僕が響になったから   作:灯火011

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Meal drink(1)

 まぶしい朝日で目が覚める。昨日はお酒をたらふく飲んで布団に入ったけれど、全くお酒が体にのこっていない。というか、今までお酒を呑んだ次の日は二日酔いだったのに、この体は逆にすごく調子が良い。なんというか、響ボディはお酒と相性がいいようだ。

 

 だけど、ちらりとテーブルの上に視線をやると、お酒がほとんどなくなってしまっている。残っているのはマッカランとミードとアマレットだけだ。響なんかは完全にすっからかんだ。ま、お酒に関しては通販で買えるから、バイト代が入ったら一本仕入れようと思う。あとは響っていうとロシアのイメージがあるから、ウォッカも手に入れて飲んでみよう。

 

 まぁ、それはそうとして、今日もアルバイトなわけだからさっさと支度を済ましてしまおう。洗面台の前に立って顔を泡で洗う。そして化粧水と保湿液で下地を整えて、薄く化粧を行う。ピンクリップに睫毛たっぷり。そして今日の髪形はポニーでいくとする。うん、よし、可愛い。

 

 そして、服はパーカーにショートパンツ、そしてキャップにニーソというラフな格好で整える。うん、ちょっと活発そうな響だね。これもまた好みだ。ということで準備が終わったけれど、アルバイト開始まではまだ少し時間がある。もったいないので、外に出て少し散策をしてみようと思う。

 

 

 久しぶりの散策をしているけれど、朝はやっぱりやっている店の数が少ない。行きつけともいえるパン屋は流石に毎日いくと飽きるし、あとはコンビニぐらいしかやってない。うーん、と悩みながら歩いていると一軒店がやっていた。

 ジュース、しかもフレッシュジュース屋という場所だ。俗にいうジュースバーというやつらしい。

 

「おはようございます。お勧めってありますか?」

「おはようございますー。そうですねー。こちらのケールやキウイなどが入っているミックスがおすすめです。ただ、朝食の代わりをお探しでしたらスムージードリンクもお勧めできますよ」

 

 ほほう。スムージードリンク。男の時は飲んだ事はなかったけれど、聞いたことはある。

 

「それじゃあ、スムージードリンクをお願いします」

「畏まりました。それじゃあ600円になります」

 

 600円。結構高いなと思いながらも、お金を店員さんに渡す。

 

「それでは少々お待ちください」

 

 店員さんはそういうと、目の前で野菜や果物をジューサーに入れてスムージーを作る。おお、これは凄い。そして、出来上がったものをコップに移し替え、僕に手渡してくれた。

 

「お待たせ致しましたー。グリーンスムージーです」

「ありがとうございますー!」

 

 僕はそう言うと受け取ったジュースを早速頂く。うん、臭みもないしすごく飲みやすい。むしろ、甘さとちょっとした酸味が癖になる味だ。うん、ここもちょっと贔屓にしよう。ただ、ちょっと高いから毎日は無理かな。

 

 

 ベンチに腰かけてスムージーを飲みながら朝の街を観察していると、ふと、見覚えのある顔が僕の瞳に写った。確かあれは、数日前に川から引き上げた男性じゃないだろうか。あれから問題なく家に帰れたようだけど、風邪とかはひいてないだろうか?ちょっと気になる。ま、とりあえず元気かどうか声を掛けてみよう。

 

「お兄さん、元気かい?」

 

 小走りで男性に追いつくと、横から声を掛ける。男性は驚いていたけれど、私の顔をみるやいなや、笑顔を浮かべていた。

 

「おお!響ちゃん。あの時はありがとう。おかげさまで元気だよ」

「それならよかった。あれからお酒は控えてる?」

「もちろん。ほどほどに抑えてる」

 

 男性はそういうと顔をぽりぽりと書いて少し私から視線を外していた。…うん、呑んでるんだね。まぁ、追及するわけでもないから、それとなく注意しておこう。

 

「そっか、ま、川に落ちないように気を付けてよ。酒は飲んでも飲まれるなってやつだよ」

「あはは、響ちゃんに言われたら控えるしかないな…」

 

 完全に僕から視線を外した。男性はお酒を控える気はなさそうだ。まぁ、ちょっと話題を変えよう。

 

