毎日毎日元気が有り余ってる学生の諸君は今日も元気よく皆で戦争です。
東和とウェスト、黒犬と白猫の二つにパックリと割れているのは学園の入り口前広場。モーゼの十戒か? と思えるくらいに見事に割れている。そして臨戦態勢。互いがピリピリとさせていて、いい具合に気合の入った殺気を周囲に撒き散らしている。
バチバチッ、と火花も散らせている。
「目障りだから白猫は寮に籠っててくれない?」
「黒犬共こそ森にでも籠ってろよ」
「「は?」」
互いの挑発し合いも、いい具合にボルテージが高める事になり、場の空気も高潮していく。
そんな、無法地帯になりかけている中で、しっかりと指揮を執るのがそれぞれの寮のリーダー的存在だった。
「授業まで時間がないわ。……さっさと片を付けましょう」
じゃきんっ! とアルミの警棒を伸ばして構えるのは白猫の一年生リーダーペルシア。
その統率力は見事なもので、全員がただの一言で『イエス! マム!!』と口揃えて崇めている。単純にペルシアは実力も高く、成績優秀、容姿端麗、非の打ちどころがない存在だから当然かもしれない。しっかりと模範になれる様日々努力、研鑽を怠らないから背中で語っているとも言えるいわば男前だ。
片や黒犬だって この場においては まだ負けてはいない。
成績は……とりあえずノーコメント。
それに粗暴ではあるし、乱暴者でもある。……いや 負けている部分が多すぎるが、兎に角負けてないのは 力にかけては随一だと言う所だ。
単純な腕力勝負では間違いなく一年のトップクラスに君臨し、血の気の多い黒犬達を従え先頭に立つのは一年生リーダー犬塚。
黒犬……いや、狂犬とも言えるその鋭い視線は、それなりの威圧感を放つ。それだけで、生半可な覚悟しか持ってないものは、睨まれただけで萎縮させるとも言われてる狂暴性を秘めているのだ。
だが、それは昨日までの話だったかもしれない。
「ぶあーーーーっはっはっはっは!! ご、ごめっっ、も、もー無理!! ダメダメ、無理だって!! あーーーっはっはっはっはっは!!」
緊迫した空気の中で盛大に爆笑してるのが、丁度割れた間にひょいひょいと入ってきた男……ハオ。
その理由は、直ぐに判明する。
「ろ、ろみ……おっっ、 お、おまえ変顔も出来たのかっっ!? ぶっっっ、や、やばっっ、その顔、やばっっ、ろみ、ってか、お前誰っ!? お前誰っ!? ぶーーー!! な、なんかに似てる! なんだろっっ? い、いかん 考えが纏まんないーー」
頬は緩みきり、目は細く垂れ下がり、何があったのか デレ~~っとだらしない顔と言えば良いのか、如何ともしがたい、形容し難い顔になっていたので ハオは思いっきり笑ったのだ。
それにつられて 犬塚の傍にいた蓮季も 犬塚の顔を見たらしく、ぎょっ、としていた。
「ど、どーしたんだ犬塚。ハオの言う通り、変な顔になってるゾ!? そう、リャマだ。リャマみたいな顔になってるゾ!?」
「おおおお、流石蓮季だ! それ、それリャマだ! 今の犬塚はラクダ科リャマ! いやぁ 良い顔ですなぁ~。すっげー笑えるわ!」
「だだだだ、誰がリャマだコラ! お前ら!! 気ぃ抜けんだろうが!(あ、危ねーー つい気を抜いちまったよ……。ペルシアもにらんでるし。き、気を付けねぇと)」
犬塚は一瞬で顔を元に戻す。
気を抜いてしまった理由は、後ほど説明になるが 今は気を抜けない、と犬塚は両頬を思いっきり挟み込んだ。何せ 此処にはハオがやってきたから。ある意味抜け目の全くない男。少しの隙を見せたら、そこを一気に突き崩されると犬塚は知っているからだ。
それに、笑顔で楽しそうに追い詰められて、ひょいひょいやられてしまう。全然抗えない。そんな姿を見たら、軽くトラウマ物かもしれない。
そんなこんなで、一瞬だけ緊迫した空気が霧散したが、空気を台無しにした張本人が、慌てて手を叩く。
「わりーわりー! 邪魔したな。ってな訳で、授業始まる前に止めろよ? ペルシアの言った通り。遅刻したヤツは ペナルティあるからそのつもりでなーー?」
「……仮にも白猫側の
