「そらにぃ~、遊ぶ!」
「そら兄、ご飯。」
「空兄、長老が今日は帰って来られないって。」
完全に
空自身はもう気にしていないようだ。
あの後空はすぐに松崎から服を受け取り、「必ずお金は払います。」と言ったものの、「いえいえ、気にしないで下さい。」とあっさり返されてしまった。
この1ヶ月で、東京エリアの情勢や経済から交通にいたるまで多くの知識を得た。
そして、その情報の中で興味を引かれたのは通称『民警』と呼ばれる、ガストレア専門の警察の様なモノだ。
ガストレアが絡んだ事件では民警の同伴が必須となる法律が制定された為、立場は警察とほぼ同列。ガストレアに関していえば比べるべくもない。
ガストレアの駆除は危険を伴う為、しばしば政府から公にされない依頼が持ち込まれる事もあるらしい。
要するに依頼をこなせば、それなりに儲かるということだ。
しかし、空が惹かれたのはそこではない。
民警であることを証明する民警許可証だ。
どうやら民警になる方法は座学と実技の試験に合格すればいいだけらしい。
これは、取るしかない!
何故なら、転生及び転移してきた空は身分証明を持っておらず、この先間違い無く必要になる時が来ると思ったからだ。
その為、時間が空けば外周区を子供たちとランニングしたり、筋トレしたりしていた。
その甲斐あってか、以前よりも身体が動くようになり、空は次のステップに移ることにした。
皆が寝静まった夜。
空は気付かれる事無く外周区のより外縁部に移動した。そこが人目につかない場所だからだ。
これから空が行うのは武器の想像と創造。松崎や子供たちの前でできるようなことではない。
そして、空は既にどんな武器にするか決めていた。
やっぱり、刀だよね。
空は一日本人として刀に興味を持っている。その為、刀での戦闘がある漫画が好きだった。特に刀ひとつひとつに能力があり、様々な刀が登場する漫画BLEACHは空を興奮させた。
以前、転生前に少年が言った「楽しめる」とはおそらくこの事を言っていたのだろう。
現に、空はとても嬉しそうに手元に創造した刀を眺めていた。
デザインはシンプルだが、刀身から柄に至るまで全てを黒で統一し、空にとっては必要の無い鍔を取り除いた形だ。勿論、バラニウム製で欠ける事のない不壊の能力付き。
今の空はやっと満足な運動ができる程になった程度だが、底上げされた身体能力は既に常人のそれを遥かに超えている。結果、滑り止めの為の鍔は、その超人的な握力で必要無いというわけだ。
とまあ、そんなことはいいとして。
空は軽く刀を振り感触を確かめる。そして少しずつ刀身の長さ、重さ、柄の長さ、太さ、を調節し、それを繰り返した。
「こんなもんかな?」
完成した黒刀を片手で構える。
それは月の明かりに照らされ、うっすらと暗闇の中で耀いていた。
空は満足といった様に一つ頷き、黒刀に銘を付ける。
「お前の銘は
これから頼りにさせてもらうよ。」
まぁ、斬魄刀と違って意思というものは無いから応えるわけないけどね。
武器ができたは良いが、問題はその扱い。当然、空は刀を扱ったことはない。
そこで考えたのは、自身の学習能力の向上。幸い、感覚が鋭敏化したことで、扱った時の僅かな違和感にも気付くことができる。学習能力を上げることで、自身に合った刀の扱いができるようになるだろう、と考えたのだ。
あとは遠距離だよね。一応は銃を持っておくとして、もしもの時はなりふりかまってられないし、ガストレアと戦ったこともないからどれだけの強さかも確認できてないからなぁ。
………使ってみるかな。
空からしたら保険のつもりでやったのだろうが、十数秒後には後悔に苛まれる事になる。
空は指先をモノリス方向へと向け想像する。並外れた感覚で1キロ圏内に人目が無いのは確認済み
指先から放たれる
細かく頭の中でシミュレーションをし、それを発現させた。
しかし、空は一つのミスを犯した。虚閃と言われ、人はどんなものを想像するか?モブが扱う様なモノを想像するだろうか?
