意味深に笑うハオ。
事情を知らない生徒たちがその笑みを見ても、いつも通りの顔だ、としか思えないだろうが、
驚きと焦りを隠せる事が出来なくなってしまっていた。
平常心でいられず、心臓がバクバクと脈打つのが聞こえる。
「(バレた……? 一目で?? なんで!?)」
そして 訳が分からなくなってしまって混乱してしまった。
毎日の様に顔を合わせている生徒でさえ看破できなかった筈なのに。
因みに直ぐ横にいるのに、犬塚は全く気付いていない様だった。
何故なら、ペナルティクリップを受けてるから。
「いだだだだだだだだだーーー!!」
「ほいほい、まだまだ~ 後20~」
「ホアアアアアアアアアアッ!?」
「ほあーちょー? カンフーの掛け声? おー、まだまだ余裕あるみたいだなー。頑張れ! いぬづかー! まけるなーいぬづか~! よっ、黒犬リーダーっ!」
しれっとドSっぷりを発揮しているハオ。
流石はウエスト公国
「くくっ、いいザマだぜ」
犬塚の事を笑っているのは丸流。正直に言えば 犬塚も丸流も成績はどっこいどっこい。笑える立場かどうか、と問われれば首を大きく横に振る。
「んっんー? 丸流くんも一発イッとく?」
ニコッ、と良い笑顔を見せるハオ。
その笑顔を向けてくる時、決まって何か嫌な事が起きる前触れである、と言う事はよく判っている丸流。自分自身に非がある時に限ってその笑顔が向けられるからだ。以前、ペルシアを襲った時もそう。
そして、今回も同じく。
「な、何でだよ! オレは犬塚みてーに寝てねぇぞ!」
「違う違う。ほれほれ右手右手~」
「………あ」
丸流の右手にしっかりと握られているのは携帯。持ち込みは校則違反。今は小テスト中。完璧なカンニング行為。
「バレなきゃ良いのよ~? 反則も戦略の内~ とか思ってたんでしょぉ~? まるっち」
「誰がまるっちだ! それにきもい口調で喋んじゃねぇよ!」
「はっはっはー、今のオレは 仮監督生+蓮季せんせーの助手なんだぜー ……と言う訳で、クリップ30ペナルティ、で手を打とうか?」
「普通に死ぬわ! そもそも犬塚みてーに顔でかくねぇし、んなに摘まめるか!」
ワキワキ、と両手をせわしなく動かして威嚇するハオ。丸流は必死に抵抗を試みてる様だ。
「でも違反は違反だよなー? 元々の校則に加えてテストに携帯って。どー考えても、カンニングの流れじゃん? な? そう思うよねー?」
ぽんっ、と後ろにいた彼? の頭に手を置いた。
先ほどのハオの言葉で、混乱をしてた様だが、それでどうにか立て直した。
……或いは、立て直させてもらえたのかもしれない。
「う、うん僕もそう思う。そういうの嫌いかな。……正々堂々と戦うのが格好良いと思うよ」
「っ………!!」
丸流は、何か電流にでも打たれたの? って思う勢いで身体を震わせて、そして ドカッと腰を下ろした。さっきまで逃げる気満々、って感じだったのだが。
そして、次の瞬間、手に持ってた携帯を思いっきり床にたたきつけて粉砕させた。
「いやいや、何も壊せ~とまでは言ってないんだけどさ」
「うっせーし。携帯前から気に食わなかっただけだし! おらっ! ペナルティでもなんでもやりたがれってんだ!」
「……ねー 土佐くん、古羊くん。丸流くんってこんなキャラだったっけかな?」
「いやいや、丸流君!? なんか変になってるよ!」
「変じゃねーし! ただムカついたから、手頃なモンぶっ壊したくなっただけだし!」
「さっきと壊す理由変わってんじゃん」
あはは、と笑うハオ。どんな理由にせよ、丸流がやる気を出した事は素直に喜ばしい事だ。
「あれ? 丸流にペナルティクリップをするんじゃなかったの? ハオ」
