Fate/Grand Order 魂の守護者   作:SKYbeen

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〈戦線〉

 

 

 

 

「そう言えば貴方、宝具はどういったものなのかしら?」

 

 

 束の間の休息を経て、本郷達は歩みを進める。道中敵に遭遇する事も多かったが、本郷が率先して倒してくれるお陰で全体的な被害、疲労も最小限に抑えられていた。

 そんな時、ふとオルガマリーが本郷に訊ねた。

 

 

「宝具・・・・・・英霊にまつわる伝説や武器が具現化したもの、だったか」

 

「そうよ。幾ら貴方が出来損ないとはいえサーヴァントとして現界してる以上は宝具があって当然。分からないとしても思い当たるものはある筈よ」

 

「ふむ」

 

 

 宝具として成り立つような逸話や伝説。残念ながらそんなものは無いが、当てはまる物が無い訳では無い。

 〈ショッカー〉と戦う際、本郷はスーツを身に纏う。現代技術を遥かに超越した、〈ショッカー〉の最先端科学が生み出した兵器群だ。それらが合わさり彼は初めて改造人間と戦える。

 恐らく宝具になるのならそれしかない。だが、どうやって自身の元へ呼び出すのかが判然としなかった。頭に靄が掛かったように不明瞭で、上手く形に出来ない。

 英霊としての記憶がない。最も大きな要因はその一点に尽きる。

 

 

「あることにはあるんだろうが・・・・・・如何せんどうすればいいのか」

 

「そう。まぁ、そんな事だろうと思ったわ。サーヴァントとしての記憶が無いのなら宝具の展開なんて無理難題でしょうしね。言うなれば今のキリエライトと同じかしら」

 

「彼女もか?」

 

「・・・・・・はい。お恥ずかしながら。私に力をくれた英霊の方は、真名も宝具も告げずに消滅してしまいました。今は応戦するだけでやっとです」

 

 

 彼等の事情は通信にて概ね理解していた。此度の異変を突き止め、取り除かねば世界は焼却される、と。

 ロマニ・アーキマンの説明は実に理知的で、明晰な頭脳を持つ本郷は大抵の魔術的概念を解読し、既に知識として吸収した。

 だからこそ、デミ・サーヴァントの特異性に違和感を抱く。ほんの少し、ただ一欠片の懐疑。人に人ならざる力を注ぎ込み、仮初の英雄と仕立て上げる。

 その行いは、〈ショッカー〉が本郷にしたものと同義ではないのか。

 

 無論、憶測の域を出ることは無い。本郷の考えはあくまで主観的、仮定に過ぎない。

 それより今問題なのはやはり本郷自身。サーヴァントとしての力量はさて置き、宝具及び付随する武装も使えねば意味が無い。改造人間であるが故の戦闘能力だけで、この先勃発する戦いに耐えられるのか。

 

 不安。不穏。一抹でしかないにしろ、負の感情に相違ない。先程の相手は実力が伴っていなかった故あの姿にならずとも対処は出来たが、果たして今後はどうだろう。

 

 

(全く、らしくない)

 

 

 頭を振り、浮かんだものを彼方へ追いやる。

 そも、本郷の場合勝敗の有無はさほど重要ではない。護るべき者が居るのなら是が非でも護り抜く。単純にそれだけの事なのだ。

 何の難しい事は無い。敵が刃を向け、血を啜らんとするのなら、全力で打ちのめすのみ。

 

 今も昔も、彼はそうしてきた。

 

 

「ところでさっきから気になっているんだが」

 

 

 特異点の原因を探るべく黙々と廃墟の街を進む一行。そんな中思い立ったように本郷が口を開く。

 

 

「ん? どうかしたの本郷さん」

 

「いや、あのサーヴァントを倒した時からずっと誰かが尾けて来ているんだが、どうにも気配がな」

 

 

 さらりと、本郷は爆弾を投下した。

 

 

「ちょっとアンタァッ! 何でそんな重要な事早く言わないのよ!?」

 

「そ、それは悪かった。ただその、相手に敵意が感じられなかったから放っておいても問題は無いと思ったんだが・・・・・・マズかったか?」

 

「マズいに決まってんでしょうが!! ここは特異点なのよ!? 何が起こってもおかしくは無い混沌そのもの、あらゆる事象に細心の注意を払わなくちゃいけないのに敵意が無いから放っておいたぁ? 巫山戯るのも大概にして頂戴!」

 

「・・・・・・すまない」

 

 

 烈火の如く猛り狂うオルガマリーに本郷は虎を幻視した。早々に説明しなかったのはこちらの落ち度だが、しかしここまで憤る事も・・・・・・。少しばかり面食らう本郷にロマニはすかさずフォローする。

