Epic_of_Remnant another 完全臨界特区 高天ヶ原(Fate/Grand Order) 作:RUM
完結です。
勢いって大切ですね。
「壊れてしまった」
崩壊する施設の中で始皇帝は打ちひしがれていた。
この世界は消えてなくなる。跡形もなく、この世にあった証拠もなければ、自分たちがいたという証明も無くなる。朕はその世に反旗を翻したかった。世界を変え、世界の終わりを回避した英雄的一般人が何の記録もなく消えるのは看過しがたい話であった。本人は報酬を求めてやったことではないが、記録も残らないというのは絶対に可笑しい。あれだけの犠牲を払って世界を救った意味もなくなってしまう。
もとはと言えば、聖杯を軍事的に利用しようとして世界中で軋轢を作りまくった連中がカルデアを潰すことで「安全保障」という名目で「対抗策」を完全につぶしたことが原因だというのに。そんな奴らのせいでこの世の善良な人たちが殺されたというのに。
「ああ、終わった。全部……」
結局は世界に宣戦布告したというのにこんなにもあっさり抑止力に負けた。私たちは一人を救うためにどんな犠牲も払うというのに、あの人の生存のためだけに全てを費やしたというのに……
「ダメだな」
諦めた。心が折れてしまった。
全てに意味を見いだせない。この世界にいる理由も、もうなくなってしまった。
「もう、終わってもよい」と受け入れようとしたとき。
―――もう終わるんですか?
ふと声がした。
―――アナタはもっと諦めの悪い人だったはずでは?
見上げた先にいたのは、想い人だった。
「ああ、そうだった。だがもう疲れた。あの時の喪失を二度も重ねてあの時の思いをまた繰り返して…… あの瞬間に立ち尽くすことしかできなかった朕が求めた救いは、こうもあっさりと敗れ去ったのだ」
―――うん、負けちゃったよね。でも、うれしかったよ。
「え?」
思ってもみない言葉だった。呪詛のような救いを求めたことを、別の世界の同一存在を壊してまでも一人を救おうとしたことを、彼女は責めなかった。それ以上に、ほほ笑んでくれた。
―――ありがとう、皇帝陛下。私は、既に救われていたんだよ。あの世界で、最後に見えてくれたみんなの笑顔でね。
「どうして、そんなものが救いになる? 死屍累々の世界で強くたくましくなっていたお前たちが見せた、あの痛々しい笑顔で何が報われたというんだ」
皇帝は分からなかった。聖杯の流出を止めようとして生まれた、人が否応なく命を散らす血みどろの紛争地帯の中を歩んだ時に見せた「大丈夫」という顔と、戦いでボロボロになった君が死ぬときに見せた仲間の「平気だよ」という笑顔にどんな違いがあるというのだ。
どれにも「悲しみ」しかない。笑顔の意味は違っても根底にあるのは「不の感情」だ。
「不の感情で救われていいわけがない。本当にあったのは希望や喜びかもしれないが、根底にあったのは不の感情だ。私はあの時に誓ったのだ。あんな痛々しい笑顔でマスターを終わらせないと…… 答えてくれ、あれで、あのような結末で何が救われたというんだ!」
―――確かに最後は「終わり」ということしかなかったと思うけど、記録はなくても、想いは残った。私たちは全てを尽くして最後に得たのは「あの時、私たちがいた」という「事実」だけだよ。
「それだけでいいのか?」
―――命はね、有限だけど。樹の幹のように広がり続けるもの。そこに終わりはない。その終わりには必ず果実があって、それがまた新しい希望になっていく。なにも得られるものがなかった人生でも、どこか必ず救われた人たちがいるんだ。「事実」という「意味」が残ればすべては無駄じゃない。私たちの世界は消えたけど、それがもしかしたら次につながる何かになるんだ。
「―――――なんだ。なんで、こんなにきれいな笑顔をしているんだ。これじゃあ、無いも言えないじゃないか……」
