人の存在とは不完全で、脆く、一瞬である。

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ぼんぼん

この世界は狭いと、偉い人が言っていた。

そんな様な気がする。

この世界は狭いと、僕の祖父も言っていた。

確かに、狭い世界だ。

僕の祖父と偉人が同じ事を口にする。

それほどに狭く、退屈な世界なのかも知れない。

いや、世界ではなく人間が狭い存在なのだ。

僕の全部に意味は無く、他人からの評価が存在証明になる。

 

僕の家の向かいは、僕が産まれる前から広い空き地だった。

そして僕が小学校に通う歳の頃、少し汚れた作業服を着た大人達が、空き地に家を建て始めた。

汗を沢山流しながら、必死に家を建てていた。

僕はその姿が大好きで、2階の僕の部屋から窓の外を覗くのが日課になっていた。

まだ少し暑かった季節が寒くなり、汗をかいていた大人達は居なくなってしまった。

代わりに、綺麗な服を来た夫婦と、綺麗な服を着た男の子がやってきた。

 

母と父は、向かいの子と仲良くしなさいと言った。

僕と同じ歳の男の子だと言った。

嬉しくなって、公園で遊んでいるその子に話しかけた。

凄く楽しい時間が、ごく自然に流れた。

家に帰ると、母が電話で誰かと話をしていた。

向かいの家の人達の話をしていた。

あの子の事を、ぼんぼんだと言っていた。

僕はその頃、まだ「ぼんぼん」の意味を知らなかった。

 

中学生になると、その子は遠くの偉い学校に行く事になり、遊ぶ時間も極端に減った。

たまたま家の前で会ったので、今度また遊ぼう。と話した。

その子は、寄るな バカがうつる。と言った。

それからは目を合わせる事もせず、僕はぼんぼんの事が嫌いになった。

ぼんぼんの意味もわかっていた。

 

暑い季節になると、作業服を着た大人達を思い出した。

凄く立派な姿が印象的だったのだ。

セミが騒ぐ中、そんな事を考えていると、電話が鳴った。

祖母からだった。

母は泣きながら僕を連れて、実家に帰った。

介護ベッドに寝ている祖父の周りに、沢山の親戚が集まっていた。

白衣を着た知らない顔の人が、母と奥で話をしていた。

一時間と経たない内に、祖父は息を引き取った。

祖父は、最後に僕に「偉くならなくていい。頑張らなくていい。それを頑張りなさい」と言ってくれた。

僕は、ぼんぼんと作業服の大人達を思い出した。

 

人は狭い。

誰かの中にしか自分の居場所は無いと思っている。

広い世界の中で、狭い場所に取り残された生き物だ。

人は自分が知らない物を怖がる。

人は皆が知っている物を欲しがる。

自分の頭で理解できない物を、脳が拒否する。

人とは、狭い。

ぼんぼんは、あの大人達の事を知っているのだろうか。

あんなに素晴らしい背中を、知らないのだろうか。

ぼんぼんは、葬式から帰った僕達を見て、笑った。

僕は大好きな祖父が汚されたと思った。

 

そんな事を思い出しながら、血で塗れた手を執拗に洗い流す。

あの笑っていたぼんぼんの顔は、苦痛で歪んだままの状態で動かなくなっている。

僕は祖父の言いつけを守れているのだろうか。

頬についた血が固まり、上手く笑えなかった。

人とは、狭い。

 





FEAR.の執筆がかなり滞っているんですが、急に書きたくなって書いた物語です。
短編ですが、自分の中の不完全燃焼や暗い部分を文字に起こしました。

少しホラー調にしたくて、暗い文章の感じにしました。
執筆途中の別作品も恐怖を題材にしているので、自分の中で切り替えてしまうと書けなくなると思ったので...

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