今回はかなりライトな話。ステータスも更新しました
"月光の王女"ルナ
その日、聖地・マリージョアにてとある会議が行われた。
4年に1度開かれるその会議の名は
加盟国は約170ヵ国以上に上っており、その中の50の国の王達が一堂に会し 世界中の由々しき案件や各国が抱え持つ問題を言及・討議し、今後の指針を決定してゆく。
「我々魚人族はリュウグウ王国の地上移転の計画についての承認を、この場で認めて貰いたいんじゃもん」
今も、魚人島のリュウグウ王国のネプチューン王から一つの計画が提示された。
この計画の根幹は、今まで深海にのみ住んでいた魚人族が、新たなる自由な暮らしと人間との共存を目指す為の架け橋となる事だった。
昔から魚人族は人間達に差別されてきた。
地上で魚人を見かければ捕獲・奴隷として売買される程で、魚人達は地上を表だって歩けないのだ。
そのためか、深海に住む魚人は日の光が当たる地上に憧れを持っている。
光の当たる地上を自由に歩き生活する。それこそが魚人達の願望であり、ネプチューン王が国を上げて計画する目標だ。
それを実現させるのが魚人島移住計画。
その計画が
ただ、当然今まで人間達にあった差別意識は無くならない。
いや、無くならないからこそ そのような計画が魚人の王から言及されるのだ。
「………何が地上移転だ。たかが魚類の分際で」
「今まで日陰にいた奴等が俺達人間と同列に扱うなど、認められるものか」
「ふん!!ばかばかしい! おれの国には関係のない話だ!! 魚類の事など知らん!!」
各国の代表や王達が囁く侮蔑の言葉や怒鳴り声。
魚人を差別する多数の国々はその内容を認める筈もない。半数以上の国が、反対の意思を見せている。
そんなざわめく会議室の中で、ネプチューン王は聞こえてくる罵倒の言葉を無視して堂々と話続ける。
「既に世界貴族からはその旨に賛同すると言う署名を頂いているじゃもん」
そう言ってネプチューン王は一枚の書状を見せた。
そこには
『魚人島と人間との交友の為、提出された署名の意見に私も賛同する』
と書かれた書状があった。
それを見た各国の王達は驚きを露に世界政府の椅子を見る。そこには苦々しい様子で黙ったまま座り続ける一人の天竜人の姿があった。
天竜人が何も言わないと言うことは、今まで数多くの魚人達を奴隷にしてきた世界貴族が移転を認めると言うこと。
それを知っているからこそ、皆の驚きは大きかった。
世界貴族が認めると言うこと事は、その内容はもう決まったも同然だ。
各国の王一人の発言より、世界貴族の意見はそれほどに重い。
『…………』
誰も反対を口にする者はいなくなった。
ただ人とは今までの常識を覆されることを嫌う生き物だ。
口では言えなくても、ほとんどの者の雰囲気が魚人島移転の内容に反対の表情を見せている。
しかしおいそれと反対を口にするのは天竜人を否定することに等しい。それはあまりにも危険な事だ。
だが賛成を口にするには、どの国がその意見に反対し国との関係に亀裂を入れるかわからない。
「良いじゃない、リュウグウ王国移転の計画。私も賛成だわ」
そんな、誰もがこの場を支配する案件に迷い慎重になって言葉を選び考える中、静寂な一室に一人の幼い声が響いた。
声がした場所。そこには ある二つの国を所有する国王が座る席。
新世界のとある島。伝説の木・宝樹アダムを所有し、国の周りを不滅の樹海 "イモータルフォレスト" で囲まれた天然要塞『ナイトミスト』。
8年前、国全土に広まった感染病で滅びた "北の海" の国。夢のような美しさと白鉛で栄華を築いていた国全土が "白い街" と総称される『フレバンス』。
