Epic_of_Remnant another 完全臨界特区 高天ヶ原(Fate/Grand Order)   作:RUM

10 / 11
勢いだけで書いたら、なんか展開が一気に早くなったぞ……
物足りない気もするが、こだわっていたらなんか心が折れてしまいそうだ。


fate /grand order 完全臨界特区 高天ヶ原 第十章

―――起きて……

どこからか声がした。

―――目を開けて……

若い女性の声だ。

―――こっちを見て……

しかしどことなく聞き覚えがある。

彼が眼を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。自分の輪郭と姿だけが光る漆黒の空間。まるで宇宙のなかった時の虚無の空間のようだ。すると突然、眼前に一筋の光が現れた。目が眩むほどの鋭い閃光に目を覆う。次第に光は収束していくと人の形へと変わりながら確かな質感のある肌と見慣れたカルデアの服を着た一人の少女の姿となって彼の前に現れた。

「あなたは誰?」

「私はあなたよ、藤丸立香」

彼は驚かなかった。それほどにすんなり受け入れられるほど、彼女からは藤丸立香の気配がした。そして自分も藤丸立香であるという確信があった。自分が二人いるという異常な状態であろうとも藤丸立香の精神が揺らぐことはなく自然の出来事として心の中で完結させられた。

「これってアルトリアと同じパターンかな?」

「同じ人物が二人いてもおかしいと思わなくなっている時点で、ね。カルデアで色々と毒されたよね」

「だよな。二人いようが三人いようが、同じ顔がたくさんいても割と普通と思っちゃうよ。アハハハ!」

「そうそう、だがらニックネームで区別しないと大変で……」

「わかる、わかる、本当に心労が絶えないよ」

ひとしきり二人が笑い終えた後、二人は真顔に戻った。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「それは君が決めること、私が決めることじゃない。私ができることは、自分の至った答えと、その過程を教えることしかできない」

「自分の至った答え?」

「うん。選定された世界の私がサーヴァントへ託した思いのこと。それを含めて、君が答えを見つけてほしい。キャスターの計画を成功させてもいいし、アサシンに協力して阻止してもいい。私はあなたの答えを尊重するし、否定もしない。だって、やりたかったことがたくさんあったし、『すまない、あれは嘘だ』と言ってみたいしね」

「なんか思っていたキャラと違う……」

「ええ、あのカオスとシリアスのダブルパンチでボコボコにされればこうもなるさ……」

無駄に成熟した達観を思わせる顔をする女性は「ふッ」と笑みを浮かべて、

「最後に会話出来てうれしかったよ。じゃあ、あとは任せた。押し付けるようだけど、君の世界は君が守るんだよ」

景色が白くなる。同時に意識が消滅していき、脳内に走馬灯が流れていく。

それは彼女の冒険の物語だった。

世界を救ったというのに与えられた報酬はなく、自分を危険人物とされてもなお、生きる戦いをして、自分の思う正義を成し遂げ、そして消えていった普通の少女の物語。

中国の皇帝、無名の剣士、烈火の槍兵が傍らで彼女を支え続け、消滅する最後の時まで彼女の未来を憂い、最期を看取るまで寄り添った記録。ハチャメチャだけど決して面倒でもなく、楽しいと言える思い出のまどろみの中で、彼女は最後まで世界の守り手としてここにあった。

「―――ありがとう、楽しかった」

この一言が彼女の人生の集約だ。

―――ならば……

やるべきことは、決まった。

あとは指し示すだけだ。

彼女の意志ではなく、誰の意見を尊重するでもなく、自分だけが持つ思いを答えにする。

 

サーヴァントの叫びと肉を焼き切る魔弾が入り乱れる戦場のなかで、突如として祭壇が白く輝く。藤丸の体に魔力が収束しながら、彼は目を覚ました。天に浮いた女の藤丸の肉体の光は消え去り、男の藤丸は祭壇から降りて始皇帝の前に立った。

「どういうことだ…… 早すぎる」

融合が進めば片方の藤丸だけが残るはずだというのに、二人の藤丸が残っている。儀式が途中で中断されたとしか思えないこの状況に始皇帝は狼狽しながらもあとこの藤丸に言った。

「何故だ、どうして儀式が止まった……」

「君のマスターが復活を望んでいないからだ。確かに彼女の人生は一般的に見れば壮絶で悲惨で絶望だらけで希望も人並みの幸せも味わうことができなかったかもしれない…… だけど分かる、彼女は最後まで幸せだった。悲惨で絶望だらけでも、彼女の世界は色彩に満ちていた。自分の願いを継いでくれる人がいたから、彼女はもう救われていたんだ、だからお前の救いはいらない!」

「だから何だというんだ。私は復活を望んでいる。それだけで、彼女は復活しなければならない。お前にはわかるはずだ! 戦争で人が何人死んでも人を悲しませないように笑顔を絶やすことなく、必死に歯を食いしばって死んだ屍の数だけの重荷を背負って、戦場を歩いて、行き着いた先は屍を積み重ねた荒野だった。お前には絶対にわからない。惨劇に慣れていき、徐々に心が強くなっていく、痛々しさが分かるものか!」

「わからないよ。俺は彼女の言葉を伝えただけ。でも俺ならこういうよ、もう終わりにしよう……」

藤丸は令呪を掲げた。

「させるか!」

始皇帝は空中から出現した鎖が藤丸を拘束し、腰から振りぬいた剣で藤丸を……

……やめなさい、始皇帝!

