ありふれた問題児(職業)が世界最強になるそうですよ?   作:きりがる

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かなり頑張った…けど、戦闘描写がそのせいで不安です。

結構無茶苦茶であり、ご都合主義…とまでは生きませんが、無理矢理感があるけど、勘弁してください。

私には、これが限界だった―――。

あ、明けましておめでとうございます。今年はこっちに来れる時間は少ないかもしれませんが、どうぞ宜しくお願い致します。


第04話 ベヒモスと問題児が戦うそうですよ?

 

 

 

 場がパニックに包まれる。前方のトラウムソルジャーに後方のベヒモスという状況はまさに前門の虎、後門の狼。トラウムソルジャーを排除してもベヒモスがすぐに襲い掛かってくるだろう。最悪の状況だ。

 

 ベヒモスが咆哮を上げながら巨体を揺らし、逃げ惑う生徒たちに向かって突進してくる。その巨体と突進力は途轍もない威力を誇り、撤退中の生徒はあっけなく圧殺されてしまうだろう。

 

 だが、そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を展開する。最高級の巨大な紙に書かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらには3人同時発動は絶対的な守りを見せる。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する。神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

 燦然と輝く半球状の障壁は、たった一回だけの効果を発揮するにはふさわしい程の役割を果たす。ベヒモスの突進を防ぎ、この場にいる全員を守りきったのだ。

 しかし、衝突の瞬間に凄まじい衝撃が生じてしまい、ベヒモスの足元が粉砕されるとともに石造りの橋を揺らす。

 大きな揺れに撤退中の生徒たちは悲鳴を上げ、思わず転倒してしまうものが相次ぐ。

 

 次から次へと襲いかかる恐怖に誰もがパニック状態に陥り、隊列など無視して走り出す。

 

 その時、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされて転倒してしまった。

 

「あ」

 

 ただ、それだけ。目の前で剣を振りかぶる恐ろしい魔物、トラウムソルジャーの姿にその一言しか出すことは叶わなかった。助けを呼ぶことも叶わず、死ぬという一言が頭のなかに浮かび上がる。

 

 思わず目を閉じる…………だが、衝撃は一向に襲いかかっても来ないし、痛みもない。ゆっくりと目を開ける。そこにはトラウムソルジャーの剣を片手でなんでもないかのように掴んでいる金髪の少年が一人。

 

「終夜、くん……?」

「ったく、どいつもこいつもなっちゃいねえ。おい、無事か?」

「え、あ、うん!」

「そうか」

 

 助けられた女子生徒は、差し出された十六夜の左手を思わずつかみ、力強い力で立ち上がらされる。その間も右手にはトラウムソルジャーの剣が握られており、必死に剣を引き抜こうとしているが、十六夜の腕はびくともしない。

 

 先程まで間近だった死の恐怖に足に力が入らなかった女子生徒は、引き上げられると同時に十六夜に抱きつくようにして凭れ掛かってしまう。咄嗟に見上げてしまい、普段見ることのなかった十六夜の楽しそうに口角を釣り上げる横顔に思わず頬を染めて見惚れてしまう。

 

「おい」

「え…? あ、な、なに!?」

 

 十六夜の一言に慌てて返事をする女子生徒。

 

「今から道を作り出す。それが出来たら今度は突き飛ばされないように階段まで走れよ。橋が壊れないように加減はするが、巻き込まれんじゃねえぞ!」

 

 そう言うが否や、十六夜はトラウムソルジャーの橈骨と尺骨を左手で握りつぶし、かちあげるように左裏拳で頭蓋骨を叩く。それだけでトラウムソルジャーの頭蓋骨は頸椎から分離し、一つの弾丸となって迷宮の壁を穿つ。爆発したかのような轟音と土煙に誰もが目をそちらに向けてしまう。

 

 頭部を失ったトラウムソルジャーはがしゃりと膝から崩れ落ち、剣だけが十六夜の手の中に残る。そして、それを握りしめるとともに、軽いフォームで生徒たちの前方にいるトラウムソルジャーの塊に投擲した。

 

「らァ!」

 

