自分の焔牙が拳だった件   作:ヒャッハー猫

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俺が遅い? 俺がスロウリィ!?
            ストレイト・クーガー


シックス・ブリット

「──『焔牙(ブレイズ)』ッッ!!!」

 

 九十九が『力ある言葉』を口にした瞬間、廊下全体を覆うほど強い光──いや、(ほのお)が九十九を中心に広がる。ユリエを守るように前に出て自身の『(シールド)』で防ぐ。

 

「こ、これが九十九の......ッ!?」

 

 (ほのお)が次第に九十九の()()に向かって収束されていく。(ほのお)は右腕を覆う装甲となり、背中には赤い羽根が生える。

 九十九が腕を払うと残滓の(ほのお)は空気に溶けるように消えていった。

 

 右腕を覆う朱色と金色の混じった装甲が月明りに照らされて美しく光る。それは本来あり得ないとされた──自分と同じ『異能(イレギュラー)』の『焔牙(ブレイズ)』だった。

 

「くはっ──ハッハッハハハッッッ!! まさか『異能(イレギュラー)』が二人もいるとはなッ! しかも『(シールド)』とはまた打って変わった『焔牙(ブレイズ)』だなァ、オイ!」

 

 傑作だと言わんばかりに月見は笑う。腹を抱えて笑うほどだ。ある意味チャンスなのだが九十九は動かず、右腕の調子を確認していた。

 

「久しぶりだからな......若干、重く感じるぜ。まっ、んなこたァ、どうだっていいんだ。喧嘩だ、喧嘩。喧嘩しようぜ!」

 

「喧嘩だァ? くはっ、笑わせるじゃねぇか。いいぜ、ノってやるよ。その殺し合い(喧嘩)に──なッ!!」

 

 自分の時より素早い踏み込みで斬りかかって行った月見に対して九十九は反応できずに止まっている。やはり『位階(レベル)』の差があり過ぎる......!!

 しかし、ニヤリと口元を歪めたのは九十九だった。

 

「あァ、そうこなくちゃなァッ!!」

 

 月見の上から振り抜かれた袈裟斬りを右手で受け止め火花が散る。驚きの表情をしている月見を見てあの一撃は本気だったと確信する。九十九が右腕を振り上げ月見の『牙剣(デブテジュ)』を上にはじき返す。

 その時、出来た隙を付いて九十九は右腕を引き脇を締めた。

 

「オラッ──ッ!!」

 

 下から抉るように突き出される鋭い一撃を避けれないと判断した月見は咄嗟に『牙剣(デブテジュ)』で自身の身体を守るように体の隙間に割り込ませる。

 

 金属同士がぶつかり合う音と共に弾かれ合う二人。突っ込んで来たときまで月見は笑っていたが、もう真剣な表情へと変わっていた。

 

 腕が痺れてやがる、と『牙剣(デブテジュ)』を持つ手を見ながら思う月見。たった一発殴っただけでこれ程の威力。これ以上『焔牙(ブレイズ)』で受けるのは止した方がいいだろう。下手にやると『焔牙(ブレイズ)』がもたない。

 

「殴っただけでコレ、か......お前、本当に『(レベル1)』か?」

 

「ケッ、さっき言ったろうが。そういう(レベル)のは気に入らねぇってな」

 

 ギチギチと九十九の拳が鳴る。

 

「速さも力もワタシと同じ......いや、力だけなら上か? 流石、理事長のお気に入りってとこか。『位階(レベル)』の制限無しってか?」

 

 その月見の言葉に九十九は後ろ頭をガシガシと掻く。ほんの前まで先生という立場だったが今は敵だ。その敵の目の前でその行動は隙を見せすぎなのではないだろうか。しかし、月見は武器を構えただけだった。

 

「別に朔夜......理事長には、まぁ、恩つうか......なんかあんけどよ。別に贔屓されてるわけじゃねぇ。それに、俺は『黎明の星紋(ルキフル)』を打たれてねぇし」

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

 その発言に自分とユリエは驚きの声を上げる。月見も言葉には出さないものの何とも言えない表情をしている。

 

