夜を統べる王女   作:ヘイ!タクシー!

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とりあえずこれで区切ります。



新しい生活
世界的犯罪者


その日、世界を震撼させる大事件があった。

 

世界貴族、天竜人が住む聖地・マリージョア。そこで二人の大犯罪者が奴隷を解放する事件を起こしたのだ。

 

一人は魚人族の男、フィッシャー・タイガー。

奴隷達を解放するために聖地にて暴れ周り逃亡した。事件を起こした後、海賊をやっていた荒くれの魚人たちを収集し、太陽の海賊団を設立した船長となった大犯罪者。聖地・マリージョアを火の海に染め、奴隷達を逃がした主犯格の一人であると思われる。

 

もう一人は人間の少女、ルナ。

奴隷達を解放し、その混乱に乗じて天竜人ダンヒール聖をマリージョアにて殺害した大犯罪者。彼女は一人の海軍中将と戦闘を行った後、マリージョアから新世界に飛び降りて逃亡を果たした。いまだ彼女が隠れ潜む居場所やその情報は、海軍も掴み取れていない。こちらも奴隷達を逃がした主犯格の一人だと思われる。

 

 

この一連の出来事は、マリージョア近辺の周辺諸国から街にかけるまで衝撃をもたらし、一喜一憂する人々で溢れかえることになった。

世界政府並びに海軍はこの事件を収束するために動きだした。

世界政府はすぐさま逃亡した奴隷達を犯罪者と断定。補足しだい捕らえることを海軍将兵に義務付ける。また、世界政府はこの事件を起こした主犯格二人を世界の危険因子と判断し、懸賞金を掛けることになった。

 

世界政府は事の重大さを加味した上で、フィッシャー・タイガーに1億5千万ベリーの懸賞金、ルナに1億8千万の懸賞金を掛した。

 

その懸賞金の額が事の重大さを物語っている。

政府の対応が逆に人々に真実味を与え、世界中の人々がその事件に興味を抱くことになる。

とある国では奴隷を見つけ次第即刻捕らえるよう命令を下し、ある村では奴隷だった家族やその村全体が奴隷解放に喜んだ。

とある街では主犯格二人の動向が気になり新聞の売上が増え、ある都市では魚人が関係していることに嫌悪感を表し、逆にもう一人の主犯格を英雄視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部のとある室内に男の怒号が響き渡った。

 

「まったく………貴様がいながら、何故主犯格の一人を逃したのだ!」

 

怒りの込められた拳で机を叩き、男は目の前にいる海兵の一人を睨んでいた。

睨まれているのは任務の報告するために男の執務室に訪れていたボルサリーノだった。彼は怒鳴られているにも関わらず、その飄々とした態度を崩さないで男の相手をしていた。

 

「いやねぇ。わっしも殺したと思ったんですが、まさか擬態と標的が入れ替わって逃げるとは思わなくてですねぇ?」

 

「だとしても、気付いたのならすぐ追いかければ良かったではないか! なんのために新世界の近場にいたお前に招集をかけて先行させたと思っている!」

 

ボルサリーノの態度に苛立ちを隠せないでいる男は、益々声を大きくして叫ぶ。

 

その男はボルサリーノの上の地位にいる海軍大将の一人だった。だが今の彼の地位は危うい。

彼は奴隷達を逃してしまったことで天竜人から責任を求められているのだ。何とかしようと色々な手段で名誉挽回を図っているのだが上手くいかず。

 

そのストレスがボルサリーノに強く当たっているのだと、怒鳴られている彼自身も気付いていた。だからボルサリーノは上官の怒りをただただやり過ごすだけ。

 

そんな彼に苛立ちが頂点を越えた男は、もう顔も見たくないとばかりにボルサリーノを部屋から叩き出した。

 

「ようやく説教も終わりかい。なら、さっさとわっしも職務に戻らんとだねぇ」

 

ボルサリーノは部屋を閉め出された後廊下を歩きながらそう呟く。その手には先程怒鳴られた時に叩き付けられたニュースクーの新聞紙が握られていた。

 

バサリと新聞を歩きながら広げて、彼は先程見たニュースの内容を改めて読み始める。

 

「あのお嬢ちゃん、もう賞金首かぃ。しかも主犯格だったとはねぇ。わっし等も新世界のマリージョア周辺海域から島まで探しているんだが…………こりゃもっと遠くに逃げられたか」

 

やはり彼が気になっているのは、自分が取り逃がしたルナについてだった。あの事件で一人だけ新世界側の海に落ちるも、奇跡的に海軍の探索を逃れている少女。

運も持っているルナに、ボルサリーノは口に笑みを浮かべていた。

 

勿論、もう一人の主犯格であるタイガーの動向も気にしないといけないのだが、やはり個人的には彼女が気になってしまうのだろう。ただ、ボルサリーノは既に少女の探索任務から外されている。よって、担当の者に直接聞くか新聞でしか情報が得られなかった。

だがボルサリーノはこれからタイガー捕縛の任務に就かなければならない。彼女の情報もあまり得られなくなっていくだろう。

 

「彼女の担当は確か……ジョン・ジャイアント中将だったかねぇ。悪くはないんだが、あの悪運強い娘を捕らえられるかどうか………」

 

いつかまた会うことになる。そんな気がしてならない彼は、新聞を畳むと、ルナのことを頭の隅に追いやってタイガー捕縛の任務に意識を切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当事者の一人であるタイの魚人。普通の魚人と比べても圧倒的な背丈の巨漢であるフィッシャー・タイガーもまた、その新聞を読んでいた。

 

「どうやらあのガキも逃げられたみたいだな…………」

 

太陽のマークを掲げる海賊船の甲板にて、タイガーは懐かしそうに目を細めた。

 

主犯格が二人と書かれているが、彼にとって見れば自分のしたことなど些細なものだった。彼女がいなければ自分は鍵を手に入れることもできず、あのまま一生奴隷として捕まっていたかもしれない。

 

自分がしたことなど、逃げるときに暴れまわって撹乱を起こしただけだった。

そう心の中で自嘲する彼に後ろから声を掛ける者がいた。

 

「タイのお頭ァ。ニュースに何か面白いものでも書かれとったんか?」

 

タイガーは後ろを振り返ると、そこには厳格そうな顔付きをした魚人が自分を見ていた。

彼の名をジンベエ。タイガーに次ぐ実力の持ち主だ。

 

「いや、元奴隷達の事が書かれていてな…………」

 

「ああ、そうじゃったな…………助けたモンとしては気になるのも仕方あるまい。ニュースにはなんと?」

 

「奴隷の身柄確保についてのことや…………俺と奴隷解放を手助けしてくれた少女が、まだ捕まっていないことが書かれているな」

 

そう言ってジンベエに新聞を渡すタイガー。その内容を見たジンベエは顎を擦ってタイガーに目を向ける。

 

「そう言えば、何故タイのお頭は人間なんぞに助けを求めたんじゃ? 言ってくれればわしらも手助けしたものを…………」

 

「…………事情があったんだ。それに、彼女がいたからこそ奴隷解放も成功した。人間を下に見る気持ちはわかるが、彼女は俺のダチだ。そう邪険に言わないでくれ」

 

「ふむ…………」

 

ジンベエは唸るような声を絞り出すと、再び新聞に目を落とす。そこには狂暴に写るタイガーの写真と、隣に銀髪紅眼の幼い少女の写真が貼られているのだった。

 

 

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