Fate/Grand Order 魂の守護者 作:SKYbeen
今回の本郷猛は小説版準拠なので従来の1号とは行かない・・・かも?
真っ赤に燃え盛る小高い丘。業火に焼け包まれるその中心に男───本郷猛は居た。
焼け焦げたマスクを被り、黒い強化服は無惨に爛れ、胸の装甲は最早機能していない。立っていることすらやっとの彼は、朦朧とした意識の中天を仰ぎ見る。
強化細胞も、極小機械群も、肉体を駆動させる人工心臓も、何もかもが機能を失い、あとは死にゆくだけの改造人間。人としての生を捨て去り、化け物と成り果ててなお彼は人間の為に戦い続けた。ショッカーの魔の手から人々を守る為に。
幾年の年月を飽きることなく戦い抜き、彼の肉体は更なる昇華を重ねていった。しかしそれはショッカーとて同じ。改造人間本郷猛を上回る兵器を大量に創り上げ、幾度となく戦闘を仕掛けてくる。その度に彼は傷付き、ボロボロになり、そして次第に朽ちていく。その果てが今日、この瞬間だった。
(───ああ、これで)
終わり──そう、終わりだ。命が尽き、肉と骨が土へ還る人間の死。自身が決して迎えることのないであろう消滅。離れていく意思はそれを実感させ、本郷猛という人ならざる者を安堵させる。
もし人として死ねるなら。一つの生命として役目を果たせたのなら。
これ程の幸福は、ない。
『せめて、見たかったな。もう少し先の世の中を』
朧となり、徐々に遠のく記憶。細切れになる糸をたぐり寄せ、本郷猛は遠い日の言葉を思い出す。
自身と同じ、しかし不完全な欠陥品。改造人間としては出来損ないの男。ペルーで生まれ、日本で育った彼はハヤトと名乗った。
『未来は、きっといい世界になっているだろう。・・・・・・そうだよな』
そう言ってハヤトは音も無く死んだ。苦しむでもなく、静かに。本郷猛という一人の男に生き方を示し、彼は死んだのだ。
(すまないハヤト。どうやら俺は・・・・・・ここまでみたいだ)
天国に居る彼は自分を許してくれるだろうか。よくここまで戦った、もう楽になっていいのだ、と。もしそう言ってくれるなら一体どれ程救われるだろう。
たった一人悪魔の軍隊と殺し合い、終わることのない地獄に身を投じた。
誰かに救いの手を差し伸べても、自分に手を伸ばしてくれる者は居なかった。自分の存在を教えてくれた恩師も、戦地を共にした盟友も、今はもう居ない。
だからもう、これでいいのだ。
もう、終わってしまっても、誰も責めたりはしない。俺は十分に戦った。
(・・・・・・いや)
内へ内へと沈んでいく意識に一つの火が灯される。
誰も責めたりはしない──いや違う。責めるじゃないか。誰でもない、他ならぬ自分自身が。
何の為にハヤトは死んだ?
何の為にハヤトはその遺志を俺に託した?
人間を救う為だ。
絶望の淵に残され、希望の光もなく死んでいく。そんな人々の為に本郷猛は戦う道を選んだ。例えそこに微塵も救いがなかったとしても、ただ生きたいと願う魂を守ると。
───そうだ───俺は────。
「俺は・・・・・・ま・・・・・・だ・・・死ね・・・・・・な・・・・・・い」
口腔から漏れ出るのは壊れきったラジオの雑音じみた声。極小さく、虚空へと消えていくその声は、しかし確かに本郷猛の意識を覚醒へと導く。
頭は醒めたが視界はぼやけたまま。五キロ先すら鮮明に映し出す眼球はピントがボケたカメラのレンズのよう。
それでも今の状況は把握出来た。
碎かれたヘルメット、ひしゃげた四肢、抉れた胸部装甲、引き裂かれた強化服、鉄屑と成り果てた戦闘二輪駆動車〈サイクロン〉。
スーツの内側はありとあらゆる傷で埋め尽くされ、身体の主要な臓器も九割方機能を停止している。意識がいやにクリアなのは、首に備えてあるサブの人工心臓が血液を脳に循環させているからだろう。
俺は、まだ、死ねない。
本郷猛は希望となり続ける必要があった。
戦えば戦う程に救えなかった人々が脳裏を過ぎる。
重圧に負け、心折れそうになったことも少なくは無い。
だがそれでも、彼は希望となり続けようと生きてきた。
それが、本郷猛という男の生き方であるから。
「俺は───まだ・・・・・・───」
そうして彼は目を閉じ、二度と開くことはなかった。
改造人間、本郷猛。彼は今、間違いなく死を迎えた。
だがその身尽きてもその魂は死なず。
人々の希望となる彼の魂は、英霊の座へと至った。
そして、後に彼は再び人々の為に戦うこととなる。
たった一人の〈仮面ライダー〉として───。