ありふれた問題児(職業)が世界最強になるそうですよ? 作:きりがる
やばい…空きすぎたか……。
相も変わらず拙い戦闘描写なので駄文注意です。
―――ゴガァンッ!!
轟音とともに粉砕音も同時に聞こえてくる。
戦闘開始時に小手調べと十六夜が砕け散った立方体の石を拾い、第三宇宙速度で投げたのだが、サソリモドキのあまりの硬い外骨格に石の方が耐えきれずに粉砕してしまったのだ。とはいえ、第三宇宙速度で投げられた石を食らった外骨格も無事ではなく、着弾点は無理やり削り取られたように砕けていた。
「ふぅん? 見た目通りに硬いってわけか……ま、石で砕ける時点で苦戦する程ではないってことが分かっちまったが」
手の中の石を放ってはキャッチする動作を繰り返しながら、サソリモドキを観察する十六夜。それを見て驚愕しているのがユエだった。
それもそうだろう。軽く投げたような動作で石を投げたと思ったら、自分の魔法が出せる最高速度を優に上回る目に見えない速度で投げられ、瞬きする暇もなく気づけばサソリモドキの外骨格が弾けていた。これをみて驚くなという方が酷というものだ。
自身が今まで見たこともないようなその光景。思えば、自分を助け出してくれたときも、魔法ではどうにも出来ない立方体を殴って砕き、助けてくれたではないか。
結論。十六夜は凄いし、格好いい。単純明快。ユエの好感度は鰻登りであり、もはや天元突破していると言っても過言ではなかった。
「なら、今度は殴ってみるか! 簡単にくたばんじゃねえぞ! サソリモドキ!」
持っていた石を放り捨てて、叫ぶとともに前傾姿勢になったと思うと破裂音とともに十六夜の姿は掻き消え、次の瞬間にはサソリモドキは尋常じゃない力で吹き飛ばされた。
悲鳴を上げることすらも許されず、第三宇宙速度で岩壁に叩きつけられる。一瞬の内に赤熱化するが、その熱は感じる暇もなく瓦礫によって消え去り、治まることのない衝撃に身を削られる。
水流に流され、石と打つかりあって角が取れ、丸くなる小石のように………なんてことは到底言えないような勢い。
漸く止まったときには岩壁の中を数十メートルも突き進み、見えない力に止められ、突き立てた脚の角ばった部分が削れた時だった。
まさに満身創痍。十六夜の一撃でサソリモドキは重症を負い、殴られた部分はまるごと吹き飛んで肉が見えていた。本当に考えられないような威力。
そして、その威力に首を傾げていたのが十六夜だった。
全力ではなく手加減して殴ったはずなのに、手加減以上の威力が出たことに自分の手を眺めながら疑問に思う。いつもの様に手加減してこの力…確実に力が上昇していたのだ。
(どういうことだ? 全力じゃないのに明らかに威力が違った…まさか、異世界に来たことで俺にも変化が生じて……いや、違ぇ。まさか――)
短い思考であったが、それだけで自身の変化の原因を思い浮かべた十六夜は徐にステータスプレートを取り出して見る。
そこには当たり前のようにステータス値全てがERRORと書かれており、技能欄もなんらかわりはない。だが、変化している項目が一つだけあった。
(なるほど、俺もこの部分だけは他の奴らと同じだったのか………)
レベル:1 → レベル:48
そう、十六夜のステータスプレートが他とは違い、一切の詳細がわからなかったのだが他と同じ共通する場所はあった。それが、レベルだ。
いくら十六夜が正体不明の力を保持していたとしても異世界人に変わりはなく、レベルという概念のあるこの世界に来たことで十六夜にもレベルはつくこととなる。勇者達と同じ異世界人であり、力は違えど出発点は同じであるが故に、この世界で得られる経験値はゼロからのスタートなのでレベルがERRORとなることはなかった。
