Fate/Grand Order 魂の守護者   作:SKYbeen

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アーチャーさんの性格がだいーぶマイルドになっております。キャラが分かんねぇよっ・・・・・・!
あとバーサーカーが弱体化の極みです。本当に申し訳ない。


〈記憶〉

 〈飛蝗(バッタ)男〉

 

 〈ショッカー〉によって生み出された改造人間であり、その完成系の一つである。

 飛蝗の遺伝子を強化細胞及び極小機械群に移植、それらを活性化させることにより改造人間〈飛蝗男〉へと変身する。強固な生体鎧に覆われた肉体は既存の兵器では損傷すら許さず、通常時よりも活性化する強化細胞は驚くべき運動能力を付与する。これまでの改造人間とは一線を画す性能は、正に〈ショッカー〉が行ってきた非人道的科学技術の賜物だろう。

 

 しかし、これが本郷の戦う姿ではない。寧ろ逆、忌避すべき呪われた姿。宝具を未だ会得していない本郷にとって、この形態は苦肉の策だった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 何十倍にも強化された聴覚が周囲の人間・・・・・・特に立香のバイタルを捉えていた。尋常でない心拍と動悸、乱れた呼吸、発汗。通常時に比べ明らかな異常をきたしている。

 仕方の無い事だ。彼等から見ればただの男が化け物に変貌したのだから。動揺するな、というのは無理難題だろう。凶悪なまでに伸びる棘を眺めつつ、本郷は思う。

 〈飛蝗男〉の姿になるのは三度目だ。以前は理性を消失し暴れ狂ったが、今回は違う。極小機械群の発熱に苛まれながらも、本郷の思考は冷静だった。

 

 

「本郷・・・・・・さん」

 

「・・・・・・」

 

 

 依然として立香のバイタル値は乱れ、〈飛蝗男〉となった本郷を見据える眼差しにも恐れの感情が見え隠れしていた。冬木で出逢ってから感じた事の無い明確な恐怖は、精神的にも未熟な彼には相当の負担になる。それはオルガマリーも例外ではなく、平常を装いながらも心拍数や呼吸は立香よりも数段荒れていた。

 だからこそ禁じ手なのだ。〈飛蝗男〉への変身は強化細胞に多大な負荷を掛けるだけでなく、周囲の人間にも大きな恐怖を与える。人間で無い証拠をまざまざと見せつけるのは本郷とて望ましい事ではない。

 

 だが、これで対等に戦えるのも───事実だ。

 

 

「アアアアアーーーーッッ!!!」

 

「■■■■■───!!!」

 

 

 〈飛蝗男〉とバーサーカー。荒れ狂う二つの災厄は天地を揺るがす咆哮を上げながら、眼前の怨敵を殺さんと突貫した。空を裂く巨斧を迎え撃つのは鋭い魔爪。鋼鉄すら紙のように引き裂く凶器はバーサーカーの一撃を受け止めた。

 変身を行う前ならば人工筋肉の強度を超過し、容易く両断されていたのは想像に難くない。しかし、〈飛蝗男〉は文字通りの全身兵器。堅牢な生体鎧で形成された爪はせめぎ合い、活性化した強化細胞は肉体の筋肉を遥かに増強させる。結果、屈指の怪力を誇るバーサーカーでさえ力に任せ捻り潰す事は不可能だった。

 

 

「■■■■■──!!」

 

「!」

 

 

 洒落臭いとばかりに四方八方へ斧を叩き付けるバーサーカー。地面に激突する度もうもうと土煙が立ち込め、次第に視界を塞いでいく。目眩しのつもりなのだろうが、本郷にとっては何の支障も無い。複眼による多重視界はどんな障害も見透かし、敵の一挙を先んじて読み取るのだ。

 

 脚部の肉が脈動し、膨れ上がったかと思った瞬間、〈飛蝗男〉は空に居た。直後、その背中から一対の羽根が伸びた。昆虫を想起させるそれを小刻みに振動させ、耳障りな羽音を放ちながら滞空する。

