僕が響になったから   作:灯火011

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Anyway HEROs(1)

 居酒屋、鳳翔。かの艦娘が切り盛りする鎮守府きっての人気居酒屋だ。普段は艦娘と職員でにぎわうこの場所だが、今日は男2人だけの貸し切りである。

 

「で、提督。私のこの体の正体、判ったのかい?」

 

 そのうちの一人は響、と名乗る男性。

 

「いや、全然判らん。写真での捜索で一件も連絡なし、メディアで数件連絡があったが…ま、実際行ってみると全く違う情報だ。DNAも合致無し。行方不明者名簿と照らし合わせても一致する人間は一人もいないのが現状だ」

 

 もう一人は、提督と呼ばれる人間だ。どうやら、男性となった響の体について話を進めているらしい。

 

「そうかい。難儀しているね」

「まぁな。あとは全国の鎮守府にいる響とヴェールヌイに問い合わせたんだが、全員本人だと」

「…それもまた、私以外にこんなことになってる人がいない、と」

「そういうこった。行方不明になった響はお前だけ」

「本当、難儀だね」

 

 響は目の前にあるビールを一口飲む。炭酸とアルコールで、少しは気がまぎれるようだ。 

 

「まぁ、好きなだけ提督と飲めるわけだし、今のところは別にこのままでもいいけれどね。…それにしても、もし、この体の持ち主が私の体になっていたら相当大変だと思うよ」

 

 ほう、と提督は興味深そうに眼を開く。

 

「艦娘だからか?」

 

 響は首を振る。

 

「いいや。女の体というのは手入れする場所が多いんだ。男は精々皮膚と髪の毛だけだろうからね。いやはや、本当、男は支度が楽で仕方がないよ」

「そうなのか。まぁ、確かに俺も軍服着て髪整えて、髭を剃ればなんとかなるわなぁ」

「でしょう。私たち艦娘はそれに加えて色々、まぁ、色々身支度しているからね。短い娘でも30分はかかるよ」

「マジか」

「マジだよ」

 

 カラン、とウィスキーのグラスの氷が鳴る。

 

「…それにしても響がここまで男の体に馴染むとはねぇ」

「ま、もともと海の男を乗せていたからね。男として生活するのにそこまで違和感は無いさ。ただ…夜の生活は少し困るかな。男というものはここまで悶々とするとは思わなかった」

「…はははは!ここにきてそれか!ま、そこは仕方ねぇか。ま、いい店連れて行ってやるよ」

 

 提督は大笑いである。響は不機嫌そうな顔で提督を睨む。

 

「提督、私は中身は女だ。…でも、お願いしたいかな」

「へいへい。判りましたよ工藤響殿。先達としてしかりと導いて差し上げましょう」

 

 艦娘が存在する世界の男たちの夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 今日も今日とて私は喫茶店でのバイトだ。いつもの制服に身を包み、いつものコーヒーをお客さんに差し出している。もちろん笑顔を忘れない。

 

「響ちゃーん。コーヒーお替り」

「はーい」

 

 常連さんからの注文も慣れたものだ。視界の端に私のポニーテールが揺れて入るのはご愛敬だと思う。というかきっと可愛いであろう。

 

「お待たせしました。コーヒーです」

「ありがとう」

 

 笑顔を常連さんに向けると、向こうも笑顔で言葉を返してくれる。本当、良い場所だと思う。そして、今日も一日の仕事が終わった後にはマスターの賄が待っている。

 

「響さん。今日もありがとうございました。今日は卵サンドにシーザーサラダ、それにブレンドコーヒーです」

「マスター、ありがとうございます」

 

 コーヒーはおいしい、卵サンドも、シーザーサラダも美味しい。そして私は可愛い。ああ、なんという幸せか!ただ、未だになぜ艦娘になったのかはわからないし、やっぱり燃料は必要な体だから不安はぬぐえていない。

 幸いなのは「戦艦レ級」と出会えて体のメンテナンスの仕方が判ったことぐらいだ。燃料が必ず必要で、水に浮けて、すごい力が出せる。ただ、女性の体だからそっちの面の手入れはしなきゃいけない。今だって軽く化粧をしているし、毎日のパックや化粧水などは毎日行っているし、長い髪のトリートメントも忘れていない。

 

「あー」

 

 声を出せばかわいい声。録音して聞いてみたりしたら間違いなく響だった。ああ、自分が可愛いのは素敵だ。いままでの男の体ももちろん好きだが、まぁ、かわいい女の子になれるのならば間違いなくこっちを選ぶ。

 

 さて、賄を食べ終わったことだし、家に帰るとしよう。レ級も待っていることだしね。

 

 

 カタカタと部屋にキーボードの音が響く。モニターの前にいたのは、小さな戦艦レ級である。

 

「なるほどなるほど…世界大戦のあとは日本は警備隊から自衛隊に…しかもアメリカから貸与されてか…まー…ただそれでもこう、この世界では擬人化されているのは何かこっぱずかしいもんだな」

 

 ブラウザに映し出されているのは海軍の歴史と、擬人化のいくつかのゲームである。

 

「深海棲艦の正体は不明。ふむ。艦娘も明言はされていないが…()()()()()()、という設定はあるのだな」

 

 レ級は響に買ってもらっていたポテチの袋を開ける。反動でコケるが、姿勢を直して改めて画面の前に立つ。

 

「まぁ、確かに我々も我々のことは不明だしなぁ。ただこのゲームは…なるほど、武装などの明言はされていないのか。だからこそこう…人気があるのだな」

 

 レ級はふむふむと考え込んでいた。

 

「…艦娘に深海棲艦の関係、装備品の有無、巨大化、艦艇化、ロマン溢れるなぁ。素晴らしい」

 

 独り言をごちりながらレ級はどんどんブラウジングを続ける。だが、あるところでハタとその手が止まっていた。

 

「…横須賀、三笠、それに護衛艦か。いいな、一度、()()()おきたいな。もし私だけがこちらにきたのならいいのだが…」

 

 そう言うレ級の顔は曇っていた。




中国からきたTSゲームが理想すぎて堪能しております。
…すごいもんが来たもんだ
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