本当に幸せそうだと言えるだろう。
シャルは、ハオの腕を、身体を。……ハオの全てを 抱き枕にしている。それは もう二度と離さない、と言わんばかりにだった。自分の腕を、足を、存分に絡ませ 時折 頬擦りさせている。
その寝顔は、まるで日向ぼっこをしている猫の様に 気持ちよさそうだった。
当のハオはと言うと……。
この東和とウエスト、いがみ合ってる二国であったとしても、世の男であれば、誰もが天に上りそうな幸せ極まりないシチュエーションだというのにも関わらず、相変わらずな様子だった。
目を覚ましたのはハオの方が早かったようで、ちらりと視線を部屋に備え付けられている時計へと向けた。
「ん――、そろそろ、か……」
と小さく呟いた後、シャルの頭を撫でながら呼んだ。
「おーい、シャル~。起きろ~~」
「にゃむにゃむ~…… あと、3分~」
「おぉ~い、シャル~~。3分経ったぞ~」
「にゃむにゃむにゃむ~~……… あと、1分~」
「うぉ~~い、シャルル~~。1分経ったぞ~~」
「にゃむむ~~ あと、10分~」
全然起きる気配の無いシャルは、更に時間延長を所望。
いやいや、目を覚ましている様な気もしてきた。
狸寝入りでもしているのか? と思える。ハオも大体わかっている様で きらんっ! と笑ったかと思えば 軽く咳払いをして続けた。
「こほんっ。あー、シャル~? 後5秒で起きないと実力行使だぞー」
「にゃむぅ~……。ハオのなら、良いよぉ~~…… ごーいん、でも。 むにゃ」
「よーし、言ったな? 言質取ったり~……、ってなわけで、はい、さん、にー、いちっ…… ぜろぉー うぉりゃ~~!」
「にゃああああ!!」
ぐるぐるぐる~~~! と羽毛布団でシャルを簀巻きにした。ぐるぐると身体を巻かれた衝撃で、当然シャルは目を覚ます。いや、元々目を覚ましていた節があるが、今は良いだろう。
「ひゃおっ! にゃ、にゃにすんのよぉー」
「シャル~? 言質とったり~ って言ったぞー。って、言う前にここ 黒犬だってこと忘れてね? チョウちゃん達が来る前に シャルを届けないと 色々と面倒だ」
「だからって、ひっどーいじゃないっ! ……チョウちゃんたち、って 黒犬の
「連れ込む~、って2人が来るんだし、人聞き悪い言い方しちゃダーメ。それに一応、オレ仮
簀巻きにしたシャルを抱え上げた。
一応、お姫様抱っこの要領で。肩に担ぎ上げるのも良いが、その辺りは空気読んだようだ。
……多分? ただの気まぐれ?
「にゃあっ! だ、だから いきなりは、びっくりするじゃないっ! そ・れ・にぃー。お姫様抱っこするなら、これ解いてしてよぉー。直に抱いてよぉ~♪」
「シャルはふつーにお姫様だからなぁ~。どんな抱き方してもシャル様~抱っこになるんじゃね? つまり、これでもオールOKって事だな」
「そーいう話してるんじゃないわよぉー。昨夜は満点だったのに。ハオは やっぱりもーちょっと乙女心、お勉強ねぇ?」
「あっはは。それは兎も角、とりあえず さっさと白猫に戻るぞー。ペルシアも心配するだろーし」
因みに、昨日の夜。ハオはペルシアにしっかり連絡を入れている。
まさか、ウエストの第一王女であるシャル姫が帰ってこない!? な事があれば 冗談抜きで白猫の寮は厳戒態勢に入り、警報が鳴り響き、捜索に軍隊が出動しかねない。
因みに、これらはシャルの命令でではあるが、一気に動いた事があるのだ。
何でも ハオの事を悪く言われた~、から、『黒犬のスパイ!』や『白猫の回し者!』な扱いを受けていて、我慢しきれなくなったシャルの大暴走だった。当のハオ本人は全力で楽しんでるだけだっただけなのに~、と言うのはまた別の話。
『ハオと一緒だから、安心ね』
と言っていたペルシアだが、やはり黒猫の寮にシャルがいる事が心配だという事だ。