「それで、お兄さんはこれから出勤かい?」

「ああ、そうだよ。響ちゃんは学校かい?」

「ん、私も出勤。アルバイトだけどね」

 

 とめどない世間話を続ける僕と男性。うん、川に落ちていたけれど、問題なく生活を送れているようだ。

 

「へぇ、響ちゃんはどこでアルバイトをしてるんだい?」

「〇〇って喫茶店だよ」

「〇〇かぁ。確か昔からある喫茶店だっけか」

「そう。50年ぐらいの歴史があるらしいよ」

「そっかそっか、響ちゃんがアルバイトをしてるなら行ってみようかな」

「うん、そうするといいよ。お客さんとして来ていただけるのなら大歓迎だよ。もちろんお金を持ってきてね」

「あははは。もちろんさ!っといけない。仕事があるからこれでいくよ。響ちゃん。またな!」

 

 またね、と言おうとしたけれど、ここで男性の名前を知らないことに気づいた。助けた相手の名前ぐらいは知っておいても良いかな?

 

「そっち…そういえばお兄さんの名前を知らないんだけど」

 

 そういうと男性はしまったといった顔を僕に向けていた。

 

「あぁ!そういえば!命の恩人に名前をおしえてないなんて。ごめんごめん。俺の名前は工藤、工藤尚」

「尚さんか。それじゃあまたね、尚さん。喫茶店で待ってるからね。お金を落とすんだよ」

「あははは。判ったよ。それじゃあ」

 

 尚さんはそういうと、足早に僕の元から去って行った。うんうん。元気そうだし、助けたかいがあったかな。

 

 

 そういえば昨日の夜に久しぶりに艦隊これくしょんを起動してみたけれど、全くと言っていいほど変わりがなかった。響がいなくなってるとかそういうことは一切ないし、せりふも一緒だった。なんで僕がこの体になったのかとかの謎は一切解き明かされる雰囲気はない。

 

 などと考えながら散策していると、何かすごく良い匂いが僕の鼻を衝いた。なんだろうか、響ボディになってから初めて感じる感覚だ。ふらふらと香りのする方向に歩いて行ってみると、そこにあったのは予想外の店舗だった。広い敷地、どでかい看板、コンクリートの床、そして特徴的な長いホースが車の給油口に刺さっている店舗。

 

 そう、僕が良い香りを感じたのはガソリンスタンドだ。

 

 はっっとする。この香り、よくよく思い出せばガソリンの、強いて言えば揮発性の油の匂いだ。しかも嫌なことに僕の響ボディはそのガソリンの香りを嗅いで、食欲がすごく出てしまっている。

 

 認めたくはないのだけれど、この響ボディ、もしかして油を欲していたりするのだろうか?先ほどから感じている食欲は、我慢できないほどのものではないのだけれど、出来るのならば口に入れたい。そういう感じだ。

 

 うーん、でも、この体が艦隊これくしょんの響と考えれば不思議じゃない。なぜならば、同じ艦娘の島風なんかは公式イラストで美味しい重油というパッケージの飲料を飲んでいたから、おそらく響もそういうものを飲んでいたんじゃないかなと思う。それに、この体の異様な腹ペコ感はもしかしたら、燃料が慢性的に不足しているから食べ物で補てんしているだけなのかもしれない。

 あと、このガソリンスタンドは『ガソリン』の他にも『灯油』と『A重油』を置いているようなので、それぞれを試してみたいなぁな、どと思ってガソリンスタンドを観察していたら、ちょうどよいものが目に入った。

 

 スタンドの隅っこに、1リットルの携行缶が販売されていたのだ。これは良いと、一つ購入する。そして、そのままの足で燃料を買う。今回は船ということであるし、それっぽい燃料の『A重油』を購入してみることとする。

 

「何に使うんですかー?」

「家のボイラーに。ちょっとだけ使いたいんです」

「なるほどですねー。はい、入れ終わりましたよー」

「ありがとうございます」

 

 こんな感じで簡単に店員さんは携行缶に満タンのA重油を淹れてくれた。さて、まだアルバイトまで時間があるので、家に一度戻って口をつけてみるとしよう。正直、響ボディが早く飲ませろとせがんでいる気がするんだ。


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