1.死んだら異世界の魔王に召喚され、スライムにされる。
2.魔王に勇者を倒して来いと無茶ぶりをされる。
3.無理なので逃亡しスライム娘として森の奥でのんびりと暮らす。
4.森の奥で少年と出会う。
5. 世界を巻き込む大事に…
スライム娘と少年が織りなす、とても酷い奇跡の物語。


注意点
小説家になろう、pixivとのマルチ投稿です。
本来の姿である全話を一つにまとめたバージョンになります。
5万時超が一括して読み込まれるため、通信費が気になる方はその点ご注意ください。
なお、タグにあるように人を選ぶ内容が多分に含まれているため、その点もあらかじめご了承ください。

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1.死んだら異世界の魔王に召喚され、スライムにされる。
2.魔王に勇者を倒して来いと無茶ぶりをされる。
3.無理なので逃亡しスライム娘として森の奥でのんびりと暮らす。
4.森の奥で少年と出会う。
5. 世界を巻き込む大事に…
スライム娘と少年が織りなす、とても酷い奇跡の物語。



私と勇者の奇跡な軌跡

悪いことをした人にはバチが当たります。

そして私は、悪いことをしました。

しましたけど、あの程度のことでこれは無いんじゃないかな。

自転車を暴走させるという悪いことをした結果、異世界にスライムとして転生させられ、滅びる魔族を救うために勇者を倒せとか無茶ぶりもいいところです。

 

理由は覚えていませんけど、とにかく急いでいて、その結果自転車がカーブを曲がり切れず、電信柱に当たって死んじゃいました。

自分でも驚くぐらい間抜けな死に方です。

そんな間抜けな私ですが、世の中には蓼食う虫も好き好きというか、私に価値を見出した人?がいます。

それが目の前でふんぞり返っている、太ったカバのような見た目の人、魔王です。

 

魔王曰く、この世界は竜神という神様が天地を創造した後、人間と魔族を生み出し、それぞれに土地を分け与えることによって始まったそうです。

この二つの種族は反目しあっていましたが力が拮抗していたため、小競り合いは起きるものの大きな争いにはならず、世の中はそれなりに平和だったそうです。

たぶん、抑止力とかいう奴が利いていた状況だったのだと思います。

ところが、人間のとある娘にムラムラした竜神がその娘との間に子供を作ってしまったことで、パワーバランスが人間側に傾き平和が終わってしまったそうです。

しかも最悪なことに、竜神はその後世界を放置してしまったというのです。

学者によると奥様に子供の存在がバレて逃げ出したとか。

竜神って最悪ですね。

竜神の浮気はとにかく、これ以後竜神の血を引く子孫達の中から、竜神の血が強く発現した存在が生まれるようになりました。

人間達はそういった存在に英才教育を施し竜神の血を覚醒させると、勇者として次々に戦場に投入してきたそうです。

こうして生まれた勇者によって、魔族は土地と命を奪われていくことになります。

そして今や、魔族の命運は風前の灯なのだそうです。

そこで魔王は、起死回生の策に打って出ることにします。

異世界の魂を呼び寄せるという大魔法を使い、勇者を倒せる者を召喚することにしたのです。

その大魔法は見事成功し、魔王が用意したスライムという新しい体に、私の魂が召喚されたという訳です。

 

どう考えても馬鹿です。

この魔王。

 

勇者倒すためにただの一般人の魂を脆弱なスライムの体に召喚するとか、いったい何を考えているのですか!

異世界の魂=強いという魔王の主張には何の根拠もありませんし、そもそも召喚というアイデア自体、異世界から流れ着いたという文献(明らかに異世界召喚もののライトノベル)を参考にしていたり…

これまた異世界の文献(すごく古いゲームの攻略本)を参考に実はスライムは育てればレベル99になって最強だからと私にスライムの体を与えたり…

「勇者を倒せなかったら、俺様激おこでお前をぶっ殺してしまいそうだぞガハハハ」と私を脅す?だけ脅す一方で、最近の勇者に関する情報については何も調べていないとか、突っ込みどころが多すぎます。

 

竜神の血筋が発現した勇者がどうとかが原因じゃなくて、魔王が馬鹿で魔族は風前の灯なんじゃないかと真剣に思います。

魔王の横にいる中間管理職っぽい見た目の人が、頭の痛そうな顔をしつつ、こちらに向けて申し訳なさそうな顔をするという、とても器用なことをずっとしているので、あながち間違っていないはずです。

 

とにかく、こんな酷い状況で勇者討伐に出発したら、魔族が滅ぶ前に私自身が死んでしまいます。

だからといって、この場で断ったら目の前の馬鹿魔王に殺されゲームオーバーです。

なので私は…

「魔王様、それでは勇者討伐に行ってまいります」

「おう、せいぜい俺様を楽させてくれガハハハ」

と素直に出発することにしました。

魔王と勇者から逃亡するために!

 

誰が素直に勇者と戦うもんですか、私はこのままどこかに隠れて平穏に暮らすんです!

 

 

こうして、魔王との謁見を無事やり過ごし、魔王城から脱出することができた私は、意気揚々と魔王城の入り口となっている禍々しいデザインの門を潜り、その先に広がる石造りの都市へと足を踏み入れたのですが…

「ちょっとお待ちを、お待ちを!待ってください!」

背後から突然呼び止められました。

逃亡することを魔王に感づかれたのかと思いましたが、呼び止めてきた人は魔王の横で申し訳なさそうな顔をしていた人でした。

改めて自己紹介をすると、この方は大魔導士イッツ・ウモーチさんという方で、なんと魔族でナンバー2の方でした。

人は見かけによらないとはよく言ったものです。

きっと、馬鹿な魔王の面倒を見ているせいで毎日苦労ばかりして、こんな中間管理職のようなくたびれた見た目になってしまったのだと思います。

それはとにかく、一体何の話をしに来たのかと聞いてみたら、いきなり頭を下げて私への謝罪を始めました。

その謝罪の内容は、端的にまとめると次のようなものでした。

 

魔王が文献を参考にして、旅立つ私のために用意した品があるが、それは棒切れと1000ギィン(お金のこと)だけで、しかも渡し忘れている。

本当に魔王がアレで申し訳ない。

 

本来こういうことにならない様に私達(イッツさん達)がフォローすべきだが、私達も含め魔王以外は誰も成功しないと思っていた召喚魔法だったので、召喚に成功した時にどうするか考えていなかった。

なので、私のポケットマネーから100万ギィンを用意したのでこれで我慢してほしい。

 

異世界から召喚されたとはいえ、ごく普通のスライムとして召喚されたので、見たところ何か特別な力は一切感じられない。

ただし、スライム特有の能力が使えるようになったり、魂が体に引っ張られて、スライムらしいお気楽でおバカな性格に変わってしまっているかもしれない。

 

何か特別な力は感じないと言ったが、どうして言葉が通じるのかはよく分からない。

スライムの体のせいなのか、それとも偶然魔族の言葉と異世界の言葉が同じなのか、とにかくこれに関してはよくわからない。

 

魔王はバカだか戦闘力がとても高く、気に入らないことがあったら相手が誰だろうと殺してしまう危ないバカなので、申し訳ないが匿ってあげることはできない。

私にも妻と娘と家のローンと(ry

 

勇者は魔王より危ない存在で、スライムでは逆立ちしても勝てる相手ではない。

しかも3人いる。

だから生き残るためには、勇者を倒しに行くふりをして行方をくらまし、先ほどの100万ギィンを使い切る前に魔界のどこかで仕事を見つけて、普通のスライムとして暮らしていってほしい。

そうすれば、魔王はバカだから、そのうち召喚したことを忘れるだろう。

 

勝手に召喚したうえ、こんな滅茶苦茶なことになってしまい本当に申し訳ない。

 

 

イッツさんは、何度も何度も頭を下げていました。

人によれば怒ってもおかしくなかったのかもしれませんが、謝り続けるイッツさんを見ているとなんだか可哀そうになってきましたし、よくよく考えれば死んだのに新しい命を貰えたなんてとてもラッキーです。

住み心地の方も、魔界という名前とは裏腹に、見る限り自然豊かな綺麗な土地が広がっているようなのでとても良さそうです。

それに…

 

「まあ、何とかなるでしょ」

 

多分何とかなると根拠のない自信があった私は「心配無用です、心配してくれてありがとうございます」とイッツさんに礼を言うと、謝り足らなかったのか、私を再度呼び止めるイッツさんの声を振り切って、走り出したのでした。

 

因みに、イッツさんから周辺の地理とか、おすすめの働き場所とか教えてもらえばよかったとか、最後に呼び止めていたのはそれを伝えようとしていたのではと気が付いたのは、魔王城がある魔都を飛び出した後でした。

 

私のおバカー!!

 

ーーーーー

 

奥深い森の中にひっそりと佇む、築うん十年の廃屋。

それがなんということでしょう、まるで新築のような美しさを取り戻したではありませんか。

そして、そこに住むのは、この世のものとは思えないほどの美しさを持ったスライム…

 

恥ずかしいからやめましょう。

魔王から逃亡した私は、各地を回りまわった果てに森の中に廃屋を見つけて住み着くことができました。

 

ここに至るまで、本当に大変でした。

まずお金ですが、100万ギィン全て無くなってしまいました。

大事なことなので二回言います。

 

全て無くなって一文無しです。

 

魔都から旅立った後、とある地方都市にたどり着いた私は「景気づけじゃー」と、夕食後にお酒飲んだところ、たった一杯で泥酔しました。

よく覚えていませんが、まともに動くこともできず、地面を這いずるようにして宿に戻ったようです。

そして翌日の夕方に目が覚めたら、お金を入れた袋が破れていました。

中身もすっからかんでした。

原因は私の体から出される溶解液と、地面を這いずり回ったことです。

スライムとして未熟なうえに、酔っぱらった私は溶解液を出してしまい、袋をクラッシュ。

あとは地面を這いずり回る過程で、中身を全て路上にバラまいてしまいました。

そして夕方になって事態に気が付いた時には、お金は綺麗に拾われてしまった後でした。

「これはもう駄目ですね。ご愁傷さまです」

日本での警察兼自衛隊に当たる騎士団の所に行ったものの、落し物がしっかりと届けられる日本とは違いまったくダメでした。

ショックで倒れそうになりましたが、田舎の町や村で働きながら隠れ住むことは予定の内だと考えなおし、早速行動を開始しました。

いつまでも塞ぎこんでいる場合じゃないですからね。

「頑張って仕事を探すぞ!おー!」

「そこのスライムの君、今仕事探していると言ったよね?俺達は魔王軍っていう死んでも昇進と保証金が出る素晴らしい職場で働いているんだ。一緒に働こう。じゃなくて働け、俺達の徴兵ノルマの足しになれ!」

しかし魔王軍が強引に徴兵をしているらしく、何度か危うく連れて行かれそうになりました。

そのため、今度は森に隠れ住んだのですが、別の問題にぶつかってしまいました。

森にはどこもかしこも凶暴な魔獣のナワバリになっていたのです。

魔獣とは魔族とは違い所謂モンスターで、話しが通じない猛獣です。

当初は「所詮は言葉を解さない獣、現代知識というチートがある私には楽勝!」などと言いながら魔獣に戦いを挑んだのですが…

 

私の攻撃!

魔獣Aはひらりと攻撃をかわした!

魔獣Aの攻撃!

私に8のダメージ!

私は文明の利器(松明)を使った!

「これで勝つる!」

魔獣Aはひらりと攻撃をかわした!

「ワオーン」

魔獣Aは仲間を呼んだ!

魔獣Bが現れた!魔獣Cが現れた!魔獣Dが現れた!……………魔獣Yが現れた!魔獣Zが現れた!

「なんでもしますから許してください」

私の命乞い!

しかし魔獣には言葉が通じなかった!

 

リアルお前それサバンナでも同じこと言えんの?状態で、自然界の恐ろしさというものを嫌という程味わいました。

よく死ななかったと自分でも思います。

その後も、そんな奴らとのナワバリ争いに勝てるわけがなく、森を転々とすること数ヶ月、今からちょうど1年前に森の中で廃屋を見つけ、やっと雨風凌げる場所に住み着くことができました。

廃屋があったことから、近くに誰かが住んでいるのではと心配したのですが、幸いなことにこの森には他に誰も住んでいなかったうえ、何故か弱い魔獣しか生息していないらしく無事平穏に暮らせています。

1年前はまさに廃屋といった状態でしたが、前世のテレビ番組の知識とスライムの体を使って、廃屋の劇的リフォームに成功したので、今は快適です。

 

すみません嘘です。

廃屋なのですが、随分と状態が良くて掃除したら十分そのまま住めるぐらいしっかりしていました。

スライムの体は埃を吸収分解したり少しだけ溶解液を出して汚れを取るといった芸当もできるので、水回りとか汚い場所以外は体も使って掃除したらあっという間にピッカピカです。

 

それと余談なのですが、掃除中に隠し扉が床にあるのを見つけました。

鍵がかかっていましたが、スライムの体をフル活用して鍵穴に体を滑り込ませる芸当を発明し、強引に解錠したところ、その先には地下室があり、武器や防具、魔法で鮮度が保たれていると思われる保存食と調味料がありました。

保存食美味しかったです。

 

「今日もいい天気!」

こうして住めるようになった家に、私は人間の姿で生活しています。

廃屋の掃除のため、触手状に体を伸ばしてハタキのように埃を取っていた時に気が付いたのです。

触手が作れるなら人間の姿になれるのではないかと。

 

おかげで、私は人間の姿を取り戻しました。

青いプルプルとした半透明のゼリー状ではありますが、優しく明るそうな女子高生ぐらいの顔をしつつも、ムチムチとした長い脚と、メロンのような巨乳を持った女らしいメリハリの効いた体は生前を正確に再現しています。

 

 

ごめんなさい、また嘘です。

実は自分が電信柱に突っ込んで死んだことや、日本で生まれ育った日本人ということは覚えているのですが、自分に関することやその周辺のことはさっぱり覚えていません。

容姿どころか名前や性別も覚えていませんし、家族構成や年齢、急いで自転車を走らせていたそもそもの理由も分かりません。

なんとなくですが疲れていたような気がしますし、女子高生ぐらいの顔に、こんな大きなおっぱいを作ってしまうあたりエロおやじだったのではとも思いますが、女性の姿にしかなれないので女性だったのかもしれません。

分からないことだらけですが、前世での性別が判明したところで何かある訳ではありませんし、どうせ女性しかなれないのなら可愛くなろうということで、見た目が気に入った今の容姿で日々を過ごしています。

 

それにしても、この世界に来た当初はどうなるかと思いましたが、今ではすっかり馴染みましたね。

スローライフというのでしょうか、日が昇ると同時に起き、森を駆け巡って獲物である魔獣を見つけ、捕まえた獲物を持って帰り調理して食べる。

後は寝たいときに寝て、気が向けば木を切り倒して家具を作ったり、陶芸にチャレンジしたり、ショートボブの髪型をロングに変えたり戻したりと、好き勝手に生きています。

大自然の中で生きるとなると、人間の体なら病気になったり怪我をしたりといった心配がありますが、スライムの体なので素っ裸で生活しても何も問題ありません。

というか実は私、素っ裸です。

一応服も作ってみたのですが、スライムのためか油断すると服が濡れたりしてしまい不便なので諦めました。

よくよく考えればスライムなので元から素っ裸で問題ないですし、何より素っ裸の方が大自然を堪能出来て楽しいです。

それに、何となく前世も休日は家の中で素っ裸で生活していたような気がするので、こっちのほうが私的には自然な気がします。

 

さて、今日の狩りは大物が捕れました。

牛によく似た魔獣で、私は牛と呼んでいるのですが、こいつがおいしいのです。

焼肉にすると塩だけでもとてもいけます。

当初は魔獣とはいえ殺すことに忌避感がありましたが、スライム化したせいか慣れましたので、今はちょちょいのちょいで解体できます。

解体もなかなか重労働なのですが、魔獣を狩っている間に段々レベルアップしたらしく、最近は結構簡単に作業ができます。

焼肉、楽しみです。

 

ーーーーー

 

さあ、焼肉パーティの開催です。

家の前にちょうどいい大きさの石を並べ、その上に隠し部屋で見つけたアイアンシールドを置き、同じく隠し部屋にあった火打石で火を起こします。

アイアンシールドが熱されてくると、その上に油をひいて、更に塩を振ったお肉と森で見つけた野菜?を並べれば後は焼けるのを待つだけです。

おっといけない、家族を呼ばないと。

「1号2号おいでー」

私の声に応えるように家から出てきたの二人のスライム。

「わあおいしそう」

「すごーい」

私と同じ容姿に同じ声をした二人は私の大切な家族です。

……

 

止め止め、止めましょう。

私が溜息を吐くと、1号と2号の姿はただのスライムに戻り、私の体に吸収されました。

だからと言って共食いじゃありません。

1号と2号は私の体を分離させて作り出した分身です。

ただの分身なので、自我などは無く遠隔操作できるだけです。

先ほどの発言も所謂腹話術です。

なぜこんなことをしているかというと…

 

「春だからってどいつもこいつも子供作りやがって…魔獣のくせに、家族団欒で幸せそうだなんて…悔しい…寂しい…」

 

スローライフ万歳!