 瞬きすら許されない刹那の間に、弾丸と化した剣はトラウムソルジャーの塊の中央に突き刺さり、衝撃が辺りを蹂躙する。橋に出来たクレーターの中央には赤熱化したボロボロの剣が刺さるだけで、残りのトラウムソルジャーは全て破壊されるか、衝撃に吹き飛ばされて奈落への落ちていく。

 

 あまりの衝撃的な出来事に誰もがついていけない。十六夜が何かしたと思ったら次の瞬間には橋が爆発し、トラウムソルジャーが消え去っていたからだ。

 

 そんな中、十六夜が近くの女子生徒の肩を後ろからぽんと押し、階段に向かうように告げる。

 

「道は出来たぞ。さっさと行け。邪魔だ」

「ぁ……で、でも、終夜君は……」

「あ? 別に気にすんなよ。俺はちょっと…あれと戯れてくるからな」

 

 女子生徒が十六夜を心配そうに見つめるが、十六夜は気にもしていないのかベヒモスに向けて獰猛な笑みを見せる。その純粋な殺気にベヒモスも瞬時に察知し、低く唸りながら殺気元の十六夜を睨みつける。既に一人と一匹に周りの存在は映り込んでいないといえるだろう。熱く見つめ合うのは化物同士。

 

 ポケットに手を入れ、笑みを浮かべながらコツコツといつの間にか静まり返った空間に靴音を響かせる。対するは最強の冒険者ですら敵わなかったと言われる最強の魔物、ベヒモスが威嚇するかのように唸る。今まで感じたことのない叩きつけられる殺気に十六夜が嗤った。

 

 その余裕綽々な姿にメルドですら声をかけるのを忘れ、目の前を横切っていくのを呆然と見つめる。

 

 一人の問題児が、ベヒモスの前で立ち止まる。

 

「よう、お前は中々強そうじゃねぇか。なぁ――――俺と遊ぼうぜ?」

「ッ―グギャアアァァァァアアアアアアッッ!!!」

 

 今までで一番の咆哮に、大気が震え、迷宮そのものが悲鳴を上げるかのように壁を、橋を揺らす。レベルの低く、戦闘にも慣れていない勇者達には認識すらできなかった、最速で最大の一撃が繰り出される。ベヒモスの巨大な右前足が、目の前の障害物を叩き潰すが如く斜め上方から振るわれる。

 

 この国最強のメルドだろうと瀕死になるだろう重すぎる一撃は、人間が受けるには辛すぎる。あまりにも桁外れな威力を誇るその一撃は、

 

「ハッ―――しゃらくせえッ!!!」

 

 更に上を行く問題児(化け物)による一撃の前に、その威力を発揮することはなかった。

 

 行われたのは至極単純。十六夜が繰り出した右の拳がベヒモスの一撃よりも更に速かっただけのこと。

 十メートルはあろうかという巨体が人間の小さな拳により、一度も橋にバウンドすることもなく斜め上に飛んでいく。

 今までで最大の衝撃と轟音が鳴り響き、まるで大型爆弾による爆撃でもあったかのような光景が生み出される。吹き飛んだベヒモスは壁に深く埋まり、周囲の岩壁を尽く粉砕して煙に埋もれてしまった。

 

 あり得ない光景に誰も動けやしない。人間が生み出していい一撃ではない。まるで神話の出来事やお伽噺の出来事にような光景に、思考を混乱させるメルド。あれを…あの一撃と同等の攻撃を自分が繰り出せるだろうか。――否。あれは誰にも真似出来ない。考えることすら許されない一撃。

 

(本当に…人間か………?)

 

 まるでその体に、拳に神でも宿っているのではないかと思えてくる、馬鹿げた光景だった。

 それも数秒のこと。騎士団長にまで上り詰めた男はすぐに思考をもとに戻し、生徒の安全の確認を行う。戦場では何が起こるかわからないし、新たな敵は何をしてくるのかわからない。そんな状況で臨機応変に動かなければ死んでしまう修羅場を幾多も潜り抜けてきたのだ。

 

 体に力を入れ、声を上げる。

 

「総員、隊列を組み直せぇッ!! もたもたするな、トラウムソルジャーが新たに生み出されてきたぞ!!」

 

