ブラック・ブレット 何が為の力か(仮)   作:終夜 猫

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新たなる決意

「相変わらず人使いが荒い社長だ。」

「そう文句を言うでない蓮太郎(れんたろう)

 今回の事件は39区で起きたらしいではないか。故郷である妾にとって聞き込みなど造作もない。」

 

 蓮太郎と呼ばれた青年の隣で、ツインテールの少女が腰に手を当て胸を張る。

 蓮太郎はその少女に目を向け、深いため息をつく。

 

「そうは言うがな、延珠(えんじゅ)。地道に聞いて回ってはいるが、皆大人数の民警にビビって全然話聞けねぇじゃねえか。少しは情報を得られると思ったんだがなぁ。」

「ふむ、やはり蓮太郎の顔がいけないのか?いや、おそらくその死んだ魚の様な目がいけないのだ!」

「何でそこで、気付いた!みたいに俺の目を揶揄してんだよ!」

「心配するな、蓮太郎。そんな顔でも妾は愛しているぞ!」

「嬉しくねぇ!」

 

 蓮太郎は苛立ちを抑える様に頭を掻く。

 

「しかし実際、諦めるにはまだ早すぎるぞ。

 それにこのまま帰れば、おそらく木更(きさら)は納得しない。」

 

 蓮太郎は笑顔で居合いの構えを取った長髪で黒い制服姿の女性を思い浮かべ、再び深いため息を吐いた。

 

「しょうがない、最後に奥の方へ行ってみるか。

 もし次で情報を得られなければ、潔く引き上げよう。」

 

 そう言って2人は騒ぎの現場からそれほど遠くはない39区の最奥部まで移動した。

 蓮太郎はそこでマンホールに目を付け、蓋を上からノックする。

 蓮太郎は『呪われた子供たち』に対し忌避感や嫌悪感は無い。現実に目を向け、外周区の人々から目を逸らした事も無く、子供たちが隠れる様な場所も大体把握していた。

 

「誰か居らぬのか?」

「………やっぱり、駄目か。」

 

 延珠も声を掛けるが、数秒待って返事が無い。

 おそらく、ここはいないか、また避けられているのだろう、と蓮太郎は考えた。

 蓮太郎は「しょうがねぇ。」と社長に文句を言われる事を覚悟し、その場を立ち去ろうとしたのだが、蓋のズレる音がして思わず、延珠と顔を見合わせる。

 マンホールに目を向けると蓋がゆっくりと持ち上がり、その隙間から赤い目が覗いていた。

 

「なにー?」

 

 蓮太郎は言葉を発しそうだった延珠の口を塞ぎながら口を開いた。

 

「民警なんだが、少しいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着け。落ち着け。大丈夫、いつも通りに平静を保って、焦る必要は無い。相手は話を聞きたいだけ。相手の質問に対して「知りません。」と言えば良いだけなんだ。子供にだってできる簡単な事じゃないか。そんな簡単な事僕にできないはずがない。

 

 空がそんな事を考えている内にその民警はやって来た。

 こんな所でこんな人数が生活していることに多少の驚きがあるのだろう。

 周りを見回し、意外そうな顔をしていた。

 

「慣れれば住みやすい場所ですよ。」

 

 空は1カ月前松崎が言っていた言葉をそのまま口にする。

 

「えっと、アンタがそらにいって奴か?」

「知りません。」

「………。」

「………。」

 

やってしまった。

 

「えっと、違うのか?」

「違わないです。すみません。」

「何で謝るのだ?」

「なんとなくだよ。」

「まぁ、だったら話を聞きたいんだが?」

 

 空は内心の焦りをなんとか誤魔化す。

 

「じゃあ、お茶でも淹れますよ。椅子に掛けて待っていて下さい。」

「いや、そういうのいいよ。話聞いたらすぐ帰るから。」

 

 そう言われるも、空は準備を始める。

 個人的な時間稼ぎが目的な為、耳を貸さないのは当然だろう。

 