という気持ちは嘘偽りない気持ちです。

その一方で、私は家族団欒というものに強い憧れを持っていたようです。

どうして憧れを持っているのかと聞かれても、原因は分かりません。

可能性があるとすれば前世からの性なのですが、前世の自分に関することはよくわかりらないので、何ともかんとも。

前世はとにかく、単純に寂しいというのもあります。

前世の日本では、常識的に考えて1年間以上も人っ子一人会わないというのは異常な状況だと思います。

引きこもっていても、ドアを挟んで家族との会話がありますし、ネットの海の向こうには人がいます。

なのに今の私は、本当に人っ子一人会っていません。

会うのはいつも魔獣ばかりです。

「寂しいけど、スローライフ楽しいし!自由だし!」

そう自分に言い聞かせてこれまで強がっていましたが、春の時期になって魔獣達が家族団欒している姿を嫌という程見せ付けられたら、我慢の限界を超えてしまいました。

だから、先ほどのようなプレイを始めてしまったのですが、思い返すと赤面してしまうような行動ですね。

まあ、私スライムだし、おっぱい大きいからこれぐらいノーカウントだよね!

 

でもやっぱり、寂しいな…

 

 

 

 

ガサガサ!

あれ?木の陰から音が…何だろう??

 

ーーーーー

 

祝一人焼肉終了のお知らせ!

一人焼肉が強制終了しました。

幼い見た目の人間の男の子が、私の目の前で焼肉を食べています。

一人焼肉が嫌で事案発生させちゃいました、でも異世界だからいいですよね☆

なんとことは流石にしません。

 

向こうから来たのです。

お腹が空いているようだったので保護したのです。

犯罪者の言い訳のようですが、本当にそうなのです。

決してやましい気持ちでしたわけではないのです。

自分で言っておきながら、びっくりするほど犯罪臭がしますが、本当の本当に事実なのです。

あれは、かれこれ小一時間ほど前のことです。

私が焼肉の横で一人焼肉悲しいと三角座りで泣いていたら、すぐ近くの木の陰から音が聞こえたのがきっかけでした。

慌てて涙を拭いて見上げると、ファンタジーゲームの主人公のような黒髪の少年が、剣を抜いた姿で固まっていました。

竜を模った紋章がついた装備で固めているところが特徴でしたが、驚いたことに少年は完全に人間の姿をしていて、角や尻尾や羽などを一切持っていませんでした。

「え?人間?」

私もこの世界で初めて見る人間の姿に固まり、少年も女の子のような可愛い顔をどこか戸惑ったような表情に変え、私の姿を何度も何度も見直します。

そんな膠着状態を解いたのは少年のお腹から聞こえたグーという音でした。

とても可愛らしい音で、私は反射的にちょどよく焼けていた焼肉を箸で取り差し出してしまいました。

少年はちょっと躊躇いましたが、私が食べろとズイズイと肉を突き出すとかぶり付き、今ではこの有様です。

もくもくと食べ続ける少年と私。

「美味しいでしょ、完堕するぐらい食べていいのよ(ニッコリ)」

「*-+/()!」

コミュニケーションを取ろうと声をかけましたが、言葉が通じないようです。

ならばと、近づいてボディーランゲージで話そうとするのですが、顔を赤くしてぷいっとそっぽを向いて相手にしてくれません。

どうやら恥ずかしがり屋のようです。

それならばとそっぽ向いた方に回り込んで、更に激しく全身を使ってボディーランゲージを試みるのですが、どんどん少年の顔が赤くなっていくばかりで全然こっちを見てくれません。

といっても、ふとした時に少年の方から視線を感じるので、チラチラと私の姿を覗き見ているようです。

「なるほどなるほど、そういうことか」

このぐらいの年だと大人と一対一で話す機会は少ないので、恐らく知らない大人と会話することに慣れていなくて、どう話せばいいのか分からない、というところじゃないかと思います。

だから慣れれば大丈夫だと思うのですが、この後どうしましょうか。

日が暮れてきましたし、今日は家に泊まっていってもらいましょうか。

 

ーーーーー

 

「イッテキマス」

「あ、ちょっと待って」

出かけようとした男の子を呼び止め、首元にあるマントの紐を結びなおす私。

そんな私の行動に恥ずかしそうにしているのは、私の新しい弟です。

前世で弟がいたかどうか分かりませんが、まさか異世界で弟ができるとは、自分でも驚きです。

弟とは誰かというと、焼肉をきっかけに出会った少年。

アベル君です。

アベル君と出会って1ヶ月程経った今としては、まさに家族といった感じですが、簡単にこうなった訳ではありません。

山あり谷ありと言っていいのかわかりませんが、平坦な道ではありませんでした。

あれは、初めてアベル君と出会ったあの日の夜、焼肉を食べた終わった後のことです。アベル君を家に泊めてあげようと家の扉を開けたところ、アベル君は家の存在をすっかり忘れていたといった様子で驚いたかと思うと、焦った様子で私の家に飛び込んでいきました。

家主を差し置いて乙女の家に飛び込むなんて何事!?と驚き、慌てて追いかけると、アベル君は隠し部屋の中で何かを探しているようでした。

「どうしたの、女の子の家に勝手に押し入るなんて、キャッ!?」

私がアベル君に声をかけると、アベル君は思わずといった様子で剣を抜き私に突きつけます。

その結果は、剣をのど元に突きつけられるという事態に私が年甲斐もなく半泣きになり、我に返ったアベル君がオロオロとしつつも、ボディーランゲージで謝罪するという訳の分からないハプニングへと繋がるのですが、そのおかげで何となく状況が見えてきました。

どうやらこの家は、アベル君のものだったようです。

 

言葉は分かりませんが、アベル君が隠し部屋の鍵を持っていたのが決定的な証拠でした。

なるほど、妙に状態のいい廃屋だと思っていましたが、そもそも廃屋ではなかったのですね。

本来の持ち主が現れたのなら、私をここを出ていかなければなりません。

前世なら警察を呼ばれるようなことをしてしまいましたからね。

ですが私は出ていきませんでした。

何故なら、隠し部屋の中の保存食が綺麗に無くなっているのを気が付いたアベル君が立ち尽くしているのを見て、食べてしまったことへの罪悪感と、保存食分の食糧を返さずに家を出るのは酷いと感じたからです。

 

またも懲りずに嘘です。

いえ、完全に嘘ではありませんね。

罪悪感とかを感じたのは事実ですが、実は一番の理由ではありません。

本当は、人が恋しかったのです。

当時は、子供が困っているのを助けるのは大人の役目だとか、大人が子供を困らせる原因を作っておいて何もフォローしないとかありえない等と自分に言い聞かせていましたが、本当は久しぶりに会った人と離れるのが寂しいという情けない動機でした。

「決めた、頼りになるお姉さんになろう」

なので私は、勝手にアベル君を年の凄く離れた弟として面倒を見ることを決めました。

人恋しかった私としては家族ができて、これからの日々が非常に楽しみな展開でしたが、ことはそう簡単には行きませんでした。

 

保存食が無いことを気が付いたアベル君は立ち尽くした後、考えるような仕草をしてから私に何かを言うと、そのまま家から出て行ってしまいました。

私は立ち去ったアベル君を追いかけますが、アベル君は私を振り切るかのように走り出し、あっという間に見失ってしまいました。

そしてそのまま探し続けた夜のことです。

 

「◎++▽%>|〇〇!!」

 

森の奥深くまで足を延ばした私の耳に、アベル君の叫び声が聞こえて来たのです。

幸いにして目と鼻の先まで近づいていたらしく、すぐに現場に駆け付けることができました。

そこは、これまで行ったことが無いところで、祠のようなものがある場所でした。

その祠の前で寝ているところを襲われたのか、それとも油断していたのか、アベル君は怪我を負っていました。

相手は焼肉の元である牛の魔獣。

「どりゃあああああ!」

アベル君の怪我を見て冷静さを失った私は、勢いのまま乱入し牛の魔獣を3秒で食材にしてやるといった意気込みで攻撃します。

流石に3秒とはいきませんでしたが、何とか10秒ほどで仕留めることができました。

森の奥のためか、これまでの奴より遥かに体が大きかったですが、意外なほどあっさりでした。

アベル君を救いたいという私の思いが力になったのだと思います。

 

「酷い怪我!!大変!!!」

牛がこと切れたのを確認した後アベル君に駆け寄ると、松明だけの明かりのためはっきりとは見えませんでしたが、わき腹が切り裂かれているようでした。

今から思えばもう少し冷静に見るか、何事かを自分に訴えるアベル君に耳を傾ければ気が付いたのですが、その時の私はアベル君が危篤だと思いこんでいました。

「絶対助ける!」

私は騒ぐアベル君を強引におんぶすると、走って家に連れ帰り、脇腹にタンスにしまってあった私の服を当てて包帯にしました。

捨てるのが面倒くさかったので、着ないのに服を捨てずに持っておいて良かったです。

包帯を当てた私は、アベル君を安心させようと手を握り、そのままうっかり寝てしまいました。

 

そして…

「遅刻しちゃう!」

「+&%>|{-!?」

奇声を上げて目覚めた私の目に入ってきたのは、柔軟体操をしているアベル君の姿でした。

 

あれには目が点になりました。

答え合わせをすると、この世界には魔法があり、私が見つけた時点でアベル君は自分に回復魔法をかけ終わった後だったのです。

つまり、私が見た時には怪我はすでに治っており周辺に血が付いていただけ。

アベル君はピンチではなく、反撃に移ろうとしていただけ。

いえ、あんなに大きな牛が妙に簡単に倒せたことを考えると、既に反撃を始めていたようでして…

つまり、アベル君を救いたいという私の思いが力になって牛を倒した、というのも錯覚で…

ま、まあ、アベル君が襲われたのは事実だし、ボディーランゲージで確認した感じでは怪我自体は結構深かったみたいだし。

私が落ち込んでいたら、アベル君が私に多分お礼みたいなことを何度も何度も言ってくれたみたいだし。

だから、私の行動はなにも間違っていないよね。よね?

 

 

 

 

などと、黒歴史にしたい一晩がありましたが、雨降って地固まるといいますか、アベル君はこの一件で私を信頼してくれたらしく、アベルという名前を教えてくれました。

私は名前など憶えていないので困りましたが、その場で思い浮かんだ「マユお姉さん」として世話を焼くことになりました。

 

自画自賛ですが、先ほどのアベル君を送り出す時の様子とか、弟の登校を見守るお姉さんって感じがしてとてもいいですね。

因みに、お母さんに見えた人がいたら眼科か心療内科に行ったほうがいいです。

私とアベル君はそこまで年が離れていない。

 

 

 

と思いたい。

だけど、自分でも弟というより子供を見るような目になっているような気がする…

 

ーーーーー

 

アベル君と出会い、あっという間に1年が経ちました。

この1年間、アベル君は毎日森の奥の祠に向かっています。

お互いの意思疎通がボディーランゲージと、それぞれが単語を教えあって少しだけ会話が成り立つようになった片言の会話だけという状況なので、そこで何をしているのかは正確には分かりません。

分かりませんが、アベル君は祠に置いてある宝玉に触れると入り口が開く秘密の場所で修行しているらしく、その修業をすることはアベル君の使命であるようです。

 

そんな大切な修行をアベル君がしている間、私は何をしているかと言うと、狩り、料理、洗濯、そしてお風呂の用意などです。

アベル君の非常食を食べてしまったので料理を用意するのは当たり前ですが、家族ができてうれしいというか、世話を焼くのが楽しいというか…

とにかく、気が付いたら料理以外も色々なことをしてあげていました。

 

例えば、お風呂の用意などはその最たる例です。

元々この家には、お風呂がありませんでした。

私はスライムなので問題はありませんでしたが、アベル君は人間ですので、定期的に離れた場所にある沢で体を洗う必要があります。

いちいち遠くの沢まで行くのは可哀そうですし、日本人としてはお風呂を楽しむことを知ってもらいたかったのです。

日本人にとってお風呂とは体と心の洗濯の場であり、一家団欒の場所でもある楽しいところです。

 

「マユオネエサン、アシタ、シュギョウ、ガンバル」

「じゃあ、頑張るアベル君のために、明日のお夕飯はハンバーグを作ってあげるね!」

「ヤッタ、アシタモホームランダ!」

…いいなあ、これ。

 

アベル君と一緒にお風呂に入りながら語り合う光景を思い浮かべた私は、早速行動に移りました。

まず最初に、アベル君が外出している間に、沢の上流から水を引く樋を一生懸命作り、家の裏まで水が樋を伝って流れるようにします。

そして次に、家に元からあった樽を置き水を注ぐと、火であぶり真っ赤になったロングソードを何本も突っ込みお湯を沸かせば完成です。

「どう?すっごいでしょ」

「スゴイ!ミタコトナイ!!」

こうして出来上がった疑似五右衛門風呂を見たアベル君の驚きっぷりは凄く、作った甲斐がありました。

ただ残念だったのは、結局一家団欒とはいかなかったことです。

アベル君が湯船に入っているところに「裸の付き合いをしようね」と言って乱入し、狭い湯船に私も強引に入ったまではよかったのですが、どうしてかあっという間にアベル君がのぼせてしまいました。

肩を抱き寄せながら「アベル君見て、綺麗でしょ」って星空が綺麗だねと言ったとたんに、アベル君の鼻から赤いものが出てきた時には本当にビックリしました。

その後も何度かチャレンジしますが、毎回同じようなことを繰り返してます。

おかげで、次のステップとしてスライムの体で家の掃除ができるという特技を使って、私の体でアベル君の体を洗い、ついでにマッサージまでしてあげようという計画も立てていましたが、そこにまで至ることができませんでした。

最近は状況が更に悪化し、私がお風呂場に入るとすぐに「ノボセソウ」とか言い出してすぐにお風呂場から出て行ってしまう事態になってます。

まさかアベル君がこんなにのぼせ易い体質とは、残念です。

 

因みに、先に挙げた狩り、料理、洗濯、お風呂といった日々の生活以外のことでも、私はアベル君のために色々なことをしています。

例えば色んなイベントを催したりしました。

七夕やハロウィン、クリスマスにお正月に誕生日、どれもこれもこの世界には無かったり、全然形が違ったりしましたが、アベル君は喜んでくれて二人の大切な思い出になりました。

ただ、先日の誕生日会だけは失敗でしたね。

この誕生日会なのですが、そもそもは自分がいつ生まれたのか知らないとアベル君が言ったことがきっかけです。

文化の違いが原因なのでしょうが、それは悲しいと思った私は、二人が出会った日を勝手にアベル君の誕生日として、誕生日会を開催することにしました。

そして私も誕生日が分からないので、ついでに私も同じ日を誕生日にして誕生日会の同時開催を行うことにしたのです。

二人で同時に開催した方が盛り上がる気がしましたので。

二人の誕生日会はいつもより豪華な夕食を食べ、ケーキ代わりに用意した果物を「誕生日おめでとう」と言い合いながら食べたり、二人で誕生日の歌を歌ったりしました。

文化の違いで喜んでもらえないかと心配しましたが、アベル君は子供のように大喜びしてくれました。子供ですけど。

その後にプレゼント交換となるのですが、私はここで大変な間違いを犯していることに気が付いてしまいました。

アベル君には「誕生日は誕生日プレゼントを渡すんだよ」って教えておきながら、アベル君へ渡すプレゼントを用意し忘れていたのです。

しかも、アベル君の私へのプレゼントは、とても綺麗なネックレス。

なんでも修行場で見つけたとのことですが、拾い物とは思えないぐらい高そうです。

こんな高そうなものを貰っておきながら、アベル君へのプレゼントを何も用意していないなんてとても言えません。

私は必死に解決策を考えました。

アベル君が喜びそうなもの、このぐらいの年の子が喜びそうなことは何だと必死に考え、思いついたのは、母親らしいことをしてあげてプレゼントの代わりにしようということでした。

既にご飯を作ったり洗濯したり母親のようなことをしていますが、アベル君のような年の子が親からずっと離れて修行しているというのは前世の日本で考えると異常事態です。

しかも、誕生日を知らないという件で判明したのですが、理由は分かりませんがアベル君は元からご両親と引き離されて暮らしていたみたいなのです。

だから、もっと母親らしい色々なことをしてあげれば、喜ばれることこそあれ、嫌がられることは無いだろうと考えたのです。

準備いらずで嫌がられることの無いこのアイデアは、とても良いアイデアだとその時の私は思いました。

「じゃあ、今日から明日まで私をママだと思って甘えていいからね。ママだよ、おいで」

なので、私は早速そう宣言し、アベル君を思いっきり甘やかすことにしましたが…

「ハズカシイ」

ところが、アベル君は恥ずかしがって全然甘えに来てくれません。

こちらから食べ物を口元に持って行って「あーん」をしようとしたり、両手を広げて甘えていいよとポーズをとっても、恥ずかしそうにするばかりです。

このままでは、自分のプレゼントは貰うだけ貰って何も弟にはあげないダメな姉になってしまう…

そう危惧した私は、思いつく限り色々な提案し、何とか耳掃除を行う許可を貰うことに成功しました。

 

しかし、それがあんなことになるなんて…

 

アベル君を触手で絡め取り膝枕をした私は「マユオネエサン、ダメ、ヤッパリ」と騒ぐアベル君を無視して嬉々として耳掃除を始めました。

そうしたら、何か股間のあたりがヌルヌルするというか、生暖かくなってきたのです。

変だなーと思って、耳掃除のために私のお腹の方に顔を埋めているアベル君をどかして様子を確認したら、またアベル君が鼻血を出していました。

しかもドクドクと大量に。

「ノ、ノボセチャッタ…」

何故に私の膝の上でのぼせるのですか!?

