い医者になろうと決意して、東京の医大に入ったわ。そして、名古屋で研修をして、そこで出会った怖い怖いそして尊敬する虎の先生、平林教授に頼まれて、ここに診療所を開業した。私はすぐに引き受けようと思ったわ。違う形でもこの青ヶ島を守るって、もちろん貴女も……」
「先生大好き!」
ぎゅっと飛びつくように抱きついた美里を、夕雲は苦笑を浮かべ、優しくベッドに横たわらせる。
「こら、安静にしなさい。もっと苦しくなるわよ」
「はぁい………」
しょんぼりしている美里に、ふっと笑みを向ける。
「大人しくしていたら、今日の夕飯は一緒に食べてあげるわ」
「はぁい!」
ニパっと笑顔を咲かせる美里を撫でる頃に、台車の音が聞こえる。
「美里ちゃん、夕飯ですよ―」
巻雲が笑顔を浮かべて、食事を乗せたトレーを持ってくる。
食事は、鳳翔フードサービスの子会社である鳳翔フードデリバリーのサービスを利用している。
これは、学校給食や病院食などの配達サービスで、管理栄養士の元で、栄養価も十分に考慮されている。
このサービスのお陰で、入院施設の設置に踏み切る病院や、学校給食を再開できる閑村の学校も増えてきた。
夕雲達も、自身の食事はそのサービスを利用している。
「巻雲、私達もここで頂くわ」
「はい!」
「わぁい!」
こうして、孤島の医師は今日も医療の最前線に立ち続けている。
孤島の艦娘医師 というキーワードをなかなか回収できないでいましたが回収しました。
退役(前作第1話)から医学部出て、前期研修医終えるまで約8年は最低必要なので……
今作で回収できるんじゃないかとやってみました。
今作の夕雲・巻雲は意図してキャラ性を変えています。
ご了承ください。
そして、看護師のほうが同い年だと現場で先輩になる事に気づいた今日このごろ。
(医師:医学部6年+前期研修医約2年 正看護師3年)
風邪が治らないので来週も取っ掛かり遅めになりそうです