―――もちろん、なにも言えないようにした。
「まったく、君はいつもそうだ。皇帝だというのにズケズケと関わって、言いたいことははっきりモノ申して、朕らを振り回してぐちゃぐちゃにして……」
だが、確かにそれだけでも…… 記録に残らなくても「事実」はあった。形には無くても、そこに確かにあった物たちがいた。あそこに世界は確かにあったのだ。
「つまらない。真につまらない。だが、まあ、朕が覚えておればいいだけか……」
座に戻れば忘れてしまうかもしれない。だがそれでも朕は覚えて居よう。心の奥深くにこの思いを、この軌跡を。
「ああ、良かった。私が求めたものは…… すでにあったんだ」
声がなくなった空間はそのまま無音にして消滅した。
しかし、その光は妙に明るく、輝いていた。
「ここでお別れだな?」
施設の外、今も安定して原形をとどめた地点でアサシンはひと時のマスターに言った。
「はじめ…… あれで救われたのか?」
藤丸は結末を知っていた。あの世界で起きたすべての結末を、あの世界の藤丸との融合の際に断片的にでも垣間見ていた。だからこそ、気になった。世界が終わるような、一つの世界が消えても、彼女は何をもってそれに終止符を打とうとしたのかを……
「お前は、何かにつけて救いを求める奴なのか?」
「え?」
「私には救いは必要ない。私は既に知っているからな。この世にいる誰もが救いを必要としているわけじゃない。救われなくても報われなくても、それでもいいと言いながら生きて人生を歩くようなやつだっているんだ。救いを求めることは決して悪くはないが、それにこだわるのは良くない傾向だ。私は救われようが救われまいが関係ない。もともと生前からして救いを求めたわけでもないからな」
「本当に?」
「ああ。私はこの世を変えたかった。それは既に私が行動した時にはもう叶っていた。それがより良い世界だったらよかったが、案の定私たちは敗者だった。だが日本という国は最後まで続いた。それだけでいいんだ。私に救いはいらない。私は報酬を求めたわけでも希望を求めたわけでもない。変革だけが私の原動力だ」
「でも悲しい出来事はあったんじゃないか?」
「一応割り切っていた。今ももう割り切った。めそめそできるほど私の精神は善良ではない。だがもしお前たちがいなくなったとしたら、私は泣き崩れて絶叫するつもりだ」
「お、おう……」
「おかしいか? すまんな、生前からずっとこうだったから、染みついている。もっと人間的なようにしてほしいのであれば努力する」
「……それって……」
「召喚に応じるということだ。それがこの記憶を有した私なのかと言えばわからないが、その努力はしよう。あとあのバカには最後まで希望が必要だ。一応、そのための触媒も用意した方がいいな。だから、これと一緒に持って行け」
というと、アサシンは藤丸にランサーから得た短刀を渡しながら、受け取った彼の手を引きながら顔に触れて、
―――その頬にキスをした。
「う、うわ! どういうこと!」
「生憎、お前は私をモードレットのような女扱いを嫌っている女性と思っているだろうが、私はそんな馬鹿ではない。『自分の意志で女になる』ことに嫌悪はない。それにだ。私は女である自覚もしている。モードレットのような歪でとっつきにくい人格はしていない。 ――――さあ、これで行くといい。お前は夢から覚めて自由になるだろう。もし会えたのなら、そちらの世界で」
これを最後にアサシン、斎藤一は姿を消した。
このあと、彼女がどうしたのかは定かではない。泣いたかもしれないし、泣かぬまま帰還したかもしれない。想像の余地を出ないが、藤丸が見た彼女顔は確かに緩んでいた。
この物語はこれでおしまい。