解せぬ。

こうして、誕生日会は謎の大量出血というトラブルで幕を閉じてしまったのでした。

 

とまあ、こんなトラブルや楽しい思い出など、アベル君の世話で充実している毎日です。

適度に忙しいものの、仕事をするほど忙しくも精神的にもきつくもない日々はとても楽しいです。

願わくば、これがずっと続けばいいのですが。

 

ーーーーー

 

ある日、祠のある方角から光の柱が立ち上がりました。

それを見た私は、言いようのない不安に駆られました。

この不安には根拠がない、だから何かの勘違いと自分に言い聞かせましたが、不安は的中しました。

「マユオネエサン、アベル、モウスグ、イエ、カエル」

その日の夜、永遠に続くかと思ったアベル君との生活が、突然終わりになることを告げられたのです。

あなたの家はここでしょと言いたいところですが、ここはあくまで仮の家。

アベル君には帰る家があるんですよね。

修行がついに終わりになってしまったらしく、帰らないといけないそうです。

一度帰ってしまうと、もうここに来ることは当分叶わず、次に来れるのは何年先になるか分からないとか。

夢のような日々はいつかは終わってしまうものだと覚悟していましたが…

本当に終わってしまうとなると、寂しいな…

また一人になっちゃうのか…

 

「アベルモサビシイ、マユオネエサン、マタクル」

 

ありがとう…その気持ちだけでも十分だよ。

そうだね、寂しいのはアベル君も一緒だよね。

笑顔でアベル君を見送ろう。

私はお姉さんだから、しっかりしないとダメだもんね。

 

その日の夜、私はアベル君をベッドに誘い、抱きました。

 

 

いや、変な意味じゃないですよ。

何時もより強めにぎゅっと抱きしめて寝ただけです。

実は元々ベッドが1つしかなくて、当初は二人で1つのベッドに寝ていました。

ただ、人が横にいると緊張して眠れない質なのか、アベル君が明らかに寝不足になってしまいました。

今回のように抱きしめて落ち着かせようと工夫したのですが、何故か逆効果になってしまいダメでした。

それ以後、ベッドを新たに作って別々に寝ることになったのですが、別々のまま最後の夜を迎えるのは嫌でした。

当分会えないのなら、『アベル君分』をしっかりと味わっておきたいと思いまして。

アベル君は抵抗しましたが、私が懇願したらしぶしぶ受け入れてくれました。

 

これから何年間もアベル君分は補充できないので、それはもう、すりすりと体中から補充しました。

スライムの体はこういう時には本当に便利です。

おかげで、朝に起きたらアベル君の下半身が不定形に変化した私の下半身の中に埋もれているというアクシデントが発生しましたけどね。

しかも、微妙なアンモニア臭が…

 

ごめんねアベル君。

どうやら私がアベル君を拘束したまま眠ったせいでトイレに行けなかったらしく、まさかのおねしょという事態になってしまったようです。

「あっ、中にもいっぱい出したんだね」

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」

私の中にも出してしまったらしく、私が悪いのにアベル君は平謝りでしたが、毎日体を使って家の掃除をしている私としては、このぐらい大丈夫なので気にしないように言っておきました。

事実、スライムの体がおしっこだろうが何だろうか綺麗に吸収分解してくれますからね。

 

 

「ニンゲンコワイ、ニゲル」

「アベル君心配し過ぎだって、大丈夫だよ」

ついにアベル君が旅立つ時になってしまいました。

アベル君は、先ほどからずっと私を心配してくれています。

とにかく他の人間からは逃げるように、何度も何度も注意されています。

大丈夫、こう見えてもアベル君より長生きだから、そこまで心配しなくてもきっと大丈夫。

まあ、この世界は魔族と人間が戦争している世界だって今さっきまで忘れてたけど、きっと大丈夫。

あっはっはっはぁ~…

 

自分のおバカっぷりに笑おうにも笑えない私の内心を知ってか知らずか、より一層心配そうな顔をしたアベル君は白くて分厚い布を私に差し出してきました。

「なにこれ?」

「ヒトトアウ、コレキル」

そう言ってアベル君が私に着せてくれたのは、アベル君のフード付きマントでした。

アベル君のマントは、竜を模った紋章が付いた大きく立派なもので、頭から被ってしまえば、ぱっと見ではスライムだと気が付かなさそうです。

なるほど、いつも通り裸で人前に出たら、一目でスライムだとバレてしまいますので、いざという時には役立ちそうです。

流石アベル君です。

「ありがとう大切にするね」

「ボクトオモッテ、タイセツ、ゼッタイクル、マッテテ!」

アベル君はそう叫んで私に抱き着くと。

次の瞬間には、迷いを振り切るかのように、森の外に向けて駆け始めていました。

森を駆けるアベル君の頬には、涙が流れていました。

私はいつまでもいつまでも、手を振り続けました。

 

因みに…

そういえば私はスライムだから裸でいるのは普通のことだし、アベル君も一度も指摘しなかったから大丈夫だと思っていたけど、実はアベル君からはただの露出狂の変質者に見えていて、本心では服を着せたくてマントを渡したってオチはないよね?

という考えが突然頭に浮かんできて、手を振りながら内心冷や汗を掻いていたのは私だけの秘密です。

 

ーーーーー

 

「アベル勇者候補生、いや勇者アベル様、勇者様なら絶対に勇者になれると信じていましたよ。勇者様に初めてお会いした時から、勇者様は他の勇者様達と比べて遜色のない…いや、勇者候補生でありながら、どの現役の勇者様達よりも勇者らしいと思っていました。そうだ覚えていますか、勇者様がまともな鎧がないと嘆いていた時、儂が口添え…」

何度目か分からないほど繰り返された会話に内心ため息をつく。

平民から見つかった候補生として誰も僕には期待していなかったのに、勇者として覚醒したと知ったとたんに、手のひらを返してきた。

そして誰も彼も純粋に僕を祝ってくれていない。

もしも僕に両親がいたのなら、心から祝ってくれたのだろうか。

「アベル君おめでとう」

竜神の血が発現したため幼少の頃に引き離され、顔も覚えていない両親を思い出そうとしたら、青く美しく、優しい笑顔が脳裏に浮かんできた。

「マユお姉さん…」

教会の誰もが滅ぼすべき邪悪な存在と言っている魔族なのに、マユお姉さんはとても優しくて、綺麗で、僕にとって本当にお姉さんのような存在だった。

マユお姉さんとの生活を思い出すだけで、心がぽかぽかしてくる。

これがあれば、勇者の力しか見てくれない大人達に囲まれても、やっていける気がした。

 

「ん?勇者様、今何か言いましたかな?ところで勇者様、実は妾との間の子ではありますが、私には勇者様と同じぐらいの年の娘がいましてね、親馬鹿に聞こえるでしょうかこれが中々可愛い娘でして、一度ご紹介しようかと思うのですが…」

先ほどとは比べ物にならないほどのため息を心の中でついた。

勇者になって以後、何度も何度も色々な人からよく似た話を持ち掛けられた。

確かに、とても綺麗な女の子を紹介されることもあった。

でも彼女達もまた、僕を勇者としてしか見ていなかった。

「それに比べてマユお姉さんは…」

魔族なら誰もが知っている勇者の印である竜神の紋章を装備した僕と出会ったあの時から、僕を恐れず優しくしてくれた。

僕を勇者としてではなくアベルとして見て、可愛がってくれた。

僕に対していつも自然体でいてくれた。

本当に自然のままの姿で…

いつも服すら着ていなくて…

膝枕なのに下着も何もつけてなくて…目の前で…奥の方まで丸見えで…

すごくエッチな形をしていて…

 

「勇者様!!」

「どうされたのですか、フィンデン伯爵様?」

「血が、勇者様の大切な血が!!」

生暖かいものが、鼻から出ていた。

 

マユお姉さんは僕を本当の弟のように可愛がってくれているのに、そんな人に対してこんな目で見てしまうなんて僕は…どうしてこんなにふしだらな男なんだ!!

これじゃ人として失格だ!!

マユお姉さんとの暮らしで何度も感じたドキドキを必死に抑えながら、僕は僕自身を叱咤した。

 

ーーーーー

 

アベル君が去った後、一人の生活が何年も続きました。

だけど昔ほどは寂しくありませんでした。

寂しいのは事実なんですけど、堪えられるレベルの寂しさでした。

なぜかと言うとそれは不定期ですが、アベル君から手紙が来るようになったからです。

伝書バトならぬ、伝書知らない鳥。

ちょっとした魔獣なら狩り取れそうな立派な鳥が手紙を届けてくれます。

 

ただこの手紙、最近はどのように返事すればいいのか困っています。

アベル君は周りの人達に秘密で魔族語を勉強しているらしく、最初はたどたどしいですが「元気ですか」とか「頑張っています、マユお姉さんに会いたいです」といった素朴で簡単な文章がつづられていました。

私はそれに対して、今度アベル君が来たら、またお風呂に一緒に入ろうねとか、森で誕生日会に使えそうなおいしそうな果物を見つけたとか、そんなことを返事に書いていました。

ところがアベル君の魔族語スキルが最近急速に上達して、文章がとても長くなり始めました。

それ自体はいいのですが…

 

「教会の人達は、魔族は悪だから滅ぼさなくてはいけないと、僕達にいつも言い聞かせてきました。

マユお姉さんみたいな人もいたので、悪くない魔族もいるのではないですかとユリウス枢密卿に聞いたのですが「悪くない魔族などいない、魔族は存在するだけで悪なのだ、竜神が魔族を滅ぼすために人に血を分け与えたことを忘れてはいけない、この戦いは聖戦なのだ!」と怒られてしまいました。

マユお姉さんが存在するだけで悪だなんて、僕には納得できませんでした。

マユお姉さんは悪い魔族なんかじゃないですよね。」

 

とか…

 

「勇者は悪い魔族を倒すために竜神が人に血を分け与えて生まれたと教会は人々に教えています。

マユお姉さんが教えてくれた、竜神が浮気した話と違います。

だから、捕虜の魔族に魔族語を使って彼らの歴史を聞きました。

そうしたら、マユお姉さんが教えてくれたことと同じことを彼らは教えてくれました。

どうして教会と魔族の歴史が違うのでしょうか。

僕は教会が魔族語を呪いの言葉として学ぶことを禁じていることと何か関係があるのではと最近考えています。」

 

とか…

 

「僕に魔族の歴史を教えてくれた捕虜達が虐殺されました。

敵ではありましたが、話しているとどこが人間と違うのか分からなくなるぐらい普通の人達でした。

彼らには人間と同じく、家族がいました。

それなのに新しい武器の試し切りの的にされるなんて。

僕は何が正しいのか最近分からなくなってきました。」

 

とか書いてくるようになりました。

わーい、むずかしー(スライム感)

どう返事すればいいのよ。

最初のは「ぷるぷる、私は悪いスライムじゃないよ!」といった感じで乗り越えたのですが、その後はとても冗談で切り抜けられる状況じゃありませんでした。

ですが私の頭脳では難しすぎる上に、この世界のことを全然知らないのでまともなアドバイスは無理です。

「人がどう言っているのではなく、アベル君が正しいと思うことを信じればいいんじゃないかな。どんな判断をしても私はアベル君の味方だよ」

なので、アドバイスになっているようで、実は全部アベル君の判断に任せるという事実上の丸投げな回答になりました。

しかも前世の漫画か何かのパクリです。

 

そんな感じで返事を繰り返すこと十数回。

アベル君の考えを真剣に聞いて共感してくれる、ネス教会副騎士団長とか言う人が現れたそうです。

アベル君はネス教会副騎士団長を相当信頼しているらしく、いずれは私に紹介したいとまで言っています。

 

お姉さんに紹介したいって…まさか彼女か!?

しかし残念だったな、アベル君の彼女になりたいのなら、まず姉である私を倒してもらおうか!!

この女子力53万のマユ様をな!

しかも私はあと3回変身を残しているのだー!

なんて馬鹿なことを考えながら、更に数回の手紙のやり取りをした結果…

 

突然手紙が来なくなりました。

最初は不定期だからとのんびり構えていたのですが、手紙が途切れて半年を超えた辺りで私は気が付きました。

 

もしかして、これってアベル君に愛想を尽かされて捨てられたのでは!?

今頃アベル君とネス副騎士団長とやらは…

アベル「マユお姉さんに相談しても、何の役にも立たないや」

ネス「アーベル♡、マユお姉さんなんかと文通するより、私とあそぼ?」

アベル「そうだね、役に立たないマユお姉さんより、ネスと遊ぶ方がいいや」

ネス「やーん♡私と遊ぶって表現がい・や・ら・し・い~」

なんて感じで乳繰り合っているのか!?

そうなのか!?

そうなんだな!?

 

 

いやいやいや。

流石にアベル君がそんなこと言う訳ないか。

それに冷静に考えれば、ネス副騎士団長が彼女とか手紙のどこにも書いてなかったし。

でも、あまり役に立たないことを書き続ける私に愛想を尽かすのは十分にありえるか…

もうちょっとまともな返事を出しておけばよかった…うう…悲しい。

 

ーーーーー

 

どーせ若い男は、私みたいな年増からは巣立っていくのさはははっ。

えーい、やけ酒はお酒がないからできないから、やけ食いだー!

shit !もうお肉のストックがないじゃないですか。

牛!牛はどこだー!

牛狩りじゃー焼肉じゃー

 

 

 

 

 

 

 

テンションを無理やり上げて1人焼肉したら余計に虚しくなった。

自分が原因とはいえ、弟と思っていた存在から愛想つかされた事実は虚しいものです。

 

「マユお姉さん」

 

こうやって、私を姉と呼んでくれるこの世で唯一の家族だったのに、こんな間抜けな理由で失うことになるなんて。

 

「マユお姉さん?どうしたの!?どこか調子悪いの!?」

 

調子悪いんじゃなくて、絶賛傷心中だよ!!

ってあれ!?

 

顔を上げると、女の子のような綺麗な顔でありながらも、どこか凛々しい雰囲気を持った立派な少年騎士がいました。

これって、まさか…

「私悪いスライムじゃないよー!?」

「知ってるよ!」

ごめん冗談。

あまりにも信じられない光景だったので、思わずボケてしまいました。

「アベル君!会いたかった!」

そう言うと私はアベル君に抱き着いたのでした。

 

あ、前より頭の位置が上になった…

まだ私より身長は低いけど、アベル君、大きくなったんだな~。

 

ーーーーー

 

再会を喜んだのもの束の間。

「もう会えないってどういうこと!?」

アベル君から絶縁を突きつけられてしまいました。

アベル君が言うには、アベル君は最近その言動や行動から教会から目をつけられているらしく、私に危険が及ばないように手紙のやり取りを止めたとのこと。

そして、突然手紙を取りやめたので私が心配していると思って、直接事情を説明しに来てくれたとのことでした。

直接来れるなら今後も直接会いに来てよと思ったのですが、教会の目を欺くのはとても難しいらしく、今回は信頼のおけるネス教会副騎士団長が、一回限りですが教会の目を欺くコネがあるらしく、それで教会の目を欺いてくれたそうです。

ネス教会副騎士団長は「親友が大切な人と会うためなら、喜んで一肌脱ぐ」と快く協力してくれたそうです。

それはとにかく置いておくとして、きっと教会の目を誤魔化す方法なんて探せばいくらでもあるよ、諦めずに探し出して会いに来てよと私は訴えました。

 

ですが、私の訴えに対するアベル君の答えはNOでした。

 

「マユお姉さん、僕は魔王を倒すよ、僕が魔王を倒せば戦争は終わる。そうすれば一番犠牲が少なくて済むんだ。僕が魔王を倒せば、ネスが穏健派をまとめて過激派を抑え込める手筈になっているんだ。そうすれば、魔族の殲滅も防げる、和平が成るんだ」

凛々しくアベル君は宣言しますが「ごめんね」マユお姉さんはそういう難しい話は苦手なんだ。

ただ私が思ったことは一つ。

危ないことはして欲しくない。

魔王ってあの頭の悪い魔王のことだろうけど、そんなのと戦うなんて勇者の仕事です。

アベル君がする必要はありません。

 

「危ないことはしないで欲しい。戦うことなんてやめて、前みたいにここで一緒に住もう!うん、それがいいよ!」

だから、そんな危ないことは止めて前みたいに一緒に住もうと必死に訴えたのですが…

 

「それはできないよ、何もしなければ魔族だけじゃない、マユお姉さんも守れない」

はっきりと断られてしまいました。

アベル君の瞳には、強い意志が込められていて、とても説得に応じる気配はありませんでした。

私は頷くしかできませんでした。

 

気落ちした私に「すべて終わればまた会いに来るから、それまで待っていて」とアベル君は言いますが、それがいつになるのか、そしてアベル君は無事でいられる保証はありません。

 

もう二度と会えないかもしれない。

そう思った私は、アベル君が帰るまでの今日と明日を忘れないように、後悔しないように、二人の時間を思いっきり楽しむことにしました。

つまり、アベル君分を一生分補充してやります。

そして笑顔でアベル君を送り出しましょう。

二度と会えないかもしれないのに、その最後の思い出が喧嘩なんて嫌ですからね…

 

「まずアベル君に見せたいものがあります」

心機一転して元気いっぱいに宣言した私は、アベル君からもらったマントを着こみました。

次にアベル君の注目を引いたことを確認すると、私は自分の体にあることをし、焦らすようにマントをゆっくりと脱ぎ始めました。

どうしてかアベル君が顔を背けようとしますが、見せたいものがあるので回り込みます。

「アベル君見て」

「マユお姉さん、それはいったい…」

アベル君は動揺しながらも私の体を舐めるように上から下まで見ます。

そしてそれは自分の目を確かめるがごとく、何度も何度も繰り返されました。

 

ふっふっふー、驚いているようですね。

今の私は、なんと女子高生が着るようなブレザーを着ています。

それもただのブレザーではありません。

スライムの変形技術を応用して作りだした、ブレザー型のスライムを、通常形態の上に着こんでいるのです。

出来る限り透き通らないように色を濃くしていますが、スライムなのでどうしてもある程度は透けてしまうという欠点はあります。

透けてはいますが、素っ裸より見えなくなりましたし、はっきりと服を着ていると分かる感じになったので、劇的に良くなったと言えるでしょう。

これで万が一、アベル君が私がスライムだとかそういうことを失念して、単純に常に素っ裸でいる露出狂の変態だと酷い勘違いをしていても、私がTPOに合わせてちゃんと服を着ることができる常識人だと分かったでしょう。

 

「どう?似合ってる?これなら人前に出ても大丈夫でしょ?」

 

「こんなの絶対に人に見せたらだめだよ!!!!下手したらいつもよりヤバいよ!!!」

 

ええー!?なんでだ!?

