自分の焔牙が拳だった件   作:ヒャッハー猫

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いいえ、逃げません。 ここはそんな事が出来る場面じゃない! 諦める方向には進みたくない…そう、ここは抗う場面です!!
                  橘あすか


エイス・ブリット

「あんたが『異能(イレギュラー)』──九重透流(ここのえとおる)ね」

 

 開口一番、()()()が発した言葉がそれだ。

 

 時は約一分前へと遡る。『昇華の儀』が行われる土曜日の朝。HR(ホームルーム)が始まる前、ギリギリに来た九十九がげっそりとした表情で耳に呟いた。

 

『今から来るヤツには俺が【異能(イレギュラー)】ってことは内緒な。マジで頼む』

 

 そのいつもよりやつれた顔で珍しく真面目に話してきた時はどうしたものかと思った。他、いや大半がその九十九の姿に驚いただろう。いつものように制服を着崩せずに、誰が見ても一番綺麗に制服を着ており、髪はいつものようにぼさぼさなんてもんじゃない。丁寧に櫛を通して整えていた。

 ただ、目の下の隈とその仕事終わりのサラリーマンのように疲れ切った表情が無ければ完璧と言えるだろう。

 

 驚き、そして、先ほどの言葉に疑問を思って訪ねようとした時だ。いつものように猫を被った月見が入ってきてHRが始まってしまったのだ。

 そして、月見が転入生を紹介すると口にした直後──ほとんどのクラスメイトが息を呑んだ。......あのトラですら。

 

 教室に入ってきたのは、黄金色(イエロートパーズ)蒼玉の瞳(サファイアブルー)を持つ外国人の美少女だった。

 

 髪と瞳だけではなく、出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んだ海外女優顔負けの魅惑的なスタイルは、男子のみならず女子にもため息をつかせる。

 ......一人心底疲れたため息をついた者もいたが。

 

 加えて貴賓と色香を漂わせており、赤い紅を差した唇がそれをより強調させていた。同じ外国人の美少女でもユリエが闇夜に浮かぶ幻想的な月だとしたら、彼女は大空に輝く太陽といった印象だ。

 

 そんな彼女が片手を腰に、もう片方は手を机に置き、正面からじっと俺を見つめていた。

 

「......ちょっと、人の話聞いてる?」

 

「──っ! わ、悪い。お俺が九重だけど......」

 

「オッケー。九重透流、あんたに興味があるの。だからちょっと付き合いなさい」

 

 つい一月ほど前に似たような発言を耳にしたが、今回は言葉つきこそ柔らかくあるものの命令口調だ。黄金の少女にとって自分の意志が通ることは当然だとばかりに、俺の返答を聞かず踵を返して歩き出す。

 

「お、おいっ。いきなり付き合えって言われても──」

 

「......二度も言わせないで」

 

 足を止め、振り返っての一言。

 

 静まり返った教室で、チラリと九十九の方を見ると口パクで「いけ」と繰り返している。彼に一体何があったのだろうか。

 そして、最初に口を開いたのは少女だった。月見の方を見て言う。

 

()()に許可して貰えるわよね、月見先生」

 

「......どうぞー☆」

 

 一瞬、額に筋を浮かせつつも、月見は転校生の勝手を許可する。あの月見が許すとは思って無かった。

 

「......透流に用があるならここで話せばいいだろう」

 

 トラが苛立った様子で転校生に物申すが──

 

「あんたには関係の無い話なんだから別にいいでしょ。あたしは雑音(ノイズ)の無いところで話がしたいのよ」

 

 ぴしゃりと言い返される。普段なら怒声が飛んで来るだろうが、彼女の一言、一睨みで気圧され、小さく呻くだけに留まるトラ。そして、何故か視線は九十九の方へ向き目を細める。

 

「そこら辺をちゃんとしておいて欲しいわね」

 

「......うす」

 

 ぴくっと目元を引きつかせながら返事をする九十九。ますます、彼女とは一体どういった関係なのか気になって来た。

 

「まあ、ちょっと行ってくる。話だけならすぐに終わるだろうしさ」

 

 トラに小さく笑いかけ、席を立つ。一応、担任の許可を出した以上、無理に断る理由は無い。黄金の少女とともに、俺は教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 二人──主に彼女──が教室から出ていったことを確認したのち、すぐ机に身体を預け腹の底から声にもならない息を吐き出す。

 

 わざわざ、身だしなみを整え。わざわざ、早起きをし。わざわざ朝早くから準備に取り掛かった。それは、全てあの転入生のため──では無く。(もっぱ)ら自分の為だった。

 

 彼女、リーリスを見た瞬間、記憶の奥底に眠っていたものが蘇り思い出したのだ。彼女は主要人物の一人で主人公の『異能(イレギュラー)』という物に固執していたことを。自分はイレギュラーではあるが『異端(イレギュラー)』の方である。

 