「おう! 良いんだ良いんだ。犬塚には笑わせてもらったからそれでOKだ!」
「笑わせてるつもりなんざねーーっての!!」
「はっはは! ま、それは兎も角 真面目に言うと、
「「「…………」」」
ここで、初めて黒犬たちは気付く。いつも喧しい三人衆が、何やらげっそりとしていたから。暴漢に襲われたのか? 或いは夢魔に生気でも吸われたのか? と思える程に。
何があった? と聞こうとする間もなく、ペルシアが号令を出した。
「黒犬を調教してやりなさい!!」
号令の元に、弾かれる様に動き出す白猫たち。そんな中で、ペルシアは 視線をハオに向ける。
「ちょっと! ハオは邪魔しないで、今、
「わーったわーーった。もう邪魔しないって。授業に遅れんなよ、ってだけだ」
「そんなの当たり前よ! それに、黒犬なんかに そこまで時間は掛からない」
ペルシアの強気な発言。勿論 沸点の低い黒犬側には刺さる発言だ。
「ふん! 言ってくれるな、ペルシア! 今日こそ決着付けてやるゾ! 行くゾ、犬塚!!」
「お、おお! とーぜんだ!!」
蓮季と犬塚を筆頭に、迎え撃つ黒犬。
今日も元気よく大乱闘開始。
ハオは、そんな楽しそう?な学生たちの全体を眺める為に、ひょいっと木の上に登って観戦をするのだった。
ふんふん、と気分よく見てたら後ろから迫る影あり。
「……仮とは言え、私の腕章も同然の代物を着用していたと言うのに。乱闘騒ぎを見過ごすどころか、悠長に観戦とは。……貴方はヤル気も並外れていたと思うのですが、見当違いでしたか?」
「ゆーれいみたいに気配消して後ろに立つなよー。それもここ木の上だぜ? びっくりするじゃん。ベルちゃん」
「その呼び方止めなさい」
怖いけど、それ以上に凛としててとても素敵と白猫では当然で、黒犬でもそれなりのファンを持つ人物。その蔑む様な氷の視線は ちょっと変な世界へ男を導く魅惑の眼。
本当の
「はははっ、でーも、やーっぱ ベルちゃんは素敵だよなぁ」
「っ……。何を世迷言を言いますか。突然」
「いやいや、ほれ オレにさいっしょっからそんな感じで接してくれてるじゃん? かたっくるしいの嫌いって言っても、なかなか難しいもんで レックスやケットでさえ 使わなくて良い気ぃ使ってくれてたってのに、白猫でシャル以外じゃベルちゃんが初めてだ、これでもマジで感謝してるんだぜ? オレ」
「……………」
からから、と笑うハオに言葉が詰まるサイベル。それは普段は決して見る事が出来ないサイベルの姿であり、この場に誰もいなかったのが幸いだと言えるだろう。もしも、とある人物にそれを見られていたとしたら……、白猫が赤く染まる可能性が非常に高かった。
「感謝してるからさ。ってな訳で」
ハオは にんっ! と笑うと手を伸ばしてサイベルの頭をそっと撫でる。
「あいつら見逃してやってくれって。ほれ、授業に遅れそうならオレも止めっからよ。……な? 恒例行事みたいなもんじゃん。堅物あいる とかも黙認してんじゃねー?」
「……気安く私の頭を撫でないで下さい。手、斬りますか?」
「怖いです。勘弁です。目が本気っぽいです」
「………………(本当に、貴方は……)」
何だかんだ言ってるサイベルだが、ハオの事は尊敬している。これまでの経歴を考えたら、誰でもそうだ。畏怖の念さえ覚えるだろう。でも、それを忘れてしまいそうな振る舞いを毎日のようにするから、こうやって白猫にも黒犬にも溶け込んでいっている。
それも才能の1つだ。
サイベルの視線は柔らかくなっていく。ハオを見てる分には飽きる事がないからだ。新しい発見が今日も、明日も、その後もずっと続いていくのでは? と思えるからだ。
勿論、サイベルは決して口に出しては言わないが。
そして これは ちょっとした波紋を広げるやり取りででもある。
ハオにとっては、『波紋? 良い経験だな』 と喜ぶかもしれないが……、いや やっぱり判らない。何故ならハオも理解しているから。
―――女の嫉妬は、怖いものだと。
「ふぅぅぅん………」
じっと見つめてる。
穴が開くのでは? と思う程見られてるのは はたして ハオなのか、サイベルなのか……。