俺の世界は何時も変わらなかった。見渡す限り大地は砂が大海のように広がり、所々に浮島のように、葉一枚すらない枯れ木が点在している。
首を上に向けると、そんな砂漠に生きる俺たちを嘲笑うかのように三日月が一度も上がったことのない漆黒の帳の中央に鎮座し、それにはやし立てられ煽られたかのように、星々が下界を見下す。
フリード「いつみてもこの荒廃しきった世界に相応しい哀愁と嘲りと絶望にまみれたいい月だ。これで酒の一杯でもあれば文句がないんだが…」
そんな世界にある葉のない枯れ木の中でも一二を争う高さと丈夫さを兼ね備えた木の幹にもたれかかり、俺は空に浮かぶ月を睨む。月は俺如きは気にも留めてないのか俺を皮肉るようにその輝きを枯渇した大地に降ろす
フリード「・・・虚閃」
酒の肴に最適な三日月と静寂が支配した世界。という一献やるには最適のシチュエーションなのに肝心の酒どころか、水分らしいものが一切ないというどうしようもなく残酷な事実に腹が立ち、月に向けて紅い虚閃を放つ。月の野郎にそれが届くことはもちろんなく、俺が撃った虚閃は俺の意思に反する結果を生み出すことしかできなかった。
ギーグ「頭!大変でさぁ!!」
フリード「どうした、名も顔も知りたくねぇ矮小な屑!俺の生き様が崩壊する音が聞こえてきたか?それともお前のか??もしくは、世界のか??」
木の根から俺を見上げて俺と月の。いやこの枯れ果てた世界との平穏を妨げたのは、いつからか俺の跡を金魚の糞みたいについてきた中級大虚の一人だった。そいつらは俺の許可なしに俺を頭だのボスだのと囃し立て、フリード軍団などと設立した覚えのない軍団を名乗っている。軍団を名乗っていることはともかく、そうすることがあいつらの生き様らしいのでそのままにしている。
それとどうでもいいが、ギーグというのは俺があいつらに内密でつけている名前というか記号のようなものだ。本人たちには言わないが、説明を求められれば適当な理由をでっちあげるつもりだ。アイツらもそう深くは詮索してこないだろうし、自分の頭だと思っている奴に名前を覚えてもらっていると喜ぶだろう。多分だが
フリード「バラガン?あの老王がどうした。まさかまたいつものアレか?」
ギーグ「へ、へい!頭を自分の配下にすると」
フリード「何度も言ってんだろ。俺はお前の平穏に惚れてねぇからお前の下にはつかねぇって。暇つぶしの話し相手になってやってんだからそれで満足しろ」
???「珍しく放浪せず一か所に留まっておると思ったら、その口は相変わらずのようじゃな小童。この虚圏の神であるバラガン・ルイゼンバーンを前にして」
フリード「おうおう、第二刃宮殿に籠らずお散歩かよ、健康意識が高いのは素晴らしいね。俺も同伴したいが相方があんたなら遠慮しておくよ」
ギーグと同じく下から聴こえてきた老齢だが十分すぎるほどの威圧と覇気と畏れを持つ声の主は、破面・No.02であり、虚圏の王を名乗りそれに相応しい能力と力を持った老人。バラガン・ルイゼンバーンその人である。黒人のように黒い肌に覆われた顔には幾つのも傷があり、額には彼の穢された栄誉を象徴するかのように虚時代の仮面の名残が王冠のような形をしている。
俺が知り得る限り、この老王は今の虚圏の王からの招集以外は基本自分に割りあてられた宮殿に立て籠りそこで、かつての自分の臣下たちを戦わせたりして過ごしているらしいが、今日はどういうかぜの吹きまわしか、先代の王は遊び人である俺に会いに来たらしい。随分と暇な事だ。こんな枯れ木のそばよりは、自分の宮殿内の方が時間を潰せるだろうに
バラガン「小僧、単刀直入に言う。儂の配下になれ」
フリード「今の台詞、藍染様とやらに聞かれたらまずいんじゃねーか?あの人も俺のことを引き入れようとしてるの知ってんだろ」
バラガン「儂ら十刃にはボスから直々に従属官を何人つけてもよいという許可を戴いている。儂はただ、貴様が破面化になったときに備え先約を付けようとしているだけじゃ」
フリード「流石は老王、伊達に気が遠くなるくらいの歳食ってねぇ。口がよく回るもんだ」
バラガン「貴様に言われとうないわ。儂やハリベルと変わらんじゃろうが」
フリード「聞かれていると知ってて今の言葉を堂々と言うお前の胆力には及ばねぇよ。さすがは元王様だ」
元の部分をワザと強調すると、老王は無言のまま霊圧をあげ己の怒りを虚圏に押し付ける。それはまるで重力のように重く広く、また彼の力を象徴するかのように不可避なものだった。そうなるように仕向けた俺が言うのもなんだが、俺が腰を落ち着けている枯れ木が今にも崩れ落ちそうにキリキリと悲鳴をあげている。ふと、下に目を向けると先程までいたはずのグリードの姿が消えている...