彼の頭に一瞬だけ、マスターの顔がよぎった。

「……ッ!」

この一瞬のためらいが藤丸に力を使う隙を作った。

令呪が赤い閃光を放ちながら励起する。令呪は不可能を可能にする魔力の塊でもあり、マスターの願ったあらゆる命令を可能にする唯一無二の力でもある。

藤丸は拘束されながらも腕に満身の力を込めて絶叫した。

―――令呪をもって命じる、始皇帝を倒せ!

その瞬間、令呪から魔力が溢れながらサーヴァントたちに流れていく。

斎藤一、スカサハ、小太郎、巴御前は受け取った魔力を最大まで使って祭壇に再度突貫する。

始皇帝は「クッソ!」と剣を修めて、防御を固めながらも空中に描いた術式から魔弾を放つ。

スカサハは宙をかけるように魔弾を裂け、小太郎は分身に攻撃をひきつけ、巴はサーヴァントに命中する魔弾を撃ち落とし、始皇帝の祭壇に向かおうとするがことごとく弾幕に阻まれてしまう。いくら魔力があっても始皇帝の攻撃は強固だった。

 ただ一人を除いて……

 アサシンは佇んでいた。自分に降りかかる魔弾を無意識に弾き飛ばしながら、アサシンは祭壇を臨んでいた。

「そうか…… 幸せだったんだな……」

―――うん、幸せだよ。みんなの思い出はかけがえのない瞬間だったよ。

聞きなれた声が虚空から聞こえる。

「お前はいつも、そうだった。痛々しい笑顔で私に優しくしてくれた」

―――そんなこともあったね…… でも、それもこれでおしまい。後は分かっているよね……

「ああ、大丈夫だ。やるべきことは分かってる」

さあ、行こう。決着をつけるために…… 

アサシンは日本刀を握りなおした。頬を伝わる雫を無視して虚空から聞こえた懐かしき声を振り払って死地に赴いた。

―――行け、アサシンッ! 私の最後の令呪をあなたに託す。

アサシンは駆ける。令呪のバックアップを最大限利用して弾幕を潜り抜け、絨毯爆撃のなかを針の穴を通すような隙間を縫いながら、目にもとまらぬ速さで突進する。

防御は必要ない、令呪の力は全て機動力に還元する。

加速し、加速し、加速する。彼女は目に迷いはなかった。

「この加速……令呪か!」

始皇帝がアサシンに狙いを付けた。彼女の無謀は幾度となく見てきたが、なりふり構わない突撃は見たことがない。

「勝負だ、始皇帝!」

完全無差別の絨毯爆撃がアサシンの行く手を阻む。アサシンは致命傷だけを刀で弾き、瞬間移動と同義の縮地で翻弄する。しかしすべてを防げるわけではない。爆撃の波を潜り抜けるたびに、熱線は腕を裂け、ももを貫き、腹を焼き切るが彼女は止まらない。

しかし最後の魔力障壁がアサシンを迎え撃つ。

(―――あれはスカサハの槍でも突破できない。しかし……!)

アサシンは血まみれの体で疾走しながら刀を構え、跳躍した。

「刹那にひと踏み……」

彼女の宝具はたった一つ。能力を向上させる『誠の羽衣』のみ。

「すべては瞬き……」

しかし彼女にはもう一つだけ特技がある。

それは斎藤一と呼ばれた、烈士が最も得意とした剣であり……

「これぞ、我が一歩の極限!」

―――無敵の剣と呼ばれた逸話の具現!

「無間一刀突き!」

切先が魔力障壁を突いた。だが一撃の突き程度では魔力の壁はビクともしない。

―――普通の突きであったならば……

「お前! まさか!」

始皇帝は魔力を集めて壁を補強する。彼は知っている、彼女の一撃がどんなに強固な壁ですら破壊してきたことを。

【無間一刀突き】

斎藤一の無敵の剣という逸話でコーティングされた剣戟。あの沖田総司の無明三段突きの相互互換であり対となる奥義である。無明三段突きは同時に同じ場所に突きを内包させることで破壊をするが、この突きは『貫く』という概念を極限まで突き詰めた結果、その切っ先は『割り込む』という概念を取り込むことを可能とした。故にあらゆる物体に『剣が割り込む』ことでいかなる壁であろうとも貫通する、無敵の剣となるのだ。

