虚が目指す平穏   作:itigo_miruku121

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フリードの能力の名前がまだ決まっていない今日この頃


追記:誤字脱字の訂正及び機能していなかったスクリプトを機能するように修正しました。 2017/12/22


フリード・リヒという最上級大虚 2

フィンドール「さようなら、名前の知らない最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 

 フィンドールの内心は目の前の男のように二分していた。一つは大いなる失望。

目の前に倒れ伏す半仮面の虚は、己の神であり虚圏(ウェコムンド)の神でもあるバラガン・ルイゼンバーンに対し考えられない程の軽口をたたき、あまつさえクソジジイとまで形容した。それ以外にも、彼直々による再三の命令(スカウト)にも背き続け、今日に至っては一度自分の居場所まで自ずから足を運んだ(バラガン)を再びこの第二刃宮まで移動させたという。

 

 

そんな彼に対する憎悪と怒りの一部は先程彼に直接ぶつけた。本来ならば、あれ以上をぶつけたいが下手に時間を費やしているうちに挽回の一手をこうじられては困るため、程々にして勝負の決着を優先した。

 

 

 二つ目は絶頂するほどの歓喜だった。この戦は云わば自分たち従属官(フラシオン)の堪えきれない苛立ちなどが主に認められた結果用意された場である。つまり、それはこの戦いは単なるいつも通り(日常)ではなく、従属官(フラシオン)の総意が結集した戦であり、自分という存在をバラガン()に誇示できる千載一遇のチャンスなのだ。

 

 

 実際、この戦に従属官(フラシオン)代表として出たいとバラガンに主張した者たちは彼以外にもいる。シャルロッテ・クールホーン、アビラマ・レッダー、ポウなどは数ある従属官(フラシオン)の中でも屈指の実力の持ち主だったが、今回の戦は他の誰でもないバラガンの指名でフィンドール・キャリアスに決まった。

 

 

 そんな経緯と開始前の期待を寄せているという言葉。そして、そんな重要な戦で勝利を目前にしているというこの状況。今この瞬間の彼はまさに天にも昇るほどの狂喜を味わっている。もちろん、それは表に出さないが、観客である従属官(フラシオン)たちを見る視線にはそれが痛いほど感じ取れる程に含まれていた。

 

 

フィンドール「僕の…勝ちだァァ!」

 

 

???「それはどうかなぁ~」

 

 

フィンドール「なにっ!」

 

 

 絶対の勝利を確信しそれを現実にするため仮面にあてていたサーベルを振るおうとする。しかし、フィンドールの四肢はピクリとも動かず、己の顔面についている仮面はまだ半分ほどその白い面を残したままだった。なぜならフィンドールの両腕には霊圧で出来たしめ縄のようなものが幾重にも巻き付けられており、それが自分の刀が刺さっている空の人形に絡みついていた。さらには、首元には何者かの足が後ろから絞めるように撒きついていて、首一つまともに動かすことすらできなくなっていた。

 

 

フィンドール「なぜだ!なぜ動かない!!」

 

 

???「悪いけどそれ以上俺との共通点(その仮面)を剥がさせるわけにはいかないなぁ~」

 

 

フィンドール「誰だ!僕の戦いを誰が邪魔している!!」

 

 

???「誰とはずいぶんなご挨拶だな、だが許そう。確かに俺はお前に名乗ってなどいなかった。故にお前が俺の名前を知らないのは当然というもんだ」

 

 

フィンドール「姿を現せ!」

 

 

???「自己紹介が遅れたことを詫びさせてもらおう。俺の名はフリード・リヒ。この虚圏(世界)でただ一人、破面(アランカル)になっていない最上級大虚(ヴァストローデ)だ」

 

 

フィンドール「な、貴様はッ!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

フリード「オイオイオイ、何もそこまで驚くことはないだろう。同じ半仮面どうし、金髪どうし、仲良くしようぜ?俺はお前に親近感を抱いてるんだから」

 

 