「俺には()()が無いとか言ってたしな......っと、これ機密だったわ。まっ、どうせ直ぐ分かる事案だったろうけどよ」

 

黎明の星紋(ルキフル)』無しで超人的な身体能力と『焔牙(ブレイズ)』を持つことはあり得るのだろうか。しかし、あり得ないとは九十九を見て言えない。『黎明の星紋(ルキフル)』での超化は遺伝子操作によるものだ。つまり九十九は()()黎明の星紋(ルキフル)』のような物を持ってたいとういことだろう。

 

 これなら納得が出来ないこともない。特例の件や自分以外の『異能(イレギュラー)』の『焔牙(ブレイズ)』。これ程まで強いことも。

 

「んなァことよりもさっきの続きと行こうぜッ!」

 

「チッ!」

  

  鋭い踏み込みと共に放たれるアッパーカットを月見は冷や汗を垂らすと同時に避ける。九十九の一撃は一発一発がとても重いことは先ほど『牙剣(デブテジュ)』でガードした時に分かっている。生身で受ければひとたまりも無いだろう。

 つまり、もう避けるしかない。しかし、やられるだけの月見ではない。

 

 素早く避けた後にカウンター気味の横払いをした。難なく右手で受け止める九十九だったが、その隙に月見の蹴りを身体の真正面に受け、少し仰け反る。その隙に一歩距離を取って油断なく構える。懐に入れたら不味い。しかし、相手はあの右手が届く範囲だ。リーチの点に置いてはこちらの方が有利。

 

 このまま距離を保って少しずつ九十九(ヤツ)の『焔牙(ブレイズ)』を削り取る......!

 

 今までとは打って変わって純粋な殺意が月見からヒシヒシと感じて来る。こちらの足が竦んでしまう程の圧力に九十九はニヤリ、と笑った。

 

「いいねェ......こっちもアツくなって来るじゃねェか!」

 

 右腕を引き左手で狙いを澄ますように相手を被せる。音が鳴る、ギチギチと拳が固められて行く音だ。

 

「一発目でくたばんなよッ! 衝撃の──」  

 

 パキパキ、とガラスが割れるような音と共に右腕の肩甲骨に伸びていた赤い三本の羽根の一本が砕け散ると、そこから勢い良く空気のような物が噴射された。それが推進剤となって唯一のアドバンテージである距離を詰めてきた。更に威力も高めた一撃だった。

 

 一瞬にして詰められた距離。油断無く構えて、一挙手一投足に見逃さないようにしていたはずなのに。強く唇を噛み締める。出し惜しみしてやられるのは愚の骨頂だ。

 自分の『焔牙(ブレイズ)』の──『蛇腹剣(スネイク)』の真の力を......ッ!

 

「ッッ!! 『狂蛇(ウロボ)──」

 

 ──『牙剣(デブテジュ)』を前に掲げた時だった。まだ猶予があったはずの距離が更に詰められている。ぐらり、と視界が揺れるような感覚が目の前を覆う。

 まさか、さっきの()()()()()()()でっ!? 

 

 顎を掠れただけで軽い脳震盪を起こすことがある。その殆どがアッパーなどの顎を掠める一撃が要因だ。しかし、平衡感覚がズレたままでも真の力を開放しようとするが間に合うはずが無く。

 

 

 

「──ファースト・ブリットォォォッ!!」

 

 

 

 それは、自分から見ても恐ろしいと思える強烈な一撃だった。

 

「ぐっ、アァアアアアアッ!!」

 

 その一撃は月見の『焔牙(ブレイズ)』を破壊するには十分なほど威力を持っており、そのまま『焔牙(ブレイズ)』を突き破って肉体へも拳が届く程の一撃。

 

 自分の雷神の一撃(ミョルニール)の何倍──いや、何十倍もの威力があることを感じとる。

 

 あれが、九十九の『焔牙(ブレイズ)』ッ!!

