ブラック・ブレット 何が為の力か(仮)   作:終夜 猫

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戦闘シーンの意見を頂きたい。
細かな描写で書くべきか、どうか今回のもので判断して下さい。


圧倒的な差

何処だ?何処にいるんだ、延珠(えんじゅ)

 

 蓮太郎(れんたろう)は延珠の故郷である39区を探し歩き、やがてある場所へと辿り着く。

 倒壊した建物を横目にマンホールの蓋をノック、見覚えのある少女が顔を出した。

 

「久しぶりだな。延珠探してんだけど、来てないか?」

「えっと、どちら様ですか?けーさつの方ですか?わたしたちに、立ち退く意思はありませんですので。のでので。」

「何でだよ。何度か顔合わせてんだろ。延珠と仲良いくせに何で俺を覚えてねぇんだよ。」

「何であなたが延珠ちゃんのことを!まさか、せーはんざいしゃの方ですか!?」

「ん?性犯罪者?……俺がか!?それも違う!」

「じゃあ、お引き取り下さいですので。」

 

 マンホールが勢いよく閉じ、蓮太郎は口を開けた姿勢のまま固まってしまった。

 やがて我に返り、叩くように再びノックする。

 

「しつこい蓮太郎は嫌いですっ!」

「お前しっかり覚えてんじゃねぇか!

 って、こんなことしてる場合じゃないんだ。他の奴等にも聞いておきたいから入っても良いか?」

 

 その少女は、渋々蓮太郎を中へと招き入れた。

 蓮太郎が中へ入ると、以前(うつほ)と会話した空間で1人の男性が佇んでいた。周りには当然他の少女たちもいる。

 

「松崎さん、こんな時間にすまない。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それで、どうされたんですか?」

「……実は、」

 

 蓮太郎は延珠が家出をした旨と事のあらましを松崎へ伝えた。

 周りでそれを聞いていた少女たちはそれを知り、心配そうに話ていた。

 

「残念ながら私は何も分かりません。

 空君には聞いたのですか?喧嘩別れしたとはいえ、彼も探していると思いますよ。」

 

 その言葉を聞いて蓮太郎は気まずそうに笑う。

 

「……俺がヘタレてたのが原因なんだ。空は忠告してたのに……。

 俺はアイツを裏切っちまったって、大分後に気づいたよ。だから今は話せねぇ。なんて言えばいいか分かんねぇよ。

 それに延珠は俺の相棒だ。俺が見つけてやりたい……。

 すまない松崎さん、邪魔して悪かったな。」

 

 そう言って蓮太郎は踵を返した。

 

「これから何処へ?」

「39区を隈無く、見つかるまで探してみる。」

 

 蓮太郎はそのまま地上へと向かった。

 

「やはり、空君は良い仲間に恵まれているじゃないか。」

 

 松崎は誰に伝えるでもなく小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったではないか、蓮太郎。」

「お前……何で………。」

 

 蓮太郎は唖然としていた。

 39区を可能な限り探し尽くし、アパートに帰ったのは午前0時を既に回った後だった。

 言い知れない喪失感を抱え、部屋のドアを開くと、そこに延珠がいたのだ。

 彼女は蓮太郎に近づき、ゆっくりと抱きついた。

 

「すまなかった、蓮太郎。妾は何も言えなかった。

 友達が妾を見て怯えるのだ。だから……」

「逃げ出した、か。」

 

 延珠は蓮太郎に顔を埋めたまま頷く。

 

「……俺もすまなかった。お前のことを何も分かってやれてなかったみたいだ。」

 

 蓮太郎は延珠の細い身体を抱きしめ返した。

 

「……蓮太郎、妾は蓮太郎が好きだ。」

「いきなりどうした?」

「いきなりではない。蓮太郎は妾のことをどう思っておるのだ?」

 

 見上げる延珠の瞳を受け止め、蓮太郎は答えた。

 

「……嫌いなわけねぇだろ。お前の為にどれだけ探し回ったか知らねぇだろ。」

「知っておる。フィアンセである妾が蓮太郎のことを知らぬはずがなかろう。」

「また、それかよ………まぁ、良いけどよ。」

 

 延珠は蓮太郎から身体を離ししっかりと向かい合う。

 

「……妾が負けるのはこれっきりだ。もう負けない。

 戦い続けると決めた。」

「ああ。」

「いつか、妾のことを皆に認めてもらうのだ!」

 