 多重視界の八割がバーサーカーを捉えた。そして・・・・・・滑空。高高度からの降下だ。爪を揃え硬質の剣とし、バーサーカー目掛けて一気に接近を試みる。

 

 

「■■■■■───!!!」

 

 

 当然、〈飛蝗男〉を跳ね除けんとバーサーカーは斧を振るう。だが、急速な降下速度に加え生体鎧の重い質量だ。それは正に流星、圧倒的な破壊力を秘めた一撃は文字通りの必殺。斧が先に弾き飛ばす前に、魔獣の切っ先は巨人の肉を喰い破った。

 鮮血が舞う。深々と抉られた傷から血が滴り、地面を紅く濡らしていった。

 これで終わりではない。終わりとは言わせない。バーサーカーはまだ生きている。傷を与えたとして、完全に倒さねば意味は無いのだ。

 

 

「オオオオッッ!!!」

 

 

 上半身から腰に掛けて走る傷。未だ止まらぬ血を掻き分け、〈飛蝗男〉は我武者羅に爪を突き立てる。何度も何度も、飽きる事なくひたすらに。本能に身を委ね、バーサーカーが倒れるまで腕を振るう事を止めなかった。

 

 

「・・・・・・なによ・・・・・・あんなの・・・・・・ただのバケモノじゃない・・・・・・!」

 

 

 本来、英霊同士が繰り広げる戦いには誉れがあった。互いが誇りを携え、己が死力を尽くす。だからこそ彼等は英霊足り得るのである。

 しかし、今この瞬間、オルガマリーの目前で行われるものは凄惨を極めていた。純粋なまでに敵を殺し、その命を奪わんと殺意を叩き込む。原始的な、それでいて生々しい行為は凡そ英霊たるサーヴァントのものとは思えなかった。

 

 それでも〈飛蝗男〉は───本郷猛は英霊なのだ。

 

 

「違いますよ、所長」

 

「藤丸・・・・・・?」

 

 

 強く言い放つ立香の心臓は未だかつてない程に鼓動し、息は荒く不規則だ。それでも彼の目は〈飛蝗男〉を捉えて離さなかった。惨たらしい光景がなお飛び込んできたとしても、決して。

 

 

「ああなる前、一瞬だけど凄く苦しそうな顔をしてた。きっとあの姿を見せたくなかったんだと思う」

 

「確かにそうかも知れないけど・・・・・・でもあれはどう見ても魔獣の類じゃない! あんなのここらに居る奴らと同じ・・・・・・いいえ、それ以上のバケモノよ!」

 

「ならなんで、本郷さんは戦ってるんですか?」

 

「え?」

 

「例えバケモノだからって本郷さんは戦う事を投げ出さなかった。俺達を護る為に、あんな姿になってまで」

 

「藤丸・・・・・・貴方」

 

「あの人はバケモノなんかじゃない。あの人は・・・・・・紛れも無く英霊なんだ」

 

 

 その身を人外のものとしてなお、本郷猛という男は戦う事を選択した。そこには他の生き方もまた存在した筈で、人として生きる事もまた、少なからず可能だったかも知れない。

 だが、彼はその道を選ぶ事は無かった。待っているのは果てなき苦痛と知っていながら、終わる事の無い地獄と分かっていながら、本郷猛は戦い続ける事を選んだのだ。

 何故なら、彼が護る者だからだ。力の価値を知っているからこそ、彼は人々を護ろうとした。正義の味方だとか世界の平和だとか、そんなつもりはない。ただ生きようとする魂を護る、それだけの為に本郷猛は戦うのだ。

 

 故に、立香は見守る。傍観する。本郷猛という男の生き様を見届ける。たった一人のマスターとしての義務がそれだった。

 

 

(・・・・・・私は)

 

 

 カルデア、ひいてはオルガマリーが成すべき最優先事項は人類史の存続。歴史に発生した異常を復元し、あるべき姿に戻す事が何よりの使命。それは他の誰でもないオルガマリーが周知している事だ。