「うん? いーや。ペナルティ出すまでもなく、やる気出したし。それして、折角出たのにストップかかっても本末転倒だしなー、って思ってさ」
「ま~ったく。やっぱりちょっと甘い所あるよネ? 校則違反は違反だっていうのにサ」
「だいじょーぶ。その分犬塚にペナルティ課しといた! だって、黒犬のリーダーだし?」
ニコニコと指さす先にいる犬塚の顔面には特性クリップ。もう顔面が完全に見えなくなっていて、これ以上追加は面積的にも無理! なレベルだ。
胡蝶は苦笑いをし、手李亞は『凄く痛そう……』と若干青ざめていた。
「それで、チョーちゃん達はどうだった? 今回も皆 乗り切れそう?」
「勿論だヨ。思った以上に今回も頑張ってる見たいだからネ。感心感心、って所かな?」
「立役者は間違いなく蓮季。流石、次期
この学園は名門と呼ばれている。故に赤点を取ろうものなら その
そうならない為に、蓮季は皆の勉強を見ている、と聞いた事があった。喧嘩ばかりしてて、体力に自信がある生徒は多いけれど、やっぱり頭を使うのは苦手みたいだったから、大変そうだが、嫌な顔1つせず、キビキビと教えている。誰も落第! の印を押された者がいないのは、蓮季のおかげだ、って言っても過言じゃない。
「ハオ君ハオ君」
「どーした、手李亞?」
「……回想に入ってる様だけど、そろそろ皆止めた方が良いと思う」
「ん? …………」
さっきまで丸流さえも勉強に参加! 集中! となり、犬塚もペナルティ喰らいながらも必死に勉強してて、流れは良い感じだったのに。
『おっぱい・おっぱい・ Oh・PIE!』
何だか合唱でもしてるのかな? って思える程のおっぱいコールが沸き起こってた。回想に入ってたとは言え、どうして気付かなかった? って思う程。
「うぅ………」
「感心して損したヨ。このセクハラ軍団」
手李亞は 極度の照れ屋からくる顔の紅潮。
そして胡蝶は、気にしてるコンプレックスからくる苛立ち。
あまり、その単語を連呼するのは確かにセクハラだ。
仮監督生として、罰則を下す時である、と同時にハオは行動開始。
あなたは暗器使いですか? と思える程の高速クリップ構えを見せるハオ。
そして、そんな不真面目を見過ごす筈のないこの勉強会のボス、蓮季。
2人が一気に詰め寄った。
「ハイ、罰っゲームっ!!」
「まじめにやれ………」
蓮季の有無を言わせぬ鬼オーラ。
ハオのクリップ磔地獄。超攻撃が古羊を襲った。
「ホアアアアアア!!! い、いえええっすすすすs、まぁぁぁぁぁむぅぅぅーーー! さぁぁぁーーーっっ!!」
そして古羊の悲鳴が部屋中に木霊した。
「……さっさと席に戻れ」
「ちゃんと勉強する事! 良い?」
仁王像も真っ青な睨みを見せる蓮季と、ニコッ、と笑うハオ。
まさに アメとムチ? な感じだけれど、どちらも恐ろしいのは間違いないから、ムチとムチだ。だからこそ、皆一斉に席へと戻っていった。
そして暫く勉強会を見てて、時計を確認。
「ふぅ。ん? あー そろそろ戻んなきゃ。時間だ」
勉強合宿にずっと付き合いたい、とは思っているが、今は自分のするべき仕事が残ってる。勿論、仮監督生としての仕事。監督生の代表である藍瑠に言われた時間もしっかりと守らなきゃならない。
「丁度良い頃だネ。皆~ テスト頑張れヨー!」
「頑張ってー……」
手李亞と胡蝶のエールを受けて気合が入る生徒たち。これこそがアメだ。蓮季とハオは完全なムチ。
「んじゃあ、オレ戻るから。蓮季も頑張れよー」
「言わずもがな、だ。監督生の仕事は大変だと思うが、ハオも頑張れよ! テスト、油断するんじゃないゾ! ポカミスもするなよ!」
「だいじょーぶっ。勉強疎かにするなら、監督生の仕事はしないって。ふっふっふー、また勝負するか蓮季!」