『何か複雑……』
ぼそっ、と言っていたのは ハオも聞き逃していない。ペルシアも犬塚に会いに来ていたのだろう、と簡単に想像出来る。特に言ったりはしてないが。
「もうっ! いい加減コレ解いてよぉ!」
「どーどー、暴れたらダメ。夜じゃないんだし、見つかる可能性大だから。このまま連れてくー。オレがやった方がシャルより早いし、言い訳も出来るし。ってなわけで、ハオさん出発しまぁ~すっ」
「ひゃあっーー!」
ハオは、シャルを担いだまま 窓からダイブ。ひょいひょい、と器用に木に飛び移り、あっという間に白猫の寮へ到着。
シャルとペルシアの部屋の窓を軽くノックしたら、ペルシアがひょこっ、と顔を出してビックリ。
笑顔のハオとげんなりとしてるシャルがいたから。
「は、ハオっ!? それに、シャルちゃんっっ!?」
「おは~ペルシア!」
「……おはよぉ、ペルちゃん」
その後、色々と危ないでしょ!? と小一時間程、ペルシアに。そして 運び方にやっぱり不満だったシャルにも説教を受けた後、黒犬の方へと帰還したのだった。
そして、その日の学業……もとい、
主に胡蝶と手李亞の2人組と一緒に行動。黒犬の代表である藍瑠とは別行動。デスクワークが忙しい様だ。ハオが手伝うぞ? と言ったが残念ながら断られた。手は足りてるらしい。
「なんだヨ。私たちと一緒じゃ不満だとでもいうのかー!」
「……そーなの?」
何だか不満顔の双子を見て、ニコっ、と笑ったハオは、そのまま2人を担ぎ上げた。
「不満も退屈も無いって。
「もーーー! だからって、何度も持ち上げるなー! 私たちのコト ガキ扱いしてるだろー!!」
「またまたー。チョウちゃん楽しんでる癖に~」
「誰がだヨ! こ、こんなの…… せ、生徒たちに示しが付かないゾ! 手李亞も何か言ってやってヨ!」
「……うん。ちょっと高い。もうちょっと動くのゆっくりだとありがたいかも……」
「もうっ 感想を求めたんじゃないヨ!!」
文句は言いつつも、胡蝶も手李亞も楽しんでいるのは最早説明不要、である。
こうまで対等に接してくれるハオの事はすごく感謝してるし、何よりも好意的だから。
「と、言うより 今ってテスト期間中で黒犬は勉強漬け、大勉強合宿じゃなかったっけ? ほれ、72時間耐久のヤツ」
「んん? そーだよ。白猫に負けるのだけは嫌だー、って感じで、普段べんきょーしない生徒もべんきょーしてて、ちょっと感心感心、な期間だね」
ふむ、とハオは頷くと……。
「今日って別に見回らなくても良いんじゃない? だって、皆 大広間で勉強してるんだからさー。普段勉強サボるヤツも今回に限ってはいないし。 白猫に負けねー効果、蓮季せんせーの効果が抜群に出てて、出席率100%だ」
「うっ……」
ギクリッ、と胡蝶は身体を震わせた。
実の所、そのくらいは判っていた。監督生として生徒を導き、時には罰を下し~が主な仕事。他の業務も勿論あるけれど、
「胡蝶姉さん?」
「な、なんでもないヨ。手李亞! ほら、万が一ってこともあるだろうし。油断大敵だヨ」
「ん~ それもそーだけど。……ほれ、せっかくの勉強合宿だ。オレ達も参加しようぜー。飛び級だし、物足りないかもしれんけど、監督するって意味じゃ出来るだろ? 学力向上に寄与。おー、優等生っぽく見えるかも?」
「……ハオは普通に優等生だヨ。非の打ち所がないとはこのことだし。苦難困難、ぜーーんぶ楽しんじゃうし」
「なんだよー、褒めても何も出ないぞー」
わっしわっし、と胡蝶の頭を撫でるハオ。
それを振り解こうとブンブン頭を振る胡蝶。
そして、手李亞は何処か楽しそうに、2人を見ていたのだった。
学園内のパトロールをしていたが、ハオの提案を聞いて3人で合宿場へ。
ガチャリ、と扉を開いたその時。