 しかし、歴史の陰には人の生死が必ず関わっている。無論個人が変えられるものでは無いし、やむを得ない犠牲は付き物だ。それを理解した上でこの使命を遂行する必要がある。その考えは変わる事は無い。今の今までそう思い込んでいた。

 だが紡がれた立香の言葉は知らず知らずにオルガマリーに響く。眼前で戦う異形は、愚直なまでに一つの命を護る為に力を振るう。その姿は確かに・・・・・・まごう事無き英雄なのだ。

 

 

「・・・・・・勝ちなさい・・・・・・勝ちなさい本郷! 負けたら承知しないわよ!」

 

 

 オルガマリーは叫んだ。思いを込め、命を賭けて戦う英雄に。自分に勝利を約束しろとあらん限りの声を上げた。

 それに応えるが如く、〈飛蝗男〉は再度甲高い金属の雄叫びを放った。巨大な衝撃波となって襲い来る声は今やがっぽりと開いたバーサーカーの傷口に向け放たれる。

 音とは言い換えれば振動。通常なら放射状に拡散する音波も一つしかない入り口に集約されればその威力は何倍、何十倍にも増す。ましてやあらゆる方向へと伝達する衝撃波なのだ、仮にバーサーカーの耐久が高かったとしても内部へ広がるそれに耐え切るのは至難を極めた。

 

 それは断末魔と言えるものだろう。虚空に放たれた咆哮は力無く消えて行く。本来ヘラクレスは十二回殺害しなければ復活する厄介な宝具を持っていたのだが、此度の聖杯戦争は異常なもの。泥に呑まれた事で性質がマイナス面に変化してしまったのか、その宝具は発動する事なくバーサーカーは粒子となり霧散した。

 結果的に言えば〈飛蝗男〉───本郷の勝利と言える。だが、代償は決して軽いものでは無かった。

 

 

「本郷さん!」

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ぐ、う・・・・・・」

 

 

 激戦を戦い抜いた本郷はここで初めて膝を付いた。漏れ出る吐息からは明らかな疲労が読み取れる。〈飛蝗男〉への完全変身は元来する必要の無い姿であり、強化細胞と極小機械群に掛かる負担は想像を絶する。本郷でさえ、押し寄せる極度の疲れは隠せなかった。

 

 

「本郷さ・・・・・・って熱ッ!?」

 

「今は・・・・・・俺に・・・・・・近付か・・・ない・・・・・・方が・・・・・・いい・・・」

 

 

 駆け寄った立香は本郷から発せられる高熱に手を引っ込めた。極小機械群の発熱は本郷の肉体を蝕む程に熱を帯びる。強化細胞の効果的運用と肉体の再生を司るが為の弊害だ。仕方の無い副作用とはいえ、苛烈なまでの熱さは耐え難いものがある。

 壊れたスピーカーにも似ていたが、はっきりとした人間の声で離れるよう立香に言う。そして、〈飛蝗男〉は羽根を震わせた。背中より伸びる羽根は排熱器官の役割も果たすのだ。あくまで本来身に纏う装置の補助としてだが、現状身体中に篭る熱を体外へ排出するにはこれしか無い。羽ばたく羽根の周辺には熱気が立ち込め、陽炎が立ち上った。

 

 

「う、ぐ、うぅ・・・・・・」

 

 

 その様はビデオテープの逆再生のようだった。完全に人間からかけ離れた容姿は次第に元の輪郭に戻っていき、やがて本郷の姿へと復元した。顔には改造手術の名残である傷痕が浮かび、苦しそうな表情のままだったが。

 

 

「大丈夫ですか本郷さん」

 

「藤丸くん・・・・・・すまない」

 

 

 立香の肩を借りながら本郷は何とか立ち上がる。想像以上の疲労に本郷自身も驚きを隠せなかった。〈飛蝗男〉への完全変身がここまでエネルギーを消耗するものだったとは。改造人間として最高点に到達している現段階でも必要以上の変身は禁物と言えよう。

