美咲とこころの過ごした高校生活。
幸せに続くと思われていたこの時間に終わりが告げられる。
「美咲!世界を笑顔にするのがあたしの夢なの!だから面白いことを探しに行くわよー!」
これがあいつの...。こころの口癖だったなぁ。
こころにいつも面白いもの探しに振り回されたり、私がミッシェルになるとライブのステージングで無茶振りさせられたりと...。ものすっごく大変だったけど、悪い時間を送っているなんて思わなかった。
ある日気づけば、クラスの子達にハロハピの悪いイメージを言われて、あたしは悔しくて...。ハロハピのために作曲やライブできる場所を身を削る勢いで探し回った。
あたしがここまでハロハピのために尽くしていたのも、こころのおかげなんだよね。
さて、あたしは今何をしているかというと、寒い中自販機で買ったホットコーヒーで暖をとりながら門が開くのを待っている。
「うぅ、やっぱり寒いなぁ。」
今日は、年に一度ハロハピメンバーと会う日。たとえ平日でもみんな大学やお店を休んで集まることになっている。集合場所は...弦巻邸。
「いつ見てもこころの家は大きいなぁ...。」
「奥沢様、お待ちしておりました。」
「あ、黒服さん。おはようございます。」
「お忙しい中お越しくださりありがとうございます。これから私が“いつも”のお部屋にご案内させていただきます。」
いつもの部屋。あたしたちがハロハピのライブや楽曲の会議をするために使っていた部屋。そこまで黒服の人に案内されると馴染み深いメンバーがもう集まっていた。
みんながあたしにおはようと挨拶する。
「あれ、あたしが最後?」
「そうだよ!みーくん、珍しく最下位だね!」
「別に競ってないし。」
「まぁ、美咲も落ち込むことはないさ。かのシェイクスピアは...。」
「はいはい。花音さん今日は一段と冷えますね。」
「そうだね...。でも今年も快晴だよ。毎年この日だけ雲1つない青空になるから、きっとこころちゃんの力...なのかも?」
「強ち間違いじゃないのかも。こころ=太陽ってイメージありますもんね。」
「そういえば...こころちゃんと美咲ちゃんすごく仲良かったよね。」
「確かに!みーくんとこころんはいつも一緒にいるってイメージがあったよ!」
「でも、あの時美咲が居てくれたから私たちもすぐに駆けつけることができた。...美咲。そろそろあの時何があったのか話してくれないかい?」
「あの時...。」
あの出来事からもう3年が経つ。忘れたいことだけど、やっぱり忘れることは絶対にできない。
「...わかりました。」
「美咲ちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「ありがとうございます、花音さん。でも、そろそろ話さないと、もう3年経つし...。みんなが知っていないのもおかしいなって思うから話しますね。」
「美咲!今日も面白いものを探しに行きましょ!」
「あ〜、はいはい。わかったからそんなに腕を引っ張らないで。」
「今日は公園に行くわよー!」
こころの面白いもの探しの旅はいつも急に始まる。ハロウィンイベントが終わってからほぼ毎日こころに誘われ、断れないあたしがいる。
「ふふふ、こうして美咲と公園に来れるなんて嬉しいわ!」
「それはどーも。...急に冷えてきたなぁ。」
「確かに少し寒いわね...。」
「ん...?黒服の人がこっちに来るよ。」
「こころ様、マフラーでございます。これで寒さも和らぐと思います。それでは...。」
「あら、ありがとう!」
「黒服の人は大変だなぁ。」
「黒服の人たちがいてくれるからあたしもこうして色んなところに行けるのよ!」
「...監視されてることに嫌だって思わないの?」
「...仕方のないことなのよ。あたしは黒服の人たちがいないと外出することもできないんだから。」
「へ、へぇー。そうなんだ...。」
こころの両親は過保護なのか。高校1年生にもなった娘を自由にさせてあげないのはどうかと思うんだけど...。でもこころの言い方、少し引っかかるなぁ...。