フリード(中級大虚のくせに枯れ木に負けるかよ。この重力の中でも折れずに俺を支えている枯れ木よ、今日からお前がグリードだ。喜べ。ともあれ、このままだと折角の新生グリードが死んじまう。何とかあの老王を遠ざけねぇとな)
フリード「悪かった悪かった、謝るからそう圧を広げんじゃねーよ。藍染様とやらが来たら面倒だろうが」
バラガン「フン、身分をわきまえず儂の隣に立っておったあの餓鬼に憐憫の情でも感じたか」
フリード「認知症発症はまだ早いぞジジイ。俺はお前ら十刃みたいに従属官は持ってねぇよ。俺は最上級大虚だが破面じゃないんだからな」
バラガン「・・・物好きな奴だ」
フリード「そんな奴を熱心に勧誘するお前もな。ともかく、第二刃宮殿に帰れ。いつまでもこんなとこにいたんじゃ、認知症だと疑われても仕方ねぇぞ。話の続きはそこでしてやる」
バラガン「よかろう。歓迎してやるぞ、虚圏の神がな」
フリード「お構いなく」
それだけ言い残し、響転で老王の宮殿へと急ぐ。先程の世界全体の存在を脅かすほどの霊圧からも計り知れるように、あの老人の実力は見た目とは裏腹に途轍もなく、最上級大虚だろうと彼の近くにいて、無事に生き延びれるやつはそういるものじゃない。破面になっていないのならば尚更である。俺がその稀な例であることが、老王の気を引き続けてやまない一因でもあるのだが…
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新生グリードの座り心地の良さと新生早々に分かれる羽目になったことを脳内で嘆きながら響転で虚夜宮を移動する。老王とは違い、虚圏を誕生からずっと支配してきていたあの月から逃げ隠れるようにあるこの宮殿は、今は二代目の王とでも言うべき人物の私物と化しており、バラガンや彼の話に出たハリベルなどはその駒に成り下がっている。俺はハリベルとも知らない仲ではないが、バラガンほど頻繁に出会っていないので、破面となった彼女が今どのような格好でいるのかは知らない。
バラガン「遅いぞ小童」
フリード「主役は遅れてくるものだってグリードが言ってたんだ」
第二刃宮殿についた俺を真っ先に迎えたのは、姦しい女の声でもなければ、若々しく希望にあふれた若者の声でもない。年季と老輩と老いを二十分に感じさせるむさ苦しいとはまた違った嫌な声だった。さすがは№2、響転の速さも一流である
バラガン「さて、小童。今日はもう貴様に配下になれとは言わん」
フリード「願わくば金輪際二度と言わないで欲しいんだがな」
バラガン「…だがな。貴様のその口ぶり。儂を前にしても何一つ変わらないその減らず口を儂の従属官共は見過ごすことができんようでのぉ」
骸骨で出来た玉座に腰を掛け、肘置きに肘を立て頬杖をついている眼前のクソッたれジジイの口角がわずかだがあがった。このジジイが暇だからと自分たちの従属官を戦わせる戦闘狂だという事は知っているが、この戦闘大好きな老いぼれはそれに俺を巻き込むつもりらしい。
フリード「またかよ。つーか、破面化してるお前の部下になんか勝てる分けねぇだろ。それ以前でも何度も死にかけたってのに」
バラガン「今の儂の霊圧に眉一つ動かさずに耐えた貴様が言えたことではない」
フリード「ですよねー」
その場限りの言い逃れのための軽い嘘をさも当然なように見せかけて戦闘狂にぶつけるが、正論で跳ね返される。暴君は俺の返答を了承と捉えたのか側近の一人に耳打ちをし、闘技場をあっという間に完成させた。そして、俺が初めて見る暴君の従属官が俺をその舞台に押し上げたのを確認すると、観衆の中から一人の破面が表れた。
???「破面になる前に一度会っているかもしれないが、敢えてこう言わせてもらうとしよう。お初にお目にかかる最上級大虚。私はバラガン陛下の従属官の一人。名をフィンドール・キャリアスという。よければ、君の名を聞かせてもらえないかい?」