疲弊し、今にも倒れそうな本郷。意識を懸命に繋ぎ止めながら顔を上げる。すると、そこには神妙な面持ちのオルガマリーが立っていた。

 

 

「その、いいかしら本郷」

 

「・・・・・・あの姿については後にしてくれ」

 

「分かっています。今はアーチャーに専念しましょう。それと・・・・・・」

 

「?」

 

「えっと・・・・・・その・・・・・・よ、よく戦ってくれました。感謝するわ」

 

 

 よそよそしいが、オルガマリーは謝辞を送った。

 〈飛蝗男〉については、確かに大きな恐怖を抱いていた。恐らく今も本郷の事はただのお人好しな青年とは見れなくなるだろう。それを否定するつもりも全く無いが、自分達の為に命を張ってくれたのもまた事実。人理を守護する者として、そして一人の人間として彼女は感謝したのだった。

 

 

『所長が感謝だって!? 明日は天変地異、いや世界滅亡か!? いやいやもしかしたら宇宙崩壊かも・・・・・・』

 

「うるっさいわねロマニ!! 今までだんまりしてたクセに開口一番がそれ!? 他にもっと何かあるでしょうが!!」

 

『そんな事言われたってこっちもこっちで手一杯何ですよ!? それにMr.本郷の変貌ぶりが気になって色々調べてたんですから!』

 

「・・・・・・それは俺が説明する。だが今はアイツをどうにかしよう」

 

 

 戦闘が始まって以来沈黙を保っていたロマニはようやく口を開いた・・・・・・かと思えば残念極まりない内容で何とも気の抜ける空気が漂う。だがそれもあくまで一瞬、バーサーカーを倒してもまだアーチャーが居る。彼を打ち倒さない限りは異変の原因に辿り着くことは無い。

 だが、力を持つ者は本郷一人では無いのだ。

 

 

「やああっ!!」

 

「ブッ飛べオラァッ!!」

 

「・・・・・・ッ」

 

 

 本郷が〈飛蝗男〉となり戦っていた一方、マシュとキャスターも善戦していた。如何に優れた能力をアーチャーが持っていたとして二対一、前方で戦うマシュを援護するキャスターの連携は次第にアーチャーを追い詰めていた。

 しかし、防戦一方だったアーチャーは突如としてその動きを止めた。唐突な行動に困惑する二人。そして本郷は朦朧としながらも彼等の動向を見据えていた。

 

 

「・・・・・・分からんな」

 

「あァ? 急に何言ってやがるテメェ。降参か?」

 

「降参・・・・・・フン、ある意味ではそうかも知れんな」

 

 

 アーチャーは剣を捨てはしない。しかし殺気はなりを潜め、まるで隙だらけ。戦う意思など最早無いとでも言うのか、彼の鷹の目は闘志が宿っていなかった。

 一体どういう事か。突然戦闘態勢を解除したアーチャーの行動は余りにも不可解だった。これまで死闘を演じていたマシュ、キャスター両者も臨戦態勢を崩すことは無いが戸惑いを隠せない。だがそんな二人など眼中に無いのか、アーチャーは奥で佇む本郷へ問い掛けた。

 

 

「ホンゴウ、と言っていたな」

 

「・・・・・・ああ」

 

「先程の姿・・・・・・アレには流石に度肝を抜かれた。まさかサーヴァントが魔獣に変わるなどと誰が思うか」

 

「・・・・・・」

 

「私はあのままお前が暴れ狂うのかと思った。あれ程の魔力の乱れ、文字通りのバーサーカーに他ならない。だが、お前は彼等を護った」

 

「何が言いたい」

 

「分からんのだ、ホンゴウとやら。何故お前はあんな姿に堕ちてまで彼等を護ろうとする。彼等はお前をバケモノと罵った。差し伸べた手を払おうとした。自分の事しか考えないような、そんな連中だ。

