ありふれた問題児(職業)が世界最強になるそうですよ?   作:きりがる

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メリークリスマス。歳を取るにつれてイベントごとには思い入れも何もなくなってきてる俺ガイル。


第02話 ありふれた問題児は正体不明

 光が収まり、視界が良好となったところで、十六夜は反射的に抱きしめて何らかの外敵から守ろうとした香織を放す。暫く呆然としていた香織だが、自分が十六夜に抱きしめられていたことを自覚して、瞬時に顔を赤くする。

 

 一方、十六夜は一瞬にして教室の風景から変化した石造りの部屋を素早く見渡す。大理石か何かで作られた部屋の壁には金髪の中性的な人物が描かれている。美しい風景とその微笑みに素晴らしい壁画と言える物だが、十六夜にとっては興味深い対象物としてしか見えていない。

 美しいものは美しいと言える十六夜だが、違和感を感じ取ったのか、壁画から何か読み取れないかと全体に目を行き渡らせる。

 

 だが、それも中断することとなる。

 部屋に…十六夜達の周りにいたのは三十人近い人物であり、中でも一番存在感のある老人が動き出し、名乗りを上げる。

 その人物はイシュタルと名乗り、この世界をトータスと言った。

 

 そして、イシュタルはこの場では落ち着けないだろうと、生徒たちを伴って移動を開始する。辿り着いたのは幾つもの長テーブルと椅子の並ぶ部屋。そこで行われたのはこの状況とこの世界について。

 

 その話は十六夜やハジメにとって、どこか聞いたことのあるような、そしてどこか読んだことのあるような内容であった。

 愛子が地球に返せと叫び、生徒はドッキリだと言う。その後、様々な説明もあり、光輝により戦争への参加が決定されてしまったが、王城へと移動するためにイシュタルによる魔法によって別の場所へ。

 

 その際に外に出たことによりこの世界を目の当たりにする。

 

(なるほどな…魔王を討伐、神エヒトからのお告げに転移、この世界の状況と誰もが知るようなファンタジー……ハッ、やっと思う存分に暴れられるってか? いいじゃねえか、おい! 最高に面白くなってきやがった!)

 

 外の世界を見て獰猛に嗤う十六夜の目に映るのは、完全無欠に異世界であった。

 

 

 

 

 そこからは休む暇のない時間であった。爺と爺のキスを見て、ランデル殿下が香織にしきりに話しかけているのを無視して晩餐会による異世界料理を堪能し、各自一室与えられてから十六夜はベッドに倒れ込む。

 

 まさに異世界。十六夜にとってはこの時間、この瞬間全てが未知の出来事であり、全てにおいて興味の対象となっていた。快楽主義者である十六夜にとって、この世界は退屈にならないだろう場所であり、柄にもなく子供のようにワクワクしているのを自覚した。

 

 暗い部屋の中で天井を見上げ、これからの出来事に思い馳せる。

 自分が他の人間とは違うというのは自覚している。全力を出せば軍隊だって抵抗できずに壊滅させられるだろう。そんなことすればどうなるか……それは想像に難くない。だから、十六夜にとって地球での生活と言うのは、好きに過ごすには息の詰まるものだ。実に生きにくい。

 

 異世界転移からの怒涛の一日。未知で溢れる明日に期待しつつ、十六夜はゆっくりと目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 翌日は早朝から座学であった。

 まず行われたことは各自にステータスプレートというアーティファクトが配られ、自分自身のステータスを確認する作業からだ。

 

 全員が集まったところでやってきたのはこの国の騎士団長であるメルド団長であり、この人物は十六夜の目から見てもイシュタルのように何かを企んでいるといったことは見られなかった。

 十六夜の観察眼は相当なものである。その観察眼からして、一先ず信用はしても良さそうだと言わしめるメルド団長の豪放磊落であっけらかんとした性格は確かなものなのだろう。

 

 事実、これから戦友になる奴らに他人行儀に話せるかと笑いながら言ったメルドだ。上のものとしての責務や育てようという思いは確かにあった。

 

