夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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そして突然に

 出立の日。私は今ベトライさんとバネットさんと共にベネッカの港まで来ていた。

 

「じゃあなルナちゃん。無事にたどり着けることを俺らも願っているよ」

 

「あっちでもしっかりやんなよルナ………元気でね」

 

「うん。今までありがとうございました」

 

 かなり立派な漁船が停まっている港の近くで、私は二人とお別れをして船に乗せてもらった。

 港から遠ざかる船の甲板上で二人に手を振り、見えなくなる頃に一息つく。

 

 この島をいつまでも覚えておこう。ベトライさんとバネットさんがいた島を。そうすればいつかまた会えるのだから。

 私は二人がとても好きになった。たった一週間だったとは言え、良くしてもらった事は私にとって欠けがえのない思い出だ。

 

 幸い、私は翼がある。両親の下に戻れば二度と使うことは無いと考えていた物だけど、あの二人のためなら隙を見て使っても良い。

 私は日常に戻るためには こんな能力など無い方が良いのだけど、その時は特別だ。

 

「嬢ちゃん。そろそろ船内に入ることを勧めるぞ」

 

 そうして島を眺めていたら、背後から私を呼びかける人の声が聴こえた。

 その声に釣られて振り返れば、そこには顔に一筋の傷を付けた大きな男の人がいる。

 

 彼の名前はレゲータさんと言って、顔の傷に加えて真っ黒な肌はまさに『海の男』と言った様子の貫禄がある人だった。

 

 彼はベトライさんの飲み屋のお客さんらしく、ちょうど漁業休暇中にベトライさんが声を掛けて頼んだらしい。

 ちなみに私は元奴隷としてではなく、人拐いにあった悲しい少女と言う風に伝わっている。

 

「ここからはグランドライン、しかも新世界の海だ。嵐で海の藻屑になられても困る」

 

「わ、わかりました」

 

 忠告するレゲータさんに返事をしながら船内に入る私なのだが、このまま彼の言うことを素直に聞くのはなんだか不安な気持ちになる。彼の言っていることは理解しているのだけど、どういうわけか心がひどく落ち着かないのだ。

 この海の異常気象とも言える天気の移り変わりはベネッカに来る前に嫌と言うほど経験した。豪雨や強風はまだマシの部類で、火の雨や天を覆いつくさんばかりの津波。あの島ほどの危機は感じなかったけど、面倒であることには変わらない。

 

 ただ、彼の態度と言えばいいのか……私に対する様子がどうにも気になる……。

 

 

 船内は彼一人用として使うにはかなりスペースのある大きな部屋だ。キッチンにテーブルにハンモックにベッド。簡素だけど二人寝泊りできるには丁度の大きさ。壁は頑丈にできていて、窓の一つもない部屋だった。

 

 ベッドを使っていいと言われたので、私はそのベッドの上に座りそのまま横になる。

 眠いわけではないのだけど暇だ。べトライさんの家では家事の手伝いをさせてもらったので退屈はしなかったから、余計に今そう感じてしまう。

 

(しばらく寝よう………)

 

 目を閉じて私は意識を闇に沈めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたのは騒がしい外の音と、奴隷の頃に鋭敏になった悪意ある感情を察知したからだ。

 良くないことが起きる時は決まって私は目を覚ます。今回もその本能に従って勢い良くベットから飛び起きた。

 

 辺りを警戒しながら目線を四方八方に飛ばせば、この部屋の扉からちょうど今入ってきたレゲータさんが私を見て驚いている。

 

「ど、どうしたんだ嬢ちゃん。急に飛び起きて」

 

 そう尋ねてくるおじさんに私は意識を向ける余裕がなかった。

 

 目が見えない奴隷時代。私に何かしようと近付いてくる気配には嫌でも気付かされた。意識してそうなったのではなくて、そこから起こる地獄に身体が警戒してしまうのだ。

 

 部屋の外から何十人と言う人の気配を感じる。

 私に危害を加えようとする敵意を。目の前で唐突に構えたレゲータさんと同じように。

 

「…………どうやら気付かれたみたいだな」

 

「貴方達……いや、お前達は誰? 何故私に危害を加えようとする?」

 

