ブラック・ブレット 何が為の力か(仮)   作:終夜 猫

6 / 12
原作突入。




一章 神を目指した者たち
天童民間警備会社


 春先。

 茜色の空が薄暗くなる頃、1人の青年が奇異の目に晒されてスーパーからの道を帰宅していた。

 服装は白を基調としている以外は特にそれほど注目する点は無いが、その青年の目元。目を隠すように巻かれた黒く長い布。それなのに当たり前の様に歩く姿。

 目立たないのも無理はない。

 

「別にいちいち買わなくても、作れるんだけどね。

 松崎さんからお金貰ってるから、しようとは思わないけど。」

 

 そんな青年神代(かみしろ)(うつほ)はそれらの視線を気にした様子もなく呟く。

 

「それにしても、今日がセールだったなんてツイてたね。」

 

 安く買うことができたもやしと、その他の食材を袋一杯に詰め外周区を目指す。

 すると前方から見覚えのある顔が2人自転車で走って来ているのが見えた。

 

「おお!空ではないか!壮健か?」

「悪いな空!スーパーのタイムセールに遅れそうなんだ!また今度な!」

 

 そう言って、延珠(えんじゅ)蓮太郎(れんたろう)は自転車を走らせ、消えていった。

 

「相も変わらず、忙しない。」

 

 若干呆れながらも空は口元に笑みを浮かべる。

 1カ月前に蓮太郎達と知り合った後、何度か顔を合わせ、時には晩御飯を一緒にしたりと良い関係が築けている。

 あの外周区での戦闘に蓮太郎は参加していなかった。というよりも、間に合わず参加できていなかったと言った方が正しいのだろう。

 本人はそれを嘆いていたが。

 

 その後の空の個人的なニュースといえば、民警許可証(ライセンス)を手に入れたことだろうか。

 しかし、ペアとなるイニシエーターは未だ決まっておらず、本格的な活動と言える活動はまだできていない。

 空は事前にリストアップされたイニシエーター候補を見たのだが、どうしても1人だけを選ぶということができずにいたのだ。

 

 いっそのこと1人でも、と何度も考えたが、それでは民警としての仕事が得られず、いつまでたっても居候となってしまう。

 だからといって、適当に選ぶことはできない。

 イニシエーターが空にとっては悩みの種になっていた。

 

どこかの会社に入るにしろ、同じ理由で駄目だろうし。

子供たちの事もあるし………やっぱり、無理だよね。

 

 結局、空は今日も住みかに着くまで脳内議論を続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空君、少し良いですか?」

 

 その日の夜、空は松崎に呼ばれ、子供たちの居住スペースから少し離れた通称長老室と呼ばれる場所へと初めて招かれた。

 

「何でしょうか?」

「………空君は今、何かに悩んでいるのではないですか?」

 

 この言葉に空は内心ドキリとした。

 しかし、それをなんとか顔には出さずに平静を保っていた。

 それでも、次の言葉でハッとすることになった。

 

「もし、私達の事で悩んでいるのであれば、気にしなくて良いです。」

 

 空は驚愕の表情で松崎を見つめる。

 

「貴方は2ヶ月という短い時間ではありますが、あの子たちへの良い刺激になった。あの子たちは貴方から学び、吸収し、成長しました。

 貴方はもうあの子たちの先生なんです。

 確かにまだ幼く心配なのは分かります。それでも信じてあげることも大切です。

 そして、私に恩を感じているようですが、私はそれ以上に貴方に助けられたと感じています。十分貴方は恩を返しています。

 大丈夫、貴方がここを離れようと、ここは貴方の家なんです。いつでも帰って来ればいい。私達の繋がりまで離れることはありません。」

 

 そう言った松崎の表情はやはり優しく微笑んでいた。

 

「はい。有り難う御座います。」

 

 空は深く頭を下げ、心から感謝を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、俺の所か?」

「そうです。」

 

 空は蓮太郎の部屋で蓮太郎と向かい合い笑顔を浮かべていた。

 

「まぁ、ぶっちゃけた話、蓮太郎君の会社で雇ってもらおうと思いまして。」

「ぶっちゃけ過ぎだ!

