ブラック・ブレット 何が為の力か(仮)   作:終夜 猫

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あと2話くらいは早めに投稿できると思います。



空の相棒

やり過ぎかな?でも僕自身蓮太郎(れんたろう)君に会いづらいし。

 

 (うつほ)は今、ビジネスホテルの部屋で寛いでいた。

 あの少女を連れて入る為、無人で風呂付きの場所を探して高くついたのは仕方のないことだろう。

 少女のあまりにも汚れていた姿を空は看過できなかったのだ。最初は空が洗おうとしたのだが、少女が赤面して遠慮した為、シャワーや身体用洗剤の使い方だけを教えてお風呂場を出た。

 空が力を使って、こっそりと少女の体表面の汚れを取り除いていたのは内緒だ。とはいっても、少女も違和感を感じ取っていた様だったが。

 

 暫くすると、お風呂の扉が開く音が聞こえた。

 しかし、下着も服も事前に買っておいたので何の問題も無いはずなのだが、いつまで経っても姿を現さない。

 

「どうしたんだい?」

 

 空が声をかけると、慌てたようにパタパタする音が聞こえた。髪を乾かすのに時間がかかっているようだ。

 

それくらい言ってくれてもいいのに。

 

 空は、まぁ無理無いか、と小さく息を吐く。

 

「髪は乾かしてあげるから、出ておいで。」

「……じ、自分で、……うぅ。」

 

 これ以上、迷惑をかけたくないと思っていたのだろう。扉越しに聞こえた言葉は遠慮しようとしていた。

 しかし、空を待たせるのも悪いと思ったのか最後には申し訳なさそうに扉から出てきた………上半身裸で。

 おそらく、服が濡れるのが嫌だったのだろう。

 空からしたらマンホールチルドレンの世話をしていた経験から慣れていたが、少女の方がまだ異性というものに慣れていないようだ。

 

普通は逆に抵抗無い子が多いんだけど、8~10歳っていったらこんなものなのか、それともあの子たちが異常だったのか。

 

「乾かすのは後ろ向きだから。さあ、ここに座って。」

 

 備え付けの小さな椅子に座った少女は身を屈め恥ずかしそうに肩を震わせる。

 空はドライヤーの説明をして、まだ少し湿り気のある髪を根本から毛先の順に乾かしていく。

 

「あぁ、ここに来るまでは僕についての話ばかりだったから、名前を聞いて無かったね。」

「……えっと、あたしは椿(つばき)……です。」

「言葉使いは気にしなくていいよ。

 延珠(えんじゅ)ちゃん、あそこにいた子とは知り合い?」

「うん、前たまに見かけた事があった。話した事は無いけど。でも、助けて欲しかったわけじゃなくて、ただ必死で自然に手が伸びて。」

「羨ましかった?」

「分からない……けど、」

 

 空は答えを待ったが、椿は口ごもってしまった。

 本当に分からないのか、それとも口に出したくないのか。届かぬ願いだと思っているのか。

 少女はいつまでも口を閉じたままだ。

 

「椿ちゃんはさ、イニシエーターって知ってる?

 いわゆる、ガストレアと戦う子供たちのことなんだけど。」

「……うん、聞いたことある。」

「君が手を伸ばした延珠ちゃんはね、その隣にいた馬鹿で、薄情で、甲斐性無しで不幸顔の人と一緒に戦ってるんだよ。」

「……そっか。」

 

 蓮太郎のことを少しだけ?落としながら説明する。

 何故こんな話をしているのか。

 空にはある思惑があった。

 

「そうそう、それで僕はその相方がいないんだよね。」

「うん。」

「………相方になる?」

「うん………え?それってどういう……。」

「んーとね……よし、髪乾いたよ。

 まず、服を着て。話はそれから。」

 

 ドライヤーを片付けながら言う空に椿は素直に従う。

 その後、服を着て戻って来た椿を見て空は自然に笑みを溢した。

 

「うん、似合ってるよ。」

 

 大きめの革ベルトのデニムパンツに白いチュニック。

 もう誰も少し前の泥棒少女だとは気付かないだろう。

 

「……ありがとう。」

 

 恥ずかしがる少女を可愛らしく思いながら、空は続きを話し始めた。

 

「それで、さっきの続きだけど、僕には相方がいない。

 理由としては、僕が候補の中から選べないから。自分の性格上どうしても1人だけっていうのに抵抗があってね。」

「何であたしなの?」

「IISO、イニシエーターを訓練したり管理してる所なんだけど。そこの子たちは最低限の食事や生活環境が整ってるんだよ。戦闘に参加する以上、本来の力が発揮できないといけないから。