よって、勇者達同様にレベルは1から始まった。
十六夜は落ちる前の上層の迷宮区では香織たちを助けた時以外に戦うこともなかったのでレベルは急激に上がることもなく、上昇した力に気づくことはなかった。しかし、奈落の底に落ちて迷宮を駆け抜け、魔物を殺して経験値を取得したことでレベルも上昇し、身体機能も上昇した。
自分の益になる恩恵は確りと取得するのでレベルと上昇したステータス値は獲得したことになっている。
未だにステータス値はERRORと計測されることはないが、それでもレベルが上昇した分だけ力は上がり、こうしてサソリモドキ相手に力を行使したことで自覚できたのだ。
今は手加減して第三宇宙速度を叩き出せるが、恐らく…いや、確実にこれ以上レベルが上昇するなら更なる力と速度を繰り出せることだろう。十六夜は、まだ強くなれる。強くなれてしまうのだ。
その事実ににやりと笑いながらステータスプレートをしまい、前方を向くと同時に十六夜に殴られたサソリモドキが空けた穴の中から、何十本もの鋭い何かが飛んできて、十六夜を襲う。
十六夜の並外れた動体視力は確りとそれを把握する。それはサソリモドキが尻尾から撃ち出した針だった。飛んでくる針が確実に自分に当たるものだけを見極め、体をずらして避け、手掌で叩き、手背で弾き、一歩も動くこともなく全ての針に対応する。
十六夜にとってはこの程度はどうということはない。だが、それでも、無事だと分かっていてもそれを是としない者がいた。
「“蒼天”」
目を鋭くさせたユエが徐に穴の中に向けて手を掲げたと思うと、自身の金髪と同じ色の魔力を膨大な量噴出させ、魔法を発動させる。魔力光に彩られた神秘的なユエの前方に直径七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。ただそこにあるだけなのに、少しばかり離れた場所にいる十六夜にすら肌を焼くような熱が伝わってくる。
「ハハ、あれが最上級並の魔法ってやつかよ。しかもそれを詠唱なしに一瞬で発動させるだと? 魔法使い涙目じゃねえか、クソが」
そんなことを言いながらも愉快そうに笑う十六夜の姿を見て、ユエは楽しませられたことに喜悦を感じる。そして、その青白い炎の玉を洞窟内にぶち込めるだけの大きさに変化させ、躊躇いなく放り込んだ。
直後、爆音が空間全域に伝わり、凄まじい熱風が穴から吹き出して二人を襲う。穴の入口からサソリモドキの場所まで接触面は全てどろどろに溶け、溶岩のようになった鉱石がどろりと地面に落ちていく。
さらに、次の瞬間、膨大な量の炎が穴から吹き上がる。サソリモドキに当たって爆発した蒼天は一瞬にして穴の中の空気を使い尽くし、穴の外の空気を急激に吸い込んだことによって炎が吹き出した。所謂、バックドラフトと呼ばれる火事の際に起こる現象が一瞬の内に起きたのだ。
これほどまでの攻撃を狭い空間で食らったサソリモドキは咄嗟に受け止めた四本のうち2つのハサミをどろどろに溶かしながらも叫び声すら全てに掻き消され、我武者羅に脚を動かし、巣窟の外へ…空気のある場所へと飛び出した。
その姿は満身創痍であり、飛び出してから暫く動けないほどであった。その姿を見てユエは満足する。十六夜を襲った報いだとでも言うように胸を張った。
「蒸し焼き」
最上級の魔法を放った事による消耗を感じさせながらもそう呟き放った。
「ヤハハ! 確かに蒸し焼きだったな! やるじゃねえか、流石、吸血鬼ってとこか?」
「私…役に立つ…?」
「おう。虫が大量に湧くところとかで一掃できそうだな」
「虫……」