 

ーーーーー

 

なんかアベル君が、まるで娼ナントカで客引きをするナントカなどと、ぶつぶつ言いながら視線を合わせてくれません。

よくわかりませんが機嫌を損ねてしまったようです。

今日が最後かもしれないので、このままではいけません。

とにかく機嫌を直そうとここ数年で開発したタレを使った焼肉を出したのですが、いつぞやの光景のように黙々と焼肉を食べています。

「美味しい?」

「とっても美味しいよ」

「愛情たっぷり込めて作ったから、そう言ってもらえると嬉しいな」

「………」

焼肉の味を懐かしんでくれているみたいなのですが、相変わらずこちらの目を見て話してくれません。

今の会話も、愛情込めて作ったと伝えたら俯いてしまいましたし。

こうなったら、強硬手段です。

 

食べ終わった後、アベル君をお風呂に入れました。

そして私も、当たり前の顔をしてついて行きます。

「マユお姉さん、ダメだよお風呂は僕一人で入るから」

そう言ってアベル君は一緒に入ることを拒みますが、ここで引き下がるわけにはいきません。

こうなったら…

「お願い、いつもアベル君すぐにのぼせそうになっちゃって、あまり一緒に入れなかったからどうしても一緒に入りたいの。家族で一緒にゆっくりとお風呂に入りたいってずっと思っていたの。アベル君入れて、一緒に気持ちよくなりたいの」

必殺泣き落としです。

切なそうな顔をしながら、アベル君の下半身に縋り付くように抱き着いてお願いをします。

「分かったよ、分かったよマユお姉さん、だから離して、危ない危ないよ!!」

私の必死のお願いが届いたらしく、アベル君は焦りながら了承してくれました。

でも、今の危ないってなんですか?

何が危ないのでしょうか。

アベル君がぶつぶつと「マユお姉さんは大切なお姉さん、マユお姉さんは僕の家族で僕はマユお姉さんにとって弟、まだ弟」と念仏のように当たり前のことを唱えていることと何か関係があるのでしょうか。

訳が分かりませんね。

 

 

 

はう~最高のお風呂です。

満天の星空の下、仲の良い姉弟が一緒に汗を流す。

最高のシチュエーションですね。

でも…

「ねえアベル君、どうして星空ばっかり見ているの?」

「え、ほら、星が綺麗だなーって思ったんだ、本当だよ」

二人揃って狭い疑似五右衛門風呂に入っているのですが、アベル君はずっと星空を見ています。

最近の近況とかいかにも家族団欒といった感じで会話はできているのですが、ずっと星空に夢中という感じなのが面白くないです。

星空ではなく、私に注目してくれればいいのに。

 

そう思った私の脳裏に、昔お風呂でやろうとして出来なかった計画のことが浮かび上がってきました。

そうだ、アベル君の体を洗ってあげよう。

スライムの体を使って家の掃除をする要領で、アベル君を私の体で洗ってあげて、ついでにマッサージもしてあげます。

自分自身にやったことは無いのですが、きっととても気持ちいいです。

体はピカピカ、疲労も吹き飛びます。

これなら、アベル君の注目を星空から奪うこともできて一石三鳥です。

 

「アベル君、昔みたいに簡単にのぼせなくなったね」

「そ、そうだね、あはははは、僕も体がだいぶ頑丈になったからかな」

「そうなんだ、良かった。じゃあちょっと湯船の横にある板の上にバスタオルを引いて寝そべって。いいことしてあげるから」

アベル君は不思議そうな顔をしつつも、洗い場になっている板の上にバスタオルを引いてうつ伏せになります。

私はうつ伏せになったのを確認すると湯船から出て、そっと背中に抱き着きました。

 

「マユお姉さん、いったい何を!?」

「動かないでちゃんと洗ってあげるから」

 

ごーしごーし。

ごーしごーし。

全身を使ってアベル君を洗います。

粘性を増した分泌液(無害)を出しながら、アベル君の体の上を滑るように動いていきます。

 

「ひゃっ、ちょっとマユお姉さん止めて!?まずい、これまずいって!?」

くすぐったいのか、アベル君が変な声を上げて止めてと言いますが、あともう少しで背中が綺麗になるので、もうちょっとだけ我慢してください。

 

「はあっはあっはあっはあっあうっ…」

背中の洗い完了です。

私の方も思った以上に疲れましたが、アベル君もくすぐったさを我慢したため、息も絶え絶えという感じになってしまいました。

その様子がまるで女の子のように色っぽくて、何か悪いことでもしているような錯覚に陥りますが、まだ終わりではありません。

次は前の方ですね。

 

「こっちは本当に駄目ーーー!!!」

アベル君が逃げた!?

素早く走るためか、前かがみになりながら走るアベル君は、私が触手を伸ばす暇もなく、家の中に駆け込んでしまいました。

 

まさか、逃げるほどくすぐったかったとは思いませんでした。

失敗しました。

 

ーーーーー

 

「最後の夜になるかもしれないから一生のお願い」

「………分かったよマユお姉さん、でも寝る前に水浴びしてくるね」

「何で!?」

 

お風呂から出た後は寝るだけだったのですが、アベル君は私とは別のベッドに入ろうとしたので、懇願して一緒のベッドに寝てもらうことになりました。

かれこれ三十分以上お願いし続けたおかげで、何とか了解してくれました。

ただ、水を頭から何回も被るアベル君の姿は異様でした。

まるで修行僧か何かが滝に打たれる姿を見るかのようでした。

 

それはとにかく、その後一緒のベットに寝っ転がった私達は、それこそ話が尽きないぐらいに語り合いました。

最初に会った時のことから今までのことを、時には懐かしむように、時には冗談交じりに語り合いました。

あえてこれからのことは二人とも触れませんでしたが、こうして二人の過去を思い出すことで私達は家族なんだなと改めて認識することができました。

そして気が付くと、隣から静かな寝息が聞こえてきました。

疲れていたのでしょう、アベル君は幸せそうな顔をして寝てしまいました。

 

さて、アベル君が寝静まったので、これから悪戯を始めようと思います。

実はアベル君、一緒に寝てもいいけど抱き着くのは駄目とか言ってきたのです。

そんなご無体な。

なぜダメなのかと聞いても、理由を教えてくれません。

ならいいです。

勝手に抱き着きます。

 

えーい、アベル君分補充だー。

 

 

 

 

 

 

 

「うわああ!!」

アベル君の悲鳴で私は目を覚ましました。

「夢、じゃなくて、現実!?あんな夢を見たから…どうしよう!?」

目を覚ますと、アベル君が凄く動揺した感じでアタフタしています。

ぼんやりとした思考のまま、アベル君を見ると、アベル君の下半身が私の下半身の中に埋もれていました。

あ、いけない。

前回のように、アベル君に抱き着き過ぎてしまったようです。

脚を開き下半身をそっとアベル君から離すと、アベル君は慌てた様子でお風呂場へと繋がる扉を開けて、お風呂場に入っていきました。

一瞬しか見えませんでしたがそのズボンは濡れていました。

 

またやってしまったようです。

前回のように私が抱き着いていたせいで、トイレに行けずおねしょしてしまったようです。

もうおねしょなんて絶対にしない歳なのに、私のせいでおねしょすることになってしまうとは、申し訳ないです。

…まだ眠いですね。

昨晩、遅くまでアベル君分を補充し過ぎましたか。

もうひと眠りしよう。

 

スンスン

あれ、磯の香り?

海なんてないのに…

なん…で…だろ…

………

 

 

 

ーーーーー

 

 

「アベル君、絶対無理はしちゃ駄目だよ。絶対に帰ってきて、私はずっと待ってるから」

「うん、魔王を倒して帰ってくる。絶対に絶対に帰ってくる」

「何があっても帰ってきてね、約束だよ」

「約束する。約束するから、帰ってきたらマユお姉さんにもどうしても聞いてほしいお願いがあるんだ。マユお姉さんもお願いを聞いてくれるって約束して」

「何でも聞いちゃうから、本当に…無事で…」

「マユお姉さん…」

感極まった私はアベル君に抱き着き、アベル君も私を抱き返しました。

二人の周りだけ、まるで時が止まったかのようでした。

しかし、無情にもそれでも時は進んでいき、ついに別れの時が来てしまいました。

 

「アベル君…行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

こうしてアベル君は魔王討伐へと旅立ちました。

二度寝から起きた直後は、私と目が合った瞬間アベル君がもの凄く挙動不審になってどうしようかと思いましたが、最後はしっかりとしたお別れができてよかったです。

 

いえ、最後なんて言ってはいけないですね。

きっとまた会えます。

ただの騎士であるアベル君に魔王は倒すなんて、正直不可能だと思いますけど…

不可能だからこそ、途中で「マユお姉さんやっぱり無理」なんて、べそ掻きながら逃げ帰ってきたり、魔王に近づくことすらできずにウロウロしている間に、勇者が先に倒してくれたりして、きっと無事に帰ってきてくれます。

きっとそうです!

 

そうだ、アベル君が現実の壁にぶち当たって戻ってきた時のために、更に快適に過ごせるように家をもっと改造しましょう。

そうと決まれば、早速洗濯場を改造です。

今朝方、アベル君がお風呂場の隣の洗濯場でおねしょのついたズボンと下着を洗濯していましたが、良質な石鹸が無いためか、なかなか汚れが落ちず苦戦していたみたいですからね。

 

 

 

そういえば、おねしょで思い出しました。

おねしょさせてしまったことを謝った時のことです。

「私のせいでごめんね。こんなことになるなんて、お姉さん失格だね」

「そんな、悪いのはマユお姉さんじゃなくて僕だよ」

「とにかく、怒ってないから。それでも気にするみたいなら今朝は何もなかった、そういうことにしよ。だって、もうすぐお別れなんだから。こんな空気でお別れなんてマユお姉さんは嫌だぞ?さ、朝ごはん食べよ、私お腹すいちゃった!」

「……マユお姉さん、こんなふしだらで駄目な僕を許してくれてありがとう」

悪いのは私なので気を聞かせておねしょは無かったことにしてあげたのですが、すごくアベル君の様子が変でした。

例えるのなら、怒られるのを怖がっているというより、まるで私に軽蔑されるのじゃないかと怯えているような雰囲気でした。

まあ確かにアベル君の年でおねしょしたとなったら、人によっては軽蔑するでしょうが、原因になった私が軽蔑するわけないじゃないですか。

だから…

「アベル君は駄目なんかじゃないよ、ごめんね私が悪いのに我慢させちゃって。我慢できなかったら、私を起こしてくれていいんだよ?でも、優しくしてね」

漏らしそうになったら、私を起こしてもいいよ(ただし、優しく起こすことに限る)と、ギュッと抱きしめながら伝えたのですが…

 

ドバーーーーーー

 

アベル君が噴水のように鼻血を出して、そのまま倒れてしまいました。

あの鼻血はいったい何だったのでしょうか。

そのすぐ後にアベル君は意識を取り戻しましたが、倒れる直前の記憶が飛んでいるらしくアベル君自身も覚えていませんでしたし…謎です。

おかげで、変な空気が吹き飛んだの不幸中の幸いでしたけど。

 

ーーーーー

 

アベル君が快適に過ごせるよう家の改装に取り掛かった結果www

 

 

 

「ママー、これどこに置けばいいのー」

 

母親になりましたwww

 

題名をつけるとしたら。

『【意味不明】家の改装をしたら急に子供生まれたwwwwwww【カワイイ】』

という感じ。

 

どういうことなの。

 

ちょっと人手が欲しいと思って、久しぶりに体の一部を分離させて分身したら、自我を持っちゃったのですけど。

しかも私のことをママとか言い出すし。

 

凄く可愛いし、アベル君がいなくなった今としてはその存在にとても助けられているのは事実なのですが、解せぬ。

どうして突然自我を持つ分身が産まれたのでしょうか。

見たところ、普通の分身と違って私を幼くした見た目をしていて確かに私の子供といった感じですが、普通に分身しただけで何か特別なことをしたわけではありません。

あえて言えば、そろそろ分身したいなーと少し思ったぐらいでしょうか。

まったくもって意味不明です。

スライムって、元々こういうものなのかな?

 

でも可愛いからまあいいか。

特に目つきとかアベル君みたいで、いい感じだし。

「ねえママー聞いてる?」

「聞いてるよ。ママがイヨのことを無視するわけないじゃない。その木の実は、そこの隙間に詰め込んでおいて」

「はーい!」

 

新しく生まれたこの子は、イヨと名付けました。

イヨは可愛いだけではなく、腕っぷしがよく、頭もいいです。

戦闘経験が少ないためまだまだですが、生まれてまだ1ヶ月にしては魔獣を狩る力はかなりモノです。

なので、一緒に狩りに出かけたり、家具の材料になりそうなものを捕りに行ったりしています。

そして頭もいいため、私の教えたことをどんどん覚えていきます。

 

「強い魔獣や怖い人間が襲ってきたら、この祠に隠れること。入り口が狭いから大きな魔獣は入ってこれないし、体の形を変えたら岩の隙間に隠れることも可能よ。お腹が空いても、さっき詰め込んだ木の実を食べて、できる限り外には出ないでね」

「わかったー」

「それと、そこにある宝玉に触ると地下に続く階段が現れるけど、その先はママも修行場になっているということ以外はどうなっているか知らないの。だけど、ここでも危ないと思った時は逃げ込むこと」

「はーい」

イヨの頭の良さは、こうして一度教えたことは二度説明しなくても大丈夫なぐらいです。

可愛くて強くて頭もいい、絵に描いたようないい子のイヨとの生活はとても素晴らしいものですが、実は一つだけ問題があります。

 

「ねえママ、今日もパパのこともっと教えて?」

「え、えーとね」

アベル君のマントを嬉しそうに羽織りながら聞くイヨに、安直に嘘を教えるんじゃなかったと、私は心底後悔しました。

イヨは頭がいいため、魔獣の番を見て、自分にも父親がいるはずだと考えてしまいました。

父親はどんな人だろう、優しいママの番になった人だから、きっと素敵な人なんだろうなとイヨは想像の翼をはためかせていきました。

そんなイヨに「あなたがどうして生まれたのか分からないの。多分、分身が偶然自我を持っただけなの」なんて残酷なことは言えませんでした。

言えないので、イヨの「パパはどんな人だったの?」という質問に沈黙で返答していたのですが、イヨが「どうしてママは黙っているの、まさか私は望まれて生まれて来たんじゃなかったの」と泣き始めてしまいました。

産まれて初めて泣き出したイヨの姿に慌てた私は、思わず即興で考えた嘘をイヨに教えてしまいました。

 

 

