自分の焔牙が拳だった件   作:ヒャッハー猫

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こんなチンケな俺にも、すぐに諦めちまう俺にもくすぶってるものがあるのさ・・・ 意地があんだろ、男の子にはぁ!!          
                  君島邦彦


サード・ブリット

「失礼しまーす」

 

 如何にも上の人間が居そうな豪華な内装に大きすぎる部屋。目の前には朔夜にとても似合いそうにないオフィスデスクがあった。そして、そのデスクの先の合成皮革で作られているであろう椅子に優雅に座る朔夜。

 どうやら三國はいないようだ。

 

「初めての学校はどうでしたか? クラスには馴染めそうかしら?」

 

「アンタは俺の母親か」

 

「書類上では保護者ですわ」

 

「それ、おかしいだろ」

 

 目を細めてニタリと笑う朔夜の視線に悪寒が走る。そう、何故か書類上の身元では彼女が保護者として登録されている。自分より明らかに年下なのに。

 

 そこは、もっとやりようがあっただろう。兄......とは言わずにも弟とか従弟とか。それこそ、朔夜の父が保護者でも良かった気がしたのだが......まあ、複雑な家庭事情なのだろう、そうだろう。でなければ、こんなことおかしいに決まっている。

 

「立ち話もなんですし、そこにお座りなさいな」

 

 朔夜に促されるままに向かいにある席に座る。あちらよりグレートは落ちているが、なかなか高価な椅子のようだ。

 

「先ほど教室で説明があったでしょうから省きますわね。ここに呼び出したのは『絆双刃(デュオ)』すなわちパートナーの件ですわ」

 

 このまま行けば自分はパートナーが居ないままになる。それだと、朔夜が強い執着を見せている『絶対双刃(アブソリュート・デュオ)』に反するのではないだろうか? 

 

 その為なら周りがどれだけ犠牲になろうとも構わない冷酷な一面を見せる朔夜がこのまましておくことは無いだろう。

 

「まさか、上級生から連れて来るつもりか? それか三人組でも作るのか?」

 

「それこそ、まさか、ですわ」

 

 朔夜は立ち上がり後ろの一面窓ガラスになっている壁まで近づき、自身の学園を見下ろす。その目には一体何が映っているのか見当もつかない。天才を理解できるのは天才だけだ。

 

「アナタに似合う『絆双刃(デュオ)』はいない(・・・)

 

「......は?」

 

 自分に似合う『絆双刃(デュオ)』がいない? 一体、どういうことだ。

 

「誰でも、というわけにはいかないのです。お互いがお互いを研磨していき、一人では決して行くことの無い......その先に行かなくてはならない。ですが、アナタは違う」

 

 深紫の色の瞳がこちらを見据える。飲み込まれていくような瞳の奥には黒くドロリ、とした『ナニカ』が見えた気がした。

 

「『醒なる者(エル・アウェイク)』とはまた違う存在。調べてもその右腕(・・)のことは見当がつかない。たった一人でその高みまで行ったアナタに『絆双刃(デュオ)』は必要ないのです......先程の言葉は訂正しますわ、似合わないのではなく必要無い(・・・・)、と」

 

「......なら尚更ここにいる意味が無さそうだけどな」

 

 朔夜が目指しているものに対して自分は異質で邪魔な存在となるはずだ。自分はとにかく生き延びる為に必死こいただけであって意図してこうなったわけでは無い。

 

 シェルブリット自体もダメ元でやってみただけだ。そもそも、これが発現するとは思わなかった。ある意味、自分は皮肉に思ったもんだ。

 

 しかし、朔夜は表情を崩すどころかニコリと笑った。

 

一人だけ(・・・・)でそこまで至ったアナタと......私の『絶対双刃(アブソリュート・デュオ)』......どちらがより優れているか気になりませんか?」

 

 まるで玩具で遊ぶことにワクワクしている子供のような笑みだった。

 

「それに、一人では無理でもチームであれば高め合うことが出来るでしょう。アナタと言う一人に対して、彼ら二十六の『絆双刃(デュオ)』ならば」

 

 一人に対してそれはねぇよ。集団リンチと言うのを朔夜は知っているのだろうか? いや、ド、が付くほどのサディストである朔夜のことだ。分かってて言っているんだろう。やはり魔女の名は伊達じゃない。

 

「......教育カリキュラムは二人一組が基本的じゃねぇのか? そんときはどうすんの?」

 

「その時は先生か代わりの者を用意しますわ。安心しなさいな、アナタなら一人で出来てしまうものばかりなのですから」

 

