夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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pixivで活動しているメスシリンダ様と言う方から挿絵を頂きましたありがとうございます!




彼女は過去を見る。

会議が終わり、Mr.クロコダイルは颯爽と姿を消して何処かへと去っていった。

出ていく前に私を睨み付けていたけど、どうやら私が覇気を出したせいで警戒されたようだ。あの様子を見るに、今の彼が覇気を使えないと言う情報は確かなようだった。

 

 

他の海軍将校達も立ち上がり部屋から出ていく中、私はまだ椅子に座り、正面にいるセンゴクとおつるさんに目を向けた。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人もただ黙って椅子に腰掛け、周りの者達が部屋から出ていくのを眺めている。

部屋から出ていく何人かの若い………少将だろうか。私を怪訝な目付きで見てくるが、海軍の中で最も権限のある二人がいるため、特に何も言わずに部屋から去っていく。

 

そうして私とセンゴク、おつるさん以外が部屋から居なくなったのを見計らって、私は疲れたように息を吐き出してやった。

 

「ふぅ…………まったく、とんだ茶番に付き合わされた物だわ。二度とこんなことさせないで」

 

「………ふん。悪かったな。だが此方も、貴様の我儘を聞いてやっているのだ。仕方ないと割り切ることだな」

 

「我儘………取引、と言って貰えないかしら? そもそも『アレ』は貴方達の不始末の結果でしょう?」

 

私の言葉にセンゴクは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

伝わってくる感情から、彼も『アレ』についてはよく思っていないことがわかる。

 

それにしても "暴君" くまを七武海に入れる手助けをしろ、とは………こんなまどろっこしい事をしなくても、センゴクの権限でどうにかなっただろうに。

まあ彼の七武海に据える理由を書面に詳細に書き綴らなければならないから、センゴクは私に交渉を持ち掛けてきたのだろうけど。

 

意外だったのがおつるさんの存在だ。おつるさんはそもそもこういったこと自体が嫌いなので、今もこの場にいるのが疑問に思うほどだ。

 

「おつるさんに感謝しなさい。私は『必要悪』って柄じゃない。やるなら『(いさぎよ)い悪』。おつるさんの『正義』を信じているから、今回のことも了承した」

 

「すまなかったねルナ。このおかきジジイが無理なこと言って」

 

「……良いのよ。貴女には恩があるから」

 

私の言葉におつるさんが謝罪してくる。

表情は厳しいおばあちゃんのような顔でわかりにくいけど、彼女から伝わってくる謝罪の気持ちが嘘ではないことはわかった。

何だかんだと私はこの人のお願いを断れないし、あまり断るつもりもない。

だから……と言えばいいのか。謝罪されるとこっちが申し訳ない気持ちになってくるから不思議だ。

 

 

背筋がむず痒くなる感じがして、私は立ち上がった。

もうこの場でやることもない。ならさっさとお暇することにしよう。

 

「じゃあ私は帰るわ。今度の輸送は確か一週間後だっけ……お願いするわね」

 

「ああわかった」

 

私はセンゴクの言葉を受けとると会議室の出口へと足を進めた。

 

入ってきた時とは違い、人払いをしていたのか扉を開ける人物はいないため自分で開けて外に出る。

閉まる途中に振り返れば、二人はまだ何か話し合っていた。やはり何処のトップも色々と忙しいようだ。まして表面上は世界規模で治安を守ろうとしているのだから、その疲労具合も伺える。

 

私はまったく真似したいとは思わないけど。

 

 

私は人通りの少ない廊下を歩く。

途中何人かの海兵が資料の束を抱えて横切っていく。横切る度に『何故、幼い子どもが?』といった感情が私に突き刺さるのが些か不快ではあるけど、あまり気にしないようにした。

 

奇異な物を見る目線を無視して、しばらくマリンフォードの中を観察しながら歩いていると、私の乗ってきた船がある港口が見えてきた。

 

その時、私の感知範囲にとある気配が引っ掛かった。

よく知っている気配。マグマのように煮えたぎる憤怒を抱えた激情が伝わってくる。

 

二度と顔も見たくないとすら思っている奴が、少しずつ私の前から近付いてきた。

 

「あいつ……」

 

花柄Yシャツに赤いスーツ。黒い手袋と海軍帽を身に付け、スーツの上から海軍将校の象徴である正義の文字が背中に刻まれたコートを羽織った男。

 

今でも変わることのないあの鬼のような顔を見た私は、いつもの態度を保つことすらできず、その男を睨んでいた。

 

「サカズキッ………」

 

「……久しぶりだな。"月光" ルナ」

 

ベネッカで出合った頃から何一つ変わっていない奴の声に、私は自制心を保つ事がやっとだった。

 

内から湧き出る怒りに頭がヘンになりそうなのを必死で堪えている。この男を排除しようと疼く爪が、牙が。僅かに残る理性で血が出るまで拳を握り、唇を噛んで我慢した。

 

まだだ。今じゃない。こいつを殺すのは今ではない。

 

今この男と戦えば私も無事では済まないし、殺せば私が築き上げてきた王の地位、七武海の称号、私の計画が全て崩れる。

 

「………お前は相変わらずね、サカズキ。お前から伝わってくる何もかもが、吐き気がするわ」

 

「そう言うなら見聞色の覇気を解けっちゅうに」

 