 フィンドールの首に巻き付き、フィンドールの露わになっている眼球に自分の眼球をぶつけるのではないかと思うほど肉迫したその男の正体は、つい先刻まで自分が圧倒し、今もなお自分の刀に刺され、四肢の動きも封じられ、ただ殺されるのを待つだけだったあの最上級大虚(ヴァストローデ)と全く同じ姿格好をしていたのだ

 

 

フリード「フーム、なぜお前がそこにいるんだって顔だな。俺もお前のその謎に答えてやりたい!解答を、お前でいうところの正解(エサクタ)を教えてやりたいがな?それはできないんだ。なぜなら、俺は既にお前に正解(エサクタ)を教えているからなぁ」

 

 

フィンドール「どういう・・・ことだ!?」

 

 

フリード「それじゃあ復習問題だ。俺の能力はなんだったか言ってみな」

 

 

フィンドール「貴様の霊圧を元に…それを固形化すること」

 

 

フリード「はい大正解!まったくもって素晴らしい回答だ。教科書どころか歴史書にでも載せたいほどの・・・これ以上ない素晴らしく的を射た回答だ。そんな優等生君にアドバイスだ。いいか?ここで肝心なのは()()()()()()()という点ではなく()()()()()()()()という点だ。具象化ではなくて、俺ができるのは()()()()()()()だ。この意味が分かるか?」

 

 

フィンドール「つまり…」

 

 

フリード「つまりだ、優等生のフィンドール。俺の能力をもってすれば()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を創ることも容易というわけだ!アハハハハハ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

__自分と同じ姿をした分身体を創造可能。最上級大虚(ヴァストローデ)はそう言った。なんだそれは、闘いの根底が覆される。そんなことがあっていいものか。そんな能力があっていいものか…。

もし、この男の言う事が事実なら、俺はいったい何時から眼前で狂笑をしている男に少し劣る分身体を相手にしていたのだ。

 

 

いや、そんな事ではない。それが重要なのではない。いや、確かにそれも恐るべきことだが、なによりも畏れるべきことは・・・破面(自分)と同等の威力を持つ虚閃(セロ)最上級大虚(ヴァストローデ)の分身体。それも、本来よりも力が劣る分身体が放ったという点だ。

 

 

__勝てない。本能的にそう悟った。自分もいまだ全力ではないが、先程から俺の腕と首を絞めつける力は指一本どころか筋肉一つすら動かすことができない。まるで締め付けられた先からは機能が壊死しているかのように、一切の電気信号を許さない。そんな男相手にはたとえ全力になろうとも勝てる見込みがない…。

 

 

 自分は、バラガン陛下が彼をそこまで欲しがる理由はその応用がききすぎる能力だと思っていた。()()()()()()()()()()()。しかし、実際はそうではなかった。フィンドールはそのことをこの後すぐに身を以て体感することになる。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

フリード「さて、フィンドール。さっきも言ったが俺はお前に()()()()()()()()()。その理由は至極単純だ。俺とお前には見た目の共通点が多い。顔の半分を隠す仮面、金髪。特に仮面に関しては大きな共通点だ。まるで親子みたいにな」

 

 

 

 フィンドールの首に両足を掛け、猿のようにぶら下がりしばらく遊んだ後、フリードは腹筋で起き上がり、フィンドールの残った仮面に片方の手をかけ、もう片方の手に己の能力で創造した刃こぼれが酷い一つの刀を手にもち、その柄をフィンドールの仮面に割れない程度の力加減であてながら話をつづけた

 

 

フリード「お前の神が俺と同じ最上級大虚(ヴァストローデ)だった頃の姿を知っている俺だから言うが、破面(アランカル)になる前と以前ではその見た目に多少の差異が出る。しかもそれは個人差がある。云われなきゃ気づかねぇほどの変化しかしない奴もいれば、バラガンみてぇに別人じゃねーの?ってレベルで変わるやつもいる。つまり、俺が何を言いたいかわかるか?」

 

 

フリード「つまりだな?それだけ俺とお前の共通点は奇跡的って訳だ。俺たち(ホロウ)が人間のころの記憶を思い出すみてぇに。天文学的数値と言ってもいいくらいに。だが、お前はそんな数値の奇跡に対し何の有難みも感じず、かといってそれを尊ぼうという気概もなく、ただ単に俺がお祝いに拵えた特製人形を散々痛めつけた」

