自分の焔牙が拳だった件   作:ヒャッハー猫

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愚問ですなァ。俺は俺の味方です!
            ストレイト・クーガー


セブンス・ブリット

 GW(ゴールデンウィーク)も終わり、今日からまた学校が始まると思うと憂鬱になる気持ちを抑えながら、生徒たちが食堂で朝食を食べている時間。

 自分は理事長室へと呼ばれていた。

 

「失礼しまーす」

 

 間延びした、気の抜けた声とともに入室すつカズヤ。目の前には大きなオフィスデスクを挟んで座る朔夜とその横に真っ直ぐ立つ三國。もう見慣れた構図だ。

 

「明日、()()()が来ますわ」

 

「......これまた唐突だな」

 

 入って来ていきなりそんなことを言われても返答に困る。しかし、この時期に転入生? この前『新刃戦』が終わったばかりだと言うのに。

 

「てか、ここに転入ってことは.....もしかして、俺みたいなのが見つかった?」

 

 可能性は無いことはない。第一、ここは普通の高等学校はワケが違う。一般的な高等学校でも転入など珍しいと言えるのに、こことなると自分のような『異端(イレギュラー)』ぐらいしか思い当たらない。

 しかし、返答は少しの沈黙だった。

 

「......なんだよ」

 

 余り表情の変わらない朔夜に気まずさを感じ始め視線を逸らす。

 

「......フォレン聖学園。ここ昊陵学園と兄弟校ですわ」

 

「ああ、そういえばそんなこと言ってたような......」

 

 確か『新刃戦』の前の座学で先生が話していた覚えがる。と言ってもそんな深く掘り下げらた説明はされなかったが。

 英国(イギリス)にあり、日本外で唯一『超えし者(イクシード)』を育成する学校だったはずだ。それなら転入の件も納得いく。

 

「なんだ、イジメでもあったのか、ソイツ?」

 

 転入の理由なんてそんな事例が多いだろう。それか、英国(アッチ)では手を付けられない問題児だとか。自分ではそんな程度しか思い浮かばない。

 しかし、また返ってきたのは沈黙だった。

 

「......んだよ、関係ねぇなら戻っていい?」

 

 正直、GW中はずっと不規則な生活をしていたため身体がだるいのだ。それと、朝から委員長である人物に叩き起こされ虫の居所が悪いのだ。

 そんなこと朔夜にとってはどうでもいい話だろうが。

 

「彼女もまた『異能(イレギュラー)』......いえ、『特別(エクセプション)』と呼ばれる存在ですわ」

 

 『特別(エクセプション)』。それを聞いて余りいい気はしなかったのはある意味、スラムの時での経験で培った()が働いたのだろう。これから起きるのはきっと朔夜と初めてあった時と同じ面倒ごとだと。

 

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 

 骨折数ヶ所、全身至るところに裂傷、打撲は数え切れず。全治一ヶ月の傷を負った友人のトラ。しかし、それは『超えし者(イクシード)』だからこそであり、常人なら全治数ヶ月の傷だ。

 その裏で仕事と称して生徒たちを狙い、暗躍していた月見によって負わされた怪我の診断結果だったのだが.......。

 

「なんでトラが教室(ここ)にいるんだ?」

 

 朝食後の雑談を終えてそのままみんなで教室に行くと、見慣れた小柄な男子が机に突っ伏して寝ていた。

 

「......退院してきたからに決まっているだろう、このバカモノ」

 

 自分の呟きに耳聡く反応し、トラがあくびをしつつ伸びをする。

 

「退院まであと十日はあったと思うんだが......」

 

「ふんっ、いつまでも休んでなどいられるか」

 

 GW中、こちらが動けるようになった段階で学園の敷地内にある病棟へお見舞いに行ったのだが、無様な姿を見せられるかと即追い返された。

 その後で看護師さんから怪我の状態と退院予定日を聞いたのだが、どうやらトラのやつは強引に退院してきたらしい。

 

「無理しても怪我が長引いたらどうすんだよ。大人しく寝とけって。それにほら、寝る子は育つとも言......悪かった、なんでもない」

 

「誰がちっこいか!!」

 

 後ろで聞いていたみやびは怒鳴り声に怯えるように俺の後ろに隠れる。

 

「大丈夫だって。今のは俺に突っ込んだだけだから」

 

「う、うん......」

 

 ぎゅっと俺の服を掴んだままのみやびへ笑いかけると、一瞬目を見開き──ぱっと手を離したかと思うが早いか、一歩後ろに下がって謝られる。

 

「しかし、本当に大丈夫なのか? 彼女にやられた(・・・・・・・)キミの傷は相当な物だった。九重の言う通り、無理はしないほうが身のためだと思うぞ」

 

「その言い草からすると、お前も事情を知っているというか?」

 

 トラの問い掛けに橘が首を縦に振る。あの日、月見の『牙剣(デブテジュ)』を九十九が打ち砕き、トラたちを運んだ先で起きた橘とみやびに止む無く事情を説明し、学園側に連絡、そしてトラたちもふくめ怪我人全員へ応急処置をしてくれた。

 ......九十九の応急処置の手際が良すぎたことに面を食らったことは今でも印象に残る。アイツにあんな特技があったなんて。

 

 その際、九十九の『焔牙(ブレイズ)』──自分と同じ『異能(イレギュラー)』としか説明していない──と機密に関しても全て承知済みである。

 

「しかし、どうして月見先生はあんな暴挙に出たのだろうか」

 

「仕事と言ってたけど......」

 

 あの後、そのまま三國先生に丸投げしたが実際どうなったかは分からない。それに、あの時もし九十九がいなかったら自分たちはここに立つことが出来ていたのだろうか。

 グッと自然に握り拳に力が入る。

 