 さて、ステータスプレートを配られた十六夜は言われたように指先から自力で血を出してステータスプレートに塗りつける。

 十六夜の人外地味た体の耐久力は、たかだか針程度では傷すらもつけることは叶わないため、自分で傷をつけて血を出したのだ。痛みはあるが強靭な精神力を持ってして我慢し、皮膚を噛み切ると言った真似をして血を出す。

 

 よく、アニメなどでは親指の指腹を噛み切って血を出すシーンがあるが、実際は出来ないだろう。

 親指…指先と言うのは神経が多く通っており、カミソリや紙で切れてしまうならいざ知らず、噛み切るなんて言う真似をして大きな傷をつけるのはとんでもない激痛を伴うだろう。

 

 十六夜のステータスプレートの色はコバルトブルーであった。その隣ではハジメが空色のプレートを持っている。個人によってステータスプレートの色は違うといったところ。

 

 自分のステータスはどんなものかと見てみるが、そこには予想を超えるようなことが書かれていた。

 

 

 

===============================

終夜 十六夜 17歳 男 レベル:1

天職:問題児

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:正体不明(コード・アンノウン)・言語理解

===============================

 

 

 

(ERRORだと? ステータスプレートでは俺を測りきれなかったということか?)

 

 ステータスがびっしりとERRORで埋め尽くされているのを見て、訝しげに表情を歪める十六夜。メルドによるとこの世界の平均は10前後であり、勇者である光輝が告げたステータスから考えるに、転移組はどこかのステータスには100近くある項目があると言ってもいいだろう。

 

(ふ~ん、俺のはレアケースなわけだ?)

 

 角度を変えて見ても変わりのしないステータスプレートに、十六夜はニヤリと笑う。訓練内容を考えるためにステータスを見せろというメルドだが、十六夜は見せる気なんてない。

 

ERRORばかりだからというのもあるが、人に自身の能力を測られるのは好きではない。自分の力は自分だけが知っていればいいのだ。

 

 そう考えたところで隣が俄に五月蝿くなったため、そちらを見てみるが、どうやらハジメがこの世界の一般人並のステータスだったようで、職業も生産職と非戦闘要員だったために檜山達に弄られているようだ。

 

 それをどうでもいいとばかりに周りを観察していると、メルドが十六夜に近づいてくる。

 

「後はお前だけだぞ? ステータスはどうだったんだ?」

「ハッ、悪いがおいそれと自分の能力を見せるわけにはいかないんでね。ステータス提示は断らせてもらぜ、ダンチョウサマ?」

「おいおい、それじゃあ訓練内容が組めんだろう? 別世界に来て新しい力を手に入れたからと浮かれるんじゃない。この世界は生と死は隣り合わせだ。大人しく見せておけ」

「おいおいおいおい、アンタこそどうかしてんじゃねえのか? こっちからしてみれば勝手に召喚されて、自分たちの知らない場所に飛ばされた。つまりだ、何事にも警戒するのは当たり前なのに、わざわざどうして、弱点になるようなステータスを開示しなきゃならないんだ。アンタは敵かどうかもわからない場所で、味方かわからない怪しい人物に、自分の全てであるステータスを見せるほどアホなのかよ?」

「…………………………。それもそうだ。俺なら見せんな。わかった、ステータスは見せなくてもいい…けど、訓練ではせめて基礎は学んでもらうぞ。その動きを見て、あったスタイルを言う。どうだ?」

「それでいいぜ」

 

 十六夜は飄々と肩を竦めながらそう言った。

 確かに、十六夜の言うことは一理あるとメルドは思った。それと同時に、十六夜に対して他のクラスメイトとは違う、思考の回転が早く、どこか侮れない相手だと認識した。

 

 ステータスだけでは見られないこともたくさんあるだろう。技術や経験、その人物が持っている技というのはステータスでは確認できない。だが、ステータス値と言うものがある時点で身体的にも魔法的にも覆せない事実がある。

