夜。寮の消灯時間。
それは
勿論、忍び込んだ場所はハオのいる部屋で、部屋に窓から飛び込むなり、シャルはハオの胸に飛び込んだ。 たたらを踏んだが、ハオはしっかりとシャルを抱き留めた。 理由も言わず、何も打ち明けず、ただただハオにしがみ付いていた。
「おーいシャル? ここ黒犬だぞ。せめて白猫の方で、じゃ駄目だったか?」
「…………もうちょっと、もうちょっとだけ」
「ほいよ。……ったく、今回だけの特別サービスだぞ?」
色々と犬塚を使ったワガママ放題だったシャルだったが、そのワガママはまさに
止んだのは止んだのだが、その影響は凄まじく、犬塚に対する周りの評価はガタ落ちになったのは当たり前な話。寮も追い出されたし。最終的には、シャルのワガママが止んだから、何とか寮に入るのを許してもらえた様だが。
「……ペルシアはハオと同じよ。だって、いつだって私の傍にいてくれたから。……こうやって、私に温もりをくれたから」
「だったよなー。ペルシアは曲がった事が大嫌いだったし、シャルのワガママを一緒になって止めた事だって、何度かあったしな? オレ以外でそんな事出来るのペルシアくらいだった」
「そうよ。……あなたたちは私の為に怒ってくれた。だから、私の理解者で、私の、たいせつな……人。なのに、なのに……」
シャルの目元には涙が溢れていた。流さないように必死に頑張っていたのだが、それでも止められない。
「どうして!? よりによってあの犬塚!? 何で、何でよ……! 私の、大切な人が、犬塚なんかに…………ぅぅ」
ハオの胸の中で嗚咽を漏らすシャル。ここまで弱さを見せるシャルは本当に久しぶりだった。そう、いつも寂しかったと言っていた最初の頃以来だ。
「………人の想いっていうのは、簡単には止められないもんだ。シャルだってわかってるだろ? 好いた惚れたは自由。黒だろうと白だろうと関係ない」
後ろ髪を撫でながら、ハオは抱き寄せた。
「1つ聞くけど、ペルシアの事、シャルは信じられないのか?」
「っ……信じられない訳ないじゃない! ペルちゃんは、私の一番の親友。私の事をシャルちゃん、ってまた呼んでくれて、いつだって一緒にいる、って言ってくれたんだから。ペルちゃんの事、信じられない訳ないっ!」
シャルは、ハオの胸から顔を離し 至近距離でハオを見つめながら断言した。ペルシアの事を信じてる、と。シャルの真剣な顔。いつも笑ってる顔ばかりだから、その真剣な顔も随分と久しぶりだった。
そんな顔には、笑顔で応じるハオ。
「それだけ判ってんならじゅーぶん。そんなペルシアが選んだ相手が犬塚だ。なら、信じられるだろ? それに、間違いなくペルシアを変えたのも犬塚。ペルシアが一番の友達、親友なら、そんなペルシアに愛しい人が出来た事を祝福してやらなきゃだ」
「でもっ! 犬塚と一緒にいるって事は、ペルちゃんに危険が……!!」
「大丈夫だって」
危険だという事はハオだってわかってる。東和とウエストの関係も。
だが、それでもハオは笑顔を崩さなかった。
「この自分たちの世界を変えよう、って強く思ってりゃ変わってくもんだ。強い覚悟も決めたんだろうさ。それに、ペルシアと犬塚なら なんとなく大丈夫って思う。オレ信じれる。ほれ、経験者は語る、ってヤツだ」
「…………確かに、ハオは自分の国を変えることが出来た。でも、それはハオだから。ハオだったからで……」
「シャルも信じてやれって。犬塚はアレだと思うけど、ペルシアの事。止めるんじゃなくて、時には見守ってやるのも優しさだって思うぜ。……シャルの時だって、ペルシアが支えてくれただろ? 今度はシャルの番だ」
「………………………う、ん」
シャルはハオの目を数秒だけ見つめて、そしてまた、胸に顔を埋めた。
二度、三度とハオの胸に自分の頭をぶつけるシャル。そして、強く強く当てた。
「……今後、ペルちゃんが危険な目にあってたら、絶対、殺すわ。犬塚のヤツを」
「おう。その意気。一回殺られた位でヘコたれるヤツじゃねーってのはよく知ってる。バンバンやってやれシャル」
「勿論よ。……私はシャル姫。ウエストの暴姫。全身全霊でやるわよぉ。……って、ハオ?」
「おう?」
「ペルちゃんと犬塚の事……知ってたの?」
あまりに自然に会話してて、気付くのが遅れてしまってた。
