モンスターはそこらにいるけど《狩人》が見当たりません(修正中)   作:眠たい兎

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ドドブランゴの牙を拾って帰ったら幼馴染の姉さんを風呂に入れることになった話

 ブランゴ、それは雪山に住むモンスターだ。砂漠なんかにもいた記憶はあるが、ブランゴ自体はさほど脅威では無い。

 ただし、相手がドドブランゴとなると話は別だ。ギアノスとドスギアノスなんか比べ物にならない、何食ってそこまで大きくなったのか是非教えて欲しい。

 

 グォォォォォォ!

 

 その咆哮は同族ですら耳を塞ぎ、ブランゴとは比べ物にならないその剛腕から繰り出される一撃は飛龍にすら匹敵する。

 早い話が今の俺には即死攻撃だ。ドスギアノスも相手にするのを嫌がり群れを引き連れて撤退し、俺もどさくさに紛れて逃げる。

 

 ドッドッドッ

 

 チラリと背後を振り返るとそこに迫るは立派な体躯のブランゴ、理由は不明だが酷く興奮している。

 横っ飛びで人一人がぎりぎり通れるくらいの空洞へと逃げ込む。何とかして俺を攻撃しようと 手を伸ばすが、残念ながらその立派な身体は穴にはちと大き過ぎる。

 

「なんでこんなに怒ってるのか・・・・・・」

 

  同族に手をかけた覚えはなく、縄張りには侵入したがここまで荒ぶっているのは初めてだ。縄張り意識は強い種族の筈だが逃げる相手をここまで執拗に追い掛けることも無かった。

 ガリガリと山を削ってでも俺を追い詰めようとするドドブランゴから距離を取ろうと、奥へ奥へと逃げ込む。

 

「奴諦めてくれるかなぁ」

 

 交尾の時期でも無いはずなので本当に原因不明なのだが、ずっとこの袋小路の入口を削られるのは勘弁だ。

 

 ドゴッ

 

 轟音と共に怒り狂うドドブランゴが吹き飛ぶ、そして轟音の原因を見て納得した。

 

「なるほど、同種同士の縄張り争いだったか・・・・・・.」

 

  恐らくドスギアノスはこれを知っていたから一切粘らずに手を引いたのだろう、無理して縄張りを死守せずとも同種同士で潰し合ってくれると。

  相変わらずモンスター離れした悪知恵に呆れるが、その悪知恵の対象が俺でないなら構わない。寧ろ死体の一部でも持って帰れれば御の字だ。

 

 べキッゴキッ

 

 グシャッゴリッ

 

 おおよそ生き物から出ていい音とは思えない音が響き、叫び声や何かを投げつける音が聞こえる。背後ではブランゴ達が茶色いモノを投げつけあっている。

 

 ベチャッ

 

 ベチッ

 

「・・・・・・そう言えばドドブランゴって縄張りにはアレを埋めるんだった」

 

 つまりお互いのボスのそれを掘り返しては嫌がらせの為に敵陣営のブランゴに投げつけているのだろう。

 なんて下品なヤツらだ。

 

 グォォォォォォ!

 ガァァァァァァ!

 

 怪獣決戦ももう最終段階なのか、お互いが叫び声を上げど突き合う。血潮が舞い、お互いの毛皮が剥げようとも殴り合うその姿は河原で殴り合う高校生を連想させるが、周りはそれどころではない被害を被っている。

 地面には亀裂が入り、山壁は抉れ、ブランゴ達は茶色く染まっているのだ。人間目線では兎も角、ブランゴ達は真面目にやっているのだろう、多分。

 

 バキッ

 

 何かが折れる音がして、片方のドドブランゴが崩れ落ちる。当然ながら容赦なく首元に噛み付き、震える脚に鞭打って壁に叩き付ける。

 恐らくは息絶えたのを確認したのだろう、やや満足そうに死体を見下ろすドドブランゴは、その実力においてこの付近では頂点だろう。

 

「新参が勝ったか・・・・・・」

 

 怪獣決戦を制したのは新参の若いドドブランゴ、これで勝ったのが歳をとった老獪なドドブランゴなら話が違ったのだろうが、ここからの展開はもう決まっていた。

 ふらふらと定まらない足取りながら古い群れを睨み付けると、ボスを失ったブランゴ達は逃げて行く。勝者たるドドブランゴの背後に向かって。

 

 クォッ!クォッ!

 

 ドドブランゴの咆哮とは違った、どこか狡猾さを感じさせる鳴き声が響く。ドドブランゴとその群れは音のする方を向いて低く唸る、現れたのはあのドスギアノスだ。

 たった1匹で現れたドスギアノスに、ドドブランゴは鼻を鳴らす。傷付いても1匹のドスギアノスなら相手取れると思ったのだろう。先程死んだドドブランゴならこの場で撤退しただろうが、若い彼はあのドスギアノスを知らなかった。

 

「うん、今のうちだ」

 

 狭い通路をくぐり抜けると、死んだドドブランゴの折れた牙を抱えて走る。

 若いドドブランゴは一瞬こちらを見たが逃げる相手より対峙する敵の相手をするべきだと判断したのだろう、再び睨み付ける。

 

 クォッ!