 延珠は一転して微笑んでみせる。

 蓮太郎も同じように微笑み返した。

 しばらくの沈黙後、延珠は限界を迎えたように大きな欠伸を溢した。

 

「……蓮太郎……眠い。」

「はぁ、俺もだ。延珠はもう寝ろ。どうせお前は明日からは学校に行く必要が無いからな。好きなだけ寝てていいぞ。」

「いや、明日は木更(きさら)のとこへ行く。謝らないといけないからな。」

「……空には良いのか?」

 

 延珠はごく自然に話ていたつもりだったのだろう。

 空の言葉を思い出し、ぎこちなく蓮太郎の話にあわせる。

 

「う、うむ、そうだな。空にも…謝らないといけないな。」

「おい、お前。」

 

 蓮太郎が気づかないわけもなく、察して見えない恩人に感謝を告げた。

 

 ありがとな、デカい貸しができちまった。

 

 蓮太郎は小さく笑みを浮かべていた。

 今後、この貸しに苦しめられることに蓮太郎が気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、蓮太郎達は朝から事務所へ顔を出し、事情を説明して延珠を預けた。

 その際、空もそこにおり、あの別れ際とは異なり、笑顔で蓮太郎たちを見ていた。

 

「んだよ。」

「いいえ、何も。」

 

 蓮太郎は遂にその笑顔に居心地の悪さを感じて、そそくさと事務所を出ていった。

 木更と何故か延珠もそれをニヤニヤしながら見送っていた。

 そんな朝の出来事を思い出しながら、蓮太郎は話も聞かず授業を受けていた。いつものように、先生と生徒を完全に意識からシャットアウトし、ボーっと窓の外を眺めていた。

 

 そんな時、携帯が震えサブディスプレイに表示された名前を見た途端に、授業中だとかお構い無く、通話ボタンを押した。

 

『仕事よ、里見君。

 感染源ガストレアの潜伏先が分かったわ。32区よ。』

「何でそんな遠くに……。」

『ともかく現場に急行して。他の民警も感染源ガストレアを狙ってるわ。ふっ、でも天童民間警備会社が一番乗りよ。

 凄い奴と契約したから、今からそれで追尾して。アレを引っ張ってくるのに、私来年分の学費使い込んじゃったんだからね。余所に手柄取られたら私中退なのよ!わかる?じゃあ頑張ってね。』

「あっ、おいちょっと木更さん?!」

 

 虚無感の漂う不通音が聞こえ、蓮太郎はため息をついた。

 

『凄い奴と契約』って何だ?

 

 その時、校庭を見て悲鳴と騒ぎ声を上げる生徒達がいた。

 彼らの指差す方向を蓮太郎も見つめ、それを視界に収めると思わず、うめいた。

 その影は次第に大きくなり、轟音を鳴らすプロペラの衝撃波が校庭の砂塵を吹き飛ばした。

 

 その機体中央には杖に巻き付いた1匹の蛇が描かれている。医の神アスクレピオスの徽章。

 蓮太郎は木更のやるスケールのデカさに内心辟易していた。

 

「……ドクターヘリ。」

 

 誰かが呟きが蓮太郎の耳に入った。

 するとヘリのドアが開き、彼のパートナーが顔を出す。

 

「蓮太郎ー!」

 

 延珠は大きく手を振りながら名前を叫んでいた。

 蓮太郎は多数の奇異の目で見られ、全力で校舎を出ていく。

 空ならこれくらい大したことないんだろうな、と考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は外周区で探索中木更からの連絡を受けた。

 

『GPSで場所は送るから、蓮太郎君の乗ったヘリをそっちに向かわせるわ。』

「僕は別の手段で向かいます。ここまでに時間がかかりすぎることと、雲行きが怪しいです。GPSが使えなくなると、その分発見が遅れてしまいます。

 蓮太郎君はそのまま32区へ向かわせて下さい。」

『……そうね、分かったわ。

 ただし、蛭子(ひるこ)影胤(かげたね)が現れる可能性もあるから、なるべく急いでね。』

「了解です。」

 

32区か………移動があまりにも速い。目撃者も無くどうやって。

 

 空はGPSでガストレアの位置を確認する。比較的、工業化した土地の中で自然が多く、隠れるにはもってこいの場所だった。

 すぐに空の予想通り雨が振り初め、それが豪雨に変わっていく。その雨で衛星が使えなくなり、GPSの光点に動きは無くなった。

 きっと発見も遅れるだろう。そうなれば、民警の動きを見た影胤との遭遇率も上がる。

 そう考えた空は32区へ視線を向ける。そして大きく上空へ跳躍。急ぎ蓮太郎と合流する為、降りしきる雨の中へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨の中、蓮太郎は上空を飛行するクモのガストレアを眼下に捉えていた。