 でも、君みたいな今も外周区にいる子たちは生活もその環境も悪い。

 だから、そんな子たちから選ぶのもありかなって。」

 

 その話を聞いて椿は若干表情を暗くする。

 

「……でも、それなら戦わないといけないんじゃ?」

「ああ、僕にとってはどっちでもいいよ。

 戦ってくれるならしっかり守るし、そうでなくとも僕それなりに強いし。」

 

 あっけらかんと答える空に椿はプッと小さく噴き出す。

 

「何それ?」

「事実だからね。

 それに既に登録されている子たちは戦い方が確立というか、決まってるから変則的な僕にはどうしても合わせきれないと思ってたりもする。

 相性って大事だからさ。

 僕自身は君と話して悪くないって思ったから。後は君の気持ち。このままか……戦うか。」

 

 空の表情は尚も笑顔だが、椿は何か空気が変わった気がしていた。

 

「絶対じゃない。断るのであれば、僕の知り合いの人で子供たちの世話をしている人がいるから、そこへ連れていこう。そこには君と同じ境遇の子がたくさんいる。皆、仲良くしてくれるはずだ。

 でももし、戦うことを選択するなら、僕が君の力を引き出そう。君が守りたいものを守れる力をね。」

 

 椿は戸惑い、決めかねる。

 しかし、この選択で運命が決まる。難しい事は分からずともこれまでの生活の中で椿が何度も感じていた感覚だった。

 

「そう焦らなくていいよ。今日はゆっくり休んで、明日返事がもらえればいいから。」

「……いい、なる。………あたしも信じてみたいし、その……あなたなら信じれると思ったから。」

 

 恥ずかしそうにしながらも少女は少しずつ言葉を紡ぐ。

 それは、これまで逃げ隠れしていた少女の大きな決断だった。

 

「君ならそう言ってくれると思ってたよ。」

 

 空は出会った時のように椿を撫でる。

 椿には既に警戒心は無く、それに身を任せ気持ち良さそうに目を細める。

 

「宜しく、椿。」

「うん!」

 

 こうして、空はパートナーを手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無理よ。』

「何故です?」

『正確にはまだ(・・)無理ね。』

 

 空は翌日、椿のことを木更(きさら)に報告したのだが、返ってきたのは否認だった。

 

『あのねぇ、IISOはプロモーターの能力に応じて、イニシエーターの候補を挙げるの。それは当然、既に登録されている子供たちからね。

 だから、まずはその子の基礎能力を見てIISOの方に登録してもらわないと。』

「それは一時的にIISOへ預けるということですか?」

『まぁ、そういう事になるわ。

 基本的な身体検査からガストレアウイルスの侵食率まで。後はさっき言った基礎能力と体力のデータが録られるから………1週間くらいはかかるかしらね。』

「なるほど、……いいかい?」

 

 空は携帯から口を離し、椿に尋ねた。

 

「大丈夫です。」

 

 椿は敢然と答えた。

 一晩、しっかり考えたのだろう。空には彼女の意志が固いように思えた。

 

「……じゃあ、IISOの方に取り次いでもらえませんか?」

 

 空は再び携帯に口を当て、木更に要請する。

 

『それならいいけど………って、それよりもこの大事な時期に勝手に休むなんて考えられないわよ!』

「あー、それはすみません。

 ちょっと、昨日は言い過ぎました。」

『そうよね。流石にね?』

「はい、ですので仕事は電話で承ることにします。」

『え?事務所には来ないの?』

「それは無理です。」

『何でよっ!!』

 

 空は絶叫を予想していたのか、耳から携帯を離していた。

 

「社長、声が大きいです。迷惑になります。」

『仕事以外の時は社長って呼ばないで!

 じゃあ、里見君は何なのよ?』

「まだ蓮太郎君には迷いがあります。内面と外面が噛み合ってません。

 あの迷いはいずれ、大切なものを失う原因になってしまう。

 だから、あの夜に話しておいたんです。

『この先、何があっても延珠ちゃんを裏切るようなことはしないで下さい。』と。」

『じゃあ、里見君は……。』

「ええ、見事に彼は自分に嘘を吐き、選択を間違え、延珠ちゃんを裏切り、僕は裏切られました。

 だから、それに気付くまでは彼に会いません。会いたくないです。」

『はぁ~。』

 

 電話越しに木更のため息が聞こえた。

 

『もう、いいわ。里見君なら大丈夫だと思うし。』

「そうですか。」

『里見君が立ち直ったらちゃんと戻って来なさいよ?』

「勿論です。

 それで、僕は何をしたらいいですか?」

『そうね………。』

 