 その大声に全員がハッと意識をこの場に戻す。慌てたように後ろを見れば、再び階段の前には赤い魔法陣から新たなトラウムソルジャーが排出されていた。騎士団員を中心に隊列が組み直され、攻略と撤退が開始される。

 

「階段まで撤退したら詠唱の準備をしろ! ベヒモスを魔法で牽制して十六夜を撤退させる!」

「待って下さい、メルドさんはどうするんですか!?」

「光輝…俺は十六夜のバックアップだ。おそらく、ベヒモスはあの一撃では死んではいない。壁から這い出てきたら更に激昂することだろう」

「なら! 俺も残ります!」

「馬鹿者! お前が相手になると思っているのか!」

 

 二人が言いあっている最中だとしても、ベヒモスは止まらない。自身の感じた初めての痛みと衝撃に、怒りのボルテージを跳ね上げる。角から放たれるスパークは留まることを知らず、体を覆い尽くさんばかりに放電されていた。

 

 のそりと壁の中から巨体を覗かせる。それを見た十六夜はにやりと嗤った。

 

「グルルルル………」

「そうじゃねえと面白くねえ。オマエの全てを見せてみろ……俺を、楽しませろよッ!!」

「グルオオオオォォォオオオッッ!!!」

 

 十六夜の叫びに応えるかのように、ベヒモスは大きく咆哮を上げる。角を振りかざし、スパークを見せつけるかのように振り回す。出現した当初よりも赤熱化を果たした兜を掲げ、振り乱しながら地面を砕きつつ突進を開始する。巨体に見合わぬ速度に、十六夜との距離はあっという間に縮められ、残り五メートルと言ったところで重さを感じさせない跳躍をする。

 

 自分の体高以上に飛び上がったベヒモスは、兜を大きく振り上げ、真下の小さな標的に向けて振り下ろしたッ――!

 

 橋ごと叩き潰さんとするその一撃に、十六夜はバックステップによって距離を取ることも、着弾点から逃げようとすることもせず嗤って仁王立ちし、ぶつかる瞬間に頭上で両腕をクロスした。

 

 誰かが後方で十六夜の名を呼び、叫びを上げる。誰もが十六夜が潰されるだろうと咄嗟に視線を逸らす。

 

 しかし、この男に常識は通用しない。

 

 クロスした両腕の交差点にベヒモスの右角がぶつかり合う。十六夜の足元が受け止めた衝撃に尽く粉砕され、その衝撃は止まることなく周囲の地面を盛り上げて砕き散らす。その後、バゴンッ!と巨大なクレーターが十六夜を中心に形成された。未だ橋が崩れていないことが奇跡だ。

 

 だというのに、十六夜は涼しい顔をしている。まるで堪えておらず、角から奔る電撃も効いていないかのようだった。

 信じられないことだが、真正面から最強の冒険者でも倒せなかったベヒモス相手に力比べをするつもりなのだ。

 

 巨体から見て取れる体重と重力、遠心力とベヒモス自身の力が加わったというのに、十六夜は圧殺されることも、膝を屈することもなかった。

 

「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!! いい感じに盛り上がってきたぞッ…………!!!」

「グガァァァアアアアァァッッ!!!」

 

 更に力が加えられる。しかし、着弾からの押し合いになったのは僅か一瞬。

 ベヒモスは十六夜の腕に押し上げられ、下げていた顎を晒すこととなる。

 

「グルルルルルッ!!」

「おいおい、どうした自称最強の魔物! 苦しそうな声を出してるじゃねえか!」

 

 ついには十六夜が左腕一本で支え、右手で角を鷲掴みにする。そして、撚るように手を回すと、まるで合気のようにベヒモスが回転して地面に背中から叩きつけられる。追い打ちとしてその腹を踏みつけてもいいのだが、十六夜の足踏みはそれだけで橋を崩壊させるには十分な程の力だ。

 

 流石にそれはやめておき、角を掴んだまま、ヒョイッと重さを感じさせない動作でベヒモスを持ち上げる。そして、それを第三宇宙速度で最初にあけた穴の下に投げつける。轟音、そして衝撃。もう、石造りの橋は衝撃だけで崩れてしまいそうな程となっている。

 