 

「糸をハンググライダー状に編んでやがる。こんな能力を持った成体のクモなんて世界中探しても存在しねぇ。」

 

 ともあれ、これで街中のカメラに写らなかった理由が分かったと、蓮太郎は納得したように頷いていた。

 

「どうすればいいですか?」

 

 操縦士の声で思考を止め、指示を出す。

 

「高度を下げながらスピードを合わせて、このまま追跡してくれ。」

 

 しかし突然、重く激しい金属音と共に機体が横に大きく揺れた。蓮太郎は身体をぶつけながら操縦士へ異常を問う。

 

「後ろのドアがこじ開けられました。やったのはお連れのイニシエーターです。」

「延珠が?一体何を………まさか!」

 

 気付いた時には遅く、延珠はガストレアの中心へ流星のように激突する。死角からの強襲に反応できず、ガストレアは延珠ともつれ合い、森の中へと墜落していく。

 

「あの馬鹿っ!高度を下げて!早く!」

 

 蓮太郎は機内の紐を簡易的な命綱として一方を自分に、もう一方を座席の一端へ結んで何度か引っ張り強度を確かめる。

 その行動に操縦士は目を剥いていた。

 

俺だって自分の正気を疑いたい。

 

 ドアが開け放たれ、蓮太郎の顔に雨粒と強風が吹き付ける。

 嫌な汗を背中にかき、高度が下がったとはいえその高さに目眩を感じていた。

 意を決して飛び降り、紐を掴んで制御を目論む。しかし、強風に煽られ、しまったと思った時には命綱は切れ、空中へ投げ出されていた。

 

 ゾッと浮遊感を感じながら、脳で凄まじい速度で演算し、ほんの束の間、時間の流れが遅く感じる。枝にぶつかり速度を殺しながら、なんとか足を下に向けた。

 すぐに地面に到達し、内臓まで響く振動。身体が振り回され、吹き飛ばされるように四回転した挙げ句、気付いた時には泥水の上で仰臥し、灰色の空を見上げていた。

 

 三半規管へのダメージで立ち上がるまでに時間がかかったが、すぐに延珠を探し始め、落ちた場所の近くで断続的な戦闘音が響いていることに気付いた。

 木々に手をつきながら近づいて行くと、視線の先では戦闘が繰り広げられていた。

 

 ガストレアはレイピアのように鋭く細い8本足を巧みに操って突いていたが、延珠はその攻撃を並外れた動体視力で完全に見切っている。神速の如きスピードで間合いに潜り込み、バラニウムの重りが仕込んである靴で蹴りを直上に振り上げた。

 

 蹴りはガストレアの胴体に命中したのみならず、肉を裂き顎を砕き牙ごと粉砕しながら上空へ打ち上げた。自重によって叩きつけられ、体液を飛び散らせた後、活動を完全に停止した。

 

「蓮太郎、倒したぞ。妾達が一番乗りだ!」

 

 蓮太郎は嬉しそうに駆け寄ってくる延珠に力が抜けた。

 そして、延珠の心配をしていた自分の状態を改めて確認し、自嘲気味に笑って近づいた。

 

「どこか怪我は?」

「い、痛くないぞ!ちょっと左足を捻っただけだ。すぐに治る。」

 

 蓮太郎は軽く延珠の頭を叩き、胸を撫で下ろした。

 

「……アレが。」

 

 件のジュラルミンケースを残骸の中に見つける。近づきその持ち手を掴んだ。早く仕事を終わらせたいと思い、ふと視線を周囲に巡らせる。

 

人気(ひとけ)が無い。

 

 2人の無事とケースを回収したことで油断していたのだ。────この依頼一番の障害を。

 

「ヒヒ、ご苦労だったね里見くん。」

「えっ。」

 

 蓮太郎は振り向いた瞬間顔を掴まれ、暴力的な力で投げ飛ばされる。

 泥水に激しく身体を叩きつけ、木に激突。背筋に鈍い衝撃を受け、肺から空気が絞り出された。

 

「蓮太郎ッ!」

「延珠ミツケタ。」

 

 延珠は反射的に横へ跳び、斬撃を回避。しかし、次々と繰り出される小比奈(こひな)の小太刀がその行く手を阻んだ。

 蓮太郎は咳き込みながら立ち上がり、仮面を押さえながら笑う男を睨む。

 

「他の民警を探していたようだが、近くにいる雑魚はあらかた殺しながら来た。期待しない方がいい。」

 

 蓮太郎はここ最近世話になりっぱなしの男をきっと大丈夫だと思いながらも頭に浮かべる。

 

……空!

