僕が響になったから   作:灯火011

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What is your name?

 「私」が女性となって約1週間。今日は待ちに待ったアルバイトが休みの日だ。とはいっても起きる時間はいつもの時間であるし、顔を洗って化粧水をつけて、髪のセットをするローテーションを変えることはない。そして今日はせっかくの休みなので、買い物や散策のために外出する予定だ。

 

 なので、好みの服を選ぶとする。

 

 外せないのはニーソックスだろう。そして短めのスカート。絶対領域は響には必要だ。併せて袖なしのノースリーブYシャツ、色はベージュを合わせる。なお、下着は黒っぽいので少しシャツから透けているのが個人的ポイントだ。

 だけどそれで町を歩くのははしたないので、上から黒色のパーカー…フードに猫耳がついているけれど…を羽織る。これで歩いているときはパーカー姿の絶対領域が光る美少女、フードをかぶれば猫耳美少女、パーカーを脱げば脇を見せる美少女という私の好みを詰め込んだ服装の響が完成だ。あとは髪型だけど、パーカーを被る事があるからストレートにおろすとする。

 

 下着をシャツから透けさせるのは変態?何を言いますか。私はよしんば変態だとしても紳士…いや、淑女だよ。そして、鏡の前で服装をチェックして…よし、問題ないだろう。化粧も手慣れたもので、おめめぱっちり、唇ぷるぷる、肌はつやつやだ。

 

「うん、今日も一日、がんばるぞい!」

 

 鏡の前で小さくガッツポーズをして呟いてみたら私の心にドストライクだった。うん、よし、今日も一日が間違いなく頑張れる。あとは靴だけど…やっぱり編み上げブーツが僕の好みだ。ちょっと履くのがめんどくさいけどね。だけど、なんだろうか、拘束されてる感じがよい。

 

 そして、あとは外出前に燃料を一杯…よし。

 

 結局、燃料については保管と入手方法を…といろいろ考えて試していたら、発火の可能性が少なくて、玄関に置いておいても比較的においがなく、危険性も比較的少ない灯油に落ち着いた。なお、灯油を飲んだ後は全身からほのかにアップルの香りがするらしい。重油ほどとはいかないけれど、燃料を取った後の体の調子はやっぱり良い。そのおかげで疲れ知らずでアルバイトをしているためか、明るくて元気な女の子、と私の評判が結構よくなっていたりする。燃料様様だ。

 

 なお、ガソリンとハイオクも試してみたけれど、ガソリンはムスク、ハイオクはなぜかレモンのような香りがしたらしい。法則性とかまったく判らない。今後も色々と試してみようと思う。

 

 

 コツコツとブーツの音を響かせながら、朝の清涼な空気の中を歩いていく。3日見れば美人も飽きるというようなことわざがあったと思うけれど、まさにその通りで、1週間も街を歩いているとさほど注目はされなくなってきていた。うん、ありがたい。ただ、ちらちらとこちらを見てくる人はいるので、自分を磨くことは忘れないようにしようと決意を新たにする次第だ。

 

 なお、今日の外出の目的はもちろん家具だ。女性らしい色のものを狙っている。部屋をすみれさん宅のように女性らしい部屋にする感じだ。

 

 とはいっても、この体にはどのような家具が似合うだろうか?

 

 まず、色。この体自体が色白の銀髪青目という薄めの色なので、濃い目の色が部屋にあるといいのかなーとかは思う。黒で纏めた部屋に白の響が寛ぐ姿というのも良い。だけど、逆にピンクとかでもいいかとも思う。薄めのピンクの部屋でくつろぐ響というのもまた絵になる。そしてそれを自撮りすれば私の心が満たされる。そしてさらに体に磨きをかける。そして自撮りをすればさらに心が満たされる。うん、良い永久機関だ。

 あとはスタイルか。和風にするのか洋風にするのか。ゴシック調もきっと合うだろう。ただ、あまりに女の子女の子してしまうと、だれかを…とはいっても今のところすみれさんだけであるが、を部屋に呼んだときに恥ずかしくて仕方ないと思うので、色々考えてみよう。

 

 ということで、家具屋に行く前にちょこっと本屋を覗いて情報収集をしてみよう。女の子向けのショップの情報を集めたい。あとはファッション雑誌も何冊か手に入れたいところだ。どうしてもネットやショップ店員さんだけの知識だけだと偏りがちだしね。

 

 ということで早速本屋の扉をたたく。本屋といっても個人営業店ではなく、最近、駅前にできた大型の本屋だ。朝というだけあって人は少ない。ええと、とりあえず女性向け雑誌のコーナーは、と。うん、セブンティーンやキャンキャンといったよく聞く雑誌達が所狭しと置いてある。いいね。

 ぺらぺらと捲れば、最新のファッションが目に入ってくる。確かにこの格好を私がすればきっと可愛い。のだけれど、紹介されている服のブランドとお値段を見てみるとまぁ高い。うーん、まぁ、とりあえず後でじっくり読むとしようか。数冊を手に取って歩みを進める。ということで今度は家具の雑誌を探していると、北欧スタイルの家具の雑誌が目に入った。