「そんな期待されてもな......まあ、やることやればいいんだろ?」

 

「こちらが提示されるものをこなしてくれれば、後は何をしても構いません」

 

「そうかい、ならこれで」

 

 いつの間にか出されていた紅茶に目もくれずにその場から立ち去ろうしたとき、後ろから声がかけられる。

 

「一つ言い忘れていましたが......力加減は覚えておいてくださいね。これはアナタの為でもありますわ......右腕が使い物にならなくなる前に」

 

 やっぱ、いけ好かないヤツだわ。

 

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 

 入学から二日目の朝。朝食のため学食へ行くと疎らだが何人かの生徒達が思い思いに食べている。自分も何にするか皿を手に料理を選ぶ。

 

 昊陵学園(こうりょうがくえん)の学食は肉がメインのA定食、魚がメインのB定食、和洋の五十種類から好き物を選ぶビュッフェスタイルの三種類から選択する形式だ。

 

 大半の生徒がビュッフェを選んでいたので自分も真似てそうしたが......如何せん、種類が多すぎてどれにすればいいのか分からない。

 

 別に好きな物を食べればいいと思うかもしれんが、こっちはこんな贅沢な食事は初めてな上に味や胃が受け入れてくれるかどうか心配になる。特に酢豚など食ったら吐きそうな気がする。

 

「......B定食にするか」

 

 ちゃんと栄養バランスが考えられている組み合わせが今はいいだろう。おばちゃんにB定食を頼み待っていると何人かの視線を感じる。何か話しているようにも見えるが大方自分が理事長と関わりがあるので話題になっているのであろう。

 

 中には話しかけようとしているような雰囲気を感じる。まさか、自分に取り入ろうとしているのか......? いや、そんな、馬鹿な。自意識過剰かよ。まあ、そんな狙いで話し掛けられてもいざというときはどうすることもできないけどな。

 

 そんな事を考えているうちに定食が出来上がり朝から食欲をそそる匂いがダイレクトで鼻に入って来る。適当に空いている席に座ってちゃんと手を合わせる。言葉ではいわないが心の中ではちゃんと「いただきます」を言った。

 

 ......分かり切っていたがやはり美味い。生まれて初めてこんな優しい料理を食べた。食材に一つ一つに旨味が胃の中......いや、全身に染み渡るような錯覚を覚える。箸が止まらず魚を食べてはごはんをかき込み、味噌汁で口の中を洗い流す。

 

「......ゴクッ、お、おばちゃんB定食!」

 

「わ、私もB定食!」

 

 その日、いつもよりB定食が多く選ばれたのは学園の七不思議の一つとされた。その原因を作った張本人は自分とは知らずに料理を味わっていた。

 

 ガタっと隣で音がたったので横を見て見ると委員長が主人公の前に座った。いや、委員長では無いのだが名前が思い出せない。確か重要な登場人物だったはずだが......はて、どんな名前だったか。まっ、いっか。

 残り少ないごはんを惜しむように食べていると、隣の席には新たな女子が増えていた。

 

 ......月見先生も中々ではあるが、あの子も引けを取らないぐらいデカいな。勘ぐってしまうのは男子特有の物だから許してほしい。メインの魚もごはんも食べてしまったので、最後の締めの味噌汁をゆっくりと飲む。

 

 これがまたいいのだ。落ち着きながら飲みつつも、隣の男子一と女子三人というハーレム状態の会話が気になるのは必然。さらに、それが一緒の部屋で同居している二人組なら尚更。

 

「昨晩も、トールは先に眠ってしまった私を優しく抱(・・・・)いてくれました(・・・・・・・)から」

 

「「「ぶーっ!?」」」

 

「ゴホッ!?」

 

 味噌汁吹いた×3。巨乳の女子は牛乳を吹いていた。

 

 自分の場合は吹いたというよりかは咳込んだが、口から味噌汁が出たのでそう変わりはないだろう。隣では委員長が激昂して怒声の叱咤が飛ばし、巨乳の女子と一緒に食堂を出ていってしまった。

 

 うん、何と羨まし──んんっ、何と妬ましい奴なのか......ん? 意味変わってねぇな。まあいい。とにかく、けしからん奴だ。初日に寝込みを襲うなど。

 

「つ、九十九! ち、違うからなっ!? 誤解なんだ」

 

 あ、やっぱ気づいていたか、俺が聞いていたことを。しかし、だ。主人公のお前が言い訳などすると見苦しいぞ。弁解をしようとする主人公を手を出して止め、食器を乗せたトレイを持って立ち上る。

 