パパは、人間の騎士。

馴れ初めは、ママが料理をしていたところお腹を空かしたパパがやって着て、ご飯を食べさせてあげたこと。

その後パパとママは共同生活を始め、その中でお互い惹かれ合うようになった。

余談だけど、イヨが気に入って身に着けているマントとネックレスは、愛するパパがママにプレゼントしてくれたもの。

お互い惹かれ合っていたけど、実は森の外では人間と魔族は戦争になっていて、人間のパパと魔族のママが愛し合うことは許されなかった。

特に人間は魔族のことを嫌悪していて、愛し合っていることが人間にバレれば、パパは最悪の場合殺されてしまう。

だから、ママはパパへの気持ちをずっと秘密にしていた。

パパのママへの気持ちはバレバレだったけど。

そうして何年か時が過ぎたある日、パパがママと一緒に暮らせる世界を作るために戦争を終わらせると言って、人間の国に帰ってしまった。

ママは、そんなことはできるわけがない、このまま一緒に居てくれればいいと思ったけど、人間であるパパは人間の国に帰った方がいい、このままここにいてもいずれ他の人間に見つかって殺されてしまうと思い直し、パパを見送った。

こうしてパパが人間の国に帰った後に、イヨが産まれた。

お互いの気持ちは秘密にしていたけど、パパとママは間違いなく愛し合っていて、その間に産まれたイヨも、間違いなくパパとママが愛し合ってできた子供。

望まれていないなんてことは絶対にないけど、愛し合った(意味深)のがパパが人間の国に帰る直前だったので、パパはママがイヨを妊娠したことを知らない。

でも、イヨのことをパパに教えるつもりはないし、パパの名前をイヨに教えるつもりもない。

それがパパのためだから。

もしも、イヨがいることをパパが知ったら、優しいパパは無理をしてでもママとイヨと一緒に暮らそうとする。

そんなことをすれば、パパは魔族の間に子供を作った裏切り者として殺されてしまう。

パパに危険が及ぶことを考えたら、パパに会えないことぐらいママは平気。

それに、ママなんて魔族の女より、同じ人間の女の人と家庭を作った方がきっとパパが幸せになると思うから…

ごめんね、ママの我儘にイヨを巻き込んじゃって。

駄目なママでごめんね。

 

 

前世のファンタジーRPGや小説を下書きにした架空ストーリーを説明したところ、イヨは納得してくれました。

最初はこんなに長々と説明する気はなかったのですが、イヨのご機嫌を取ろうと必死になっている間にどんどん説明が伸びていく事態になってしまいました。

しかも、その後もパパの話をもっと聞きたいと、せがまれることが増えて更に墓穴を掘りまくっている状況です。

それはとにかく、このパパは誰かに似ているような気がしますが、気のせいです。

 

 

嘘です。

だって仕方がないじゃないですか。

私の貧相な想像力では、即興で一から架空の人物を作り上げるなんて無理だったんです。

むしろ、ここまで即興で作り上げたことを褒めてもらいたいです。

名前は秘密にしたし、存在も秘密で娘だと言ってはいけないということにしたから、イヨからアベル君にばれることはきっと無いはず。

万が一アベル君が聞いても、アベル君にとっては私は恋人ではなく姉ですから、自分のことだとは思わず「おめでとうマユお姉さん、まさか一生を誓いあいたいと思うような人がいたなんて知らなかったよ。突然姪っ子ができて驚いたけど、自分のことのように嬉しいよ」とちょっとぐらい驚きながらも、祝福してくれるでしょう。

 

いやいや、まずそういう事態になったら、事情を説明すべきですね。

こんな、三文芝居のようなストーリーなんて、生まれたばかりのイヨならとにかく、アベル君ならすぐに作り話だって気が付くでしょうし。

 

「ママ?さっきからどうしたの?疲れたの、それともパパのこと思い出して寂しくなっちゃったの?」

「もう、イヨったらそんな気遣いまでできるなんて、本当にママ自慢の娘ね。でもママは大丈夫だから安心してね。えっとパパのことよね、そうねそれじゃパパと釣りをした時の話をしましょうか。ママが釣竿を振ったら、針がパパのズボンに……」

アベル君にしっかりと事情さえ説明しておけば、こうやってどこかで聞いたような話が増えても、きっと何とかなるでしょう。

 

ーーーーー

 

小高い山に、棚田のようなものが幾つも作り上げられていた。

あれらが棚田であれば牧歌的な景色だっただろうが、残念ながら棚田ではなかった。

岩で補強されたそれは、頂上にある砦を守るために作り上げられた防御施設だ。

僕は、そこで自らが行う恐ろしい行為を想像して、憂鬱な気分になった。

「どうしたんだい、浮かない顔をして」

どこか女性を思わせるような口調と、まるで女性のような髪型をした優男が僕の横に並んだ。

「ネス…やらなくてはいけないこととはいえ、これから沢山殺すのだと思うと、胸が締め付けられる思いだよ」

「なるほど、でも魔王を倒すためにはここを突破するしかない、そうしなければ愛しの君も守れないのは分かっているのだろ」

「ば、馬鹿。愛しの君とか…マユお姉さんは、僕の大切な人だけど…そんな恥ずかしいいことはっきりと言うなよ」

「恥ずかしがるアベルは可愛いな、それを独占できるマユオネエサンは羨ましいよ、まったくね、本当に…」

「ネス?」

「どうかしたかい?」

「いや、何でも」

またこの気配だ。

ネスから立ち上がった黒い気配に、嫌な想像がよぎった。

ネスは僕の理解者であり、親友だ。

男のくせに僕を可愛いとか言ったり、妙にベタベタしてきたりと変なところがあるが、魔族への考え方の違いで孤立していた僕に手を差し伸べてくれた人だ。

だけど…妙だ。

今の僕は、戦いの中で勇者としての能力が次々に強化され、敵意や邪悪な気配を敏感に察知できるようになった。

例えば、これから攻める砦の方からは、敵や悪意、そして恐怖といった負の感情がごちゃ混ぜになった気配が漂ってくるのを感じることができる。

また逆に、2か月程前に数年ぶりに会うことができたマユお姉さんからは、とても暖かい気配を感じ取ることができた。

親友であるネスも、マユお姉さん程ではないものの、暖かい気配がしていた。

していたのだが、最近ネスから黒く禍々しい気配が流れ出てくることが多い。

まるで負の感情を壺に入れドロドロに煮込んだような気配だ。

僕の力が上がって、巧妙に隠されていたものを読み取れるようになったのか、それともネスが変わってしまったのかは分からない。

どちらにしても、とても嫌な感じがする。

「急に黙り込んで、体がどこか悪いのかい?」

「あ、いや、考え事をしていたんだ」

「マユオネエサンのことを考えていたんだね?」

「ま、まあそうだね、心配だからね」

咄嗟に嘘を言って誤魔化す。

だけど、マユお姉さんが心配なのは事実。

万が一人間に見つかったらと思うと、とても心配で夜も眠れなくなる。

「大丈夫さ、あんな森の奥に隠れているんだ、誰かに見つかる心配なんてないさ」

そうだな、僕しか知らないあそこなら、きっと大丈夫なはず。

 

え?

 

「そんなことより、まずは自分の心配をしないと。明日はいよいよ砦攻めだ、勇者の力を持ってすれば万が一はないだろうけど、しっかりと休んで万全の体制を整えるんだ、いいね」

ネスは僕の肩をポンと叩くと、そう言い残して去って行った。

彼の僕を心配する態度いつも通りだったが、今の僕にとっては何もかも胡散臭かった。

 

どうしてネスは、マユお姉さんが森の中に隠れていると知っていたんだ。

マユお姉さんの居場所について僕はネスであっても知らせないようにしていたのに。

言いようがない不安が心の中に駆け巡った。

 

まさか!

不安に後押しされるままに剣を取ると、僕はそのまま野営地を飛び出した。

研ぎ澄まされた勇者の直感が、激しく警報を鳴らしていた。

 

ーーーーー

 

イヨが産まれて2ヶ月程経ったある日。

私はイヨの勉強机に使えそうな木を探していました。

闇雲に森を歩いても仕方がないので、何度か背の高い木を登って加工しやすそうな木を探していたところ、谷川を渉っている人達が見えました。

 

「アベル君とは違う、どうしてこんなところに人が」

何者か分かりませんが、彼らがこのまままっすぐ進むと私達の家にたどり着いてしまいます。

もしもあれが悪意のある人間なら、家にたどり着かせる訳にはいきません。

家にはイヨが居るからです。

だから私は思い切ってあの人達と接触し、何者であるか調べることにしました。

ですが、直接接触するのは危険なので、久しぶりに分身を使うことにします。

イヨ以来、また自我を持ってしまうことを恐れて控えていましたが、仕方ありません。

 

「わーい、ワタシ分身ちゃんだよ、コンゴトモよろしくぅ」

出てきた分身は私の思う通りに喋り、動きました。

よかった、昔の分身と同じ、自我のない普通の分身のようです。

早速分身を件の人間達のところに向かわせると、分身と共有している視界には、人の良さそうな顔をした小太りのおじさんと、その部下らしき痩せたおじさんの二人が映し出されました。

二人とも旅の商人といった雰囲気を醸し出しています。

はてさて、いったい何をしにここに来たのでしょうか。

ここには、商売をする相手など居ないはずなのですが。

 

「その出で立ちは、まさかあなたは、マユオネエサンではありませんか?」

小太りのおじさんの発言に私は驚きます。

私の名を知っていることもそうですが、その名を知っているということは、おじさん達はアベル君の関係ということになるからです。

「そうですけど?」

「これはこれは、今日は幸運に恵まれていますねぇ。森が思った以上に深いのでどうなるか心配していたのですが、いやあ~良かった良かった」

「あの、それで私にどういったご用でしょうか」

「おっと失礼。実は私達は手紙を預かっていまして。こちらです。勇者様からのお手紙です、どうぞお納めください」

わーい、アベル君からの手紙だーーーー……って勇者って誰だぁ!!!!

私は勇者の知り合いなんて居ないし!

てゆうか勇者から私宛に手紙来るとか、どう考えてもヤバい状況でしょ!

これってやっぱり、知らない間に勇者に目をつけられたってことだよね!

人間にとっては勇者はヒーローですけど、私達から見たら絶対に会いたくない相手です。

そんな人からの手紙なんて絶対に読みたくない。

きっと書かれている内容は『お前で、2400人目だ!』といった感じで、私の殺害予告とか書いてあるに決まっています。

今すぐ逃げねば。

 

「おやぁ?どうかしましたか?」

私の焦りを反映して、思わず後ずさってしまった分身を不審に思ったのか、小太りのおじさんが声をかけてきます。

しかし私はそれを無視しました。

申し訳ないのですが相手をしている場合ではありません。

それじゃ、名前も知らないおじさん達さようなら。

心の中で手紙を持ってきてくれたおじさん達に謝り、踵を返して逃げようとしたその時、私は違和感を感じました。

おじさんは二人いたはずです、なのに分身の目の前にいるおじさんは小太りのおじさんのみ。

もう一人の痩せたおじさんはいったいどこに?

 

その答えは、激痛と共にすぐに分かりました。

「痛い!」

何これ、やばい!

 

背中に走った鋭い痛みに、私は思わず分身のコントロールを手放しかけました。

私は慌てて背中を確認しますが、そこには何もありません。

 

ならばこれは、分身が受けている痛みってこと!?

そう気が付いた私は、慌てて痛覚の共有を遮断し、分身に周囲を確認させます。

分身はコントロールを手放しかけた際に転倒したようですが、すぐに何が起きたのか分かりました。

なぜなら、赤く怪しく光るナイフを持った痩せたおじさんが、倒れた分身をのぞき込んでいたからです。

 

「いい声だぜ。兄貴、この女も楽しみながら殺してもいいんだよな?いい体してやがるからさ、俺もう我慢できないぜ」

「いけませんねえ竜神様の教えにも『仕事は真面目にすべし』とあるじゃありませんか。ですが、私も勇者様を篭絡した体には興味がありますねぇ」

「流石兄貴分かってる。魔族の女など汚らわしくて触るのすら嫌だと言う、あの副騎士団長殿とは違うぜ」

「こらこら、直属の上官ではないとはいえ、大切な依頼主様なのですから、そのように言うのはいけませんよ。それと一つ訂正しておきますが、あの方は人間の女も触れるのが嫌だとか、おかげで今回の仕事は稼がせてもらいました」

「ははっ、なるほど流石兄貴だ。仕事の内容のわりに商売敵が誰もいなくて変だと思ったが、それをネタに独占契約を結んだってことですか!」

「褒めても何も出ませんよ、さあ依頼主様に感謝して仕事の続きをしましょう。魔族の仕業のように工作するまでが仕事ですからね、先は長いですよ」

「金がもらえて、女も抱き殺せるんだ、副騎士団長には感謝しておりますよっと」

私が痛みで起き上がれないと勘違いしているのか、おじさん達は何事か軽口を言い合っています。

軽口の内容は聞き逃してしまいましたが、軽口に時間を取ってくれたおかげで、その間に冷静さを取り戻すことができました。

 

「マユオネエサン、体を使って勇者様を篭絡するとは、魔王軍にしてはなかなか頭が切れるようですね。ですが、それが原因で私達に依頼が来るとは運が無かったですねぇ。天国を味わいながら天国に連れて行ってあげますので、それで勘弁してください。おっといけない。天国ではなく、女としては生まれてきたことを後悔するほどの地獄の間違いでしたか」

ニタニタとした気持ち悪い笑顔をしながら、小太りのおじさんが私に冥途の土産か何かを言っていますが、私はそれを聞き流します。

なぜなら、そんなことを聞くより、今はどうやってこの場を切り抜けるか考える方が大切だからです。

私を刺した赤く光るナイフは、恐らく何か特別な力があるナイフ。

そして、それを扱うおじさん達も相当の腕利き。

まともに戦ったら勝てそうにありません。

 

しかし、幸いなことに彼らはあれが分身だとは知りません。

適当に分身を逃げ回らせて、時間を稼いだうえで彼らに倒されればいいのです。

本体である私は、その間に逃げればいいわけですので。

 

「捕まらないんだからー」

「ばかな、『激痛のナイフ』で切られたのに!」

突然逃げ始めた分身におじさん達は呆気にとられたようですが、すぐに追いかけ始めました。

おじさん達が家とは別方向に誘導されるのを確認すると、私は家へと向かいます。

何故ならそこにイヨがいるからです。

家に着いたらイヨを連れ出し、祠へと逃げます。

あそこは岩の隙間が多くて、スライムが隠れるには絶好の場所ですから。

 

祠に逃げる計画を立てていた私ですが、家についた時点で愕然としました。

家の中にイヨがいません。

壁に掛けてあるアベル君のマントもありません。

どうやら、どこかに遊びに行ってしまったみたいです。

「この大事な時に、いったいどこにいっちゃったの!?イヨ!!どこなのー!!返事してー!!」

私の声は虚しく森の中に響くだけでした。

「どうしよう…」

私が絶望しかけたその時です。

不幸なのか幸運なのか判断に迷う状況ですが、なんと分身と共有している視界にイヨの姿を捕らえました。

木登りをして遊んでいたらしく、おじさん達から逃げる私を木の上から驚いた様子で見ています。

駆け寄りたくなりますが、駆け寄ることも声をかける訳にもいきません。

何故ならイヨの存在がバレてしまうからです。

 

私は一か八かの賭けに出ました。

「くそーこんな奴ら、隙間かどっかに隠れれば、簡単にやり過ごせるのにー」

あえてイヨに聞こえるように大声で言った独り言は、確かにイヨの耳に届いたようでした。

視界の端で、イヨが頷くのが見えました。

イヨは祠に逃げろという私のメッセージを理解したようです。

流石イヨ、私の娘です。

 

後は、このまま分身を遠隔操作しておじさん達を明後日の方向に誘導しながら、私は祠に向かえば解決です。

一時はどうなるかと思いましたが、これで何とかなりますね。

 

ーーーーー

 

「止めて、酷いことしないで」

「おらっ暴れるんじゃねえ」

暴れる分身を、痩せたおじさんが馬乗りになりながら取り押さえます。

祠に逃げるまで分身には頑張ってもらいたかったのですが、おじさん達の方が一枚上手だったらしく捕まってしまいました。

そして、おじさん達は下半身の一部をむき出しにし、R18的な展開が始まろうとしています。

 

分身とはいえ見るのは辛い状況ですが、いきなり分身が倒されてしまうより好都合です。

逃げるために分身には少しでも時間を稼いでもらわないといけませんから。

 

「エロ同人みたいなことをするのね!そんな嫌、許して」

「訳の分かんないこと言ってるんじゃねえ!」

 

私は必死に分身を演技させます。

そうこうして数十分、やっと祠にたどり着きました。

そのころには分身の方はR18からその後ろにGが付くような展開になりつつあり、ちょっと精神的に辛いです。

ですがそんなこと言っている場合じゃありません。

 

イヨの姿がどこにもありません。

 

「イヨ、どこかに隠れているの??」

遠隔操作のため所々で立ち止まりながら祠に向かっていた私より、イヨの方が先に到着しているはずです。

それなのに見当たらないということは…

 

「まさか、この下にいるの?」

私は、まさかとは思い宝玉に触れます。

すると、アベル君が修行していたという秘密の場所につながる下りの階段が出現しました。

 

「イヨ、ここに隠れているんでしょ、ママだよ、返事して!」

返事はありませんでしたが、イヨを探すために階段に飛び込み、転がるように下って行きます。

訂正します。

途中で躓いて、本当に転がりながら階段を下って行きました。

体中が階段に当たって痛いですが、スライムの体が衝撃を吸収してくれるので、なんとか痛みだけで済みます。

そして、階段を下りきったところにある扉を転がったまま突き破り、その先にある小部屋にたどり着きました。

 

『ワガシレンヲコエヨ』

すると、頭の中に重苦しい声が響きました。

「誰!?」

私は声の主を探しますが、誰もいません。

代わりに、私の足元に魔法陣が現れ…

 

 

いかにも異空間といった感じの場所に転送されてしまいました。

『イチノシレン、モンバンヲウチタオセ、サスレバ、ニノシレント、ソトヘノミチハヒラカレン』

 

あ、間違ったかな?

