新たな生活
とある山奥に人知れず研究所が構えられている事実に
一体どれだけの人々が信じるだろう?
それが採石場としてカモフラージュされているのだから、
闇が深い所では無い。
…そこに居る被験体達は実に様々な種類が存在する。
大まかに別ければ知恵ある者とそうではない物。
前者は頭脳労働に後者は肉体労働に従事している。
頭脳の方が後者より肉体の面においては安息を受けられる恩恵がある為、初めて(此処)に来る者達は決まって前者を懇願する。
受けられる者は時間を忘れられるがそれに炙れた者達の末路は悲惨極まりない。
…ただ一つ救いがあるとしたら前者より遥かに早く眠りにつける事だろう。
知恵ある者達にはそれぞれ個室が与えられる。
と言っても薄暗く異臭の立ち込めた部屋であり、尊厳の(そ)の字も無いのだが…。
とある部屋に1人の少女が隅っこで蹲っていた。
「…。」名前をラクハと言い農村部に住んでいた田舎娘であったのだが、或る日夜盗に襲われ村は壊滅。
連れ去られた者達の末路は推して知るべきで、その中で彼女は何やら利用価値があったらしく此処に連れてこられた。
其処から現在までの生活は正に(地獄)の一言で
あれ程までに自らの運命を呪った事は無いだろう。
「…何であの時。」自分はただ遊んでいただけなのに…。そう後悔しているとカツっカツっと硬質な足音が近づいてくるのに気付く。
:今日もこれからも変わらない毎日が続く:。
悟りに近いその感情を心情として吐露する間も無く、部屋の扉が開いた。「時間だ。」今日も一日頑張れ。
…私は目隠しをされ毎日ある場所に連れられるのだが、その道中聞こえて来る呻き声が聞き慣れた同族の者では無く獣に近い事に気付いた。
「気になるか?」下卑た声が耳の中に侵入してくる。
これが(犯される)と言う感覚だろうか?
…そう思案していると視界が動転し衝撃が辺りに響く。
どうやら自分は蹴られたらしい。その際に目隠しが外れた。視界に広がるガラス張りの先にその主が居るらしい。
拙い足で其処に近付く。男が何か言っているがそんな事より私は呻き声の主が気になった。
「……。」見なければと後悔する。
眼下に広がる大きな実験室には辛うじて人の型を保つ一匹の無数の蛞蝓が居た。
「てめぇ!?」動揺する男が私の頭を揺らす。
「…何でこんな事をした!何でこんな事が出来る!!」
今日の私は何やら感情的になっていた。
男がさらなる追撃の為拳を上げる。
振り抜かんとする刹那、硬質な足音が男の後ろから聞こえた。
「あれは食事中だよ。」と赤い血に塗れる白衣を来た眼鏡の男は話す。
「…。」良く見ると蛞蝓の海の中に同族の手足が見えた。
気付くと暴行を行おうとした男は眼鏡の男の後ろに居た。
「我々が目指している先は人ならざる知能と肉体を持った生命体…。それは天使とも悪魔とも呼ぶが…。最終的には人の殻を破り不老長寿を実現するつもりだ。…無論可能であれば不死すらも目標に入れてはいるが。」
眼下の惨状を見ても男は何食わぬ顔で今後の展望を語って見せた。「…あれが。」口が震える。
「相変わらずヒューマンの知能は無くなっているが、前進はしたようだ。」そう言うと背後の男に目配せする。
「はい。以前なら食い散らかす事しか能の無かった奴らですが、今では行儀良く食べています。」と反応を返す。
「犬食いからは卒業か…。人の身にしてあの力を行使するのには一体いつまで掛かるのだろうか…。」
「…!!」他人事のように宣う男に頭の血が昇る。
「まぁ、そんな事より良いのかい。油を売ってて。」
その言葉にハッとする男は急いで私に目隠しをする。
「ありがとうございます!所長!」男は眼鏡…もとい所長にお礼を言いながら、私をいつもの所に連れて行った。
「…もう直ぐだ。」その方向を見ながらそう呟いたのだった。