自分の焔牙が拳だった件   作:ヒャッハー猫

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人を勝手にランク付けするんじゃねえ!
                   カズマ


フィフス・ブリット

 夕方近くの時間帯。クジで指定された場所で待機しているとピリピリと張り詰めたような空気が漂ってくる。これから始まるイベントに対し、全員が高揚感を抑えられないのであろう。

 

「......そろそろか」

 

 リーンゴーン......リーンゴーン......リーンゴーン......。

 

 時計塔の鐘が『新刃戦』の開始を学園中に宣言する。それを合図に各所で『力ある言葉』が響き、(ほのお)が舞い上がる。

 

「はぁ、興冷めだよなァ......」

 

 もし朔夜にあんな誓約(・・)をされなければ今ごろ自分は喜んで敵がいる方に突っ込んでいただろう。正直、守る意味は無いが......釘を刺されてしまった以上、何故か破る気になれない。自分でも下手に律儀というか義理堅いというか......義理はないか。

 

「まァ、縛りプレイってやつも嫌いじゃねぇ......いいぜ、やってやるよ。『焔牙(ブレイズ)』を使わないでヤってやろうじゃねぇか──」

 

 指定された場所から喧騒がする方へ走って向かう。少し先で、もう既に二組の『絆双刃(デュオ)』が戦闘を始めていた。その一人がこちらに気づき驚きの声を上げる。

 

「ッ! 九十九!?」

 

「なっ、本当に一人なのか!?」

 

 拳を握り締め、真っ只中に走り込む。ニヤリ、と口元を歪ませれば見た目通りの兇悪な姿を見せる。

 

 

 

「──喧嘩だァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 

「ま、まじ......かよ」

 

「ふぅ......最後の一撃はいい線言ってたぜ」

 

 それを聞いたかどうか知らないが、右拳を鳩尾に叩き込まれ気を失う男子生徒。『新刃戦』が始まってから大体一時間ぐらい経っており外もだいぶ薄暗くなってきている。

 これまで大体、五組ぐらいの『絆双刃(デュオ)』を倒したが、このイベントも終盤戦に入って来ている。生き残っているのはもう片手で数えられるほどだろう。

 

「さてと、残りは校舎の中か? 面倒だな、ここから結構遠いじゃねぇか」

 

 そうボヤいていると近くから人の気配を感じて、咄嗟に構えを取れば現れたのは眼鏡野郎だった。

 

「んだよ、テメーかよ」

 

「......何故、構えを解かない?」

 

 眼鏡、三國を含め月見先生等は怪我をした生徒たちの為に見回りをしている。勿論、本来なら構えを解くべきなのではあるが身体は言う事を聞きそうにない。どうやらあの時、負けたことが未だに忘れられないようだ。

 

 自分でもここまで悔しいと思ったことはない。確かにあの時は消耗もしていたし、体調も良くなかった。更に言えばシェルブリットも使いこなせていなかった。だが、戦いにそんなの関係無い。勝てば官軍負ければ賊軍と言う言葉通り、自分は負けて辛酸を舐めさせられたのだ。目の前の男に。

 

「へっ、ちょうどいいじゃねぇか。この場所なら思い切ってヤり合えるだろ?」

 

「......」

 

 三國は何も言わない。ただ、こちらを見据えるだけだ。

 

「気に入らねぇ......その目だ。俺を見下してやがるその目。見てると腹が立つ」

 

「......フッ、私は別に構わないが......あっちだ」

 

「あァ?」

 

 三國は校舎の方を指差す。

 

「あっちにお前と戦うことを楽しみにしているヤツがいる。そっちを先に済ませるといい」

 

 俺とヤり合いたいヤツがいるだと? コイツ何を考えている。ただのでまかせか......それとも本当にいるのか。

 

「......チッ、これも朔夜の考えか? マジで分かんねぇ、俺を使って何がしてぇんだ」

 

 『焔牙(ブレイズ)』を使わずに生き残れだとか、生徒たちの動向を観察しろだとか。朔夜は俺に何を求めてんだ? 何となくやろうとしていることは解る。だが、理解出来るかと言われたら話は別だ。

 

 目的どころか過程が分からない。考えが分からない。まあ、俺みたいな凡人が理解出来たらここまで成し得てないか。

 

「はいはい、行けばいいんだろ......いつかぜってぇ、リベンジしてやっからな」

 

 三國は何も言わずカズヤを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、ユリエ」

 

「ヤー。トールこそお疲れさまでした」

 

 小さく笑みを浮かべるユリエへ透流は笑みを返しつつも胸中では先ほどの橘達の戦いで見せた判断力に舌を巻いていた。

 

 橘が使う『焔牙(ブレイズ)』は中遠距離を主体とする『鉄鎖(チェイン)』で自分と相性が悪いのは明白だ。それを判断してそれぞれに見合った相手を見極めるユリエ。

 だが、それと同時に背中を任せてくれたことに対しての嬉しさもあった。

 

「さて、と。それじゃあ俺達は行くから、後は任せていいな?」

 

「う、うん」

 

