ありふれた問題児(職業)が世界最強になるそうですよ? 作:きりがる
今回は物語全く進みません。ごめんなさいです。だからサブタイも死んでます。
バチリ。焚き火が黒ずんだ木を弾くこと数度。迷宮内では朝か夜かも判断はつかないが、女へとフォルムチェンジしたハジメと十六夜の月で在り続けたいユエが寝てから既に数時間は経過していた。
二人が寝ている間、見張りとして起きていた十六夜も、もう何度焚き火に木を継ぎ足したのか覚えていないほどであり、ここまで魔物が襲ってこない静かな階層だと流石に眠くなってきたのか、何度も欠伸をしては滲む涙を拭いていた。
「…………あー暇。超暇。暇が売れたらひと稼ぎ出来る自信があるね」
ポツリと呟いて再び欠伸をもらす。彼は地球にいた頃でも十分に暇だったが、それでもまだ本やネットなどやれることは少なからずあったのだ。しかし、今現在は二人の美少女に膝を貸している動けない状況で、自分に対することでも他人に対することでも、何に対してもやるべきことがない。焚き火に枝を放り投げ、落ちている木の実を放り投げ、弾ける様を見届ける要らぬ使命に捕らわれている。あ、今飛んだ種の数は13個。ふっきつー。
ここまでくればもはや何を考えているのかもわかっていないのかもしれない。
弾け飛んだ実の代わりである、第118号を焚き火へと送り投げていると、片膝を枕にしていた一人がもぞもぞと動き出した。寝返りをうつのではなく、起きるために動いたのはユエよりも一足早く起きたハジメである。
「んん………」
寝起き特有のぼんやりとした言葉にならない声を出しながら、片肘と片手を地面についてのそりと起き上がった。右腕を伸ばして身体を支えるようにして起き上がってから、目を擦っているハジメは未だに意識が覚醒していない。
この大迷宮内で十六夜に再会する前の一人で寝ていたときには、短い睡眠時間と常に警戒していたためにぐっすりと眠るということは出来なかった。
もともと寝起きはそこまで良くなかったハジメ。ゆっくりと安心して睡眠をとれたことから元の寝起きが戻ったのか、すぐに思考を巡らせるということが行えずに、ぼーっとしてしまっている。
「おはようさん。硬い地面で随分と長いこと寝てたじゃねぇか。なんだ、硬い場所じゃないと気持ちよく眠れない性癖なのか?」
寝起きのハジメにいつものように軽薄に笑いながら冗談を言う十六夜。
しかし、それを聞いたハジメはぴくりと身体を反応させ、十六夜の方を向いて見つめる。少しの間、顔を見てくるハジメにまだ寝てるのかと、さっさと覚醒させるためにタネマシンガンを準備する十六夜だった。手の中に暇つぶしに焚き火に放り込んで、弾け飛んだ木の実の種を握り込んで連続指弾による射出。これを第三宇宙速度でやればなんであろうと殺れるだろう。
流石にそんな威力の物をぶっ放すわけにも行かないために加減したタネマシンガンだ。さて、狙い撃つぜと指弾を向けたその瞬間、白い1本の腕が十六夜の左頭部付近に伸び、するりと首に巻き付いた。
「あ~…いざよいだぁ……むぎゅぅ……」
未だに寝ぼけているハジメが十六夜に抱きつく。腕を十六夜の首に回して、顔を首筋に埋めるようにぎゅっと抱きついた。
元は男とは言え、胸元の柔らかな感触と突然の抱擁に多少驚きながらも、抱きついてきたことに疑問を浮かべる。ただ寝ぼけているだけなら引き剥がしてしまうものだが、抱きつき方と雰囲気がそうではないのだと伝えてくる。
「ずっと…こうしたかった……」
小さな…誰にも聞こえないような小さな本音とも言える呟き。それでも、十六夜の耳元ということもあり抱きつかれている本人にははっきりと聞こえていた。
自分よりも何段と格上の魔物による恐怖と絶望を叩きつけられ、目の前で腕を喰われた事も含めてここに至るまで何もなかったわけではない。
魔物を食べる経緯に至った変化があり、熊相手にリベンジを行って果たした時はこんなものかと思った。気を抜けない迷宮内で情報の一切ない魔物相手に殺し合い、全て殺して喰らってやると思った。