いつの間にか近くに来ていた十六夜が軽薄な笑みを浮かべながらユエにそう言った。十六夜の言った虫と言うのはここに来るまでの虫が大量に湧く階層のことだろうが、虫を一掃できると言った十六夜に、ユエは微妙な気持ちになる。流石に虫のために魔法を頼られるというのは、考えどころなのだろう。いや、ユエとしては虫とは関わりたくないが、避けられない場合に焼き殺すことに対しては大いに賛同できることなのだが。
「あとは俺が楽しむから、離れたところで見てろ」
「ん、わかった。……負けないで」
「ふん、誰に言ってんだ? あの程度に負けるわけねえだろうが!」
叫ぶとともに、サソリモドキの振り下ろされたオオバサミを右手で受け止め、更にもう一振りのハサミも左手で受け止める。ズンッと十六夜の足元を中心に地面が揺れ、衝撃が周囲に拡散していった。
十六夜が受け止めたオオバサミはそのまま十六夜を押しつぶす…なんてことは無く、逆に少しばかり力を込めて握った十六夜の手の中で、接触面がバキッと砕けて外殻の中の肉を握り潰されてしまった。
「キシュアァァアッ!?」
「どうしたよ、お前と出会ってから悲鳴ばかり聞いてる気がするぜ?」
「ギギャアァァアアァッ!!」
ハサミと手で握り合うかのようにしているため、サソリモドキと十六夜の顔は必然的に近くなる。サソリモドキの巨大な顔の前で十六夜がニヤリと笑えば、サソリモドキは泡を噴くかの如く、濁った声を上げる。
既にサソリモドキの中では十六夜は小さな、取るに足らない存在ではなく、自身の命を脅かす強大な敵だと認識されている。初っ端から殴り飛ばされて壁の中を突き進み、こうしてハサミまで握って壊されたら嫌でも認めなければならない。それでも、目の前の自分の体よりも小さなものにこうして目の前で喧嘩を売られているのは、我慢がならなかった。
怒りそのままに尻尾に力を込め始める。その尻尾は今までの膨らむ速さとは遅く、徐々に徐々にと肥大させていくことで最大最強の攻撃を放とうとしているのだろう。
今、膨らんでいる尻尾の中には夥しい数の針と膨大な量の溶解液が溜め込まれ、目標に向かって放たれるのを今か今かと待ち構えている状態だ。
「キシャァァァアアアアアッ」
サソリモドキの咆哮が轟く。それと同時に、サソリモドキの足元から周囲の地面が広範囲に波打ち、十六夜の足元を不安定にする。
「おっ、テメエの魔法か? 錬成みたいだな……っと」
これはサソリモドキの固有魔法なのだろう、周囲の地形を操ることが出来るようだ。
地面が波打つと同時に、轟音を響かせながら地面から円錐状の棘が無数に飛び出してくる。当たっても問題ないだろうが、流石にここは一度距離を取るべきだと、サソリモドキのオオバサミから手を離して後方へと跳躍する。
その直後、十六夜のいた場所は周囲から一点に向けて棘が放たれたことで棘が天に向かって伸び、入り乱れたかのようなオブジェが出来上がる。あの棘の群れに串刺しにされていれば、まるで串刺し刑のように頂点には貫かれて棘の上で寝ているような死体が出来上がってしまうのだろう。
距離を取った十六夜だったが、離れたところまで魔法の範囲は届かないだろうと予想していた。
だが、サソリモドキの固有魔法は止まることはなく、十六夜の元まで瞬時に地面が波打って無数の棘が十六夜を串刺しにせんとばかりに飛び出してくる。どうやら、遠距離まで地形を操作することが可能なようだ。
「カッ――しゃらくせえッ!!」
拳撃一つ。地面に向けて振りかぶった拳を打ち付ければ、それだけでこの部屋全ての地面に亀裂が走り、轟音とともに崩壊する。
「わっ」
遠くで十六夜のことを見守っていたユエの足元すらも破壊され、慌てて被害の少ない地面にまで飛び移ることで難を逃れた。