「望む所だゾ!」
ばちんっ、と蓮季とタッチを交わした後、何だか視線を感じたが、とりあえず用事があるので振り返る事なくそのまま退出した。
その後は監督生の仕事をただ只管熟す。その内容は基本的に手李亞と胡蝶の仕事の補佐。
目安箱の中身の回収、そして返答をしたり、予定されている行事の仕切り、その段取り。今は合宿真っ最中だから、前準備も含めて指示書の発行。勿論校内の見回りも忘れず。
やはり、監督生の仕事は大変。重労働もあったり、頭も使ったりと実に多彩。
でも、そこが良い! とハオは笑顔で仕事を熟した。
「いや~ ハオのおかげで助かっちゃってるヨ。もー白猫なんかに行かず、ず~~~~っと黒犬側に根を下ろしてくれると助かるんだけどネ?」
「うん。想定よりずっと早くに終わったネ」
ぽんっぽんっ、とハオの背を叩く双子の姉妹。
冗談気味に聞こえるけど、真剣さも含まれているのは 接してるハオが誰よりも解ってる。必要としてくれる事も嬉しいが、やはり自分がやりたいのは、この学園を存分に楽しんで、勉強もして、沢山の輪を繋げる事。
そのためには、どちらかのみ! としてたら出来ない。
「悪いなー、2人とも。オレってば 白にも黒にもなれるからさ。どっちかに固定してると、灰色になっちゃうんだー」
「ソッカー。って、訳わかんないヨ!! 灰色って何!?」
「体調……悪くなっちゃうの??」
それっぽく言い繕ってみようにも上手く表現が出来ない。
でも、よくよく考えてみれば 言い繕う意味は無い。自分に正直に。
「オレはさ。白猫の連中も黒犬の連中も皆大好きなんだ。何で分かれてんのか、たまに判らなくなる程にな?」
「「…………」」
そして、そんなハオの言葉を聞いて、笑顔を見て、ハオと同じ気持ちになる生徒だっている。黒犬と白猫。ウエストと東和。その関係を知っている筈なのに、その笑顔の前ではどうでも良くなってしまう事だって多々ある。
でも、それはあくまで一個人の考え。この高い壁に隔たれた関係を一時の感情だけで肯定し続けるなんて出来るもんじゃない。
「そっかー、まっ、ハオは特別製だしネ。例外中の例外。猫犬に成れる生徒なんて、歴史あるダリア学園の中でもトップ。最上級の例外だもん」
「うん。……でも もし、ハオ君の様な考えの生徒達の間にも増えたら、…………この学園は」
あり得ない、と頭の中では判っていても、その大きな時代の流れに、大きな波に乗ってみたい。と思わずにはいられなかった。
「んー、ま あくまでもオレはさ。部外者。どんな頑張っても出生はかえらんないし、環境が違えば考えが違ってたかもしれんし。ほれ、仮にウエスト側にオレが生まれてたら、毎日犬塚とケンカしてて、打倒黒犬~~!! ってなってたかもしれないしな? ちょーちゃん達ともやり合ったり?」
「んー。毎日ケンカ、っていうのは否定しないけどさ。打倒~云々は、正直想像つかないかナ? だって、ハオはハオだもん。どっちに所属してたって、ルール無視上等! って感じで、両方にきそうだヨ」
「わたしもそう思う……」
「はっはっはっは。そーかもっ! ……んん、でも学園追放! とかなっちゃいそうだけど」
「あー、それも当然あるかもネ。でも、どーにかして復帰してきそう。ヤられてもヤられても」
「倒れても倒れても。……例え、死んじゃっても??」
「あはははは! 頑張りがいがありそうだ! ……って死んじゃってもって! コラコラ。オレゾンビじゃないぞー!」
あはは、と笑いながら残りの仕事を熟す3人。
そんな3人を遠くから眺めている者がいた。
「ふぅ~ん……… 恋人を男装させる変態犬に、小さい子達を誑かしてる浮気者かぁ………。どっちから 先に行こうかしらぁ?」