 何度目の衝撃だろうか。目の間で起きていることが誰も信じられない。あのベヒモスが、ステータスすらわからない謎の少年に圧倒されているのだ。生徒たちも、あの終夜十六夜が見せたことのない獰猛な笑みで、喜々として人外じみたことを行っていることに、唖然とする。勇者も普段の勘違い的発言すらもしていない。

 

 夢を見ているのだろうか。そう思った人物は決して少なくない。

 

 そして、その驚くべき光景に目を見開いているのはハジメもだった。普通では考えられないような力を見せつけられ、これでは十六夜が主人公のようだと、隠された力を持っているなんていうテンプレじゃないかと…その他諸々、様々なことを考えている。

 

 同じく、十六夜と親しかった香織も驚愕に身を襲われていた。だが、それと同時に嬉しくも思っていたのだ。

 普段から何かを押さえつけるかのように、我慢していたつまらない顔をする十六夜が、こうも笑って楽しそうにしている。初めて見る表情と十六夜の戦闘、雰囲気や全てに知れたことによる喜びが胸の内を染める。

 

「ハッ!? か、各自、詠唱開始! ベヒモスがあの壁から出られないように魔法を撃て!」

 

 メルドの号令に全員が魔法を詠唱して放ちだす。色取り取りの魔法弾は流星のようにベヒモスが居るであろう壁の穴へと放たれる。

 

 だが、それをよく思っていないのが十六夜だ。

 

「つまんねえことしやがる……」

 

 一気に興が削がれてしまい、不機嫌を隠そうともせずにポケットに手を入れてベヒモスの居るだろう場所を眺める。

 後ろからメルドの戻ってこいという声が聞こえてくる。ため息一つ。

 

 最後に一度だけベヒモスを一瞥し、踵を返して生徒たちの方へと戻ろうとしたその瞬間、再び咆哮がこの空間内を支配し、魔法を物ともしないベヒモスが壁の中から出現して突進してくる。

 

 もし、メルドが攻撃をしようと、レベルの低い生徒たちが魔法を放とうと傷すら付けられない状態であろうと、通常状態のベヒモスであればまだ魔法は目眩ましに程度には効果を発揮したかもしれない。

 

 だが、今いるのはベヒモスを容易に傷つけ、死に追いやるだろう存在が居る。何度も自分を吹き飛ばし、投げつけられたベヒモスは当たり前かもしれないが激昂している。そして、速度を重視して足止め及び目眩まし程度に放たれた魔法なぞ怒りの前には目にも入らず、今のベヒモスが見えているのはただ己を傷つける存在。この場で唯一、自分の敵である十六夜のみ。

 

 角を突き出した状態での突進。あらゆる魔法が着弾とともに弾かれて消え去り、地響きが橋を揺らす。この突進を十六夜が受け止めなければ後方の生徒たちは壊滅へと追いやられるだろうことは容易に想像できる。

 

「よしよし、いい子だ。俺に全てをぶつけてみやがれッ!!」

 

 魔法を無視して自分だけを目指して攻撃を放つベヒモスに、十六夜は萎えきっていた闘争心を再び燃やして嬉しそうに嗤う。

 

 三度ベヒモスの攻撃を受ける。今度は左腕一本で角を掴み取り、突進を止めると同時に、右腕を大きく振りかぶる。狙いは目の前の頭だ。

 

「頭がいい位置になったな! オラァ!」

 

 ドゴォンッ!と分厚いゴムを殴ったかのような重い音とともにベヒモスの頭は橋に埋もれる。そして、十六夜のその手には突進を止めた時に把持していた右の角が、半ばから折れた状態で握られている。

 バチッバチッと数度スパークを放った後に、宙に溶けるようにスパークが消えていき、ベヒモスの頭から離れたただの巨大な角だけが残った。

 

 後ろに放る。回転しながら放物線を描く角は、最前線にいた雫の前に突き刺さった。

 

 あのベヒモスの角が、だ。もう、目の前に刺さっていることが夢じゃないかとさえ思えてきた雫だった。

 

「坊主、行けるな!」

「はい!」

 

 メルドの合図にそう返事したのはハジメだった。

 この二人は十六夜がベヒモスと戦っている時に予めベヒモスへの対抗策を考え、タイミングを図っていたのだ。

 そして、丁度ベヒモスが体の一部を、頭を地面の中に入れた瞬間にハジメは走り、十六夜の隣で膝をつく。

 