 

 自分と同じ『異能(イレギュラー)』で『(シールド)』とは真逆の攻撃に特化した『焔牙(ブレイズ)』......ッ!!。

 

「惜しかったな、後もう少し早ければどうなってたか......あぁ、そういえば『焔牙(ブレイズ)』って破壊されたら一日ぐらいは起きないんだっけ?」

 

 自分達が手も足も出なかった相手に対して九十九は真正面から圧倒的な力で叩きのめして見せた。しかも、まだまだ余裕があるようにも見える。少なくとも月見は学園から抜擢されて学校の教師になった程の実力者だ。

 それをたったの一撃で、しかもあれが羽根一本消費して放つ技としても残り二本残っている。あの威力の物が後二回も放たれるなんて......ゾッとする。

 

「取り敢えず、一件落着かァ? ハァ、不完全燃焼だな。こりゃあ」

 

 落胆した様子を見せてこちらに向き直り歩いて来る。ユリエと自分は思わず身構える。先ほど溢した不完全燃焼という言葉。それに、月見の件があったがまだ『新刃戦』は終わってない。

 

「トール」

 

「ああ......分かっている」

 

 勝てる見込みはゼロにも等しいだろう。しかし、黙ってやられるほど自分達は落ちぶれてはいない。負けられない、負けてなるものか。

 しかし、近づいて来る九十九は気まずそうな表情と共に『焔牙(ブレイズ)』を消して、後ろ頭を掻いた。 

 

「あーっとな......やる気だしてるとこワリィんだけどよ。ソイツ等、どうにかしねぇとヤベェぞ」

 

 指を指されてはっとなる。そうだ、トラとタツが深手を負ったままだった。

 

「ッ! あ、ああ! 急いで救護室に運ばないと」

 

「んじゃ、俺はコッチを持ってやるよ」

 

 九十九はタツを持ち上げ肩に担ぎ上げるとスタスタと救護室の方へと歩いて行く。まるで先ほどの戦いが無かったかのように九十九からは気力を感じない。

 その時、『新刃戦』の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。 

 

「おっ、ちょうど『新刃戦』も終わったみたいだな」

 

 歩きながら窓の外を見る九十九を追いかけるなか、微かに九十九の右腕が震えているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 

「──以上が『新刃戦』の記録です」

 

 九十九の一撃によって『焔牙(ブレイズ)』を砕かれ、月見璃兎(つきみりと)が倒れ伏したところで男──三國は映像を停止する。

 

「くはっ。わざわざ動画を見せてまで皮肉らなくても、結果報告だけでいいだろーが」

 

「百閒は一見にしかず、というものです。何より君の報告は大雑把過ぎですからね」

 

「へいへい。わるーございましたっと」

 

 まったく悪びれもせずうさぎ耳を揺らす月見、それにため息混じりに首を振る三國。

 

「しかし、本気で殺しにかかるとは......もしも、のことがあったらどうするつもりだったんですか」

 

「......構いませんわ。私が現場の判断にお任せすると言ったのですから」

 

 ここで初めて口を開いた主へと、三國と月見は視線を向ける。その先に座っているのは漆黒のドレスに身を纏った少女──昊陵学園(こうりょうがくえん)理事長、九十九朔夜だった。

 

「過酷な環境で芽吹く種子(シード)こそ、美しき花を咲かせると私は考えていますわ......彼のように、ね」

 

 今度は扉の近くでの壁に背を付いて立っていた九十九カズヤに向けられた。

 

「......なら、アイツ等を俺が住んでた所にぶち込んでやればいいんじゃね? 社会見学と称して」

 

「くはっ、そりゃあいい」

 

「貴方たちは本当に......はぁ」

 

 三國は二人に頭を抱えざる負えない。それを見ていた朔夜はクスリ、と笑った。

 

「しかし、なぜ彼を彼女の所へ行かせたのですか? 彼が行けば戦うのは当然、それに他の生徒達の成長の妨げになったのでは?」

 

 三國の言ってることは最もだ。月見が戦いたいと言っていたのは知っているが、それを尊重したとは思えない。

あの場で殺しかけたとは言え、九重透流とユリエ・シグトゥーナの戦いはまだ終わって無かった。あのまま行けばもしかしたら......と思ってしまう。

 