現に空は薄緑色の虚閃を想像した。つまりは想像元となったのはあのウルキオラ・シファーの虚閃なのである。それを初めての感覚で最小限にできるものだろうか?通常の威力さえ理解していないのにである。
その結果、想像つくだろう。
一瞬の爆発的な薄緑色の閃光が空の場所を中心として、暗闇を照らした。同時に轟音が轟き、地面を揺らす。
放たれた虚閃は威力を除き、空の想像通り100メートル先で消失したようだったが、視線の先には大きく抉れた地面があり、空にはそれをただ呆然と見つめるしかなかった。
暫くすると意識が戻り、焦った結果、足早にその場を去って行った………………虚閃による惨状をそのままにして。
空が虚閃を放った翌朝、東京エリアはいたる所で民警達により喧騒が作り出されていた。
空が起こした閃光と轟音についてである。
そんな事とは知らず、本人は今ごろ子供たちに叩き起こされている最中だろう。
その内容というのが、新種のガストレアが東京エリア内に侵入した可能性がある、というものだった。
空がこれを聞いたら、顔面蒼白ものだろうが、幸いにも一部の民警により外周区の調査が行われるに止まった。
民警といえど常に仕事があるわけではない。
国際イニシエーター監督機構。通称IISOにより管理された民警の実力を表すIP(イニシエーター・プロモーター)序列が高い程、危険かつ報酬が高い依頼が入る。
逆に序列が低ければ、依頼が入ったとしても生活の足しにもならない報酬や、最悪依頼が入らないもともかなり多い。
その為、兼業している者も多く、登録している民警の中にも危険を伴うガストレアの駆除に消極的であったりする者もいる。
それでも東京エリアだけで千組を超えるペアがあり、仕事にありつけるとすれば、大手の警備会社に所属している者か政府から全ての民警に通達される大型依頼のみだ。
そんな民警が政府からの依頼を待ち続けるだろうか?
血の気の多い民警はここぞとばかりに武装し、外周区へと向かう。
新種のガストレアがいなければそれまでだが、もしその存在が本当であれば駆除による報酬が期待できる。尚且つ新種ならば、然るべき研究機関に持ち込み駆除報酬以上の追加報酬が払われるはずであるからだ。そして、その働きによっては序列が上がり、それまでより質の良い依頼が持ち込まれる可能性が大きくなる。
民警達はそういった類いの思惑を持ち、外周区で競うように新種ガストレアの捜索を始めた。
空は不思議な浮遊感と直後に襲った背中への衝撃で目を覚ました。
今の空にとっては大した衝撃ではなかったが、大丈夫だと分かっていても危険だということを教えようと思った時、いつもより地上が明らかに騒がしいことに気付いた。
空は元気よく声をかけてくる子供たちに「お早う。」と返し、少し静かにしてもらうよう頼む。
地上から聞こえる声に集中し、出来る限りの情報を得る。
外周区、閃光、轟音、新種のガストレア、現場の状況。
これらの情報をまとめると、空はやはり顔を蒼白とさせ背中に冷や汗を流した。
十中八九自分の虚閃だと。
あれ?何か大事になってる。あの後どうしたんだっけ?あの地面は?直したっけ?そもそもいつ寝たっけ?
空の頭の中は混乱していた。
しかし、事態は空に落ち着かせる隙を与えなかった。
耳に近づいて来る大小2つの足音が聞こえ、入り口のマンホールの上で止まるのが分かった。その後、蓋がノックされる音が聞こえた。次いで幼い少女の声も聞こえ、民警であることがわかった。
少なくとも外周区での生活の理解者であることが分かる為、普段なら対応するであろうが、いかんせん空には落ち着く時間が必要だった。
そこで子供たちに再び静かにするように言おうとしたのだが、その子供の数が少ないことに気付く。そして、気付いた時には遅かった。
「なにー?」
「民警なんだが、少しいいか?」
空の耳にはっきりと蓋を開けた少女と若い青年と思しき声が届いた。
民間警備会社
『民警』と呼ばれる。ガストレアが絡む案件は民警が対応する。業務の中枢を担うのは戦闘員で、プロモーターとイニシエーターが1人ずつペアを組んで現場へ派遣される。
「民間」の会社であるため規模は大手から弱小、零細と呼ばれるまで様々。
プロモーター
イニシエーターとペアを組んで戦う民警社員。イニシエーターの指導監督及び戦闘時における指揮が主な役割。
イニシエーターは強い治癒再生能力を持つので急所以外の誤射は致命傷にならないこと、安全な位置から指示を出せること、万一イニシエーターが不審な行動をとった場合でも即刻殺すことのできる位置取りが求められる。その為、プロモーターは後衛を勤めるのが望ましいとされている。
イニシエーター
ガストレアウイルスによる戦闘力の高さを活かし、ガストレアと闘う『呪われた子供たち』。それぞれがガストレア因子の種類に応じて能力が異なっており、戦闘スタイルは様々。
ガストレア抑制因子と侵食抑制剤でウイルスの侵食は抑えているものの、侵食率が50%を超えるとガストレア化する。