どうやら俺の対戦相手らしいその破面は俺に向かってそう挨拶をした。だが、俺はこの時そいつの言葉など何一つ耳に入っていなかった。というのも、そいつの格好と俺に何かと共通する部分があり、俺はそいつに親近感のような感情を抱いていたからだ。
破面化はどうやっているのかは知らないが、それ以前と以後では姿に多少なりとも差異が出る。それは個人差があり、なる以前の姿を基本として変化するのでそこまで大きな差がないのが大半だが、俺の記憶に残っているような奴はどいつもこいつも、破面になると、俺が折角覚えていた特徴が軒並み消えているのだ。バラガンやハリベル、スタークといったように力などで秀でていた点があれば別だが、そういったものがなければ、俺の記憶からそいつらの存在は消えてしまう。
だが、目の前の破面は違った。俺はそいつのなる以前の姿を知らないが、少なくとも目の前にいる格好には大いに好感が持てた。俺と同じく金髪の髪。俺はそいつみたいに長くなければストレートでもない。もっと言えば金一色という訳でもない。それでも、同じ色の髪をした破面がいるというのはやはりうれしい。
次に、そいつの仮面の位置。これが最も大きい理由であり、俺がそいつを知りたくなった一番の原因だ。そいつは俺と同じように顔半分が仮面に覆われていた。俺のように左半分ではく、鼻から上。つまり上半分だったが、仮面の位置までこれほど近いのは広大な虚圏を探してもおそらくこいつだけだろう。
フィンドール「おや、どうやら聴こえていないようだね。最上級大虚なのに闘いの前に相手に注意すら向けないとはいただけないな。不正解だ」
バラガン「……」
バラガン「フィンドール」
フィンドール「はっ!」
バラガン「あれは聴こえていないのではない、聴く気がないだけじゃ。あやつは暗にお前如き雑魚の妄言など聞き流すに限ると言っておるのじゃよ」
フィンドール「…なるほど。破面にもなれていない落ちこぼれだが、その傲慢と慢心加減だけは一級品という訳だね。バラガン陛下への数々の失言に加え、その従属官である僕をも舐め腐ったその態度。実に不愉快だよ」
バラガン「フィンドール」
フィンドール「はっ!」
バラガン「・・・期待しているぞ」
フィンドール「仰せのままに!すぐさま完全な勝利をご覧に見せましょう!!」
バラガン「ん。さて、小童。いつまで呆けておる、はやいこと構えぬと…死ぬぞ」
フリード「・・・。んあぁ!…は?何言ってフィンドール「死ねぇ!」
腹の底に響くほどの低い声が俺を現実へと引き戻す。それと同時に、俺との最大の共通点である顔半分を隠す程の仮面のうち左下四分の一程度を剥ぎ取ったあの破面が俺の眼前に迫っていた。
その手には彼のものと思われる刀が握られていて、仲良くなりたい俺とは違って彼からは殺気と霊圧が遠慮なく放たれていた。咄嗟に能力を用いて拵えた刃で顔を守っていなければ、今頃は首と胴体が分離していただろう。
フリード「っぶねぇな、何しやがんだ!!ってか、なに仮面剥がしてんだ!!せっかくの俺との共通点を失くす真似すんじゃねーよ破面!」
フィンドール「フィンドールだ!やはり先程の自己紹介は聴いていなかったようだね!まったく、君のような無礼の極みのような奴が最上級大虚なんて世も末だ!」
フリード「何言ってるかよくわかんねぇけどだからって本気で斬りかかることないだろ!老人にいい所見せて遺産でも貰うつもりか?」
フィンドール「この状況でもバラガン陛下を老人と謗るのか。なるほど、その口ぶりは演技でもなければ伊達でも酔狂でもないという訳だね。ますます気に入らないよ」
フリード「そりゃ悲しいね。俺はお前の事が知りたいってのにな!」
鍔迫り合いは結構だが、向こうが俺のことを殺したいほどに憎んでいるのなら少し冷静になってもらう必要がある。少し煽って俺に注意を向け、隙だらけになった下腹部に少し霊力を込めた蹴りを放ち距離を確保する。蹴られたフィンドールは少し苦痛に歪んだ顔を浮かべたが、すぐさま俺に顔を向けた。
