夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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イモータルフォレスト編、めちゃくちゃ書くの辛かった。上手く書けないしわかりづらいし。
今度からもっと人の多いところを書こう。うん







本性

 飢える。

 

 

 

 

 

 ようやく身体の中で延々と成長していた木が成長を止める。幹は気付いたら遥か上空まで伸びていて、周りの枝と絡まり固定されているのが見える。

 

 酷い目にあったものだ。もし私が能力を手に入れてなければ確実に死んでいた。

 

 毒キノコ程度なら多少の痛みはあれどもエネルギー補給になると思ったのだけど、予想以上の異物が出てきてどっと疲れた。補給するどころか消費してしまった。

 しかも体内に張り巡らされた枝のせいで、原因を取り外しても身体が自由に動かない。

 

 まずは頭を固定している枝が煩わしいので、口や頭から飛び出た枝を切り裂いて、体内に残っている部分の枝を掴んだ。そのまま力を込めて引っこ抜こうとする。

 だが予想以上に複雑に成長したようで、身体の何処かに引っ掛かり体内にある枝を上手く取り除けない。

 

 仕方がない…………最終手段だ。

 爪を首にあてがい、そのまま横に一閃する。すると身体中に感じていた痛みがフッと無くなり、私の首が体から離れた。

 

 首が地面に落ちて衝撃が私を襲う。それが気にならない程に首から激痛が伴うが…………馴れたものだ。これくらいの痛みなら動じる事もなくなった。

 

 内臓を喰い破られ、手足を細かい枝でいたぶられ、脳を縦横無尽に蹂躙される。奴隷の時にも味わったことがない痛みには、流石に死ぬかと思ったほどだけど……。

 

 首から下が勝手に再生していくのを待ちながら。そういえば先程は意識して再生していた事をなんとなく思い出す。

 

 あの時と同じだ。

 死の淵。先程よりももっと死に近付き、偶然能力を得て再生した時と同じ。

 

 明確な違いは、あの時ほど切羽詰まった状況ではなかったことか。死ぬ恐怖はあったけど、それでも今回は明確に意識して再生するスピードを上げていた。

 無意識と意識するのでは再生する速度が全く違うのに、今更になって気づかされた。

 

 ただ、その分…………なんだ。とても疲れる。

 お腹なぞ今は無いのに、どうしようもなく食欲が湧く。とても喉が渇く。

 

 何か、何か無いのか。

 ただの食事では満足できない。

 

 血…………そう、血だ。血が欲しい。

 

 何でも良い。兎だろうが、鳥だろうが。野生動物、人間でも構わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら元に戻っていた体。

 口と脳に残る木が邪魔なので手を口に突っ込んで残った枝を引き抜く。

ある程度まで頭に負った傷を回復させて、首から上だけを霧化すれば、残った細かい枝の破片などが全て私の体から排除された。

 

「…………」

 

 改めて思う。この森は動物が生きるのに適していない場所だと。

 肉食動物はおろか草食動物も見つけられないほど、この森の植物は危険で歪んでいるんだ。

茸を一噛じりしただけで体から木が生えてくるなんて危険すぎる。

 

 多分、生えている草も食べたら先程のようになってしまうのだろう。

 だからこの森には動物や昆虫の類いすら見当たらない。

 どの生き物も、木に変わってしまったのだから。

 

 

 

 私は空を見上げる。見えるのは太陽の光を遮るほどに密集した枝と葉。

 ここからでは見えないけど、その上には森を燃やす炎の海があるはず。

 

 上は木と炎で全てを遮る分厚い壁。下は形が刻一刻と変わる天然の巨大迷路。食糧は水すらも無く、あるのは食べれば死ぬ草と茸。

 一度入ったら抜け出せず死ぬことが確定した悪夢のような森だ。

 

 

 だけど、それは常人にとってはの話。今の私には力がある。吸血鬼と言う化け物だ。

 

 試す気にも…………さっきまで考えもしなかった事だけど、茸を食べて私は覚悟を決めた。

 この森を抜けるのに、躊躇う余裕なんて無い。

 

 空の見えない上空を見上げたまま、私は身体から翼を生やして空中へと身を躍らせる。そのまま空に向かって飛翔した。

 目の前まで迫る太い枝を避けて、さらに上へ飛ぶ。

 避けられない枝は爪で切り裂いて、細かい枝は肌に傷が付くくらいで無視。とにかく上へ上へと飛翔し続ける。

 

