大空を陰から支える蜃気楼   作:itigo_miruku121

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暇つぶしになれば僥倖です



プロローグ
大空を陰から支える蜃気楼 プロローグ


俺は殺し屋だ。でも名前はない…

 

 

「……」

 

 

目の前には俺が今さっき殺した人間が臓物をぶちまけながら倒れている。その腹部からは赤黒い血がとめどなく溢れ出て、照明の光を受けて眩い光を反射する白いタイルの色を塗り替えていく。

 

 

一方の俺は目前にある汚らわしい人だったものとは正反対に、綺麗なままでこのままパーティー会場に赴いても恥ずかしくない清潔さだった。

 

 

「…依頼終了・・帰るか」

 

 

俺は醜い死体を一瞥した後、偽名と偽物の戸籍で宿泊している安宿へと歩みを進める。

俺はまだ成人を迎えていない。だが、自分の手で人を殺めることに何の後悔も躊躇いもない。

その理由は、やはり俺の出生だろう。

 

 

俺の生まれた世界には一つの常識があった。それは…

 

 

『殺した奴が正義、殺されたならそいつが悪』

 

 

というものだった。

 

 

こんな常識がまかり通る世界に住む人間はどいつもこいつも頭のおかしな連中だった。

 

 

毎日新しい死体の山が上がっては、その死体の山から一つの死体を取り出し「こいつを殺したのはこの俺だ!」と高らかに宣言する奴

 

 

それを聴いて羨望の眼差しでそいつを見つめる奴

 

 

宣言した奴を称賛し、賞状を進呈する役人

 

 

宣言した奴に嫉妬し、後日そいつを殺すやつ

 

 

ただ単に殺しを楽しんでいる奴

 

 

他にも色々とどうしようもない屑が集っていた。そしてそれは、俺の両親にも当てはまった。

 

 

俺の両親は「俺を殺すため」に俺を産んだ。生まれた子供がこの世界の常識を理解した瞬間、母親と父親が全力でその子供の息の根を止めに来る。理由はさっき並べた屑どもと同じだ。

 

 

その場合、その子どもが助かるには二つの方法しかない。

 

 

一つは、子どもを殺したという「実績」を得るために両親が争い相打ちになること。

だが、これは確率が低いうえに、相打ちになることは殺されるよりも馬鹿な事とされているこの世界では誰しもが避けることだった。

 

 

そして、もう一つは……子が親を殺すことだ。

この世界ではとどめを刺した者が称賛される。例え九割を第三者がやっていようと、残り一割を自分の手で行えばそれはそいつの手柄になる。

 

 

つまり、本能を頼りに両親を互いに消耗させて、最期のトドメを自分の手で刺せばいいのである。だがこれは一つ目の方法よりも可能性が低く、成功例がないと言ってもいいほどだ。

 

 

俺は運が良かったのか前者で切り抜けられたが、一難去ってまた一難というのだろうか。次の危機はすぐさま訪れた。屑どもの一人が俺を殺そうとしたのだ。「相打ちする親の子なんて死んだほうがマシ」という理由と共に…

 

 

俺は必死に逃げた、文字通り命懸けで。子供でも通れないような裏路地をたくさん通り何とかその屑から逃げ切った。その後の俺は生きるために文字通りなんでもした。

 

 

飢えをしのぐために道端に転がる人の死肉や臓物を喰らい、喉の渇きを潤すため血やドブ水、下水をたらふく飲んだ。当然、感染症や変な病気を何回も患ったが次第に体に抵抗ができたのか、しばらくするとそういった類のものを食べても何も異常をきたさないようになった。

 

 

餓死することを防いだ俺が次に覚えたのは、人を殺す方法だった。

幸い、見本は毎日そこら中で見ることができる。俺は町を駆けずり回り、いろんな奴のいろんな殺し方を見てきた。そしてスポンジが水を吸うように次々とその技術を自分の物にしていった。

 

 

そうして俺はいつしか、町でも有名な殺し屋になっていた。貴族や豪族、女子供はもちろん場合によれば依頼主まで誰でも殺す殺し屋だと。

 

 

確かに俺は過去に依頼主を何回か殺したことはあるが、それはどいつも依頼金を踏み倒すために俺を殺そうとした奴だ。所謂正当防衛ってやつなんだがな…噂に尾ひれがついて気が付いたらこのありさまだ。

 

 

そんな俺を当初、人々は「殺し屋」と呼んだ。俺はその呼び名が嫌いだ、それは職業の名前で会って俺個人の名前じゃないからな。まぁ、俺の名前を付ける前に両親が死んじまったから仕方ないんだが、やはり名前がないってのは腑に落ちないものだ

 

 

俺はそれ以降、「名前」を欲した。仕事の依頼者にも、標的にも必ず『あんた・・俺の名前を知ってるか?』と尋ねるようにもなった。無論、親でもない他人が俺の名前など知る由もなく、誰も彼もまともに相手をしなかった。

 

 

それが悔しくて哀しくなった俺はさらに仕事に没頭するようになった。

 

 

名前がない苦しみから逃れるために仕事をする、仕事をしているときはその苦しみから逃れられる、だが仕事お終えた途端苦しみが倍になって襲ってくる、それから逃れるために仕事をする……

 

 

その無限ループを繰り返すうちに俺は最終的に「名前のない怪物」と呼ばれた。俺はいよいよ「人間」でも「殺し屋」という職業でもなく、ただの「怪物」になり果てたのだ。

 

 

そんな怪物の凶行を止めたのは一人の胡散臭い男だった・・・

 

 

「待っていたぞ、調停を乱すものよ」

 

 