フリード「虚閃」
フィンドール「チッ」
顔を上げたフィンドールの胸元に向け小指ほど細く圧縮した紅い閃光を放つ。この状況なら普通に圧縮したりせず放てばいいのだが、それでは共通点が俺の手によって消えてしまうため仕方なく圧縮する。
フィンドールはその閃光を避けようともせずに、迎え撃った。いや、迎え撃たざるを得なかった。なぜなら、自分の背後には己が王と崇拝するあのお方が居られたのだから…。
フィンドール「舐めるなぁ!」
フィンドールも刀の先から藍色がかった虚閃を放つ。結果二つの虚閃が真正面からぶつかり合うことになり、それにより生まれた爆発で戦場と観客席の区切りは消え去り、観客だった破面の幾つかはその爆発に巻き込まれ、宮殿の四方に散った。
―――――――――
己の視界に漂う塵屑とは裏腹に、フィンドール・キャリアスの脳はとても聡明に動いていた。
フィンドール「へぇ、仮面の四分の一を剥ぎ取った僕と同等の虚閃の威力か。非破面にしては随分とやるみたいだね」
フィンドールの心中は今もなおあのいけ好かない非破面に煮えくり返っているが、頭は今置かれている現状とこの戦いにのみ専念し、その怒りは雑念として排されていた。
フィンドール「彼の実力については今の虚閃で大方予想がついた。ある程度の誤差はあれど、今のを基本に考えればおくれを取るようなことはないだろう。問題は、彼の能力だ」
フィンドールの明晰な頭脳を以てしてもそれだけは未だ謎のままだった。先程自分は先手必勝と言わんばかりに、自己最速の響転で彼に肉迫しその首を狙った。しかし彼は、先まで自分に一切の注意を払っていなかったにも拘らず、その一撃を容易く防ぎさらには自分を煽り、戦場をこの宮殿全体へと拡大させた。フィンドール自身も、あの一撃で全てが終わるとは思っていなかったが、それでもある程度の傷。ないしこちらに有利になる要因の一つでも作りだせると踏んでいたが、実際は全てを振り出しに戻されただけだった。
フリード「おお、いたいた。なに悩んでんだ、戦闘中だぞ今は。集中しろよ」
フィンドール「ッ!」
不意に背後から肩を叩かれた彼はすぐさま探査回路を働かせ、自分の後ろに立つ者の正体を知り、手にした刀を振り払った。しかし、その刀は漂う塵芥を切り裂き彼の眼前の視界を晴れさせただけだった。
フリード「おお、こわい。何に悩んでるか大体予想つくからネタバレしてやろうか?」
フィンドール「キミはどこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだァ!」
フリード「そうカッカするな。戦いは先に熱くなった方が負けだってグリードが言ってたからそれを試してるだけだ」
フィンドール「黙れ!」
響転で近づき奴に手にした刀と仮面を剥ぐ際に使っているサーベルで奴を切り刻む。刀で右から左へと大きく切りかかると奴は体を逸らしを躱す。すぐさまサーベルで左から薙ぎ払うが、奴はのばした俺の腕を支点に空へと跳ね上がりまた躱す。逃げ場のない空中に囚われた奴に虚弾を放つが奴は響転で逃げることをせず、空中に逆さまに立ち、最初の一撃の時のように腕に作った刃で全て逸らしてみせた。
フィンドール「小細工だけは一流だね。だが、それだけで最上級大虚にのし上がれる程、あの生存競争は甘くなかったと思うが?」
フリード「年季の差だ、年数重ねれば色々と悪知恵が付くんだよ。それに人間も虚も関係ない」
フィンドール「なるほど、それはまた一つ勉強になったよ。そして、今のを見て君の能力の大体の予想ができた。君は…霊圧を形にできるんだね」
フリード「正解っであってるか?」
フィンドール「ああ、間違いではないよ」
フリード「そか。まぁ、アンタの推察通りだ。俺は霊圧を形にできる。正確には固形状にできると言った方が正しいがな。アンタのそのサーベルみたいなものから、その刀。俺が想像できるものなら何でもありだ」
