年末年始は忙しい日々が続き、予想より遅れた投稿となりました。
タイトルにある通り千寿夏世が遂に登場します。
個人的に好きなキャラクターですね。特に、話の中で自然と使われる難しいことわざや熟語には素直に格好いいと思いました。
あくまでも個人的な意見ですがね。
この話は原作とあまり変わらず、戦闘がありませんので退屈する方もいらっしゃると思います。
そこを了承したうえでご覧下さい。
以上。
「にしても、何か変な気分だ。
病院で起きた時もそうだったけど、傷の治りが早くなった気がする。」
「……もしかしたら、蓮太郎君もガストレアウイルス保菌者なのかもしれないですね。
子供たちはモノリスの外に出ると一時的にハイになったり、再生力が上昇するらしいですから。」
忘れてた。自己再生能力を上昇させたままだったか。でも、
「そうなのか?妾もちょうどそう感じていたところだ。」
「延珠はそうだが、俺は
3人は話しながらも油断無く歩く。大分離れたとはいえ、一度周囲の森を起こしたのだ。注意し過ぎることは無いだろう。
ただ、空が警戒していれば急襲される可能性はほぼゼロだ。空の探知から誰も逃れられない。
「この先、大戦時に造られたものでしょうが、
少なくとも、蛭子ペアではありません。」
「警戒はしておこう。そのイニシエーターが安全かも分からないからな。
ここからは俺と延珠が先行する。空は特に後方の警戒を頼む。」
2人が用心深く近づいていくと茂みが途切れ、石造りの平屋が目に入る。あちこちボロボロで機能を失っているが、風避けくらいにはなるだろう。小さい小窓からは揺れ動く明かりと薪が爆ぜる音が漏れている。
二手に分かれ、蓮太郎と空が裏手から延珠が前から近づいた。
この時点では中の人物が誰なのか空は気付いていたが、
でも、……これは?
少女がショットガンを手に持っていた為、最悪の状況を考え、空は無言で構えた。
「動くんじゃねぇ!」
蓮太郎は飛び込み声を上げ、空もそれに続く。
蓮太郎のXDと、少女のショットガンの銃口が交差するのはほぼ同時だった。
「お前は!」
「……やっぱり。」
少女は荒い息をつき、虚ろな瞳で蓮太郎を見ていた。
落ち着いた色の長袖ワンピースにスパッツ。地獄の未踏査領域に似つかわしくない装いだ。しかし、一番目を引いたのは痛々しい腕の傷。まだ止血さえされておらず、歯形に抉れたままだった。
「お主、その銃を下ろさぬと、その首叩き落とすぞ。」
その少女の後からは延珠の蹴りが首筋に押し当てられていた。
「待て延珠、こいつは敵じゃねぇ。」
「な……っ!」
「……確か防衛省にもいたよね。
延珠はしぶしぶ脚を下ろしす。
空は座り込んだ少女の前で膝を折り、処置を始めた。
「なあお前、俺のこと覚えてるか?」
「ええ、勿論です。」
苦しげに呻きながらも夏世は喋る。
「妾はこんな女知らないぞ。どういう関係か説明するがいい、蓮太郎。」
「こいつとは最初にこの依頼の話があった時、防衛省で会ってな。空が言った通り、伊熊将監っていうプロモーターの相棒だ。名前は今知ったけどな。」
「………よし、できたよ。」
「ありがとうございます。素晴らしい手際でした。」
「それはどうも。」
傷の再生はやっぱり個人差があるみたいだ。侵食率に少し不安があるけど、傷の状態を見る限りは問題無さそうだ。
「妾はそんな女認めないぞ!」
「頼むからお前は外の警戒にあたってくれ。」
蓮太郎は説明していたが、延珠は未だ夏世が気に入らないらしい。
「なにやら、あの子をひどく怒らせてしまったようですね。」
小言をブツブツと呟きながらトーチカを出ていく延珠を見て、夏世は落ち着き払った態度で話し出した。
「あいつなんで急に不機嫌になったんだよ。まさか、もう反抗期なんじゃ………。」
「理由は明白なように思えますが……。」
「本当にね。」
蓮太郎は2人に目を向け、疑問符を浮かべている。
流石の空でもため息が出た。
「んだよ。」
「なんでもありません。それよりも夏世ちゃんに聞きたいことがあります。」
「さっきも思いましたが、何故名前を?」
「今回の作戦に参加するメンバーは覚えてますから。千番台は特に良く調べてます。」
「あの膨大なデータを普通の人間であるあなたがですか?」
「考えるだけ無駄だぞ。モデル・ラビットのイニシエーターである延珠と並走したり、100メートル近い崖からダイブして無傷でいるような奴だからな。」
夏世は空に目を向け、マジマジと見つめる。
「ありえませんね。その体格では速く走ることも空中でバランス取ることもままならないはずです。」