それでも、やはり胸の奥底にはこうなった自分でも譲れない強い想いがあり、大きな存在と家への帰還を胸に無意識的に不安と恐怖を押し込んでいたのだが……それが全て表に出るほどの、出てしまってもいいほどの、ハジメの心を占めている存在を前に抑え込んでいたものがつい出てしまった。
ちなみにだが、ハジメは未だ寝ぼけている。
そうなのだ。寝ぼけているからこそ、自制を施す理性が、未だに思考がはっきりとしたものではないために弱く、十六夜の姿を見てつい出てしまっただけ。
十六夜にとっては男女である関係なしに、ハジメの変化前を知っているし、人間がどういうものなのか、人はどう感じて思うことが出来るのかも予想できるからこそ、安心させるように背中をぽんぽんと叩く。
しかし、事情を知らない人物が一人。
いつの間にか起きていたユエである。
起きて大好きな十六夜を見ればこの状況。何があった。ハジメさん、貴女、元は男なのよねん?と疑問を浮かべながらも、流石は十六夜です!とお目々キラキラ。
目が覚めて抱きついている事に気づいたハジメが真っ赤になって慌てふためいたというのは、言うまでもないだろう。
◇ ◇ ◇
巨大な扉を開ければ一面が崩れ果てており、渇水した地面のみせる幾つものひび割れと地震による地割れで捲れ上がった地盤をも小さな出来事のように思わせる崩壊が目の前にある。クレーターを中心にブロック状の岩が散り、それに刺さった巨大な針と強力な酸で無理やり溶かされたかのような跡が凄絶な戦闘のあとを物語っている。
何よりも目に留まるのが、岩壁に無理やり空けられた大穴だろう。開口部は余程高温にあてられたのか融けて丸みを帯びており、穴の前方には中から外へと黒く焦げた跡がついていた。
ここは長い年月をユエが封印されていた部屋であった場所。十六夜とハジメ、ユエの三人は一番に解決しなければいけなかった二人の再会を済ませたことにより、ある程度の余裕が出てきたため、ハジメのレベリングとユエの戦闘経験値稼ぎも兼ねて今までの速度とは違った歩みでここまで戻ってきていた。
扉を開け、中に入ってまず目にする部屋の崩壊加減に唖然とし、部屋の中央に鎮座する既に物言わぬ巨大なサソリモドキの死体に口をぽかんと開けた。
これほどまでにボロボロな状態を目の当たりにしているというのに、その原因である戦闘を行った本人は傷一つ無くケロリとした表情で隣に立っているのだ。よく思い出せば、再会当初も傷一つない状態だった。
当の十六夜とユエはこんなこともあったなと戦闘痕を見返している。ここまで荒れているが、これでもユエにとってはここが十六夜との運命の出会いを果たした場所でもあるのだ。まあ、ユエを封印したという忌々しい過去もあるが、十六夜とのことを考えるとプラマイゼロ。むしろプラスしかない。
「これ……十六夜が…?」
「殴ったらこうなった」
「あのサソリモドキのグチャグチャは…」
「殴ったらこうなった」
「……あの馬鹿デカイ大穴は…」
「殴ったらこうなった」
「……なんで殴ったの?」
「良かれと思って」
「もう! ほんとにもうっ!」
全くもってそう思っていなさそうな十六夜の表情にハジメはぷんぷんだった。あの怪物相手に殴るだけではなくて他にもやりようはなかったのかと胸でもポカポカしながら聞こうと思ったのだが…よく考えなくてもあの十六夜なら嬉々として突っ込んでいきそうだという結論に。武器も持たない十六夜に言っても仕方ないよねと叱るのはやめたのだった。
一先ずそのことは置いておいて。ハジメは地面の割れ目をひょいひょいと越えていきながらサソリモドキの死体に近づいていく。この部屋の入口から死体までは距離が少しあったため予想のみだったが、近づいていくに連れてサソリモドキの大きさがわかるようになる。人を何人並べたら同等の大きさになるのだろうか。
見上げるレベルのサソリモドキは既に倒されてから2日ほど経過している。ハジメの見た感じ、魔物であるからなのかどうかはわからないがサソリモドキの肉は腐っているようには見えなかったため、食べることも出来るだろう。