「あら?美咲どうしたのかしら?」
「へ?いや、何でもないよ。」
「そう。ねぇ、美咲!明日もあたしと面白いものを探しに行きましょうね!」
「はいはい、了解。」
それからあたしはこころを弦巻邸まで送ることにした。
「もう12月の中頃か...。早いなぁ。」
「そうね、時間が経つのはあっという間ね!」
「今年は去年に比べて一段と冷えるなぁ...。」
「雪、降らないかしら。」
「...そんなこと言ったら本当に降らせそうだから。」
「あたし、雪が好きなの。」
「何でもこころは好きそうだね。」
「あら、そんなことないわよ?」
「じゃあ、雪は特別に好きってこと?」
「そうね...。雪はキラキラして綺麗じゃない!」
「...。」
雪は埃のように汚いということは知っている。でも、それを言ってしまうとこころの好きなものを否定するような気がして...。少し嫌気がさした。
「ねぇ、美咲。クリスマス、何か予定あるかしら?」
「本当に急だね...。あたしは家族とクリスマスパーティーかな。妹もしてほしいって駄々こねてたし、毎年の恒例行事なんだ。」
「そうなのね!楽しそうで良いわね!」
「こころは?」
「あたし?あたしは特に何も決まってないわよ!」
「そうなんだ...。24日のクリスマスイヴなら予定空いてるから、どこか行こうか?日曜日だからどこも人だらけだと思うけど。」
「美咲とクリスマスイヴを過ごせるだけでもあたしとっても嬉しいわ!その日、どこかへ行きましょ!」
「う、うん。」
あたしもこうしてこころを遊びに誘うことも増えてきたわけだけど...。面と向かってこんなこと言われると流石に...照れる。
「送ってくれてありがとね、美咲!」
「ううん、全然良いよ。」
「それじゃあ気をつけてね。おやすみなさい、美咲!」
「うん、ありがとう。また明日ね。」
こころと別れたあたしは後ろを振り返った。
さっきまで歩いていた道は、こころと別れることで闇の深い道へと変わり果てていた。
「...帰りますか。」
明日はどこに行くのかなと、少しの気だるさと、楽しみを心に抱いて...。
「うわぁ...。本格的に寒くなりだしたなぁ。もう少し厚着してきたらよかった...。」
昨日とは比べ物にならないぐらい気温は下がっていたらしく、白息がくっきりと分かるようになっていた。
しかし、そんなことも関係ないかのように。
「みさきー!おはよう!」
元気な声でこちらに向かって走ってくる。毎朝のことだ。
声のする方に振り返り構える。いつもこのままタックルしてくるものだから、あたしの身体がいつ壊れてもおかしくない。
「みーさーきー!」
「ぶっ...!」
ドスッという音と共にこころが抱きついてくる。
「うふふ、美咲ー!」
「...はいはい。」
ここ最近やたらとこころはあたしに甘えてくる。この前まであたしのことの存在すら忘れていることさえあったのに。
「今日も良い体当たりでした...。」
「ふふふ、ありがと!」
(そんな、目を輝かして言われても困るんだよなぁ...。)
「ねぇ、美咲!今日はどこに行こうかしら!」
「あたしはどこでもいいよ...。」
「楽しみねー!」
相変わらずのこころワールドを展開され、あたしは朝から1日分の体力を使い果たした気がした。
「奥沢さんって最近弦巻さんと一緒にいるよね。」
「ブフッ。けほっ、けほ。」
昼休憩。あたしが机で黙々とお弁当を食べている不意に前の席の子から声をかけられた。それにつられて他の女子達もこちらに視線を向ける。
「そ、そんなことないと思うけどなぁー。」
「朝も奥沢さんに抱きついてるところを見たっていう人もいるらしいよ!」
「あ、あれはこころが抱きついてくるから...。」
必死に誤解を解こうとする。とりあえず、早くここから脱出しなければ...。
「貴女達、なんの話をしているの?」
「あ、弦巻さん!」
あぁ、1番加担して欲しくない奴が来た...。
「みんなで弦巻さんと奥沢さんの話をしていたんだよ。」
