ザオリクよりもベホマが欲しい   作:マゲルヌ

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3話 未熟者にも意地がある

「も、申し訳ありませんでした!」

 

 あれから20分ほど経った後、目を覚ました少年に対して、私は口八丁でそれっぽい説明を行った。

 

 

【自分は盗賊、その中でも『義賊』をやっている人間であり、ムドー城にはお宝を頂きにやってきた。魔物たちの貴重品を奪えばそれだけ人間が受ける被害も減り、平和な世の中に近づいていく。そのために自分は危険も顧みず、このような恐ろしい場所へやってきたのだ!】

 

 

 と、こんな感じの穴だらけなストーリーだったのだが、少年はマルっと全て信じ込み、今は全力の土下座謝罪を行っている。

 曰く、騎士たちを盗み見る怪しい生物(私のこと)を発見したため、邪悪なモンスターだと思って討伐しようとしたらしい。なんて失礼な。

 

「会話ができた時点で気付くべきでした。まさか、僕たち以外にここへ来る人間がいるとは……」

「ま、まあそれは……うん……」

 

 実際は喋れる魔物なんてたくさんいるのだが、ややこしくなるので今は黙っておこう。

 …………あとどうでもいいけど、土下座ってされる方からすると結構困るね。テリーのときは初めての興奮で気付かなかったけども、周りの目がある中でやられると色々キツい気がする。今度からちょっと控えよう。

 

「ゴホン……。もう気にしていないから、とりあえず顔を上げてくれぬか? 絵面的にいろいろ不味い気がするから」

「絵面?」

「いや、何でもない。ほら、早く立った、立った」

「あ、はい。では失礼して……」

 

 重ねて強く促したことで、ようやく少年は立ち上がってくれた。得体の知れない巨漢を前にしての謝罪はさすがに怖かったのか、ホッとした様子で掌の砂を払っている。

 その姿を見ながら、さてどうしようかと思案する。

 

『レック』と名乗ったこの少年、恰好や振る舞いからおそらく騎士見習いかと思っていたのだが、詳しく素性を聞いてみたところ、なんとレイドックの王子らしい。

 人間の王族について未だに詳しくは知らないが、彼らが非常に大切にされる存在だということは聞いている。ならば普通はこんな場所にいるはずないと思うのだが、一体どういうことだろう?

 

「なあ少年よ、お前はここへ何をしに……、いや、その前にまずどうやってここまで来たのだ? 子どもが一人で来られるような場所ではないはずだが」

 

 そう問い掛けると、レックはやや気まずそうな顔で答えた。

 

「その……、実はここまで、ウチの騎士たちの船に一緒に乗ってきたのですが……」

「何? 先ほどの連中と?」

「はい」

 

 ……どういうことだ? 普通このような重要な任務に子どもを連れて来るか? ましてやレックは王族。それをこんな危険地帯まで、わざわざ帯同させるものだろうか?

 

「彼らは我が国の精鋭兵で、魔王ムドーを討伐するため秘密裏に送り込まれたんです」

「ああ、それは聞こえていた。なんでも国の劣勢を覆すための任務だとか……」

「はい。我が国を守るため、ひいては人類全体の生存域を守るための重大な任務です。だから僕も是非着いてきたかったのですが、同行を断られてしまいまして……」

「まあ……、それはそうだろう」

 

 王族であるというだけでなく、彼はまだ幼い少年なのだ。連れて来たところで足手纏いになるか、すぐに死ぬかのどちらかだろう。騎士たちが必死に断る光景が目に浮かぶ。

 

「なので僕は止むを得ず、警備の目を盗んで密航してきたんです!」

「ええぇ……」

 

 元気いっぱいの宣言に思わず変な声が出た。

 どうやって説得したのかと思いきや、まさかの無許可出撃とは予想外。テリーと言いサンマリーノの二人と言い、最近の子どもは皆こんな風に無鉄砲なのだろうか?