世界の理不尽から世界をつなぎとめて、主人の復活を願ったサーヴァントと主人の思いを胸に戦いに挑んだものとの悪意のないぶつかり合い。これで全てが終わった。
だが、終わりは始まりのための前座でしかない。
命は幹のように成長を続ける。
それを救いとするか、呪いとするかは人それぞれだ。
さあ、見るといい。
世界は君がいるから輝いている。
キャラクター解説
マスターは藤丸立香。終わった世界の中で世界が消える時に発せられる無限の魔力を地脈にピンガーを打ち込むことで貯蔵している。
落ち着いた雰囲気で史実のような激昂しやすい性格ではない。もともとは皇帝のしての威厳のためにしていただけ。いわゆるハッタリ。「この世の色を見てみたい」という願いを持ち、不死身を求めていたがサーヴァントになり半不死身になったことは喜んでいる。彼は自分が最善だと思う行為をするが、それは救いたいもののために躊躇しない強さでもあった。生前はそれが強すぎたために平和な世界とは相性が悪く最後は殺されてしまった。
現代でもその考えは変わらず、虚数事象として消滅する自分の世界崩壊を止めるべく消滅しかけた世界の一部を聖杯の力によって切り取って特異点とした。しかし、マスターの人格すら世界の修正力で奪い取られ、マスターは既に記録装置となっていたが心の声を発する僅かな力が残っていた。しかし彼はそれを知らなかった。彼はマスターを特異点を特異点とし続けることで抑止力として別の世界の藤丸を呼び寄せて、彼に彼女の意識をインプットして人格と詩型を入れ替えることで復活させようとしていた。
筋力 D 敏捷E 耐久E 魔力 B 幸運A 宝具A
属性 混沌 善
スキル
陣地作成B
道具作成D
皇帝特権A++
封禅陣B
皇帝が神に自分の存在を伝える儀式。これによって神よりの威光を賜る。彼はこれを魔術行使の一つとして扱い、儀式を行うことにより神の神性を経由することで大魔術を発揮する。
乱世の覇王EX
中国最初の皇帝であるが故に高ランクスキルとなっている。簡単に言えば戦術系スキルとカリスマ系スキルの複合。最初の皇帝であるという偉業により最高評価である。
宝具
「天地封禅兵馬俑」
ランクA
始皇帝が行なった封禅の儀式と兵馬俑の逸話が融合した宝具。始皇帝の最精鋭の兵士一万体を模倣したゴーレムを同時使役する。最精鋭は下級のサーヴァントと互角に渡り合い、サーヴァントでないと対処できない練度を有する。破壊したとしても魔力が供給され続ける限り再構築される。通常は現代の魔術の知識を応用して劣化版のゴーレムを使役する。
「封禅万里城砦」
ランクA
始皇帝が建築をおこなった万里の長城。特定の範囲を完全に隔離し、その範囲内全てを自分の工房に変えてしまう宝具。本来は兵馬俑と並行して迎え撃つための宝具だが「新しい使い方」として東京の周りを特区として囲ってしまい自己の領域として世界崩壊から守っていた。術式のコアは彼が作った石碑である。
斎藤一 スーツのアサシン
「クラス、アサシン。真名は告げない。それに与えする主人だと認めるまではな。呼び方を差別化したければ、スーツのアサシンとでも呼んでくれ」
プロフィール
身長168cm 体重57キロ。
好きなもの 好物はない(スィーツを見ながら)
嫌いなもの 馬鹿げたこと。
属性 中立 悪
幕末に活躍した新撰組において最強の一人とされる剣術士なのだが、彼は実は「彼女」であった。「馬鹿」が口癖。性格はかなりドライでクールに振舞っている。戦場でも生きるか死ぬかでしかものを計っておらず、どんなことをしても任務を成し遂げることに労力を費やす。女扱いをされると、魔王の如き殺気で威圧する。他人に対しては辛辣であり、話すときもどこか棘のある言い方をしてくる。一人になりたいと言ってくるが、長い間独りぼっちは苦手。