「……誰だ、お前」

 

 

その日の仕事を終え、安宿に戻った俺を待っていたのは古びた木造で、壁や天井には所々に穴が開き、そこから隙間風が絶え間なく吹き抜ける宿泊部屋には似合わない、それはそれは大層豪華な宝石や貴金属などといった装飾品や貴族同士の宴で主賓が着ていそうな服を身にまとい、右手には金色に輝く天秤を持った男だった。

 

 

「私はこの世界の調停者。お前はそれを乱すもの。私はお前をこの世界から追放するために来た」

 

 

「……俺は神とか信じてねぇぞ。つーか調停者だから天秤持ってるって安直だな」

 

 

「お前がこれ以上殺めてはこの世界だけではない・・平行世界の調停が取れなくなってしまう」

 

 

「……この世界で人殺してるのは俺だけじゃねーだろ。文句があるならかかってこい」

 

 

そういって俺は殺気を針のように研ぎ澄ませ、目の前の胡散臭い男に向けた。しかし、男は身構えるでもなくそのままの姿勢で話をつづけた。

 

 

「愛を知らぬ哀しき男よ。せめてお前を包むことができる者がいる世界に送ってやろう」

 

 

「上等だよ・・何ならそいつが俺に名前を付けてくれるとなお有り難いね」

 

 

俺は皮肉と自虐の意を込めてそう口にした。すると男は「案ずるな」とだけ口にして天秤を揺らし始めた

 

 

「なにしてんだ・・・お前……」

 

 

天秤の揺れが大きくなるにつれ俺の意識は遠のいていった。

 

 

「お前の願いは聞き届けてやった。お前に名前を与える者をお前が支える限り、そのものはお前の唯一の味方になってくれるであろう」

 

 

その後はぱたりと意識が途絶え、視界は暗い闇が支配し、男の最後のセリフがその闇の世界に木霊した

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

???「くん」

 

 

誰だ・・

 

 

???「…くん!」

 

 

誰の声だ・・・

 

 

???「くんってば!!」

 

 

誰を呼んでる・・・

 

 

???「みず君ってば!!!」

 

 

俺は先程から響く声がだんだん大きくなっていくにつれ、途切れていた意識も取り戻していった。

 

 

「頭いてぇ……ってかさっきから誰だ・・誰が誰を呼んでやがる」

 

 

???「俺だよ・・俺が君を呼んでるんだよ。清水君!」

 

 

「お前は・・・誰だ?。ってか清水って誰だ??」

 

 

目を覚ました俺に飛び込んできたのは、学校のとある教室内の光景だった。そして先ほどから響いていた声は俺の目の前の席に座っているツンツン頭の男の声だった。

 

 

???「えっ!?俺の名前忘れたの…名簿君の前なのに……。というか今自分の名前すら誰って言ったよね!?」

 

 

「……わりぃ・・忘れた。でもさっきの文脈から察するに清水ってのが俺の名前なのか?」

 

 

???「そうだよ!それじゃあ改めて自己紹介するね。俺は沢田綱吉、通称ツナ。(以下ツナ)よろしく」

 

 

???「全テストの平均点17.5。跳び箱は三段まで。何をやってもダメダメのダメツナだ。」

 

 

綱吉と名乗る目の前のツンツン男は初対面の俺に、まるで友達のように話しかけ自己紹介をした。そして、それに続く形で俺の机からスーツ姿の赤ん坊が現れ、補足しなくていい情報を補足してきた。

 

 

ツナ「リボーン!またそんなところから現れて!!っていうか、俺の恥ずかしい情報暴露するのやめろ!!」

 

 

リボーン「うるせぇダメツナ。悔しかったらちったぁ成長しやがれ!!」

 

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は俺の頭に乗っかり、ツナの頭頂部にかかと落としを決めた。ツナの反応と足を振り下ろす際の勢いから見るに加減はほとんどないようだった。

 

 

清水「……とりあえず人の頭に勝手に乗るのはやめろ」

 

 

リボーン「わりぃ。ちょうどいい高さだったんでな」

 

 

清水「……で、今は何の時間だ?」

 

 

リボーン「ん?今はただの休み時間だぞ。清水が朝から寝っぱなしだったんで心配したツナが声をかけただけだ」

 

 

清水「そうか…そりゃ心配かけたな」

 

 

ツナ「イテテテテ……別になんともないならそれでいいんだけどね。朝からずっと倒れ伏したままだったから心配で…」

 

 

清水「別に何でもない……昨日ちょっと徹夜しただけだ」

 

 

リボーン「にしても清水…お前なかなか肝が据わった奴だな。俺が急に表れても驚きもしねぇとは」

 

 

清水「………別にそうでもねぇよ。寝起きで頭が動いてねぇのと、元来感情を表に出すのが苦手なだけだ」

 

 

リボーン「……」

 

 

リボーンは黙って俺の目を見つめてくる。俺は目前に立つ赤ん坊から目を逸らせなかった。

 

 

耐えきれなくなった俺は口を開き思い出したかのように話をつづけた。

 

 

清水「さっきツナが言ってたが、清水ってのが俺の名前なんだな?」

 

 

ツナ「うん、清水。清水健人ってのが清水君のフルネームだよ」

 

 

清水「・・・・・そうか・・・そりゃあ・・いいな」

 

 

清水(名前がある…俺だけの・・自分だけの名前が…ほかの誰でもない…俺の名前が‥‥

転生前はどれだけ欲しても手に入れられなかったものが・・この世界では最初からある。)

 

 

俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなるのを感じた。涙をこらえている顔を見られたくない俺は再び、顔を伏せた。

 

 

