Epic_of_Remnant another 完全臨界特区 高天ヶ原(Fate/Grand Order) 作:RUM
まだまだ続きますが、依然として投稿が安定としませんが時間が許す限り確実に進めていくつもりです。今回は比較的短めになります。
質問、感想、誤字などがあれば遠慮なくどうぞ。
抉れたアスファルト。
炎上する乗用車。
粉砕された店舗。
なぎ倒された街路樹。
スクランブル交差点周辺は戦場跡と化していた。
その中央でアサシンのサーヴァントが倒れていた。ライダーに殴打された部分が酷く傷んだが、この程度なら現界の際に得た魔術の知識でどうにかなる。アサシンは必死に立ち上がり、日本刀を納めてトボトボと歩いた。
私はライダーの口車に乗って私は戦闘した。挑発に乗ったつもりはないし、冷静さを欠いてもない。あの状況にされては受けざるを得なかったと確信しているが結果は散々だ。これでは「挑発に乗ってライダーと戦闘した」と言われても、マスターに警護を放ったと思われても仕方ない。
「馬鹿げている」
自分が憎たらしい。生前も似たような事で私は役目を果たせぬまま死んだ。それを今繰り返した。絶対に繰り返さないと決めたことを繰り返して自分に嫌気が差す。
「ち、くしょう。私はここまで落ちぶれたか……」
醜態を晒すくらいなら自害する。
だが本末転倒だ。マスターを守らなくてはならないというのに当の自分が消えては何も意味はない。
「あ、いいさ。とことん落ちぶれてやるさ」
今こそ約束を果たさんが為に。
―――うううん
物音一つしないビジネスホテルの一室で、藤丸は目を覚まし、ベットから出ようと地面に足をついた時に、駆け巡った脚の腹の鋭い痛みで完全に覚醒した。
「痛っ!」
寝ぼけて習慣通りにしてしまった。
急いで脚をベットに戻して傷を確認したが、血が滲んではいるが包帯の下のガーゼにうっすらあるだけで、これといって困った程ではない。
「ふぅ」
ベット脇のミネラルウォーターを取り、栓を開け一口含みながら、時計を見た。時間は朝六時頃、早起きには丁度いい時間だが、カーテン越しの外は深夜のように暗く、朝日の光が見られない。
遅い日の出ならばいいが、ここはもしや太陽どころか昼も存在しないのだろうか?
「うん?」
そういえばアサシンの姿が見られない。てっきり霊体化しているのだと思っていたが、まさか本当に消えてしまったのか?
「アサシン! アサシン、どこにいる?」
返す声はない。
「どこに行ったんだ……」
アサシンに何かあったのだとすれば、居ても立ってもいられないが、探しに行こうとしても身体からの悲鳴がそれを許してくれない。
腹だけなら痛みを辛うじて無視して歩けるが、脚に大穴が開いていてはどうにもならない。
「クッ!」
藤丸は奥歯を噛み締めた。どうしようもない不安に駆られて、痛みに耐える覚悟を決めて歩こうと、床に両足をついた時、
「おい、動くな。傷が開くぞ」
何事もなかったようにアサシンは、コンビニのおにぎりをいっぱいに詰めたビニール袋を持って現れた。
「アサシン、外出していたのか?」
「あ、ああ、ちょっとコンビニと付近の探索にな」
アサシンはベッドわきに座ってマスターにおにぎりを差し出した。
「腹空いたろ……」
「ありがとう、アサシン」
藤丸はおにぎりを受け取り「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。鮭、梅干し、ツナマヨなどが適当に入ったビニールから、抽選くじの感覚で一つずつ手に取り腹を満たしていった。だがモクモクと食べる藤丸に対してアサシンは未開封のおにぎりを睨んでいて、食が進んでいなかった。サーヴァントは食べなくても肉体の維持はできるが、アサシンはそれとはまた違った様子だ。