周囲の地面がクレーターが出来上がったかのように破壊され、巻き上がった瓦礫が両者の間を遮るが、全てが遮られているわけではなく間間から互いの視線がぶつかりあう。互いにとって、瓦礫など障害物にすらなりえない。逃しはしない。よそ見など許さないとばかりに互いの違った意味合いを含む視線がぶつかり合っている。
「キシュアアァッ!」
先に動いたのはサソリモドキだった。巻き上がった瓦礫が崩壊した地面に再び落ちる前に、サソリモドキは尻尾の先から数多の散弾針と溶解液を十六夜目掛けて発射する。勢い良く尻尾から射出された針は瓦礫を粉砕して尚、威力と速度を落とすこと無く十六夜に向かい、溶解液は瓦礫を尽く溶かし尽くしていく。
例え、タワーシールドで身を守ろうとも、盾ごと溶かされ、串刺しにされるだろう。そして、広範囲であることからも、普通であれば上下左右どこに避けようともこの距離と着弾までの時間では間に合うことはない。
しかし、それは普通の騎士や冒険者であれば、のことだ。
十六夜は普通という言葉に当て嵌まるはずのない問題児。この絶望的な状況でも、その笑みは消えることがなく、牙を剥き出しに嗤う。
握った右拳を左の腰の横に持っていき、まるで居合のように構え、腰を撚る。そして、抜刀するかのように腰と腕の力を最大限に発揮させ、溜められた拳は抜き放たれた。
放たれた拳は寸前まで迫っていた針の一つに触れる寸前に右拳は振り抜かれた。全力ではないが尋常じゃないその速度と威力。山河すらも砕き、星を揺るがすほどの力が一瞬にして放たれ、理不尽に染められた暴力は拳圧や衝撃、乱された大気及び歪んだ空間全てを生み出して、数多の散弾針と溶解液を吹き飛ばした。
ありえない光景だった。たった腕の一振りで前方の空間を埋め尽くさんばかりの絶望が薙ぎ払われたのだ。
そして、サソリモドキにとって全力の攻撃が消し飛ばされたと思えば、十六夜の姿は既に無くなっていた。
十六夜は居合拳を放つと同時に跳躍し、既にサソリモドキの頭上に居た。
「ま、なかなか面白かったぜ、オマエ」
決着だった。サソリモドキの頭上に居た十六夜は今度は即死レベルの拳を放つ。一瞬にしてサソリモドキの胴体が穿たれ、外殻と肉及び組織は延長線上の地面とともに消し飛び、胴体の大きな穴を形成した。
胴体に穴を開けたサソリモドキは、自分が十六夜に殺されたのだということも分からずにその巨体を地面に沈ませる。重い音が鳴り響き、地面の亀裂にサソリモドキの血が染み込んでゆく。
サソリモドキの死体の上に着地した十六夜は、息を吐いて力を抜く。
十六夜にとってこの戦いはベヒモスよりも楽しめたものだった。ベヒモス戦のときは邪魔もあったし、場所的にも暴れるには狭く、途中で終わってしまったために消化不良であった。だが、サソリモドキといった巨大でやりごたえのある中ボスレベルの魔物と戦えたのは、本当に異世界に来て良かった想えるような出来事だったのだ。
力も上昇して手加減していたとしても、思う存分壊すことが許された場所。そして、命をかけた殺し合いのできる相手。地球に居た頃には考えられないことだ。
(これでまだ半分…サソリよりも強い敵が居るんだろうが…いいね、そう考えるだけでもワクワクしてくるじゃねえか)
そんなことを考えながら、サソリモドキの死体から飛び降り、駆け寄ってきて少し涙目で飛びついてきたユエを苦笑とともに抱きとめた。
まぁ、そういうことです。
何も強くなるのは技だけじゃないってこと。レベルも手段の1つということにしました。
そして結局、十六夜が戦うっていうね。
追記
5月7日までアンケートします。詳しくは活動報告をご覧ください。簡単に言えばTSについてです。