「そうなのね!ねぇ、あたしも...」
「あーっと!そういえばこの後用事があったなぁ!こころ行くよ!!」
「え?美咲!?ひ、ひっぱらないでー!!」
「...あの2人本当に仲良いよね。」
「うんうん。」
「あー、危なかった...。」
「もう、美咲ったら急にどうしたの?」
「いや、あのままあそこにいると面倒臭くなるなーってね...。」
「あら?あたしはそうは思わないわよ?」
「あたしが嫌なの!!」
あのままあの場にいたら面倒臭いことになっていた。これは確実に言える。
あの場所から逃げるために一目散に駆け出したらいつのまにか屋上にきてしまっていた。
「あら、雪!雪が降って来たわよ、美咲!」
「うわー、通りでこんなに寒いわけだ...。」
「積もらないかしら!」
「あたしは積もって欲しくないかなぁ...。」
「あたしはハロハピのメンバーと雪合戦がしたいわ!」
「...。」
こころにそう言われてしまうと否定できないんだよなぁ...。こんなにも楽しそうに話すこころを眺めているとそう思ってしまう。
「...積もればいいね。」
「ねぇ、美咲。」
「ん?急にどうしたの?」
「貴女にいくつか質問しても良いかしら?」
「は、はぁ...。」
急にこんなことを聞くなんて珍しい。
「美咲は隠し事をされているのは嫌な人かしら?」
「いや、そんなこともないかな。その人の事情もあるだろうし...。あたしは隠し事があっても別に悪いことじゃないと思うよ。」
「それじゃあ次の質問ね。美咲は苦しんでいる人がいたら助けてあげる人かしら?」
「そりゃあ...まぁ。でも、恋愛相談とかは勘弁かな。あれは面倒臭い。それ以外なら、困っているなら助けるかもね。」
「それじゃあ、最後の質問ね。もしも、いつも一緒に過ごしていた人が急に居なくなったら貴女は悲しむ?」
「うーん...。どうだろう...。やっぱりその人が大切だったら悲しくなるんじゃないかなぁ...。でも、急になんでそんなこと聞くの?」
「...いえ、少し気になっただけよ!」
「そう...。それなら良いんだけど。」
「えぇ!....っくしゅん。」
「あーあ。風邪ひくよ、こころ。校舎の中に戻ろうか?」
「わかったわ!」
こころからの質問。こんなこと、今まであまりして来なかったのに...。あたしのことを理解しようとしてくれているのなら嬉しいんだけど...。
少し心に靄がかかった、そんな気がしてならなかった。
その後、放課後はいつも通りこころと面白いものを探しに街をウロウロしたが、なんだかいつもより空気が重たい、そんな風に感じてしまうようになった。
「やっぱり、寒いなぁ...。」
次の日、いつもの時間に登校する。あたしは基本時間に厳しいので遅刻などしたことない。毎日、殆ど同じ時間に登校するようにしている。...そうすればこころに出会う確率が高くなるが、別に嫌ではない。
「昨日は何だか気まずかったな...。」
少し気になっているあたしがいた。そりゃそうだ。いつもあんなにハイテンションなこころが静かだと気になるに決まっている。うーんうーんと悩んでいるといつもこころと出会う道に着いた。すると...。
「美咲、おはよう。」
「あれ?今日は体当たりしないの?」
「...えぇ。今日はそんな気分じゃないのよ。」
「そ、そう。それなら良いんだけど。」
いつもならタックルしてくるこころが、何故か普通に声をかけるだけだった。
「...。寒いわね。」
「ん?こころ...。」
「どうしたの、美咲?」
「...いや。気のせいかな。大丈夫、気にしなくていいよ。」
「そう...。なら学校へ行きましょうか!」
「そうだね。」
なんだかこころに違和感を覚えてしまった...。うーん、いつもと様子が違うし。あー、心の靄がより濃くなるじゃないか...。
そのあと、学校までの道のりはお互い黙り込んだままであった。
昼休み。こころはトイレに行ってしまったようだ。休み時間になればトイレに行っているこころ。お腹の調子でも悪いのかと少し心配してしまう。
しばらくすると、トイレからこころが帰ってきた。