また、肉よりも何よりもサソリモドキの一番の特徴というべきなのが、ボロボロではあるがその身を包んでいる外殻である。触っただけでは硬さから何かの鉱石ではないかと思わせる手触りだった。
サソリモドキの外殻に興味を持ったハジメが少しばかりの間だが周囲を周りながら調べているのをみた十六夜は、サソリモドキがどうであったかを告げることにした。十六夜ではなくハジメにしかわからないこともあるだろう。故に興味を持っているハジメに特徴を教えていくのだ。
「そいつのそれだが、恐らく、ドンナーの電磁加速でも貫けないくらいには硬いと思うぞ」
「そうなの?」
「ああ。それと、戦闘中はそれくらい硬いんだが…何故か死んでからは俺にとっちゃそこまで硬くない程までになってんだよな。あれか? 死後硬直終わって柔らかくなっちまったのか?」
「……サソリにも死後硬直ある?」
「つか、魔物に死後硬直なんてあんのか?」
「さぁ…」
「強度の低下……なるほど」
途中から十六夜とユエの会話になっていたが、ハジメは十六夜からの情報で思い当たることはあった。生きていたから硬かった…つまり、魔法陣も詠唱も必要のない直接魔力を操れる魔物が生きている際に硬かったということは、魔力によって硬くなっている可能性がある。それは魔力を込めれば性質通りに変化する鉱石と同じ。ならば、このサソリモドキの外殻は鉱石ではないか?
考えつつも錬成師であるハジメは外殻について調べてみれば……
「……ビンゴ」
まさしく、ハジメの予想通りの結果であった。
シュタル鉱石。魔力を込めた分だけ耐久度が増していく特殊な鉱石。魔力によって耐久度が増す…ということは、これまで以上に無茶をしても耐えられるだけの鉱石だということ。これならば、また新しい武器を作り出せるのではないか。
ニッと小さく笑みを作ったハジメが十六夜に鑑定結果の報告とこれからのことを話す。
「これ、魔力を込めれば耐久度が増すシュタル鉱石だったよ」
「ん? やっぱ鉱石だったのか…それならあの硬さは納得行くな。死んで魔力を込められなくなったから強度が初期値まで戻ったってとこか…魔物から素材を入手できるなんざ、まるでゲームじゃねえか」
「あはは、確かにそうかも! ……それでね。あの、十六夜には悪いんだけど…お願いがあって…」
「なんだ?」
「えっと…この鉱石で武器を作っても、いいかな…? こ、この鉱石があればドンナーよりも強い武器を作れると思うの! そうしたら、これまで以上に手札も増えるし、十六夜の気に入らない存在も簡単に屠れるから! 時間かかっちゃうかもだけど…どうしても作りたくて……」
一緒に行動しているのであれば私用で時間を潰す…それも十六夜の時間を奪ってしまい、それが十六夜にとって気に入らないことだったらと不安になり、作ることによるメリットや理由を一生懸命訴えながらも上目遣い気味にお願いをする。
十六夜第一であるからこそ自分の時間よりも十六夜の時間や興味のあることに時間を費やしたいが、先のことや素材のあるメリットを考えれば、この先の十六夜の敵になりうる存在を始末できる武器を作るのは必要だと考えた。
そして、そのお願いを聞いた十六夜は別にそのくらいのことなら問題ないと思っている。
「別にいいぞ」
「え…いいの…?」
「ああ、武器作るんだろ? 俺としてもお前がどんな武器を作るのかは気になるし、これから先のことを考えればお前には武器が必要になってくる。それは作り出す武器だけではなく、魔物から奪うスキルもそうだ。だから、別に時間なんざそこまで考えなくていい。ハジメの行うことの結果は、俺のためでもあり、ユエのためでもあり、お前自身のためでもあるんだよ。好きにすりゃいいじゃねえか」
「うん……うんっ! わかった、十六夜の気にいるようなロマン溢れる格好いい武器を作ってみせるね!」
「ヤハハ! 格好いい武器か、いいじゃねえか! 作るならそれくらいしなきゃな。期待してるぜ!」