 このままじゃダメだ。もっと力を高め無いと。

 

 ふと、ユリエと視線が合う。どうやらユリエも似たようなことを考えていたのか顔が強張っていた。

 

「っと、そう言えば九十九のヤツいなくないか?」

 

 いつもこの時間帯なら机に座って空を見ているか寝ているかどちらかの姿を見せる九十九が席に座るどころか教室にもいない。

 

「まさか、あのまま二度寝したんじゃないだろうな」

 

 そう溢したのは橘だった。朝食の時に確かクラス全員の所に行って朝起こしに行っていたと話したことを思い出す。

 九十九にはには悪いが、ありえそうだと思ってしまった。

 

「まったく、九十九と来たら後で注意しないとな......っと、チャイムか」

 

 鳴り響く始業のチャイムの音とともに開かれる扉。そういえば、と月見がいなくなったので新しい先生が来るはずだが──

 

「おっはよーん♡ みんな新刃戦の疲れはとれたかなー? さー今日からまたビシバシいっちゃうよー♡」

 

「「「なっ!?」」」

 

 うさぎ耳を着けたあの女──月見璃兎(つきみりと)が何食わぬ表情で入って来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 事情を知っている自分たちは困惑するなか授業は終わり、そのまま退出していった月見を追いかけたのだった。

 

「待て!」

 

「あれあれー? どうしたのみんなして? もうすぐ授業の時間だよ♪」

 

 その笑顔のという仮面の下の顔を知っている自分たちには隠す必要はないのに、いつもの口調で接してくる。

 しかし、自分たちがいつでも『焔牙(ブレイズ)』を出せるように身構えていると──

 

「──くはっ、そんなこェ顔すんなよ。朝から(たぎ)っちまうじゃねぇか」

 

 本性を現した月見が舌なめずりをした。

 

「なんでアンタがここにいる......ッ!?」

 

「ダメだよー九重くん。先生にはきちんと敬語を使わないとね♡」

 

「殺されそうになった相手に無理言うなよ!」

 

 それを聞いた月見は笑いを堪えながら答える。

 

「くはっ、ちげぇねぇ......が、今は辞めとこうぜ。教育熱心の理事長さんのお出ましだ」

 

 そういった月見の視線、つまり、自分たちの後ろを振り返ると三國先生を連れた理事長の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ!?」

 

 トラが机を叩いて理事長に抗議をする。

 

 あの後、そのまま事情を説明するために理事長室に連れて来られ、そこには既に九十九がソファで寛いでいた。しかし、どこか憔悴しきったように見える。

 

「月見璃兎を改めて教師として雇用した、そう言ったのですわ」

 

「待ってください! アイツは俺たちを殺そうとしたんですよ!?」

 

「ですが貴方たちは生きていますわ。彼女ほどの強者(つわもの)と相対していながら、短期間で生徒をそこまで育て上げた教育者としての手腕を私は評価していますの」

 

 理事長の話すことに戦慄を覚える。犯罪者、ましてや殺し合いをした相手をまた教師として雇用するとは正気の沙汰とは思えない。

 

「いいねぇ、スパルタ歓迎ってか?」

 

 気分を良くした月見は横から茶々を入れて来た。それを睨み付けながらも橘が進言する。

 

「しかし、それは結果論にしか過ぎないのではないでしょうか?」

 

「その結果をこそ私は求めていますの。如何なる過程を辿り、どのような手段を用いようと問題ではありません」

 

 それだと、どんな卑怯、または外道なことをしようと結果(・・)を出せば(・・・・)問題無いと公言したようなものである。いや、実際そうなのかも知れない。

 

「全ては『絶対双刃(アブソリュート・デュオ)』へと至らんがため。ただそれだけのこと」

 

 今ここでハッキリと理解した。彼女はその『絶対双刃(アブソリュート・デュオ)』の為なら何でもする人物だと。

 

「それと、近日中に貴方がた六名の『位階Ⅱ(レベル2)』への『昇華の儀』を執り行いますわ」

 

「フッ、口止めのつもりか」

 

 それに理事長は薄く微笑む。

 

「『新刃戦』で優秀な成績を残した者たちへの当然の権利のことでしてよ」

 

「っ......」

 

 当然のように言われ口を塞ぐ全員。嫌なしこりのような物を残して退出するのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後は何事も無くいつもの日常が終わった。終始、委員長やら主人公やらがこちらを気に掛けるような素振りをしていたが、こっちは取り合う気がまったく起きず、そのまま無視しつづけた。

 

 そして、翌日。朔夜に言われた通り指定された時間に執務室に赴くと既に眼鏡野郎と一緒に朔夜が待っていた。外からはヘリと思われる駆動音が鳴り響いている。

 

「ヘリで来るとは思わなかったぜ」

 

「アナタにとっては初めて見ることになりますわね」

 

「......バカにしてんのか」

 

 流石にヘリぐらい見たことあるわ。......ここまで近くで見ることは無いだろうけど。

 

「さあ、行きますわよ」

 

 朔夜に歩調を合わせて中庭に出る。それと同時にヘリは降下を終え着陸した。ローターが巻き起こす風が朔夜の艶やかな髪を揺らす。

 そんな中、ヘリから黄金色(イエロートパーズ)の髪を持った少女が姿を見せる。その彼女を見ながら朔夜は妖しく微笑えんだ。

 

「ようこそ、昊陵学園へ。『特別(エクセプション)』──リーリス=ブリストル」

 

 

 




一巻分おわらせたら気が抜けてしまいました。遅くなってすみません。それと、今回コメ返しはお休みにさせて頂きます。

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