 

 地上から森を出られ無いなら、空から抜け出せば良い。その発想に至ったとして、一体誰が行おうとするだろうか。

 人では無理だろう。木登りが得意な人でも、天然の木の壁に阻まれる。

 翼を持つ小さな鳥なら壁をすり抜けられるかもしれない。それでも最後には炎の壁が阻む。

 

 抜け出せられるのは、翼を持ち、障害物を切り抜けられる身体を持ち、炎に焼かれようと再生できる私以外いない。

 

 

 だんだんと本物の壁のように密集して隙間が無くなってきた枝。爪で対処できない場所は一瞬霧化してすり抜ける。

 そうやって進んでいく内に、私の肌が熱気を捉える。気づけば昼間のように明るくなった視界で、私はその炎の海を見た。

 

「これが…………最後の関門」

 

 炎の壁を速攻で抜けるために、翼により力を込めて羽ばたかせる。この際、全ての枝や葉を無視して炎へと近付く。

 まだ触れてすらいないのに、空気の熱だけで肌を焦がす熱気。髪は既に燃えて、瞼を開くことすらキツイ。

 

 それでも翼を休めることなく、私はトップスピードのまま炎の中へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は誰しも運を持っている。

 必然であれ、偶然であれ、出来事には運がある。

 良いと思える運もあれば、悪いと思う運もある。

 

 例えば、奴隷解放をしたことでフィッシャー・タイガーは世界的な犯罪者となった。それによって荒くれの魚人達は彼の下に集まり、彼は海賊となった。

 そして以前は魚人島近くで海賊をしていたアーロン一味も、タイガーの部下となって魚人島周辺から居なくなった。

 

 アーロンは人間が嫌いだ。そのせいもあって、アーロン一味は結成時から魚人島にやって来る人間達を狩っていた。

 それは商人であったり観光客であったり、海賊であったり。

 

 だが、タイガーの報道を真っ先に聞いたアーロン達は彼の下に向かった。そのお陰なのか、魚人島に入る前に襲われる人間がいなくなり、新世界に向けて出発する海賊も増えた。

 

 その内の海賊の一人、メザーネと言う男がいた。

 彼はメザーネ海賊団の船長で、アーロン一味に襲われること無く魚人島入りし、出発する時は彼等はタイガーの下に去っていった後だった。

 そのせいもあって、彼等は何とか新世界に入ることが出来た。

 

 これは偶然だ。もしアーロン達に出会っていれば、彼が率いる海賊達は殺されていただろう。メザーネも4千5百万ベリーと名の付いた賞金首だが、街を襲うなどで付いた懸賞金だ。

 

 政府に危険と見なされた者ほど、懸賞金の額は多い。だがそれは政府側の事情であって、強さとは関係無い。

 グランドラインに生きる海賊は殆どが賞金首。それは政府の大本であるマリージョアに近いから危険と見なされただけだ。

 

 例を上げればルナでさえそうだ。

 1憶を超えた懸賞金を懸けられたルナだが、起こした事が事だ。そのせいで高く懸賞金を懸けられたが、タイガーは勿論、アーロンにすら歯が立たないだろう。

 

 だからメザーネ達が懸賞金を懸けられたのも、新世界入り出来たのも運があったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「船長…………この島、なんか不気味じゃないですか?」

 

 砂浜近くに船を停めてある島に上陸を果たしたメザーネは、隣にいた部下に話掛けられる。その部下の弱気な発言は彼の心を苛立たせた。

 メザーネ達も新世界に入るだけで数々の命を脅かす危険な目にあったのだ。事実、彼の仲間達の半数が命を落とした。

 神経質になるのも仕方がないが、心に余裕が無くなるのも仕方がない。

 

「…………だからなんだ? 蓄えていた食糧も全部海に流されちまった。テメー、俺に餓死で死ねって言いてえのか!? ああ!!?」

 

「ひっ! ち、違います船長! た、ただ…………この森、天辺が全く見えねーくらい大きいし、先も暗いほど深いし…………不気味じゃねーですか?」

 

