《ダリア学園》
それは膨大な生徒数と敷地を誇る世界に名立たる名門寄宿学校。
その学校では二つの国の生徒が集い、二つの寮に分かれていた。
東和国専用
ウェスト公国専用
それらは 互いの国同士が敵対している事もあり、必然的に寮同士の関係も険悪。いや 敵対関係にある。顔を合わせる度に
毎日、毎日 今日も明日もその後も――
そして ここの生徒は東和国とウェスト公国の二国のみだが、たった1人だけ例外が存在していた。
東和国よりも更に東部に位置する極東の小さな島国の王族がこの学校に入学しているのである。
二つの国以外の生徒がいる事、それ事態が異例だと言っていいが、そもそもがその極東の国は殆ど鎖国国家も同然であり 外交なんてものは 歴史上でも殆ど無かったのだが 彼は入学している。水面下では接触があったのでは? と周囲では噂されていたがその真実は誰も知る由もない。いや――彼の国と、この学園を運営している二国しか知らない事、だろう。
「……いやぁ あいつらも飽きないねぇ~ いやほんと。マジ見てるだけで面白いし退屈しねぇし。ここに来て正解ってな。親父には感謝だ。今度帰ったら肩でも揉んでやるか」
大きな大きな木の上にて、毎日続く
王族と言えば気品に満ちていて、規則正しく、礼儀正しく、凛としていて模範となる様な英才教育を受けていて~…… というイメージがつきものだが、生憎全くそう言う気配は見えない。だらしなく寝転がり 更には大きな欠伸を1つさせていて、喧嘩が始まってるのに止める事もしない。勿論加わる事もしないで、ただただ眺めていた。
時折 頬が緩むのは本当に楽しんでいる証拠の様だ。喧嘩眺めて楽しむとはあまり良い趣味とは言えないが、それはそれである。
「ほんっと面白いわよねぇ。毎日毎日やってて疲れないのかしらぁ?」
彼の隣には 二つの寮が争っているのと同じくらい毎度恒例とも言える1人の女性がいた。
彼女も彼と同じ立場と言っていい。
彼女はウェスト公国の第一王女 シャルトリュー・ウェスティアなのだから。
そして いつも彼の傍にいるのは彼女くらいのモノだ。
「ま、面白いって言えば 私はキミにも言える事だって思ってるんだけどぉー? 同類項? その言葉が一番しっくりくるわねぇ」
微笑みながらそう言うシャル。本当に誰もがその美貌に見惚れてしまうであろう完璧だ! と言えるのだが お生憎。そんな100万㌦の笑顔も彼には全く通じない。
「あーあ、まーた かまってちゃんがやって来たよ。そんなんじゃ
ケラケラと笑いながらそう言う。
さらっと出てきたが、シャル姫には
「か、かまっ……!! キミねぇ~……仮にも私の未来の旦那さんになるって言う自覚は無いのかしらぁ? それに あんな乱闘の中に入る訳ないでしょぉ? 汗臭いし、汚い、その上疲れちゃうじゃん!」
「ふーん。の割には、いっつも楽しそうにからかってんじゃん。ほら、
「あー…… まぁ 否定はしないけどぉー。んん? 惚れ?? キミの口からそ~んな言葉が聞けるなんて今日は雨を通り越して雪かもしれないかしらねぇ?」
「んにゃ。お天道様はバッチグーだ。ぽかぽか陽気だ」
色々と説明が抜けた状態なので ここで少しだけ説明をしよう。
彼が住まう国は殆ど鎖国国家。
だが唯一の外交手段として、その国では世界的にも大変珍しい鉱石が多品種とれるのだ。
希少である特産品を幾つも抱えている云わば超大金持ちの国とも言える。
数多の国がそこと交流を持ちたくてコンタクトを取り続けていたが、拒み続けて早30年。
その鎖国国家に天才児が生まれた。
幼き頃より何をやらせても全てを熟し、齢5の歳で国での最高の栄誉である博士号を取得。更には身体能力も抜きんでており、齢10の歳で大人と勝負に明け暮れた。
興味を持った事はとことんまで行い、全てを極めていく。王族は100年に1人の天才が生まれた、と歓喜していたのだが…… その彼は一国に収まる様な器ではなかった様……というより元気があり余り過ぎて、直ぐに外の世界に興味を持ってしまった。その知的欲求が留まる事は無く、国を捨てて亡命してでも出ていく! と宣言した時に、彼の父親である国王が外交を認めた、というのがこのダリア学園へ彼が通っている真相。
色々と型破りではあるが、幼い子供で、超天才で、息子で……と色々頭が混乱しそうだが、亡命などされてしまっては国中が大パニックになってしまう。だから選択の余地が無かったとも言えるかもしれない。
そしてウェスト公国との関係は細いとは言え全く知らない間柄ではなく、鎖国国家と言うものも、もう時代錯誤と言えるかもしれないと考えだしていた事もあって、その橋渡しとして、というのは ある意味嬉しい誤算だったかもしれない。