 ユリエの一撃で橘は意識を失い、今はみやびが介抱している。怪我は無いようだが、それ故に『焔牙(ブレイズ)』が人を傷つけないという特性に改めて驚きを禁じ得ない。

 

 時間からすると、あと一戦が関の山だろう。出来れば九十九かトラとやりたいところだが──

 

「──ぐっ......があぁああああああああっっっ!!」

 

 上階より響いてきた、トラの絶叫(・・・・・)によって思考が中断される。

 

「トール。今の声は......!!」

 

「みやび、ここにいてくれ! 橘を頼む!」

 

「う、うん! と、透流くんたちは......!?」

 

「行きましょう、トール」

 

 ユリエに視線を向けると、意図を察して頷きが返ってくる。

 

「ああ、行こうユリエ!」

 

「き、気を付けてね、透流くん、ユリエちゃん!」

 

 みやびの声を背中に受けて、俺たちは声の聞こえて来た上階へ駆け上がる。いやな胸騒ぎが止まらない。あの日と同じだ。

 道場が炎に包まれたあの日と同じく、言葉には出来ない嫌な予感が胸の奥で渦巻く。

 

 最上階の廊下へ到着すると、中央に佇む影、特徴的なうさぎ耳のシルエット。その影の視線の先、壁際に倒れ込んだ友人の名を叫ぶ。

 

「トラ、タツ......ッ!!」

 

「九重くん.....!」

 

 俺の叫び声に月見先生が、驚きに満ちた顔を向ける。

 

「月見先生! いったい、何があったんですか!?」

 

「せ、先生も今来たばかりだから.....」

 

「トール。トラたちの傷が酷いです」

 

 見たところ二人とも鋭利な刃物で切り裂かれたような傷が数ヶ所にあり、大きな傷を負っている。その時、微かに息のあるトラが何か呟いた。

 

「うっ......うしろ......だ、透流......!!」

 

「え?」

 

 振り返れば、笑みを浮かべた月見先生が見下ろし──いつの間にかその手には、凶悪なシルエットの『牙剣(デブテジュ)』が握られていた。

 

「ッ!?」

 

 振り抜かれたソレを紙一重で避けた。

 

「フュー、惜っしい☆ もう少しで先生の『焔牙(ブレイズ)』で九重くんを真っ二つに出来たのにー♪」

 

「月見、先生......どうして......ッ!?」

 

 いつもの口調で恐ろしいことを言う月見先生に驚きつつも問いかける。

 

「どうしてって......アタシがコイツ等をやったからに決まってんだろうがッ!」

 

 口調が変わり獰猛な笑みを見せる月見先生。そのまま振り抜かれる『牙剣(デブテジュ)』を咄嗟に避ける。

 

「月見先生! 何故だ!? どうしてこんなことを!! ......うっ!?」

 

 痛みを感じて患部を抑えると手にはべっとりと血が付いていた。

 

「そんなどうして!? 『焔牙(ブレイズ)』は人を......ッ!?」

 

「ハッ、壁も地面も壊せる武器が人間だけを傷つけない......なんて、そんな都合のいい話があるわけねぇだろ」

 

 月見先生は『牙剣(デブテジュ)』を振りぬき構える。

 

「『焔牙(ブレイズ)』は魂を具現化した力。心の持ち方一つでいくらでも変わるってことだ──よォッ!!」

 

 いつの間にか距離を詰められ振りかぶられた『牙剣(デブテジュ)』をユリエが咄嗟に前に入り防ぐ。

 

「良い反応するじゃねぇか、銀髪」

 

「殺意を持って『焔牙(ブレイズ)』を扱えば人を傷つけることが出来るということですか......!」

 

「飲み込みがはぇーな、銀髪」

 

「うおおおっ!!」

 

 鍔迫り合っている間に月見先生に奇襲をかけるが蹴りを食らわせられ、ユリエも弾かれてしまう。

 

「レクチャーその一。実は『焔牙(ブレイズ)』は人を殺せちゃうんだよね♪ でもこれって機密事項だから内緒だよ♡」

 

 いつもの口調で言われる事実に衝撃を受ける。

 

「続いてレクチャーその二。『焔牙(ブレイズ)』を破壊されるとどうなるかって言うと──」

 

 トラの『焔牙(ブレイズ)』である『印短刀(カタール)』を真っ二つに叩き斬った。

 

「ぐっ、あぁああああああああっっっ!!」

 

 直後、トラが絶叫し力無く床へと倒れ込んだ。

 

「この通り、丸一日起きられねぇぐらいのダメージを精神にくらう。まァ、仮にも『魂』を破壊されてその程度で済むんだからマシかもな」

 

「どうしてこんなことをする!」

 

「仕事だ、仕事。有望そうな新人を始末するだけの簡単なお仕事さ。さて、そろそろお喋りを終わりにして殺してやるよ。前菜(オードブル)には丁度いい」

 

 くくくっ、と笑い声を上げ月見先生──いや、月見の放つ殺気が膨れ上がっていく。

 

「さあ始めるぜ!! 一分一秒でも長く抗ってアタシを愉しませてみろぉっ!!」

 

「っ、!?」

 

 その姿が掻き消え、俺は目を疑う。

 