 

「なあレックよ、ここがどういう場所なのか理解しているか? 戦いは遊びではないのだぞ? 魔物との戦闘になれば、人間は驚くほど簡単に死んでしまうのだ」

「大丈夫です! いっぱい修行しましたから、僕だってちゃんと戦えます!」

「お、おおぅ……」

 

 いかん、むしろあの三人より危険かもしれない。『自分は大丈夫』という根拠のない自信が表情から滲み出ている。これがいわゆる箱入りというやつか。

 

「……彼らも可哀そうに。仮にここを生き延びても、帰還してから首が飛ぶんじゃないか?」

「え……?」

「ああいや、なんでもない。気にするな」

 

 不思議そうなレックに手を振って誤魔化す。

 

 …………どちらにせよ、自分が気にする話ではないか。

 騎士たちは覚悟の上で任務に臨んだ。レックも断られた上でなお自分の意思で乗り込んできた。なら後は本人たちの責任だろう。

 こちらに害はないと分かったのだから、後のことはもう放っておけば良い。私は自ら死にに行く者を、リスクを負ってまで止めてやる御人好しではないのだ。結局のところ自分の身が一番可愛いのである。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 …………ま、まあ、最後に忠告だけはしておこうかな? ほ、ほら、私だって一応神父の端くれではあるわけだし? このまま見殺しにするのも少しばかり忍びないし?

 

「オホンッ、……いいか少年? ムドー様――じゃなかった、魔王ムドーは強いぞ? 前に一度だけ姿を見たことがあるが、恐ろしいほどの力を感じた。あれはただの人間にどうにかできる存在ではない。善意の第三者としては、今すぐ兵を呼び戻して撤退することを勧める」

 

 ムドー様を間近で見た所感を率直に伝える。

 これで引くならばそれで良し、考えなしのアホなら『はい、さようなら』だ。そんな想いを視線に込めて見つめると、レック少年は先ほどまでの笑みを引込め、強い意志を秘めた目で見返してきた。

 

「……魔王が強いことは分かっています。ですが、だからといって何もしないままでは、いずれ国は滅びます。誰かが行動しないといけないんです。……そしてその『誰か』には、王子である僕がならなければいけません」

「そ、そうか……」

 

 …………。

 

 ――ああああ、判定が難しいいいっ!

 無鉄砲で短慮ではあるけども、一国の王子として真剣に考えてはいた。このまま経験を積んでいけば、いずれは立派な王になれそうな良い子だよ。

 きっと周囲からも愛されて育ってきたに違いない。もしもこの歳で死んだりしたら、家族はすごく悲しむだろうな……。

 

「――なんて、偉そうなこと言いましたけど、実際はもっと手前勝手な目的なんですけどね」

「む? どういうことだ?」

 

 もしかして本当は名声やお宝目当てとか? それならあまり罪悪感持たなくて済みそ――

 

「本当は両親のためなんです。妹が病気で亡くなって以来、父も母もすごく辛そうで……。この上民まで殺されてしまっては、二度と悲しみから立ち直れなくなってしまいます。だから僕は、二人に少しでも明るい話題を届けてあげたくて……」

「おうっふ……」

 

 手前勝手どころか最高に胸が痛む理由だった! もしこれで死んだら両親は悲しむどころじゃないぞ。娘が死んだ後、自分たちのせいで息子が無茶して死んでしまうとか……。嘆くどころか、そのまま後追いしてしまいそうなレベル。

 ……というかお前も、『妹が死んだ』なんていう爆弾をサラッと放り込むんじゃないよ! お前の心の方が心配になってきたわ。

 

「お気遣いありがとうございます。そのお気持ちだけ、ありがたく頂いておきますね」

「あ、いや――」

「あなたのような優しい方に出会えて良かった。こんな世の中でも、誰かのために身体を張れる人がいると知れて嬉しかったです。これからも世のため人のため、義賊活動頑張ってくださいね!」

「ぐふぅ!」

 

 やめて! ただでさえ罪悪感がすごいのにそんな純粋な目で見ないで!

 立派な義賊とか嘘だから! ただの木っ端な魔族だから! いつも自分が最優先の汚い大人だから!

 ――なんて悶えていると、レックは足元に置いてあった荷物を背負い直し、洞窟の入り口に向かって進み始めた。って、ホントに行っちゃうの!? マジで死んじゃうよ!?