清水「ありがとうな…ツナ。・・・本当に・・ありがとう」

 

 

俺は涙声にならないように気を付けながらツナに礼を言った。

 

 

リボーンがコイツ本当にどうしちまったんだ?とツナにきく声が聞こえたが俺は気にせず心の中で伝えきれないツナに対する感謝の気持ちを言葉にしていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺はいつの間にかまた眠ってしまっていたのだろう。目を覚ますと先程までいたツナとリボーンの姿は消え、教室内に残っているのは俺一人だった。

 

 

清水「……帰るか。授業も終わったぽいしな」

 

 

時計と授業時間帯表を確認した俺は既に一日の授業時刻が終了していることを確認し、荷物をまとめて帰り支度を進めた。

 

 

清水「・・・でも、俺ってこの世界だとどこに帰ればいいんだ?」

 

 

帰り支度を進める中で肝心なことに気が付いた俺は鞄の中にあった財布の中身を確認した。

財布の中にはそれなりの金銭が入っていた。おそらく、転生前と同じように宿を転々としろと言う意味だろう。

 

 

清水「中学生が家無しって…大丈夫なのか?……まぁ、いいや。飯でも食ってから考えるか」

 

 

そう決意した俺は財布を鞄の中に入れ、適当に商店街をぶらつくことにした。幸いホテルはすぐに見つかり、チェックインも簡単に済ますことができた。服装は制服のままなのだが…まぁ、そこはあの天秤を持った男がうまいこと行くようにしたのだろう。

 

 

清水「さーてと・・何食うかなー」

 

 

ドンッ

 

 

不良A「おい、兄ちゃん。ちょっと待てや」

 

 

チェックインを済ませた俺は財布だけを鞄に入れ、商店街へ繰り出した。

その道中、反対側から歩いてきた不良の集団に肩がぶつかり、その不良たちに呼び止められた。

 

 

清水「あー・・悪い。ぶつかった。怪我ないよな?んじゃあ俺、急いでるから行くわ」

 

 

不良A「待てっつってんだろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん・・人にぶつかってスマンで済むわけないやろ!」

 

 

不良C「その制服…並中やな?風紀委員が強いからって調子乗ってんじゃねーぞ!!」

 

 

清水「へー・・俺の中学は並中って言うのか。そんで、風紀委員が強いのか……」

 

 

不良D「何一人でぶつくさ言うてんねん!!」

 

 

不良E「こっちはぶつかったこと謝れ言うてんねん!!」

 

 

清水「先程はぶつかってしまって申し訳ありませんでした。お怪我はありませんか?…見たところ特にないみたいなので安心しました。では、すみませんが自分は急ぎの用があるのでこれで失礼します。今後はお互いに気をつけましょうね」

 

 

不良A「丁寧な言い方に直しただけやろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん。あんま俺ら舐めてたら痛い目見るで?」

 

 

清水「……チッ」

 

 

不良C「おい、今舌打ちしたか?したよな!」

 

 

不良D「……もう我慢の限界や!謝っても遅いで!!」

 

 

不良たちは一斉に殴りかかってきた。前世の身体能力がどの程度落ちているのかを試すためにした挑発にまんまと乗っかってくれたのはありがたい。それに自分がいる学校の情報も知れたのは大きい

 

 

清水「さて・・実験開s・・・・なんだ・・これ」

 

 

俺が体を動かそうとした瞬間、俺は体が全身藍色の炎に包まれたような感覚にとらわれた。

だが、その炎のイメージは俺を攻撃するのではなく、むしろ俺自身から発生し俺を覆うかのようにして燃え盛っていた。

 

 

そしてその炎のイメージはやがて、俺の意のままに操れるようになった。

試しに俺はその炎のイメージを小鳥の形にして、向かってくる不良たちの上空数メートルを飛ばせてみた。

すると…

 

 

ボコォ!!

 

 

清水「グハッ!」

 

 

俺は殴りかかってきた一人の不良の拳をもろに受け、ふっ飛ばされた。殴った不良はこいつ全然大したことないなどと調子図いていたが、俺は飛ばされる最中確かに見た。

 

 

イメージの中で作り上げた小鳥と全く同じ形の鳥が不良たちの上空を飛んでいたことを

 

 

その後も俺はこの不思議な炎の実態を知るべく、炎を様々な形にへと変形させた。

 

 

小鳥、犬、猫、車、バイク、自転車、店の看板、通行人……

 

 

そのたびに不良に殴り飛ばされたが、俺がイメージで作り上げたものは全て現実に現れていた。

 

 

清水(通行人が出現できたということは…人を出現させることができるということ!)

 

 

清水「ハァ・・ハァ・・・・ハァ・・・」

 

 

俺は肩で息をしながらも、頭の中にある事実に限りなく近い推測に口角が上がるのを抑えきれなかった。

 

 

清水(次は最終確認……こいつらのうちだれかをこいつらの前に出してやる……)

 

 

不良A「おいおい、あれだけ大口叩いてこんなもんかよ。拍子抜けだな!」

 

 

清水(来い!)

 

 

俺は勢いよく殴り掛かってきた不良を、先程よりも強くイメージして作り上げた。すると……

 

 

不良B「お・・おい…なんだよ・・あれ」

 

 

不良A「あぁ?どうしたんだよ」

 

 

不良C「なんで‥お前が・・・二人いるんだよ」

 

 

不良A「何言ってんだお前ら・・そんなことあるわけねーだろ」

 

 

不良D「だ、だったら!あれはどう説明するんだよ!!」

 

 

不良A「だから・・なにを説明するんだってn‥‥…」

 

 

不良A?「‥‥‥‥」

 

 

不良が振り返った先には自分と全く同じ顔をした自分の姿だった。それはまるで鏡に映った自分が実体化して目の前に現れたようだった。

 

 

清水(やっぱりそうか!俺は幻術能力が使えるのか!!)