 自分はここに立っていて、息をしており、心臓も動いている。つまり、この世界が想像によって生み出された物だとしても自分は生きている。だから別に原作がどう変わろうとしったことではない。

 しかし、従来、いや前世というものがあるならば。前世も含め出来る限り面倒ごとは避けていきたいタイプだ。

 

 故に、『異端(イレギュラー)』と言っても彼女からしたら『異能(イレギュラー)』とそう違いは無い。きっと彼女は何かしらの接触をしてくるだろう。現に朔夜との関係やたった一人の『絆双刃(デュオ)』であることを知っている。幹部の娘だからかは知らないが情報網がヤバイ。

 

 従って、今回ばかりは朔夜にひたすら頭を下げて自分の『焔牙(ブレイズ)』の事を隠してもらうことにした。元々、朔夜もリーリスとの『絆双刃(デュオ)』を考えていた節があるようで間一髪だったと言える。もし、無理やり通そうものなら何もかも投げ捨てて全力で逃げることを伝えるとあっさりと快諾してくれた。

 

 朔夜も自分ほどの研究材料(モルモット)を手放したくはないようだ。今まで自分の『焔牙(ブレイズ)』の事や『黎明の星紋(ルキフル)』を打たれてない、いわば天然物という情報を公にしてないからこそ、今回のことに関しては信用できる。最も、自分から言うのであれば問題無いと言っている分そこまで隠し通す必要は無いようだ。

 

 だからこそ、自分の『焔牙(ブレイズ)』がバレれば面倒ごとが増えると確信している。朔夜ほどの人物と対等に話が出来るほど親密な関係であるが故に。

 

 なら、どうして早朝から疲れているのか? それは朔夜から隠すことを条件に課された指令のせいだ。

 

 リーリスの動向を探ること。ただ、それだけ。

 

 彼女がこれから何をして、何を得るのか気になるそうだ。別にそれなら簡単なことだが朔夜の嫌がらせなのか、それとも気遣いなのか......いや、朔夜に限って気遣いということは断じてない。嫌がらせの類のはずだ。

 

 表向きに表すなら一学年を代表して転入生に学園に案内、兼、学園に慣れることと生徒として馴染むまでの支援、と言った所だろうか。ここに来てあったかも分からない主席(・・)などという単語を持ち出してきたほど。

 

 最も、彼女からは余り良く思われてないが、ここの理事長という立場の朔夜から言われたことだからか。彼女(リーリス)の言葉を借りるなら使ってあげている(・・・・・・・・)、ということなのだろう。

 

 自己中心的な考えの典型的なお嬢様なので、前世も含め平民、いや、今回に関しては平民より下だった自分からしたらどう接していいのか分からない。

 朝早く起きたのは九重透流に関してのレポートを出せ、などという訳の分からないことを言われ、取り敢えず、何とか書いたものの「ふ~ん」と言われただけ。実際に確かめる気だったなら最初から言うな、って話だ。

 

 もうグロッキーでストレスは溜まり、今から発散させたい気分だ。もし、これが後一ヶ月続くようであるなら自分は早いうちに彼女(リーリス)の目の前でシェルブリットを開放し、殴りかかっているかもしれない。

 

 しかし、そうなると本末転倒。だからこそこの先どういった展開になるか覚えてないが、主人公のことだ、きっといい方向に進んでくれるだろう。しかし、なぜ彼女は『異能(イレギュラー)』に固執しているのだろうか?

 ......それを探る前に自分の『焔牙(ブレイズ)』を知っている委員長たちに口止めしなければ。

 

 ここに来て初めていろんな意味で頑張ろうと思った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

「ん、美味しかったわ、サラ」

 

「......恐れいります、お嬢様」

 

 黄金の少女──リーリスがカップを悠然とした動作で置くと、それまで無言だった執事が初めて口を開いた。側に執事を連れているところから見れば分かると思うが結構な家柄なんだろう。

 だが、そんなことはまとめて聞けばいい。

 

「さて、本題」

 

 自分を指差し、耳を疑うようなことをさらりと言ってのける。

 

「九重透流。今日からあんたはあたしの『絆双刃(デュオ)』よ」

 

「.........は?」

 

 出会って一時間と経っていない相手から、突然お前は自分のパートナーだと言われ、呆気に取られている以外の反応はあるんだろうか?

