暴姫さん? オレ遊んでくるから   作:フリードg

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5話

 

 

 

「私と言う愛妻がいると言うのに、良い身分よねぇ……。ハオ? こんなトコで浮気かしらぁ? それも学園内でなんて。 私はハオに側室なんて認めない~ と言った筈だけどぉ?」

「いきなり殺気全開でストーキングしないで下さい。怖いですよ??」

 

 

 

 つい数秒前までは、サイベルしかいなかったハズの場所に、何処から出てきたのか、シャル姫が来ていた。ハオが言う様に殺気を含んだそれは、明らかに破壊を欲し続け、それを愉悦にさえしている、と推定されるラスボス級の代物。

 如何にお気楽なハオでも、直前で強大な圧に晒されたら萎縮されると言うものだ。

 

 

 そして、サイベルはと言うと。

 

 

「おはようございます。シャル姫様」

「おはよぉ。そこまで畏まらないでも良いわよぉ。今は私は王女であると同時に、白猫の学生。サイベルは監督生(プリフェクト)。学生の上に立つ存在なんだからぉ」

 

 そんな威圧や殺気は何のその。何処吹く風。

 サイベルの精神力は並ではないと言うのは誰もが知っている事であり、監督生(プリフェクト)に選ばれる人材自体並ではあり得ない。

 

 ……と見たりもするが、厳密には少々違う。

 

 シャル姫は色々とパーフェクト。頭脳明晰、運動神経抜群。更にはそのドSな性格は M属性を持つ男子は勿論、そんな属性を持ってなかった者をも開花させ虜にさせてしまう程の能力を持つ。

 

 そんな王女様は、少々厄介な所はあるものの 非の打ちどころのないと言って良い。……だが、ハオ絡みだと色々とおかしくなる所がある。

 

 所謂 年頃の恋する乙女になるから、その仕草や素顔が愛らしい……とまた広範囲で慕われると言う二重効果で国が盛り上がった事があったのはまた別の話。

 

 サイベルはその辺りの事も重々に判っているのだ。側室……と言う単語を使われた時に、あからさまにとは言わないが、やや頬が熱くなる気持ちだったのはまた別の話。

 

「さぁて、ハオには説教の続きねぇ……、ってあら?」

 

 眉間に皺を寄せながらくるり、とハオの方へと向き直すとそこにはもう彼はいなかった。

 

「まぁた、アイツ逃げて……」

 

 ぴくっ、ぴくくっ! と目元を動かしながら怒の気配を強めるシャル姫、だったが。

 

「だ~れが逃げるって~?? まぁ 逃げるときは逃げるが 今じゃないんだなぁ、これが」

「わぁっ!」

 

 いつの間にかシャル姫の背後にいた。僅かな時間で まるで瞬間移動をしたのか、と錯覚してしまう勢いだった。

 ぷにっ、と頬を軽く抓むハオ。

 

「ほーれ、そんな怒るなって、前にも言ったろ? 怒ってると皺になっちまうぞー、ってよ。嫉妬するシャルもたまにゃ良いけど、怒るトコはいらな~いって感じだ。ただ朝の挨拶~程度で怒ってちゃ身が持たんぜよ??」

「なにふんのほぉ~! こふぉっ!」

 

 ぶんっ、と見事な回し蹴りを見せるシャルだったが、それを跳躍して回避。宛ら猫の様だ。……今は白猫の方にいるから?

 

「にゃははは~。ほれ、オレはベルちゃんと楽しく話してただけだってーの。誤解与えたなら謝るけど、間違いはないよなー? ベルちゃん」

「その呼び方止めてください……と言っても無駄なのは判りました。楽しく、と言われれば聊か疑問が残りますが。白猫と黒犬、学生同士の喧嘩を楽観視してる仮監督生(プリフェクト)に説教を少々、で御座います。シャル姫」

「むぅ……(それ位 見てたら判るわよぉ。ハオの接し方が悪いって言ってんのぉ! ……でも)」

 

 ハオの楽しそうな顔を見ると、やっぱり自分も嬉しくなる所があるのも事実だった。

 自分だけのものにしたい、と言う独占欲が凄く出ているのは判る。それ程までにハオはシャルにとって全ての意味で魅力だったから。初めて怒ってくれて、初めて分け隔てなく接してくれて、……そして意識し出した初めての異性だった。

 

 でも、やはり独占欲より 外を楽しんでるハオを見るのも好きだった。

 

 鎖国国家から出てきた男は、ずっと抑えつけられた枷が外れた子供の様にはしゃぎ、笑顔を見せる。

 

 

――――そして、人を惹きつける。

 

 

 

「しようがないわねぇ……。キミは私のものなのは決定事項だし。少しは寛容な所を見せてあげないとぉ、かしらぁ?」

「おん? なんだか珍しいなぁ、シャルが そんなコメントくれんの。でもそーだなっ、寛容なの大歓迎だぜ!」

「なーに犬みたいに鳴いてんのよぉ。……ま、犬になったり猫になったりするハオらしいけど。……でぇもぉー」

 

 きらんっ! と目が光った気がした。それ以上に何か妖しい気配も醸し出しているシャル姫。

 

「ガチな浮気はぜーーったい許さないからぁ。側室も今は(・・)認めてないし。そんな事した日には、犬の首輪と猫の首輪を合わせて繋いで 真剣なペット化、調教させるからそのつもりでー。 あ、もちろん ちょん切る(・・・・・)手前まで行くかもしれないから、気を付けなさいよぉ?」

「ちょん切るって何処(・・)を? とは訊かんよぉ。セクハラ~ って言われるかもだしぃ。はしたな~~い、っ思われるのとかシャルが可哀想だしぃ」

 