 

 

俺は自分の中で建てた推論が事実そのものだったことに、内心ガッツポーズをした。

そして、もう一度自分が作りだした幻覚を見つめなおした。幻覚の不良はじっとこちらを見つめて視線どころか指一本動かさず瞬きすらもしなかった。

それはまるで創造主である俺の命令を今か今かと待ち望んでいるかのようにも見えた。

 

 

不良A「て、てめぇ!?な、な、な・・なにやりやがった!!」

 

 

目の前に自分と瓜二つの存在が現れた不良は、顔面蒼白で体をぶるぶると震えさせながら俺につかみかかってきた。

 

 

清水「知らねーよ……。というかさっきまでさんざん殴ってたのに・・急に態度変わってるな……どうした?目の前に何かいるのか?」

 

 

俺は見えている幻覚をあえて見えていないかのように装った。すると不良の顔はさらに青白くなっていき、俺の胸倉から手を放し、自分の幻覚を震える体と瞳で再度見つめた。

 

 

清水(今ので『見えているのはお前たちだけ』という暗示をかけた。次は…出てこい…そのほかの不良たちよ)

 

 

俺が頭の中でそう念じると、それに応えるかのように次々と目の前にいる不良たちの幻覚が現れた。

 

 

不良たち「「「うわぁああああぁぁぁぁぁぁアアアぁぁぁぁぁぁあ!」」」

 

 

不良たちは一斉に悲鳴を上げ、おのが正気を疑った。誰しも目の前に自分とそっくりな人物が現れるとそうならざるを得ないだろう。

 

 

次々と現れた不良たちも、最初に出てきた不良と同様、俺をじっと見つめて動かなかった。

だが、それが逆に不良たちに底知れぬ恐怖を与えていた…

 

 

清水(幻覚たちよ・・目の前にいる自分と同じ顔をした人間を攻撃しろ)

その瞬間、幻覚たちは今まで一ミリも動かさなかった視線を自分のオリジナルにむけ、そしてオリジナルに向け走り出した。

 

 

不良たち「「来たぞォォォぉおおぉォぉおおおぉォォオオオ!!」」

 

 

すっかり錯乱し、標的を絞ることができなくなった不良たちは自分に近づくすべての物に対し攻撃し始めた。それは迫りくる幻覚だけではなく、一か所に集まろうとする本能に逆らえないオリジナルも例外ではなかった。

 

 

清水「これは…すごいな……」

 

 

俺はただその乱闘を見守っていた。幻覚は正確無比に自分のオリジナルを攻撃するのに対し、彼らオリジナルは自分以外の全てが敵だとでも思っているのだろうか…近づく人間すべてに攻撃をしていた。それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

清水(そうだ…できるかどうかわからないけど…やってみよう)

 

 

俺はふと頭に思い浮かんだことを再び念じ始めた。これがもしできるのならこの力はとてつもなく応用が利く。それと同時にとても恐ろしいものになる。

 

 

清水(幻覚たちよ…‥できるのなら自分のオリジナルと同じ声で喋るのです。喋る言葉はそうですね……『馬鹿野郎!俺は本物だ!!』など・・この状況でさらなる混乱を招くことができる類の言葉にしなさい。そしてもう一つ、これもできればでいいのですが実体を持つのです。)

 

 

その瞬間、来るな!近寄るな!触るな!という声しか発せられていなかった地獄絵図から『馬鹿野郎!幻覚はあいつだ!!』や『いい加減沈め!幻覚が!!』などの声が聞こえ始めた。さらに、幻覚たちの攻撃が実体化したからだろうか。静止のセリフしか吐かなかったオリジナルたちが混乱により、言語能力を失くし悲鳴しか上げなくなっていた。

 

 

その地獄絵図はその後オリジナル全員が気絶するまで続いた。

俺は不良たちの幻覚を消え去り、これ以上の騒動を起こさないため学校内のポスターで見かけた風紀委員の幻覚を発生させた。

 

 

幻覚の風紀委員を見た商店街の人々は皆、面倒事に巻き込まれるのを避けるかのように、散り散りに散っていった。ほかの中学の生徒が知っているほど有名なのだから有効だと思ったがこれ以上だとは思わなかった。どうやら、うちの風紀委員の影響力は想像以上らしい。

 

 

俺は幻覚の風紀委員に気絶した不良たちを人気のない場所へと運ばせた後、当初の目的通り飯を食べに商店街へと消えていった。

 

 

 

だが、この時。散り散りになっていく人ごみの中に不穏の陰が確かに忍び込んでいたことを俺はまだ知らなかった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

???「あれが……並中の風紀委員……。喧嘩ランキングでも上位に入る強さを持つ」

 

 

???「でも……俺たちが探している奴とは無関係」

 

 

???「とりあえず・・骸様に報告しないと。……シャワー浴びたい」

 

 

そう言って眼鏡をかけ、緑色の制服に身を包んだ男は商店街を抜け、道のはずれへと消えていった。

 

 

そして男の背後の壁には並盛中の制服を着た男が、全身を麻酔針のようなもので滅多刺しにされていた。

 

 

???「うぅぅ……逃げろ…………」バタッ

 

 

そう呟くと男は気を失ったのか道端に倒れた。そしてその男の胸ポケットからは、その男の生徒手帳が転げ落ちた。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は殺し屋だ。でも名前はない…

