夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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回想1.それは一つの出会い

「やぁッ!!」

 

「ぬん!!」

 

空間を切り裂くような斬撃と周囲を灼熱に熱するマグマの拳が衝突した。

収束した二つのエネルギーは行き場を失い、手当たり次第に破壊を生む爆発へと変化する。

 

これで何度目だろう。二人が衝突する度に地面は抉れ、街を燃やし破壊する。

すでにベネッカの街は見る影もないほどに姿を変え、無事な建物があれば奇跡とすら思えるほどに瓦礫の山と化していた。

 

そんな地獄絵図の街で対峙する二人の様子は対称的だった。

ルナは翼を生やす処か、その足で立つことすら出来ないほどに消耗している。

身体中に火傷の痕が残り、一部は肉が消滅して白い骨が露出しているくらいだ。

 

対してサカズキは堂々とした姿でルナの前に立ち塞がり、マグマが流れる谷底の崖まで追い込んでいる。

加えてルナと比べれば身体に出来た傷は何処を探しても全く見ることができない。

 

ただ一点。彼の額に出来た横一線の傷跡を除いてだが。

 

「まさか、死に際になって覇気を覚えるたァのゥ。危険な芽は早い内に消しちょくに限る」

 

「ゥぐっ………まだ、言うの」

 

すでに満身創痍。再生する力も無いほどに追い詰められたルナだが、自分を殺そうと迫るサカズキを目の前にして その瞳はまだ諦めていなかった。

 

「どうして………どうして、そこまでの信念を持つくせにッ! 目の前の事しか見ないの!? 助けようって思わないの!?」

 

「…………」

 

「ッ! 殺す! お前だけは絶対に殺す!!」

 

サカズキに向かってそう吼えたルナは、最後に残った力を腕に込める。すると腕は瞬く間に黒く変色し、ギチギチと甲高い音が爪から鳴った。

 

今の彼女が全てを出し切って放つ全力の一振り。

それはたちまちマグマの大波に呑み込まれ、ルナの小さな身体は炎に包まれながら燃え盛る溶岩の谷底へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」 

 

嫌な夢を……いや、最悪な光景が脳裏に映った。

酷く頭が痛む。気持ち悪い、吐き気がする。幻痛を感じる程に最悪な経験だ。視界が滲むし、正常に頭も機能していない気がする。

 

それでも私は生きて、意識を覚ました。

 

 

目の霞む光景がだんだんと晴れていくと、私は見覚えのない天井を見上げていた。

 

「………ここは?」

 

初めて見る天井だった。

牢獄のような石で出来た天井でも無ければ、以前まで起きていた小さな部屋の天井でも無い。

 

見覚えのない天井から視線を外して体を起こそうと手を地面に付ける。すると掌から伝わるスベスベとした布と、柔らかく反発してくるように押し返される布団の感覚がある。

ベッドだと気付いた私は辺りを見渡しながら起き上がった。

 

「どこかの……家みたいね」

 

見渡して思ったのがそんな感想だ。

一人か二人くらいで暮らしができる程度の、テーブルと家具 奥にはキッチンが見える部屋だった。

 

生活感のある様子から、誰かの民家だとわかる。

 

「拘束具等は………無しね。私を知らないのか、はたまた知ってて私を助けたのか……それとも私を騙してから海軍に引き渡すのか」

 

どうやら部屋の様子を見る限り、家主はいないようだ。私がいつでも逃げられる可能性を捨てきれないのにこの待遇なのだから、多分私を知らない誰かが善意で助けたのだろう。

 

「まあ……どうでもいいか。所詮、一般人だろうし。それよりも今の私があの海軍……サカズキと名乗っていたあの男にこの場所がバレてないかが心配ね」

 

思い返すのはあの男の憎き姿だ。

私とは一生相容れないであろう、あの腐りきった信念を持つあの海軍。殺したくても、今の私ではまったく歯が立たなかったあの男だ。

 

「今は逃げるしかないけど、いつかあの男は絶対殺してやる。あの男が生きている限り、私の平穏は訪れないのだから」

 

そう心に誓い、私は拳を強く握りしめた。

 

 

暫く私がベッドの上で復讐に燃えていると、近くのドアが開く音が聴こえてくる。

そちらに意識が持っていかれて私の目線がそのドアに向く。

 

すると、開いたドアから一人の女性が入ってきたのだ。

その人は私の視線に気付くと驚いた様子で目を見開いた。

 

「あ、起きたんですね………体調は大丈夫ですか?」

 

淡々としたような、何処か無感動のような。それでいて何故か惹き付けられるような美しい声が部屋に響く。

 

女性は私より3、4歳ほど歳上に見える。綺麗なピンク色の髪をショートカットに、輝くアメジストの瞳は病的なまでに白いその肌に良く栄える。

幼い体型の私とは違うスタイルの良い身体は、同性と言えど見ていて羨ましい。

 

パッと見た印象としては物静かそうな女性だった。

 

「貴女が私を拾ってくれたの? だとしたらありがとう」

 

私は不自然にならない程度に警戒しながらその人に挨拶した。

それをどう捉えたのかわからないけど、彼女は私の言葉にコクりと頷く。

どうやらそれが彼女なりの返事のようで、口数の少ない女性だという予想は当たりのようだ。

 

彼女は私が横になっていたベッドの傍に置いてあった椅子に座ると、私の目を見て自己紹介を始めた。

 

「私はシルヴァ・リィル。最近この家に住み始めた………傭兵崩れみたいな者です」

 

何とも自己評価の低い自己紹介だった。

傭兵崩れ………つまり、敗戦を経験した戦士とでも言えば良いのか。見かけ16、17歳だというのに傭兵崩れとは、どう言うことだろうか?

