突然の犬塚の登場。
当然ながら、場は騒然とするし、何より敵国の……じゃなく黒犬の犬塚と言うだけで十分過ぎる程のインパクトがあった事だろう。だがそれでも直ぐに冷静に、激昂しつつも相手をしっかりと見たペルシアは直後に臨戦態勢になるのは流石の一言。
「何をしに来た! 犬塚!!」
そして、ペルシアを守る様に左右に控える白猫の生徒達。その中には先程までダウンしていた筈のスコットの姿もある。ペルシア絡みになると 不死鳥の如く復活する事は今まででも何度か見た事ある。黒犬に、犬塚に何度かぶっ飛ばされたりする事がどちらかと言えば多いスコットなのだが……この辺りはある意味凄い。
「アホめ……」
あっちゃぁ…… と頭を抱えるハオ。
『ハオ! アンタがこっちに連れてきたの!?』
『何か、犬連れてきたのか!? みたいに聞こえるな? その言い方だったらさぁっ?』
『この状況で笑うな!!』
と、入ったばかりの最初の頃ハオだったらこんな感じのやり取りをするだろうけど、流石にそれは無かった。そもそも朝からずっとこっちの授業を受けているしこんな事する暇が無いのは周知の事実なのだが……と言うツッコミは置いておこう。この辺は理屈じゃないから。
兎も角犬塚は言い訳を頭の中で探しつつ口にしているのがよく判る。
「ま、待て待て!! オレは喧嘩をしにきたわけじゃねぇんだ!!」
「じゃあ何の用よ!?」
当然の追及だろう。
そこへやれやれと首を振りながら助け船を出そうとしてるのはハオ。
ハオは、先ほどの黒猫の男の子とのやり取りから判る様に何だかんだで面倒見が良かったりする。
「こいつらを連れ戻しに……だろ?」
「あぅっ」
ハオは 男の子の頭の上にぽんっ と手を置きつつそう言った。
「理由知らんかったら無理ねぇって。白猫生徒に連れてかれる姿をみりゃあよ?」
「あ、ああ! も、勿論
「…………」
連れ帰る為だけ。それが理由、と言う事にすれば簡単だし 最小限で逃げれる? ハズなのに自分から広げていってたのを見たハオはまたまたため息。
「あー、ろみお? こいつらはオレに任せといてくれ。汚したトコちゃーんと掃除させっから。そしたらオレが連れて帰るよ」
「お、おう!!」
少々強引ではあるが、これで終わらそう、としたんだけど 流石はペルシア。抜け目がなかった。
「ちょっと待ちなさい。……『それもある』って事はまだ何か目的があってこんなトコまで侵入してきたんでしょ! 一体何が目的なの!」
「っ……」
当然追及が入った。
それ以上はフォローするつもりはもう無かったハオはと言うと。
「そりゃそーだな。よくよく考えてみっと 幾らこいつらの為もある、とは言っても こーんなトコまで入ってくるなんて流石によ? 黒犬んトコって今は数学の授業だろ? 確か。……サボってて良ーのか?
「う、うぐ……」
犬塚の最大の弱点? それはハオが言っていた藍瑠と言う人物。犬塚との関係は何なのかは また追々。
「白状しなさい。……事と次第によっては 覚悟するのね」
男の子達には厳しくも優しく諭す様に言っていたペルシアだったが、当然犬塚には容赦の欠片も無い。下手な言い訳は火に油どころか火薬。
「う、そ、それは…… ぺ、ペルシアに……こ、こっ、こく、こくこくこく……」
「? こく…… 何よ?」
「っっっ(近ッ)!!! こ、こく…… 告訴だ!! 告訴してやる!!!」
「はぁっ!?」
何を言い出したかと思えば 言うに事欠いて《告訴》。
捜査機関に対して犯罪を申告して処罰を求める~ と言うのが告訴だが、現時点で同じ学園とは言え白猫側に不法侵入と言う 犯罪に近い事してるのは犬塚の方だろう。ペルシアの怒りもよく判ると言うものだ。
何か言い返そうとする間もなく。犬塚は逃げ出していた。
「あ、逃げた」
脱兎のごとく……と言う感じだ。脱兎と言うより、脱犬? 非常に速い。
色々と含めて、あまりに面白い光景とやり取りだったから、もう堪えきれなくなったハオは思いっきり噴き出し、大笑い。
「ぶあっっっはっはっはっはっっ!!! なんで告訴っ!? 入ってきたの犬っっ、ろみおのほーっっ! このじょーきょーで? なんで!? あーーーっはっはっはっは! いいわけするにしても、もーっちょっと考えろよなぁー。あーーーっはっはっはっは!!」
「笑ってんじゃないわよぉぉ!!」
ペルシアは、隣で大笑いしてるハオの事もムカついた様で、また襟首をつかんで引き寄せて特大シェイク!