 

 

フリード「その一部始終を見ていて、俺はとても心が痛んだ。今もなおお前の刀が突き刺さっているそこの人形が殴られてるってのに、俺の体にはそいつが感じた以上の傷みが、他の誰でもないお前から浴びせられていた。俺の心は外の空よりも暗く、お前の主の声よりも重く、お前の蚊にも劣る攻撃の何万倍の攻撃よりも痛かった。」

 

 

フリード「でも、その痛みが、苦しみが、俺に一つの昔話を思い出させた。だからこれはお前から俺へのプレゼントだと思うことにした。だがな、プレゼントってことはつまりは贈り物だ。俺はお前からこれで二つも贈り物をされたことになる。一つはこの天文学的数値の奇跡。外の砂漠から一粒の砂粒を救い出すよりも高難易度な出会い。何度も言うがこれはお前に感謝しかない、ありがとう」

 

 

フリード「そしてもう一つがこの昔話だ。これだけ貰っておいてなんだが、おれには何もお前に返すべき物はない。これだけの恩人の命を狙う訳にもいかないし、なにより俺はこの出会いの奇跡をみすみす失うような真似を俺からはしたくない。だから…こんなものをお返しとするのはおかしな話だが、お前にその昔話をすることにした」

 

 

フリード「昔々…と言っても俺たちみたいな奴から比べたらごく最近だが、人間基準で考えるとそりゃあもう気が遠くなるようなほど昔の話だ。あるところにガラスの職人がいた。ああ、この宮にもいくつかあるあのガラスだ。あれを作るのがべらぼうに上手い奴がいた。そいつの腕は世界中。いや、宇宙にすら名を轟かすと言われるほどだった」

 

 

フリード「光沢、艶、輝かしさ、透明度、強度。その他様々な点で、そいつの作ったガラスは他の職人の追随を許さなかった。そいつが作っただけで一枚百円のガラスが云百万にもなるとかならないとかいう噂が立つほどだ。金に換算するってのはいいな、俺らみたいなド素人でもその驚愕さが理解できる」

 

 

フリード「そんなある日、そいつ以外のガラス職人の奴らがそいつの製造工程を見に行くことになった。技を盗んで殆ど市場を寡占されていた状況をどうにかしようって魂胆だ、建前上はな。当然真意は製造中の事故に見せかけてそいつを殺しちまおうって腹さ」

 

 

フリード「その天才職人様はそんなことは毛ほども知らねぇから、そいつらを自分の工房に招き入れていつも通りの仕事を見せてやった。その天才様は勝手は知らねぇがガラスを釜で創っててな、多少なりとも霊力とかそういう特別な力が使えたのか、鉄の棒に液体を塗って、それを釜に突っ込んで熱すれば何百万のガラスが出来上がるっていう工程だったそうだ。その工程を知る人間の一部はそいつの事を魔法使いと呼ぶ奴もいたらしい」

 

 

フリード「だが、そんな事よりもその殺人犯集団が驚いたのが、窯に棒を突っ込んでいる時の天才様の様子だ。普通は膝を折るなりして屈んで中の様子を見るってもんだが、その天才様は常人とは違った方法で窯の中を覗き見ていたらしい。どうやってたかわかるか?」

 

 

フィンドール「しった・・・ことか」

 

 

フリード「なんとその天才様は、鉄も溶かす程の高温の釜の中に突っ込まれた棒を自分の顔の上に持っていったそうだ。つまり、その棒を見上げるように自分の顔を窯に近づけたってことだ!ハッハ!狂ってやがる。そんな方法で作ってちゃあ、そりゃあ常人には真似できない一品ができるってもんだな」

 

 

 

フリード「その殺人集団も最初は驚いたが、その狂気に中てられたのか、殺人衝動がムクムクと…。発情期の猿の性欲みたいに沸いたらしい」

 

 