「何、気にすんな。据え膳食わぬは男の恥っていうしな」

 

「~~っ!? 誤解なんだァアアア!!」

 

 意外とイラつきはしないもんだな、こうなんか父性みたいなもんが湧き上がるというか、同じ男としてどこまで侍らせられるのか気になる所ではある。止まるんじゃねぇぞ、主人公。

 

 

 

「さあさ、それじゃあ記念すべき最初の授業をはっじめるよー♪」

 

 朝からハイテンションの月見先生が両手を広げて授業開始の宣言をする。しかし、前では委員長がじっ、と主人公を見ており、主人公は時たまこちらを見て来る。次は委員長か......二日目にして二人目か。手を出すの早くない? 

 

「──というわけで、『黎明の星紋(ルキフル)』による身体能力超化は、掛け算みたいなものだから、訓練で身体を鍛えれば鍛えるほど効果が高まるんだよー☆ ここまでオッケー?」

 

 ここら辺は朔夜理事長、直々に説明というか解説をされたので分かっているが原理まで理解できなかった。途中から専門用語が多すぎて何を指してるのか分からんし、英語で言われても無理だし。最後の方なんてもうアナタのおじいさんスゴイね~って感じだったわ。

 

「で、『黎明の星紋(ルキフル)』は『位階(レベル)』って呼ばれるランク付けがされているのよね。みんなは昇華したばかりだから『(レベル1)』ってわけ。これは学期末(ごと)に『昇華の儀』ってのをやってランクアップさせて行くの。『位階(レベル)』がそのまま成績になるから、一年間まったくランクが上がらないと見込み無しとして除籍処分──つまり退学になっちゃうので日ごろから心身とも鍛えるんだぞっ☆」

 

 先生の話だとランクアップしない事には進級出来ないどころか退学になるということか......俺の場合どうなんの? 『黎明に星紋(ルキフル)』なんて打たれてねぇぞ。

 

 いや、そのまま退学とかになったらいいけどさ......朝の話からしたらエスカレーター式に上がっていくんだろうなぁ。寧ろ、上がらない奴に喧嘩とか売って上げさせろとか言わないよな......? 後で聞こうと思う。

 

 

 

 午前の座学が終わり昼飯を食べた後。

 

無手摸擬戦(フィストプラクティス)』という無手で組手をする戦闘訓練を武道場ですることになり体操服に着替えて集合した。

 

 自分にとってはお誂えむきな授業ではあるのだが......まさかのブルマである。今亡き文化の一つをこんな所で見るとは......不肖のこの身、感動しました。

 いやいや、違う。そこも(・・・)だが突出すべき点は真ん中で委員長が土下座している点だ。

 

 どうやら食堂での誤解の事を謝っているらしい。ああ、昼飯の時ひたすら説明されたから誤解はしてない。でも結局抱いたことには変わりないよな?

 

「本当にすまないッ!!」

 

「誤解が解けたならそれでいいから、土下座は辞めてくれっ!?」

 

 まあ、そうだろう。中には「サイテー」という声も聞こえて来る。主に女子からの。

 

「これは私の気持ちだ! 勘違いとはいえ、キミに対して大変失礼な態度を取った自分自身を戒める気持ちを表しているのだ!!」

 

「表さなくていいから立ってくれ!! 今度は違う誤解を受けそうだ」

 

「え?」

 

 周りを見て状況が理解出来た委員長は先ほどより更に頭を下げた。

 

「か、重ね重ね申し訳ない!! 本っっ当に申し訳ない!!」

 

「だからそれを止めてくれって!?」

 

「そ、そうだった」

 

 委員長が立ち上ろうとした時だった。委員長の足が滑ってそのまま主人公の股間に顔からダイブしたのだ。

 

「ブフッ!?」

 

 これは笑ってしまう。中々無いラッキースケベだな。そこの男子よ羨ましがる気持ちは分からんでもないぞ。だが、そこからは予想してなかった。まさか続きがあったのだ。

 

 ビックリした委員長がそのまま立ち上ろうと、主人公の足が腕に引っかかったまま動き、それによって二人とも縺れて、主人公は足先が顔の方に、委員長はでんぐり返しの要領で一回転して股間が主人公に顔の部分に。何とも奇跡のような状態でこの短時間にラッキースケベを二回も引き起こす主人公に脱帽の念を抱かせざる負えない。

 

「す、すまない! ワザとじゃないんだ!?」

 

「なら早く退いてくれ!?」

 