…………

………

……

って、大間違いだよこれ!!

ここって、アベル君が通っていた修行場の中だよね。

どう見てもイヨは来てなさそうだし、門番倒さないと出れなさそうだし。

どうしよう!!!

こうなったら、分身をなんとか離脱させて、分身にイヨを見つけさせて、それからアベル君に助けを求めて…

って、『圏外』になってるよこれ!?

分身との接続切れてるじゃない。

これじゃコントロールどころか、分身解除されちゃってるよ!

 

落ち着け、こういう時こそ落ち着かないと。

門番を倒せば出れると声は言いました。

それ以外の脱出方法は今のところは無い。

ならば今できることは、全力で門番を倒すのみ!

待っててイヨ、すぐにママが迎えに行くからね!

 

マユお姉さんの攻撃!

会心の一撃!

門番に0のダメージ!

 

…アカン。

 

ーーーーー

 

ドシャり

 

男達から凌辱の限りを受けていた愛しい人は、突如その命を散らしたかの如く、崩れ落ちた。

青く宝石のような美しい体は、ただの液体へと還って行った。

 

うわああああああああああああああああ

 

耳障りな叫び声が自分の耳を突く。

それが僕の声だと気が付く余裕も、僕にはなかった。

僕は全速力のまま痩せた男に飛びかかると、奴が何かを言う間もなくその首を跳ねた。

そして小太りの男の両手を聖剣で跳ね飛ばすとこう言った。

「ネス教会副騎士団長の指示か」

小太りの男は、自分は悪いことだとは思っていた、しかしネス教会副騎士団長の命令だったので仕方なく従っただけだ、自分は何も悪くないと言い慈悲を乞うた。

「楽しそうに腰を振っていたのに、仕方なく従っていただって?」

醜く、反吐が出るような嘘だった。

そこで僕は気が付いた、初めて人を殺めたことに。

そして、それに対して何の忌避感も無いことに。

やはりそうだ、人だから善、魔族だから悪という考えは間違っている。

魔族でありながらもマユお姉さんは善であり、人でありながらもこいつらは悪だ。

善人は善であるから善であり、悪人は悪だから悪なのだ。

僕は小太りの男を怒りの限り両断すると、その場に崩れ落ちた。

 

そして僕は泣いた、体の水分が全て流れ出ているのではないかと思う程泣いた。

すると不思議なことが起きた。

僕以外の鳴き声が聞こえるのだ。

涙でゆがむ視界の先にいたのは…

 

「僕?」

そこに見えたのは、幼き日に僕が身に着けていたマントを着た子供。

いや、女の子のスライムだ。

 

「ママ!ママ!ママー!!」

既に地面のシミになってしまったマユお姉さんに縋り付きながらその子は泣いていた。

自分より幼い子が泣きじゃくっているためか、次第に冷静になっていく。

そして勇者としての自覚が、僕を動かし始めた。

僕はその子に近づくと、何も言わずに抱きしめた。

 

「ううう…うわーん!!!」

女の子が泣き止むことは無かったが、それでも僕はただひたすらその子を抱きしめ、共に涙を流し続けた。

 

 

 

 

そして夜になった。

僕達はマユお姉さんの遺骸が滲み込んだ土を、僕達の家の前まで運び埋葬した。

すると、女の子がぽつりぽつりと、独り言のように話し始めた。

 

とてもやさしいママだった。

そんなママを助けようと、逃げろと言われたのに途中で引き返してきた。

なのに足がすくんで何もできなかった。

ママが恐ろしい目に合って殺されるのを見ているだけだった。

自分は駄目な娘だ。

ママは自慢の娘だっていつも言ってくれたけど、最悪の娘だ。

 

僕はそれを必死に否定した。

逃げずに踏みとどまっただけでも凄いことだと、それに本当に悪いのは自分だと白状した。

 

お腹が空いていたのをきっかけに君のママと会い、ずっと一緒に住んでいたこと。

ママの元を離れることになった後は、人と魔族の戦争を終わらせようと動いていたこと。

しかし、僕の行動を不審に思った教会上層部がつけた監視役を、愚かにも理解者だと思い込み君のママの存在を教会に感づかせてしまったこと。

そして勇者である僕が心を寄せる危険な存在として教会がママの抹殺に動き、助けに来たものの間に合わず殺されてしまったこと。

 

僕の間抜けさがママの命を奪ったと、女の子から罵倒されるのも覚悟で真実を話した。

話さなければ、罪の意識に自分自身が堪えられなかったからだ。

 

僕は女の子から罵倒される時を待った。

ところが…

 

 

「パパなの…?」

女の子は両目を大きく見開き、信じられないものを見たという表情で僕を見ていた。

その顔はマユお姉さんに似ていたが、幼い時の僕にも似ていた。

 

まさか。

まさかまさまさかまさかまさかまさまさかまさか。

マユお姉さんをママと呼ぶ女の子。

父親が誰なのかと気にならなかった訳ではない。

でも聞くことはできなかった。

マユお姉さんを失っただけではなく、マユお姉さんが僕ではなく別の誰かと愛し合い子供を作っていたという事実までも受け入れてしまったら、僕はどうなってしまうか分からなかったからだ。

 

なのにこの子は何と言った。

僕がパパだって!?

 

「君のパパの名前は?」

「知らないの、秘密にしなくちゃいけないってママが…。パパに迷惑がかかるから、子供ができたことは絶対に知らせちゃ駄目だって」

それから女の子の口から次々と語られた真実に、僕は経験したことが無いほどに驚かされた。

 

マユお姉さんも、僕のことを愛してくれていたのか。

なのに僕のことを考えてその気持ちを心の奥に隠し、あの時の過ちで出来た子供のことも秘密にして一人で育てていたなんて。

 

『戦うことなんてやめて、前みたいにここで一緒に住もう!』

マユお姉さんの素朴な願い、愛し合う人と一緒に居たいという思い。

そのことに気が付かないばかりか、僕が愚かだったばっかりに全てを失ってしまった。

僕は…僕は…

 

「パパ…」

いや違う。

まだ全てを失ったわけじゃない。

まだこの子がいる。

 

「ごめんね、今までほったらかしにしてごめん。僕がパパだよ」

せめてこの子だけでも守らないといけない。

例え全ての人を敵に回したとしても。

 

人の血で染まった勇者の剣が妖しく光っていた。

 

ーーーーー

 

異世界でニートになるとか、まるでラノベみたいですね。

私は小さな小さな小部屋に引きこもっております。

ざっと数年ほど。

どうしてこんな事態になったのかというと、策士策に溺れるというか、脱出のために頑張った結果こうなってしまいました。

 

イヨを探してたどり着いた修行場は、見たこともない不思議なダンジョンでした。

ダンジョンに入った後に聞こえてきた不思議な声とその後の調査によって、このダンジョンはいくつものフロアが数珠つなぎになっていて、一つのフロアをクリアする毎に外への出入り口と次のフロアへの通路が現れるという仕組みになっていることが分かりました。

つまり、最初のフロアさえクリアすれば外部への脱出口が開くということになります。

 

さてここで問題です。

スライムで、最初のフロアボスである門番(ゴーレム騎士)を倒せるでしょうか。

答えは…無理でした。

 

 

イヨのことが心配なので、早く脱出しようと百回以上挑んだのですが、百回以上死にかけました。

結論。

スライムの能力では、逃げ回ることはできても、倒すことは不可能です。

というかですね、この最初の試練では剣技を学ぶのが目的らしく、剣を持っていない普通のスライムが素手で戦ってクリアできないのは当たり前なんですけどね。

 

そこで今度は作戦を変えて、奴に対抗できる武器が無いか探し始めました。

剣技を学ぶ試練だからか、早速入り口近くで普通の剣を見つけましたが、こんな剣でボスを倒せるほど私は剣に慣れていません。

なので更に良い剣を探し続けた結果、ボスの後ろにこのフロアのクリア報酬と思われる一際大きくて立派な宝箱があることに気が付きました。

剣技を学ぶフロアならクリア報酬は強力な剣だろうと考え、ボスをすり抜けてクリア報酬を手に入れ、それでボスを倒して脱出するという作戦を立てました。

ボスの攻撃をかわしながら宝箱にたどり着くと、体の一部を鍵穴に突っ込み強引に解錠しました。

昔、家の隠し部屋の鍵を開けた方法と同じです。

宝箱の中に入っていたのは魔法が掛かっていそうなショートソード。

これだと思った私は、体ごと宝箱に入りショートソードをゲットしました。

これでかつる!

我ながら、素晴らしい発想と行動力に惚れ惚れします。

 

ところで、宝箱に入った私はおのずと動きが止まってしまいます。

つまりピンチです。

ピンチではありますが、超絶天才美少女スライムの私には死角はありませんでした。

ボスは動きの止まった私を攻撃しようとしてきましたが、宝箱の蓋を閉じて華麗に防御して難を逃れたのです。

 

はい、もう一度言います。

宝箱の蓋を閉じました。

閉じました。

閉じ込められました。

 

閉じてから気が付いたのですが、宝箱って内側には取手も鍵穴もなーんにもないんですね。

ガチャリという音と共に、うんともすんとも開かなくなりました。

詰みました。

このダンジョンの不思議パワーでお腹が空いたりとか窒息したりとかしないのですが、これはもう駄目ですね。

当初はボスの門番が、外から攻撃してくれて宝箱を破壊したり、突然隠された力が覚醒することを期待したのですが、ダメダメです。

事実もう何年か分からないぐらいこの状態です。

 

はぁ…

イヨはどうしているでしょうか、私と違って優秀な子ですから、一人でもきっと元気に育っているでしょうけど、もう二度と会えないなんて…

アベル君もどうしているでしょうか。

お互い無事な姿で再会したかったのに…

「イヨ、アベル君、会いたいよ…」

スライムだからなのか、それとも前世で似たようなことでもあったのでしょうか、閉じ込められることに耐性があったらしく、これまで何とか堪えることができました。

なのですが、それでもやっぱり徐々に精神的に追い詰められていたようです。

イヨやアベル君と二度と会えずに、ここで人知れず死んでいくのだと思ったら、ぽろぽろと涙が出てきます。

止めようとしても、止まりません。

「誰か助けて、グスッ…」

 

 

 

「あれ、もしかして誰かいるの??」

「え?」

 

ギギー

 

見上げると、ここ何年も私を圧迫していた宝箱の蓋が無くなり、女騎士のような服装をした水色の女の子が宝箱の中をのぞき込んでいました。

この子、どこかで見たような気がします。

女の子も私に見覚えがあるのか、目を何度もこすって私を見ています。

 

「夢じゃないよね。まさか、ママ?」

この声、そしてその容姿…まさかあなたは!?

「イヨなの?」

 

「ママ!!信じられない、どうして、何で!?嘘!?ママ!!ママ!!!!!!!!!!!」

 

どんっと音がするほど勢いで、私に女の子が飛び込んできます。

私とよく似た背格好をしながらも、少し幼い感じがする少女は、間違いなくイヨです。

何がどうなっているのかさっぱりですが、とにかく無事でよかった。

 

「よかった、本当によかった」

「ママ、それはこっちのセリフだよ、だってママ、怖い人達に酷いことされて、殺されて…ううっ、うううっ…」

え?

私が殺された??

ナニソレ??

「イヨ?ママは殺された記憶は無いのだけど」

「何言っているのママ!?」

イヨに殺された記憶がないと言ったら凄く驚かれました。

いやいやいや、イヨには悪いけど驚くのはこっちの方です。

本当に殺された記憶なんてありませんし。

「ママは殺された記憶がないの?」

「だから、本当に記憶なんて無いから」

というやり取りを繰り返すこと数回。

「だからママは殺されてないって、ここ数年なーんにも食べてないけど、すっごい元気なんだよ!」

「あ」

イヨが何かに気が付いたらしく、先ほどまで明るかった表情が、絶望したものへと変わっていきます。

どうしたのでしょうか?

「そうだ、そもそもママは生きているはずがないんだ」

「イヨ?」

「ママは幽霊なんだ、まだ自分は生きていると思っているから、こうやってダンジョンをさまよっているんだ」

「おーい?」

「成仏させなきゃ」

イヨさん?

ママに刃物を向けるのは良くないと思うわよ?

目がグルグルしているイヨが、「成仏」とか言いながら腰の剣を抜いて私に向けます。

待ってイヨ、ママ生きているから、本当だから。

「成仏してねママ!!」

「ピギーーーーーーーーー!?」

 

ーーーーー

 

「ママごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさーい」

「大丈夫だから、ママはもう怒ってないから落ち着いて」

「本当に?本当にもう怒ってない?」

すっごい痛かったけど、娘に泣きながら謝られたら、流石にもう怒れないわよ。

けがの功名というか、私を斬った感覚が明らかに生身の体っぽかったうえに、斬られて七転八倒する私を見て、イヨは私が幽霊ではないと気が付いてくれました。

私が生きていると気が付いたイヨは、泣きながら私に回復魔法をかけ、私の傷が塞がった後は、私に縋り付きながら涙声で謝り始めました。

最初は、あまりにも理不尽な仕打ちにちょっと腹が立ちましたが、泣きながら謝るイヨの頭をなでている間にそんな気持ちはどこかに行ってしまいました。

 

そんなこんななドタバタした再会劇があったのが数時間前。

因みに、私の生死については、平常心を取り戻したイヨが「ママが生き返った」と自己解決してしまい、その勘違いを下手に否定してまた妙なことになっても困るので…

「そうなの、実は神様が生き返らせてくれたの」

「神様?あの竜神がなんで?そんなことする奴じゃないのに」

「あ、えーと、竜神じゃなくて別の神様、誰だか分からないけど、あれは間違いなく神様だった(キリッ)」

「そうなんだ、誰だか分からないけど、神様ありがとう…ううありがどう!!」

といった感じで適当に話を合わせて嘘をついてしまいました。

うまく騙せたのはいいのですが、こんな簡単な嘘に騙されるイヨの将来がちょっと心配です。

 

それはとにかく、私たち親子はこれでもかというほど再会を喜び合いました。

そして喜び合った後は、親子そろっての生活に戻ることになりました。

ところは、状況は斜め上に進んでいきました。

「もうすぐパパに会えるねママ。楽しみでしょう?」

「そうね…」

「ママ?どうしたの?あまり嬉しくなさそう」

「そうなことないわよ、ちょー嬉しいー!でも疲れちゃったかなー?」

「あ、ごめんねママ。そうだよね、疲れているに決まってるよね、ちょっと横になってていいよ、着いたら起こしてあげるから」

存在しない神様に感謝の祈りを捧げた私は、その後強引に服を着せられ、またまた強引に空飛ぶ馬車に乗せられパパのところへ向かっています。

向かう先は魔都。

そこにパパがいるそうなのです。

なるほど。

 

ところで、パパって誰?

なーんて、とてもこの状況で聞けない。

魔都にいるなんて魔王と…えーと、そう、イツウさんしか知りません。

 

しかし私が閉じ込められている間に、イヨにいったい何があったのでしょうか。

ダンジョンから出たら、RPGの最終ダンジョンに出てくるような魔族達に囲まれました。

ドラゴンに、角がいっぱい生えたムキムキの魔族に、大魔法使いといった感じの仮面の魔族などいった、とにかく凄そうな面々です。

思わず悲鳴を上げかけましたが、全員イヨの護衛だから安心しろとかいうのです。

今のイヨの立場って一体何なのでしょうか!?

イヨに聞いても、魔都についてのお楽しみとしか教えてくれません。

 

イヨに勧められるまま横になって数刻、ついに魔都の入り口までやってきました。

何年かぶりか分からないぐらいに見た魔都は、久しぶりであるためか、記憶の中にある姿よりずいぶん活気があるように感じられました。

事実、魔都の入り口にある検問には長い列ができていました。

「きおーつけー」

「敬礼」

驚いたことに検問の兵士達が左右に分かれて敬礼する中、馬車はどうどうと検問を越えていきます。

もちろん、長い列に並んだりしません。

検問を完全にフリーパスです。

何なんでしょうか、訳が分かりません。

私が困惑していると、街の奥から一台の馬車が猛スピードでやってきました。

馬車から慌てた様子で顔を出したのは、イツウさんです。

恩のある人ですが、まさかこの人がパパということじゃないですよね?

失礼ですがイツウさんはパパよりパパ(意味深)の方が似合う感じで、正直イヨのパパとか言われたら通報したくなります。

 

「姫様ー」

 

え、姫様!?

誰が!?

 

「あ、バラしちゃ駄目だよイッツさん」

イツウさんに応えたのは、なんとイヨでした。

つまり、イヨが魔族の姫様!?