フリード「その殺人集団は、下から舐めまわすように鉄の棒を魅入る天才様の顔を窯に押し込んで顔を焼き焦がした後、保冷剤代わりと称して完成して球体になったまだ冷え切っていないドロドロのガラスを、天才様の顔半分に塗り付けたって話だ!ハーッハッハハ!!最高にクールな話だろ?」

 

 

 

フリード「ま、当然その天才様は死んだんだが、この話が面白いのはこっからさ。その天才様の顔に塗りたくられたガラスは、その天才様のどんな作品よりも高く値が付き、一説では億の値がついたとも云われてる。そして、天才様を殺したその殺人集団もまた相次いで不審死を遂げた。死因も犯人も殺害方法も、何一つ原因解明につながるもんは分かってないが…。一つだけ、殺人集団の死体全てに当てはまる()()()がある。それはなんだと思う?当ててみな、フィンドール・キャリアス」

 

 

 

 そこまで長々と狂った硝子の小話を話したフリードは、首の締め付けを少し緩め、フィンドールがまともにしゃべれるように取り計らった。フィンドールは数回咳き込んだ後、死を回避するためその頭を今まで以上に働かせたが、終ぞ答えがその口から出ることはなかった。彼は目の前の最上級大虚(ヴァストローデ)に、その瞳に映る破面(自分)に対し、ただ沈黙しか返すことができなかった

 

 

フィンドール「……」

 

 

フリード「不正解(ノ・エス・サクタ)。沈黙が正解になるのは期間限定だぞ?まぁ、いい。お前は俺の恩人だからな、その特例を認めよう」

 

 

フリード「では、正解発表だ。それらの死体にはな、顔にあるあるモノが欠けていたんだ」

 

 

フリード「それは、(俺たち)にも、死神にも、人間にも。どいつにもこいつにもあるモノで、ガラスのように綺麗で美しく、透明で周囲の風景を映し、世界を作るもの__」

 

 

フリード「欠けていたのは、眼球だよ。フィンドールくん」

 

 

 その台詞と共に、フリードは刃こぼれした刀をフィンドールの仮面の上。丁度眼があるであろう場所に立て、黒板をひっかいた時とのようなあの嫌な音を立てながら、その仮面を()()()()()()

 

 

フィンドール「・・・やめろ」

 

 

フリード「しかも、その抉りとられた眼は死体のそばに置かれたガラスのコップに、さも宝石のように置いてあったそうだ。それを知ったガラス職人共は皆口を揃えてこう言った。『天才様が今度は眼を使って作品を作るつもりだ』ってな。それ以来、その天才様がいた町ではガラス職人が消え、ガラス産業は衰退の一途を辿り、最後にはなくなったそうだ。どうだ、面白れぇだろ?」

 

 

フィンドール「・・・やめろ。私はその殺人集団ではない」

 

 

フリード「その一連の事件から数十年立ったある日、その街の近くではこんなうわさが流布したそうだ。例の天才様の死体は顔半分が跡形が消えるほどに黒く焼けおち、もう半分はガラスの液体と髪の毛と血が乱雑に入り混じってそれはそれは美しい金色をしていた。ってな」

 

 

 

フィンドール「まさか。貴様…が!やめろ…やめろォォォぉ!!」

 

 

フリード「・・・ところで、今ここまで肉迫して初めて気が付いたんだけどよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード「お前の眼…宝石みたいに綺麗だよな」

 

 

 

フィンドール「ヤメロォォォォォォォォォオオォオォォオッォオオオオ!!」

 

 

 

 その日。第二刃宮殿で行われた殺し合い(日常)従属官(フラシオン)たちにとっては非日常だった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリード『アハッ♪アハハハハハッ!アハッアハツアハハハハハ!!アッハッハアハハハァハッハハ!!!』

 

 

 

 映像に映る最上級大虚(ヴァストローデ)はこれまで聞いたことのない狂嗤をあげている。普段、表情をあまり表に出さない自分でもさすがに今行われた狂劇にはその面相を崩すほかない。

 

 

 

市丸「うっわ、えげつな。動けんようにしてから眼の上の仮面を刃こぼれした刀で削って、最後に眼球サイズの穴開けてそこからこぼれた刃だけ見せてあのセリフ言うとか…。あれが最上級大虚(ヴァストローデ)のやることかいな。フィンドールは泡吹いて倒れてるし、バラガンの従属官(フラシオン)全員引いてるやん」