その離れている筈の二つの国を数年前から統治している国王。かつてここ聖地・マリージョアを襲撃し、天竜人を一人殺害した奴隷の英雄。
世界政府から公式に海賊行為を認められた王下七武海の一人。
"月光の王女" フォールド・ルナその人だった。
「私は好きよ、魚人の人達。私の国にも魚人族は住んでるし、これを機に魚人族とも友好を結びたいと思うわ」
そう言ってネプチューンに微笑む表情は、幼い少女の姿であるというのに 妖艶な美女の色気と気高き王の風格を孕んでいた。
十代前半と言う見た目で 周りの王達すら圧倒するルナの存在感。
そんな彼女に気圧されたとあっては、プライドの高い彼等にとって到底許せるものではなかった。
「口を慎め成り上がりの淫婦めが! だいたい貴様のような野蛮な海賊が何故、神聖なるレヴェリーに出られるのだと………」
一人の国王が立ち上がり、ルナを指差しながら罵声の言葉を浴びせた直後だ。
一瞬、参加していた国王達全員は圧迫するような重圧に襲われる錯覚を覚える。
シンッと静まり返る会議室。物音一つしない閑静とした部屋は誰かが倒れる音で打ち破られた。
「ロズベル王!?」
部屋の隅に控えていた海兵達は、ルナに怒鳴っていた『セウントレア』の国王・ロズベル王が突如床に倒れたのを見て慌ただしく駆け寄る。
容態を確認すれば、ロズベル王は先程まで上げていた声が嘘だったかのように意識が無くなっていた。
「い、意識が無い………中将」
「ロズベル王を控え室に運んで差し上げろ。丁重にな」
この場の警護を取り仕切る海軍中将が部下にそう告げると、ロズベル王は部屋から運ばれていく。
突然一人の王に起こった不思議な現象。これが一般人ならば騒ぎ出すような光景も、流石各国のトップの集まりなのか誰一人騒ぐことは無かった。
「不思議ね…………セウントレアの王は持病持ちだったかしら? 心配だわ……」
ただ周りの王達は、この場で一人芝居かかったように話すルナを眉を顰めて見ていた。
(あの娘が、タイガーと共に奴隷を解放した……………覇王色の覇気を持つじゃもん)
今の騒動を眺めていたネプチューンもまた目を細目ながらルナを見る。
過去の事件と騒動前の彼女の意見を聞いて、ネプチューンはルナの事をタイガーと同じ勇敢で心の広い人物だと思っていた。
しかし先程の騒動から一転して、危うい人物でもあると付け足した。
各国のトップが一同に顔を会わせるレヴェリーにて、一つ一つの行動が戦争の引き金になるかもしれない現状で国の王本人に手を出す所業。
王に手を出されたとあっては、その国は黙っているわけにはいかないだろう。
先に侮辱されたと言う大義名分があるとは言え、ルナの行為は『ナイトミスト』が『セウントレア』に宣戦布告をしたことに他ならない出来事だ。
「さあ、早く議題を進めましょう。他の方々は何か意見があって?」
そんな国と国との存亡を懸けた戦争の引き金を起こした後だと言うのに、ルナは明るい口調でそう切り出す。
それを愚か者と嘲るなかれ。この場にいる殆んどの者が、彼女が起こしたとある国崩しを知っているのだ。
一夜にして国を落としたその力。彼女が "月光" と呼ばれるようになったその所以を。
「フッフッフッ………いいんじゃねぇか。オレもその計画に賛成だ」
ルナの存在を恐れてか 国のトップ達が発言に慎重になる中で、今まで会話にすら参加していなかった人物がここに来て静寂を破った。
「ドレスローザの王。意外ね、貴方が他の国の議題に口を挟むなんて」
「フフ!フフフ!! 冷てーこと言うなよ"月光"。いや、今は "月光の王女" だったか?