 

 影胤のワインレッドの燕尾服の上の返り血が目に入り、より一層その心配が大きくなった。

 蓮太郎はDXをドロウし、発砲。影胤はそれを読んでいた。

 

「無駄だ。」

 

 影胤自らが『イマジナリー・ギミック』と呼ぶ斥力フィールドに弾かれ、弾はあさっての方向へ飛んでゆく。

 蓮太郎は諦めず、ジュラルミンケースを放り投げると、影胤へ肉薄し、ぬかるんだ地面を踏みしめ、丹田に力を込めた。

 

「天童式戦闘術一の型八番──『焔火扇(ほむらかせん)』ッ!」

 

 渾身のストレート。しかし、影胤に届く前に頑強な青白いバリアに激突し、逸らされ空を切った。

 影胤はカスタムベレッタをドロウし、至近距離から蓮太郎の肩口へ3発撃った。

 

「あぐッ……くッ。」

 

 蓮太郎はたたらを踏み、背中に何か当たる。気づけば一枚岩に退路を断たれている。

 影胤はゆっくりと腕を持ち上げ、蓮太郎へ向けた。

 

「君に1つ、私の技を見せよう。『マキシマム・ペイン』!」

 

 突如影胤の周りを囲んでいた斥力フィールドが膨らみ、蓮太郎の全身を襲った。恐ろしい勢いで蓮太郎は一枚岩に叩きつけられ、全身がプレス機にかけられているような圧迫で、肉が潰れ、骨が圧壊寸前の凄まじい音を上げていた。

 暫くして猛烈な圧力が消え、蓮太郎は膝をつき、喀血する。

 

「ほう、まだ生きてるかね。」

 

……強すぎる。ここまでとは。

 

 蓮太郎は影胤との単純な戦闘能力の差に延珠の足の負傷。蓮太郎の脳は、冷徹で一番合理的戦術を弾き出すと、弱々しく頭を上げた。

 

「逃げろ、延珠。」

 

 延珠は目を見開き首を振る。

 

「嫌だ!」

 

 延珠の背後で刺突の構えを取る子比奈を見て、蓮太郎は延珠の足下に1発発砲する。

 延珠は反射的に大きく跳んだ。

 

頼むから逃げろ。もしくは、他の民警を連れて来てくれ。

 

 蓮太郎は視線で訴え、それを見て延珠は悲しそうな表情のまま奥の茂みに消えた。

 

「パパ!延珠逃げた!斬りたい!」

「駄目だ我が娘よ、他の民警に合流されたら面倒だ。仕事を済ませてしまおう。」

 

 子比奈は決闘に水を差した蓮太郎を睨みつけ、次の瞬間には消えたかと思うと腹に衝撃。蓮太郎の腹部からバラニウムブラックの刀身が2本生えていた。

 

「弱いくせに!弱いくせに!弱いくせに!」

 

 蓮太郎は口から血を溢しながら裏拳で子比奈を振り払う。しかし、膝から崩れ落ち、水飛沫を上げ倒れた。意識は辛うじてあるものの、水溜まりを浸食していく赤黒い血液の量がその意識の限界さえも訴えていた。

 

 蓮太郎は視線だけを影胤へ向けると、カスタムベレッタの銃口が向けられていた。

 蓮太郎は瞳を閉じる。

 

延珠、木更さん、空……ゴメンなさい。

 

「……何か言い残すことは、死にゆく友よ。」

 

 蓮太郎は最後の力を振り絞った。

 

「地獄に……落ちろ。」

おやすみ(グッド・ナイト)。」

 

 1発の銃声と共に蓮太郎の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だね、君は?」

 

 影胤は冷静だった。

 蓮太郎の命を奪うべく放たれた弾丸は、その頭部を撃ち抜き、血飛沫を上げてこの地をより赤く染め上げる。そのはずだった。

 しかし、弾丸はその結果を示す事無く消えた。いや、掴み取られた(・・・・・・)のだ。それも発砲した瞬間にほぼ零距離で。

 

「もう一度聞こう。君は誰だ?」

「………。」

 