「しゃっらーーーーっぷ!」
非常に大きな声が聞こえてきた。思わず背筋が伸びてしまう様な感覚。頭の芯にまで響いてきて、眠気があったとしたら、はっきりと覚めるコト間違いない、と思えるもの。
「ブヒブヒ鳴くしか能の無い豚どもめ! 次許可なく鳴いたらローストにして晩餐に並べてやるゾ!」
なかなか過激な発言が次に聞こえてくる。流石は黒犬……と言いたい所だが。
「おー、蓮季先生モードか。結構久しぶりかもだ」
「眼鏡かけた蓮季ねー。人格変わっちゃうって評判の」
「ちょっと怖い……」
教壇に立つ蓮季は、びしっ! と教師眼鏡をかけ、目つきを鋭くさせて睨みをきかせている。私語の1つでもしようものなら 即座にチョーク攻撃が飛んでくるだろう。
「そこ―――! 遅刻はゆるさんゾ!!」
チョーク攻撃、じゃなく参考書攻撃が飛んできた。中々の重量物が矢のように飛来してくる。これは当たれば、まさに頭が真っ白に冴えきってしまいそう……だが、かなり痛そうなので、甘んじて受けるコトはしない。
「べんきょー中に失礼~。混ざりに来たゾー」
「む。私の指導を受け止められて少々驚いたが、ハオだったか。貴様、
「ん? 今仕事中だぞ。ほれ、2人いるだろ?」
ひょい、っと横にズレると やや引いてる手李亞と、苦笑いをしている胡蝶が目に入る。
流石に年下であっても先輩な上に
「これは、胡蝶先輩に手李亞先輩。どうも失礼しました。豚どもへの制裁中だったので。どうか、今は許していただきたい」
言葉使いこそは、丁寧だけど、威圧感はバリバリに感じるから、やっぱり気圧される手李亞。
「ま、まぁ 勉強を頑張る事は良い事ネ。しっかり自力を付け、テストを乗り切るよーに」
胡蝶も圧されそうになったが、しっかりと対応していた。
でも、姉の陰に隠れてる手李亞はなかなか出てこれない様子だ。ハオはひょい、っと手李亞の横についた。
「ほれほれ、手李亞がんばれ」
「う、ぅぅ……」
「んー。手つないでてやろうか?」
「だ、大丈夫。私も
手李亞は、すっと前に出た。
「皆、頑張って」
ビビってた手李亞だったが、必死で笑顔のエールを送る。
それを 受けた黒犬生徒たちが一気にやる気を見せた。不器用で、ドジな所もあるけれど、普段から一生懸命だから 黒犬の皆は手李亞のコトが大好きだから。
変な意味じゃないヨ?
「うぉーしっ、オレも今日は頑張っちゃおうかなー。と言うわけで、ペナルティクリップは任せとけ!」
ハオはと言うと、いったい何処から取り出したのか、勉強中に寝る様な真似をした生徒に制裁を下すアイテム《特性クリップ》を無数に取り出していた。10~20はあるであろうクリップ。……まだまだ増えていき、最後には器用に両手でホイホイっ、とお手玉。
先ほどまで、手李亞効果? でほのぼのとしていた空間が一気に冷めた気がする。
「特に露壬雄くんは重点的に行くからね~?」
きらんっ! と目を光らせたハオ。その視線の先にとらえているのは犬塚。
射貫かれたコトに気付いた犬塚は 身体を震わせた。武者震いだろう、きっと。
「特別サービス。しょっぱなから、クリップ×10から行くゾ?」
「なんでだよ!」
「いやいや。ほら、頼まれたし?」
「いや、誰に!?」
「……色々と思う所あるんじゃね?? ほれほれ、胸に手をじーーーっくり当てて~。考えてみ??」
犬塚は、また身体を震わせた。思い起こすのは白猫の姫の事か、或いは黒犬の兄の事か……。
そして、ハオは 意味深に犬塚に笑いかけると、その隣にいる黒犬の生徒? に視線を送った。
ハオの視線に気づいたその生徒は、咄嗟に犬塚の後ろに隠れた。
勿論、そんなので隠れきれる訳はない。
「これもまた良い、とは思うけど、危ない遊びは程々にな? シャルも心配するしよ」
「ッ……」