「藤丸、食べながらでいいから聞いてくれ…… 昨日、サーヴァントに遭遇した。ライダーだ」
「……ぶふッ!」
藤丸は突然のカミングアウトに驚きのあまり米を吹き出し、その破片がアサシンの頬にかかった。
口を閉じて不服そうな顔をしながら、アサシンは懐から出したポケットティッシュで頬を拭う。
「食べながらでもいいと言ったが、噴き出してもいいとは言ってないぞ」
「ごめん……」
「まぁいい。……ライダーはこの場所を見つけて私が出てくるのを待っていた。『マスターを殺す』と脅しをかけられて、止む終えず戦うことになったが、かなり苦戦させられた。相手も相当の手練れで、終始一方的で、結局撤退せざるを得なかった」
「そんなに強いのか?」
「強い。多分、私とは本気で戦ってなかった。あの戦闘である程度の実力を計れたが、ライダーは底どころか頂点ですら、見せようとしなかった……」
アサシンは何かを言おうとして藤丸と目が合った瞬間、アサシンは視線をそらして歯切れ悪く、言葉をこもらせたが、藤丸は彼女のちょっとした表情の変化を鋭敏に感じ取って、
「アサシン、ライダーっていうのは――――お前よりも確実に強いのか?」
「――――――」
アサシンは目をそらしながら、ゆっくり頷いた。藤丸は口を伝えずともライダーとの実力差を理解し、その深刻さを受け入れるように「しょうがない……」と溜め息をついた。
「敵側に回ったヘラクレスや下総国の一件に比べれば、この程度くらい深刻でも何でもない」
「――――本当か?」
「いや、嘘…… で、でも、これくらいなら切り抜けたことがあるし、敵側のサーヴァントが複数ならバランスをとるために、味方になるサーヴァントも出現するはず…… それに敵側であっても味方にすることさえできれば…… 戦力差をひっくり返せるはず」
「馬鹿げてる…… とは言うまい。事実、そうせざるをえない」
「ありがとう、アサシン……」
「――――カルデアのマスターというのは、いつもそこまでへりくだっているのか?」
「そんなことないよ。苦労を掛けたら感謝する…… 俺がしているのはそれだけだ。俺ができるのはサーヴァントに比べたら、ほんの少しだけど…… そのほんの少しだけは、精いっぱいの自分ができる最大の事がしたいんだ」
「――――そうか。話が逸れた、元に戻そう…… ライダーに発見されたせいで、此処もすでに敵にマークされているだろうから、今のうちに別の拠点に移動する」
「移動するって、どこに? 俺の治療をした病院か?」
「いや、あそこは敵の巡回範囲だ。私が拠点に据えようとしているのは、此処から十分ほどの距離にあるコンビニだ。お前には安静が必要だが、それぐらいなら食料もあるコンビニの方が手っ取り早い」
「それはいいけど、俺は怪我人だぞ?」
「安心しろ。担ぐことはできる。それがいやなら、敷布ごと引きずって…… どうした? 顔が真っ青だぞ?」
「――――お手柔らかに、頼む」
どこかの建物の地下でライダーはサーヴァントと対峙していた。
彼は一段高くの玉座に腰掛け、立て肘で頬をついていた。彼は姿の隠匿のために前面にカーテンを挟んでいるため、ライダーであっても全貌を見たことがない。ライダーはこれを「姿そのものが真名を露呈する」ものだと考えてはいるが、上座で玉座から動かないこの態度からして「王様」としての気質も現れているのだろうと見立てている。
「ライダー、君は少し勝手が過ぎる。相手の拠点が分かったのなら、こっちと情報を共有してもらわなくては困るよ。僕も兵士の再配備で手一杯で調査どこらじゃないんだから……」
「何言ってるんだ…… 俺っちは最強と戦いたいんだ。だったら、まずは一回やり合ってみたいに決まってるじゃないか? 俺っちを召喚したキャスターとあろう者が、それすらわからねえのか?」
「すまない。そこは分かっていたんだ。でもそのために、恰好の機会を取り逃すのは嫌でね」