「こころ、ずっとトイレに行ってるけど大丈夫?」
「え?えぇ、大丈夫よ。」
「無理そうなら保健室に行く?」
「大丈夫よ!そういえば美咲。今日も一緒に帰りましょ!」
「あ、いいよ。」
「楽しみね...!」
なんとかこころは元気そうだ...。トイレに毎時間行くのは流石に心配してしまう...。
「ちなみに何処か行きたいところがあるの?」
「えぇ、公園に行きましょう。」
「わかった。」
「もう少しでクリスマスだね。なんか早いなぁ。」
「そうね。バンドのみんなや美咲と過ごしていると、一瞬で時間が過ぎてしまうわ。」
本当に時間が経つのはあっという間だ。
「ふぅ...。少しベンチに座るわね...。」
「あ、雪降ってたから濡れてるよ。」
「いいのよ...。少し休憩させて欲しいの。」
「休憩って...まだ歩いて20分も経ってないよ。」
「ねぇ、美咲...。」
「どうしたの?」
「飲み物買ってきてくれないかしら...。水でも何でもいいわ。」
「わ、わかった。」
「ありがとう...。」
俯きながらそんなことを言うこころ。心の靄が濃くなっていく。数日でこころの様子が豹変している。いや...まさかね...。
急いで水を買いに行ったあたし。こころを待たせるわけにもいかず走って帰ってきた。そこで見た光景は...。
「こころ様!!」
「すぐに車を用意するんだ!」
「ゲホ...ゲホッ...。」
「ちょ、は?」
何が起きているか理解できなかった。でも、今見た光景は...。咳込むたびに溢れんばかりの血がこころの口から吐き出されていた。
「こころ!!」
「美咲様!申し訳ありません。我々はここで失礼させていただきます。」
「こころは!こころはどうしたんですか!!」
「それは...。まだお答えできません。それでは失礼いたします。」
「そんな...。こころ!こころおおお!!」
黒い車に乗せられるこころをあたしは、ただ立ち尽くして見ているだけだった。
「こころ...。」
心のざわめきが収まらない...。一体何があったんだろうか。こころは無事なのか...。
「なんで...。わかんないよ...。」
今起こっている現実をあたしは受け止められずにいた。
あたしはとりあえず、ハロハピメンバーに連絡を送った。こころが大変だ、そんな内容で。あたしも何がどうなっているかわからず混乱しているから何をしたらいいか分からなかった。
「...とりあえず、家に帰るか。」
あたしはこの件に関してはどうすることもできない。ただ、こころの無事を祈るだけだ...。
「こころ...。」
家に帰宅すると、花音さん達から連絡が入っていた。こころは大丈夫なのかという内容だった。
「とりあえず黒服の人が対応してくれたから大丈夫だと思いますよっと...。」
しかし、黒服の人の対応は迅速だった。いつ何時、こころが倒れても対応できるように準備している、そんな風にも見えた。
「...。だからいつもこころの近くに黒服の人がいたってこと?ならなんで、こころのこと教えてくれないんだろ...。」
それが疑問だった。
「明日聞きに行くしかない...か。」
明日はちょうど学校も休みだ。直接こころの家に行き、話を聴くしかないだろう。
「...どうして教えてくれないんですか。」
「我々の方からは何も言えないんです。」
「こころがあんな状態になっているのに...。なんでですか!!いつも一緒に過ごしていたあたしに話しちゃいけないことなんですか!?」
「お気持ちはわかりますが...。」
「仲間なのに、大切な...仲間なのに...。」
「...。申し訳ありません。」
次の日、あたしは弦巻邸へ行き黒服の人から話を聞き出そうとした。しかし...何も話してくれない。
「こころ様の容態は安定しております。...こころ様から直接話したいと仰っていたので...。」
「こころ...。」
その場に立ち尽くしているとあたしのスマホが鳴った。
『from.弦巻 こころ』
「こころ!?」
急いでメールを開く。