 

 …ピンクの家具とかもいいけれど、こういうシンプルで木材を多用した家具で統一するというのも悪くなさそうだ。きっと私、響に似合うであろうし、だれかを招くことがあっても恥ずかしくない。

 ファンシーな部屋とはちょっと違うけれど、かっこいいし、何よりシンプルで良い。こういう部屋で酒を飲む響ボディもきっと絵になるだろう。…ただ純正の北欧家具を買おうとするとお値段が素晴らしいことになる。それこそ貯蓄をすべて使っても足りないくらいだろう。よし、そこらへんは一度家具屋にいくしかない。そこで北欧っぽい家具で安いのがあるかもしれない。物は試しだ。

 

 

「北欧の家具は20万ぐらいを目安に用意していただけると、そこそこのものが揃えられますよ」

「予想はしていましたけれど高いですねー…」

「どうしても輸入品になりますからね。上をみればそれこそテーブル一つで20~30万というものありますから」

 

 早速家具屋に来てみたところ、見事な轟沈だった。今の状態で20万の出費はできない。

 

「北欧風となるといくらぐらいになりそうですか?」

「そうですねー…北欧風となっても、材料はさほど変わらないので安くそろえても10万ぐらいかと」

「そーですかぁ」

「ええ、あとは木目調のコーティングなどをした安価な北欧風家具、というのもありますが…結局1年ぐらいで破損してしまうので、そうなると結局最初から20万ぐらいの家具でそろえたほうが良いかと思います」

 

 やはりハードルが高そうだ。うん、今は北欧風家具を諦めるとしよう。と、なると当初の予定通り女の子のような家具を探すしかない。とはいっても、動かすのが難しい家具、本棚やテーブルはそのままだ。変えるのはカーテンやカーペット、あとは寝具一式に小物入れといった消耗しやすい部分のみに限定する。

 

「わかりました…。あ、では、カーテンとかを一度見せてほしいのですが」

「良いですよ。こちらの棚が…」

 

 つまり、最低限の金額で抑えて、後で好きなものを買う算段だ。よし、あとは店員さんと相談しながら統一感を出してみるとしようかな。

 

 

 家具屋から出て、家に帰る途中、用水路の橋の近くで何か拾った。猫じゃないけれど、猫のような、何か形容しがたい生モノを拾った。大きさにしてみれば20センチぐらいの、真っ白な人型の何か。最初はフィギュアかとおもったのだけど、表情が変わるし少しあったかいし、なんだろうか?

 

「えーと…これは一体なんだろう」

「なんだとは失礼な」

 

 しゃべった!?

 

「しかし貴様もデカいな。どうなってる。人々が全員くそデカい。艦娘と深海棲艦に次ぐ第三勢力が現れたのか?」

「いえ、あなたが小さいだけかと」

「む、そうなのか…それにしても、ここはどこなんだ?」

「〇〇県の〇〇ですよ」

「…陸、内地なのか?」

「え、ええ。陸ですよ」

 

 どうもこの小さな生モノは現状を把握できていないらしい。そして、落ち着いて生モノを観察したとき、某キャラの特徴である、口がついた巨大な尻尾が目に入る。

 

「そういえば小さいあなた、どうしても一つ聞きたいことがあるのですが」

「何だ?」

「そのしっぽといい、パーカーといい、肌の色といい…深海棲艦ですか?」

「む、貴様、もしや…艦娘か!?」

「正確には艦娘ではないのですが。響のようなものです。それにしても、随分と小さいですね」

「響…確か横須賀の、か?最近見ないと思ったら内地に移動していたのか」

「いえ、その、なんというか、私は響ですが、響ではないといいますか。事態はもっと複雑なんです。あ、それであともう一つ聞きたいことが」

「何だ?」

「深海棲艦というのはわかりました。それで、さらにもう一つ聞きたいのですが、その尻尾から察するに、貴女は…」

 

 僕の言葉に小さい生モノはにやっと笑みを浮かべていた。

 

「貴様ら艦娘からの呼称は戦艦レ級だ。いや、正直このチッササとしっぽのせいで何もできていなかったからな。敵とはいえ事情を知る貴様と出会ったのは幸運だ」

「はは…」

「ということで響。落ち着けるところまで私を運んでほしい。そして、知りうる情報を私に教えてくれ」

 

 うん、ええと、僕のほかにもどうやら、おかしなことが起こっているようだ。世界はちょっと変な方向に向かっているのかもしれない。

 

「貴女を運ぶことについては、やぶさかではありませんが…その前にちょっと失礼」

「うん?」

 

 ま、とりあえず、戦艦レ級っぽいこのちっこい物体の尻尾の感触を確かめておこう。お、ほどよく冷たくてすべすべで良い感触だ。

 

「ちょっとまて!くすぐったい!」

 

 どうやら神経もしっかりと通っているらしい。そして、撫で続けていたら尻尾で軽く手を噛まれた。解せぬ。




-My name is "Re"

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