「一つはカズヤの力を見させるため。彼らには大いに刺激になったでしょう。二つ目はもう一度、カズヤの力を確かめて置きたかったからですわ......最も、それは『シェルブリット』を除いた戦闘能力ですが」

 

 珍しい朔夜の不機嫌な微表情とジト目にカズヤは苦い顔をする。

 

「ああ、ああ、悪かったって。ごめんなさい、わりぃ、すまねぇ、許せ」

 

 全然、反省の色が見えない。しかし、あの状況でカズヤが『シェルブリット』使うと予想していたはずなのに、敢えて向かわせたのは朔夜にしか分からないことだった。

 

「しかし、『異能(イレギュラー)』が二人もいるとは驚きだぜ。聞いてねぇよってな」

 

 皮肉めいた笑みを浮かべつつ、月見は足を投げ出すようにソファに座った。

 

「随分と上機嫌ではないですか。もしや彼のことお気に召しましたか?」

 

「くはっ、バカ言ってんじゃねーよ。気になるのは九重(アッチ)の方だ。こっちは強すぎてやりようがねぇ......まあ、お気に入りって言うんならアタシよりアンタの方だよな、お嬢様」

 

 その言葉は、入学式の日にわざわざ透流に顔を合わせたことを指していた。

 

「ふふ、『彼』に縁のある者なのだから気にかけて当然ですわ」

 

()()()、か」

 

 朔夜の一言に、三國、月見ともども僅かに眉をひそめる。カズヤは逆に口角を上げた。

 

「......さて、これでアタシの仕事は終わったわけだが──これからどーすりゃいい?」

 

「ご自由に、ですわ。璃兎、貴女の望むままに......」

 

「自由ねぇ......。くはっ、それなら──このままでいっか」

 

「......よろしいのですか? 月見君を残すとなると、我々との繋がりに彼らが気が付く可能性も」

 

「理由などどうにでもなりますわ。彼らに確かめる術などありませんのよ、三國......ただ、分かってますわよね、カズヤ?」

 

「へいへーい」

 

 その返事にくすくすと妖しく笑う。その笑みに、決定に、これ以上の意見を許されないことを知っている三國は頷くだけだ。

 

「ではそのように」

 

 

 

 

 やがて気配を一つだけ残し、室内は静寂に包まれる。闇の中、唯一残った少女は、豪奢な椅子に深く身体を沈み込ませた。長い沈黙の後、朔夜は僅かに口角を上げる。

 全てが動き出したことを悟り、その中に自身の席があることを感じて。

 

「宴の始まり、ですわ......」

 

 その宴の結末がどうなるかは神ではない朔夜には分からない。人の遺伝子を操作するという禁断(かみ)の領域へ立つ彼女であってもだ。人である以上、未来などわかりはしないのだから。

 しかし、『異端(イレギュラー)』である彼が一体どのような選択をするかによってはあるいは......。 

 

「願わくば、我が道が『絶対双刃(アブソリュート・デュオ)』へ至らんことを」

 

 

 




皆様のおかげで日間ランキング一位に載ることができました。大変嬉しく思います。評価も多く頂き感謝感激です。
一応、原作をそのままパクるのはいい気はしないので、最後の方はカズヤを介入させたのですが......少し強引すぎたかもしれません。いや、今さらですが。


Q:小指からってことは本家本元とは違うって描写なんかな?
A:いいえ、これも素で間違ってました。本来なら本家と同じようにします。それと誤字報告ありがとうございます。

Q:身長が170cmっておかしくない?
A:今思えばそうですね。あの時の私は一体何を考えていたんだろうか......これは修正してもよろしいでしょうか?

Q:この主人公もロリコンなのだろうか?
A:ロリコン......にはするつもりはありません。しかし、何とも言えないですね。かなみポジをどうするか......。

全部を返すことは出来ませんが、返せるようなものをピックアップして返していきたいと思います。申し訳ございません。

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