 彼等だけじゃない。きっと生前でもお前に恐怖こそすれ、感謝する者など皆無だったろう。尤も憶測でしかないが・・・・・・しかし遠からずでもある筈だ。違うか?」

 

「・・・・・・」

 

「沈黙は肯定だな」

 

 

 かつて、アーチャーも人間の為に戦った。その力を善き者達の為に使おうと誓い、死力を尽くして。戦って戦って、しかしその果てに得たものは虚無と絶望。世界に裏切られ、人の本質に見切りを付けた彼は空虚に塗れ死んでいった。

 本郷の戦う姿はアーチャーにも理解出来たが、同時に理解出来なかったのだ。何も得るものは無く、返ってくるのは嫌悪と畏怖ばかり。そこに利は存在せず、無償の善意を強いる愚行だ。自分自身を苦しめるだけの行いを、本郷は人外のなっても止めようとはしない。だからこそ、アーチャーはその真意を確かめたかったのだ。

 

「果たして彼等はお前が命を賭してまで護らねばならない者達なのか? それが私には理解できない。だから教えてくれ。お前は、一体何の為に戦う」

 

 

 考えれば考える程抜け出せない思考のるつぼ。簡単に出る筈もない答えだ。

 しかし本郷にとって、それは実際、何ら難しい事では無かった。

 

 

「目の前で失う命を、見過ごせないだけだ」

 

「───なに」

 

 

 強く、本郷は言い切った。支えられていた立香からそっと離れ、強く大地を踏み締める。鋭い眼光がアーチャーを貫いた。

 

 

「価値なんて関係ない。誰であったとしても生きようと願うのなら、俺はその命を護る為に戦う。ただそれだけの事だ」

 

「・・・・・・そこに救いなど無いと知っていてもか」

 

「例え・・・・・・例えそうだとしても、俺は構わない。俺は人間を護る。人間の為に戦う。俺は、それだけでもいい」

 

 

 悲壮なまでの覚悟。同時に譲れない信念と揺るぎない決意がそこにはあった。

 終わりの無い地獄だというのはとうの昔に解っていた。この肉体が鉄クズになるまで、地獄の釜は燃え滾ったままなのだと。人々を護る為に拳をぶつけても、得られるのは血に塗れた怨念だけなのだと、本郷は理解せざるを得なかった。

 だが、だとしても。何も未来を変える事が出来なくとも見過ごせない今を救えるのなら、この力を使う。見返りなど無くていい。蔑まれても構わない。それでも失われる命を救えるのなら、喜んで地獄へ身を投じよう。本郷はそう誓ったのだ。

 

 

「・・・・・・それがお前の答えか」

 

「そうだ。これが、俺の覚悟だ」

 

「・・・・・」

 

 

 愚かな決意だ───そう切り捨てるのは容易い。容易い事だが、しかしアーチャーは敢えてしなかった。感化された訳では無い。そんな事は万に一つも有り得ないが、一つだけはっきりした答えがあった。

 本郷が何故、英霊として選ばれたのか。その答えは彼の言葉の中にある。垣間見える彼の想いはどの英霊よりも強く、雄々しく、そして孤独だ。だからこそ、本郷猛という男は英霊に至ったのだろう。

確かに考えるまでも無かった。本郷猛の在り方は至極単純で、純粋なのだと。得心のいったアーチャーは一つ鼻を鳴らし、そして背を向けた。

 

 

「行け。セイバーはこの奥だ」

 

「おい、どういう風の吹き回しだテメェ。急に態度変えやがって何を企んでやがる?」

 

「勘違いするな。私とて今回は不本意、望んだ戦いではない。さっさと終わらせたいのは山々だが・・・奴の手駒である以上、私もおいそれとは手出し出来ん」

 

「だから私達にセイバーを討伐させよう、そういう魂胆ですね」

 

「その通りだ」

 

 

