夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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ちょっと原作改変入ってます。






幕間
『悪魔の子』との出会い


「あら?」

 

外観が良さそうだからと偶々入った高級店。そこに思わぬ人物がいた。

 

「………何故、お前がここにいる"月光"・ルナ」

 

「それはこっちのセリフよクロコダイル」

 

つい最近に初めて会ったこの男と、まさかこの短期間にこんな場所で再会するとは夢にも思わなかった。

 

 

 

先日、『アラバスタ王国』から手紙が届いた。それは前のレヴェリーの事で、『アラバスタ』と『ドラム』のアレコレに巻き込んでしまった謝罪と、ビビからのパーティーの招待状だった。ただ招待状については、あまり気にしないでくれとのコブラ王からの直筆の手紙も添えられていた。

 

『アラバスタ』はグランドライン前半の海。私の国『ナイトミスト』は新世界にある国。例え軍隊であろうと、航海するのにかなりの危険が付きまとう。コブラ王はその事を気にして手紙を添えたのだろう。

 

しかし、友好な関係を築けるかもしれない国からのせっかくの招待状。良い機会だし行くのはアリだ。そこまで行くのが危険だとしても、そもそも七武海の私にグランドラインを航海するなどまったく問題にならない。

そう言うわけで、私は側近二人を連れて『アラバスタ王国』へとやって来たのだけど………

 

同業者に遭遇するとは夢にも思うまい。

 

「前半の、しかもこんな序盤の海に七武海の一人が拠点を置いているなんて………そんなこと普通は誰も思わないでしょうね?」

 

「そう言うお前の国は新世界にあったと記憶しているが。観光にでも来たか? 随分とお気楽なものだぜ」

 

相変わらず喧嘩腰なのはどうしてなのか。そんな敵意剥き出しだと、私としてもついつい捻り潰したくなるから止めて欲しい。

 

「はぁ………アラバスタにはパーティーのお誘いが届いたから来ただけよ。そんな警戒しなくても良いんじゃないかしら? それとも、何か疚しいことでも?」

 

そろそろ本当にクロコダイルが向けてくる殺気がウザい。それに、リィルがいつ我慢出来なくなるか時間の問題だ。流石に私達の手で七武海にまた欠員が出るのは、少し不味い。

 

だから渋々、彼に私達の実情を報告したのだが…………何故、懇切丁寧にこの男に説明しなければならないのだろうか。

 

「アラバスタとテメェん所の『ナイトミスト』は繋がりも何も無いだろうが。何が狙いだ? この地域は俺の縄張りだ。俺の目が黒い内は好き勝手―――」

 

「ねぇ………国と国との友好ってさっきから言ってるわよね。国の内情を余所者に晒け出すわけ無いじゃない。馬鹿なの?」

 

暇潰しで来たとは言え、此方も長旅で精神的に疲れているのだ。私の騎士二人と穏やかなランチを楽しもうとしていたときに、堅苦しい男と出会い、そんな男に敵意を剥き出しにされている。ストレスが溜まるのもしょうがないと思わないかしら?

 

「テメェ……調子に乗ってんじゃねぇぞクソガキ………!」

 

「………これだから海賊は嫌いなのよ」

 

本当に力を持った海賊はめんどくさい。

力は誇りを持たせ、欲が生まれ、それ以上の力を求めるようになる。その過程で人は付け上がり傲慢となる。

 

元海賊のこの男も同じだ。所詮同じ穴のムジナ。更なる力を得ようと画策している。

だから、それを脅かす可能性がある敵には威嚇し、プライドが刺激され、目障りであれば殺すことも躊躇わない。

 

「私は止めはしないわ。でもそうね………今日で七武海にまた一人欠員が出てしまうわね」

 

「…………ハァ、どうやら本当に死にてぇらしいな」

 

クロコダイルの額に目に見えてわかるほどの血管が浮き出る。どうやら相当怒ったらしい。

彼の能力なのか、右手が砂に変化したように形が崩れる。

 

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)

 

一瞬。右手が砂に変わったかと思うと鋭い刃に形が変わり、その右手が振り下ろされる。

 

形容するなら、それは巨大な斬撃だ。

砂の刃は彼の手から離れ、店の床と天上を容易く切断しながら恐るべき速度で此方に迫ってくる。

 

だけどそれは私の下には届かない。

 

「そう簡単に王の首を獲れると思わないことです」

 

天地を両断するように迫った刃は、それ以上の大きな斬撃によって欠き消された。

 

私の視界が真っ白に染まる。

純白のドレスかと勘違いしてしまう位に装飾が施された白銀の鎧。穢れを知らない戦乙女のようなその姿は、一瞬にして私の心を鷲掴みする。

 

私を庇うようにクロコダイルに立ち塞がり、彼の攻撃を防いだのは私の最愛の騎士。

 

「テメェは……」

 

「シルヴァ・リィルと申します。 さようならミスター・クロコダイル」

 

リィルはクロコダイルにそう告げると、霞のようにその姿を消す。

 