「美咲、昨日はごめんなさい。話したいことがあるからここに来て欲しいの。黒服の人が案内してくれると思うわ。...待ってるわね。」
「こころ...。」
「こころ様からどういった内容が?」
「こっちに来て欲しいって言ってます。」
「かしこまりました、すぐにご案内致します。...美咲様。」
「はい?」
「現実をしっかりと受け止めてあげてください...。」
「...。」
黒服の人の言葉がどれだけ重いものかハッキリ分かった。こころがどういった状態なのかも大体予想はつく...。でも、信じたくなかった。
車でおよそ30分ほどかけて総合病院へ送ってもらった。こころの病室の部屋番号を教えてもらいそこへ向かう。
かなり大きめの総合病院。街にある病院なんて比べ物にならないぐらい広い病院だ。
こころ...。ただ、あたしはこころの顔を今すぐに見たかった。大切な...仲間の元へ...。
長い長い永遠に続きそうな白い廊下を歩き、こころがいる病室の前へ着いた。
目の前にあるのは物凄く頑丈そうな分厚い扉。それを開くとこころがいる...。しかし、扉を開くとそこで全てが終わってしまいそうな気がしてしまい躊躇ってしまう。
(でも、こころはあたしと話がしたいと言ってくれた。ここで逃げるわけにはいかない。)
そう言い聞かせ、鉄の塊の様に重たい扉を開いた。
部屋に入ると確かにそこにこころはいた。
...変わり果てたこころがそこにいた。
「来てくれたのね、美咲。ありがとう。」
「こ、こころ...?」
「本当に昨日はごめんなさい。」
「な、なんでそんな...。」
こころは想像以上にやつれていた。最近のこころと比較すると、本当に...別人のようだった。
太陽の光を浴びた光り輝く向日葵が、水遣りを何週間もサボってしまい枯れ果ててしまったかのようだった。
「こころ...。」
「...ごめんなさい。貴女に今まで隠し事をしていたの。それを今から全て話すわ...。」
こころの話を聞いてしまうと、もう後に戻れない。それでもあたしはそれを聞かなければならない。聞いてこころを助けてあげたい。
「うん...。」
「あたし、実は病気を患っているの。病名は何だったか分からないんだけど、致死率90%以上。あたしの余命は残り僅かしかないって言われたわ。」
「そんな...。で、でも手術か何かすれば助かるんじゃないの!?弦巻家ならそれは可能なんじゃないの!?」
「...それでも、もう遅いのよ。」
「こころ...。」
「だからね、美咲。あたしは貴女にお願いがあるの。」
「お願い...?」
「えぇ、あたしのワガママなんだけどね...。聞いてくれるかしら。」
「うん、聞くに決まってるでしょ...。」
「ありがとう...。あたしは残り少ない時間をいつも通り過ごしたいの。それがたとえ無茶だったとしても。あたしのこの命が尽きるまで、貴女達の笑顔をこの目に焼き付けておきたいのよ。」
「それが、こころのあたしにする最後の願い?」
「えぇ。あたしはまだ自力で歩くことはできるわ。外出の許可を貰ったらその時はあたしと一緒に居て欲しいの。貴女と、この街で過ごした思い出を振り返りたいわ。」
「そんな、寂しいこと言わないでよ...。」
「ふふ、ごめんなさい。」
なんで、こんなにこころは強いんだろうか。あたしがもし同じ立場だったとしたら、死から逃れられないという絶望で精神はズタズタにされてしまっている。でも、こころはそんな気配すら感じさせない。最後まで自分の人生を悔いなく良い思い出にしようとしている。やっぱり、こころは凄いなぁ。あたしはそんなこころの願いを叶えさせてあげたい。いや、叶えなければいけない。
「わかった、こころのその願い叶えてあげる。」
「美咲...。本当にありがとう!」
「...!」
少し普段のこころに戻った気がした。でもすぐに光は失われた。こころの体力も徐々に削れていっているんだろう。
「それじゃあ、あたしは今日は帰るね。明日から毎日迎えにくるから。」
「わかったわ、楽しみにしているわね!」
そうそう、こころは笑っていないと『こころ』じゃないよ。