 

「今、何て......」

 

「二度は言わないわ」

 

「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺にはもう『絆双刃(デュオ)』がいるから突然そんなことを言われても困るし、そもそも一度組んだら卒業までずっとそのままだっていう校則があるだろう」

 

「関係無いわ。あたしは『特別(エクセプション)』だもの」

 

 『特別(エクセプション)』? 聞き覚えのない言葉を反芻する。

 

「......だからといって初日から授業へ出ないのは困りますわ、リーリス=ブリストル」

 

 突然割って入って来たのは漆黒の衣装(ゴシックドレス)に身を纏った少女が白い薔薇を背景に佇んでいた。

 

「ご機嫌よう、九十九理事長。ここはいい場所ね」

 

「嬉しいお言葉ですわ、リーリス。けれど今はティータイムではなく授業中ですのよ。これでは彼の尊厳がありませんわ」

 

「そこは特別(・・)ってことで勘弁してよ。それに、その彼......余り使えないわ。特例だって聞いて期待したけどやっぱり凡人ね」

 

 彼、とはもしかして九十九の事だろうか? それにしてはいい言われようである。しかし、アイツのことを凡人呼ばわりするとは......先ほどからいっている『特別』には一体どのような意味があるのか。

 咎めるような理事長に対し、リーリスは俺へ指を指しながら返す。 

 

「だいたいあたしは彼に会うために(・・・・・・・)イギリスから飛んできたんだから授業なんてどうでもいいの。それより理事長も一緒にどう?」

 

「......頂きますわ」

 

 理事長は小さくため息をもらすと、チェアへと座った。執事が新たにミルクティーを入れている間に自分は先ほどリーリスの発言で気になったことを口にする。

 

「なあリーリス。今の言い方からすると、まさかあんたは俺を『絆双刃(デュオ)』にしようってだけで転入してきたのか? どうしてそこまでして俺を......?」

 

()()()()()()()()()()唯一無二(アンリヴァルト)』。だからこそ、このあたしの『絆双刃(デュオ)』として相応しいあんたに礼を尽くして出向いて来たのよ。感謝しなさい、九重透流」

 

「いや、感謝しなさいって言われても、俺にはもう『絆双刃(デュオ)』がいるってさっきも言っただろ。それに校則も──」

 

「二度も言われなくてもわかってるわよ。だけどね、九重透流。あんたが言ってるのは、()()()()って話でしょ」

 

 以前、月見から教わったことがある。よっぽどの理由が無い限り、という話を。つまり、九十九などがそのよっぽどの理由に当たるのだろう。

 

「つまり、規定の枠から外れていれば新たに『絆双刃(デュオ)』を組み直していいってわけ。例えばパートナーとの『位階(レベル)』が離れすぎたとかね」

 

 リーリスは口元へと指を当て、笑みを浮かべる。

 

「そしてあたし──『特別(エクセプション)』は規定の枠に縛られない」

 

「『特別(エクセプション)』っていうのが一体何なのかは俺には分からない。だけど、そんな我が侭とも言えるようなことが許されるのか?」

 

「許されるわよ。......ねえ、理事長」

 

 昊陵学園において、最大の権力を持つ理事長に視線を向けるリーリス。理事長は無言のままミルクティーに口を付けて、中が空になってから沈黙を破った。

 

「......九重透流。あなたが望むのであれば、現在の『絆双刃(デュオ)』を解消すること、昊陵学園理事長の名において特別(・・)に認めてあげますわ」

 

「なっ......!?」

 

「ほらね」

 

 自分の反応とは対照的に満足そうな笑みを浮かべるリーリス。

 

「......どうしますの?」

 

 今の『絆双刃(デュオ)』を──ユリエとの『絆双刃(デュオ)』を解消するか否か。

 

「そんなこと、考えるまでもないです」

 

「決定ね」

 

 理事長からリーリスへと視線を移し、俺ははっきりと自分の意志を伝える。

 

「ああ、決定だ。俺はリーリスと組むことを望まないから、今の『絆双刃(デュオ)』を解消しない。それが答えだ」

 

「なっ......!?」

 

 驚きに満ち、唖然とした表情で固まったままのリリース。対して理事長は、静かに笑みを浮かべて頷く。

 

「貴方の意志、確かに承りましたわ」

 

「それじゃ俺はそろそろ教室に戻ります。失礼します、理事長」

 

 軽く一礼して、俺は立ち上がる。

 

「じゃあな、リーリス」

 

「──っ!? ま、待ちなさいよ、九重透流!! あんた今、何を言ったのかわかってるの!?」

 

「ああ、わかってるさ。答えはノーだ、俺はリーリスとは組まない。あんたの言葉を借りるなら、二度も言わせないでくれ、だ。それに、俺じゃなくて九十(つく)──」

 

 

『今から来るヤツには俺が【異能(イレギュラー)】ってことは内緒な。マジで頼む』

 

 

「──いや、なんでもない」

 

 絶句と自分の匂わせる発言に不信感を覚えているような表情をするリーリスに背を向け、俺は早足に教室へと戻った。

 なるほど、九十九があそこまでした理由が分かった。しかし、それを自分に押し付けるようなことをした九十九に嫌みを覚える。が、朝の九十九を見て少し同情した。

 

 

 




遅れて申し訳ない。少しリーリスの件で悩んでいました。そのままカズヤを一人で突き進ませるか、リーリスと組ませるか、それとも別の形におさめるかどうか。
取り敢えず、一旦この件は保留にしつつ話を進めようと思います。

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