直後にクロコダイルの後ろに現れた彼女は、無防備なその背中を切り裂こうとして、クロコダイルの義手フックで阻まれてしまっていた。

 

「チッ……覇気使いか」

 

「流石は我が王と同じ七武海が一人。前半の海で私の剣が受け止められるとは思いませんでした」

 

「ぬかせ!」

 

店内だというのに砂嵐が巻き起こり、続く突風は鎌鼬のように部屋中を切り裂き始める。

 

二人の衝突で騒ぎがあっという間に広まったのか、店の中は店員含めて誰もいなくなってしまった。たぶん店の外は逃げ惑う人々でごった返しになっているだろう。

 

それくらいは危険な場所と化した店内なのだけど、私はその戦いから目線を外して、未だに店内から逃げないでいるクロコダイルが連れていた部下らしき女性に目を向けた。

 

見たところ傍観者に見合う程の実力者には見えない。二人は様子見程度で戦っているが、本格的に二人が争えば彼女は人堪りも無いだろう。でも、それがわからないほど弱いわけでも無い筈だ。

 

逃げるなら今なのに、それでも彼女は未だに動こうとしない。

 

「ねえ」

 

「ッ!」

 

興味が湧いて話しかければ、弾かれたように彼女は私の方に目を向けた。

目が合った彼女の顔は、私が考えた通りまったく余裕が無かった。

 

「貴女、早く逃げないと死ぬわよ?」

 

「…………」

 

「何かの能力者なのかしら。自分の能力に自信を持つのは結構だけど、そろそろこの建物崩れるわ」

 

私の言葉にその女性は上を見上げる。

二人の戦闘に耐え兼ねた天井は大きな亀裂が張り巡らされている。天井を支える柱はポッキリと折られていて、建物が崩れるのは時間の問題だ。

 

この建物は町の中で最も高い建物。上階にはまだあと二階分がある。このままここに居ればぺしゃんこに押し潰されて死ぬ。

私の忠告はしっかり理解しているはずなのに、目の前の女性は席から立ち上がることすらしなかった。

 

「………噂では貴女はもっと賢くて、意地汚く生に執着する女って聞いてたんだけど? ニコ・ロビン」

 

「………そうね。自分でもそう思うわ」

 

「ああ。ようやくお話ししてくれたわね」

 

14年前、若干8歳にして懸賞金7900万ベリーを懸けられた "悪魔の子゛ニコ・ロビン。

まだ何も知らなかったあの頃の私でもその悪魔と呼ばれる少女の名前は知っていた。

 

オハラの惨劇。14年前に世界政府は、世界を滅ぼす研究を進めるオハラの考古学者達を正義の名の下にこの海から排除した。その時に戦艦6隻を沈没させる大犯罪を犯した悪魔の少女こそが、目の前に座るニコ・ロビンなのだ。

 

とは言え、それは表向きの情報だけど。

 

「ねえ。私は同じ大犯罪を犯した先輩である貴女に聞きたいことがあったのよ。ニコ・ロビン」

 

「…………」

 

「噂で何度も聞いたわ。幼い身でありながら貴女は犯罪を犯し、世界政府に追われる事になった。その間、貴女は何度も一般人や商人、果ては海賊から裏の組織まで転々と拠点を換えていったそうね」

 

面白い噂話を楽しむように、無邪気に、笑って、我儘な王女のように彼女の噂を語る。

近くで起こる破壊の音を聞きながら、彼女に私の言葉が聞こえるようはっきりと語ってあげる。

 

「裏切りの女」

 

「…………」

 

「貴女に会ったことのある人は皆そう言っていたわ」

 

ニコ・ロビンの表情は変わらない。

でも私にはわかる。彼女は昔のその光景を思い出し、心の中で耐えていることを。

それは悲しみか、それとも怒りか。いや、もっと深い心の中…………願望と諦めの感情が伝わってくる。

 

「14年間よ? 貴女は欺き裏切り続けた。何も知らない子供から、何でも知った被る大人まで。悪の代名詞である海賊から、正義を口にする世界政府まで。全部を今も欺き裏切り続けている」

 

「ッ………」

 

「どんな気分なのかしら? どんな目的があって、14年もその身一つで今なお生き続けているのかしら?」

 

馬鹿にするように。彼女の人生を嘲笑うように。

今日の私はやけに舌が回るようだ。それもそうだろう。なにせ、過程はどうあれ政府から汚名を着せられた同胞が久し振りに目の前にいるのだから。

 

私はニコ・ロビンの本当の過去を知っている。それを知った時、私はニコ・ロビンと言う人物を知りたくて堪らなかった。

どんな思想を持っているのか。彼女の性格は? どうやって政府からたった一人で逃げ延びている?