軈て、ウェスト公国から東和国と、少しずつではあるが国は鎖国からの開国を決定した。
友好の証として――、シャル姫と彼の婚約を決めた。これが2人が10歳の頃の話。
シャル姫は、友達と呼べる者など身分を考えればいるハズもなく、どれだけ我儘を言おうと、何をしようと 誰ひとりとして叱ろうとしなかった。そしていつもいつもご機嫌伺い。1人の人間として見てくれてないような気がして、それが嫌だった。我儘に我儘を重ねて 妙な渾名がついて…… そんな時に出会ったのが彼だ。
当初こそは シャル姫も王族に必要な政略結婚、と言われても 嫌悪しかなかったのだが……。
『もっと笑えよーっ そーんな作り笑いしてたら、眉間に皺が出来る~って兄貴が言ってたぜ?』
いままでの誰とも違う質の笑顔で話しかけられた。
『こらこらこら。あんま迷惑かけてやんな。流石にそれは駄目だろ? ヤリスギ』
間違えてる事をちゃんと間違えてるって言ってくれた。目を見て話してくれて、怒ってくれた。
『……ふふっ』
だから、シャルは作り笑いなんかじゃなく、心から笑う事が出来た。
『キミとなら毎日が楽しいかもしれないね』
『保証はしねぇけどな? ま、《オレが楽しい》って言うのは間違いないかもな』
次第に彼に惹かれていた。自由奔放な生き方、乾いたスポンジの様にあらゆる事を吸収していくその力。何より屈託のない笑顔。
『ハオ・隼。貴方は私のモノだから!』
『そりゃ遠慮させてもらおうかな~。オレ、モノじゃないしぃ~』
『わ! まちなさーい!!』
毎日が楽しかった。
その後も、自分にとっての大切な友達が出来た。親友と呼べる女の子と巡り合う事が出来た。それもこれも全部彼の…… ハオのおかげ。
そして、元気に成長して今に至る。
元気過ぎると言う所は今も尚健在だ。
「お、そうだ。さっきのだけど」
「? 何の事かしらぁ?」
「ほれ、未来の旦那さん~とかなんとかってヤツ」
「ん~ 間違ってないでしょぉ? なに? こ~んな可愛い私と結婚できるって事実を改めてかみしめてるのかしらぁ? 感激のあまり」
「いやいや。今までなーんかスルーしてきたけど、これって親父たちが勝手に決めた事だろ? そんなモンはとーぶん先の事だし、ってか するかどーかも決めてねぇってオレは思ってるし。……つか、オレらまだ学生だぜ? 早過ぎだろ? というか10くらいの頃に最初に言われたんじゃなかったっけ……?」
「それでもキミはもう私のものだから。逃がすつもりなんかこれっぽっちもないんだけどぉー?」
「おーっ、やっぱりキミは凄く怖いわぁ~。んじゃ オレは怖くてたまらないからさっさと
「コラ! 変に喋り方真似しないでくれる!? って、逃げるなっ!」
彼女の制止も聞かず、器用に木の枝をスイスイと伝って下へと降りていった。
「……もう」
いつもは追いかけてる所だが、彼女はただただ彼を見ていた。
今は黒犬と白猫の喧嘩の真っ最中。そんなドンパチな中に彼は飛び込んでいってしまった。森の中に隠れるみたいに、あっと言うまに人込みの中で見失ってしまったから。
「キミと…… ハオとペルちゃんくらいじゃない。私の事を見ててくれたのは。私の事、ちゃんと見て接してくれたのは。……あなた達2人は ずっとそばにいてて欲しい天使だから。……天使? う~ん……、キミはそこまで可愛くない……事もないかな?」
男に対して天使と言う単語を使うのはどうか、と思った彼女だったのだが、彼女にとっての彼は 間違いなく天使だからよかった。それ以外の男には絶対に使わないが。
『オラーぁ! ろみおーっ! 物足りなさそうな面すんな。オレが相手してやるからよぉー!』
『うぉわぁっ!? て、てめーはどっから降って来てんだよ!』
『きゃわあっ!! と、突然上から降ってきて いきなり何言ってんのよハオッ! 犬塚は私の相手よ! 邪魔しないで!』
『おっ、わりーわりー オレ 基本的に白猫と黒犬のどっちに着く~ とか無いんだけど、ペルシアをメチャ心配してるこわーいお嬢さんがさ、今も見てるみたいなんでちょっくらボディガード役をってな?(逃げた分を返そうと思ってるし)』
『そんなの私には必要ないわよ!』
『いやはや、やっぱここのお嬢さんはほんとに皆怖いな。勇まし過ぎだって、色んな意味で』
今日も一段と騒がしい。
いつもいつも、続いていく。騒がしくて そして楽しそうなこの光景が続いていく。
喧嘩三昧だが 今日もある意味では平和な一日。
そんな日 改めてシャルは心に決めるのだった。
「ぜーーったい逃がさないわよぉー。