 

 

「……」

 

 

目の前には俺が今さっき殺した人間が臓物をぶちまけながら倒れている。その腹部からは赤黒い血がとめどなく溢れ出て、照明の光を受けて眩い光を反射する白いタイルの色を塗り替えていく。

 

 

一方の俺は目前にある汚らわしい人だったものとは正反対に、綺麗なままでこのままパーティー会場に赴いても恥ずかしくない清潔さだった。

 

 

「…依頼終了・・帰るか」

 

 

俺は醜い死体を一瞥した後、偽名と偽物の戸籍で宿泊している安宿へと歩みを進める。

俺はまだ成人を迎えていない。だが、自分の手で人を殺めることに何の後悔も躊躇いもない。

その理由は、やはり俺の出生だろう。

 

 

俺の生まれた世界には一つの常識があった。それは…

 

 

『殺した奴が正義、殺されたならそいつが悪』

 

 

というものだった。

 

 

こんな常識がまかり通る世界に住む人間はどいつもこいつも頭のおかしな連中だった。

 

 

毎日新しい死体の山が上がっては、その死体の山から一つの死体を取り出し「こいつを殺したのはこの俺だ!」と高らかに宣言する奴

 

 

それを聴いて羨望の眼差しでそいつを見つめる奴

 

 

宣言した奴を称賛し、賞状を進呈する役人

 

 

宣言した奴に嫉妬し、後日そいつを殺すやつ

 

 

ただ単に殺しを楽しんでいる奴

 

 

他にも色々とどうしようもない屑が集っていた。そしてそれは、俺の両親にも当てはまった。

 

 

俺の両親は「俺を殺すため」に俺を産んだ。生まれた子供がこの世界の常識を理解した瞬間、母親と父親が全力でその子供の息の根を止めに来る。理由はさっき並べた屑どもと同じだ。

 

 

その場合、その子どもが助かるには二つの方法しかない。

 

 

一つは、子どもを殺したという「実績」を得るために両親が争い相打ちになること。

だが、これは確率が低いうえに、相打ちになることは殺されるよりも馬鹿な事とされているこの世界では誰しもが避けることだった。

 

 

そして、もう一つは……子が親を殺すことだ。

この世界ではとどめを刺した者が称賛される。例え九割を第三者がやっていようと、残り一割を自分の手で行えばそれはそいつの手柄になる。

 

 

つまり、本能を頼りに両親を互いに消耗させて、最期のトドメを自分の手で刺せばいいのである。だがこれは一つ目の方法よりも可能性が低く、成功例がないと言ってもいいほどだ。

 

 

俺は運が良かったのか前者で切り抜けられたが、一難去ってまた一難というのだろうか。次の危機はすぐさま訪れた。屑どもの一人が俺を殺そうとしたのだ。「相打ちする親の子なんて死んだほうがマシ」という理由と共に…

 

 

俺は必死に逃げた、文字通り命懸けで。子供でも通れないような裏路地をたくさん通り何とかその屑から逃げ切った。その後の俺は生きるために文字通りなんでもした。

 

 

飢えをしのぐために道端に転がる人の死肉や臓物を喰らい、喉の渇きを潤すため血やドブ水、下水をたらふく飲んだ。当然、感染症や変な病気を何回も患ったが次第に体に抵抗ができたのか、しばらくするとそういった類のものを食べても何も異常をきたさないようになった。

 

 

餓死することを防いだ俺が次に覚えたのは、人を殺す方法だった。

幸い、見本は毎日そこら中で見ることができる。俺は町を駆けずり回り、いろんな奴のいろんな殺し方を見てきた。そしてスポンジが水を吸うように次々とその技術を自分の物にしていった。

 

 

そうして俺はいつしか、町でも有名な殺し屋になっていた。貴族や豪族、女子供はもちろん場合によれば依頼主まで誰でも殺す殺し屋だと。

 

 

確かに俺は過去に依頼主を何回か殺したことはあるが、それはどいつも依頼金を踏み倒すために俺を殺そうとした奴だ。所謂正当防衛ってやつなんだがな…噂に尾ひれがついて気が付いたらこのありさまだ。

 

 

そんな俺を当初、人々は「殺し屋」と呼んだ。俺はその呼び名が嫌いだ、それは職業の名前で会って俺個人の名前じゃないからな。まぁ、俺の名前を付ける前に両親が死んじまったから仕方ないんだが、やはり名前がないってのは腑に落ちないものだ

 

 

俺はそれ以降、「名前」を欲した。仕事の依頼者にも、標的にも必ず『あんた・・俺の名前を知ってるか?』と尋ねるようにもなった。無論、親でもない他人が俺の名前など知る由もなく、誰も彼もまともに相手をしなかった。

 

 

それが悔しくて哀しくなった俺はさらに仕事に没頭するようになった。

 

 

名前がない苦しみから逃れるために仕事をする、仕事をしているときはその苦しみから逃れられる、だが仕事お終えた途端苦しみが倍になって襲ってくる、それから逃れるために仕事をする……

 

 

その無限ループを繰り返すうちに俺は最終的に「名前のない怪物」と呼ばれた。俺はいよいよ「人間」でも「殺し屋」という職業でもなく、ただの「怪物」になり果てたのだ。

 

 

そんな怪物の凶行を止めたのは一人の胡散臭い男だった・・・

 

 

「待っていたぞ、調停を乱すものよ」

 

 

「……誰だ、お前」

 

 