 

「皆に追い付かないといけないので、僕はそろそろ行きますね」

「あ、や、ちょっ」

「いつかまた会えたら、そのときはいろいろお話を聞かせてください。……では、サンタさんもお気を付けて!」

 

 そう言って走り出したレックのその後ろ襟を、

 

「ああああっ、ちょっと待ったあああ!」

「ぐぶええっ!?」

 

 ――無意識の内に私は掴んでいた。急に制動をかけられたレックがつんのめり、喉を押さえながら咳き込む。

 

「ケフッ、エホッ、ゲホッ、な、何するんですかぁ……?」

「ああいや……、えーとだな?」

 

 涙目で抗議するレックに対して口籠ってしまう。咄嗟の行動だったので適当な言い訳も思い浮かばない。

 ……いやホント、せっかく厄介事の方から遠ざかってくれようとしたのに何を態々引き止めているのだ、私は。一旦呼び止めておいてまた突き放すなんて、直接見捨てるよりさらに気まずいじゃないか。

 

「……サンタさん?」

 

 くっ、すでに出してしまった手は引っ込められないし……。えーい、こうなったら仕方ない!

 

「……こ、この先へ進むなら、私も一緒に着いていってやろうかと思ってな? ここへは何度か忍び込んでいるから、内部の構造には結構詳しいぞ?」

「へ?」

 

 涙目を拭いながらキョトンと声を漏らすレック。驚き半分、期待半分、といった視線が返ってくる。

 

「そ、それはすごくありがたいですけど、……いいんですか?」

「う、うむ。まあこれも何かの縁だ。レイドック兵たちに追い付くところまでは連れて行ってやろう」

「サンタさん……」

 

 ……あー、ま、まあアレだよ、アレ。多分こいつ一人だと、追い付くまでに襲われて死んでしまいそうだから。

 覚悟を決めた一人前の兵士なら放っておくところだが、こいつは命のやり取りもしたことない世間知らずの子ども。これくらいはしてやっても罰は当たるまい。

 

 …………。

 

 ……うん、なにせ本当に世間知らずだから、この子。

 義賊だなんて嘘をあっさり信じちゃうし、王子だってことも簡単に部外者に漏らしちゃうし……。

 極めつけはこの魔族顔を見ても、『珍しい部族だから』という言い訳であっさり納得しちゃうチョロさよ。いくら箱入りといってもちょっと心配になってしまうレベルだ。……ほら、今だってこんなにキラキラした目でこっち見てるし。

 

「あ、ありがとうございますっ! やはりあなたは人のために力を尽くす立派な方なのですね!」

「い、いや、別にこれは、その、……罪悪感を減らすためというか、なんというか、ゴニョゴニョ……」

「??? ……ああ、なるほど、義賊は人知れず行動するのが華。表だっての感謝は無粋ですもんね。了解です!」

「え? あ、うん、まあ……そんな感じ……」

 

 ……ああもう、いかんなぁ。必死な子どもを前にするとどうにも対応が甘くなってしまう。最近子どもの世話ばかりしていたせいで、何か変なものに目覚めてしまったのだろうか? これが原因で謀反の疑いでもかけられては目も当てられんぞ。

 こりゃあ早いとこ連中に追い付いて、さっさとこの無鉄砲王子を押し付けてしまうしかない。そうなれば彼らも、作戦を切り上げてすぐに撤退してくれるだろう。

 それで今回の事件は一件落着、今度こそ彼らとは『はい、さようなら』だ。

 

「ではさっさと行くぞ。逸れないように着いて来い」

「はいっ! お供いたします!」

 

 元気よく返事をしたレックは、歩き出す私の横にトトトっと走り寄ってきた。ぶっきらぼうな物言いをされてもその顔はニッコニコであった。

 こっちは疲労感やら罪悪感やらでキャパオーバーだというのに……。

 

「まったく、何がそんなに楽しいのやら――って、おや?」

 

 そのご機嫌な顔を見下ろしていると、不意にレックの額にタンコブがあることに気付いた。先ほどの遭遇時に私の拳骨をくらってできた傷跡だ。あのときは割と適当な力加減で打ってしまったため、結構大きめのコブになっている。

 

「…………。まあ、これくらいは甘さついでか。……レックよ、頭をこっちに寄せるのだ」

「え、頭……? こ、こう、ですか?」

「うむ、そこで良い。少しじっとしているのだぞ?」

 

 素直に差し出された額に右手を当て、意識を集中する。あのときの感覚を思い出しながら腕の先に魔力を集め、

 

「ホイミッ!」

「うわわっ!?」

 

 詠唱とともに私の手から白色の光が生まれた。驚いて身動ぎしようとする頭を左手で捕まえながら、しばらくの間掌を当て続ける。やがて十秒ほど経つと呪文の効力は切れ、魔力光も消え去る。

 

「どれどれ……? おっ、よーし、いい感じだな」

 