 狙ってやれるもんじゃない高等技術だ。そして、そこにすかざず銀髪美少女が夫の浮気を目撃するかのようなタイミングで登場した。修羅場になるのか、と期待したが......。

 

「......! 寝技の練習ですか?」

 

「「違うっ!!?」」

 

 はっはー、これは予想の斜めを上を行きやがる。天然もしくは純情(ピュア)過ぎるってことか。いいね、いいね。おじさん見てて楽しいよ。

 

「......何故、貴様は拳を握りしめている」

 

「......気にすんな」

 

 隣にいたちっこい眼鏡の男子の言葉で気が付いた拳を緩める。まさか、無意識にイラついていたかも知れない事実に自分自身ビックリする。

 

 やはり、この身体はだいぶ煽り耐性が弱いようだ。よし、殴ろう。ちょうど組手だし怪我しても問題ないだろう。

 

「なあ、ちょっとヤり合わねぇか?」

 

 尻餅を突いた主人公に手を差し出す。主人公は少し考えた末に差し出した手を掴んだ。

 フッフッフ、昨日見たボクシングアニメの動きを見て覚えた技を見せてやる。

 

「......分かった」

 

 

 

 

 

 

 どういう狙いかは知らないが九十九が声を掛けて来たときは少し驚いた。九十九はその見た目から怖がられている。しかし、意外ととっつきやすい性格だというのが今日話してみて分かった。多少、気は荒いが悪いヤツというわけでは無い。寧ろ、話していて知的な部分も垣間見た。

 

 入学してからただ者じゃないと思っていたが、こう相対して見て分かる。これでも武術をしていた身だ。師範......いや、それよりか強いかも知れない。

 

 それに九十九......九十九理事長(・・・・・)と何らかの関係があると見て間違いないだろう。

 

「行くぜ」

 

「ッ!?」

 

 一言、それを聞いた時には既に拳が目の前に迫っていた。風を切って振るわれる拳を頬の薄皮一枚犠牲にして避ける。次に振るわれる拳は避けきれるわけも無い。故に前に詰めて少しでも威力を弱めて──

 

「──なっ!?」

 

 懐に入ろうとした瞬間に鋭い鞭のような拳が二撃続けて飛んできた。急いで両手でガードして防ぐ。これでは懐に入るどころか近づけない。ガードの隙間から前を見ると右手を引いている姿が見えた。 

 

 ヤバイ、大砲が来る!?

 

 更にガードを固めて備えるが、両腕にくるはずの衝撃が一向に来ない。そして、何故かガードが払われる。

 

 は? 何が起こった?

 

 理解することは出来ずに一瞬呆然している所に拳が迫ってきていた。殴られると目を瞑ったが、来たのはデコピンだった。

 

「チェックメイトだな」

 

「......あ、ああ」

 

 九十九は飽きたとでも言わんばかりに後ろを向いて壁際まで歩き腰を下ろした。自分は何が起きたか訳が分からないままだ。周りも驚いたような表情をしていた。

 

「あれは見事なフェイントだったな」

 

「トラ......フェイントだって?」

 

 近くで見てくれていたトラが先ほどの攻防、と言うよりかは一方的な攻撃の解説をしてくれた。

 

「ああ、あの動きはボクシングだな。左のジャブでお前を離してそこから牽制の二回ジャブ。そして、怯んだ隙に右のストレート......ここまでは分かってたんじゃないか?」

 

「ああ、その後から訳が分からなくなった」

 

 右が来ると分かったから直ぐにガードを固めたのだ。しかし、その後何故かガードを破られた。あれは一体......。

 

「右、と見せかけて下からの打ち上げ......つまりアッパーだ」

 

「......そういうことか」

 

 ガードが払われた、と言うよりかは両腕が上向きに弾かれた感覚だった。しかし、あの一瞬でそこまでやれるなんて......プロなのか、と勘繰ってしまう。

 

「うーん、しかし......」

 

「どうしたんだ、トラ?」

 

 何やらまだ唸っているトラが九十九を見て首を傾げる。

 

「いや、確かに見事だった。だが、足の動きが滅茶苦茶と言うか、ボクシングをやっていたようには見えなくてな」

 

「......?」

 

 その後、九十九は誰ともやらずにずっと全員の動きを観察しており、リベンジも断られてしまった。そして、そのままチャイムが鳴り、九十九の謎が増えた組手の授業だった。

 

 




さて、少しはこの小説の主人公と主人公が関わった感じになった所で、次はいよいよ『新刃戦』の話しに入りたい。いや、入るつもりですけどまだシェルブリット出すつもりはないんですよね。シーリス時まで温存させておきたい。

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