 

  一際大きく鳴き声をあげると、幾つもの軽快な足音が駆け抜ける。何処に潜ませていたのかは不明だが、ドドブランゴを囲うように現れた100を超える数のギアノスは彼の群れだ。

  中には彼以外のドスギアノスも含まれており、元々は幾つもの群れだったものが纏まっているのだと分かる。

 

「・・・・・・ギアノスってこんなに脅威になるモンスターなんだな」

 

 この後の展開は確認していないが、まぁ結果は火を見るより明らかだろう。幾つもの山を縄張りに持つドスギアノスは人より遥かに頭が良く、個ではなく群において近隣最強だろう。

 村に牙を持って帰った所、鍛冶屋のおっちゃんがこれと氷結晶で武器を作ってくれるとの事なので今回はあのドスギアノスに感謝してもいいかもしれない。今度会ったら生肉でも置いていってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪獅子、ドドブランゴは山の神としても扱われるため、実物を知らずとも偶像化されたそれは子供でも知っている。

 その象徴たる牙を妹の幼馴染が持ち帰ったと言うので、村では大騒ぎだ。尤も神として扱われるとは言っても荒ぶる系の神様なので、いないに越したことは無い。

 

「で、リリ。幼馴染として仲が良いのは分かってるからさ、男女としてはどうなのよ」

 

 《狩人》を自称する、黒髪碧眼の青年は規格外である。御伽噺に登場する勇者様なんかが火を噴く龍を討ち取ったり、清らかな乙女が喧嘩をする龍を祈りで鎮めたりするものがあるが、彼を見ていると御伽噺も本当にあった話に思えてしまうから不思議だ。

 彼に歳の近い女の子は大体彼の強さに惹かれるし、ならばさぞ男の子には嫉まれるだろうと思いきや男の子も彼に憧れている。

 

「姉さん、これ以上何をすれば・・・・・・.」

「んー最終段階はドキドキノコだけど・・・・・・」

 

 姉として妹の恋は応援してやりたいのだが、もう少し若ければと思ってしまうので邪魔しない程度に揶揄うのは止められない。

 祖父なんかは立場上なんとか彼がこの村を出るようなことを回避しようと必死になり、鍛冶屋のおじ様は彼の影響でメキメキとその実力を上げていると聞く。

 

「ドキドキノコは危ないよ・・・・・・昏睡させてとかそういう・・・・・・?」

「いや、媚薬効果に期待」

「・・・・・・ドキドキノコ以外で何かないかな」

 

 何が起こるか分からないドキドキノコだが、私が聞いたことがあるのは腹痛、催眠、神経毒、滋養強壮、傷の治癒、気が付いたら家に居た、そして媚薬効果だ。

 既に20を越して立派な行き遅れな私だが、上手く引けたら彼のとこに嫁に行けないかなぁなんて思う。いや、流石に妹の次くらい、2号さんでいい。

 

「薬剤師のとこにでも行ってみたら?案外あるかもよ?」

 

 彼が採集をする様になってから素材は豊富なのだ、今までは余程で無いと使われなかった雪山草は風邪でも使われる様になり、薬草なんかも転んだ子供の治療にすら使われる。

 媚薬なんかもあるかも・・・・・・と言った話をすると、妹は勿論聞き耳を立てていたらしい子も薬剤師の元へと走っていく。

 

「元気ねぇ」

 

 若いっていいなぁなんて思いながらふらふらと歩いていると、件の少年が半裸で水を運んでいた。また湯浴みの為の水汲みだろうか。

 湯浴みも画期的な発想だと思う。準備は非常に大変そうだが、何より気持ち良い。その大変そうな準備も嫌な顔一つせずやってくれるのも、彼が人気な理由なのかもしれない。

 

「こんにちは、それは湯浴み用?」

「ん?あ、ミゥ姉さん。そうですよ」

 

 こちらを振り返る彼は汗なのか水なのかで濡れ鼠の様だが、その身体は記憶にあるものと比べてかなり引き締まっている。記憶にあるのはまだ彼が満足に走り回る事も出来なかった頃のものだから当然だが、男の子とはこういうものなのだろうか。

 

「やっぱり大変そうねぇ。手伝える事ある?」

「大丈夫ですよ。沸いたら入ってきますか?」

「いいの?」

「これだけの水を一人で使うのは勿体無いですからね」

 

 そう言えば彼が私を「姉ちゃん」から「姉さん」と呼ぶようになったのはいつからだろうか。少し寂しく感じるが、男の子が女性に敬語で話すのは大概相手を女として見ている事が多いのでそれもありかと思う。

 流石に手伝いもせずに湯浴みをさせて貰うのは忍びないので、彼の仕事量には微々たるものだが小さな器で水を汲んで運ぶのを手伝う。

 