ただ、流石に少し落ち着いた。

これなら大丈夫そうだ。

 

 お茶をお茶菓子と一緒に蓮太郎達へ差し出し、空は話を促した。

 

「悪いな。」

「いいえ、それで聞きたい事とは?」

 

 蓮太郎に促したつもりだったのだが、先に反応したのは延珠だった。

 

「お主、目は見えておるのか?」

「ああ、これかい?」

 

 空は自身の目元に巻いた布を少しずらし、問題無いことを示す。

 

「少し前まで調子が悪かったんだけど、今はもう大丈夫だよ。」

「では何故外さないのだ?」

「子供たちと出会った時に着けてたものだから、毎日着けるように言われてね。

 もうこれが習慣というか、無いと落ち着かなくてね。

 布自体は薄いから生活にそれほど支障はないよ。」

「そうなのか。」

 

 なるほどと頷く延珠の次は蓮太郎が口を開いた。

 

「自己紹介が遅れてすまない。

 俺は里見(さとみ)蓮太郎(れんたろう)。で、こっちが………。」

「妾は藍原(あいはら)延珠(えんじゅ)という。」

「まぁ、コイツとペアで民警やってる。」

 

 蓮太郎はそう言って民警のライセンスを空に差し出した。

 

「年は僕と同じくらいですね。

 僕は神代(かみしろ)(うつほ)といいます。

 子供たちからはそれで、空兄って呼ばれてます。」

 

空は空中に空の文字を書きながら笑う。

 

「彼女達の面倒はアンタが?」

「そうです。と言っても僕はただのお手伝い。今はここにいませんが、元々面倒みていた方がいます。」

「そうか。」

 

 蓮太郎はお茶を一口飲むと、本題に入った。

 

「それで聞きたいことなんだがな。

 昨晩、この近くで謎の発光と轟音で騒ぎがあった。それに関することで何か知っていることはないか。」

 

知ってる、以前に当事者なんだよなぁ。大事になった以上、すみませんでは済まされないだろうし。

 

「………残念ですが、分かりませんね。

 私も音には気付きましたが、流石に原因までは。」

「いや、いいんだ。こっちもそう簡単に調べがつくと思ってないからな。

 ところで、アンタはどうしてここに?」

 

 空自身聞かれるだろうなぁ、と予想していた質問。

 

「簡単な事です。僕は子供たちに助けられた。この世界が彼女達に厳し過ぎる。だから、僕が子供たちの助けになりたいと思ったんです。」

 

 勿論、答えを準備したとはいえこれは空の本心。

 相手に伝われば良いなぁと考える程度の言葉に蓮太郎は、想像以上の反応を見せた。

 

「アンタみたいな人がいてくれて嬉しいよ。」

 

 空と会って初めて蓮太郎は笑った。

 それを見て空も微笑む。

 この人は優しい人なのだと。

 

「それじゃ、俺達はそろそろ帰るよ。

 お茶、ありがとな。」

「いえいえ。延珠ちゃんもウチの子たちと仲良くなったようですし、ぜひまた来て下さい。」

 

 蓮太郎が立ち上がると、空の耳が初めは気付かなかった、微かな機械音を捉えた。

 

「ん?」

「?どうかしたのか?」

「………いや、すみません、何でもないです。」

 

 空は気のせいだと思い、子供たちの方へと目を向ける。

 延珠と子供たちは何やら天誅ガールズというアニメの話で盛り上がっている様だ。主に延珠が話しているが、他の子供たちも興味津々に話に集中している。

 何がそこまで興味を引いたのだろう。

 

「延珠!そろそろ帰るぞ!」

「うむ!では皆のもの、今度来た時はまた新しい話を持ってくるぞ。」

「ばいばい。」

「じゃーね、延珠ちゃん。」

 

 それぞれ別れの挨拶を済ませ、延珠は蓮太郎に駆け寄る。

 

「あぁ、一応俺の連絡先を渡しとくから、もし何かあったら連絡して欲しい。」

「それくらいなら、」

 