「それができるのが空なんだよ。」
病院ではあれだけ反対していたクセに。
空は夏世からの視線を感じながら、内心で蓮太郎に愚痴を溢す。
蓮太郎はその間ずっと夏世を見つめている。
その視線に気づいたのか夏世は蓮太郎に視線を移した。
「不思議ですか?私が。」
蓮太郎は自分が凝視していたことに気づき、視線を逸らす。
「別に、なんでもねぇよ……。」
表情に変化が無くて感情が読み取りにくい、と普通は感じるだろうけど、今は別の何かを隠しているようにも見える。
「お気になさらず。こういう扱いは慣れています。私も第一世代の『呪われた子供たち』です。
ただ、イルカの因子を体内に持っていて、通常のイニシエーターより
「俺の2倍以上あんのか?」
「僕は分からないけど、凄いね。」
驚愕する蓮太郎とは違い、空は軽く受け止めていた。
「まあ、子供のうちは知能テストの結果は少々オーバーにでるので。」
「子供に謙遜までされてるよ、蓮太郎君。」
蓮太郎は奇妙な敗北感に打ちのめされながらも空を見て口を開いたのだが、
「もしかしたらお前は俺よ………はぁ。」
空のスペックをすぐに思い出し、自ら自身に止めを刺す。そのまま視線を下に落とした。
「つまり、頭脳派の君が後方指揮で、脳筋さんが前衛ってことか。珍しいスタイルだね。」
「……あなたが言うように将監さんは脳味噌まで筋肉で出来ている上、堪え性がないので後ろでバックアップなんてみみっちいことが出来ないだけです。未だに戦闘職のシェアを私たちに取られたのを僻んでいますから。考え方が旧態依然としていて困ります。」
「そうだねぇ。」
蓮太郎はあまりに歯に衣着せぬ物言いと、当たり前に相づちを打つ空に呆れかえっていた。
「んなことより、空は何か聞きたいことがあったんだろ?」
「まぁ、そうなんですが、蓮太郎君も薄々気が付いてるでしょう?」
まあな、と言って蓮太郎は夏世の傍らに置かれたショットガンを見つめた。
「夏世ちゃん、あの爆発音君でしょ?」
「………。」
夏世は焚き火の炎を眺めたまま言葉を発さない。
「……ちょっと借りるぜ。」
そう言って蓮太郎は夏世の銃を手に取り
蓮太郎はランチャーユニットを右にスリングアウトして薬室を覗くと顔を顰めた。
「……どうして、森で爆発物を使った?これは40ミリ榴弾のエンプティケースだ。」
見た目がアレだったから必死に逃げたけど、その原因も彼女なんだよね。まぁ、理由はあるんだろうけどさ。
「……私と将監さんは罠にかかりました。おかげで怪我をした上、今は別行動中です。」
「罠?」
「ええ、暗闇の先で短く点滅するライトパターンが見えましてね。味方だと思って無警戒に近づいたんですよ。」
「……それは何だったんだ?」
「もっと注意しておけば、薄青い鬼火のようなライトなんて誰も使ってないことが分かったはずなのに。
……それは腐臭でハエが集り、気持ち悪い花があちこちに咲いて、尾部が発光していました。私たちを見ると歓喜したように気持ち悪くブルブルと震えて……あれには足が竦み、殺されると思いました。」
夏世は華奢な膝を抱え、手に力を込めた。
「私は咄嗟に榴弾を使ってしまいました。そこからはお2人のご想像通りです。」
「……腕の怪我、侵食率とかちゃんと検査しとけよ。」
「今のところは問題無さそうだけどそれがいいね。」
「えっ……。」
夏世は戸惑っているのか顔を上げる。
「……初めて、そんな心配をされました。」
「当たり前だろ。」
「将監さんはそんなことは言いません。」
蓮太郎は悔しそうな顔を浮かべる。
「……お前は、伊熊将監みたいなプロモーターと居て楽しいのかよ?」
「変わったことを聞きますね、里見さん。
……イニシエーターは殺すための道具です。是非などありません。」
夏世は質問に答えなかった。
「延珠さんは、おそらく人を殺したことがありませんね。目を見れば分かります。」
「……そうだけど、お前はあんのか?」
蓮太郎自身嫌な予感はしていたのだろう。恐る恐る聞き返した。
「ええ、ここに来る途中も出会ったペアを殺害しました。」
蓮太郎はそれを聞いて、怒気を孕んだ声が口から漏れた。
「どうしてそんな事を……っ!」
「将監さんの命令だったので。将監さん曰く『トチ狂った仮面野郎をぶち殺す手柄は俺たち以外の誰にも渡さない。』そうです。」
蓮太郎は拳を握りしめた。
「お前はそれをなんとも思ってないのか?」
「怖かったです。手が震えました。でも、それだけです。これで2回目ですし、じき慣れると思います。」
その言葉で蓮太郎は立ち上がり、怒りを爆発させた。