フィンドール「それはまた随分と恐ろしい能力だね。その口ぶりだとこの虚夜宮を切り裂ける大刀だって創造可能だと言っているように聞こえるよ」
フリード「実際可能だぞ。やったらほぼ間違いなく殺されるからやらないがな」
フィンドール「・・・バラガン陛下が君を欲しがる理由が分かったよ。だが、それだけ巨大な能力には弱点もある」
フリード「…」
フィンドール「それは、創造に使う霊圧は君依存だという事だ。君の能力は確かに脅威だ。それは認めよう。だが、それ故に君は一つ一つの創造に使用する霊圧の量を制限せざるを得ない。全力を注げば虚夜宮を切り裂けることも可能だろう。だが、それをしてしまえば君は霊圧が尽き死んでしまう。だからといって小さいものを創り、それに全霊圧を込めればいいのかと言われればそれもまた違う。戦いはそんな単純なものじゃないからね」
フィンドール「君は見た通り破面ではないから刀を持っていないし、鋼皮もない。そんな君は常に己の体を守る装甲と、一定の敵の攻撃に耐えることができ、尚且つ鋼皮を切り裂けるほどの威力を持った武器を創り出す必要がある。この虚圏で武器なしでバラガン陛下や藍染様に会って無事で済むとは思えないからね」
フリード「何が言いたい」
フィンドール「君は決して全力で戦うことができないということさ。それは現世では優しさなどと言われるだろうが、生憎とここは虚圏だ。それは甘さにしかならない。そういう意味で言えば僕は君の天敵と言えるだろう」
フリード「あぁ?」
フィンドール「おっと、凄まないでくれるかい?僕はただ君に一つ質問がしたいだけさ」
フリード「質問だ?」
フィンドール「そうとも。一つ疑問なのだが…。君、まさか今のこの霊圧が僕の全力だとは思ってないだろうね?」
フリード「…まさか。その仮面」
フィンドール「正解だよ、最上級大虚」
―――――――――――――――――――――――
フィンドール「正解だ、最上級大虚」
いつの間にか冷静さを取り戻していた破面が主に似た皮肉と嘲りを多分に含んだ笑みを浮かべる。何か嫌な予感が体をひた奔り響転で破面に迫るが、それよりも早く破面は俺との最大の共通点を半分にした。
フィンドール「フハハハハハハハハ!行くぞォ最上級大虚!!」
___消えた。何かの例えでもなく誇張表現でもなく、先刻までそこにあったはずの奴の霊圧が俺の探査回路から忽然と消えた。
フィンドール「こっちだ!」
声がした下を向いたはずが俺の視界は宮の天井を映していた。混乱する頭をさらに混迷に窮しようと今実際に起きている現実に置き去りにされた感覚が遅れて俺の体を襲う。衝撃が伝わって初めて俺はその時蹴りあげられたのだという事を理解した。しかし、俺の眼球はその蹴りあげた人物を映すことはできず、探査回路は何も変わらず観客共の反応しか示していなかった。
フィンドール「どうしたどうした?こんなものなのか!バラガン陛下が気にかけた最上級大虚は!!」
上下左右前後・四方八方。ありとあらゆる方向からありとあらゆる攻撃をされる。刀による切り裂き、突き、薙ぎ。虚閃や虚弾も当然のように織り込まれ、俺の体を纏う霊圧の装甲はその意味をなさず、俺の肉体にその攻撃をただ素通ししていた。反撃しようと俺の脳から体の神経に電流が走り、それに肉体が全力で応えるも、その速度よりもやつの攻撃が何倍も速いので俺はただ逃げ場のない空中で甚振られるだけだった。
フィンドール「トドメだぁ!」
ようやく敵の姿を捕らえたと思った刹那、奴の渾身の蹴りが俺の横腹を直撃した。俺は臓器がいくつもぐちゃぐちゃになる音を頭に響かせながら受け身も取れずに宮の床に神速の如き速度で叩きつけられた。