 こちらに敵意を向けてくる彼…………レゲータに私の疑問を尋ねれば、彼はその顔を少しも変えること無く懐から紙を取り出した。

 彼によって私に突き付けてきた紙には、銀髪に赤い目を持つ私の顔をした写真が貼られている。

 

「わかっている筈だ、フォール・ド・ルナ。聖地マリージョアの襲撃に加え、天竜人ダンヒール聖の殺害。並びに奴隷からの脱走。犯罪者である貴様に懸賞金が懸けられている」

 

「なっ!?」

 

 私はレゲータの発言に言葉を失ってしまった。

 

 懸賞金。それはただの犯罪者が付けられる物ではない。子供ですら知っている、世界にとって危険と判断された者が世界政府に懸けられる大犯罪者の証だ。

 万引きや強盗、人殺しの罪ですら懸賞金首にはならない。その筈なのに

 

「そんな馬鹿な! たかが奴隷の脱走者全員にそこまでの金額を懸けるの!?」

 

「脱走者全員ではない…………無駄話が過ぎたな」

 

 話を打ち切ったレゲータは目にも止まらない速さで私に突っ込んでくる。

 実を食べたことで優れた動体視力を持った私でも捉えるのがやっとの速度。その速度から突き出される、黒く変色した指が私を狙う。

 

「指銃!」

 

「クッ!?」

 

 問答無用で迫る指を、私は寸でのところで回避した。その一瞬、私の視界が真っ赤に染まった。

 

 

 ―――こいつは殺すべき敵。

 そう理解しすると、私の頭の中でカチリと意識が変わる。

 

 レゲータが横をゆっくりと通り過ぎようする光景が、私の視界に映る。

 その勢いを利用しない手は無い。一瞬でそう思考した私は納めていた爪を長く鋭く伸ばし、レゲータに切り裂こうと薙いだ。

 

「鉄塊!」

 

「!?」

 

 が、驚くべき事が起きた。

 今までどんな物も、結果はどうあれ切り裂いてきた私の爪。その鋭い爪は 急に固まったように動かなくなったレゲータの身体に当たっても 切り裂くことが出来なかったのだ。

 

「嵐脚」

 

 想定外の出来事に動揺した私に、蹴りを放つレゲータ。

 私との距離が空いていて蹴りが当たらなかったたにも関わらず、何故か私の身体が肩から胴体に掛けて 深く切り裂かれた。

 

「…………ふん」

 

 とは言え別に支障はない。

 痛みには襲われ血は吹き出したが、それでどうこうなる程の私ではない。むしろ痛みのお陰で、さっきから戸惑いの連続だった頭が冴えていく気さえする。

 

 勝ち誇ったような顔を向けるレゲータに、傷など意に介さずそのまま突っ込む。

 当然予期しないことに驚くレゲータに、私は腕を振りかぶった。

 

「くそっ、鉄塊!」

 

「馬鹿が……」

 

 再び微動だにせず動かなくなる彼。

 何故かその姿勢になると、私の爪が効かなくなるくらい身体が硬くなるのだが問題ない。

 動かない彼に狙いを定めて、私は鋭い爪をレゲータの目へと振り下ろした。

 

「ぐがあああああああ!!!?」

 

 多少の抵抗はあったが筋肉が無い分、硬さも落ちる。

 目を貫かれて絶叫を上げるレゲータ。その首に爪をあてがい そのまま横に一閃する。

 すると先程の硬さが嘘のように 何の抵抗もなく彼の首が吹っ飛んだ。

 

 床に倒れそうになる彼だが、その血が勿体無いので受け止めて血を啜った。

 

「レゲータ大佐!!」

 

 すると、突然 扉から気配を感じていた男達が室内に叫びながら侵入してきた。

 まあ、レゲータの言葉から私を捕らえるために部屋の外を囲んでいると予想がついていたので、もう動揺はしない。

 

 血を吸いきれなかったレゲータの身体から牙を離し、その遺体を入ってきた敵目掛けて投げ付けた。

 

『ぎゃあああああ!!?』

 