 大体、今何時だと思ってるんだ!」

「1時です。」

「夜中のな!!」

「延珠ちゃん、起きちゃいますよ?」

「誰のせいだ!」

「ほら、また。」

 

 蓮太郎は怒鳴り疲れたのか、大きく息を吐いた。

 

「まぁ、前世話になった分、正直断りづらいのもある。

 一応、聞いてはみるが、あんまり期待はしないでくれよ。」

「ええ、それで構いません。」

 

 蓮太郎が携帯を取り出し、電話をかける。長いコール音が1分程続き、漸く相手に繋がった。

 

『里見君!今何時だと思ってるの?!』

 

 携帯からは女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

 その声の主が社長なのだろう。蓮太郎は顔を顰めながらも空の事を説明していた。

 暫くすると、蓮太郎が空へ携帯を差し出した。

 

「社長は大層機嫌が悪い。

 認めてもらうのは難しいと思うぞ。」

 

 空はそれを受け取り、耳に当てる。

 

「もしもし?」

『貴方が入社を希望する?』

「はい。神代空といいます。」

『じゃあ、貴方を雇うメリットを言って。』

「家事から雑務まで何でもこなします。

 給料は要りません。食事代は私が出します。」

『………デメリットは?』

「僕が寝泊まりできる場所を下さい。」

『採用!明日、事務所に来なさい。

 じゃあ、里見君に代わって。』

「はい。有り難う御座います。」

 

 そう言って空は蓮太郎へと携帯を返す。

 

「お前、それで良いのか?」

「はい。」

 

 蓮太郎は携帯を代わると、さっきとは異なり、かなり褒められている様だ。

 完全に生返事になっているが。

 

 やがて蓮太郎は携帯を切ると空に向き直った。

 

「明日の朝、事務所に連れていく。俺は学校があるから早めにここを出る事になるが、良いか?」

「ええ。問題無いです。」

「まさか、電話で採用が決まるとはな。

 まぁ、これからはお互い社員として頑張ろうぜ。」

「はい。宜しくお願いします。」

 

 そう言いながら空は丁寧に頭を下げる。

 

「まだ肌寒い。毛布くらいは貸してやるから。」

「有り難う御座います。」

 

 毛布を受け取ってそれを羽織り、空は座って眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、空が居ることについて延珠が騒がしかったが、同じ民警会社で働くと知ると嬉しそうにはしゃいでいた。

 そして、約束通り蓮太郎の学校が始まる2時間も前には家を出て空がお世話になる天童(てんどう)民間警備会社を目指す。

 

「やっと、妾にも後輩ができたのだ!」

「宜しくね、延珠先輩。」

「おぉ~!聞いたか蓮太郎!」

「朝っぱらから、うるせぇな!頼むから静かにしてくれよ!俺は寝不足で少し疲れてんだよ。」

「大丈夫ですか?」

「その原因を作った奴がお前でなけりゃ、その言葉を素直に受け取れたのにな。」

 

 そんなやり取りをしながら、歓楽街へやがてはそこを抜け4階建ての雑居ビルに着いた。

 

なんとも物々しい建物だね。

1階はゲイバーに2階がキャバクラ、3階が事務所だけど4階が東京信金?予想なんだけど、闇金とかじゃないよね?

 

「思うことはあるだろうが、ここの3階だ。」

 俺はもう行くが、昨日話した社長、木更(きさら)さんがいるはずだ。」

「分かりました。」

「学校が終わったら、また来るのだ!」

「うん。行ってらっしゃい。」

 

 空は蓮太郎が行くのを見送り、ビルの脇にある階段を上り、3階へ。

 

警備会社としてこの立地はどうなんだろう?

 

 疑問に思いながらも入り口の扉をノックする。

 

「すみません、本日からこちらで雇って頂く神代ですが。」

 

 すると、すぐに中から「入って。」と声が掛かった。

 空はが入ると正面に執務机でパソコンを操作する黒いセーラー服の麗人がいた。

 昨夜の電話で若いことが分かっていたとはいえ、まさか学生だったとは空も予想していなかった。

 その少女は手元の書類を繰りながら、次々とキーボードで入力していく。

 

 手持ちぶさただった空は無難にお茶を淹れその机の脇へ置いた。

 それを少女は一瞥する事もなく手に取り口へ運ぶ。

 

「少し熱いですよ。」

 

 空がそう言うと、少女はお茶を持った手を止めて息を吹きかける。その後一口流し込み、それを置いた。

 それから10分程してキーボードを叩くの音が止み、少女が空に目を向け、口を開いた。

 

「貴方が神代君?」

「はい。」

「お茶ありがとう。

 私は天童(てんどう)木更(きさら)

 ここ天童民間警備会社の社長よ。

 それで聞きたいことがあるんだけど?」

「何でしょう?」

「その目元の布は何?」

「特に意味ありません。

 していないと子供たちに色々言われるので、今では自然に。」

 