「錬成――ッ!!」

 

 錬成の魔法陣が組み込まれた手袋を嵌めた手をつけ、錬成を発動させる。頭を引き抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。流石のベヒモスとは言えど、頭を封じられては力も入りにくいのか、四肢を暴れさせて頭を引き抜こうと躍起になっている。そのため、四肢の足元を錬成して封じることは困難であった。

 

 それが駄目だったのだろう。どこか頭の隅で考えていたはずの最悪の事態が起きてしまった。

 

 ベヒモスが暴れまわり、生徒たちが更に強力な魔法を放とうと準備をしている中、はっきりと耳に残る音が聞こえた。

 ビシリとまるで亀裂が入るかのような音。それは、ついに橋が限界を越えたことで上げた悲鳴だった。

 ベヒモスが暴れまわり、十六夜が受け止めた足元の橋は本当に奇跡的と言っていいほどにすぐすぐ崩れることはなかったのだが、もう保たない。

 

 ベヒモスの頭の元まで巨大な亀裂が走り、錬成が行われる前に頭が引き抜かれてしまうが、まだ橋は崩れることはなかった。

 

「グゴォオオオッ!!」

 

 吠えながら一本だけになってしまった兜を振るうように地中から脱出したベヒモスに、ハジメは錬成を止めて尻もちをついた。

 

「いかんッ! 地面に当たらないようにベヒモスだけを狙って魔法を放て! 足止めをするんだ!」

 

 その状況にメルド団長は魔法を放つように叫び、一斉に魔法が放たれた。地面に当たれば砕けてしまう可能性が増加するため、ベヒモスだけを狙えと指示を出す。

 

「坊主、十六夜! 早く走ってこい!」

 

 ハジメの錬成を近くで見ていた十六夜は、いつでもハジメを抱えて階段まで跳躍できるようにと身構えていたが、ハジメが立ち上がって走り始めたのを見て自分も戻るかと考えたその瞬間、右腕が上下から何かに挟まれ万力のような力で砕こうと力を込められる。

 十六夜にとって痛みなどなかったが、足止めを食らって何事かと後ろを振り向くと…そこには魔法を喰らいながらも自分の右腕に喰らいついているベヒモスの姿があった。その左目は魔法でやられたのか潰れており、血を流しているが、残った片方の目は十六夜のみを睨みつけている。

 

 そして一歩。たった一歩だけベヒモスが踏み出した瞬間、ベヒモスの重い一歩と体重に耐えられなかった崩れかけの橋が崩壊を始める。

 

 全体に亀裂が走り、一瞬で十六夜とベヒモスの足元が重力に逆らうことなく奈落へと落ちていき、それは一体と一人も例外ではない。流石に足場がなければ跳躍も出来ない。よって、十六夜はベヒモスを腕一本で投げることで自分の身も上方へと持ち上げようとしたが、なんとベヒモスはそれを感じ取ったのか口を離してしまう。

 

「チッ……」

 

 やるせない気持ち。落ちることなんてどうもでいい。ただ、試合に勝って勝負に負けたかのようなこの晴れない気持ちに、十六夜は勝ち逃げされたかのように思えて仕方なかった。

 

 もう、十六夜が橋の上に戻る手段はなくなった。橋の方を見る。すると、丁度ハジメもともに奈落へと落ちていく瞬間だった。

 

 ハジメは橋が砕ける前、ベヒモスに魔法を放たれていた時に、一つの魔法が目の前に着弾し、その衝撃に脳を揺さぶられる。そのまま呆気なく橋の瓦礫とともに奈落へと落ちていってしまったのだ。

 

「十六夜くん! 南雲くん!」

 

 香織の叫び声が聞こえてくる。香織が飛び出そうとして雫や光輝に羽交い締めされている姿だった。他のクラスメイトは目を覆ったり視線を逸したりして、その光景を見ないようにしていた。

 

 奈落の底へと落ちていく十六夜、その少し上を落ちてくるハジメ。すぐに光は届かなくなり、二人の周りは闇に包まれるのだった。

 

 

 

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