といことは、イヨが姫ならパパは魔王ということに…

つまりバカなカバが魔王でパパですか。

こんなところにいられません、私は一人で帰らせてもらいます。

 

「イヨ、私パパに会わなくていいから帰るね」

「ママ何言ってるの、大丈夫だよ、もうパパとの関係を隠す必要はないんだよ」

隠すも何も、元から関係なんて何もないです。

イヨをここまで育ててくれた恩はありますが、それ以外の気持ちなんてないです。

そもそも、母親が私だって知ったら、あの魔王のことだから「よくも俺様の命令を無視して逃げやがったな、お前なんか死刑だ」とか言い出して殺されてしまう可能性があります。

 

「カバは嫌、馬鹿は良くてもカバはダメ」

「ママどうしたの、落ち着いて!?」

イヤイヤと嫌がる私にお構いなしに更にずんずんと馬車は進み、ひと際大きい石造りの円錐形の建物、魔王城にたどり着いてしまいました。

やばい、ついに着いてしまった。

とにかく今すぐ逃げます、絶対に逃げます。

そう思い、勝手に馬車から私は飛び出しましたが…

既に馬車の前には、黒く禍々しい全身鎧で身を固めた騎士が立ちはだかっていました。

「私、悪いスライムじゃないよー!?」

「知ってるよ!!」

 

え…

 

この返し方は…

 

「ただいま、マユお姉さん」

 

ただいまと私に言ったその人は…

 

会えないのではないかと思っていたその人は…

 

「アベル君…」

 

相変わらず女の子のような綺麗で幼い顔をしつつも、まるで王様のような貫録を持ったアベル君でした。

 

「おかえりなさい、アベル君」

 

私はそう言うと、人目も憚らずアベル君を抱き返していました。

私の頭の中は、何がどうなってこうなったのかさっぱり分かりませんでしたが、アベル君がいてイヨも無事だった、それだけで十分でした。

 

ーーーーー

 

結婚式。

それは人生の一大イベント。

 

結婚式。

それは愛する人と一生を共にすることを誓う場所。

 

アベル君と再会し、疲れからか、ろくに話もせずに泥のように寝てしまった次の日。

朝食の場でアベル君は私とアベル君の結婚式を盛大に行うことを宣言してしまいました。

どうしてこうなった。

 

簡単にまとめると。

まず、アベル君とイヨは私が死んだと勘違いしました。

そしてイヨのパパがアベル君だと勘違いし、更に私がアベル君を好きだけど魔族と人間の違いから隠していたと勘違いしました。

そのため、アベル君はイヨを守るため人を裏切って魔族の一員となり大活躍します。

その活躍っぷりは、次期魔王候補などと噂される程だったのですが、人間であるため、なかなか信頼されず魔界での地位は決して高くなかったそうです。

ところが、カバ魔王がイヨを強引に手籠めにしようとし、それにアベル君が激怒しカバ魔王を抹殺。

魔王が殺されて大混乱かと思いきや、イッツさん(イツウさんじゃなかった)がアベル君側について、なんやかんやあってアベル君が魔王に就任してしまったというのです。

こうして名実共に魔界を統べる存在となったアベル君の下には、結婚の申し込みが殺到したそうですが、イヨとその母である私のことを想いすべて断っていたそうです。

そんなところに私が発見されたものですから、私と結婚するのは当たり前と思い込んでいるアベル君は、私の意思確認というか、プロポーズすらなく結婚式の挙式を決めてしまったというのが今の状況です。

 

アベル君が夫になる。

ずっと弟として意識してきて男性として意識してこなかったアベル君ですが、客観的に見たら凄く格好良くて頼りがいがあって、不満なんてまったくないぐらいの優良物件です。

そんな人と結婚できる私は間違いなく幸せでしょう。

 

でもこれでいいのでしょうか。

アベル君はイヨという子供を作ったと勘違いしているから、その責任を取るために私と結婚しようとしているだけのはずです。

本当は私のことを異性として好きになっているのではなく、好きになろうとしているだけなのです。

 

なぜそう思うかと言うと、私が人間じゃないからです。

私はスライムです。

普通に考えれば、アベル君がこんな体に欲情するはずがありません。

事実、アベル君が私に欲情しているところなんて、今まで無かったと思いますし。

 

アベル君はイヨを作ったという勘違いへの義務感だけで結婚しようとし、私は客観的に見たアベル君のスペックだけを見て結婚を受け入れようとする。

これはいけません。

お互いの気持ちが通じ合っていない状態で結婚してはいけません。

こんな結婚をしてしまったらアベル君が可哀そうです。

大好きなアベル君には幸せな結婚をしてもらいたいです。

 

 

だから言わなくてはいけません。

イヨは私とアベル君との子ではなく、ただ私が分裂して生まれた自我のある分身だって。

単細胞生物だから、分裂で増えただけで、自我があるのは何かの偶然なんだって。

アベル君は責任を取る必要は無いんだって。

 

 

とても人前で話せる内容じゃないので、私はその日の夜、アベル君を自分の寝室に呼び、メイド達も下がらせました。

そして昨日一緒に寝たイヨには、パパと大事な話があるから今晩は自分の部屋で寝るように言いました。

再会以来片時も離れなかったので素直に聞いてくれるか心配でしたが、何故かニヤニヤしながら了承してくれました。

そういえば、メイド達も下がるように伝えたら、ニコニコしながらセンスのいいアロマキャンドルを設置してくれたり、やたら入念に私の体に香水塗り付けたりしてくれましたけど、何でこんなことしてくれたんだろう。

まあいいか。

今はこんなこと考えている場合じゃなかった。

 

 

コトっ

考えをまとめるためベッドで横になっていた私は、起き上がるとワイングラスに少し注いだワインを一気に飲み干しました。

これから話す内容はアベル君にとって衝撃的過ぎるので、私としても素面では言いにくいです。

なので、本当は良くないのですがお酒の力を借ります。

 

ふう、少し熱くなってきました。

イヨと再会して以来、ずっと本物の服を着せられていましたが、いつも裸の身としては窮屈ですし、ワインのためか体が熱くて仕方ありません。

 

これから来るのはアベル君だけですから、多少服を脱いでも大丈夫でしょう。

 

そう考えると私は早速上着のボタンを外します。

トントントントン

控えめなノックが部屋に響きました。

ボタンを外したところで、ちょうどアベル君が来たようです。

私は入ってよい旨を伝えると、少しラフな格好をしたアベル君が真剣な表情で入ってきましたが…

私の姿を見て、少し驚いたような表情を見せました。

何に驚いたのか気になりますが、それより大切な話をしなくてはいけません。

大切な話ですからソファーに二人で座って真剣に話さなくてはいけません。

 

ですが失敗しました。

そういえば、私は凄くお酒に弱かったのを忘れていました。

ベッドから立ち上がろうとしますが、上手く立ち上がれなさそうです。

ワインを少し飲んだだけでこれとは我ながら情けない。

仕方ありません、アベル君にこっちに来てもらいましょう。

「ねえ、アベル君こっちに来て」

私はベッドに腰かけると、ポンポンと私の横を叩き、アベル君に私と同じようにベッドに腰かけるように促しました。

アベル君は少しぎこちない様子ですが、私の隣にぴったりと寄り添うように座ってくれました。

これで準備は万端です。

では、始めます。

 

「ねえアベル君、私を見て…」

私の声に応えて、ぎぎぎぎ…と音でも聞こえて来そうなぐらい、ぎこちなくアベル君の顔がこちらを向きます。

その顔は赤く、汗も噴き出ていますが、目はしっかりと私を捕らえています。

様子が多少変ですが、ちゃんと私を見てくれているのを確認した私は、予定通り次のステップに進みます。

 

「アベル君どうかな?アベル君は私の体を抱きたい?私とエッチなこと、できるかな?」

アベル君の不意を突く形で、とても恥ずかしいことを聞きました。

次のアベル君の反応は予想ができます。

不意を突いた私の発言に、アベル君は激しく動揺するはずです。

 

なぜなら…

 

人間の男であるアベル君は、スライムである私の体に欲情できない。

アベル君にあるのはイヨという子を作ってしまったという負い目と、私という姉に対する家族愛だけ。

しかし私を傷つけてしまうため、それらの本音を私に言うことはできない。

だから、アベル君は回答に窮して動揺するということです。

 

アベル君が動揺したのを見届けたら、私はすかさず実はイヨはアベル君との子ではないと伝えるつもりです。

 

どうしてこんな回りくどいことするかと言うと、この方法が一番アベル君の言い訳を潰すことができると考えたからです。

直球で、イヨがアベル君の子供ではないと伝えても、優しいアベル君のことですので、今更イヨを見捨てることなんてできないと考え、「それでもマユお姉さんが好きだから結婚する」と自分に嘘をついて、私と結婚すると言うはずです。

しかし、こうやって先に動揺させて本音を引き出してしまえば「好きでもない女性と結婚してもダメよ、さっき動揺してなかったなんて言わせないわよ」と反論することができます。

それと、あまりやりたくはありませんが、どうしてもアベル君が私が好きだと嘘を言い張ったら、パンツをずらしてやろうかと思っています。

男の体は正直ですから、否が応でも嘘か本当か分かってしまいます。

性欲と愛は別だと反論される可能性もありますが、若くてやりたい盛りなのに、性欲も湧かない相手を愛するのは無茶というか、絶対にうまくいかなくなると説得するつもりです。

 

さあ、アベル君、正直に動揺してください。

 

「マユお姉さんっ!!」

 

アベル君の切なそうな声と共に私の視界がアベル君でいっぱいになり、唇を塞がれました。

 

え、あ、はぁ!?

 

「もう我慢できないよっ」

 

混乱する私を他所に、アベル君は私を押し倒し…そして…

 

 

それからはとても人に言えるような内容ではありませんでした。

ただ言えるのは、アベル君が私を本当に愛してくれていたのだということをその身を以ってこれでもかという程教えてくれたということ。

そして、プロポーズしてくれ、私はそれを受け入れたということです。

あとは…アベル君に姉より強い弟などいないと、スライムの体と前世の知識を駆使して分からせてあげたぐらいかな?

ちょっとやり過ぎた結果、アベル君が倒れて翌日の公務がすべてキャンセルになったり、私のブルーの体が少しクリーミーな色になるという事件が発生し、イヨにドン引きされましたが、忘れられない素敵な夜になりました。

きっとアベル君にとっても、最高に素敵な夜だったと思います。

めでたしめでたし。

 

ーーーーー

 

あの日の夜、ベッドで◎×▽◎Σ〇になりながらプロポーズを受けるという、子供が聞いたらトラウマになるような素敵?な経験をした私達は、その後無事結婚式を挙式し、対外的に正式に夫婦になりました。

魔王であるアベル君の妻になった私は、王妃としてアベル君の公私を支えることになりました。

一般人の私が、いきなり魔族のトップである魔王を支えるという事態に、これからどうなってしまうのかと心配しましたが、何とかなっています。

何故なら、王妃の仕事においては「なるほど」「凄いですね」「あなたは魔族の誇りです」の三つの言葉さえ喋れれば何とかなるからです。

とにかく、相手の言うことに適当に頷き、相手を煽てればいいのです。

簡単でしょ?

え?もっと細かい話になったらどうするのかって?

そういう時はにこやかに笑いながら「そういう難しいことは分かりません、そういうことは夫に聞いてください」とアベル君に丸投げすればいいのです。

因みに丸投げはしていますが、アベル君に対応させている間、私はいかにも分かっていますといったフリをしています。

丸投げしたとはいえ『こいつ何も分かっていないだろ』、などと思われるのは癪ですからね。

そんなこんなで、王妃の仕事については何とかやっている状態です。

では、家庭の方はどうかというと、こちらは仕事より上手く行っています。

よくよく考えれば、これまでアベル君にしたことを、改めてしてあげればいいだけですし、そこに夫婦の営み(詳細は秘密)を足せばいいだけです。

ただ、当初は家庭の方も上手く行くかとても心配でした。

何故なら、アベル君を性的な意味で上手く誘う自信が無かったからです。

だってそんなこと、一度もしたことがありませんでしたからね。

だけどそんなこと言っている場合じゃありません。

アベル君がイヨを可愛がりながら言ったのです。

「仲のいいお父さんとお母さんがいて、子供がいっぱいいる家庭って憧れるよね?」って。

アベル君の願いですし、私も子供が好きだからいっぱい産みます!

動画とか同人誌とかネットの知識とか思い出して、コスプレしたり、恥ずかしいセリフを言ったりポーズを取ったり、そんなことやっちゃうの?と思うようなプレイに誘ったり、ものすごく拙いながらも、頑張ってアベル君を誘いました。

結論から言うと、誘う度にアベル君は乗ってくれました。

凄く疲れてそうな日でも、必死にがっついて来ました。

きっと、アベル君は真面目で優しいので、私のつたない誘いに乗らなければ私が傷つくと思い、気乗りしない日でも乗ってくれたのだと思います。

普段の威厳溢れる感じとは違って、妙に優しいというか、まるで私に服従しているがごとく、私が主導権を握れているのも私のことを思っての行動だと思います。

そんなこんなで、疲れを押して誘いに乗ってくれたので、アベル君が何度も疲労困憊で倒れることになりましたが、おかげで新たに5人の娘が産まれました。

武闘派で長女イヨのライバル次女マイン。

アホだけど、そこが可愛い三女マーレ。

夢見る乙女、結婚に憧れる四女エスリン。

勉強大好き、学者肌の五女エリザべード。

甘えん坊の六女ニーナ。

合計6人もの娘に囲まれて、私はとても幸せです。

妻として未熟な私をこんなに愛してくれて、アベル君本当にありがとう。

でもごめんね、アベル君が疲れている日は、私が控えてアベル君を休ませなくちゃいけないんだけど、アベル君のことが好き過ぎて我慢できなくて…

 

あ、そうそう。

娘で思い出しましたが、とても素晴らしいことが分かりました。

なんと、イヨが私とアベル君の本当の娘だと判明しました。

その証拠は2つあるのですが、その前に重大なお知らせがあります。

アベル君は勇者でした。

 

衝撃の事実。

まったく気が付きませんでした。

驚きです。

アベル君によると、勇者の血族出身の子供達は幼少の頃から両親と引き離され、竜神教で英才教育を受けるそうです。

そして稀にその血族以外でも、勇者の血を色濃く発現した子供が生まれるらしく、それがアベル君だったそうです。

アベル君も他の子供達と同じく英才教育を受けたそうですが、それで勇者になれるわけではなく、世界中に複数ある修行場のどれか一つをクリアし、それにより勇者の力を発現する必要があるんだそうです。

そうしてたまたまアベル君が向かった修行先が、私達が出会ったあの森だったということでした。

どうりであの森は魔族が誰も住んでいないはずです。

まさか勇者の修行場だったとは。

幸いにして魔界との境目にあるため、あまり期待されていない勇者が送り込まれる修行場だったので、管理人が誰もいないうえに、アベル君には悪いのですが血統の悪いアベル君が一人で来るという展開になり、二人の出会いに繋がった訳です。

 

ちょっと話が逸れてしまいましたが、そういうことでアベル君は勇者でした。

そして証拠の1つ目に繋がるのですが、イヨが魔族には存在しないはずの勇者の血統を受け継いでいました。

勇者の兆しが見つかり、アベル君の活躍で人間との戦争も一時的に小康状態になったので、勇者の力を発現させるために修行場に来た、というのが私を見つけてくれたときの状況でした。

もちろん、イヨが勇者の血統を受け継いでいたとしても、それが本当にアベル君の血筋だという証拠はあるのかという疑問は残ります。

事実私は、アベル君と子供を残すようなことをした覚えがありません。

ですが、その疑問は次の2つ目の証拠で完全に晴れました。

アベル君が私と一緒に寝た時に、私の中に【検閲済み】してしまったと白状したからです。

確かに若く健全な男子には、そういう生理現象があるのは知ってるし、寝ている時に起きる現象なので本人の意思とは関係ないのも知ってる。

でもこれで子供出来るって対外的には犯罪だよと思いましたが、まあアベル君ですし、もう夫婦なので許しました。

ただし、この馴れ初めは絶対にイヨに言ってはいけないと二人で固く誓いました。

こんな感じで多少人に言えないこともありますが、私達はとても幸せで理想的な家族になりました。

なのですが… 

ですが…

 

「ふふふ、〇▽×□〇●〇●▽▽〇●▽…」

「しゅごい、○○○○〇●▽▽〇●▽~」

「××◎×▽●〇●▽▽〇●▽◎□しい♡」

「マユお姉しゃまっ××◎×▽!!」

 

なんじゃこりゃあああああああああああああああ!!!