 ふと空は大事なことを思い出す。

 

「感染源ガストレアの捜索は進んでいるんですか?」

『いいえ、手がかりさえ掴めていないわ。

 一応、感染者のいたアパート周辺から捜索を始めたみたいだけど。』

「……では、僕も捜索に参加します。

 1人でも人数多い方が良いですから。それに木更さんが言うようにゆっくりしていられないわけですし。」

『……何か、釈然としないけど……いいわ。そうして頂戴。』

「はい。椿の件宜しくお願いします。」

『了解。』

 

 空は携帯を切り、椿に視線を移す。

 彼女は自分なりに空のイニシエーターとして恥ずかしくないよう努力を始めていた。

 例えば、電話をしている空の隣で微動だにせず、直立不動。さっきもそうだが、言葉遣いにも気を使っている。

 

「椿、そんなに気を使わないで自然体でいいよ。」

 

 彼女は頑張っているのだろうが、無理しているようにしか見えなかった。

 

「僕は結構のらりくらりしてるから、適当でいいよ。あんまり、気を張ってたら疲れるだけだし。」

「……分かった。」

 

少し、考えて椿は了解した。

 

「うん、それで今から君をIISOに送ろうと思うんだけど、その前にやっておこうと思う。」

「何を?」

「言ったでしょ。君の力を引き出すって。」

 

 そう言って空は人差し指で椿の額を突く。

 

「はい、おしまい。」

「これだけ?」

 

 椿は額を擦りながら、何の実感も得られていないことを問う。

 

「すぐには感じられないよ。少しずつ感覚が鋭くなっていくはずだ。最初は不思議な感覚になると思うけど、その感覚を制御できれば、それだけでも君の戦闘力は上がる。

 そして、これは君の潜在能力を引き出しやすくしただけだ。努力すれば努力するだけ強くなる。

 だから、君がこれから強くなったとしたら僕のおかげじゃなく、君自身の努力なのだと信じなさい。

 僕と正式なペアになったら、共に強くなろう。」

 

 空はやり慣れたように椿の頭を撫で、椿も撫でられ慣れたように頭を空に預ける。

 ペアになると、きっとこれが習慣になるのだろう、と空は思わずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何なんだよ。

 

 蓮太郎は悩んでいた。

 

どうしろってんだよ。

 

 今、蓮太郎を悩ませている種は神代(かみしろ)(うつほ)蛭子(ひるこ)影胤(かげたね)だ。

 空との一件もそうだが、その日の夕方、影胤が蓮太郎に接触していた。

 

 

 

 

「お疲れのようだね、里見くん。」

 

 反射的に蓮太郎は拳銃をドロウし、声の方へと銃口を向けた。

 ゆっくりとその方向を確認すると、蓮太郎の鼻先へ拳銃を突きつけた影胤がいた。

 延珠は蓮太郎の状況から動くことができずに、待機してなりゆきを見守っている。

 

「随分と悪趣味な銃だな、蛭子影胤。」

「ヒヒ、こんばんは里見くん。」

 

 影胤は蓮太郎へ突きつけていた銃を下ろし、もう一挺の拳銃も取り出した。

 

「こっちの黒いのがフルオート射撃拳銃(マシンピストル)『スパンキング・ソドミー』、同じく銀色の方は『サイケデリック・ゴスペル』と言ってね。私の愛銃だ。」

「……何の用だ。」

「実は話をしに来たのさ。そっちも銃を下ろしてくれないかね。」

「断る。」

「やれやれ、……小比奈、邪魔な右腕を切り落とせ。」

「はい、パパ。」

 

 蓮太郎は反射的に飛び退くが、反応が少し遅れた。

 

まずいっ!

 

 蓮太郎がそう思った直後、金属音が響き、空中で激突した2人が擦過音を立てながら着地した。

 

「蹴れなかった?」

「えっ、切れなかった?」

 

 延珠は素早く反応し、小比奈の斬撃を蹴り返していた。

 

「蓮太郎っ!あやつら何者だ。」

「敵だ。」

 

 斬撃を防がれた小比奈は二刀のバラニウムブラックの刀身を交差させ独特の構えを取った。

 

「パパ、あっちの奴……強いよ。」

「ほう、小比奈にここまで言わせる出合いがいるとは。」

 

 小比奈が叫ぶ。

 

「そっちのちっちゃいの。名前、教えて!」

「お主だってちっちゃいだろっ、無礼だな!