 空は多少面倒だと思いながら、ざっくばらんに説明した。

 

「不便じゃないの?」

「少しも。」

「ならいいわ。

 早速だけど仕事よ。この資料を頭に叩き込んでおいて。今日中に。

 ここは好きに使っていいから。

 ああ、晩御飯を宜しくね。私はビフテキが食べたいわ。

 何かあったら電話するから、呼んだらすぐに来て頂戴。

 それじゃ!」

 

 木更は鍵を空に投げ渡し、そそくさと事務所を出て行った。

 

「蓮太郎君の苦労が分かった気がする。」

 

 誰もいなくなった室内で空は同情するように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎が通学している勾田高校で4時間目が終了したチャイムが鳴り響いた。

 それと同時に、蓮太郎の懐で携帯電話が震える。

 その名前を確認しげんなりしたものの、10コールして最終的に根負けした。

 

「何だよこんな時間に。社長。」

『仕事してないときは社長って呼ばないで。まあ、仕事の話で電話したんだけどね。

 とりあえず、一緒に防衛省まで来て。』

「は?」

 

 蓮太郎は校門へ目を向けると、黒色のリムジンが止まっているのを見つけて思わず息を飲む。

 

「チッ、わーったよ行くよ。」

『急いで頂戴ね。』

 

 蓮太郎は校舎の入り口で待っていた木更に連れられ、リムジンに乗る………ことなく通り過ぎた。

 

「おい……ニセお嬢様。」

「知ってる里見君?リムジンって電話一本で呼べるのよ。」

「イタ電かけたのかよっ!」

「大丈夫。ちゃんと鼻つまんで偽名名乗っておいたから。」

「じゃあ、どうやって防衛省まで行くつもりだったんだ?」

「大丈夫、ちゃんと呼んであるわ。」

 

 言い合っていた蓮太郎達の横へ1台のタクシーが停まり、助手席から空が顔を出した。

 

「社長、お待たせしました。」

「ご苦労様、神代君。

 それじゃ里見君、行くわよ。」

「お、おう。」

 

 2人がタクシーへ乗り込むと、防衛省へ向かって走りだした。

 

「ねぇ神代君、何か食べ物持ってない?」

「もしかしたらと思って、サンドイッチ作ってきました。」

「ありがとう!既に里見君より使えるわね貴方。」

「悪かったな!」

「蓮太郎君の分もあるけど?」

「………サンキュ。」

「どういたしまして。」

 

 ………空の人間関係は良好の様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空達3人は庁舎の入り口で名前と社名を告げると、庁舎の中へ案内された。

 エレベーターに乗り込むと空は感知した情報を木更と蓮太郎へ耳打ちする。

 

「会議室と思われる部屋には30以上の席があり、僕達以外にも民警が多数。おそらくは護衛でしょうが。」

「木更さん、こいつは……。」

「ウチだけが呼ばれてたわけじゃないだろうと思ってたけど、流石にその数は予想してなかったわ。

 というより、何でそんなことが分かるの?」

「そんなことよりも、ドア開きましたよ。」

 

 木更の質問をすげなくかわし、案内する職員へついていく。

 第一会議室とある扉の前で職員は小さな会釈をして去って行った。

 空は木更に代わり扉を開くと、2人を中へ促した。

 

「まるで執事だな。」

「それもいいかもしれませんね。」

 

 冗談を蓮太郎と言い合い、木更の後に続く。

 中には空の情報通り、指定席に座る各民警の社長と、その後方には見るからに荒事専門という厳つい連中が控えていた。

 

さて、一体これから何が始まるのかな?

 

 空と蓮太郎が部屋に足を踏み入れた瞬間、中にいた人間達の雑談がぴたりと止まり、殺気の籠った視線が2人に突き刺さる。

 

「おいおい、最近の民警の質はどうなってるんだ?ガキまで民警ごっこかよ。部屋ぁ間違ってるんじゃないのか?

 社会科見学なら黙って回れ右しろや。」

 

 控えていたプロモーターの内の1人が聞こえよがしにがなりながら、こちらに近づいてきた。

 威圧感のある大柄で髪を逆立てた男だ。口元はドクロパターンのフェイススカーフで覆っており、10キロ以上はあろうかという、肉厚長大なバスターソードを背中に携えている。

 蓮太郎は木更を庇うように前に出ようとしたのだが、

 

「ストップ。」

 

 それを空が制服の襟を引っ張ることで阻んだ。

 そのせいで蓮太郎は無様に背中から倒れてしまう。

 

「何すんだよ空!」

「それはこっちの台詞です。

 蓮太郎君、今喧嘩腰に話すところでしたね?