『淫魔王と堕ちた勇者』と題されたエロい表紙の薄い本を、私は床に叩きつけました。

これと同様の本が人間のブラックマーケットに大量に流れていて、脚色はあるけど大体事実と評されているとか、とんでもない風評被害です。

こんなおねショタ的な関係ではなく、私とアベル君はプラトニックな関係です。

偶然アベル君と出会い、普通に過ごしていたら、私のことを好きになってくれたという普通の恋愛です。

決して薄い本に描かれているように、アベル君を狙っていたとか、私がショタ好きだとか、お姉さんが教えてあげる♡、といった感じで強引にアベル君を手籠めにしたなんてことはありません。

私達の関係のどこをどう見たらそういう風に見えるのか、意味が分かりません。

風評被害だと外交ルートで抗議したいですが、竜神教の連中とか真顔で「淫魔王マユ(私のこと)はその体と知略を使って勇者を篭絡し勇者の血筋を手駒にした、最強最悪の魔王」と信者達に言いふらしている現状では効果など期待できません。

 

ですので、百歩譲ってこれは風評被害だと魔界の中だけでも理解してもらいましょう。

と思っていたのですが…

 

「マーレお姉さま、今日も青くてきれいな、お・は・だ♡」

「そう?私ってここまで愛されて幸せ者よね!」

三女のマーレが、勇者を篭絡して連れ帰ってきた。

しかも相手は女の子。

マーレ曰く、お母さんとお父さんの馴れ初めの噂を聞いて私もしてみたいと思っていたところに勇者が来たので、襲ってみた。

襲ってから女の子だと分かったけど、可愛かったからそのまま襲った。

反省はしていない。

とのこと。

聡明なイヨと違ってマーレはアホな子ですし、結果として本人達は幸せそうなので仕方なはいと思う。

思いますが…

 

「人間どもは魔王様の子供には娘しかいないことを知って、前線には女勇者しか出さないように対策をしていたらしいが、マーレ姫が女勇者を篭絡したらしい」

「本当かよそれ!人間どもの対策を聞いた時にはどうなるかと思ったが、流石、魔王様の娘だ!」

「いやいや、凄いのはマーレ姫をそういう風に育てた王妃様の英才教育だろ」

「とにかく目出度い、乾杯と行こうじゃない」

「そうだな、魔王様と王妃様とマーレ姫に乾杯!!」

なんて会話が魔都中の酒場で交わされているとのこと。

なんですかこれは!!

どうして魔族の人達まで私をそういった風に見ているのですか!!

おかげで、アベル君がたまに疲れた顔をしたら「王妃様、夫婦生活は魔王様のお体に影響のない範囲でお願いします」って私のせいにするのが当たり前になっています。

なんかすごく納得いかないのだけど。

「責任者出てきてください!!」

 

 

 

 

でもまあ、それでも幸せだからいいかな?

 

ーーーーー

 

【淫魔王マユ】

・概要

淫魔王マユとは、魔竜王朝最初の王妃であり、実質的な魔王でもあった人物。

淫乱で奸智謀略に長け、竜神教では今もなお歴史上最悪の魔王として忌み嫌われている。

一方で、人魔の戦争終結のきっかけになった人物であり、現代の人魔関係を礎をつくった人物として、現在の世界を肯定する人々からは評価は高く、とりわけ魔族の間では英雄として精神的支柱になっている。

近代から現代において創作物で非常に人気のある人物であり、特に後述するポルノにおいて人気が高い。

 

・身体的特徴

スライムでありながら、人間の10代半ばから後半を模した麗しい少女の姿をしていた。

その造形は非常に精巧かつ美しく、ワルシャ和平会議にて淫魔王マユに謁見したネーレス総大司教がその容姿を絶賛し勇者アベルが堕天した気持ちも分かる言ったという逸話も残っている。

本人はただのスライムであると自称していたが、少女の姿を取るという特異な特徴やその力を使って魔王アベルを篭絡したことから、現在では淫スライムという新種に分類されている。

 

・生涯

魔王カヴァデスが勇者に対抗するために異世界から召喚したスライムであったが、魔王カヴァデスの無能さに即座に気が付き、その場で魔王カヴァデスを見限り出奔した。

その後、放浪生活の中で審判の森にて勇者が修行することを知り、そこに居を構え勇者を待ち構えた。

勇者アベルとの接触に成功すると、昼にはまるで母のように勇者アベルを甘やかし、夜には一転して娼婦のように性技を駆使して勇者アベルを篭絡した。

修行の終了と共に一旦勇者アベルと離れるが、文通を通して巧みに勇者アベルを思想誘導し、勇者アベルと竜神教の間に溝を作り出した。

しかし、この文通と勇者アベルの行動が仇になり、竜神教にその存在を気づかれることになった。

その後勇者アベルと再会時に閨に誘い、篭絡の一環として一児を設けた。

一児を設けた後、竜神教が送り込んだ暗殺部隊(桃華兄弟)による襲撃を受け死亡するが、その死を以て勇者アベルが人を裏切り魔王に就任する堕天事変を発生させた。

野望半ばで死亡した淫魔王マユだったが、名もなき神により復活し第一次両勇戦争中期に魔王アベルと再会し魔王アベルと正式に結婚する。

以後王妃として公務を行いつつ魔王アベルとの間に次々に子供を残し、生涯において152人の子供を残した。

またこれらの子供達に性技の英才教育を行い、第二第三の勇者堕天事件を発生させ、人間有利のパワーバランスを拮抗するまで一挙に動かした。

夫である魔王アベルが死去した後は、二代目魔王である娘のイヨを補佐し、三代目魔王ヒミコ就任後に引退。

最後の公務はワルシャ和平会議での調印式だった。

引退後、試練の森に設けた別邸にて余生を過ごし、最後は多くの人々に惜しまれつつ老衰により果てた。

享年358歳。

なお、その死は魔王ヒミコの命により以後10年に亘って隠蔽され、死後もなお抑止力として世界に君臨し続けた。

 

・人柄

歴史学会では竜神教の記録を元に、一見すると無垢で年不相応なあどけなさを持ちつつも、強い母性を持った優しい少女に見えるが、その姿や性格は幼き日に両親から引き離され魔族を殺す道具として育てられた勇者を効率的に篭絡するために作り出した偽りのものであるとされ、淫乱で奸智謀略に長けた醜悪な性格であったとされている。

詳細な資料が残されていると考えられている淫魔王マユ及び魔王アベルの日記などは、王家の資料として永年非公開になっているため、一部の学者からは竜信教の記録がどこまで正しいか検証することができないため、正確であるとは言えないとの批判がある。

ただし、夜の営みが原因になった魔王アベルの公務取りやめ記録や、英才教育を受けた娘達が複数の勇者を堕天させたこと、メイドの日記に裸で城内を歩き回り魔王イヨから何度も注意されていたという記録があることから、極めて淫乱であったのは議論の余地がないと考えられている。

 

・魔王アベルとの関係

現在の歴史学会では魔王アベルは淫魔王マユに完全に従属しており、昼は淫魔王マユの操り人形として、夜は勇者を産むための種馬として扱われていたというのが通説になっている。

歴史学会が収集した資料によると、魔王アベルは淫魔王マユに完全に篭絡されており、重要案件の存在や、体の疲労に関わらず淫魔王マユに誘われるがまま閨を共にしたとされ、淫魔王マユによる魔王アベルの体や心を顧みない非道な性搾取が行われていた様子が残されている。

なお、この行為の結果、淫魔王マユは子孫を152人も残すことになるが、百を超える魔王アベルの公務取り止めの原因にもなったことから、勇者の力を持ってしても、魔王アベルの消耗は相当なものだったと考えられている。

 

これらの従属関係は二人が出会った当初から作られた関係で、そもそもの原因は魔王アベルの幼少時に勇者としての兆しが見つかり、以後両親と引き離され、竜神教で魔族を倒す技術のみを学ぶ少年時代を過ごした点にあるとされている。

つまり、母や女性に飢えた生活を送っていた幼い魔王アベルが、淫魔王マユとの出会いで受けた衝撃は想像を絶するものだったと考えられ、昼は母のように、夜は娼婦のように接してくる淫魔王マユに瞬く間に骨抜きにされてしまったのである。

一方で、一見すると淫魔王マユは魔王アベルを愛していたかのように見えたため、実質的には種馬として扱われていたものの、魔王アベルは自分自身が愛されていると錯覚していたのではないかとも言われている。

淫魔王マユの孫娘セーラが晩年の魔王アベルに直接取材し残したと伝えられている『魔王アベル記』によると、淫魔王マユと出会った当時のことを魔王アベル自身が「当時の私は、一生懸命世話を焼いてくれる妻の姿に、感謝すると同時に卑猥な思いを抱いてしまう不良少年だった。妻が裸でいるのは、スライムだから仕方のないことだったと言うのに」等と語っており、淫魔王マユの姦計に陥っていることにまったく気が付いていなかったことが窺える。

このような点により、淫魔王マユを悪女とする学者もいるが、魔王アベルが幸せだと感じていたのは事実であり、悪女とは違うという反対意見も出ている。

なお、魔族の公的な記録によると、公務においては淫魔王マユは「難しいことは分からない」「夫に確認してみないと答えられない」などと発言し、魔王アベルを立てる慎ましい姿が記録されている。

この記録を根拠に、淫魔王マユと魔王アベルの夫婦関係は実は相思相愛であり、極めて良好だったとの創作物が人気を集めているが、あくまで対外的な姿であり偽りの姿であったというのが通説である。

 

・権力

公的には王妃としての権力のみを所持していたが、魔王アベルを巧みに操ることにより、実質的な魔王として君臨していた。

魔王アベルの死後は、魔界中の要職に広がった一族を操ることにより、絶大な権力を維持し続けた。

絶大な権力を誇った淫魔王マユだったが、どのように魔王アベルや一族を操っていたのか、具体的な記録が残された資料は一切残されていない。

この謎は、歴史学者達を長年悩ませると同時に、その心を鷲掴みにしている。

 

・死と復活

魔族の記録では淫魔王マユは名もなき神の祝福により死より復活したとされている。

この復活と生前の偉業から、淫魔王マユは歴代魔王を超える精神的支柱として、魔族広くから信仰を集めている。

一方で、竜神教学会の通説では名もなき神の存在は創作であり、淫魔王の死と復活も、勇者を篭絡するために巧妙に仕組まれた陰謀であるとされている。

淫魔王マユの死と復活については依然として不明な点が多く、歴史上のミステリーになっている。

 

・評価

人間のみが持っていた竜神の血を魔族にも広めさせたことで、人間に傾いていた戦力バランスが安定し、戦争終結から現在まで続く無戦争時代のきっかけとなった。

そのため、淫魔王マユが歴史に現れなかった場合、魔族は絶滅し、その過程で人間にもより多くの犠牲が発生していただろうと考えられており、魔族を救った英雄であるとされている。

また、魔族が絶滅した場合、世界の循環機構が機能不全を起こし世界が壊死すると提唱しているアルコロジリアル理論学派からは、世界を救ったとも評価されている。

性技により勇者を堕天させたという事実から、生前時からポルノの題材とされることが多く、現代においても彼女を題材としたキャラクターが複数のポルノに出演している。

同好誌の祭典においても一大ジャンルを築いていることから、祭典の開催場所名を冠したアリュアケの魔王とも呼ばれ、ポルノ研究家からは人魔双方のポルノ文化に歴史上最大の影響を与えた人物であると評価されている。

 

・異説

魔王アベル死去後、淫魔王マユは独身で過ごすことから、実は二人の間には真実の愛があったのではないかとの説が提唱されている。

魔王カヴァデスの行った異界からの召喚魔法は再現不可能であり理論上も不可能であることから、淫魔王マユを召喚したのは、世界の壊死を危惧した竜神の妻であり、名もなき神の正体も同じであるという説がアルコロジリアル理論学派から提唱されている。

アルコロジリアル理論学派の影響を強く受けた文学者ニャツメンは、竜神の妻が淫魔王マユを召喚の対象とした理由を、淫魔王マユが家族へのあこがれを強く持っており、同じく幼き日より家族と引き離され家族へのあこがれを持っていた勇者アベルとの相性がよかったからだという説を自身の小説で発表している。

この小説では、淫魔王マユが本来の家族との関係を壊した理由が引き篭もりとネットゲームへの依存であり、死亡した理由もガチャの課金を急ぐあまり、自転車を急いで走らせ電信柱にぶつかって亡くなるという理由になっているため多くの批判があり、学界でもまったく取り上げられていないが、双方が家族へのあこがれを持っていたというシチュエーションは創作活動などでは人気の設定となっている。

実は淫魔王マユはただのスライムであり、淫乱でも奸智謀略に長けているわけでもなく、魔王アベルとの関係も偶然生まれたものであり、世間で言われていることの多くは風評被害であると本人自身が訴えていたと言われている。(出典がありません、出典を追加してください)

 

・淫魔王について語るスレッド

12037人目の娘 

淫魔王の新刊まだー?

 

12038人目の娘 

>>12037

おじいちゃん毎月出てるでしょ

 

12039人目の娘

最近人気のアイドルグループMZG152だけど、うちの近くの竜神教の神父さんが淫魔王マユの子孫だから絶対に円盤買うなって煩いんだけど、それって本当なん?

 

12040人目の娘 

>>12039

本当かどうかは分からないが十分にあり得る話

というのも、淫魔王マユの娘は152人、そして孫の時点で1000人を軽く超えているらしいので、魔族に広く淫魔王マユの血が広がっているというのが実態

そして、人間と魔族の間で争いが無くなって以後、俺達人間の間にも徐々に魔族の血が入ってきたので、その中に淫魔王の血が入っていてもおかしくない

 

12041人目の娘

凄いなそれw

気が付いたら人間全員淫魔王マユの子孫になっていたりしてww

 

12042人目の娘

【竜神国厚生省少子化白書】

竜神国の少子化は依然進行。

ただし、魔族と人間の夫婦のみ非常に高い出生率を維持。

魔王国の、婚姻率及び出生率は順調。

 

【合同保険医療学会】

淫魔王マユを肯定的に捉えている魔族文化の影響で魔族の女性が男性に対して積極的で出生率や婚姻率が高いと発表。

 

12043人目の娘

>>女性が男性に対して積極的

ちょっと魔界に移住してくる

 

12044人目の娘

これ普通にヤバいな。

混血するから俺達人間が滅びるわけじゃないけど、淫魔王マユに世界を乗っ取られたに等しいんじゃ。

 

12045人目の娘

淫魔王マユって奴が全部悪いんだ

 

12046人目の娘

しまった、これも淫魔王マユの罠か!

 

インタネッツサイト 世界辞書より抜粋




これにて終了です。
ご閲覧いただきありがとうございました。
いつもTSで女の子×女の子ばかり書いている私が、初のお姉さん×男の子という組み合わせでそもそも書くことができるのかと思いましたが…
リハビリ目的で、コンパクトにする以外は、気軽に書きたいように書いてみようとしたら意外と書けてしまい、少し自分でも驚いたりしていました。
そんな作品ですが、少しでも楽しんでいただける時間を提供できたのなら幸いです。
もしお気に召したようでしたら、評価などいただけたら嬉しいです。

それと、私がいつもTSばかり書いていたので、これもTSなのかと質問が来ていますが…
そのあたりは皆様が信じたい方を信じてもらうということでお願いします。
裏設定はありますが、好きな人嫌いな人どちらも楽しめる方がよいかと思いますので…


【設定集】
・マユ
見た目は全体的に青く半透明の少女型スライム。
容姿はお節介焼きで優しそうなお姉さんといった感じ。
見た目年齢は十代半ばの高校生ぐらい。
スタイルは抜群、特に胸が大きい。
髪型はロングウェーブだったりロングストレートだったりショートボブだったり、気分によって変わっている。
よく見ると、お腹のあたりに核のようなものがあり、重要な役割を負った器官になっている。

レベルはRPGで最初の街の周辺を十分安全に回れる程度。
実は魔力があるが魔法を覚えていないので使えない、覚えようとしても知能的にも使えないかも。
ただし特殊能力として、酸の発生、体の変化、分身があり、体の変化と分身はアベルとの夫婦生活(意味深)において大活躍している。

神から与えられたギフトが一つあるが、魔族語翻訳なので本人もその後の歴史家も誰も気が付いていない。

・アベル
女の子のような見た目の大人しそうな少年。
同世代と比べて背が低く、本人もそれを気にしている。
素質は歴代勇者一と言われていたが、子供(イヨ)を守ると決意した後は、実力も歴代一位と呼ばれるほどのものになっている。
レベルはRPGで裏ボスを安全に撃破できる水準。
なのに、夫婦生活(意味ry)では、マユに勝てた試しがない。

・イヨ
物語終了時点で、戦闘力はアベルに急速に追いついており、政務能力もイッツの元でメキメキと頭角を現している。
ただし、本人は隠しているつもりだが、極度のファザコンでありマザコン。
箱入り娘で世間知らずだったり、母親譲りの天然な一面もある。
未だに将来はパパと結婚すると言っていたり、イッツへの誕生日プレゼントに善意で育毛剤を送ったりするなどしているので、両親はその将来に不安を感じていたりする。

・イッツ
見た目中間管理職の頭頂部が薄いおじさん。
こんな見た目だが政務能力は超優秀であり、人格者でもある。
魔法のエキスパートで、特にデバフ効果魔法と結界魔法にも長けており、アベルが魔族入りするまで、勇者侵攻をあの手この手で遅延させたていた防衛戦の立役者。
アベルがイヨと共に魔界に現れた時、真っ先に受け入れることを決めた人物であり、クーデターにも真っ先に賛同しアベルを支えた人物。
家族は妻と娘がいる。
なおローンはまだ10年残っている。



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