帰宅後、あたしはこころと仲の良かった人たち全員に一斉にメールを送った。
こころが倒れてしまったこと。現在、総合病院で入院していること。こころの容態はかなり深刻なこと。それから...。こころの元へお見舞いに行ってあげてほしいこと。
「これでよし...。あたしの出来ることはしないとね。」
幸い、冬季休暇も近づいていて、さらに期末テストも終わっているので授業は短縮授業だ。だからみんなはお昼までにこころの元へ行くことができる。お見舞いが済んでからあたしとこころで少し散歩をする、そういう流れになっている。もちろん、黒服の人にもあの後、外出の際にあたし達を見守っていてほしいとお願いをした。断られるか心配だったけど、「こころ様の望んだことは我々は叶えるまでです。こころ様のこと、よろしくお願いします。」って言ってたから良かった。
あたしがこころの最後を悔いが残らないように楽しませてあげればそれでいいんだ。
今後の予定を考えているうちに、いつの間にか眠気に襲われ、あたしは朝まで寝てしまっていた。
学校が終わると黒服の人たちが校門前で車を停めて待ってくれている。あたしは一声かけてから車に乗り、こころが待つ病院へ送ってもらうことになった。その方が速くこころの元へ行くことができるからだ。
「こんにちは、美咲。」
「うん、体調の方はどう?」
「あまり良いとは言えないわ、でもこうして美咲が来てくれて嬉しいわよ。」
「そう...。あ、今日ねお見舞いに来てくれるみたい。」
「誰かしら??」
「花音さん達だよ。」
「みんな来てくれるのね!」
ハロハピのみんなが来てくれると聞いた瞬間、こころが本来のこころに戻った気がした。よっぽどみんなが来てくれるのが嬉しいんだろう。...当たり前か。あたしも同じ立場だったら嬉しいと思う。ただでさえ、不安と戦っているんだ。誰かが来てくれるなんて心の支えになるに決まっている。
「ねぇ、美咲。」
「ん?」
「ありがとう。」
「もう何回も聞いたから...。」
「そうね。でも、今言いたくて...。」
「...はいはい。」
多分こころはもう折れかけているんだろう。精神的にも保てているのが不思議なくらいボロボロなんだろう。それを察するとあたしが辛くなっていく。泣いちゃダメだと思っても涙が溢れてくる。でも、こころの前でこの涙を見せちゃいけない。こころが壊れてしまうから...。
「そろそろ来ると思うから。」
「わかったわ!」
その後、花音さんと薫さんにはぐみ、更には花女のみんなも来てくれた。前までは花女の異端児みたいに言われていたのに、今となってはかなりの友達ができたみたいで。お見舞いに来てくれた人は相当な数だった。
「色んな人が来てくれたね。」
「そうね、あたしとっても嬉しいわ!」
「みんなすごいみんなのこと心配してたけど...。」
「...真実を話すわけにはいかないわ。みんな笑顔にならなくなるもの。」
「だと思ったよ...。」
「あたしは最後までみんな笑っていて欲しいの。」
「でも、それだと結局は悲しむことになるよ。」
「その時は美咲に託すわ!」
「そんな無茶な...。」
「美咲ならできるわ。いえ、絶対に...あたしが保証するわよ?」
「それはそれは心強いです。」
「ふふ、だから頑張ってね。」
「...そうなって欲しくないのに。」
小声で本音を漏らした。だってそうだ、大切な人がいなくなるってハッキリしているのにこんなことを言われるとこう思うのが普通だろう。
あたしはこころに生き続けて欲しい、そう心の底から願った。
(神様、どうか...。)
こころはみんなのお見舞いもあってか数日間は安定したが...。やはり現実からは逃れられないようで...。こころの容態が急変してしまうことになる。神はあたし達を裏切った...。
「こころ?大丈夫?あたしのことわかる?」
「えぇ...みさきのこえ...きこえてるわよ...。」
「こころ...。お願いだからいつもの笑顔が眩しいこころになってよ...。」
「...。」