 それはメザーネの周りの部下達も同様の心情らしい。顔を少しだけ青くして、森に入るのを躊躇っているようだ。

 この数日だけで恐ろしい光景を何度も見てきた彼等は、より敏感に、より恐ろしく物事を見るようになってしまった。

 それを腰抜けと呼べる程、メザーネも恐怖を覚えていないわけではない。

 

「…………だが、どうする? 他の島を探してこれより恐ろしい場所だったら? そもそも安全な島や町があったとして、それまで食糧が持つのか?」

 

「そ、それは…………」

 

 メザーネの言葉を聞いて言い淀む部下達。

 

 そうやって彼等が森の中に入るか入らないかで躊躇っていると、空を見上げていた一人の部下が何かを発見した。

 

「せ、船長! な、何か空から黒い物体が落ちてきます!」

 

「なに? ッ全員警戒しろ!」

 

 部下の言葉に空を見上げながら、メザーネは全員に警戒の指示を出す。

 彼の部下が言ったように、それは赤と黒の色しかない何かだった。複雑な形をした物体が、まっすぐまっすぐ彼等の所へと落ちてくるのだ。

 

 ドスンッ!! と砂浜の砂を巻き上げながら地面に衝突する何か。

 視界が悪くなったせいでますます警戒を強くした彼等は、その正体を掴もうと粉塵が修まるのを待つ。

 

「…………ギ」

 

「な、なんだ? 鳴き声か?」

 

 声が彼等の耳に届く。どうやら生物だとわかって、皆構えたピストルに力がこもった。

 そして次第に砂埃が明けて、彼等はその正体を見る。

 

「ギュ………カッ」

 

 それは、生きてるのが疑問に思えるほど焼け焦げて、黒い炭の塊と化した生物だった。

 

 焼けた部分は炭化して黒く変色し、ボロボロと身体が崩れている。地面に衝突した影響か、身体の一部らしき棒状のモノが近くに転がっていた。

 一部の肉は灰に変わり果てたことで、所々異様に欠損した身体をしている。無くなった肉から見える骨は、溶けたせいでドロドロと赤い液体になって地面に落ちている。

 

 原型がわからないほど身体が焼け溶けて変形しているのに、未だに声を出して生きているのが不思議なほどだ。いや、当人達は間近に見て不思議に思うどころか、いっそ不気味を通り越して恐怖だろう。

 

 体内の温度が高温のせいでジュージューと肉の焼ける音が未だに聴こえてくる。無惨でグロい姿は、見る者を吐き気とおぞましさで染める。

 

「なんなん、だよ…………こいつ」

 

「おい、お前。ちょっと近づいて確かめてみろよ」

 

 近くにいた一人の男がそう声を掛けられる。嫌がる男だがメザーネが命令を下すと、男は嫌そうな顔を隠そうともせず嫌悪感でいっぱいになりながら、その生物に近づいた。

 

 そしてあと一歩近付けば触れられる距離まで近付いた男は、生物が聞こえるか聴こえない程小さな声で何かを呟いているのが耳に入った。

 

「ーーーーーーーー」

 

「なんだ!? こいつもしかして人間か!?」

 

 聞き取りづらいが、人の言葉らしき声を出している。

 その事に気付いた男は、その人間が何を言っているのか聞き取ろうと更に耳を近付けた。

 

「…ヲ……ゼ」

 

「ん? 何だ?」

 

 よく聞き取ろうと、頭らしき黒く丸い部分から聞こえる場所に耳を持っていく。

 

「…ヲ……ゴセ」

 

「もう一度、ほら。言えよ」

 

 男は更に口らしきところまで頭を持っていき、耳を澄ませると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血ヲよコセ

 

 

 そうはっきりと男の耳に声が届く。

 直後、男の首が身体から無くなっていた。

 

 

 

 今まであまり危険な目に遭わずに航海できたのは、彼らにとって見れば運の良い偶然なのかもしれない。他の者が見ても運が良いと思うのかもしれない。

 だがやはり、物事には大局と言うものがある。

 

 それは本当に偶然だったのか。一人一人の観点から見れば偶然でも、大きく全体を見れば必然ではないのか。それは、誰にもわからない。

 運とは、力や速さで物事を量れるような物ではない。それは天性のモノだ。実力や努力で左右されない普遍のモノ。

 

 ただ、彼等のちっぽけな運は。彼女が持つ特大の()()の前では、全てが予定調和の()だったのかもしれない。

 

 

 

 


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