その日の仕事を終え、安宿に戻った俺を待っていたのは古びた木造で、壁や天井には所々に穴が開き、そこから隙間風が絶え間なく吹き抜ける宿泊部屋には似合わない、それはそれは大層豪華な宝石や貴金属などといった装飾品や貴族同士の宴で主賓が着ていそうな服を身にまとい、右手には金色に輝く天秤を持った男だった。

 

 

「私はこの世界の調停者。お前はそれを乱すもの。私はお前をこの世界から追放するために来た」

 

 

「……俺は神とか信じてねぇぞ。つーか・・調停者だから天秤持ってるって安直だな」

 

 

「お前がこれ以上殺めてはこの世界だけではない・・平行世界の調停が取れなくなってしまう」

 

 

「……この世界で人殺してるのは俺だけじゃねーだろ。文句があるならかかってこい」

 

 

そういって俺は殺気を針のように研ぎ澄ませ、目の前の胡散臭い男に向けた。しかし、男は身構えるでもなくそのままの姿勢で話をつづけた。

 

 

「愛を知らぬ哀しき男よ。せめてお前を包むことができる者がいる世界に送ってやろう」

 

 

「上等だよ・・何ならそいつが俺に名前を付けてくれるとなお有り難いね」

 

 

俺は皮肉と自虐の意を込めてそう口にした。すると男は「案ずるな」とだけ口にして天秤を揺らし始めた

 

 

「なにしてんだ・・・お前……」

 

 

天秤の揺れが大きくなるにつれ俺の意識は遠のいていった。

 

 

「お前の願いは聞き届けてやった。お前に名前を与える者をお前が支える限り、そのものはお前の唯一の味方になってくれるであろう」

 

 

その後はぱたりと意識が途絶え、視界は暗い闇が支配し、男の最後のセリフがその闇の世界に木霊した

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

???「くん」

 

 

誰だ・・

 

 

???「…くん!」

 

 

誰の声だ・・・

 

 

???「くんってば!!」

 

 

誰を呼んでる・・・

 

 

???「みず君ってば!!!」

 

 

俺は先程から響く声がだんだん大きくなっていくにつれ、途切れていた意識も取り戻していった。

 

 

「頭いてぇ……ってかさっきから誰だ・・誰が誰を呼んでやがる」

 

 

???「俺だよ・・俺が君を呼んでるんだよ。清水君!」

 

 

「お前は・・・誰だ?。ってか清水って誰だ??」

 

 

目を覚ました俺に飛び込んできたのは、学校のとある教室内の光景だった。そして先ほどから響いていた声は俺の目の前の席に座っているツンツン頭の男の声だった。

 

 

???「えっ!?俺の名前忘れたの…名簿君の前なのに……。というか今自分の名前すら誰って言ったよね!?」

 

 

「……わりぃ・・忘れた。でもさっきの文脈から察するに清水ってのが俺の名前なのか?」

 

 

???「そうだよ!それじゃあ改めて自己紹介するね。俺は沢田綱吉、通称ツナ。(以下ツナ)よろしく」

 

 

???「全テストの平均点17.5。跳び箱は三段まで。何をやってもダメダメのダメツナだ。」

 

 

綱吉と名乗る目の前のツンツン男は初対面の俺に、まるで友達のように話しかけ自己紹介をした。そして、それに続く形で俺の机からスーツ姿の赤ん坊が現れ、補足しなくていい情報を補足してきた。

 

 

ツナ「リボーン!またそんなところから現れて!!っていうか、俺の恥ずかしい情報暴露するのやめろ!!」

 

 

リボーン「うるせぇダメツナ。悔しかったらちったぁ成長しやがれ!!」

 

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は俺の頭に乗っかり、ツナの頭頂部にかかと落としを決めた。ツナの反応と足を振り下ろす際の勢いから見るに加減はほとんどないようだった。

 

 

清水「……とりあえず人の頭に勝手に乗るのはやめろ」

 

 

リボーン「わりぃ。ちょうどいい高さだったんでな」

 

 

清水「……で、今は何の時間だ?」

 

 

リボーン「ん?今はただの休み時間だぞ。清水が朝から寝っぱなしだったんで心配したツナが声をかけただけだ」

 

 

清水「そうか…そりゃ心配かけたな」

 

 

ツナ「イテテテテ……別になんともないならそれでいいんだけどね。朝からずっと倒れ伏したままだったから心配で…」

 

 

清水「別に何でもない……昨日ちょっと徹夜しただけだ」

 

 

リボーン「にしても清水…お前なかなか肝が据わった奴だな。俺が急に表れても驚きもしねぇとは」

 

 

清水「………別にそうでもねぇよ。寝起きで頭が動いてねぇのと、元来感情を表に出すのが苦手なだけだ」

 

 

リボーン「……」

 

 

リボーンは黙って俺の目を見つめてくる。俺は目前に立つ赤ん坊から目を逸らせなかった。

 

 

耐えきれなくなった俺は口を開き思い出したかのように話をつづけた。

 

 

清水「さっきツナが言ってたが、清水ってのが俺の名前なんだな?」

 

 

ツナ「うん、清水。清水健人ってのが清水君のフルネームだよ」

 

 

清水「・・・・・そうか・・・そりゃあ・・いいな」

 

 

清水(名前がある…俺だけの・・自分だけの名前が…ほかの誰でもない…俺の名前が‥‥

転生前はどれだけ欲しても手に入れられなかったものが・・この世界では最初からある。)

 

 

俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなるのを感じた。涙をこらえている顔を見られたくない俺は再び、顔を伏せた。

 

 

清水「ありがとうな…ツナ。・・・本当に・・ありがとう」

 

 

俺は涙声にならないように気を付けながらツナに礼を言った。

 

 