あたしは力一杯こころの右手を握る。すると、こころはそれに応えて握り返してくれる。弱々しく...。
こころの担当医から話を聞く限り、こころの体調はかなり限界を迎えているようだった。むしろここまで生き続けていたこと自体奇跡のようだったらしい。
「こころ、大丈夫だから。だから頑張って!!」
大丈夫。そんな根拠もない言葉をこころに投げる。でもこころには生きる希望を持っていて欲しい。諦めないでほしい。いつもこころが言ってた。
『どうして出来ないと決めつけるの?やってみないとわからないじゃない。』
この言葉のおかげであたしは変わることができた。こころにあたしという存在を変えてくれた。だから次はあたしの番だ。
「ねぇ...みさき...?」
「!?どうしたの、こころ!」
「そとのけしき...みたいの...。」
「黒服さんできますか!?」
「はい、車椅子ならここにあります。担当医の方に見つからないよう努力しますので、美咲様はどうかこころ様のことを最後まで一緒にいてあげてください。」
「...はい、ありがとうございます。」
そう言うと、あたしはゆっくりとこころの身体を起こし、黒服の人と協力して車椅子に乗せた。
...車椅子に座るこころは動かない人形のように首は座っておらず、全身の力が抜けていた。
こんなこころを見るのは辛い、現実から逃避したい。でも、こころを最後まで見届ける、だから耐えなくては...いや受け止めなきゃ。
病院の屋上までこころを連れてきたあたしは声をかける。
「こころ、外に出たよ?」
「えぇ...。くうきが、きもちいいわね...。」
「残念ながら晴れてないけどね。」
「いえ、いいのよ...。」
「...。あ、雪だ。雪が降ってきたよ、こころ!」
「ふふ...きれいね...。そういえば、きょうのひづけって...?」
「今日?今日は12月24日だよ!」
「そう...。みさき...ごめんなさい。あなたとあそび...いくやくそく...。」
「いいよ、そんなの!こころの方が大事に決まってるでしょ!?」
「あたし...あなたとわらいながらすごしたかった...。みさきには...わらっていてほしかった...。」
「いいって...。本当にこころと一緒にいる方が大事に決まってるよ...。」
「あたし...さいて...ね。さいごの...いごにみさきをなかせて...しまったわ。」
「うぅ...もういいってこころ...。」
「ねぇ...みさ...き。あたしのおね...い、きいてくれ、てありが...う。」
「約束は絶対に守るって言ったからね...。」
「みさき...。あな...たにさい...ごのし...もん。」
「なに...?どうしたの?」
「あたしと...いっしょにいて...たのしかった...?」
「当たり前だよ!こころと出会ってあたしの世界は変わった!こころのおかげで、人を幸せにする意味がわかった!こころにあたしがどれだけ助けられたことか...。」
「そ...ならよかっ...た。ねぇ...みさ、きにつた...えたいことが...ゲホッゲホッゲホッ。」
「どうし...たの...こころ!?」
「あ...たし、み...きのこと...す...だった。あな...たともっ...といっしょ...いた...かっ...。ハァハァ...。ねぇ...みさ...き。すわ...って...。」
「...はい、座った...よ?こ、ころ?」
こころは車椅子から身を乗り出しあたしに抱きついてきたと思うと...。
「ん...。...んん。」
「...。みさ...き...あり...とう。だい...す...き。」
「こ、こころ!?こころ!!」
「...。」
「ねぇ、こころ!!そ、そんな....。目を覚ましてよこころ!!」
「...。」
「あたし、まだこころに返事すらしてないよ...!こころのその気持ちにまだ答えられてないよ!!」
「...。」
「こころ...こころおおおおおおおお!!」
あたしはその場でこころを抱きしめながら泣き叫んだ。こころは最後の力を振り絞ってまであたしに気持ちを伝えてくれた。でも、あたしはこころのその気持ちに答えることができなかった。