 確認のため前髪をかき上げて額をフニフニ触ると、そこには傷一つない皮膚が再生していた。他人にホイミを使うのは初めてで緊張したが、どうやら問題なく発動したようだ。

 辻ホイミ、記念すべき初挑戦にして初成功である。

 

「え! き、傷がなくなってる!?」

 

 釣られて自分の額に手をやっていたレックが、驚いた様子で叫ぶ。

 まあその反応も無理はない。盗賊を名乗るガチムチ男が回復魔法を使えるだなんて、普通は思わないだろうからな。

 

「サ、サンタさん、盗賊なのに回復魔法まで使えるんですか!?」

「ふっ、まあな。これ以外にも、攻撃や補助の魔法もいろいろ使えるのだぞ?」

「お、おおぉ……!」

 

 レックの視線がますます賞賛の色を帯びていく。

 ……少しばかり話を盛っちゃったけど、まあ嘘は言ってないから構うまい。

 

「す、すごいです! 直接戦っても強い上に、複数の魔法まで使いこなすなんて!」

「ふふん、これでも実戦経験は豊富だからな。生き抜くためにいろいろな技術を磨いてきたのだ」

「なるほど! その力で今までたくさんの人たちを助けてきたんですね! すごいですサンタさん、尊敬です!」

「はっはっは、そう褒めてくれるな。この程度、全然大したことではないのだぞ? ぬはははは!」

 

 ……嘘である。ホントは滅茶苦茶褒めてほしい。正直言って今ものすごく気持ち良い。

 テリーもハッサンもアマンダも、一応は敬意のようなものを持ってくれてはいた。だがしかし、それと同等以上に呆れの感情も向けられていたのだ。子どもたちからシラーっとした視線を向けられる度、このグラスハートは結構傷付いたものである。

 

 それに比べてどうだ、レックのこの純度百パーセントの尊敬の眼差し! さすが箱入り王子なだけあって、冷たい態度になることもないし、捻くれた返事を返すこともない。

 ああ、やはり子どもというのは純粋で素直なのが一番であるな!

 

「あ、あの、サンタさん」

「ん? どうしたのだ?」

 

 ひとしきり優越感に浸った後、レックの言葉でふと我に返る。すると彼は、やる気に満ちた表情でこちらを見ていた。

 

「良ければ僕にも、その呪文を教えてもらえないでしょうか?」

「む? ホイミを覚えたいのか?」

「はいっ、さっき僕が付けてしまったサンタさんの傷を、僕の手で治してあげたくて!」

「ほほう」

 

 まったく、リアクションだけでなく発言まで一々愛いやつめ。どこかの悪ガキどもに見習わせたいくらいであるな。

 

「ふっ、仕方ない。その素直さに免じ、特別に指導してやろうではないか」

「あ、ありがとうございます! 僕、頑張って覚えますね!」

「ははは、そう気負わなくても良いぞ。やり方自体はとても簡単だからな。患部に手をかざして、魔力を集中して、呪文を唱える。必要な行程はこれだけよ」

「え? それだけでいいんですか?」

 

 レックが意外そうな顔を見せる。あのような奇跡の御業が簡単にできるように聞こえたので驚いているのだろう。ふふふ、ここは先達として正しく導いてやらねばな。

 

「やはりそういう反応になるだろうな。だが、事はそう単純ではない。魔力や技術がいくらあっても、何より心が伴っていなければ回復魔法は発動しないからな。そのためにもまずは神の道に入り、コツコツと下積みを重ね、そして一月くらい経ってようやく――」

 

 

「ホイミ! あっ、ホントだ、できました!」

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「…………ふぁ?」

 

 嬉しそうなレックの声を聞き、私の口からは間抜けな声が漏れていた。

 

 ――『できました』? ……え? いきなり成功した? この短時間で? …………い、いやいやそんなはずはないって。私が一体どれだけ苦労して習得したと思ってんだ。それをただの子どもが一瞬で覚えられるなんて、そんなことあるわけが――

 

「おうふ…………」

 

 現実は非情だった。

 先ほどいくつもの剣戟を受け止めた私の右腕。痣とも言えないちょっとした跡が付いていたそこは、レックの言葉通り綺麗に修復されていた。

 試しにグリグリ触ってみても、痛みも違和感も全くない。疑いようもなく完璧に、回復魔法が発動していたのである。

 

「…………なあ、レックよ。お前、これまでにホイミの訓練をしたことがあるか?」

「? いえ、魔法の練習自体これが初めてです」

「…………」

 

 もう一度レックの顔を見る。

 両手を前にかざしたままの少年は、『褒めて褒めて』と言わんばかりの表情でこちらを見ていた。

 それを見て理解する。以前から練習していたとかではなく、彼は本当に今初めてホイミを使い、そしてぶっつけ本番で成功させたのだ。

 

 

 ――――私が一ヶ月かけて、ようやく習得できた回復魔法を……。

 

 

「…………」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 …………いや?