 

ただ疑問は後だ。

そう思い、私も彼女にならって己の自己紹介を始めようとしたのだけど。

 

「あ、大丈夫です。貴女の事は私も知っています…………確か、奴隷の英雄・ルナさんですよね?」

 

そう言われた直後、私は目の前が真っ赤に染まっていた。

 

私の名前を知っている。つまりこの女は私の敵だ。

 

そう本能が感じた頃には既に鋭い爪を限界まで尖らせて、彼女の首目掛けて振り下ろしていた。

瞬きする時間すら許さない極限の時間の中、首を切り裂こうとする私の爪は…………当たらなかった。

 

私が反応するよりも早くに目の前の女の手が私の手首を掴み、そのまま捻って私を押し倒したのだから。

 

「うっ」

 

胸から床に押し倒されたせいか、痛みよりまず口から漏れでた空気のせいで情けない声を出してしまう。

だがそれより驚くべきことに、こんな女性が私の渾身の一撃を防いだことだ。あまりの展開に、真っ赤に染まっていた視界は急速に冷えて、強制的に元の視界と冷静な思考に戻された。

 

「ああ………やはり貴女()追われる身なのですね」

 

私の頭の上からそんな言葉が降ってくる。

危機感と警戒心で冷えきった頭が、その言葉一つ一つを理解する。

 

………貴女も………どういうことだろうか。

 

それはまるで、この女の人も追われている人間みたいじゃないか。

 

「貴女は………誰? どういうことなの?」

 

押さえ付けただけでそれ以上は何もしてこない彼女。

それが私の中で違和感が生まれて、()()()()()()()()()と僅かながら期待してしまう自分がいた。

 

「私はリィル。『フレバンス』の元騎士団長、シルヴァ・リィルと申します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度落ち着いて話すために、私はリィルと名乗った女性に促されてテーブルの席に着いていた。

 

「どうして私を拾ったのか…………ですか」

 

「うん」

 

向かい側に座ったリィルは相変わらず無表情で。ただ私の感覚が彼女の感情を如実に伝えてくれる。

以前から感じるこの感覚に少しばかり違和感を覚えているが、相手が嘘を吐いているかそうでないかが何となくわかるので重宝している。

 

「そうですね。貴女が『奴隷の英雄』と呼ばれる存在であったのと、その英雄様がボロボロの状態で倒れていたのが原因ですかね」

 

「……?」

 

返ってきた理由は、私にはよく分からないものだった。

彼女から悪意や欲望といった類いは感じないので、嘘を吐いていないとわかる。

一度二度と騙されて酷い経験をしているため、これに関してはかなり慎重になって相手の感情を探っているから多分大丈夫だ。同じ轍を踏む気はない。

とは言え、この感覚で大丈夫と感じても信用する気は無いのだけど。

 

「もしかして、貴女は正義感から私を助けたのかしら?」

 

「いいえ、違いますよ」

 

違うだろうなと考えながらも、私が出来る限り解釈した理由を聞けば案の定違った。

となれば私が助けられた理由が全くわからない。

 

私の疑問について理解しているのかいないのか……彼女の表情からは全くわからないが、説明を再開してくれる。

 

「世間を騒がせていた『奴隷の英雄』ルナが最近になって死亡したと記事があった。なのにそんな貴女が満身創痍の姿で倒れていた……」

 

「…………」

 

「……もしかしたら、という可能性にすがったんですよ。私は」

 

そう言って彼女は私の顔を見た。彼女の表情は相変わらず変わらないように見えるが、その瞳は私に対して怯えを見せていた。

先程、私をあんなにも簡単に床へ倒したのに、だ。

 

やはりよくわからない。彼女の言っている事が理解できなかった。

その時、私は先程彼女が言っていたことを思い出して疑問を尋ねてみた。

 

「…………貴女はさっき、フレバンスって言ってたよね? それって『白い町』の名前でしょ? 何でそこの騎士様が……」

 

フレバンス。そこは私でも知っているお伽噺のような綺麗な国の名前だ。北の海では観光地としても有名だったから、お母さんがいつか行ってみたいって幼かった頃の私に話していたのを覚えている。

 

そんな国の騎士様がどうして、お世辞にも豪奢とは言えない小さな木の家でひっそりと暮らしているのか。

 

「新世界ではあまり知られていない事なんですが、私の故郷フレバンスはもう……滅びたんです」

 

そう言って私に説明するために用意してくれたらしいとある紙を、彼女はテーブルの上に静かに置いた。

 

「これは……手配書ね。貴女の……」

 

私に差し出されたその紙には、WANTEDと大きく書かれた文字に『シルヴァ・リィル』と目の前の本人の写真が写し出されていた。

 

懸賞金・7500万ベリー。私と同じく、政府に犯罪者のレッテルを貼られた海軍に追われる身。

栄華を誇るフレバンスの国が抱えていた騎士団長の身分ではあり得ない筈の証拠が、そこにはあった。

 

「私は『疫病』という通り名で海軍や世界政府から追われるようになりました。在りもしない罪を着せられて……」

 

悲しそうに呟いたリィル。彼女が纏う雰囲気から儚さを覚えつつも、その瞳だけは憎悪のような激情が灯っていた。

 

 

 

 

 

 




主人公以外のキャラの不幸な話を書くのが苦手すぎて、何度も書いては消してを繰り返してしまった。
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