あたしは...こころのことが好きだった。だから、こころと毎日過ごせるだけで幸せだった...。こころが生きていたら、これから幸せな生活が待っていた...はずなのに...。
こころの最後のキスは...涙の味がした。
「と、まぁこういうことがあったんですよ。」
「...。」
「...。」
「...。」
3人が黙り込む...。そりゃ無理もないか。
あの後、黒服の人が担当医を呼び、こころの死を確認した。黒服の人は、こころ様が亡くなることは悲しいことだが、このお屋敷は出て行くことはない。こころが過ごした思い出の地はこれからも大切に保存していきたいと言っていた。
そして、数日後こころの葬式が執り行なわれた。こころはやっぱり人気者で花女の生徒は勿論、羽女の生徒も葬式に来ていた。
こころの親族はどうやら複雑な家庭の事情とやらで黒服の人達しかいなかった。
なので実質、こころの葬式は黒服の人を中心に花女・羽女の生徒だけで行なわれた。
「こころちゃん、最後まで美咲ちゃんのことを思ってたんだね...。」
「こころ...。私は彼女の気持ちに気付いてあげられなかった...。」
「はぐみも...。でも、こころんは沢山の人に愛されていたんだね...。」
「うん。それは間違いなく言えるね...。」
コンコンっとドアをノックする音が聞こえ、ドアが開いた。
「皆さま、準備が整いました。それではご案内します。」
これから、こころのお墓に手を合わせることになっている。今日はこころの命日である12月24日だ。世間はクリスマスムードの真っ只中だが、あたしたちは決して忘れることのない大切な人に祈りを捧げる。
「こころ...。あたし、あの時きちんと気持ちを伝えられなかった...。遅いかもしれないけど、伝えるね...。こころ、あたしはこころのことが好きだよ。他の誰にも負けないぐらい、1人の女性として、あんたが好き。もっと早く伝えればよかったのに...ごめん。ごめんね...。」
「あれ?お墓の下に何か挟まってるよ?」
「これは、手紙...だろうか?」
「美咲ちゃん!これこころちゃんから美咲ちゃんに向けた手紙だよ!!」
「こころ!」
あたしは挟まっていた手紙を手に取り封を切った。
中から真っ白な便箋にメッセージが書かれていた。
美咲へ。 この手紙を読
んでいるということはあたしはこの世からい
なくなったと思うわ。でも...
あたしは悲しくないわよ。
理由はみんなと過ごした時間
がとても幸せだったから...。それ
と、美咲がこうしてあたしといてくれたから...。
うれしかった。
美咲には散々迷惑をかけてしまったけど...許してくれるかしら?許してくれると信じてるわ!
美咲にはみんなに、一緒に過ごせて楽しかったと伝えてほしいの。お願いね。
最後に...。
美咲、あたしは貴女のことが好き。この気持ちを伝えられるか心配だったからこうして手紙に書いておくわね。
本当に楽しい時間を、あたしに幸せを与えてくれてありがとう!
こころより
「こころ、あたしこそあんたに感謝しなくちゃいけないよ。」
「ねぇねぇ、みんなも集まってるんだし久しぶりにあれしようよ!」
「ほぅ...。それは良い案だ、はぐみ。」
「そうだね、美咲ちゃんは?」
「あたしも良いですよ。久しぶりにしましょうか...。」
「よーし、行くよ!せーの!!」
「「「「ハッピー!」」」」
「「「「ラッキー!」」」」
「「「「スマイル!」」」」
「「「「「イェーーーーイ!!」」」」」
the end
初めての投稿になります。Monicaです。私はこれからバンドリのSSを投稿させて頂こうと思っています。
さて、今回はここみさ小説を書かせていただきました。どうでしたでしょうか?皆さんの心に残る作品になっていてほしいと願うばかりです。
色々と仕掛けも用意していますので、気づかれた方は是非教えていただけたらなと思います。
改めて読んでいただき、ありがとうございました。