「上です!」

 

「なっ!?」

 

 ユリエの声に視線を上げたまさにその瞬間、月見は天井を蹴っていた。

 

「トール!!」

 

 ユリエが受け流し守ってくれる。しかし、月見が横薙ぎの二撃目を放ちその力に押され吹き飛んでしまう。

 

「くっ、おおっ!!」

 

 格闘で挑むが拳は全て避けられ掠りもしない。

 

「オラオラッ! もっと必死にやらねぇと死んじまうぞ!!」

 

「がっ!?」

 

 月見の膝蹴りが胸部に深々と刺さりミシミシと不吉な音をたてる。

 

「たくっ、このぐらいでへばってんじゃねぇよ!」

 

 月見がそのまま頭を鷲掴みにし投げ捨てられる。そして、『牙剣(デブテジュ)』が振り抜かれようとされたとき、ユリエが壁を蹴って高速で月見の背後から奇襲を仕掛けた。

 

「おっと!」

 

 しかし、気づかれ振り向きざまの横薙ぎ一撃でまた壁際まで吹き飛ばされた。その隙を見逃す月見ではない。すぐさま、『牙剣(デブテジュ)』を振り上げた。

 

「これで終わりだァ!!」

 

 ガキィィン!! と金属音ともに左腕の『(シールド)』に掛かる重圧が重く圧し掛かってくる。何とか間一髪で二人の間に割り込むことができた。

 

「ユリエッ! 大丈夫か!?」

 

「他人の心配をしてるヒマがあんのかァ?」

 

 ゆっくりと押し込まれて行くのが分かる。

 

「ぐっ、うぅっ!!」

 

「頑張るねェ、だが、無駄だ! 弱ェヤツ(・・・・)は死んどけ!!」

 

「ッ!?」

 

 

『弱いから死んだだけだよ』

 

 

 あの日に惨状が脳裏に浮かぶ。

 

「こっっのぉ!! 雷神の一撃(ミョルニール)!!」

 

 押し返しつつ、弓を放つかのように拳を引き絞り、怒りに任せて一撃を放つ。──が、それは空を切り、背後の壁を破壊した。

 

「くはっ、その『位階(レベル)』でとんでもねー威力だな。......まあ、当たらなくちゃー意味がねーけどよ」

 

 くははっ、と余裕を残して笑う月見。二人とも力で押し負け、速さでも負けている。あの時の訓練では力に片鱗も見せてなかったのか。もう、勝ち目が無い──。

 

 

 

「──『位階(レベル)』......か。気に食わねぇな、勝手にランク付けしやがって」

 

 

 

「九十九っ!?」

 

 後ろから聞こえて来たその言葉に振り返ればこちらに歩いて来る九十九の姿があった。しかし、その表情は今まで見たことの無い、闘志のような熱いナニカが迸っている。

 

「クククッ......ハッーハハハハッ!! 待ってたぜ! 九十九!!」

 

 月見は高笑いしたのち、先ほどとは比べ物にならないほど殺気を高めていく。

 

「九十九、何で......いやっ、気を付けろ! ソイツは危険すぎる!」

 

 しかし、九十九は歩みを止めず月見の間合いまで近いてしまった。まさか、まだ本性に気が付いてないのか!?

 

「アイツ等のことはどうでもいいけどよ......やっぱ同期として仇討ち(・・・)はしないとなぁ。まっ、死んでねぇけどよ」

 

「仇討ち......?」

 

 どういうことだ? 何故、九十九が月見の同期の仇になる? 理解出来ないまま進んでいく。自分たちの正面に立ってから黙っていた九十九がゆっくりと右手を前へ突き出した。

 

「......この場合は例外ってことだよなぁ?」

 

「あァ? 何のことだ?」

 

 言葉に意図が分からず月見が言葉を聞き返す。ニヤリ、と九十九が口元を緩めれば人差し指を曲げて中指を曲げ、順に曲げていき最後に小指を曲げて拳を作る。

 

「これなら使ってもいいよなァ(・・・・・・・・・)!」

 

 右手の黒い指無しグローブから軋むような音が鳴るほど強く握り込んだ。

 

 

 

「──『焔牙(ブレイズ)』ッッ!!!」

 

 

 

 

 




ヒャッハー! もう我慢出来ねぇぜ! ということで当初の予定より早く出すことにしました。なんか引っ張るのもアレでしたし。というか、もう既に誓約を破ってしまったことに関しては申し訳ない。

えっと、あ、評価してくださってありがとうございます。作者のやりたいようにやった作品に評価が付くと嬉しく思いつつも何か恥ずかしいなという気持ちがあったり.....とにかく、ありがとうございます!

Q:サードブレッドとフォースブレッドはブリットの誤字?
A:はい、その通りです。素で間違えてます。教えてくださってありがとうございます。

Q:かなみのポジションの子はいるの?
A:朔夜......いえ、今のところはいません。

Q:拳で抵抗する主人公マジカッケー
A:やはり人間、最終的には拳なんですよ。それと、はやりのネタを意識したわけではありません。一応、公言しときます。

長くなりましたが次回お会いしましょう。

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