――――――オレとお前の仲だ。オレも一枚噛ませろ」
不気味に笑うその男の名はドンキホーテ・ドフラミンゴ。現ドレスローザ国王並びに、ルナと同じ王下七武海の一角を担う者だ。
ドフラミンゴの言葉は、彼をよく知る近隣諸国の王達にとってはあり得ない事であり、同時に賛成を余儀なくさせる言葉でもあった。
最近になって王位に即位した二人だが、絶大な武力をも持つ故の彼等の発言力は大きなものだ。
二人がただの一海賊であったならば話は別だが、既に両者とも他国に大きな貿易で同盟を築く国王。国同士の戦争であれば海軍の援助はなく、本人達は世界に名を知らしめた元海賊だ。
進んで敵対しようとする王など殆んどいない。
加えて天竜人の署名があるのなら、魚人差別などさして重要でない事に意固地になる必要もない。
以前からこの議題に肯定的だった『アラバスタ』の国王ネフェルタリ・コブラなどの意見もあってか、反対派はすぐにいなくなった。
ただ、人間側に好意を持たない魚人が人間を襲うかもしれないと言う、もしもの懸念も上がった。
これにより魚人島移転計画は、魚人島に住む民の署名数が住民の四分の三を上回った場合のみ可決されると言う事で落ち着くこととなる。
レヴェリー終了後。
会議終了間近に戻ってきた『セウントレア』の国王に一悶着あったが それも落ち着き、各国の王が帰国すると言う時だった。
帰国用の船に王やその親族が乗るまでの間、数多くの海兵や護衛達で警備する道中で事は起こった。
「おおっと! 手が滑ったわ!!」
「きゃッ!」
一人の少女がレヴェリーに参加していた王の誰かを待っていた。その少女の横を巨漢の男が通り過ぎる時、男が躊躇いもなくその少女を殴ったのだ。
「ワポル様っ!?」
「ビビ様!! 貴様、ドラムの王だな! 何のつもりだ!」
突然王がした凶行に部下の一人は驚き、倒れる少女に駆け寄った少女の護衛はその王を睨む。
部下の言葉や警護の男の恫喝を無視して、その男・『ドラム王国』の王ワポルは馬鹿にしたような顔で少女を見ていた。
「まっはっはっは! こりゃぁ失礼。確かアラバスタの姫君でしたかな? あのダメ国王の娘とは不憫ですなー」
ワポルは他国の姫に暴挙を行っておいて謝る事もしないどころか、彼女の親である王と彼女を蔑む言葉を告げた。
ワポルが手を出した姫の名は、現『アラバスタ』の国王の娘であるビビ王女。そのような凶行と罵倒の言葉を口にして許される人物ではない。
『ドラム』が『アラバスタ』に戦争を起こす引き金を引いたようなものだ。
現に今、ビビ王女の警護の者は王女への暴挙と自身の王への罵倒に我慢できず、ワポルに危害を加えんばかりに詰め寄ろうとしているのだから。
「止めてイガラムッ!!」
だが、それを止めたのはこの場において一番の被害者であるビビだった。
「いいの。こちらこそぶつかってごめんなさい」
「あ!?」
突然知らない男に身に覚えのない罵倒と暴力を受けたのにも関わらず、彼女は笑顔でそう言ってのけたのだ。
一つ一つの行いが国の威信にも繋がってしまうこのレヴェリーは、些細なことでさえ戦争の引き金になってしまう。イガラムと呼ばれた警護の男がワポルに危害を加えれば、『ドラム』と『アラバスタ』に戦争が起こるのは確実だった。
それは両国に数多くの悲劇を生む結果になっていただろう。それがわかっていたからこそ、彼女は笑ってワポルの暴挙を許したのだ。
「けぇ!胸糞悪いガキだぜ!」
ただワポルがそれをわかっているのかいないのか、ビビ王女に対して彼の態度はあまりにも不遜だ。
大国である『アラバスタ』と戦争が起これば、勝敗に関わらず自国に多大な被害が及んでいたかもしれない。これでビビ王女が年相応の子供のように癇癪を起していれば、そうなっていた。
彼女は自国の民どころか暴挙を働いた相手の国の民までも救ったのだ。それを罵倒するのはあまりにも酷だろう。
「なら貴方はその少女以下の下種野郎ね。ドラムの王」
「ああ!!?」
その一部始終を見ていた
プライドだけは高い男だ。そう言ってやればワポルは不機嫌な顔を隠そうともせず振り返る。
「てめぇ、フォールド……ルナ!! なんのつもりだクソガキ!」
「別に大した用ではないわ。ただ幼稚な悪戯の被害に遭った彼女に対して、貴方は馬鹿みたいにお気楽だなって思ってね」