 瞬時に距離をおいた影胤は探るような視線をその人物へ向ける。

 体格的にはおそらく男だった。白くシンプルな上下で上着は背側の着丈が長くフードが付いており、それを目深に被っている。腰には黒い帯を巻き、そこへ黒い刀が差さっていた。

 

「……答える気は無しか。」

 

 影胤は2挺の拳銃を構えると、ある異変に気付いた。

 

「どうした、小比奈?」

 

 小比奈は震えていた。小太刀を持った腕で身体を抱くようにして、その顔に恐怖を張り付けその人物から目線を離せないでいた。

 

「……パパ、……こいつヤバい。」

 

 これまでにない小比奈の反応に影胤は視線をその人物から離してしまった。

 だから、吹き飛ばされていることに気付いた時には余りにも遅すぎた。

 脳の処理が追い付かず、木に激突。遅れてやってきた腹部の痛みに感覚を狂わせられていた。

 

「ごふッ。」

「パパッ!こんのー!」

 

 影胤がいた場所へいつの間にか移動し、脚振り抜いた状態でいる男へと、小比奈は恐怖を押し潰した怒りに任せ2本の小太刀を振るう。しかしその全てを男はことごとく躱していく。

 

「のッ!何でッ!」

 

 緩急つけたスピードで背後へ回り込んだ小比奈は右の刃で右の肩口から斬り込むも、後ろ手に掴まれる。それに動揺したのか、焦って左の小太刀で振り払ったが、それも振り向きざまに伸ばされた手により防がれてしまった。

 

「うそッ!」

 

 小比奈は小太刀の柄を握り、完全に宙に浮いた状態だ。

 数発の銃声が上がり、男は小太刀を離すと、その場から蓮太郎の側へと飛び退く。男のいた場所をフルオートの銃弾は通過し、向かいにあった緑葉樹に風穴をあけた。

 小比奈は自由になるとすぐに銃弾を放った影胤の隣へと移動した。

 

「フフ、ハハハハハッ!痛みを感じたのは久しぶりだ。

 もっと生きている実感を得ていたかったが、時間だ。

 ……最後に里見君だけでも、確実に息の根を止める。『マキシマム・ペイン』!」

 

 蓮太郎を戦闘不能まで追いやった斥力フィールドが、男に殺到していく。

 男1人であれば躱せるだろうが、間違いなく蓮太郎は死ぬ。逆に躱わさなければ、あわよくば蓮太郎は死に、男は致命傷を負う。

 最初の蓮太郎を守るような動きから、後者を選ぶだろう、と影胤は考えていた。実際、男が蓮太郎の前に立ち塞がるのを見て、影胤は仮面の奥で嘲笑うかのように笑みを浮かべていた。

 しかし、次の瞬間その笑みは凍りついた。

 

 斥力フィールドが男へ衝突。瞬間

 

 ────砕け散った。

 

「馬鹿なッ!」

 

 影胤の目に映っていたのは、片手を横へ伸ばした姿で立つ男。そこに至るまでの動きを影胤はしっかり捉えていた。

 ただ一振り、腕の一振りで『マキシマム・ペイン』を破ったのだ。

 その圧倒的な力の差は戦術を思考する必要も無く。影胤と小比奈はすぐに理解し、撤退へと切り替えた。

 影胤が蓮太郎へ向け発砲し、男を牽制。その銃弾も目標に到達する前に防がれているのか、弾痕(けっか)を残すことは無い。その間に小比奈はアタッシュケースを回収し、影胤の側へと戻って来ていた。

 

「……本当に興味深い闘いだったよ。名残惜しいが我々は退散させてもらおう。」

「次は、斬る。」

 

 片手の銃で牽制しながら、もう片方の手で男の目前にあるものを投げ込んだ。直後、閃光と爆発音。影胤と小比奈はスタングレネードに乗じて暗闇の森へと姿を消した。

 

「………やっと行ったか。」

 

 蓮太郎の側で佇み、男は影胤達が消えていった茂みを眺めながら、ただそう呟いた。

 

 




七星村
ガストレア大戦中に消滅した村。存在そのものご抹消されたと扱われており、機密事項の重要機密であるレベル10に指定されている。

天童式武術
「己を磨き、弱き者を守る」を教えとし、「天童式抜刀術」や「天童式戦闘術」などの数々の派が存在する。
天童式戦闘術は拳系の「一の型」、蹴り技系の「二の型」、その他の体術による「三の型」で構成されており、己の力と気を集中して一撃を与える。
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