「近寄ればこちらの勝ちだ!」

「甘く見るな! たとえ魔剣の類と言えど、際限のない守りは突破できない!」

「それはどうかな!」

剣が壁に滑り込み、障壁の穴を広げていく。始皇帝は魔力をつぎ込み封鎖を試みるが、剣の浸蝕は防ぎきれない。

それもそうであろう、この剣を阻むために必要なものは『事象』ではなく『事象の強度』である。魔力でいくら防御を高くしようとも魔術の事象としての強度が高くなければ意味がない。ゲームで言うところのレベルが足りていないのだ。この剣の強度は彼女の剣撃もとい、彼女が剣に取り込んだ『割り込み』の概念の強度に依存する。『割り込み』の概念のレベルよりも攻撃対象のレベルが低ければいくらそれを魔力で強化したところで意味はない。いうなれば、一定のレベル以下の防御を完全無視する一撃。

 これぞ、まさに魔剣。

 無敵と言われた斎藤一が得た、いや、斎藤一の歴史の一片となった女性がその生涯で唯一到達した、可能性という世界に割り込んで、新たな可能性を切り開いた一つの答えだった。

「うおおおおおおお!」

剣を押し込み、体を割れ目にうずめて始皇帝の守りを強引に抜ける。彼はすぐ目の前で驚愕の表情ながらも剣で心臓を庇っていた。しかし突き出された剣は始皇帝ではなく、その横の空中を貫いて始皇帝を通り過ぎていった。アサシンの体も同様に始皇帝の直近を抜ける。

「―――え?」

アサシンが振りかぶった剣の先には藤丸と同化しようとしていた光体があった。

「切り捨て御免!」

刀を振り切った時、アサシンの手には確かな手ごたえがあった。生前から何度も何度も刀を通して残った余韻。生きた人間を切り裂いた時の生々しい血肉の感覚。

「すまない…… 私はこうしなければならなかった。」

血が飛び散り、柔肌の頬を紅くする。人を切ったことは何度もある。殺した人の数を忘れるほどに、数えるのをやめてしまうほど多くの人を殺した。だが今回ばかりは…… 

―――泣いてしまった。

「大丈夫、わかってる」

「……ッ!」

光体が収束する。その中にあったのは人の影、袈裟懸けに致命傷を受けた普通の女の子だった。

「嫌な、役目を、押し付けたね……」

「嫌なものか…… これが役目だ。私たちの誓いだ」

―――次に全てを託す。そして藤丸の使命を助ける。

この誓いのために私は抑止力となった、藤丸立香の思いを遂げるために。

「私はお前を斬る。私の誓った思いは、こんな安直で独りよがりの生存の秘儀で揺らぐものじゃない」

「うん、はじめちゃんはいつもそうだよね。律儀で、世話好きで、おお節介焼きで、皮肉屋みたいにつんのめって……でもね、こういっちゃなんだけど、王様の行為はうれしかったんだ。私の頼み事よりも私の生存を優先してくれた。それだけ私を大切にしてくれたって。でも…… 私は死ぬ。この世界と一緒に消える。それでいいんだ。次が、あそこにあるんだから」

女の子は藤丸を見つめた。もう意識は途切れ途切れで、消滅寸前で透明のガラスのようにもろい。同一人物が目が合ったという以上、存在の弱い者が消えるのは必定であり、女の子が望んだ結果だった。

「はじめちゃん…… 楽しかった?」

「ああ、楽しかったよ」

頬を伝う雫を拭って最後に彼女は、満面の笑みを向けた。

消えていく、消えていく、消えていく、際限なく消える彼女の肉体を抱きながら最後に

「さようなら、マスター…… この眠りがいつか希望に変わらんことを……」

 

どこかでガラスが割れる音がしたと同時に祭壇は急速にその力を失っていった。それに呼応するかのように施設内が光の粒となり消滅を始めた。

『いけない、この世界をつなぎとめていた楔が破壊されたんだ。この消えかかった平行世界は、今すぐ事象まるごと世界から分解される。今すぐ、この施設から逃げるんだ。そこは、いの一番に消滅してしまう。まだ安定しているところを使ってレイシフトするから、そこまで走るんだ! 早く!』

ダ・ヴィンチちゃんの指示をもとに脱出を図ろうとする藤丸たちに対して、始皇帝は意気消沈のまま膝を屈して動かなかった。サーヴァントたちは何が起こったのかを目くばせで察しながら祭壇にいるマスターを抱えて施設からの脱出を図った。

「アサシン…… いや、斎藤一…… 行かないのか?」

ドームの出口で彼女の脚が止まり、振り向いた。だが、一瞥しただけで踵を返した。

「すまない、今行く……」

さようなら、中華大陸最初の皇帝陛下。お前の思いは決して、間違ってなどいなかったよ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。