 吸血鬼の身体から湧く力は、私の倍近くある人間を投げることにも苦労せず、レゲータの身体諸とも 敵や扉、頑丈な壁全てを吹っ飛ばした。

 

 ポッカリと出来た大きな穴。

 邪魔物がいなくなった私は 状況を確認するためにもその穴から飛び出す。

 

 すると外には視界を埋め尽くす青い軍艦が鎮座していた。

 

「外に逃げたぞ! 囲め!」

 

 さらに私を囲む海兵の服を来た男達。銃や刀を向けて私を敵意の目で見てくる。

 漁船の甲板だけには止まらず 軍艦からも銃を構え、終いには船に取り付けられた砲台が私に向けられていた。

 

「………目障り」

 

 その光景を見て私が思ったのは怒りだった。

 どうやら私は……私達は騙されたらしい。いつからかはわからないけど、私を探していた海兵のレゲータがベトライさんを騙してこの状況に追い込んだと。

 

 ―――本当に目障りで、うっとうしい。

 

 私は申し訳ないと思いつつもバネットさんから貰った服を破り、翼を展開した。

 

「能力者だ!」

 

「海楼石を持ってこい!」

 

 脚の筋力に加えて翼の推進力で加速し、海兵の群れへ突っ込む。

 ギチギチと音を鳴らしながら爪を限界まで伸ばして一閃。

 

「うわああああ!!?」

 

「がフぁッ!?」

 

 何の抵抗もなく肉を切り裂き、次いで悲鳴の連鎖が起こる。

 私はそれらを無視して空中で方向転換し、再び生きている海兵達へと飛び込んだ。

 

「撃て! 撃てぇ!」

 

 指揮官らしき者が指示を下すと一斉に銃弾が私に向かってきた。

 撃たれても構わないのだが、それはそれで煩わしい。私は翼と目を駆使して、空中で銃弾の雨を避ける。

 

 とは言えこれだけの海兵の量だ。

 空中にいるお陰で狙いも付けにくいせいか当たらないのだけど、その分味方への誤射が無い。

 軍艦からの一斉射撃による銃弾が、私の身体に突き刺さる。

 

「銃弾が効いてるぞ!」

 

「そのまま撃ち落とせ!」

 

 この身体の目のお陰で銃弾の軌道がわかるが、問題は私の方だ。

 

 さっきから妙に相手の敵意が伝わってくるせいか、感覚に違和感がある。敵の場所が理解できるのに数が多くて頭が付いていかない。

 

 このままではジリ貧。体力が尽きればヤバイのは私だ。

 空が飛べるのだから逃げても良いのだけど、ここでコイツらを逃がしたらあの二人に迷惑が掛かりそうだ。

 

 目障りな銃弾から逃げるために一度空高くまで高度を上げる。

 人が米粒ほど小さくなるまでの高さで上がり、船を見下ろした。

 

「……まずは漁船の奴等から始末したいな」

 

 どうしようかと考えて、良いことを思い付いた。

 

 翼をはためかせて その場から止まっていた状態から、空気を叩き船へと一気に急降下する。

 

「降りてきたぞ! 狙え!」

 

 再び銃弾の嵐が私を襲ってくるが無視。

 足が撃ち抜かれようが 内臓が貫通されようが 目を潰されようが構わず、私は腕を振りかぶって力強く握り締めた。

 

 船に私の身体がぶつかる瞬間、固く握り締めた拳をその甲板に叩き付ける。

 

 爆音と共に漁船が真ん中から真っ二つ砕かれる。吸血鬼の力からもたらされた拳は衝撃波となって周りの海兵をぶっ飛ばし、破片が弾丸となって彼等を襲った。

 

「「「あああああああああ!!?」」」

 

 水柱が立ち上ぼり 海水へと落ちていく海兵達。空中で止まってグシャグシャになった拳を再生させながら、私が起こした結果を眺めて無意識に感想を洩らした。

 

「流石は"鬼"だね…………さて」

 

 打ち上がった水が落下してきたことで 視界が見えづらくなる中。未だ慌てている気配がする軍艦へこの身を突撃させた。

 

 

 

 




この先のルナなんですが、とことんまで貶めるか ある程度救いを入れるかかなり迷う。
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