 空が快く申し出を了承しようとした時、空の耳が地上の離れた場所から響く銃撃音を捉える。

 その銃撃音は次第に激しくなり、所々で叫び声も聞こえ始めた。

 疑問符を浮かべた蓮太郎だったが、大きくなった銃撃音を延珠が捉えたらしく、蓮太郎へそれを告げていた。

 

「すまない、地上で何かあったらしい。

 危険だからアンタ達は出ないようにしておいてくれ。

 行くぞ、延珠!」

「うむ!」

 

 2人はまともな別れも告げずに駆け出していった。

 

なんとも忙しない。

多分、ガストレアかもしれないけど。銃撃と剣戟の音を聞く限り、複数いるみたいだ。

当たり前に危険が近くにあるのだと実感させられてしまうね。

………人が死ぬのは分かっていても、やっぱり嫌だと思うのは仕方のないことなんだろうな。

 

「皆、聞いたね?

 絶対にここから出ないように。マンホールがノックされても出ちゃ駄目だよ。

 僕は長老が心配だから、様子を見てくるよ。」

 

 松崎が外周区にいないを空は知っており、これは口実。

 心配そうに見つめる子供たちをありがたく思いながら微笑み、一番小さな少女の頭を撫でる。

 

「大丈夫、危ない事はしないから。」

 

 そう言って、空も地上へ向かう。

 

僕はそれでもこの世界を理解しないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい戦闘が外周区で繰り広げられており、遠巻きから空はその様子を眺める。

 遠巻きとは言うが、その距離は1キロ以上、その姿は銃撃の鳴る方向をただ見ているようにしか見えない。

 それでも集中している空にはその戦闘がはっきりと見え、聞こえていた。

 

やっぱり、被害がゼロとはいかないんだね。

 

 戦闘の傍らで無残に倒れたソレを視界に収め、何度吐き気を催したことだろう?

 脳が何度その映像を拒絶し、この場から離れようとしたのだろうか?

 あまりにも簡単に消えていく命をどういう想いで見つめれば良いのだろうか?

 それは誰にも分からない。分かるはずがない。この世界ではこれが当たり前なんだから。

 

だから、僕は目を離してはいけない。この現実から。

これが僕の新しい世界なんだと理解しなければいけない。

どれだけの力があろうと、全ての人間を助けることはできない。

だからといって助ける存在を選ぶのか?

それは最低だ。

じゃあ、何故彼らを助けない?

僕の力は強大過ぎる。まだ、ちゃんと扱えない。

それは言い訳だ。

そうかもしれない。だけど、今はまだ無理だ。

では、見殺しにすると?

今の僕が行っても助けられるとは限らない。

だったら、どうする?

 

「僕はもっと強くなる。

 この身体も力も、もっと使いこなせるようになってみせる。」

 

その後は?

 

「全ての人は無理でも僕の手の届く範囲だけでも救えるようになりたい。」

 

我が儘だね。

 

「そうだね。それでも、それが僕だ。それが僕の意志だ。」

 

 空は自分に言い聞かせるように決意した。

 何者でも無い、自分の意志を掲げ、空はまた一歩踏み出した。

 

 やがて戦闘音は止み、空はその方向から鉄分を含んだ血の匂いが鼻腔に漂ってきた気がした。

 

「ごめんね。」

 

 空は小さく呟き、子供たちの元へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに1ヶ月

 物語は動き始める。

 

 




バラニウム
ガストレアの再生力を阻害できる金属。ガストレアをまともに攻撃できる唯一の手段であり、刃物や銃弾に加工される。
大量のバラニウムは近づくだけでガストレアを衰弱させる磁場を発生する。

モノリス
エリアを等間隔で囲うバラニウムの石板。東京エリアのものは幅1km、高さ約1,6kmある。無数のブロック体バラニウムを積み重ねた集合体。本来100m積めば通常のガストレアは侵入できない。しかし、過去に超高高度から飛来したガストレアによりパニックに陥った為、1,6kmまで積み上げた。
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