 不満げにキャスターは唸るものの、その実理には適っている。キャスター、アーチャー共にセイバーの強大さは嫌という程実感しており、生半可な覚悟では挑んだ所で塵にされるだけだ。本郷は〈飛蝗男〉への変身で少ない魔力を大幅に消費し、マシュはまだサーヴァントとして十二分な力を発揮出来ていない。現状最も戦力として有能なのはキャスターのみだ。

 これ以上消耗すればただでさえ小さい希望の灯が完全に消え去ってしまう。避けられる戦闘ならそうするべきで、アーチャーの行動を正直に受け取るならこの上ないチャンスなのだ。

 

 

「・・・・・・良いわ。どういうつもりなのかは知らないけど、そこを通らせて貰います。ただ感謝はしません。もしその場から動けば貴方を全力で倒します。いいわね?」

 

「フン、好きにするがいい」

 

 

最終的に判断を下すのはオルガマリーだ。やはりアーチャーと戦わずして本丸へ突入出来るのはメリットが大きい。総合的に状況を鑑みて決断出来るのは人類史を司る者達の長である所以だろうか。ともかく前進あるのみだ。

サーヴァント達は警戒を崩さぬまま、一行は洞窟内へ侵入する。足取りはやや不安定なものの歩を進める本郷にアーチャーは語り掛けた。

 

 

「奴は強い。せいぜい殺されんよう足掻け」

 

「アーチャー、お前は───」

 

「余計な詮索をしている暇は無いぞ。彼等を護りたくば全力を尽くせ。それが、お前の存在する意味なんだろう」

 

「・・・・・・すまない」

 

 

 その真意は何処へ向かっているのか。本郷にそれを計る術は無い。そしてそんな寄り道をしている場合でも無かった。セイバー討伐、目下すべき事はそれに尽きる。道を示してくれたのなら応じるのが道理であり、彼の意思を汲み取る形にもなる。

 アーチャーが本郷達を見送る事は無い。最後まで背を向けたまま、彼はそこに佇んでいた。

 

 

「・・・・・・我ながら、らしくない事をしたものだ」

 

 

 浮かべた笑みは自嘲か、それとも別の何かだろうか。何処を見るでもなく彼は呟いた。

 不思議な男だった。その身体は鋼。そして心はそれ以上に固く強い。並の人間なら耐え切れない重荷を本郷猛は背負って生きている。きっと彼の過去は壮絶を極めたのだろう。一見好青年にも捉えられるような背姿だが、放たれるオーラは尋常ではない。想像をつかない苦難を乗り越えでもしなければあんな空気は纏えないものだ。

 それ故に希望を抱くのだろう。目に見えない欠片だとしても決して離さず、最後まで捨て去る事は無い。本郷猛という男の本質はそこにあるのだろう。

 

 

「死ぬなよ。でなければ意味が無いからな」

 

 

 誰に言うでもない。ただ漏れただけの言葉は虚空へと消えて行く。哀愁を漂わせながら、アーチャーは霊子となり去っていった。

 

 

「・・・・・・」

 

「? 本郷さん?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 本郷の耳は素っ気なくも何処か暖かみのあったアーチャーの言葉を聞き逃さなかった。冷徹な猛禽類を彷彿とさせた男だったが、案外人間くさい部分もあるらしい。薄く笑みを浮かべる本郷だが、ふとある変化に気付いた。他の誰もが気にも留めない、微細な変化を。

 

 

(・・・・・・風?)

 

 

 余りに弱く、そよ風にも満たない風が吹いていた。それは本郷にのみ感じられ、かつ腰元に集中しているようにも思えた。しかし刹那の現象である事に変わりはなく、それはすぐに収まった。

 なんて事は無い風だ。肌を撫でる程度でしかないが、それは本郷にとって大きな意味をもたらす。もしかすれば、あれを使う事が出来る可能性がある。それが意味する事とはつまり───。

 

 

(いよいよ・・・・・・か)

 

 

 来たるべき決戦。それが眼前まで迫っていた。

 

 

 

 

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