無敵の剣と言われたとおり相当腕が立つ剣士である。生前は女として振舞ったことがないので、恋愛には無頓着。しかし女の自覚はあり、自分の意志で女になることにはためらいはない。
真名は斎藤一。幕末にいた新撰組の部隊長の1人にして新撰組最強の1人。斎藤一という名は本名を知られないための伏せ名。自分は武術はあったがその時代で女は時代を変えられなかった。だからこそ、裏方として歴史に関わることにした。表立って動くのは彼女が武道を習った際に出会った仲間。彼は武術が苦手で世界を変えられるほどの力を持てなかったが彼女が影として動くことで、その機会を得た。つまり斎藤一は2人いた。警察組織を創設した斎藤一は彼女の伏せ名から取ったもの。
聖杯への願いは「仲間とともにもう一度再開したい」である。彼女は生き残ってしまったがために、新撰組の仲間たちに負い目を感じている。可能ならば、仲間たちとともに果てたいとまで思っている。しかし、彼女はマスターとのふれあいで「その先の世界を見る」ということで割り切った。
―――だがそれは彼女の表側の願いでしかない。
本当の願いは『死ぬほどの力を振り絞り戦い抜いて最後に死ぬ』ということだ。しかし矛盾している。これは生前「死ぬほど戦おう」と誓ったのにも関わらず死ねなかった。仲間は死んだのに、自分は「死ぬほど戦ってなかった」ことに対する懺悔である。しかし、それは既に割り切っており「もう関係ない」としている。彼女は救いは必要ないと思っているが、本当はこれに対しての救いを求めている。マスターとのふれあいではその願いを自覚できず、無意識のままこの願いに準じるように戦っていた。
ステータス
戦闘では日本刀を左手で使用する。受け流しと最小の動きで行い、余裕のある紙一重で避ける戦法を得意とする。防御術がない代わりに、速度と回避に能力を全振りし、その実力は神速を見切りるほど。武器で武器を受け止めることをしない戦闘を得意とし、閉鎖空間内戦闘や集団密集戦などの動きを制限される戦いを得意としている。
筋力D 耐久E 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具E
スキル
気配遮断C
仕切り直しC
瞬刻の見切りB
相手の動きを読む速度とその動きの速さ。速度特化の心眼スキル。アサシンはこのスキルのおかげで、余裕ある紙一重で回避できる。このランクになれば敏捷に補正が入る。
縮地(偽)B
生前、見続けた縮地を独自に真似たもの。彼女のオリジナルだけに独特な縮地である。特にこの縮地は彼女が最も得意とする、行動に制限のかかる閉鎖空間内での近接戦や集団密集戦において真価を発揮する。
宝具
『誓いの羽衣』 対人宝具
新撰組特有のダンダラ模様の羽織。装備することでパラメーターを上昇させる。斎藤一はこの衣に強い思いれがあり「死ぬほど戦う」という覚悟をした時のみに羽織る。この宝具が発動している状態のみ、彼女の切り札が発現する。
『無間一刀突き』
分類 対人魔剣 最大射程??? 最大補足一人
コマンド選択時「貴様、今私を馬鹿にしたな?」
真名解放前「喜べ、特別に見せてやる。貴様はここで、潰えろ!………失せろ、目障りだ」
真名解放後「刹那にひと踏み、全ては瞬き、これこそ一歩の極地!無間一刀突き!」
斎藤一の得意技。無明三段付きと対をなす剣戟。左手による一本突きが逸話による補正とサーヴァントの肉体によって強化された技。近接でない距離から『縮地(偽)』による急接近を行い文字どおり「一歩」で仕留める。速度もそうだがこの技の真価は剣尖が「割り込む」という事象が追加されるまでに至ること。この剣戟は物体に「割り込む」ことで理論上いかなる防御も貫通する切断力を有することになる。加えて彼女は行動の制限される室内戦や近接集団密集戦を視野に入れた動きを得意とするため、最大の威力を発揮するのは正真正銘「一歩」の間合い。