 そこを補うのが技能と言うものだ。それなのに、技能まで見られてしまっては全てとまではいかないが、ある程度のことは対処されてしまい、容易に捉えることも可能となるだろう。

 

 十六夜にとっては見られても何もわからないから問題ないのだが、ここでお前らになんでも従うわけではないのだと、抵抗する手は持っているかもしれないぞという意思表示をすることで立場をある程度確立させた。

 

 十六夜とメルドの話を聞いたハジメは後悔する。自分もステータスを確認した時点で隠してしまえば、誰にも見られることはなかったし、自分の能力を知られることはなかったのだ。ましてや、能力も何もない異世界から来た自分たちは、スタートは一緒であり、それこそステータスや職業、技能で上下関係も決まってしまうような場面。

 

 やはり十六夜は只者ではないと思うと同時に、自分もあのような行動が取れるようになりたいと、ハジメの心の奥で密かに十六夜に対して憧れを持つ。

 

 だが、十六夜のそれを快く思わないものも居る。十六夜がどういう人物かわからないために手出しも出来なく、地球では十六夜が居るときはハジメに手を出せなかった檜山達は大人しくしていた。しかし、この世界に来て力を得て、十六夜すらも好きにできるのではないかと考えていたのだが……これでは十六夜の能力が分からずじまいだ。

 

(ステータスがわからないのなら、訓練する意味はないか…俺に今必要なのは実戦経験と知識ってところかね)

 

 そう考えて、ステータスを確認してから二週間は図書館に篭って知識をひたすら集めていた。十六夜にとってある本すべてが未知の知識であるので退屈することはなかった。こう見えても十六夜はかなりの知識を蓄えており、それはこうして書物を読みふけていたことも一因だろう。

 

 そして、その図書館には十六夜だけではなくハジメも居た。二週間経ったというのにレベルは2しか上がらず、ステータス値は刻むように上がるだけであり、訓練しても意味が無いのではないかと考え始めていた。

 自分は強くなれないのではないかという可能性の一つに軽く絶望し、檜山達に虐められるのも相まってかなり精神的に来ているというのが現状だ。

 

 目の前で座っている十六夜も、もしかしたら同じなんじゃないかと淡い期待を持っている。もしかしたら仲間では、と。

 

 この二週間、結局のところ十六夜が訓練に出たことはない。ハジメが図書館に行けば、必ずと言っていいほど本を読んでいる姿を見る。その十六夜の前の席に座ってハジメは本を読んでいた。

 

(異世界ということは亜人も居るだろうし、ぜひ見てみたいなぁ……攻略や魔王討伐は勇者に任せて、僕は飛び出して世界でも見てこようかな……)

 

 本を閉じ、窓の外をぼんやり見ながら色々と考える。そして、窓の外から十六夜へと視線を向ける。本を読むその姿は見慣れてしまったものだが、その真剣な姿は男のハジメからしても格好いいと思わせるような表情。いつもつまらなさそうにしているのでギャップがあるからといったところだろうか。

 

(終夜君も誘ったら、来るかな?)

 

 多分、ついてきてくれるだろうとハジメは確信めいた予想をする。十六夜が何か決まったことに捕らわれて行動するタイプではなく、自由気ままに、好き勝手に動く方がらしいと思ったからだ。何にも縛られることのなく、自分の力のみで突き進み、面白いことを求めて生きていく。そんな気がした。

 

 実際に十六夜は知識を蓄えて、ある程度のことを経験したら外に出て好きに生きていくつもりである。こんなにも面白そうなことが溢れている異世界で、縛られるのはつまらない。故に、自分で面白いことを求め、強い敵や感動を探しに行く。ついでに魔王という力の有りそうなやつと戦ってみるのもいいかもしれない程度には考えていた。

 

 幸いにも、この広大な図書館には膨大な量の書物が蓄積されており、流石王城と言ったレベル。外では見られないようなものも置いてあり、これ幸いにと全てを読んでいく。

 