「そう言えば山神様の牙を持ち帰ったんだって?」

「山神様・・・・・・あぁ、ドドブランゴですか。縄張り争いに遭遇しまして、多分本体の方はギアノスに食われたでしょうね」

  山神様はドドブランゴと言うらしい、多分彼が勝手に付けたのだろうが呼びやすくて妙なセンスを感じる。

「そのギアノスはドドブランゴより強いの?」

「いえ、ギアノスのボスなんですけど、そいつが無茶苦茶頭がいいんです。一対一で戦ったらドドブランゴの方が強いんですけど・・・・・・」

「なるほど、上手いこと罠に掛けたのね」

 

 そうして暫く彼の見てきたモンスターについて話したが、昔から何かを知ったり、考えたりするのが好きな私にとって彼の話は新鮮でとても好ましい。

 

「さて、そろそろいいかな。少し待っててください、沸かしますから」

 

 そう言うと彼は薪を組んで火を起こし、水を入れた大きな器を熱していく。鍛冶屋のおじ様と合同制作らしいこの装置だが、何処から知識を得れば考え付くのかさっぱりだ。

 湯気が立つと彼は塞き止めていた栓を抜き、暖かい湯を流し込む。

 

「はい、どうぞ。俺は見張りでもしときますね」

「んー?いや、別にいいよ。流石に女に飢えた獣の様な目で見られるのは困るけどさ」

 

 少し揶揄うつもりであったし、行き遅れな私は7つも下の子に裸を見られたくらいどうってことは無い。多分これが行き遅れの原因ではあるんだろうけど。

 それでも律儀に後ろを向いたくれた彼に、湯に浸かってから「いいよ」と声を掛ける。

 

「ミゥ姉さんも若い女性でしょうに・・・・・・」

「いや、嬉しいけどもう20過ぎの行き遅れよ・・・・・・?」

 

 今更だが15くらいがこの村での結婚適齢期であり、18までに大半が嫁に行く。20過ぎても嫁を取らない男はいれど、20過ぎて独身貫く女はそうそういない。他に見たことないし。

 

「まだ20でしょ?ミゥ姉さん時々見せるジジ臭い独り言以外は若々しいから余裕だと思うんだけど・・・・・・」

「へぇ・・・・・・ミコトは私みたいなのが嫁に来てもいいの?」

 

 ちょっとした意地悪のつもりだった。彼は別に悪くないが、私だって独身でいる事にはコンプレックスを抱えているのだ、少しくらい許して欲しい。

 

「え、割と歓迎ですよ?」

「え?」

 

 さも当然の様に歓迎されて目が点になる。お互い後ろを向いているが、私の顔はきっと赤いのだろう。

 これって妹に先んじて彼を狙っていいのかな・・・・・・

 

「ミコト!いる?」

 

 そんな事を考えていると外から妹の声が聞こえた。もしや本当に貰ってきてしまったのだろうか。

 

「リリ?どうしたんだ?」

「あぁ、良かった。ちょっとこれ・・・・・・を・・・・・・」

「あー・・・・・・」

 

  妹の顔が私の方を向いて固まり、私とミコトを交互に見て口をぱくぱくとする。

 

「姉さん!?なんでいるの!?」

「いやーさっき水汲みをしてるミコトを見つけてね。少しだけ手伝って・・・・・・」

「いや、ミコト・・・・・・まさか姉さんに手を出して無いよね?」

「何もしてないし見てすらないよ」

 

 その通りなので頷いておく。結局彼は妹によって追い出され、私は事の顛末を詳しく説明させられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幼馴染に自宅を追い出されてしまった。

 まぁ自分の姉が幼馴染とはいえ男の前で普通に風呂に入ってたら男を追い出すのは自然だが、もしかして俺って幼馴染の姉にいかがわしい事をしたとか思われる・・・・・・?

 

「いや、ねぇよな。うん」

「いや、何の話だよ」

 

 追い出された俺は鍛冶屋の工房へとお邪魔しており、丁度息抜きの途中だったらしいおっちゃんと一緒だ。

 

「で、ミコトよ。リリとはどうなんだ?」

「どうって?」

「そりゃ、前同じベッドで一晩を共にしたんだろ?」

「まぁそうだな?」

「抱いたか?」

「抱きしめて寝たな」

 

 おっちゃんが頭を抱えて蹲った。何故か勝った気分と負けた気分が同時に押し寄せてきた。

 

「お前さ・・・・・・男だろ?男見せようぜ?」

「男だよ、どっからどう見ても男だろうが」

 

 おっちゃんは頬を叩くと工房の奥へと走っていき、新しく作ったという氷結晶とドドブランゴの牙がメインの一振を持ってくる。

 

「おら、取り敢えず形にはなってるだろ?次はなんか土産を持ってこいよ、ガキか嫁でもいいぞ」

「おう、期待しといてくれ。それじゃちょっと振ってくる」

 

 半年ぶりの新しい装備だ、心が躍る。早く狩りに行きたい気持ちと、ちゃんとチェックは済ませろという理性が火花を散らして睨み合う。

 

「取り敢えずガウシカくらいからかな」

 

 足取り軽く自宅に戻り、何故か風呂に姉妹で入っていた幼馴染に試作品の桶を投げ付けられたのは俺が悪いのだろうか?




ドドブランゴのマーキングってアレなんですよね...

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