夜明けと同時に、あの日「願いの空」が見えた気がする――――――

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翠星

「まずいな……」

 

 彼はそう呟く。にしても、それは何故か。

 彼の鎮守府の資材状況がよろしくないからだ。

 

 それでも彼は戦線放棄をすることはしなかった。いや、正確に言えばそこだけを集中的に攻撃していた。

 

「待っていてくれよ……そして見守っていてくれ……」

 

 彼は、離れざる負えなかったあの鎮守府の面影を感じるように再現した執務室で、戦況を待った。

 

 

 

 

「敵を捕捉……以前と変わらないよねぇ」

 水偵を使って情報を軽く集めた連合艦隊の旗艦である鈴谷は呟く。

 

「魔力波長は『例のアレ』とほぼ一致。個体については問題ない」

 前方に布陣する第2艦隊、旗艦の川内は冷たくも分析を行った。

 

 間もなく『アレ』による一方的な駆逐が始まる。それはとある打電を『アレ』が発した瞬間からだ。

 

 待ちわびていたかの如く『アレ』は敵艦隊に向かう。その先は同じ連合艦隊を編成した防空棲姫を旗艦とする艦隊なのだが、欠陥戦力ともいえる感を集めた程度の、若干の寄せ集めが感じ取れた。

 

「打電――――――全艦、攻撃準備!」

 

 川内の声が一層強く、鋭く刺さる。それを聞いた第1艦隊のメンバーは砲撃準備を済ませる。

 

「打電は鳴りやんだネ!Time to killデース!」

 金剛が主砲の狙いを定め始めた。

 

「一人残らず、全て駆逐しちゃって!」

 鈴谷はそう命令した。

 

 

 

 

 川内は薄々、防空棲姫から発せられる魔力波長に微妙のズレを感じ取っていた。

 

(おかしい。この波長は提督が持っているデータと照らし合わせても微妙に違う)

 

 焦りながらも、第2艦隊は砲撃を眺めていた。

 最上が大破、金剛が中破という被害を受けながらも私たちに出番が回ってくる。

 

「雷撃戦準備!目標!防空棲姫!」

 そう言うと、祥鳳を除いた5隻――――――吹雪、島風、摩耶、北上、そして私が今装填している弾頭をすべて、防空棲姫へと叩きこむ。

 

 

 

 だが、しぶとかった。生き残ったのだ。それも、砲撃できないほど、破壊されてるはずなのに。

 

 

「夜戦突入!逃がさないわよ!」

 

 私は叫びながら、吹雪による探照灯支援と私に搭載されている夜間偵察機を放つ。全ての準備は整った。

 

 そして、私は突入する。最早鉄クズ同然になり果てている防空棲姫に向かって全ての砲弾を、コアにすべて刺したうえ、回し蹴りをして完全に息の根を止めて沈めた。

 

 

 どの道、でないであろう。そう思っていた矢先、私は昼のときに感じたあの魔力波長を再び受けた。

「魔力波長の発生確認……これは……!!!」

 

 今までに見たことのない波長と光。

 

「そうか……これが提督が求めていた『第3の秋月型の波長』……!」

 

 光の中に突入する私。既に私には、わかっていた。

 

「照月……だよね……。作戦が……これで……」

 今までの疲労からか、光の中にいた彼女の姿を確かめることなく倒れてしまった。

 

 その後何が起こっていたかは、私にはわからない。

 

 

 

 

 艦隊帰投を知らせるベル。

 電報が一切なかった。それはもしかして何かニュースがある、ということなのかと理解した。そのままあわてて外へ、港へ出る。

 

 

 

 徐々に人影が見えてくる。連合艦隊の面目なのだが、人数が何故か+1、いや+2の状態にも見えた。だが+1という数値が確定したのは、第2艦隊を見てわかったことなのだが。

 

 

「おかえり。鈴谷に電報がなかった件について聞きたい」

「それがねー、ちょーっち言うべきじゃないなーって」

 ドッグに戻ったところで問いに鈴谷が軽く答える。なんでだろうか。

 

 

「何か情報を得たいなら、あの夜戦バカに聞いてー」

 鈴谷はそのまま艤装をパージしてさっさと風呂場へ直行した。

 

 だが、川内は来る様子がない。

 

 川内は、何故目の前に現れないのだろうか。何かと思い、医務室へと訪れようとするが鍵は閉まっていた。

 

 仕方ないと思い踵を返したその時、医務室担当である明石が通りかかった。

 

「明石、川内は知ってるか?」

「川内さんなら艦娘誕生時に生まれる魔力波長に干渉を起こされて極度の疲労状態。なので医務室は閉めてました」

 

 もっとも、もう1人その発生源がいるんですけどね。っていうかそもそも今回はあまりにも特例すぎますよ。と言葉を加えて明石は説明した。

 

「そうか……開けてもいいか?」

「いいですけど……何があっても自己責任ですよ?」

 

 明石から鍵を借りそっとあける。室内は暗く静かだった。

 

 

(手前のベッドが川内で、奥の仕切りがあるのが――――――)

 こそこそと明石が何かを話す。奥の仕切りという言葉当たりで説明を止めたが。

 

 とりあえず、川内の方の小さい照明をつける。

 

 

 川内と自分、明石のまわりに若干暗くも温かい光がともり、ゆっくりと川内は目を開けた。

 

 

「……提督……やったよ」

 川内は口をゆっくりと開く。

 

「夜……ねぇ……とりあえず、明日の朝……連れてくる……よ。一応……近づきすぎて干渉を食らっただけだし……」

 

 そのまま川内は重い口を開きながら言う。

 

「そうだ……明日の朝に、歓迎会の話……考えておくから……」

 そう言うと川内は再び眠りに入った。

 

「……今日はもう寝る」

 自分もその場をすぐにあとにした。とにかく、寝よう。そう思いながら、執務室を目指してた時に、どこかでふいにぶっ倒れて寝てしまった。

 

 

 

 

 

「――――――っ、提督っ……」

 声がするから目覚めた。っていうより寒すぎて目覚めた。

 

 

 気づけば執務室前で何故かぶっ倒れるという普通はあり得ない事が起きてたようだ。今までにはないことだ。

 そして左側で誰かが呼んでいる。

 

「……誰だ……?」

「そんなことより、ちょっと外出ましょ」

 そう言われながら渋々外を出る。外は12月だ。流石に寒い。

 

(戻ったら、ココアでも一杯朝から飲むしかないな)

 なんて思いつつ外にあったベンチに、隣り合わせで座る。

 

 

「……川内さんを干渉で意識を失わせちゃったのは、私のせいです」

「え……?」

 

 あまりにも衝撃的な事を聞いてびっくりする。

 止めずに、その艦娘は話す。

 

「でも、こうして話ができるのってなんだか、いいんですよね」

 

 自分は黙りつつも艦娘は立ち上がる。

 

「私は――――――秋月型防空駆逐艦2番艦、照月よ。提督が望むのなら、私は最後まで共に闘います」

「……っ!」

 

 

 びっくりして、自分は艦娘、照月の顔を見上げる。

 

(お前が、照月……)

 

「よろしく……頼む。最後まで……」

 

 

 立ち上がりながら泣きつつも言う。

 

 

「勿論!私も……会えてよかったと思ってます!」

 

 気づけばあったばかりの照月に抱きついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、開けていく夜空には願いがこもったかのように流星が流れ、翠星が光っていた。




タイトルの元はある曲からです。


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