 

 

藍染「あれが彼の本性だよ、ギン。彼がああであるからこそ、僕は彼を欲しているし、バラガンもまた彼を欲している」

 

 

市丸「せやかて藍染隊長?あれはあきません。危険すぎます。そもそも、あの子。いつから分身体やったんです?」

 

 

藍染「最初からさ、バラガンが彼に話しかけてからフィンドールに殺されかかるまで。その全てが分身体を使ったブラフさ」

 

 

市丸「そんな前から…。バラガンはきづいてたんですか?」

 

 

藍染「当然だろう。故に彼は、彼のスカウトを辞め彼の言う通りに行動した。そうしなければ、本体である彼自身に出会えないからね」

 

 

市丸「でも、性格はともかく能力は確かに便利そうですわな。自分の霊圧を形にする。フィンドールと渡り合えるほどの戦闘力を持った分身体も作れる。ええことづくめですわ」

 

 

藍染「彼のほどの霊圧の持ち主ならおそらく、フィンドールレベルの分身体ならあと千体ほどは余裕で創造可能だろう」

 

 

市丸「千体って…。それ本気で言うてますの?」

 

 

藍染「無論だ、彼はこの虚圏(ウェコムンド)にいる(ホロウ)、そして十刃(エスパーダ)を含む破面(アランカル)の中で一番の霊圧の所持量を誇るのだから」

 

 

市丸「そんな子を破面(アランカル)にしたらえらいことになりそうですね」

 

 

藍染「全くだ。そして、それをしてしまえば彼は彼の生き様に反してしまう。故に彼は未だ最上級大虚(ヴァストローデ)のままでいる」

 

 

市丸「生き様?あの子にそんなもんがあるなんて初めて知りましたわ」

 

 

藍染「これはもはや()()()なんてれべるではないがね。彼の場合、それはもはや十刃(エスパーダ)たちが司る()()()と同等のものだろう」

 

 

市丸「なんですの?藍染隊長がそこまで言う()()()()()って」

 

 

藍染「彼の生き様は『平穏』だよ。彼は純粋にそれを求め、それを受け入れ、それを許容し、それを強奪し、それを習得し、それを用いて殺すのさ」

 

 

市丸「なんですの、平穏って。そんなん死とは正反対と言ってもいいもんやないですか」

 

 

藍染「その通りだ。それは死とは対極の方面に位置する概念だ。だが、彼の場合はそれが最もふさわしい。彼のそれに対する愛憎は本物さ」

 

 

市丸「……ねぇ、藍染隊長」

 

 

藍染「なんだい、ギン」

 

 

市丸「…さっき彼が話してたガラス職人の話。あれってホンマですの?」

 

 

藍染「まさか。作り話だよ。彼はあの素晴らしい能力も、自分の名前も、全てが遊び道具に過ぎない」

 

 

市丸「なんや、嘘かいな。せやがて、名前まで遊び道具ってことは、言葉遊びかなんかってことですか?」

 

 

藍染「その通りだ。彼は平穏にだけは真摯だが、それ以外は何もかもいい加減な最上級大虚(ヴァストローデ)だ」

 

 

市丸「そうですか…。僕もあの子の事少し気になりましたわ」

 

 

藍染「覚えていて損はないだろう、ギン。さ、そろそろザエルアポロ君の実験結果が出る頃だ。お茶を淹れて迎えようではないか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

フリード「あー楽しかった。これほどまでに笑ったのは久しぶりだ」

 

 

バラガン「フン、相変わらず歪んだ性格をしておる」

 

 

フリード「こうなることを知っててそのまま黙認したお前に言われたくないわ」

 

 

バラガン「あの程度の分身を見抜けぬ程度では、こ奴らも貴様と同じ小童じゃということだ」

 

 

フリード「俺を試験管にするなよ…。第二刃宮殿出てきてまで会いに来たから何か妙だとは思ったが」

 

 

バラガン「毎日放浪しているヨリはよほど有意義じゃろう」

 