 何だか背筋が凍りそうな物騒な話なのだが、笑顔で話してる。雰囲気は全然悪くなく、寧ろそのやり取りそのものを楽しんでる節も見える。

 サイベルは、2人を見ていて シャル姫も明らかにハオの影響を受けているのだろう、と思えていた。暴姫(タイラント・プリンセス)と言う渾名が過去の物になる……と言うのも近い未来なのかもしれない。

 

 

 

 

――事も無い。

 

 

「……そう簡単には変わらない。でしょう? シャル姫」

 

 サイベルは自分で自分が考えていた事を頭の中で消去した。

 そして、ハオの姿を目に焼き付けた。今まで通りだ。

 楽しそうに話している素顔を。時折真剣さも出して どんな困難も笑って乗り越える姿を。……いや、困難とさえ思ってないかもしれない。ただただ、楽しそうに進んでいく彼の素顔を。

 

 

 ハオに魅かれている1人として。

 

 

 そして、サイベルはさり気なくシャルが口走ったあるセリフを深く胸の奥へと仕舞うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、シャルとじゃれてたら 授業開始5分前のベルがなり響き―――。

 

 

 

 

 遅れるなよぉー、と言っていた自分が遅刻ギリギリに戻ってくると言うお約束な展開をさせて 笑われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして 休み時間。

 

「ん~~。やーっぱペルシア腕上げてるなぁ、こりゃウカウカしてらんねー」

 

 ん~~ っと背伸びをしながら校舎へ戻っていくハオ。

 因みにフェンシングの授業をしていて、例の如く ペルシアに絡まれ、更にスコットにも絡まれ、最後はスコットをシャル姫が調教して、終わる。

 白猫のいつも通りの光景だ。

 

 そんないつも通りの授業、いつも通りの道、いつも通りの毎日~だったのだが。

 

「んーー? 校舎をよじ登ろうとするヤツを見るのは初めてだな。それも2人も」

 

 ふと見てみると、しゃかしゃか、と登っている影が1つ、いや2つあった。凹凸がそれなりにあるとは言え、表面はつるつると磨き、輝きさえも見せる白猫の白い校舎を素手で登るとは見事。と言いたいが、これは頂けない。

 

「ありゃ、ろみおとスコット? ろみおは 黒犬の制服で判りやす過ぎだって。その上あそこ女子更衣室だし」

 

 校舎内は勿論把握している為、今2人がいる場所が何処になるのかは直ぐに判った。

 つまり、覗きをしている、と言う事? 

 

 

『私は警備をしているだけだ!!』

『嘘つけテメェ!! そう言ってお前こそがのぞく気だったんだろ!? 真面目そうな顔してスケベェだな! このスケベメガネ!』

『誰がスケベメガネだ!! キサマこそ無防備なペルシア様を襲うつもりだろ! この卑劣漢!』

『そ、そ、そうさ!! フハハハハ! 無防備な所じゃイチコロよ!!』

 

 

 ああも主張しながら覗くとは本当にいい度胸だと思う。

 場所が場所だし、普通に警察に届ける事案。

 

 

「んでも、それもまた良いな! ある意味新しい!」

 

 

 にんっ、とハオは笑ったかと思えば、庭に備えてある水やり用のホース手にした。先に拳大の石をきゅっ、と縛ってくっつけて、ホースつき石を投石。

 

『ぶっ!!』

『うおっ!!』

 

 先ずはスコットの頭に直撃して、上手くスコットの制服の中へと石は入っていった。

 

 

「くおらぁ、お前ら~~! 軽犯罪法違反(窃視)、迷惑防止条例違反に相当するぞぉーー! ってな訳で、降りてこ~~い」

 

 ハオはホースに力を入れて引き戻すとスコットが落下。

 

「んぎゃあ!」

「ほい、先ず一匹目~ さーて、ろみおもおりてこーーい」

「な、何でここにいるんだよ!?」

「いやいや、いるだろ、ここ白猫。オレ今白猫。黒犬はまた来週。 おっ、ろみおの場合 建造物侵入罪も合わさってハネ満だなぁ。うんうん。あいるに報告しとこうかな~? 特大説教の方が効果はありそうだし」

「そ、それだけはかんべ……って、ぎゃあああ~~~!」

 

 ハオが降ろすまでもなく、動揺して手を滑らせたろみおが勝手に落下していった。

 2人とも、木やら植え込みやらがあって 落下の衝撃はそれなりに軽減されたみたいだけど、完全に気を失っている。

 

「しょーがないかな。落としたのオレだし。うん、黒犬まで連れてくか。最後は蓮季辺りにろみおは、任せるとして……」

「スコットは私がやっとくわぁ~」

「おっ、よろしくどーぞ! イケナイ事したから 人格かえない程度に罰しといてー」

「うふふふ~ 腕がなるわぁ~」

 

 いつの間にか傍にいるシャル。スムーズに会話を続けられるところがやっぱり凄い。

 小さいときも変わらず、いつもいつも悪戯目的でシャルはハオを驚かせようとするのだが最後にはシャルが負けるのだ。

 

「んでもぉ、シャルが浮気しちゃったら、オレ泣いちゃうかもしれんよぉ? さっきだってスコットと仲良さげだったしー。文字通り尻に敷いてたしぃー」

「……はぁ!? な、何言ってんのぉ! 私がそんなのする訳ないでしょー! ただ、玩具と戯れてただけで、そんなんじゃないわぁ! 一切、ぜったい!!」

 

 シャルが興奮しきった所で、ハオは笑顔でネタバレ。

 

「愛されてるね~ オレ。嬉しいわぁ~」

「って、ハオっっ~~~!!」

 

 

 からかわれた事を理解して 顔を真っ赤にさせるシャル。

 

 目立つし、賑やかなので 2人は白猫の名物の様なものなのである。 


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