 妾は延珠、藍原(あいはら)延珠(えんじゅ)。モデル・ラビットのイニシエーターだ。!」

 

 小比奈は下向いたままぶつぶつと薄気味悪く呟く。

 

「……延珠、延珠、延珠。─────覚えた。

 私はモデル・マンティス、蛭子(ひるこ)小比奈(こひな)

 接近戦では、私は無敵。」

 

 抜き差しならない状況だったが、住宅街で戦うわけにはいかず、蓮太郎は下唇を強く噛み、拳銃を下ろした。

 

「早く用件を言え。」

「単刀直入に言おう。里見くん、私の仲間にならないか?」

「なっ、んだと?」

「実は最初見た時から君のことが好きになってしまってね。

 ……君は、東京エリアのあり方が間違っている、そう思ったことは一度もないかね?」

 

 その言葉で昼間の出来事が蓮太郎の脳内にフラッシュバックした。少女の恐怖、愉悦に口を歪ませた男達、助けを求める手を掴めなかった臆病な自分。

 

 影胤はその様子を見て、懐から取り出した白い布から魔法のようにアタッシュケースを出現させた。

 

「聞くところによると君は経済的にあまり裕福な暮らしをしていないそうだね。」

 

 蓋が跳ねあがり、ぎっしりと詰まった札束が蓮太郎の目に入った。

 

「これは私からのほんの気持ちだ。

 それと、君はそこの延珠ちゃんを、人間のフリをして学校に通わせているそうだね。何故そんなことをする?彼女たちは既存のホモ・サピエンスを超えた次世代の人類だよ。──大絶滅を経た後、生き残るのは我々力のある者達だけだ。

 私につけ、里見蓮太郎。」

 

 その言葉の直後だった。

 3発の銃声が響き、アタッシュケースの札束に穴が空いた。

 蓮太郎は拳銃を構えたまま、ひらひら舞う何枚かの紙幣を見つめていた。

 

「……君は大きな過ちを犯したよ、里見くん。」

「俺に過ちがあったとすれば、最初会った時に貴様を殺しておかなかったことだ、蛭子影胤!」

「くだらん!君がいくら奉仕しようと、奴等は君を何度でも裏切る。」

 

 発砲音を聞きつけた何者かが通報したのか、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

「水入りだ里見くん。……明日、学校に行ってみるといい。現実を見るんだ。」

 

 その言葉を残し、影胤達は闇夜へ消えた。

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 蓮太郎は、あまりの不甲斐なさに声を上げる。

 周囲のクラスメイトは何事かと蓮太郎を見つめていた。

 それを気にする暇も無い程蓮太郎は悩んでいたのだ。

 しかし、蓮太郎にとって最悪はまだ訪れていなかった。

 

 懐の携帯が震え、名前を確認するとすぐさま通話ボタンを押した。

 

「…………………それ、本当かよっ!」

 

 またも蓮太郎は注目を集める。

 

「すぐ行く。」

 

 蓮太郎の頭に影胤の言葉が思い出される。

 

『明日、学校に行ってみるといい。現実を見るんだ。』

 

くそっ!

 

 今度は声を上げることはなかったが、誰から見てもその顔には焦りの表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか、分かりました。

 はい、僕も捜索は続けますが、気に留めておきます。」

 

 空は木更からの電話を切ると、横にいる少女へ問いかける。

 

「で、延珠ちゃんはどうするの?」

 

 椿をIISOの車輌に預けた後だった。たまたま外周区の方向へ走っていた延珠を見つけ、捕まえていたのだ。

 近場にあった公園のベンチに座って、空は延珠の答えを待つ。

 

「妾は……人間なのに………。」

 

 延珠の目には涙が浮かんでいた。

 それを見た空はため息を吐く。

 

「延珠ちゃん、────────────────」

 

蓮太郎君、また1つ貸しだよ。

 

蓮太郎が立ち直ることを信じ、空は彼の相棒へ言葉をかけた。

 

 




東京エリア
聖居(現実でいう皇居)を中心に半径約50kmの円形状の面積を持つエリアで、三代目聖天子による統治制となっている。
世界で最もバラニウムの産出量が多い。
初代聖天子の頃から、「奪われた世代」と「呪われた子供たち」が共生するための法案が挙げられており、他のエリアに比べれば「呪われた子供たち」への差別意識は低い方。

機械化兵士計画
ガストレア大戦中に持ち上がった、身体の一部を機械化し、超人的な攻撃力や防御力を持つ兵士を造り出す極秘計画。
蛭子影胤が現れるまでは都市伝説とされていた。
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