そう言って隣にいるビビ王女の頬を優しく撫でる。いきなり近くにやってきて触れようとした私に驚いたのか、ビクリと怯えさせてしまう。
が、彼女より少しだけ年上に見えるこの外見と、優しく撫でてあげたのが功を奏したのか、彼女は私の手を受け入れてくれた。
撫でられて安心するビビ王女は、年相応の可愛らしさがある。
「あの……」
「わかってるよ。貴女の民を思う強い意思を無駄にするつもりはないわ」
が、不安な声で私を止めようとする彼女はやはり一国の王女なのだと思わせる。私と彼が争って戦争が起きる事を危惧しているのだろう。
安心させるために私は優しく彼女の頭を撫でた。
すると、横から警護の男が突然現れた私に声を掛けてくる。
「貴女は一体………」
「年下の姫君が頑張っているのを応援したい、通りすがりの王女よ」
私がそう言ったものだから、警護の者も何処かの姫だと勘違いして私の行いに戸惑った様子でいるだけで、止めようとはしてこなかった。
私はこれ幸いにと、正体をはぐらかしながら可愛らしい姫君に癒され続ける。
ただ私が先に割り込んだとは言え、癒しのひと時を邪魔するうるさい声の主には悪感情しか出てこないけど。
「おれの何処がそこのクソガキ以下だって!? カバ言ってんじゃねえ!」
「こんな小さな女の子に暴力や罵倒の言葉を飛ばしておいて、何が不満なのかしら? 嫌なら私の言葉くらい流しなさいな…………それとも、それも出来ないほど貴方は幼稚なのかしら?」
私がそう言ってあげると、彼から頭の血管が切れるような良い音が聴こえてきた。
ドスドスと重苦しい音を立てながら、部下の制止も無視して近付いてくるワポル。
怒る巨漢の男が迫ってくる姿に怯えるビビを背後に隠し、私は彼に手を出して制止を促した。
「近付かないで頂けるかしら? 貴方のその大きな身体は幼い子にとって目に毒なのよ」
「てめぇ………もう我慢ならねぇ!!」
近付いたワポルはそう吠えると、手を出していた私の腕にその大きな口で齧り付いてきた。
私はその瞬間少しだけ腕を霧化させる。
直後、血飛沫を出して無くなる私の腕。
喰われた私を見た周りの護衛達は目を見開いて驚いていた。
「ワポル様!? 何て事を!!」
「きゃぁぁあああ!!?」
「まっはっはっはっ!! 何が七武海だこのカバめ! 俺に逆らうからこうなるんだ!」
私の腕を噛みながら器用に笑うワポル。周りの者達は騒然としている。
しかし不味い事になった。後ろに隠して見られないようにしたのに、怯えより子供の好奇心が勝ったのかビビ王女に私の腕が食べられる所を見られてしまった。
大人びた考えをしているとは言え、幼い少女。トラウマを植え付けていないか心配だ。
「わっ」
そう考えていると私は無事な方の腕を強く引っ張られて後ろに身体を向かされてしまう。
何処にそんな力があるのか、小さな身体で私を振り向かせたビビ王女が、涙目になりながらも気丈にも私の心配をしていたのだ。
「お姉さん大丈夫!? 腕がッ………!」
「カバな女だぜ!痛みで声もでねぇってか!」
痛みはあるが、私が誘導してやらせたことなので少し罪悪感が拭えない。
周りの警備達も慌てて駆け寄ってくるので、私はさっさとこの茶番に終止符を打つことを決めた。
「まはははブガッ!?」
「ワポル様!」
高笑いしていたワポルが突然変な声を出して、頭を痛がるように倒れると、そこらを転げ回り始める。
それを確認しながら、私は痛みに耐えるフリをしながら気丈に立ってみせた。
「はぁッはあッ…………さ、流石は噂に聞くバクバクの実の能力者………でも、私の身体は貴方の体内に入ったわ」
「ぶぎぁぁあああ!!? いてぇ! いてぇ! お前、何しやがった!!?」
痛みに耐えながらこちらを睨んでくるワポル。それが億劫とは言え、説明しなければ私が考える通りにならないので仕方なく答えてあげる。
「グッ…………あ、貴方の頭に私の細胞を植え付けたの、よ………ハァッ………さっき貴方が私の腕を食べたときに」
「馬鹿な!? 俺のバクバクの能力は何を食べた所でそんなもの効くわけ無い筈だ!」
痛みに慣れてきたのか次第に痛がるのを止めるワポルだが、やはり痛みに耐えかねてるのかその顔は苦悶に満ちている。