 ……別に悔しいとか思ってないけど?

 こういうのは向き不向きがあって当然であって、そもそも誰かと競っているわけじゃないから比べる必要もないし? 

 子どもが才能を発揮したのは素晴らしいことであって、それに一々嫉妬するほど私は大人げない奴じゃないし?

 

 ……ま、まあでも一応、この子が調子に乗ってしまわないよう苦言は呈しておくけどね?

 ほら、さっきは偶々うまくいったから良かったけど、毎回安定して成功させるには、私のような『人を想う心』が不可欠だから。それを知らないままいずれ壁にぶつかってもかわいそうだし、先輩としてその辺りのアドバイスを軽~くね?

 

「フ、フフフ、見様見真似で成功させるとは、なな、中々やるではないかレックよ。……だだっ、だが調子に乗ってはいかんぞ? 回復魔法を完璧に成功させるには、何よりも慈悲の心が必要で、そ、そのためにはやはり長い長い下積み期間が――」

「サンタさんの言った通り、本当に簡単でしたね! これなら初等学校の子どもたちに学ばせても良さそうです! ……あ、すみません、話の途中で腰を折ってしまって。ええっと、下積み――が何でしたっけ?」

 

 

「………………いや、別に? ナンデモナイヨ?」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 うん、私のような未熟者が指導やアドバイスだなんて、全くもって烏滸がましいことだった。下手に間違った知識を教えても不味いし、こういうのは個々人のやり方に任せることにしよう。

 ……いやもちろん、私にできる範囲のことなら協力を惜しむ気はないけどね? 子どもにとってモチベーションは大切だろうし、何かしてほしいことがあれば快くやってやるつもりだ。

 

 ――というわけでとりあえず、今回は望み通りこの小僧を褒めてやることにしよう。ニコニコと無邪気に笑うレックの頭に、そっと手を伸ばす。

 

 それ、ナデナデナデ。

 

「あ……。え、えへへへ、な、なんかこの歳だと照れますね」

 

 それ、グニグニグニ。

 

「フフ、小さい頃、父上に撫でてもらったときを思い出すなあ……」

 

 それ、グリグリグリ。

 

「――ん、んぅ? あ、あれ? …………あの、サンタさん? な、なんだかちょっと、痛いように思うんです、けどっ?」

 

 ゴリゴリゴリゴリ。

 

「痛だだだだ!? いやっ、これちょっとじゃなくて本当に痛いっ! え? な、なぜにアイアンクロー!? 僕何か悪いことしちゃいましたか!?」

 

 ギリギリギリギリッ。

 

「あいだだだだっ!? な、なんで急にこんなっ――――あっ! もしかしてさっきのホイミの出来が悪かったですか!? す、すみません! あんな素人でもすぐできるような呪文を失敗してしまって! 今度はちゃんとやってみせますから、どうかお許しを!」

「……………………」

「ハァ、ハァ、ハァ……。ほっ、助かっ――」

 

 メリメリメリメリッ!

 

「ああばばばばっ!? な、なんでさらに強く!? やっぱり出合い頭のことで怒ってたんですか!? ご、ごめんなさい! 今度こそちゃんと謝りますから、お願い許して頭潰れちゃうううう!」

 

 

 

 ――ちっくしょおおおお! なぜに私の周りの子どもは皆天才ばかりなのだ! どいつもこいつも軽々と難題をクリアしていきおって!

 えーい、今更この程度のことで心折れたりせんぞ。私は不撓不屈のサタンジェネラル! 無理やり転勤させられようが、子どもから無自覚に煽られようが、絶対に初志を貫徹してみせるっ!!

 

「おお、まったく仕事しない神よ! 地上の守り穴だらけなザル女神よ! さっさと次の呪文よこしたまえええッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ええッ! そんな八つ当たり気味に祈られてもッ!?

 

 

 

 

 

 


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