「フザケんじゃねぇっ!殺人の一番怖いとこは殺人に慣れることだ。人を殺し、だが自分が罰せられないと知ったその時、人は罪の意識を忘れていく。
ウチの延珠は以前、プロモーター崩れの犯罪者を殺しかけたことがある。手術中は塞ぎ込んで、助かったと分かると、一日中喜んで見舞いにまで行った……。
……俺は、それで良いと思ってる。」
「……里見さん、それは綺麗事です。」
夏世は蓮太郎を見上げていた。その瞳には焚火の炎が映り、揺れていた。
蓮太郎はその視線から逃れるように夏世に背を向けた。
「……俺はそうは思わねぇ。この先も、絶対延珠に人殺しなんてさせねぇ。
……
蓮太郎はそう言ってトーチカを出ていった。
「……どうしてですか?」
夏世の口から溢れた言葉。それは独り言なのか、空に対しての質問なのか分からない。
「どうして、里見さんはあんなに希望のある言葉を、優しい言葉を私に投げかけてくれるんでしょうか。私、いま変です。里見さんの言葉を否定したくない……。このんな気持ち、初めてです。」
表情は変わらず、しかし、その瞳からは確かに涙が零れていた。
どれだけ知識があって落ち着いて見えても、少女らしい一面がある。空には今、年相応にか弱い少女が見えていた。
やがて夏世は袖で目元を拭った。
「……何か飲みませんか?」
そう言って彼女は自分の荷からインスタントコーヒーを沸かし始めた。
「……あなたは何も言わないんですね。」
「全部、蓮太郎君に言われちゃったからね。」
夏世は軽く座り直し、空に目を向ける。
どうやら隠した目元が気になっているらしい。
「……すみません、嫌だったら構わないんですが、布を外して見せてくれませんか?」
「構わないよ。」
空は手を頭の後ろに回し、結び目を解く。ゆっくりと布を下ろし、暗い緑色の双眸を夏世へと向ける。
夏世は眼の色に少し驚きながらも、ジッと空の瞳を見つめた。
「……あなたも不思議な目をしていますね。それに色も。あなたは優しい瞳の中に何か秘密を抱えているように見えます。」
「占いか何か?」
「いいえ、感じたことをそのまま口にしているだけです。」
あながち間違いないことに空は頷きながら感心した。
「まぁ、秘密なんて誰にでもあるものさ。君にも、蓮太郎君にも。」
「あなたは捉え所が無い感じがしますね。私も周りから不思議がられますが、私はあなたの存在自体が不思議です。」
夏世は紙コップにコーヒーを開け、空に手渡す。そして自分の分を両手で持って息を吹きかけていた。
空は礼を言って一口飲むと、口を開いた。
「今は連絡待っているんだよね?」
「はい。将監さんはきっと生きているでしょう。アレでも身体と剣1本だけで千番位まで上りつめた人ですので。」
「だけど今回の相手は蛭子ペアだ。彼らを倒せると思うかい?」
「………。」
夏世は沈黙する。自分の中で答えが出ているにも関わらず。
「ちなみに僕は可能性はあると思ってるよ。」
「実際見るまで都市伝説かと思っていましたが、相手はあの『新人類創造計画』の被験者ですよ。あの力に対抗できる民警がいるんですか?」
「いるさ。」
「それは一体『き……ろよ。おい!』……っ!」
夏世が疑問を言いきる前に、傍らの無線機から聞こえたノイズと野太いがなり声に遮られる。
夏世は無線機に飛びつき、つまみのようなものを回し始める。声は徐々に鮮明になり、忘れもしない男の姿を空に思い出させた。
『生きてんだったら返事くらいしろよ!』
空と夏世はお互いに目配せをすると、空は静かに立ち上がりトーチカを出た。
「ん?空、何かあったのか?」
外で警戒していた蓮太郎が肩口から空を振り返る。
空は蓮太郎の隣まで移動し、若干辛そうにしながら、答えた。
「伊熊将監から無線が来たのと、そろそろ限界だったので。」
「限界?無線の内容は聞かなくてもいいのか、って何だコレ?………コーヒー?」
蓮太郎は疑問を持ちながら、受け取ったコップの中身を確認した。
「会話の内容はここからでも十分聞こえますから。
あと、………せっかく淹れてもらった物だったので、苦いと分かってながら飲んだんですが、思ったより苦味が強かったもので。」
空は口元に手を当て目を閉じている。
蓮太郎はそれを意外そうに隣で見て、少し前までの雰囲気は霧散し、吹き出した。
「無理して飲まなくてもいいだろ。てか、ガキかよ。」
「いやぁ、ブラックは苦手なんですよ。」
空は笑いながらそう言った。
蓮太郎も笑ったもののすぐに何か葛藤しているような渋面を作る。
「……アイツは何か言ってたか?」
俺は、俺の言った事は正しかったのか?アイツの言った通り、綺麗事だったのか?