リボーンがコイツ本当にどうしちまったんだ?とツナにきく声が聞こえたが俺は気にせず心の中で伝えきれないツナに対する感謝の気持ちを言葉にしていた。

[newpage]

俺はいつの間にかまた眠ってしまっていたのだろう。目を覚ますと先程までいたツナとリボーンの姿は消え、教室内に残っているのは俺一人だった。

 

 

清水「……帰るか。授業も終わったぽいしな」

 

 

時計と授業時間帯表を確認した俺は既に一日の授業時刻が終了していることを確認し、荷物をまとめて帰り支度を進めた。

 

 

清水「・・・でも、俺ってこの世界だとどこに帰ればいいんだ?」

 

 

帰り支度を進める中で肝心なことに気が付いた俺は鞄の中にあった財布の中身を確認した。

財布の中にはそれなりの金銭が入っていた。おそらく、転生前と同じように宿を転々としろと言う意味だろう。

 

 

清水「中学生が家無しって…大丈夫なのか?……まぁ、いいや。飯でも食ってから考えるか」

 

 

そう決意した俺は財布を鞄の中に入れ、適当に商店街をぶらつくことにした。幸いホテルはすぐに見つかり、チェックインも簡単に済ますことができた。服装は制服のままなのだが…まぁ、そこはあの天秤を持った男がうまいこと行くようにしたのだろう。

 

 

清水「さーてと・・何食うかなー」

 

 

ドンッ

 

 

不良A「おい、兄ちゃん。ちょっと待てや」

 

 

チェックインを済ませた俺は財布だけを鞄に入れ、商店街へ繰り出した。

その道中、反対側から歩いてきた不良の集団に肩がぶつかり、その不良たちに呼び止められた。

 

 

清水「あー・・悪い。ぶつかった。怪我ないよな?んじゃあ俺、急いでるから行くわ」

 

 

不良A「待てっつってんだろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん・・人にぶつかってスマンで済むわけないやろ!」

 

 

不良C「その制服…並中やな?風紀委員が強いからって調子乗ってんじゃねーぞ!!」

 

 

清水「へー・・俺の中学は並中って言うのか。そんで、風紀委員が強いのか……」

 

 

不良D「何一人でぶつくさ言うてんねん!!」

 

 

不良E「こっちはぶつかったこと謝れ言うてんねん!!」

 

 

清水「先程はぶつかってしまって申し訳ありませんでした。お怪我はありませんか?…見たところ特にないみたいなので安心しました。では、すみませんが自分は急ぎの用があるのでこれで失礼します。今後はお互いに気をつけましょうね」

 

 

不良A「丁寧な言い方に直しただけやろ!!」

 

 

不良B「おい、兄ちゃん。あんま俺ら舐めてたら痛い目見るで?」

 

 

清水「……チッ」

 

 

不良C「おい、今舌打ちしたか?したよな!」

 

 

不良D「……もう我慢の限界や!謝っても遅いで!!」

 

 

不良たちは一斉に殴りかかってきた。前世の身体能力がどの程度落ちているのかを試すためにした挑発にまんまと乗っかってくれたのはありがたい。それに自分がいる学校の情報も知れたのは大きい

 

 

清水「さて・・実験開s・・・・なんだ・・これ」

 

 

俺が体を動かそうとした瞬間、俺は体が全身藍色の炎に包まれたような感覚にとらわれた。

だが、その炎のイメージは俺を攻撃するのではなく、むしろ俺自身から発生し俺を覆うかのようにして燃え盛っていた。

 

 

そしてその炎のイメージはやがて、俺の意のままに操れるようになった。

試しに俺はその炎のイメージを小鳥の形にして、向かってくる不良たちの上空数メートルを飛ばせてみた。

すると…

 

 

ボコォ!!

 

 

清水「グハッ!」

 

 

俺は殴りかかってきた一人の不良の拳をもろに受け、ふっ飛ばされた。殴った不良はこいつ全然大したことないなどと調子図いていたが、俺は飛ばされる最中確かに見た。

 

 

イメージの中で作り上げた小鳥と全く同じ形の鳥が不良たちの上空を飛んでいたことを

 

 

その後も俺はこの不思議な炎の実態を知るべく、炎を様々な形にへと変形させた。

 

 

小鳥、犬、猫、車、バイク、自転車、店の看板、通行人……

 

 

そのたびに不良に殴り飛ばされたが、俺がイメージで作り上げたものは全て現実に現れていた。

 

 

清水(通行人が出現できたということは…人を出現させることができるということ!)

 

 

清水「ハァ・・ハァ・・・・ハァ・・・」

 

 

俺は肩で息をしながらも、頭の中にある事実に限りなく近い推測に口角が上がるのを抑えきれなかった。

 

 

清水(次は最終確認……こいつらのうちだれかをこいつらの前に出してやる……)

 

 

不良A「おいおい、あれだけ大口叩いてこんなもんかよ。拍子抜けだな!」

 

 

清水(来い!)

 

 

俺は勢いよく殴り掛かってきた不良を、先程よりも強くイメージして作り上げた。すると……

 

 

不良B「お・・おい…なんだよ・・あれ」

 

 

不良A「あぁ?どうしたんだよ」

 

 

不良C「なんで‥お前が・・・二人いるんだよ」

 

 

不良A「何言ってんだお前ら・・そんなことあるわけねーだろ」

 

 

不良D「だ、だったら!あれはどう説明するんだよ!!」

 

 

不良A「だから・・なにを説明するんだってn‥‥…」

 

 

不良A?「‥‥‥‥」

 

 

不良が振り返った先には自分と全く同じ顔をした自分の姿だった。それはまるで鏡に映った自分が実体化して目の前に現れたようだった。

 

 

清水(やっぱりそうか!俺は幻術能力が使えるのか!!)