 

「あら……」

 

「ぁ………」

 

話している内にとうとう時間が来てしまったらしい。

今までの音を越える、明確な崩壊の音が私達の耳に届く。

ニコ・ロビンは落ちてくる天井を見上げるだけで、このまま成す術もなく瓦礫に押し潰されるだろう。何やら腕を交差させて能力を発動させようとしているが、表情から見るにそれも焼け石に水のように感じる。

 

私はもう一人の部下に声を掛けた。

 

「お願い」

 

「はい。ルナ様」

 

今までずっと黙っていた彼女は、私の声にようやくその口を開いた。

直後、彼女から冷気の風が吹き出すと、周りの気温が急激に冷たくなる。

 

そして私達は瓦礫の海へと沈んだ。

 

 

 

 

 

 

「弁償代は…………クロコダイル、貴方にお任せするわ」

 

元のきらびやかな建物は瓦礫の山へと代わり、その上で私は睨み付けてくるクロコダイルにそう声を掛けた。

 

彼の頬からは縦に切り裂かれた傷が瓦礫を赤く染めている。途中から見てなかったからわからないが、リィルはクロコダイルのプライドに傷を付けたみたいだ。

恐ろしいワニのような形相で彼はリィルを睨み付けている。

 

「ふざけるんじゃねぇ、テメェ "月光"……!! この国から無事に逃げられると思わねぇことだ」

 

「吠えるのは勝手だけど、私は力を失った貴方に興味が失せたわサー・クロコダイル。でも、そうね…………」

 

今にも飛び掛かろうと身体を砂に変えて戦闘体勢のクロコダイルから目を逸らして、ニコ・ロビンを見る。

私を不気味な存在だと考えているのか、彼女の表情は怯えていた。

 

そんな彼女にニッコリ笑う。

 

「私は全てを受け入れる。それが善意ならありがたく受け取る。それが悪意なら嗤って受け入れて捻り潰す。

善人も悪人も、聖人も犯罪者も。全てを受け入れるわ」

 

そう告げて、私達は空を飛ぶ。

 

もうすぐそこまで海軍が迫っているのだ。さっさと逃げれば、少なくとも顔の知られていない私達が暴れたとバレることはないだろう。あとはここ数年間で海賊を狩り続け、アラバスタの英雄とまで呼ばれるようになったクロコダイルに任せる。

 

それに海軍がどうあれ、もうここでやることはやり切った。もうこの場に残っても私のメリットはまったく無い。

少し早いけどネフェルタリ王家の招待を受けに行こう。

 

アラバスタとは一体どんな友好が築けるか、楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 

 

 

王下七武海の一角、"月光" フォールド・ルナは当然現れて嵐のように去っていった。

ロビンは空の彼方へ消えた彼女から視線を戻し、これから自分の上司となるクロコダイルに目を向けた。

 

未だ三人が消えていった空を睨み付けているクロコダイルだったが、周囲からドタバタと此方に駆け付けてくる集団の音にようやくロビンと目を合わせた。

 

「フン。話の途中だったなニコ・ロビン………お前が以前口にしていた情報、そしてお前の知識………信憑性は薄いが、戯れ言と蹴って捨てるには愚か者のすることだ」

 

先程の激情が嘘だったかのように、クロコダイルは冷静に彼女に話し出した。

するとロビンとクロコダイルの周りに小さな風が起こる。それは辺りの砂を巻き上げ、砂嵐となって二人を囲んでいく。

 

「お前がこの話に並みならねぇ覚悟があることはわかった…………俺は誰も信用しねぇ。だが有能な存在を雇用しない程馬鹿じゃない」

 

轟轟と吹き荒れる嵐の真ん中で、ロビンは自分の足場が上へ上へと上昇することに気付く。足下を見れば、いつの間にか瓦礫の山は砂の塊へと替わり、地上から遥か上空へと浮いていた。

 

「歓迎しようニコ・ロビン。いや…………ミス・オールサンデー。お前は今日からミス・オールサンデーと名乗れ」

 

「…………ええ。わかったわ」

 

 

ロビンはもう一度だけ、ルナ達が消えた方向へと視線を向ける。

 

 

思い起こすのは先程告げられた言葉。

瓦礫で押し潰される直前に、異常な寒さと共に真っ白なドームがロビンを建物の崩壊から救った。

 

鳴り響いていた轟音が嘘のように静寂に変わると、ルナはロビンに一枚の紙を手渡した。

 

「それを肌身離さず持っておいてね。もし、クロコダイルとの関係も終わって。目的も望みも失って…………全てがどうにもならなくなったら、その紙を二つに破いてその紙が導く方へ向かいなさい。貴女を助けてあげる」

 

 

ルナはそう言い残し、ロビンの前から消えた。

 

ロビンは彼女が残した言葉がどういった意味なのかわからない。一方的に話し掛けられて、勝手に贈り物を渡す。

ロビンにとってルナはトラウマを掘り起こす恐怖の存在でしか無かった。まるで自分の過去を理解しているかのように語る彼女が不気味で仕方がない。

 

ただロビンは、彼女が言うように助けを求めるのか、はたまたそれとは真逆に敵となるのか………どんな形であれ再びルナと出会うことになる予感があった。

 

 

 

 

 

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