 解ってるんですか?ここで問題を起こしたら、最悪説明を聞く前に出ていく事になるんですよ?」

「そうよ里見君、こんなのに構っちゃ駄目よ。目的を忘れないで。」

「おいクソアマ、今なんつったよ!」

 

 なんて沸点が低いんだろうと思っていた空はその男の社長へ視線を送る。

 そろそろどうにかしてくれ、と。

 

「やめたまえ将監(しょうげん)!」

 

 空の思いが通じたのだろうか、彼の雇い主は空達へ助け船を出した。

 

「おい、そりゃねぇだろ三ヶ島さん!」

「いい加減にしろ。そこの彼が言ったことはこちらも同じだ。

 この私に従えないのであれば、今すぐここから出て行け!」

 

 将監と呼ばれた男は空と蓮太郎を一瞥した後「へいへい」と言って引き下がった。

 

 木更は小さく頭を下げ、三ヶ島も応えるように会釈した。

 木更は準備されていた『天童民間警備会社様』のプラスチックプレートが置かれた背もたれの高い椅子に腰掛けた。

 その後、空の口から淡々と先程の男についての情報が紡がれ始めた。

 

伊熊(いくま)将監(しょうげん)

『三ヶ島ロイヤルガーター』所属。

『IP序列』は1584位。」

「おそらくね。って何で神代君は知ってるの?」

「大手の民間警備会社のプロモーターとイニシエーターは多少調べておきました。」

「スゲーなお前。」

「本当に何者。」

 

 空の非常識さに驚愕する2人に空は笑顔を向ける。

 

「今は大抵のことができる秘書兼執事といったところでしょうか。」

 

 2人はその言葉が冗談ではないのでは?と、神代空という人間が解らなくなってきていた。

 

「それにしても、1000番台か………。」

「ちなみに里見君、君と延珠ちゃんのIP序列覚えてる?」

「よくは覚えてねぇけど……12万ちょいくらいだったか。」

「正確には12万3452位です。」

「……もう驚かねぇ。」

 

 木更はわざとらしくため息ついて見せ。

 

「イニシエーターはとても優秀なのに、ウチのプロモーターはお馬鹿で甲斐性無しで私より段位が低くて、おまけにどうしようもなく弱いのよねぇ。」

 

 木更の言葉に蓮太郎は気まずい表情を見せる。

 

「大丈夫だよ、蓮太郎君。

 僕はイニシエーターがいないから番外だよ。」

 

 しかし、この言葉が木更の添加で、追い討ちをかける。

 

「でも、神代君は民警になったばかりで、言葉遣いや記憶力、戦闘はまだ見てないけど、現時点で里見君、総合的に負けてるわよ。」

 

 決定的な打撃を受け、肩を落とす蓮太郎。

 

蓮太郎君、頑張れ。

 

 空は内心エールを送りながら蓮太郎を引っ張って壁際へ下がり、足音が近づく扉へ目を向けた。

 そこから自衛官の制服を着た人間が部屋へ入ってきて、室内を見回した。

 

「ふむ、空席1、か。」

 

 見れば確かに、木更の座る席の6つ隣、『大瀬フューチャーコーポレーション様』というプレートの席だけが空いていた。

 

「本件の以来内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼を聞いた場合、もう断ることができないことを先に言っておく。」

 

 案の定、この言葉を聞いて席を立つ者は1人もいなかった。

 

「よろしい、では辞退は無しということでよろしいか?」

 

 自衛官の男が念を押すように全員を順番に見渡すと、「説明はこの方に行ってもらう。」と言って身を引いた。

 すると突然、自衛官の背後の奥にあった特大パネルに1人の少女が大写しになる。

 

『ごきげんよう、皆さん。』

 

 木更を含め他の社長達も勢い良く立ち上がる。

 壁際に控えた民警達も信じられないような瞳でパネルを見つめていた。ただ1人を除いて。

 

 




国際イニシエーター監督機構
略称IISO。呪われた子供たちをイニシエーターとして訓練し、プロモーターとの選定、序列の管理を行っている。
イニシエーターとして登録されている者には侵食抑制剤が配布される。

イニシエーター・プロモーター序列
略称はIP序列。全世界のイニシエーターとプロモーターのペアを、戦力と戦果で序列付けしたもの。
全体が70万以上いる民警ペアの中で100位以内のイニシエーターには二つ名が付き、序列が上がるごとに「擬似階級の向上」や「秘密情報へのアクセス権」などの特権が与えられる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。