「俺っちも、最強である証明のために戦ってる。それに、お前っちに従ってるのは、それが目的と一致したからということを忘れては困る。用が済めばとっとと座に帰るつもりだし、一興として『王殺し』をするかもしれねえな?」
ライダーは冗談の中に殺気を含ませてキャスターを見る。
「あー、それは大変だ。非常に大変だ。僕はこれでも君のような戦士でもなければ、知恵の回る策略家でもない。しがないただのキャスターだ。君を屈服させられるほどの強さはないし、あったとしてもベクトルが違う…… だから――――――ランサー、出番だ」
ライダーは真後ろからの殺気に気付き、棍棒を抜いて振り返り戦闘態勢を取った。
先ほどまで空間だけだった場所に光が寄り集まり、霊体化していたサーヴァントが現れた。
赤い鎧、赤いハチマキ、赤い槍が特徴的なランサーだった。
ライダーが初めて見る、槍使いのサーヴァントだ。
「キャスター。お前っちにこんな手ごまがいたなんて意外だ。それに、ランサーだったかな? なかなかいい面構えじゃないか。これは一戦交えてみたい」
「ライダー、頼むからここは控えろ。私はここで体力を使いたくはない」
表情一つ変えずにランサーは言った。
「ほう。その言い方、まるで俺っちよりも自分が強いみたいな言いぐさじゃないか?」
「実際その見識はあたりだ、ライダー。ランサーは僕が考え得るサーヴァントの中で最強のサーヴァントを用意した。その装いもその意思表示とでも思ってくれ」
「全身真っ赤色の鎧武者が、最強ね? もしや、宝具か? それに『最強』ってのは俺っちよりもって意味か、キャスター?」
「彼の個人的な部分についていうことはない。だけど覚えてくれると嬉しい、ライダー。君の見識は正解だ。ランサーと本気で戦ったのならば『ランサーは確実に君と相打ち以上の結果を残す』のは確定事項だ。最強であるプライドをズタズタにされたくなければ、やめておいた方が身のためだ。もしそれでも戦いたいのなら、こちらの目的が終わってからでもいいだろ? 十分時間は残されている。内ゲバはそのあとでもいいだろ」
「分かった。決戦は予約だけにしておこう。ここでつぶし合うのは得策じゃないからな」
「わかってくれて結構。ランサー……持ち場に戻ってくれ、必要があれば呼び出す」
「御意」
ランサーは霊体化して消滅した。顔色一つ変えないランサーにライダーはつまらなさを感じていたが、その中にある強さには興味をひかれるばかりだ。自分の心の中にある『手合わせ』をしたい衝動を抑えられずに、襲い掛かってしまいたいほどに。キャスターはそれを知っていると思えるタイミングの良さでライダーに言った。
「ライダー、君に一つ指令を与えよう。君もつまらないのは嫌いだろ? そろそろ事態を前に動かそうと思うんだ」
「ほう? で、どのように?」
「カルデアのマスター、藤丸立夏をさらってきてほしい。生け捕りだ」
「おいおい。前はそいつを殺そうとしていたよな」
「あの時は、計画に精一杯で兵士共に通達が完全に届いてなかった。だが今度はヘマしない。藤丸立夏を生け捕るのがこの計画の要だ。死んでいてもかまわないが、生きていた方が、手間が少なくなる。だから、くれぐれもこれ以上怪我させるなよ」
「了解……でも『何もしなければ手出ししない』みたいなことを言った手前、アイツらには手荒な真似はできない。もちろん、関係ない奴が割り込んで切れば別だ」
「仕事は早いのなら、やり方は問わない。加えて支援用に二個小隊分の兵士を預ける。頼んだぞ」
「あいよ…… 任せな」
ライダーはやる気の無さそうな声でその場を後にした。
あとがきになります。
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次は第六章になります。