既にドンナーからのレールガンというロマン武器を作り出したという実績のあるハジメなのだ。十六夜としても次に作り出される武器がどんなものになるのかは気になるところ。だが、異世界出身のユエだけがロマンをわからないためなのか、二人の話しが通じているのを見てちょっとだけ拗ねてしまった。
「十六夜の武器は私…」
「おっと、十六夜の武器は僕だから」
「む……ならお嫁さん」
「戦争をお望みのようだね」
「望むところ……」
「いいから早く作り始めろ」
ゴゴゴゴ…とハジメとユエの背後からオーラが立ち上り、人ならざる化物へと変化する寸前に、十六夜に頭を叩かれてハジメが武器作成に入り始める。危なかった。あのままいけば妖怪大戦争もかくやという人外戦争が始まっていただろう。あのオーラが一体何に変化するのか…ちょっとだけ気になる十六夜だった。
さて、武器の作成に入ったハジメだったが、銃を作るのであればドンナー諸々の武器で経験値を積んでいるからと言って一朝一夕で身につくものではない。集中力と継続力、繊細さに精密さが必須となってくるため時間はかかる。
既に一日経過しているが、武器を作る分には時間を食うのはまだいい。しかし、それ以外ではとある事によって早く外に出たいと考えるようになった十六夜。
十六夜が何をきっかけに外に出たくなったのか、それは食事に関してであった。
十六夜の食料といえば赤い実にユエに出してもらった水くらいだ。それに対してユエはユエにとって極上とも言える飽きの来ることのないだろう十六夜の血。まあそれはいい。ユエは吸血鬼であるため血液を食料とするが、十六夜は人間なので共感は出来ない。だが、ハジメは別だ。ハジメの食料は必要であることも含めてこうなってしまったのは仕方のないことなのだが、それでも、それでも!焼ける肉の匂いに滴る油。そしてそれに齧り付くハジメを見て十六夜が何も思わないわけがない。
つまり、簡単に言うと、
「肉が食いたい」
早く、そして最高品質にと集中しているハジメには聞こえなかったが、ベッタリとくっついているユエに聞こえるくらいには呟いてしまう程度には食べたくなってしまうのも仕方ないだろう。食事も娯楽の一つだ。我慢の限界というものは存在する。
「…私のお肉…食べる…?」
ここぞとばかりに十六夜の腕に胸を押し付け、未だ体を隠す程度の服であるためむき出しの生足を座っている十六夜の膝の上に置くようにくっつけ、白く細い腕を掲げてみせる。危うい体勢に下を見れば見えてはいけない大切な場所が見えるくらいなのだが……今の十六夜は性欲よりも食欲である。三大欲求の2つが重なり合った時、どちらが上に行くとなれば飢えている方が重要となってくるのは当たり前だと思われ。
暇であることも相まって、十六夜がかぷりとユエの前腕に齧り付いた。
「ひゃんっ!?」
吸血鬼であるので齧り取られたとしても問題はないのであるが、それでも流石に冗談で言い出してみたことであったのに、本当に齧り付いてきた十六夜にユエが思わずと言ったように声を上げる。
「んっ……あっ……いざよい…くすぐったい……あぁ……!」
甘噛みと舐められる感触にユエが艶やかな声音で小さく抗議する。しかし、声の通りユエの表情はとても恍惚としたものであり、男も女も関係なくノックダウンさせるくらいの艶めかしい表情と雰囲気であった。十六夜が…あの十六夜が自分の冗談に乗ってこんなにも嬉しいことをしてくれるなんて。幸せすぎて色んな意味でイキそう。
「んぁ……な、なに、あじ…なの…?」
「んー……クリスピークリームドーナツ?」
「そ、そう……なんか…甘そう…だね……」
バタンッ。口を離されたユエが地面に倒れ込む。暗い天井を見上げるその幸せそうに蕩けた顔は、鼻血で汚れていた。ユエと十六夜のイベント?に未だ気づかないハジメの集中力は凄まじいものなのかもしれない。
ハジメきゅんの目ってどうすればいいの? ハジメの瞬光ってどうすればいいの!? 適当な理由が思い浮かばない! 教えて! エロい人!(切実)
なにか良い案ないですかね…?
やる気が出ない、モチベーションが上がらない、意欲がない、ネタがない、思い浮かばない、指動かなぁい。
つまり、これは―――ッ!!!