 

 

『ま、まぁ落ち着いて所長。確かに気持ちは分かるけど、相手が攻撃しようと思えばいつでも出来たのにそれをしないって事は、Mr.本郷の言い分もあながち間違いでもないんじゃ無いかな?』

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

「おう、何だか揉めてるみたいじゃねぇかお前さん方」

 

 

 頭上より降り掛かる声。獰猛な獣じみたそれは聳え立つビルから響き渡った。

 直後に降り立つ影。淡い青の装束を身に纏い、不可思議な形状の杖を携えている。本郷は既に察知していたが、遅れてマシュも気配を感じ取った。

 

 この男もサーヴァントだと。

 

 

「ッ!? サーヴァント!? マシュ、迎撃を・・・・・・」

 

「いや、彼は敵じゃない」

 

「そこの(あん)ちゃんは話が分かるみてぇだな。俺はキャスターのサーヴァント。奴等と違ってマトモだから安心しな」

 

 

 フードを下ろすキャスターは笑った。野生を連想させる荒々しい空気を纏いながらも、彼は至極真っ当な思考回路の持ち主であるのが窺える。味方、と考えて問題は無いだろう。

 

 

「暫く様子見させて貰ったんだが、しかしよく俺の事が分かったな」

 

「誰かから見られる、というのには慣れてる。それにアンタの気配は独特だったからな」

 

「参ったね。兄ちゃんも相当な手練って訳か。ま、頼もしい限りで何よりだ。奴等をぶっ倒すまでの短い間だがよろしく頼むぜ」

 

「ああ。・・・・・・早速だがキャスター」

 

「おうよ。積もる話もあるだろうがそりゃ後だな」

 

「・・・・・・先輩、敵が来ます!」

 

 

 殺気立つキャスター。次いで本郷の感覚器官が集約する魔力の奔流を捉える。

 黒い瘴気が人を象り、二つの影が現れた。一人は華奢な体躯の仮面をつけた男。もう一人は夥しい武具を背負った大男だ。

 シャドウサーヴァント、アサシンとランサーである。

 

 

「余所者が三人・・・・・・加えてはぐれにキャスターときたか。油断はするなよランサー」

 

「無論。数は多ければ多い程よい。殺しがいがあるというもの」

 

 

 業、と薙刀を回転させ、旋風を巻き起こすランサー。開幕の合図とでも言うのか、数瞬とせずにアサシンは立香達の背後へ移動する。

 気配遮断。敵に自らの位置を悟られず、本命を獲る暗殺者のスキル。魔術的な要因を持つ技能は本郷ですら欺くものだった。

 

 

「させるか!」

 

 

 凶刃がマスターたる立香の喉笛に届く一瞬、神速が如き反応速度で本郷は右の蹴りを見舞う。必殺の一撃、耐久の低いアサシンが喰らえば即死は免れないそれを、しかし彼は紙一重で避ける。

 敏捷性に長けているのはアサシンとて同様。避けられない道理は無いが、彼は相当焦っていた。

 今の威力は何だ。はぐれとタカを括っていたが、先の反応速度といい蹴りといい、かなりの強さをこの男は誇る。

 

 

「くっ・・・・・・死角からの攻撃に気付き、あまつさえ反応するとは。油断するなと言っておきながら何たる不覚・・・・・・!」

 

「お前も速さには自信があるようだな。ここは一つ勝負と洒落こもうじゃないか?」

 

「ほざけはぐれ如きが! その首はねてくれる!」

 

「やってみろ」

 

 

 始まる攻防。飛び交う連撃。本郷とアサシンが死闘を繰り広げる中、マシュとキャスターはもう一方のランサーと対峙していた。

 

 

「ふん、アサシンの奴め。何という体たらく。自ら忠言しておきながらしてやられるとは」

 

「御託はそれ位にしておけランサー。お前だって俺を始末してぇんだろ?」

 

「くく、それもそうだ。貴様を屠れば彼奴(・・)も安堵するだろう。奇っ怪な力を持つそこな少女もな」

 

「・・・・・・ッ」

 

「では行くぞッ!」

 

「来るぞ嬢ちゃん! 構えな!」

 

「はいっ! 戦闘開始します!」

 

 

 右手に薙刀、左手に長剣。相当の膂力が無ければ満足に扱えぬ二つを軽々と振り上げ、まずマシュへと突撃する。

 すかさずキャスターはルーン文字を展開、炎の魔力を滾らせた火球をランサーへぶつける。が、長剣でそれを薙ぎ払い、マシュ目掛け武器を叩き付ける。

 しかしデミ・サーヴァントとなったマシュの宝具は盾。強固な防護を誇るそれにランサーの武器は弾かれた。

 

 