 

フリード「決まった場所から動かずにいたら違う()()を知れないだろうが」

 

 

バラガン「…そこまでして儂やボスの下につきたくないというか」

 

 

フリード「生憎、俺は平穏に関してだけは独占したくてね。誰かの下について分け前を貰って満足するような男じゃないんだわ」

 

 

バラガン「...」

 

 

フリード「だが、俺はそうだと知っていてもやり方を変えないお前らは好きだぞ。それもまた虚圏(ウェコムンド)の平穏の一部だからな」

 

 

バラガン「…貴様は何を考えている。貴様はそこまでして何がしたいのだ」

 

 

フリード「オイオイ、何度も言わせるなよ」

 

 

フリード「俺は平穏()に殺されたいのさ。俺は()()を探し、()()の中で生き、()()の中で死にたい。それだけだ」

 

 

バラガン「…貴様のような狂人にそんなものがくるものか」

 

 

フリード「()()かどうかじゃない、()()()()んだ。じゃ、そういう訳でまたな老王。もう二度とお前の殺し合い(暇つぶし)に巻き込むんじゃねーぞ。」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 響転(ソニード)で第二刃宮殿から虚夜宮(ラス・ノーチェス)の廊下に出て、適当に練り歩く。勝手知りたる城という訳ではないが、適当にぶらつく。

俺が知る中で最も多くの従属官(フラシオン)を持つバラガンのところで、その配下全員の心に()を知らしめてやったので、道に迷ってもすれ違う破面(アランカル)達が畏怖し、俺に()()()()()()()()()()()()()。それくらいの有名人にはなっている・・・はずだ。

 

 

 そして運よくこの予想はすぐに的中することになった。というのも、俺が知る数少ない奴の一人に早速出くわしたのだ。うん、やはり善行は積むものだ

 

 

 

???「げ。嫌な奴にあった」

 

 

フリード「リリネット・・・。いいところにいたぁ…」

 

 

 そいつはさっきまでいたバラガンよりも強いとされている破面・No.1(アランカル・プリメーラ)コヨーテ・スタークの従属官(フラシオン)(のような何か)というちょっと特殊な立ち位置にいる奴だ。

いうなればそいつは俺と同じように虚圏(ウェコムンド)において唯一無二の存在であり、そういう点で俺はこいつを何かと気に入っている。本人にその気がないのは少し不満だが、それがリリネットの()()なのだから、仕方ない。それならば、俺はそれを受け入れるしかない

 

 

リリネット「やめろ、その不気味な笑みを今すぐやめろ。その如何にも悪戯を考えているような不気味な顔をやめろ。そんな顔はアタシみたいな女の子が遣るからいいもんで、お前みたいな半分マスクの変態がやっても、怪しさが三倍増になるだけだからやめろ。そして、今すぐ回れ右をして帰れ。いや、虚夜宮(ラス・ノーチェス)から出ていけ!」

 

 

 

フリード「三秒間待ってやる」

 

 

リリネット「少な!相変わらずスタークより大人げないな、フリード!!」

 

 

フリード「1、2・・・」

 

 

リリネット「ぬわーっ!ちょっと待て!ちょっと待って!!今逃げるから!!」

 

 

フリード「3!」

 

 

リリネット「スタークーーーーーッ!!」

 

 

フリード「逃がさないぞォ…。リリネェットォォオオオ」

 

 

リリネット「無駄にねっとりと私の名前を言うな!!助けてスターク!変態に犯される!!」

 

 

 もちろん俺に本気で彼女を捕まえる気はない。ただ、こうすれば彼女は必ずスタークの元へと逃げるので、それを追いかければスタークのいる第一刃宮殿に辿り着くという寸法だ。

決して、リリネットの反応が面白いからなどという失礼極まりない理由はない。

 

 

 

 

 

 

 

 




憐れなりフィンドールさん。
ちなみに、彼の剥がれた部分の素顔はフリードの能力により創られた仮面により再び隠されました。
霊圧?…PTSDかなんか発症してフリードの仮面付けてる限り自ら抑え込むでしょ(適当

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