「ッ!! 誰のせいでッ………!」

 

一瞬で沸き上がる奴への殺意。それを抑える為に私は吐き気と頭の鈍痛で不快感が増す。

 

駄目だ。こいつと一言話すだけで溢れ出る怒りやら憎しみが止まることを知らないらしい。

一刻も早くこの男から離れなければ、理性のタガが外れた私は何をしでかすかわからない。

 

「……もう、帰るわ。さようなら」

 

「貴様の瞳はまるでそうは言っているように見えんがな」

 

「ええ。だって私、貴方の事を殺したくて堪らないんだもの」

 

どうせ隠してもバレているのだから私は言葉と共に殺気を込めて睨んだ。

そうすると奴は顔の皺をより深くさせ、鬼が可愛く思えるほどの形相で私を睨み返してきた。

 

「お前が国を持つ王でも、政府側の七武海でもなけりゃァ、既にお前を消し炭にしているところじゃ」

 

「奇遇ね。私も王の立場も七武海の立場も無ければ、貴方を八つ裂きしているところだわ」

 

そう言って私は足を前へと進め。

サカズキの後ろにいる部下だろう海兵達は、皆顔を青ざめて私の道を空けるよう左右に分かれる。それでも奴だけは退く気が無いので、仕方なくその横を私は通り抜けた。

 

サカズキの横を通る一瞬、肌を焦がす熱がしたのは気のせいではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

…………むしゃくしゃする。

苛つく。あり得ない。本当に最低最悪だ。

 

私は今ひどい顔をしているだろう。自分の感情が抑えられない。

 

道行く度に会う海兵達は私の覇気に当てられてか、気絶して倒れているのが殆どだ。

何か言ってくる海兵も、一睨みすればたちまち私の視界から消える。

 

いや、そんなことはどうでも良い。早く戻らないと。そもそもこんな場所にいるからこんな目に遭うのだ。気持ち悪い。早くこの場から去りたい。

 

気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い。

 

歪曲された正義。自分勝手な正義。横暴な正義。

ここにいると嫌なことを思い出す。数々の正義が渦巻くこの空間が私の中にゆっくりと侵入してくる。

 

 

気持ち悪い。

 

いつか誰かが。私達を『必要悪』と呼んだ。世界の均衡を保つ犠牲だと、悪気も感じない様子で私に宣った。

 

私は否定する。

冗談ではない。何故、お前達の都合で私は勝手に悪にされなければならないのか。私達が犠牲者と決めつけられねばならないのか。

 

 

気持ち悪い。

 

いつか誰かが。私達を『弱者』と呼んだ。弱いからだと、力がないから悪なのだと。

 

私は認める。

この世界は力がなければ生きてはいけない。何を肯定し何を否定するにも力がいる。自分だけの世界を護るには、敵対する全てを殺さねばならない。『悪』である自分が『正義』となるまで。

 

では、何処まで私は強くならなければならないのか?

 

 

気持ち悪い。気持ち悪い。

 

いつか誰かが。私達は『罪』があるのだと言った。『不幸』であるのは罪があるから。私達は生まれたときから罪を背負い、不幸とは私達が背負うべき『(ごう)』であると。

 

私はその言葉を強く否定し、同時に強く肯定した。

生まれた時なんてのはあり得ない。人間は、生物は、世界は。始まる前はなんにもない。

始まった直後から、全てが存在し始めるのだ。

 

だけど、きっと私には罪があるのだ。

そう納得できる程度には、私は大人になった。

 

生きることが罪だとは思わない。なぜなら、私は生を肯定されたから。誰にと言うわけではないけど、確かに私は生きることを許された。

永遠を生きる生を、私はあの日に。死ぬはずだった……いや、私が死んだあの日に。私は生きることを許された。

 

だけど。私は今までの生で罪人だと理解させられた。■■■■になることが罪なのだと。■■■■を求めることが大変罪であることなのだと理解した。

 

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 

吐き気がする。ここの空気すら吸いたくない。ああ、早く戻らないと。私がどうにかなってしまいそうだ。

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 

『悪』を肯定しなければならない。私を越える『力』を排除しなければならない。

 

『■あ■■』を破壊しなければならない。『■■ふ■』を否定しなくてはならない。

 

気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い―――

 

 

 

「ルナ」

 

「ッ!?」

 

突然、私を呼ぶ声が聞こえた。

 

深い泥沼から私を持ち上げるような優しい声だ。暗い世界を明るく照らすような意思のある声だ。

 

慌てて俯いていた顔を上げれば、目の前には一人の女性がいる。

 

「……大丈夫ですかルナ?」

 

「―――リィル」

 

ピンクの髪。整った顔にアメジストの瞳は同性でも見とれてしまう程綺麗で。

私と違って背も高くて、スタイルが良くて。きっと世の男性は放っておかないだろう色気もあって。

 

なのに不釣り合いな騎士のような格好の彼女。

そんな彼女が堪らなく愛しくて、どうしようもなく安心してしまう。

 

 

最愛の親友にして、最高の騎士様。

私のシルヴァ・リィル。

 

 

かつて全てを失い、否定され、絶望した。

地獄の道を歩まねばならなかった私。

 

そんな私がようやく手に入れた一つの光。

 

 

それがリィルだった。

 

 

 

 

 

 

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