的外れな彼の言葉を訂正してやるために私はフリをしながら説明を続けた。
「誰が、口から入れたと言ったのよ………私は、血で貴方の体内に侵入したの」
本当は霧化させた私の身体の一部が入ったのだけど。親切に能力を教えるほど私は馬鹿じゃない。
ただ理屈は理解したのか、ワポルは立ち上がって勝ち誇ったような顔を私に向けてくる。
「よくわかったぜ………だが、よくもこの俺にこんなことをしやがったな! こうなりゃぁ、おれは黙ってねぇ―――」
「うるさい」
「いぎゃああああああ!!!?」
うるさい彼を黙らせるために、先程以上の苦痛を彼の頭に与えた。
すると尊大な態度が嘘のように痛みでそこらを転げ回るワポル。
一度その痛みを止めて、倒れた彼に近づいて見下ろしながら後ろのビビ王女達に聞こえないように告げてやった。
「もうお前は私の能力の支配下にある。フフフ………これでビビの国に戦争を起こしたり、私の国にちょっかい出してみなさい? 既に脳に入った私の細胞はお前を苦痛の果てに殺すわ」
そう覇王色の覇気を彼だけにぶつけてあげれば、ワポルは簡単に怯え震え上がる。
「ヒッ! た、助けろドルトン! おれは帰る!!」
ワポルは、そう言うと部下を残し自分の船が止まっているだろう方向へ尻尾を巻いて逃げ出した。
そのドルトンと呼ばれた部下は、不安と焦燥と申し訳なさを混ぜ合わせたような、不憫な顔をしていた。
国のトップがああだと、その部下は大変なようだ。いや、むしろ優秀な部下がいるからあのような腐った王がいるのかもしれない。
「そう怯えなくていいわ。私は貴方達と争うつもりはない。まあ、ビビ王女には感謝するのね」
「は、はあ……いや、それよりも早く止血を!」
「お姉さん!!」
ドルトンの言葉を遮るように大きな声を出すビビ王女が私に駆け寄ってきた。
相変わらず私の腕を見て心配そうにしているので、不安を和らげるために近くで控えていた私の腹心に声を掛ける。
「リィル。止血をお願いできるかしら?」
「わかりました」
私の命令に簡潔に対応した部下は簡易ながら応急処置として包帯を巻かれていく。
…………何となく肩から先が無くなった左腕に血まみれの包帯を巻かれる姿は、より痛ましいように見えなくもないと思ってしまった。
が、それを感じさせないように私はビビ王女に微笑みを向ける。
「ほらビビ王女。もう治療もしたし、痛みも感じなくなったから大丈夫だわ」
だから泣き止んで? と言って右手で彼女の頭を撫でたら、何故か目に浮かべた涙がいっそう増えてしまった気がする。
心なしか痛ましそうな少女を見る顔で、周りにいたビビ王女の警護をするイガラムとドルトンも私を見ていた。
「その顔は火に油ですよ、ルナ」
小さな声で忠告する腹心だけど、もうちょっと早くに言って欲しかった。
見ろ。ビビ王女が泣き出す寸前じゃないか。
「なんでこんな無茶したのお姉さん! 私は別に助けなんか要らなかったのに!」
私は自分達と他の皆の温度差の違いにどうしようか考えあぐねていると、ビビ王女が鼻声でそう叫んだ。
これは何を言っても事態が変わらないことを察した私は、もう開き直ることにした。
「確かに、貴女にとっては余計な行為だったかもしれないわ。でも私は、貴女が魅せてくれた覚悟を馬鹿にされて我慢できなかったの」
「でも、お姉さんの腕を犠牲にするなんて………」
「そうね………なら私の頑張りに免じて、貴女とお友達になってくれないかしら? 美しくて強い貴女と友達になれるなら、腕の一つくらい安いものだわビビ王女」
柔らかく彼女をあやすように話す。
大人のような思考と意思を持つ彼女だ。私の意思を察してくれたのか、これ以上の野暮な話はしなかった。
ビビ王女はグッと涙を溜めていた目を擦り、泣き顔から笑顔へと変わる。
「………ビビでいいわ。よろしくねルナお姉さん」
「よろしくビビ」
これが
私と魚人族、ビビが住む『アラバスタ』との友好を結ぶきっかけだった。
後に本当に親しくなる二人の姫達を騙すような手段を取ったことに、罪悪感が無かったわけではない。
それでも、私は私の為に。ひいては私を想う家族の為に。
本当の目的を成し遂げる為に必要な事だったのだ。
気付いた人はいるかもしれませんが、私は彼女が大好きなのです。だから、まあ………ね?
次回からまた戻ります。