 

 

俺は自分の中で建てた推論が事実そのものだったことに、内心ガッツポーズをした。

そして、もう一度自分が作りだした幻覚を見つめなおした。幻覚の不良はじっとこちらを見つめて視線どころか指一本動かさず瞬きすらもしなかった。

それはまるで創造主である俺の命令を今か今かと待ち望んでいるかのようにも見えた。

 

 

不良A「て、てめぇ!?な、な、な・・なにやりやがった!!」

 

 

目の前に自分と瓜二つの存在が現れた不良は、顔面蒼白で体をぶるぶると震えさせながら俺につかみかかってきた。

 

 

清水「知らねーよ……。というかさっきまでさんざん殴ってたのに・・急に態度変わってるな……どうした?目の前に何かいるのか?」

 

 

俺は見えている幻覚をあえて見えていないかのように装った。すると不良の顔はさらに青白くなっていき、俺の胸倉から手を放し、自分の幻覚を震える体と瞳で再度見つめた。

 

 

清水(今ので『見えているのはお前たちだけ』という暗示をかけた。次は…出てこい…そのほかの不良たちよ)

 

 

俺が頭の中でそう念じると、それに応えるかのように次々と目の前にいる不良たちの幻覚が現れた。

 

 

不良たち「「「うわぁああああぁぁぁぁぁぁアアアぁぁぁぁぁぁあ!」」」

 

 

不良たちは一斉に悲鳴を上げ、おのが正気を疑った。誰しも目の前に自分とそっくりな人物が現れるとそうならざるを得ないだろう。

 

 

次々と現れた不良たちも、最初に出てきた不良と同様、俺をじっと見つめて動かなかった。

だが、それが逆に不良たちに底知れぬ恐怖を与えていた…

 

 

清水(幻覚たちよ・・目の前にいる自分と同じ顔をした人間を攻撃しろ)

その瞬間、幻覚たちは今まで一ミリも動かさなかった視線を自分のオリジナルにむけ、そしてオリジナルに向け走り出した。

 

 

不良たち「「来たぞォォォぉおおぉォぉおおおぉォォオオオ!!」」

 

 

すっかり錯乱し、標的を絞ることができなくなった不良たちは自分に近づくすべての物に対し攻撃し始めた。それは迫りくる幻覚だけではなく、一か所に集まろうとする本能に逆らえないオリジナルも例外ではなかった。

 

 

清水「これは…すごいな……」

 

 

俺はただその乱闘を見守っていた。幻覚は正確無比に自分のオリジナルを攻撃するのに対し、彼らオリジナルは自分以外の全てが敵だとでも思っているのだろうか…近づく人間すべてに攻撃をしていた。それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

清水(そうだ…できるかどうかわからないけど…やってみよう)

 

 

俺はふと頭に思い浮かんだことを再び念じ始めた。これがもしできるのならこの力はとてつもなく応用が利く。それと同時にとても恐ろしいものになる。

 

 

清水(幻覚たちよ…‥できるのなら自分のオリジナルと同じ声で喋るのです。喋る言葉はそうですね……『馬鹿野郎!俺は本物だ!!』など・・この状況でさらなる混乱を招くことができる類の言葉にしなさい。そしてもう一つ、これもできればでいいのですが実体を持つのです。)

 

 

その瞬間、来るな!近寄るな!触るな!という声しか発せられていなかった地獄絵図から『馬鹿野郎!幻覚はあいつだ!!』や『いい加減沈め!幻覚が!!』などの声が聞こえ始めた。さらに、幻覚たちの攻撃が実体化したからだろうか。静止のセリフしか吐かなかったオリジナルたちが混乱により、言語能力を失くし悲鳴しか上げなくなっていた。

 

 

その地獄絵図はその後オリジナル全員が気絶するまで続いた。

俺は不良たちの幻覚を消え去り、これ以上の騒動を起こさないため学校内のポスターで見かけた風紀委員の幻覚を発生させた。

 

 

幻覚の風紀委員を見た商店街の人々は皆、面倒事に巻き込まれるのを避けるかのように、散り散りに散っていった。ほかの中学の生徒が知っているほど有名なのだから有効だと思ったがこれ以上だとは思わなかった。どうやら、うちの風紀委員の影響力は想像以上らしい。

 

 

俺は幻覚の風紀委員に気絶した不良たちを人気のない場所へと運ばせた後、当初の目的通り飯を食べに商店街へと消えていった。

 

 

 

だが、この時。散り散りになっていく人ごみの中に不穏の陰が確かに忍び込んでいたことを俺はまだ知らなかった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

???「あれが……並中の風紀委員……。喧嘩ランキングでも上位に入る強さを持つ」

 

 

???「でも……俺たちが探している奴とは無関係」

 

 

???「とりあえず・・骸様に報告しないと。……シャワー浴びたい」

 

 

そう言って眼鏡をかけ、緑色の制服に身を包んだ男は商店街を抜け、道のはずれへと消えていった。

 

 

そして男の背後の壁には並盛中の制服を着た男が、全身を麻酔針のようなもので滅多刺しにされていた。

 

 

???「うぅぅ……逃げろ…………」バタッ

 

 

そう呟くと男は気を失ったのか道端に倒れた。そしてその男の胸ポケットからは、その男の生徒手帳が転げ落ちた。そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     並盛中学校二年

 

     ―持田 剣介―




死肉を食っても血や下水を飲んでも無事になった彼を怪物と呼ばないなら何と呼べばいいんだろう…

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