体を動かそうと脳が放つ電気信号に返ってくるのは体の節々からの損害を訴える痛みだけだった。肋骨や大腿骨などの骨が何本も折れ、それらが臓器に突き刺さっているのが身に染みてわかる。体内の血の量も随所からの出血でみるみる減っているようだ。先程から視界が覚束ない。
フィンドール「オイオイオイ、随分とあっけないじゃないか最上級大虚。いくら全力を出せないからとはいえ、この程度で終わるのかい?」
クレーターが形成された宮の床に仰向けで倒れ伏す俺に馬乗りになるようにして、奴が表れそんなことを口にする。そして、俺が動けないように四肢の関節と健を切り裂いた。これで俺はこいつに生殺与奪を完全に握られたことになる。
フリード「ハァ…ハァ…ハァ…」
フィンドール「ほらほら、得意の減らず口はどうした?何か言ってみろよ、ホラ!ホラ!」
フリード「ハァ…ゴホッゴホゴホ…。ハァ・・・」
フィンドール「どうやらこれで詰みのようだね。そして君の能力に対して僕が建てた仮説も間違いではなかったと証明されたわけだ。君を超える霊圧を出せば君の能力は役に立たないという仮説がね」
奴の言う通りだった。俺の探査回路からやつが消えたのも。これほどまでに奴に弄ばれたのも…。総ては今の奴の霊圧が今の俺を超える霊圧を放っているという事が原因だった。そして、奴のあの仮面は、云わばやつの力量メーターとでも言うべきものだったらしい。あの仮面が剥がされる程奴の霊圧は増大する。それが、この破面の能力だったのだ。まだあいつの仮面は半分も残っているというのに…
フィンドール「悲しいよ最上級大虚。君が最初に僕の一撃を防いだ時、正直に言って僕は心が躍った。完全に気を逸らしていたのに、間違いなく不意を狙ったのにいとも簡単に君はアレを防いで見せた。その事実に僕は驚愕をすると同時に期待のような感情を抱いた。この男の実力はどれくらいなのかというね」
フィンドール「しかし、ふたを開けてみればなんてことはなかった。君は僕の半分ほどの実力しかなかったんだ。まったく…失望させてくれるよ!!」
フリード「あああぁぁぁァぁああぁぁぁぁああ˝!!」
奴が俺の胸に刀を刺したてる。新たな深い傷口が刻まれたことでそこから多量の血が流れる。だが…奴はそこから刀を抜かずに、またサーベルを自分の仮面に近づけた。
フィンドール「そう言えば君はこの戦いの最初に、絶対に赦されないことをしたね。覚えているかい?」
フリード「…」
首を横に振る体力もない俺は俺の命を握っている奴を光の消えた目で見つめる。
フィンドール「虚閃だよ。君は最初に僕を蹴り飛ばした後虚閃を放った。ご丁寧に拡大しないよう圧縮された紅いやつをね。だが、その方向がいけなかった。君が放った虚閃はあろうことかバラガン陛下の玉座に向けられていた。当然僕が相殺したし、もし仮に僕が避けていたとしても君程度が放つ虚閃じゃ陛下は傷つかない。だが…その事実は決して許されない。赦されてはいけない!」
フリード「……」
フィンドール「だから、これは君に対する刑罰だ。かの大帝に無礼千万な、不遜な態度を貫き通し、あまつさえ牙を向いた。その罪状は死罪に相応しい。否、それでは生温い」
胸に刺されている刀から奴の虚閃と同じ光が淡く発光する。間違いない。奴は・・・フィンドール・キャリアスは。俺の体内でそれを暴発させるつもりだ。
フィンドール「君の死体は塵一つ残さない。霊子一つ、その顔半分を覆い隠している仮面の欠片一つ消し去る。さぁ、この仮面が全て取れた時が、君の最期だ。精々死ぬまでの刹那の時をゆっくりと味わうがいい」
奴のサーベルが残った仮面にじわりじわりと近づいていく。それは時間にしてみれば一瞬だったかもしれないが、おれにとっては途方もなく長い。今まで過ごしてきた何千年よりも長い一瞬だった。
フリード(おれの命も…あと一秒足らずで終わる、ああ、最期にもう一度…グリードに座りたかったなぁ…)
フィンドール「さようなら、名前の知らない最上級大虚」
その台詞を最後に俺の意識は堕ちた。