「ぐうぅっ!」

 

「ほう。お前の盾はいい性能をしているな」

 

「抜かせデカブツが! アンサズ!」

 

「ぬう・・・・・・!」

 

 

 盾で受け止めた事で硬直が発生し、僅かな隙にありったけのルーンを叩き込むキャスター。迫る火球を捌きながらも何発か被弾したランサーは素早くその場から後退、離脱する。

 

 

「面白い・・・・・・! 戦いとはこうでなくてはなぁ!」

 

「口の減らねぇ奴だ。とっとと決めるぜ嬢ちゃんよ!」

 

「っはい!」

 

 

 嵐と見紛う程の猛攻。キャスターとランサーの繰り広げる戦闘にマシュは喰らいつくだけで限界だった。

 だがキャスターばかりに任せる訳にはいかない。自身もサーヴァントになった以上、最低限の役目位は果たしてみせる。

 

 強い決意を瞳に宿し、マシュは再び駆け出した。

 

 

 

 

 マシュ達が激闘を展開する中、本郷は攻めあぐねていた。

 アサシンは実に厄介だ。一発一発はさしたる威力も無いが、的確に急所を突いてくる刺突は本郷でも命中すれば痛手を被る。死にはしないが、僅かでも戦闘に支障を来たす事は避けなければ。

 それに本郷自身の攻撃もまた当たらない。巧みに身を翻し、紙一重で躱していく。この拳さえめり込ませれば確実に倒せるのだが、当たらなければ意味を成さない。

 

 さてどうするか。アサシンの攻撃を避けながら本郷は冷静に思案する。

 アサシンが放つ攻撃自体はなんてことは無い、目を瞑ってでも避けられる単調そのもの。こちらの攻撃さえ当てられれば終わりなのだが、しかし彼には隙が無い。

 

 ならここは他人の知恵を拝借するとしよう。

 

 脚に力を集中させ、後方へ思い切り跳躍。本郷は飛蝗のように跳び、背後の立香の元へ立つ。

 

 

「藤丸くん、指示をくれ」

 

「え!? ちょ、いきなりそんな事言われても!」

 

 

 本郷は背後で戦いを見守る立香に指示を仰いだ。予想だにしない言葉に立香は困惑している。

 

 だがそんな事はお構い無しとばかりに本郷は続けた。

 

 

「今サーヴァントを従えるマスターは君だけだ。なら君が命令を下すのは当然だろう?」

 

「け、けど・・・・・・」

 

「不安なのは痛い程分かるさ。だが君なら出来ると俺は信じている。君はこんな地獄でも自分を見失っていない。それは君が強く、勇敢だという何よりの証だ」

 

「本郷さん・・・・・・」

 

「さぁ指示をくれ、マスター(・・・・)。一緒に奴を倒すぞ!」

 

「・・・・・・分かった!」

 

 

 立香は魔術的な才能も、マスターとしての力量もまるで足りていない。生まれたての赤子、下手をすればそれ以下だ。

 それでも彼はマスターなのだ。この特異点にてサーヴァントを従え己が武器として扱えるのは藤丸立香ただ一人。目の前で起こる死闘を呆然と眺めるだけの木偶の坊では無い。

 自分こそが誉れ高き英霊を統べる長。世界を修復し得る人類最後のマスターなのだと、本郷の言葉で強く自覚する。

 覚悟を決めた立香は本郷へ思い付いた作戦を伝えた。彼の聴力が並外れて優れているのは周知している。アサシンに気取られないよう、小声で内容を説明した。

 それを聞いた本郷は、作戦内容に面食らいながらも笑みを刻んだ。

 

 

「君も無茶をする男だな」

 

「それは本郷さんだって同じでしょ?

 だから・・・・・・勝ってくれ、〈ライダー〉!」

 

「! ・・・・・・了解だ」

 

 

 ライダー。恐らく立香はクラス名を言っただけだろう。だがその名は、本郷にとって特別なもの。意図せずに叫んだ言葉でも、本郷の闘志を更に燃え盛らせる。

 

 

「作戦会議は終了したか? どの道死ぬというのに無意味な事を」

 

「いや、そうでもない。お前を倒す算段がついた」

 

「ふん、ならば殺してみろ!」

 

 

 再開される攻防。目まぐるしく炸裂する業の数々をお互い卓越した戦闘技術で応戦する。

 その最中、アサシンは気付いた。本郷の動きに明らかな隙が生まれていることに。

 彼は今まで背後のマスターを護るように戦っていたが、疲労が重なったのか目に見えて彼等への注意が外れている。

 

 つまり、今のマスター達はがらんどうだ。自身のスピードなら充分に殺れる距離。

 アサシンは仮面の下でほくそ笑んだ。

 