知らないのであれば驚かない訳がない。天敵と言っていいし、毎日のように争って争って、その中心にいる2人なのだから。
つまり、ペルシアと犬塚の関係について知っていなければ こんな反応はあり得ないから。
「ん? おう。知ってるゾ」
「知ってたのならもっと早くに教えなさいよぉ!!」
「ぐええええっ!! し、締まるしまるシマル!」
胸倉をつかみ上げたが、ある程度すっきりしたのか直ぐに下した。
「けほっ…… ったくよぉ、元気になった途端コレかよー……」
「ハオが悪いんでしょぉ。ペルちゃんの事、黙ってたんだからぁ。こーんな大切な事、大事な事。とーぜんですっ」
んべっ、と舌を出すシャル。
いつものシャルに少しは戻ったとハオは感じた。
『シャルのお願い☆』
それを聞いた時。いつも飄々としているハオでも、シャルの事が心配だったりした。
シャルがそう言うお願いをする時は、いわばワガママ宣言。
あまりワガママを言い過ぎると駄目だ、とハオは小さいころ、シャルに言い続けていた。口で言うだけでなくハオは手を出した。それが笑顔でチョップの正体。
『ふつーな願いなら聞いてやるけど、シャルのお願い☆ はダーメ。ぜーったい無茶なこと要求するし? そーゆーのダメだー、って言っただろ?』
そういってから、シャルは 少なくともハオに対しては言わなくなった。
スコットなどお気に入りなペットたちには どんどん要求してるが、それは目を瞑っていた。皆楽しそうだったから。(スコットは結構しんどそうだったが)
今回シャルは、神妙な顔で『……私がする事、暫く目を瞑ってて欲しい』とだけハオに言ったのだ。
「黙ってて悪かったな。と言うか、犬塚があーんなあからさまな態度見せてりゃ、普通に、バレると思うんだが(犬塚がペルシアを助けたトコ見たのが決定的だったけど)鈍感なヤツばっかだよなー。ここって」
「ハオが鈍感とかいう!? ってそれより、たとえ そーだとしても、白猫と黒犬の関係を見たら、何よりも不味い、ってわかるでしょぉ! いっくらハオが特別生だからってぇ!」
「わーってるわーーってる。郷に入れば郷に~だって事くらい弁えてるって。ただでさえダリア学園は、オレのワガママ聞いてくれてんだし」
「猫と犬の間を行ったり来たり、遊んだり楽しんだり、そんなの堂々と出来るのはハオだけぇ! ちゃーーーんと頭に叩き込んでなさいよぉ! 黙ってた罰として、今日は添い寝してもらうからぁ」
ふふんっ、とシャル得意気になっていた。いつものペースを徐々に取り戻してる様だ。
「成る程ー。だから、寝間着で来てたのか。最初っから考えてたんだな? そーんな姿で外出るなんて、シャル? はしたないゾ~?」
「だいじょーぶ 誰にも見られてないわよぉ! 本気出した私を目で追いかけられると思ってるのぉ? と言うより、そもそも見られてたら大騒ぎになってるでしょぉ?」
「ストーキングスキルMax、って訳ね~」
「人聞き悪い言い方しちゃやぁよ」
確かにその通り。白猫の姫が
「んじゃあ、ハオには早速罰を~、ね?」
シャルはにやりんっ! と目を光らせて両手を広げた。
いつもなら、ここからハオとの追っかけっこの始まり始まり~。
―――なのだが。
「よっしゃ、一緒に寝るか?」
「………へ?」
広げた両手をさっと取ったハオは、そのまま抱き寄せて、ベッドへIN。
まさかの行動にシャルは思いっきり動揺した。
たま~に、ハオが色々としてくれる時はあるんだけど、不定期な完全ランダム。そして、起こった時、いつもいつも慣れない。
「うにゃぁっ!?」
「ほい、確保~ & 部屋消灯っ」
いつの間にか、ばっちり部屋の灯も消した。
「は、はおっ!? きょ、今日は何でそんな積極的なのぉ!? そんな気分だったの!?」
かぁぁ、と顔を真っ赤にするシャルを見て、ハオは優しく笑った。
その頭を抱き寄せて、数回その頭を撫でる。シャルは 最初こそ慌てていたが、直ぐに気持ちよさそうに目をふにゃりと細めた。
温かいハオの温もりと、落ち着けるハオの鼓動。子供の頃はよくこの温もりを感じて、鼓動は子守唄にしていた。シャルはそれを思い返していた。
「今日は一緒にいるよ。………それにまだ、無理してんの見え見えだぞ。シャルがオレを騙せると思わない事だなー?」
「っ………。もうっ。 でも、それでこそ 私の旦那様よね」