 それでもハジメの存在には気づいている。毎日、自分の前に座って本を読み、何故か自分を見つめてくるその視線に何してんだと疑問は湧くし、敢えて無視していたが、流石に今のようにずっと見つめられるということはなかったため、ため息をつきながら顔を上げる。

 

「おい、南雲」

「うぇっ!? ぼ、僕!?」

「オマエ以外に異世界に南雲ってやつが居るのかよ。世界に同じ顔が3人いるっつーなら、異世界にも適応されんのかよ? 別世界のやつなのに。それなら会ってみたいもんだな」

 

 初めて十六夜に話しかけられたハジメは、いきなりのことにテンパってしまい、変な声を出す。

 

「な、何かな…?」

「何かなじゃねぇよ。オマエ、ずっと俺のこと見てただろうが……何か用か?」

「よ、用ってほどじゃないけど……終夜君はさ、訓練にも出ずに本を読んでるでしょ? それって何でかなって……もしかして、僕と同じ?」

「あー…そのことな」

 

 ハジメにそう聞かれて、ポツリと呟く。

 理由を話してもいいが、ステータスプレートを見せたほうが早い。別に見られても何もわからないだろうし、南雲にならいいかと思い、ステータスプレートを取り出して、机に投げる。

 

 くるくると回転しながら机の上を滑るステータスプレートは、ピタリとハジメの前に止まった。その動作にちょっと格好いいと思いながらも、ステータスプレートを覗き込む。しかし、そこに表示されているのは明らかにおかしいことだった。

 

「なッ!?」

 

 全てERRORのステータス値に技能は正体不明。これからは何も読み取れない。

 

 驚愕すると同時に、納得する。確かに、これならばわざわざ訓練によって何かを鍛える必要はないだろう。なぜなら、どれを鍛えればいいのかわからないし、どれだけ自分が動けるのかわからないからだ。

 とは言え、十六夜は自分がどれくらい動けるのかは把握している。今現在は地球に居た頃となんらかわりはない。

 

 ステータスを見て一人納得するハジメを見た十六夜は、ハジメが浅い考えをするだけの存在ではなく、考えることの出来る奴だと、他とは違った考えができるのだと評価を上方修正する。

 

 今はまだ何も出来ないが、何か人生を変えるような出来事にあえば、思いもよらない成長を遂げるかもしれない。

 

 ハジメから返されたステータスプレートを受け取ってしまう。

 

「終夜君はさ、これから何をしようかとか考えてる?」

「まぁな。魔王には興味がある。そんな素敵ワードを放っておくなんて出来ねぇだろ?」

 

 そうかもしれないね、とハジメは苦笑する。

 

「それでも、縛られた生活は性に合わねえ。だから、ある程度の知識を蓄えたら、この世界を見て回ろうかとは考えてるぜ。ついでに魔王と戦えたらいいなとは思っちゃいるがな」

「そうなんだ…僕もこのままじゃ役に立たないし、外にでも出ようかなって考えてるんだ。よかったらさ、一緒にここから飛び出さない?」

「へぇ…そんなこと考えてたんだな。まあ、こういった異世界のことを知ってるなら、それもそうか」

「え、もしかして終夜君も二次創作とか読むの?」

「あ? そりゃ見るぜ? 蔵書も読むが、ネットなんかで素人が書いたものを漁って読むなんてのも、また違った楽しみがあるからな」

「そうなんだ! じゃあゲームとかも?」

「人並み以上にしてんじゃね?」

「おお! じゃあさ、最近人気になった「ありふれた家具で世界最強」とか読んでる!?」

 

 思わぬ趣味を共有できる人物に、今までの落ち込んだ様子が嘘のように目を輝かせて十六夜に話しかけるハジメ。その姿に苦笑しながらも、嫌いではないのでなんだかんだ話をする十六夜。今まではそういった相手がいなかっただけで話をしなかったが、相手がいれば人並みに話くらいはする。香織がいい例だろう。

 

 そうしてそのまま二人で訓練をサボって話に花を咲かせたのだった。

 

 

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