 

 「馬鹿め、ガラ空きだ!」

 

 

 一瞬の隙を突き、一気に立香へ迫るアサシン。心臓を抉らんと刃を構えるが。立香の浮かべる顔を見て違和感を覚える。

 彼は、笑っていた。

 

 

 「そう来ると思ったよ、アサシン!」

 

 「!? 何っ────」

 

 

 勝ち誇ったような立香の言葉。その意味を解する間も無く、アサシンは横腹からの衝撃を受け盛大に吹っ飛んでいった。余程堪えたのか、宙を突き進みながら粒子となり霧散していく。

 

 

 「君の予想通りだったな、藤丸くん」

 

 

 アサシンを星屑にした張本人、本郷は感心したように言った。

 立香の作戦は実際単純だった。本郷がわざと隙を作り、背後への注意を疎かにしているよう見せかける。そうすればアサシンは真っ先に自分を殺しに来るだろう。その瞬間だけ、アサシンはまるで無防備になる。そこを叩けば必ず倒せる、と。

 大胆不敵な作戦だ。失敗すれば死ぬのは自分自身だというのに、彼は中々どうして肝が座っている。

 

 

「・・・・・・はぁぁぁーービビった! 本当に死ぬかと思ったよ」

 

 

 大きく息を吐くと、立香は腰が抜けたようにへたり込んだ。強い死の気配を直に受けたのだ、殺し合いなどという血腥い事柄に縁が無ければ失神したっておかしくは無い。

 それでも彼は耐えた。理屈云々は抜きに、彼はマスターとしての役目は全うしたのだ。

 本郷は手を差し出し、立香をぐいと立ち上がらせる。

 

 

「だが生きている。だろ?」

 

「ハハハ・・・・・・でも、ありがとう本郷さん」

 

「気にするな。俺は俺のやるべき事をしたまでさ。・・・・・・さて、彼等も終わったようだな」

 

 

 本郷が顔を向ける先にはランサーとの激闘を勝ったキャスターとマシュの姿が。両者共激しい戦いの痕が見て取れる。ランサーもまた、一筋縄では行かぬ相手だったのだろう。

 

 

「ッ、怪我してるじゃないキリエライト。治療するから患部を見せなさい」

 

「ありがとうございます所長・・・・・・いたっ」

 

「こんなになるまで無茶して。幾らデミ・サーヴァントって言っても貴方は経験が浅いんだから決して無理はしないこと。いいわね?」

 

「はい・・・・・・すみません」

 

「おう、そこの高飛車なアンタ。出来るなら俺も治して欲しいんだが?」

 

「貴方はキャスターなんだから自分でどうにかするのね」

 

「・・・・・・こいつァ手厳しいな」

 

 

 辛辣な態度を崩さないオルガマリー。傷付いたマシュを治癒しながら軽蔑の眼差しを向ける。

 本郷はまだしも、キャスターの事をどうにも信用出来なかった。

 純粋に効率を考えれば戦力が増えるのに越した事は無いが、なんというかこう、胡散臭さを感じるのだ。まともな事ははっきりと分かるが、女性としての本能という奴だろうか。

 

 若干微妙な空気が漂うが、それも一瞬。立香はマシュの元へ駆け寄り、働きを労った。

 

 

「お疲れ様、マシュ」

 

「ありがとうございます先輩。でもキャスターさんに助けられてばかりでした・・・・・・」

 

「そんな事はねぇぜ嬢ちゃん。お前さんだってよく頑張ったじゃねぇか。自信持てよ」

 

「ひゃっ」

 

「ちょ、何するんだキャスター!」

 

「ハハッ、役得役得」

 

 

 さり気なくマシュのお尻を撫で、あっけらかんと笑うキャスター。赤面する後輩を庇いながら、なんてスケベなサーヴァントなんだとキャスターを睨み付ける。オルガマリーも予想通りという様子で、ますます目付きは険しくなる。

 本郷はというと・・・・・・眉間に深いシワを寄せていた。

 

 

「キャスター・・・・・・今のは少しどうかと思うぞ」

 

「お? 意外と頭が固いんだなアンタ。減るもんでもないし、それに一回こっきりだ。気にすんな気にすんな」

 

「全く・・・・・・」

 

 

 本郷は苦笑する。一切悪びれる様子も無いが、彼の助力が無ければ勝ち抜けなかったのも事実。マシュ自身も見習う部分は多かっただろうし、何より彼は悪い人間ではない。豪胆かつ奔放な性格はやや考えものだが、それも彼を彼たらしめる要素なのだろう。

 

 戦いを終え、一息つく本郷達。これより始まる苛烈な戦闘の前に流れる穏やかな空気は、せめてもの幸福であった。

 

 

 

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