僕が響になったから   作:灯火011

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2xxx年。僕は響に包まれた。


halo world

 僕の仕事は土方で、起床時間は朝の5時30分。寝汗を流し、朝食を食べ、仕事の準備をして、家を出るのは6時30分。そして朝の8時から夜の17時まで働き、また22時には寝床に入る。

 夜の間には趣味であるロードバイクのローラーを回し、それが終われば艦隊これくしょんや花騎士といったソシャゲを齧るのが日課だ。

 

 そんな僕は、今日もいつもと同じように朝、5時30分に起床した。

 

 寝ぼけ眼で天井を見れば、いつもの白い壁紙だ。僕にかぶさっている布団はニトリの羽毛布団で、ほどよい暖かさを醸し出している。実に2度寝を誘う温かさだけれど、2度寝をしてしまっては仕事に間に合わない。

 

 眠気を切り離すように、むくりと上半身を跳ね上げる。案外2度寝対策というのは気合が大切だ。

 

 といったところで、ふと違和感を感じていた。何かいつもより視線が低い。普段であれば机に置いてある植木よりも視線が高いはずだが、今は植木の半分ぐらいのところにしか視線がない。テレビも同様だし、よくよくみればベッドのスケールもおかしい。

 

 さらになぜか寝間着のサイズがおかしい。裾が手足ともにだいぶ余っている。176センチの僕に合わせて買ったものだから、こんな風に余るわけがないのだけれど。

 

 悩んでいても仕方がないので、とりあえずベッドを降りる。と、ここでさらに異常さが際立ってきた。明らかに目線が低い。そして寝た時よりも明らかに髪が長い。僕は仕事柄ほぼ坊主だ。シャンプーも楽だし何も気にしなくていい。だが、髪の毛を触ってみれば肩口よりも髪が長くなっている。いよいよこれはおかしい。

 

 とりあえず、と、現状を確認するために洗面所へと向かう。何もなくて、ただ寝ぼけているのであれば水で顔を洗えばいいのだし。そう思って洗面所の鏡の前に立ち、電気のスイッチをカチリと入れた。

 

 そして、その鏡に映っていたのは

 

「…誰だこれ、すごいじゃないか。…声まできれいになってやがる」

 

 身長にして150に届かないくらい。銀髪の美少女が鏡の前に立っていた。

 

 

 不思議なことに遭遇すると人間一周回って落ち着くもので、とりあえずラインで『声が出ないほどの風邪にかかったから休む』と仲間に連絡をいれて家で引きこもり、現状を何度も確認。

 

 まず確認したのは僕の妄想があふれ出てしまって僕の脳が僕を女の子とみていないか、というところだ。これは近所のコンビニで試してみたのだが、店員さんに商品を聞くふりをしてその反応を見ていたのだが

 

「かわいい女の子ね!銀髪に青い目なんて、どこの国からきたのかしら!わからないことがあったらなんでも聞いてね!」

 

 と、パートのおばちゃんに言われたのでどうやら僕は少なくとも、今は女の子ではあるらしい。そして銀髪というのも僕の妄想ではないようだった。なお、服はフリースを折りまくってなんとかしている。

 

 その次に確認したのは、下世話ながら下半身だ。ついてるかついてないか。これはすごく単純でついてない。そして排泄関係もすべて女性と化している。女性機能としては不明といったところ。

 

 最後に確認したのは、もしかして僕がもう一人いるのでは?という可能性。だが、ラインを見るに僕はしっかりと今日休みということになっている。さっきの10時の休憩時間に『大丈夫か?明日も休むなら休んでいいぞ』と送られてきているからだ。

 

 というところから導き出した結論は『僕はなぜか銀髪青目の美少女になってしまった』といったところだ。わけがわからない。

 

 

 さて、現実を受け入れるのはまだ時間がかかりそうだけど、時間は待ってくれない。呆然としている間にも時間は12時だ。おなかもすくし、対策をする…何を対策するのかまったく予想ができないが、そういう時間がどんどん減ってくる。

 さっきから考えているのは『昨日何かやったっけ?』だ。こういうことが起こるときは、小説とかでは何かをしていたということが多い。だが、僕は特になにもやっていない。毎日のルーチンワークのゲームをやって寝たぐらいだ。

 だが、考えられるのはそのぐらいだろうか?何か手掛かりがないだろうか?そういう期待を込めてまずは花騎士を起動させてみる。秘書はクロユリだ。だが、特に何もなし。ログインアイテムがもらえたぐらいだ。

 次に起動したのは艦隊これくしょん。秘書として響(ヴェールヌイ)を置いている。のだが、特に何もなし。いつもの『ひび…Верныйだ。信頼できると言う意味の名なんだ』というログインの台詞を聞いただけで、特に何もなかった。…手掛かりは何もなかった。

 

 だが、響を見てちょっと思ったことがある。銀髪青目。美少女。これに当てはまるのって僕の中では、艦隊これくしょんの響、もしくはヴェールヌイぐらいしかない。

 

 つまりこの状況は、現実世界で響になれたということでは?いや、僕、疲れているな。そんなことあるわけない。

 

 

 僕は今日の出来事で、本当に疲れているんだと思う。

 

 艦隊これくしょんの響になった。そんな妄想を15時ぐらいまで続けているぐらいには疲れている。いや、本当は大の大人の男が部屋で引きこもっているだけなんだ、と思いたいが、鏡に映るのは相も変わらず美少女だ。さて、そして僕が自分で疲れているなと思っているのは、風呂に水を貯めているからだ。別に15時から風呂に入ろうというわけではない。もし、艦隊これくしょんの響なら、水の上に立てるだろう?という安易な考えだ。笑えるね。

 ということで、貯まった風呂の水の上に恐る恐る足をつける。すると、簡単に…水の上に立てた。え、この体は冗談じゃなくて響?というか僕、人間じゃなくなっているって事?

 ええと、うん。今日は寝ることとしよう。明日になれば戻っているかもしれないし。

 

 戻っていなかったら、仕方ない。また何か考えよう。




艦娘の世界に転生ではなく、艦娘の肉体が提督に憑依、というありそうでなかったので少しだけ妄想をしてみました。
 ここで大切なのは現代をどのように艦娘の体を持った人間が、現代をどう生き抜いていくのかなどと考えてみたりしております。なお、響の意識は一切肉体に宿っていません。

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