「ほら見なさいよぉぉ!! アレでバカにしてなくて何なのよっっ!! 告訴っ!? なんで私が告訴されなきゃいけないのよっっ!!」
「あぶぶぶぶぶぶっっ!! ぺ、ぺる、ぺるぺるし、わか、わか、わかったっ!! わかったわかったぁぁぁ!! き、きもぢわるいから、や、やめやめーー」
「ペルシア様おちついてーー!」
頑張って気を静めようとしてくれてるんだけど……ペルシア全然放してくれない。
「どーなのよ!! なんとか言ってみなさいよーー」
「いえいえいえいえ、いえるるるるかぁぁぁ」
時間にして2~3分ほどシェイクされたハオ。頭の中からぐるんぐるんになったのは言うまでもない事だろう。
その後は気が済んだのか、ペルシアの機嫌が少しは晴れたのか判らないが解放してくれて、丁度稽古も終わり。
「あーうー……首いてぇー ペルシアってぜーーったい、腕力アップしてんだろ ありゃ……、ぜんっぜんオレ離せなかったし……。脳ミソかき回された気分だわ」
「そーぉー? あー、でもペルちゃん毎日頑張ってるからねぇ。女の子に言う言葉じゃない、って思うけどさぁ」
「それも認めるって。オレの眼から見ても頑張り過ぎって思う程やってるしさー。でも、ぜーーったい犬塚絡みだと思うんだよなぁ。あの面白パワーが出んのって」
「……ふぅぅん(犬塚………ねぇ)。でも 私はハオがペルちゃんからかったからだーって思うんだけどぉ……その辺は どー思う?」
「あん? オレ? あー、それもまぁ あるかもだけどな。ペルシアの事でちょっと楽しんだりしてるしなぁ~♪」
「うわぁー ドSねぇー」
「ぜーーったい言われたくねぇよぉ」
自然に会話が繋がっていくケド……当然会話の相手は 説明なくとも判る通り 音も無く現れたシャル。
普通ならその時点で驚きそうなものなんだけど、ハオはそうでもない様子。
「やーっぱり、ハオってサプライズ効かないわよねぇー? 愛しのシャルちゃんが突然戻ってきたって言うのに張り合いないわぁ」
「あー。ま、いつもの事じゃん? 突然背後に、とか。こんなんで驚いてたら身体もたんって。それにサプライズ~って言うなら今日のでお腹いっぱいだわっ。沢山笑わさせてもらいましたよー? はい」
「ペルちゃん、今日も色々あるって思うからぁ、報告聞こうかしら? その結果次第じゃ ハオ、今日はお説教よぉー」
「……そりゃ勘弁してくれ」
「んー…… どーしよーかしらねぇ……。ん~ なら膝枕とぉ添い寝で許してあげようかしらぁ?」
「さてさてぇー 今日はこれでお終いだしぃ~ 自分の部屋戻るわぁー」
「こらっ!! 真似するな! スルーもするなっ!」
「ちゃおっ!」
「逃ーげーるーなー!」
シャルのおねだり? は当然ながらスルー。ある程度の事なら(買い出しの手伝いや学業、公務に関する事 等々)聞いてやるハオだけど、今回のは訊いてあげなかった様だ。
白猫の王女シャル姫はまるで猫の様に身軽にハオを追いかけるが、ハオだって負けておらず、すいすいと逃げていく。これも恒例行事の1つ。
「あっはっはっ! ……って、ん??」
それは 逃げてる最中だった。
今日は本当に色んな事が起こると更に実感したのは。
毎日が騒がしい学園だが、また違う種類のモノが起きた。
視界の端にちらりと見えたのはペルシアと黒犬の面子3人。3人がかりでペルシアを抑えつけてるのが見えた。
「あー、シャル?」
「逃げるなー!! って、何よぉー。珍しいわねぇ。今日は観念したのぉ?」
「んーーーっ」
「…………にゃぁっっ!?」
ハオは、ぴたっ と止まった後にシャルを待って、思いっきり抱き着いた。
「今日はコレで勘弁してくれっ! ちょーーっと用事が出来た。オレちょっと遊んでくるからよっ!」
「は……? はぁ……っ?」
「ほらほら、まだ足りないか? よしよし、よーし」
「ふぁぁ……っ」
抱きしめた後に頭を撫でた。
さっきまで身軽にアグレッシブに動いていたシャルだったが、借りてきた猫の様に大人しくなった。それを確認した後に、解放。
「んじゃ 気を付けて帰るんだぞぃ? オレ明日から黒犬の方だから このままそっちの寮に行くからよー」
「…………うん///」
因みに こう言うスキンシップは初めてではない。
あまりに暴走しそうなときに、極たまに ハオはシャルを止める時に使う必殺技である。
シャルがちゃんと立ってるのを確認すると、ハオはまた 素早い動きでこの場からいなくなっていった。