あの後、ずっと悩んでいたのだろう。蓮太郎からすれば延珠と同じ年の子供が当たり前に人を殺すことは異常だ。
確かに蓮太郎の前では夏世が内の弱さを見せることは無かった。しかし、蓮太郎の言葉や想いはしっかりと彼女に届いていたはずだ、と空は確信していた。
「……『呪われた子供たち』は生まれてからこれまでの日常が当たり前なんです。あの子たちはガストレア大戦の頃を知りません。世間から見放され、憎まれながら生きて、それでもなおこの国や世界の為に戦って。
彼女も彼女なりの解釈があります。達観している分どうしても現実的な選択肢を選んでしまう。」
「それが、あんな命令を下すプロモーターに従うことだと?」
「……嫌がったら彼女はどうなります。そんな命令を下す人間です。自分が無事ですむと考えますか?」
蓮太郎はハッとした。確かに伊熊将監は何をやりかねるか分からない。
「彼女は殺されるのが怖いと言った。殺すのは怖かったと言った。蓮太郎君は殺される怖さを知っている彼女が本当に殺人に慣れると思いますか?君の言葉を聞いて涙を流すと思いますか?」
「アイツが……。」
「彼女は弱さを隠し、自分さえも騙して、これが彼女なりの生き方なんだと僕は思いました。」
「じゃあ、このままでいいって言うのか?」
蓮太郎の目は静かに怒りの色を宿していた。
「そんなわけないでしょ?」
「は?」
しかし、空の予想外の発言で蓮太郎は目をしばたたかせた。
「いいわけないじゃないですか。何ですか、あれだけ説教しておいて自信を無くしたんですか?」
「い、いや、そういうわけじゃなくてな……。」
「はぁ、そんなことでは先が思いやられますね。
分かってるんですか?君がこの作戦の要なんです。聖天子様も言ってたでしょう。蛭子影胤を止められるのは君だけだ、と。それとも一度やられて臆しているんですか?」
蓮太郎は図星をつかれていた。一度殺されかけた恐怖はそう簡単に克服できるものではない。蓮太郎の心は正直他の民警に縋ってしまいたい気持ちだった。
しかし、空の言葉を聞いて小さく首を振る。
いや、決めたんだ。俺は延珠と強くなる。延珠の為にも、木更さんの為にも。
蓮太郎は空を見据える。もうその表情に迷いは見られなかった。
「覚悟は決まった、といったところですかね。」
「ああ。」
「……さて、話は終わったみたいです。」
「お2人とも、蛭子影胤の居場所が判明しました。」
空たちはトーチカの入り口から夏世に声をかけられた。
「うん、しっかり聞こえてたよ。蓮太郎君、延珠ちゃんともう少し休んでおいて下さい。ただ、夜目を利かせるため、焚き火には当たらないように。警戒は僕が1人で引き継ぎます。奇襲は夜明け前にかけるようですし、まだ距離もある為、4時にはここを出ましょう。」
本当に空は良く考えている。コイツがいるとスゲェ心強いな。
「分かった。」
「……本当に聞こえていたんですね。」
空は夏世の言葉を聞き流す。この先、いちいち説明している暇は無くなるからだろう。
蓮太郎は、包帯を外し傷を確認している夏世に近づいた。
「やっぱり行くんだな?」
「ええ、あんな人でも私の相棒なので。」
「……そうか。腕はどうだ?」
蓮太郎が夏世の腕に視線を落とすと、傷は残らず治癒していた。
「大丈夫そうだな。」
「はい。」
やっぱ、俺がやるしかねぇよな。
その小さくか細い腕を見て、蓮太郎は改めて決意する。
影胤が潜伏する街の方角を見ると、薄暗い雲に霞み、満月が浮いていた。月を背に、鷹揚に手を広げ嗤う仮面の姿を思い浮かべ、拳に力を込めた。
影胤、お前は俺が止める!
内容が千寿夏世についてだったので、書くことが無い(・・;)